ダンガンロンパXXX   作:Krk

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第一章 非日常編

「あ、甘井さんっ!」

 一番扉の近くにいた、声野が真っ先に甘井の元に駆け寄った。

 彼女の身体に触れ、悲鳴をあげて飛び退る。

 動揺のあまり声野の手がモニターのボタンに触れ、カチカチッと音が鳴った。

 驚愕に目を見開いて、震える声で声野が告げる。

「し、死んで……る……!」

「そんな……!」

 

 ふと気が付くと、いつの間に現れたのか南界レイコが俺の隣りに立っていた。

 物言わぬ甘井の死体を、氷のような冷たい視線で見下ろしている。

 そのまま歩み寄りすっと腰を下ろすと、彼女の髪や頬に軽く触れ、小さく言い捨てた。

 

「…くだらない事件だわ」

「な……!」

 俺が何か言う前に、さっさと立ち上がり距離を取る。

 次に明日家が駆け寄り、甘井の身体に触れた。

 手首と、首元の脈を見る。

「……だ、駄目だ……。本当に、死んでる……」

「う、嘘……!ど、どうして……誰が、何で……!?」

 

「なんだよ、とうとう起こったか」

 気だるげな口調で、尾後が現れた。

「あんた……今さら何しにきたわけっ!?」

「うるせ~なあ。俺だって寝起きだっつーの。こいつが勝手に部屋に入ってきて、ここまで連れて来たんだよ」

 

「事件発生ー!」

 尾後の影から、ぴょこん、とモノクマが飛び出してきた。

 

「いやあ、ようやく起こっちゃったね。巻き起こっちゃったね。記念すべき……最初の殺人がっ!」

「さ、殺人……って……」

「どしたの?決まってるでしょ?オマエラの中の誰かが、甘井めうを殺したんだよっ!」

 

 その言葉に、場が静まり返った。

 俺達の中の誰かが……甘井を殺した?

 

「それで?この後どうなるんだ?」

 ふてぶてしい態度で、尾後がモノクマに声をかけた。

「殺人を犯したソイツは……ここから『卒業』出来るわけか?」

「甘いっ!甘過ぎるよっ!甘井だけにっ!」

 

「人を殺しただけで、簡単に出られる訳ないじゃん!」

「むしろ、本番はここからじゃん?」

「……あ、そうそう、これを流すのを忘れてたよ!」

 

ピンポンパンポーン…

『死体が発見されました!一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまーす!』

 

 機械的なアナウンスが流れた。

 

「な、なに今の?学級…裁判……って?」

「では、ここで。『卒業』に関する補足ルールの説明を始めます!」

 

「『誰かを殺した者だけが卒業出来る』という点は、以前説明した通りですが……」

「その際に、守るべき要素があったよね?」

「……あ……!校則の、六番目の項目ですよね……!?」

 天条が、はっとしたように声をあげた。

「自分が殺人を犯したクロだと、他の生徒に知られてはならない……っていう」

 

「そう。つまり、ただ殺すだけじゃ駄目って事だね。で、その条件をクリア出来ているかを査定するためのシステムこそが……」

「『学級裁判』なのですっ!」

 

「学級裁判は、殺人が発見された一定時間後に開催されます」

「学級裁判の場では、殺人を犯した『クロ』と、その他の生徒である『シロ』との対決が行われるのです!」

 

「議論ののち、学級裁判の最後に行われる『投票』により決定された犯人が、正解だった場合……」

「秩序を乱したクロだけが『おしおき』となり、他の生徒は共同生活を続けることになります」

「ただし、もし間違った人物をクロとしてしまった場合は、罪を逃れたクロだけが生き残り、他の生徒は全員『おしおき』となります」

 

「以上、これが学級裁判のルールなのですっ!」

 

「あ、あの……それでその『おしおき』って言うのは……」

「ああ、まあ言ってみれば……」

 

