こちら新エリー都ヤヌス区分局都市秩序部捜査課特務捜査班作戦室!   作:チキンうまうま

1 / 3

 みんなゼンゼロやろう。
 


俺と生真面目先輩 

 

「…()()、随分とデカくなりましたね。」

 

 まだ太陽すらも上りきっていない早朝。薄暗い部屋の中で2人の男女が机に向かっていた。

 その静寂の中で、先に口を開いたのは金髪の、どうにも疲れて見える男の方だった。

 

「ええ。ちゃんと毎日気にかけて、世話も手入れもしてきましたから。」

 

 大きく、そしてたわわに実ったそれが少し自慢なのか黒髪に赤のメッシュの入った女性の方がわずかに誇らしげにそう言った。

 

「真面目ですね。で、申し訳ないんですが朱鳶班長…。」

「なんですか?」

 

 男は女性─朱鳶の方に川底の汚泥のように澱んだ目を向けた。

 

()()、味合わせていただいてもいいですか?」

「…何を言ってるんですか、ネジ。」

 

 突然のお願いに、朱鳶は男─ネジに驚いた目を向けた。彼女から見たネジは随分と疲弊しており、だが、その目にはドロドロとした欲が渦巻いているように思えた。

 

「…俺は昨日ちょっとだけ残業して帰ろうとしました。」

「はい。」

 

 朱鳶の目を気にせず、ネジはポツポツと語り始めた。とりあえず朱鳶は相槌を打っておく。

 

「2時間です。昨日、一昨日は朝からいろいろありましたからね。全部の処理がその程度で帰れるなら上等だろうと。そう思って俺がデスクを離れようとした時でした。緊急要請の電話が鳴り響いたんです。」

「…それで?」

 

  朱鳶は残業なしで帰ったためにその辺りはまるで知らなかった。

 

「街中で突然ホロウへの入り口が開いて市民が落ちたとかで急に呼ばれて、一晩中ホロウの中を駆け巡るはめになりました。帰ってきたのはついさっき、班長が出勤してくる10分前です。」

「…もしかして寝ていないんですか?食事は?」

「もうここまで来たら目が冴えて眠れないですよ。食事は…携行食をつまんだ程度ですね。」

 

 そのせいで今色々と限界なんです。ネジはそうこぼした。確かに彼のワイシャツは皺が寄っていて、普段はセットされている髪の毛も乱れている。

 

「そうですか。それは…大変でしたね。」

「大変でした。ついでにもう我慢の限界です。…班長。」

 

 ネジがギシリと音を立てて朝から立ち上がった。そして朱鳶のデスクのそばへと歩いて行く。

 

「今回だけです。もう頼みませんから…いいですか。」

 

 彼は『本気』の目をしていた。欲にまみれていると形容したその目は、その欲を宿したままで情熱の火を灯している。その気迫、熱意に思わず朱鳶は生唾を飲んだ。

 

「…こ、」

 

 普通に返事をすればいい。そう思っていたのにその意思に反して朱鳶の喉はつっかえながら言葉を発した。

 

「今回だけ、ですよ。次は…ありませんから。」

 

 朱鳶のその言葉に、ネジは薄く目を細めて笑った。それは肉食獣が獲物を目にした時の目によく似ていると、ふと朱鳶はそう思った。

 

「ありがとうございます、朱鳶班長。…では、」

 

 ネジの手が、腕が伸ばされる。

 幾度もホロウの中に潜り、戦ってきた彼の手は自分のそれとは違ってゴツゴツとしていて、タコがいくつもできている。

 

「…遠慮なく。」

 

 ネジの手が朱鳶に迫る。彼女はというとどこかぼんやりしながらゆっくりとその様子を見ていた。そして─

 

「えいっ」

 

 彼の手は朱鳶の隣、デスクの横で育てられているトマトをもぎ取った。一番赤く、大きくて熟れているトマトをもぎ取ったネジは一瞬の躊躇もなくそれにかぶりついた。

 

「んっんっんっ…めっちゃうまいっす班長。あざます。」

「ええ、それはよかったです。このトマトの育て方にはこだわっていますから。」

 

 先ほどまでのギラつきはどこへやら、ニコニコとトマトを頬張るネジに、朱鳶は穏やかな目を向けた。彼女とて治安局の若きエース、あの携行食の不味さはよく知っている。それ故に、少しでも空腹を満たしながら口直しをしたいというネジの欲望はよく理解できた。

 

「ん、んぐ…ふう、ご馳走様でした。美味しかったです。」

「少しでも空腹が紛れたなら何よりです。それと、ネジ。」

「なんです?」

 

 ヘタ以外の全てを綺麗に食べ終えたネジが大きく伸びをしながら答えた。

 

「始業時間まではまだ時間があります。それまでにシャワーをして仮眠をとって、それから着替えてくるように。いいですね?」

「…いや、昨日の事後処理があるんですけど。」

「問題ありません。」

 

 朱鳶が立ち上がって、ネジの机の上から作業中のタブレットを取り上げた。それを手早く叩きながら続ける。

 

「この処理は私がしておきます。ですから、ネジは少しでも休息を取ってください。」

「…いいんですか?」

「一晩中突発的な事態に対応したあなたに休息を与えるのも上司の務めですから。」

 

 そう言っている間にも既に作業に取り掛かっている朱鳶を見て、ネジは頭を下げた。

 

「…なら、お言葉に甘えて。作業時間には戻ります。」

「ええ。ごゆっくり。」

 

 そう言い残して作戦室を出て行ったネジにチラリと目をやって、朱鳶は再び書類へと意識を戻した。記録を見る限り、なかなかに無茶をやらかしているのが見て取れる。

 

「ほんと、心配ばかりかけさせる後輩ですね。」

 

 1人だけの作戦室内で、朱鳶はポツリとそう呟いた。

 





朱鳶
 この方がきっかけで僕はゼンゼロを始めました。
 大体の相手を強化散弾で吹き飛ばしてくれる素晴らしい完全無ケツの治安官
 
ネジ
 朱鳶の部下の治安官。階級は巡査。
 属性はエーテルでタイプは支援。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。