亜人と青春   作:クロウト

2 / 5
#2 『 俺は何者なんだ。』

 

 

 

「 はぁっ ... !!! はぁっ ... !!! 」

 

肺が締め付けられる様な痛みに襲われ、周りに漂う硝煙の匂いが鼻腔を刺激する。然しそれでも狂った様にその足は止める事は無くまるで何かを目指す様に前へ...前へと走らせて行く。着いた先には何も無いと分かっていながらも一人の男は自分が人外である事を否定する為にその考えを脳裏から払拭させる為に銃音鳴り響く激戦区へと足を運ばせて居た。

 

当然、自分の身を護る武器なんて持っている訳が無い。元々前までの自分はそんな武器を持たずとも静かで平穏な暮らしが出来たからそんなものは必要無いとたかを括っていたからだ。

 

 

_____ だが、今回は状況が余りにも逆転し過ぎていた。

 

 

 

( ... どう言うコトだっ ... !!!!!! )

 

無我夢中に戦の跡の様に燃え広がる廃ビルの群の中を駆け抜けて行って背後から追っ手が来るかもしれないという思考が片隅に置かれたまま、取り敢えずは追っ手から振り切れる様に分かれ道が多い歩道を選びながら走り続けていた。

 

( ... 違うっ ... 俺はっ ... 俺は人間だっ ... )

 

燃え広がる劫火に包まれる空間の中に身を置いているせいなのか、目の前の視界が蜃気楼の様にゆらりと揺れていく。それと同時に段々と自分の足が疲労によって鈍くなって行く感覚も覚えていき、鮮明に自分自身の身体に降りかかった疲憊をどうにかしようと自分の速力を徐々に落としていき、延焼が比較的軽度な空間にへと身を乗り出せば酷使させていた足を止めて息を整えようとする。

 

 

「 はっ ... ... はぁっ ...... 。 」

 

煙を吸ってしまったのだろうか。男の肺は過度に運動した事による疲労から来る痛みとは違い、肺の内部を熱した鉄棒で押し当てられた様な苦悶と言い表すコトしか出来ない鈍痛を抱えながらも外に漂っている酸素を取り込もうと身体が理性では無く生存本能と呼ばれる様なものが働いているのか浅く短い呼吸が続いていた。

 

「 ...... ぜぇっ .... はぁっ .... 。 ..... はぁぁっ。 」

 

額に汗が滲み出る。戦車に跳ね飛ばされた事で損傷を被ってしまった自分の衣服は黒い煤が多く付着していて、血管の中に流れている血が蒸発してしまいそうな灼熱地獄の中で男は焦燥に満ちた顔を浮かべながら目の前を見据えていた。

 

「 ___ ... 此処、何処だ 。 」

 

夢中で走っていた為に男は今現在の自分が佇んでいる現在地が何処なのかを把握していなかった。燃え盛る都市部の中と言う事は恐らく此処で大規模な抗争が起きた地であると言う事は確定しているのだろうが、都市部の何処なのかまでは流石に健闘が付かなかった。

 

 

「 ... ... ... 兎に角、逃げないと 。 」

 

今頃、事故が起きたあの地では大きな騒ぎになっているだろう。光輪が無い人間が戦車に刎ねられて死亡したのにも関わらず、何故かその人間は生き返って逃走した...と。光輪を所持している人間は多く居るので然程珍しくは無いにしろ、光輪を持っていない人間の中に宿る神秘の力なんて報道されでもしたらきっとその力を巡って多くの研究者が自分を捕えようとして来るだろう。いやきっと今の時点でもうそうなっているのかもしれない可能性の方が高いだろう。

 

_____ つまり自分は今国際指名手配犯と同様の扱いを受けている事になっていて、自分はもう既に追われの身となってしまったのかもしれない。という最悪の展開があるかもしれないと言うコトだ。

 

 

「 ...... 最悪だ。 」

 

息が段々と整って来た中、少しでも自分の身を隠せるセーブポイントをいち早く見つけ出せる様に鈍足を前へと踏み出して歩き出して行く。血走った眼は前方の景色を見据えながら歩いて行く。炎渦巻く都市部の最奥にはもうとっくにその役割を終えた様に力無く佇んでいるサンクトゥムタワーがその灼熱の景色の中ではやけに記憶に鮮明に残る様にただそこにあるだけだった。

 

 