「処刑、ってところかな!」

「しょ、処刑……!?」

「トーゼンでしょ?殺人の代償の話なんだよ?目には目を、歯には歯を、殺人には殺人をっ!」

 

「い、意味分かんない……めちゃくちゃだよ……」

 青空が、震える声でそう言った。

「そもそも、そんな話聞いてないッ!」

「聞いてないとか言われても。むしろ、何回このくだりやるんだよって感じでしょ?いい加減聞いてる方も聞き飽きてるっつーの!」

 

「……少なくとも、今回の事件のクロには、殺したあとちゃんと教えてあげたもんね?」

「……え」

「だから隠蔽工作も、やっつけで頑張ったんじゃないかなっ!オマエラも頑張れよなっ、間違えたら皆死んじゃうんだからね!」

 

「……てー訳で。そんなオマエラにこんなものを渡しておきましょう」

「ザ・モノクマファイル!」

 差し出されたのは、電子生徒手帳によく似た赤系統の小型タブレット端末だった。

「これはボクが死亡状況や死因っぽいものをまとめておいてやったお役立ちファイルだよ!監視カメラでばっちり見たから、その信憑性はお墨付き!」

「つまり、学級裁判とやらのジャッジは公正に下される……という事でいいのかしら」

 南界が余裕ある口調で言った。

「モチロンですっ!」

 

「んじゃ、裁判のくだりも校則の欄に追加しとくから。オマエラは捜査、頑張ってね~!」

 そうして、モノクマは去っていった。

 残された俺達は空気いっぱいの困惑と……疑惑を、抱えていた。

 

「ね、ねえ……。ほんとなの?」

 青空が、おそるおそるといった調子で問いかけた。

「さっき、モノクマが言ってたことさ……ほんとなのっ?殺したクロには、『学級裁判』のこと、あらかじめ伝えてた……って」

 

「ほんとにこの中に、甘井を殺して……私たち全員のことも殺そうとしてる奴がいるのっ!?」

「うるせえな。キンキンくる声出すんじゃねえよ」

 尾後がうっとうしそうにそう言った。

「んな事議論して意味あんのか?いま明らかにすべき事は、甘井を殺した犯人、それ一択だろ?」

「……偉そうに言わないでよ……そもそも、あんたが一番あやしいからっ!遅れてきたかと思えば、死体見たとたん卒業のことなんか聞いたりしてさっ!あんたがここから出るために、甘井を殺したんじゃないのっ!?」

「はああ~?逆だろ?学級裁判の事知ってたんなら、んなトンチンカンな事聞く方が不自然じゃねーか」

 

「……それを言い合っている時間はない」

 明日家が、静かな声でそう言った。

「俺達は、誰が甘井君を殺したのか、それをはっきりさせないと。……出来なければ全員死ぬだけなんだから」

 

「出来ないよおっ……!」

 泣き出しそうな声が、彼の言葉に反論した。

 声の主を見ると、琉球宮が顔をぷるぷるさせて服の裾を握りしめている。

「だ、だって、甘井ちゃん超死んでんじゃんか……!これ、マジなやつじゃん……!こ、殺されるかもしれないのに推理なんて、出来ないよお……っ!」

「うぇええーん、ママァーッ!」

「……泣いちゃったよ」

 

「……琉球宮くんだって、ママがいないと駄目なんじゃん」

 隣で同じように泣き出しそうな顔をしていた軽井沢が、そちらを見てぽつんと呟いた。

 ぐっと唇を引き締め、皆の顔を見渡す。

「あ、あのね、まいこねっ…!ま、まいこも、怖いけど……でも、頑張って捜査する!」

「だって、マーサお姉ちゃんが一緒だから……そ、そうだよね?お姉ちゃん」

「……ええ、もちろんよ、まいこちゃん」

「だから、ね……!琉球宮くんも、まいこ達と一緒に捜査しよっ……!一緒にがんばろっ……!」

「……」

「……しょーがないな」

 ぐす、と鼻をすすって、差し出された手を取った。

 

「……オーケー。信頼し合えるなら、複数で固まって動くに越した事はない。何があるか分からないし……あと、考えなくちゃいけない事は……」

「現場の保全はどうする?」

 クールな声がそう聞いた。

 

「ここ、事件現場の、見張りが必要なんじゃないかしら。犯人に証拠でも隠滅されちゃったら大変でしょう?」

 南界は、相変わらず余裕たっぷりだ。

「ちなみに、私はお断りよ。あいにく皆さんをそこまで信用出来ないものだから……。自分の手で捜査を進めたいの」

「……分かった。じゃあ、俺がやるよ。出来ればもう一人いたらありがたいんだけど……」

 そう言って明日家が周りを見渡す。

「んじゃ、僕やろっかなぁ。動き回らないでいいなら楽そーだし」

 高梨が軽い調子でそう言う。

「……あ、ぼ、僕も……」

「いや、可能な限り捜査の人数は多い方がいい。天条君も捜査に回ってくれ」

 

「……それじゃあ、皆……気をつけて」

 

 捜査……か。

 とりあえず廊下に出てきたものの、これからどうするべきか……。

「見通君」

「っ!?」

 いきなり南界に声をかけられ、肩がびくっと跳ねる。

 

「これ、あげる」

 差し出されたのは、クローバーと天使の羽のようなマークがあしらわれた女子っぽいデザインの、一枚のメモだった。

 真っ黒に塗りつぶされており、白字で何やら文字が浮かび上がっている。

 

『Mew、見せたいものがあるの。鍵はわたしが何とかするから、0時に視聴覚室に来て!』

 

「″めう″……?甘井が残したメモ、か……!?」

「甘井さんが持っていたメモ帳の、一番上をペンで擦ってみたら出てきたのよ」

 

「有効に使ってよね」

 大人びた微笑みを浮かべ、南界レイコは去っていった。

 ……男子トイレへと。

「……おいっ!?」

 

「……見通?一人で何やってんの?」

 横の女子トイレから出てきた青空に怪訝な様子で声をかけられる。

 再びおかしな誤解を招きたくもないので、適当にごまかした。

「……いや、別に……」

 青空の隣には白い顔をした声野が一緒にいる。

 体調を崩した彼女を、介抱してやっていたのだろうか。

「声野、大丈夫か?」

「な……なんとか……」

 弱々しい声で返事が返ってくる。

 

「あ、あの……。良ければまた三人で一緒に、調査しませんか……?ひ、ひとりだと不安で……」

「そーだね……。正直全員あやしく見えるし、ちょっとでも知った顔といる方が気が楽かな……」

 声野の提案に、断る理由もなく頷いた。

「……まずは、モノクマの言っていた事件ファイルを確認するか」

 モノクマファイル、とやらを起動する。

 

『被害者は甘井めう。死体発見現場は学園エリアにある視聴覚室』

『死因は首元を強く絞められた事による窒息。首元には少量の出血あり。他目立った外傷はなし』

 

「これだけ……か」

「事件のまとめ、っていっても、これだけじゃなんにも分かんないよね……」

「や、やっぱり……実際に調べてみるしかない……ってことですよね」

「……そうだな。まずはともかく、『事件現場』を調べてみるか」

 

 俺達は、再び視聴覚室へと足を踏み入れた。

 一見昨日までと何も変わらない、荒らされてもいないごく普通の外観だ。

 ……一番近くのモニター前に、甘井の死体が倒れている事を除いては。

「明日家、高梨。何か分かったか?」

「何か、って言われてもねえ〜。僕はそもそも調査する気もないし。君タチの推理に従うよん」

 高梨があっけらかんとした態度でそんな事を言う。

「あ、でもでも安心して〜?今んとこ証拠隠滅にきた不届き者っぽい奴はいてないよぉ」

 状況が分かっているのかどうなのか、ふざけた調子だ。

 

「……死体を軽く検分してみるに、モノクマの調書は間違ってはいないみたいだ。確かに首元に、絞められたような痕がある」

 反対に明日家は、いつも以上に真剣そのものの顔つきだ。

 慎重な手つきで甘井の死体に触れる。

 覗き込むと、確かに首を一周するような形で、赤い痕が残っている。

「それで、少量の出血っていうのは……これか」

 喉元の辺りに、何かで切ったような小さな傷がある。

 そこからほんの僅か血が滲んでいた。

 よくよく見ると、そこには何かが押し付けられたような、小さな痕が残っている。なんだろう、例えるならば……花びらのような?

 

「……やっぱり、昨日のビデオを見に来たのかな?」

 青空が、周りを見つつ言った。

「だってさ、朝っぱらからここにくる用事って、それくらいしかなくない?」

「……それはどうかな。調べてみたけど、デッキからもDVDは見つからなかったよ」

「犯人が持ち去ってたりしてー」

 軽い調子で、高梨が扇子を口元に当てつつ言った。

「何か、犯人に都合の悪いものでも映ってたりしてさー?……おっと、これは推理じゃあなく、ただの想像だけどねぇ」

「……可能性としては、あるかもな」

 次に、モニターデッキの方に目を向ける。

「そう言えば、これには録音機能もついてたんだよな。……声野、何か録音されてないか調べられるか?」

「は、はい……!ちょっと待ってください……!」

 慌てて声野がボタンを操作し……すぐに首を振った。

「……駄目ですね。なんにも録音されてはいないみたいです」

「そっかあ……。犯人の声でも撮れてれば、一発だったのにねー……」

 

「それにしても……妙なのは犯人の逃走経路だね。悲鳴が聞こえて、俺達が中に入るまでここには鍵がかかっていた。鍵は青空君が取りに行った食堂にあった……。つまり、現場は密室だったはずだ」

「一体、どこから犯人は逃げ出したんだろう?」

 

「普通に、今朝は鍵がかかってなかったんじゃないの〜?」

「それはないって!私、実際に鍵開けたもん!ドアが開かなかったから、鍵取りに行った訳だし……!」

「そ、そうですよ……!私も昨日、ちゃんと鍵かけましたから……あ、ここの扉、こーやって前奥それぞれの扉も内鍵で閉められるようになってるんですけどっ……」

 そう言って声野が二枚の扉をガタガタと動かして見せる。

「モノクマさんの言いつけで、視聴覚室は消灯前に生徒が戸締まりするようにって事で……。昨日も一昨日も、ここを戸締まりしたのは私です」

「じゃあ、ますます不思議だね……」

「そ、それなんだけどさっ」

 青空が困惑混じりに声を上げた。

 

「さっき、ここ開ける時……声野が食堂に鍵があるって言ったじゃん。…いや、声野を疑う訳じゃないけどさっ?急いで食堂にいってみたんだけど、中々見つかんなくって……。結局、床の見つけにくいとこに落ちてて、だいぶ時間くっちゃったんだよねー……」

「え、そ、そうなんですかっ?おかしいですね……。昨日は確かに、ちゃんと食堂内の専用の鍵立てに、かけといたんですけど……」

「……じゃあ、食堂に調べに行ってみるか」

 

 食堂へ行くと、軽井沢たちのトリオが、何やら机を囲んで話していた。

「……あら、いい所に。声野ちゃん達も、お茶飲みながらお話しない?」

「……余裕かよ」

「い、いただきますっ!」

 三雲が淹れた紅茶を片手に、俺達も一度席についた。

 

「お姉さん達、今分かる範囲で時系列を書き出してたの。それと……皆のアリバイもね」

 メモ用紙を指し示し、三雲が落ち着いた声で言った。

「アリバイ……ですか?」

「そう。あなた達にも答えてほしいんだけど……昨日から今朝にかけて、何をしていたか教えてくれる?」

 

「何を……って言われても……。あのビデオ見てからは、気分悪いしずーっと自分の部屋にいたよー……。朝のチャイムが鳴って、そのまま食堂に来たって感じ」

「……俺も」

「わ、私……は……」

 ばつの悪そうな顔で、声野が言い淀む。

 

「あの映像を見てから、夜時間になるちょっと前まで、ずっと視聴覚室にいました……」

「えっ?し、視聴覚室って……。事件現場に、ずうっといたのおっ!?」

 ぎょっとしたような顔で軽井沢が声野を見る。

「あ、で、でも……!甘井さんには一度も会ってません!本当ですっ……!」

「……責めてる訳じゃないのよ。事実を答えてほしいだけだから」

「そ、それで……。夜の9時半くらいに、視聴覚室の鍵を閉めて、ここにしまいに来ました」

「……そうね。お姉さんとまいこちゃんも、昨日会ったからそれは確かね」

「そうなのか?」

「う、うん。まいこたち、昨日はずうっとここにいたんだけどお……。ちょうどお菓子取りに厨房に入った時に、美遊ちゃんに会ったかなあ……」

 

 厨房に入り、示された方を見ると壁に鍵掛け用のラックが備え付けられている。

 下に貼られたテープに、手書きで『視聴覚室』と書いてある。

「あ、ここです……!確かにここに、昨日もかけといたんです……!」

「うーん、不思議なこともあるもんだよねえ……」

 

「そ、それで、夜時間以降は……皆さんと同じですかね……」

「うーん、でもそれってほんとかなーっ?声野ちゃんがいまんとこ一番あやしいもんね〜?嘘ついてたりしてー」

 すっかり生意気を取り戻した琉球宮が、からかい半分に声野を見た。

「るっさいなあ、あんたは黙ってなよっ!さっきまでビビって泣きべそかいてたクセにっ!」

「はああ!?泣いてないし!油断させるためのウソ泣きだしっ!」

「……それはともかく。皆の証言を照らし合わせた結果は、どうだったんだ?」

「そうねえ……」

 ため息混じりに三雲が間を置いて、肩をすくめた。

 

「……芳しくないわね。皆おんなじ答えだもの。……ま、本当の事言わないから、犯人なんでしょうけど」

「でもね、尾後くんとレイコちゃんにはまだお話聞けてないんだあ……どこにも居なくって……」

「……あいつら、ほんっと協力する気ないよね……」

「声野ちゃん達も、どっちか見てない?」

 

(…………)

「見通くん?どうかしました?」

 声野がきょとんとした様子でこちらを見る。

「……いや、なんでもない。それより、次はどうする?」

「そだねー……んじゃさ、甘井の部屋に行ってみない?被害者の部屋に行ってみたら……なんかあるかも」

 

 青空の提案で、甘井の自室に足を伸ばした。

 間取り的には俺の部屋と同様で……一見、何の変哲もない。

「うーん、特に変なものはないっぽいね……。当てが外れたかなあ……」

 二人にも、特に違和感はないようだ。

「あれ?この、ゴミ箱にあるのって……」

 青空の声に、ゴミ箱を覗き込む。

 そこにあったものは……。

「これって……昨日のDVDか?」

 真っ二つに折られたそれが、乱雑にゴミ箱に突っ込まれている。

 取り出してよく見ると、『甘井』の記載もあるため、これが甘井のDVDなのは間違い無さそうだ。

「わ、わざわざ折ってから捨てるなんて……よっぽど、嫌な映像だったんでしょうね……」

「……ん。こういうのノーダメそうなのに、実はかなりきてた……って事なのかなー……」

 

「で、でもよく見つけましたねっ?こんな中から……」

 確かに。甘井のゴミ箱は、ぱっと見何が捨てられているか分からないくらいパンパンだ。

「んー、まあ、たまたまね。意外と綺麗好きそうなのになーって思ってさ……」

 そう言いながら、クローゼットの扉を開ける。

 がらがらがら、とありとあらゆる物が落ちてきた。

 適当に突っ込まれたぐちゃぐちゃの制服、アクセサリー類に化粧品、何故か食いかけの菓子。

 とんでもないカオス空間だった。

 

「……これのどこが『綺麗好き』なんだよ」

 むしろ、めちゃくちゃ片付けできない女だろ。

「い、いやいや違うじゃん!部屋入ってすぐだけの印象だって!」

 青空が慌ててぱたぱたと手を振った。

「入ってすぐ……って?」

「えーっとねー……あっ、そうだ!床だけは、すっごい綺麗だったからだよ!ゴミどころか、髪の毛の一本も落ちてないからさっ!」

「……確かに」

 言われてみれば、部屋の床だけがやたらにピカピカだ。

 これにも……事件に関係する、何らかの理由があるのだろうか?

 

キンコンカンコーン…

『えー、ボクも待ち疲れたんで……そろそろ始めちゃいますか?』

『お待ちかねの、学級裁判をっ!』

 

「!」

 

『ではでは、集合場所を指定します』

『学校エリア一階にある、赤い扉にお入りください』

『……うぷぷ、じゃあ後でね〜!』

 

「じ、時間……って事だよね……」

 学校エリアにある、赤い扉……か。

「行くしか……ないんですよね」

 

 学園エリアに戻り、しばらく歩くと……。

 突き当りに、モノクマの言う通り『赤い扉』が現れる。

「こ、こんなの……あったっけ?」

「さあな……」

 不安を抱えつつ、扉を開く。

 そこには、すでに他の生徒達が集まっていた。

 

「……あ、来た来た。きみたち三人で最後だよ〜」

 高梨が相変わらず軽い調子で声をかけてくる。

「どうかしらね。皆さん、犯人の目星は付いたのかしら?ふふふ……」

「……で、あんたは今までどこにいたのさっ!」

 一見、皆いつもと変わらない態度だ。

 この中に、甘井を殺した犯人がいるのか……?

 

『うぷぷ…みんな揃いましたね?それでは……』

『正面に見えるエレベーターにお乗りください。そいつが、オマエラを裁判場まで連れてってくれるよ』

 機械的な音声が聞こえてくる。

 

「行くしかない……か」

 覚悟を決め、皆がエレベーターに乗り込んでいく。

 

「……あの、見通くん……」

 ふと、声野に裾を掴まれた。

 不安でいっぱいな瞳が、俺を見上げる。

 

「見通くんには……もう、分かりました……?犯人が……」

「……いや」

 正直、まだ突き止められてはいない。

「だが……必ず、この裁判で……真相を明らかにしてみせる」

「そう……ですね。そうですよね……」

 声野は言葉を噛みしめるようにして俯くと……目を閉じ、ゆっくりと開いた。

 

「……私も、せいいっぱい頑張りますから」

 

 最後の俺達が乗り込み、エレベーターの扉が閉まる。

 ゆっくりと動き始め……下へ下へと降りていった。

 着いた先は……赤と青の悪趣味な壁に彩られた、確かに裁判場を模したような空間だった。

 

「はい、いらっしゃい!」

 勢いよく、モノクマが飛び出してくる。

「んじゃあ、それぞれ自分の名前が書かれた席についてくださいね〜。ほらハリー、ハリー!」

 

 促されるまま、指定された席へと向かう。

 ぐるりと円形に配置された席。その一つに……甘井の顔写真が置かれている。

 いや、顔写真と言うよりも、それは……。

 

「遺影、か」

「イエス!死んだからって、仲間外れは可哀想でしょ?彼らはいつだって、残されたきみたちの事を見守っているんだよ。遺影でいえーい、って事で!」

「……つくづく、趣味悪……」

 

「……さて、御託はいいから、はじめちゃおっかなっ!」

「記念すべき最初の殺人。そしてその記念すべき……」

 

「最初の学級裁判をっ!」

 

 そして、幕が開かれる……。

 

 

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