「 _____ ... 俺は何者なんだ。 」

 

 

戦車に跳ね飛ばされた時に感じる一瞬にも等しい様な時間の中で感じた永遠にも等しい無尽蔵に湧き出る痛みが身体の中でフラッシュバックするのと同時に自分が人間から人間の皮を被ったナニカにへと変貌を遂げてしまったあの瞬間も脳裏にこびり付いた忌々しい穢れの様に頭の中で再生されて行く。

 

死んで、生き返った。この一連の流れだけを見ればとても単純な流れに見えるだろう。死因の数も交通事故による死だけでは無いので中にはこの不死身めいた力を羨ましがる者も出て来るだろうか。

 

...だが男はその単純に見えてしまう様な流れの中でとても人が耐えれるとは思えぬ様な痛みを経験してきた。出来れば二度とあんな経験はしたくないと心からそう思わせる程に、男の身に降りかかった激痛は想像を絶する様な物だったのだろう。

 

 

『化け物』

 

 

あの時に自分に投げかけられたその言葉に男は思わず歯を食いしばり眉間の皺を深く寄せていく。恐怖と侮蔑、忌々しさや軽蔑などを込めた表情から言われてしまったその一言はずっと自分はただの人間だと思っていた男にとっては何よりの苦痛でもあった。 

 

 

 

 

 

「 ........今は自分の身を守れる様な場所も物を探さないとな...。 」

 

 

男は一先ずは自分の眼前に大きく佇んでいるサンクトゥムタワー付近を目指す事を目標とした。此処がサンクトゥムタワーとの距離が近い所であるのならばこのまま身を隠すよりかは治安が停止して不良達が彷徨っている様な治安が極限的に悪化している様な所に身を隠せば外部の法的機関や連邦生徒会は簡単に手出しはする事は出来ないだろうと考えたからだ。

 

犯罪者集団の縄張りの中にあえて自分という存在を紛れ込ませる。正しく木を隠すなら森の中という言葉に基づいた様なかなりリスクの高い作戦ではあったものの、発見率が確実に低く長期間潜伏が出来る場所を考えた時には男の頭の中ではその案しか思い浮かばなかった。

 

だがその拠点獲得の作戦を成功させるには先ず武器が必要だった。死人から帰った人間でも武器が無ければ永遠に殺され続けるだけだが自分の手札は限りなく0に近く、不良達の持ち得るカードは強力なものを取り揃えているのは確定だ。せめて最低限の武器が男には必要だった。拳銃でも小銃でもナイフでも良い。先ずは武器を入手する事、これが現在の最優先事項でもあった。幸いにも此処は抗争をした痕跡がある。ひび割れたコンクリートに開いた不自然な程に多い窪みの数々に微かに焼け焦げた匂いがこびり付いている様な爆破痕までもが全て揃っている。ならば交戦した時に捨てられた銃火器やマガジンが残っているかもしれないと半ば希望的観測を脳裏の片隅に思い浮かべたまま男は辺りを探索し始めた。

 

 

「 ........近くに放置された物資があれば良いんだが...。 連邦生徒会が来る前までにはあそこまで先回りしないといけない点を考えると...ゆっくり探しては居られないな。 」

 

 

 

_____ この男の作戦の遂行、それに一番の障害となり得るのは連邦生徒会から派遣された外部の勢力達だった。

 

男が人外だと言う騒ぎが生徒会に伝わるのもそう長くは無いだろう。加えて事故に遭遇してしまった人々に逃げた先を見られてしまっているという点から間違い無く此処周辺を外部勢力を使って探しに行く可能性は非常に高い。最低限の抵抗が出来るとは言ってもキヴォトス最高の権限を持つ者の直属の部下達が構成されている組織だ。短期決戦に持ち込まれでもしたら、男の勝率はほぼ皆無と言っても良いだろう。

 

 

 

「 ...投石で鎮圧は非現実的過ぎるな。 」

 

男は自分の眼窩に広がっていたひび割れたコンクリートや建物から溢れ出した瓦礫類の破片を片手に持ってみれば軽くため息を吐きながらまた後ろへと投げ捨てて行く。投石と言うのは銃や剣が無かった原始的な時代では良く使われて来た投擲武器だ。現にボーラと呼ばれる石と紐を使った投げ物も拘束と打撃の両方の性質を兼ね備える投擲物である。

 

だが投石は銃のように綺麗な弾道は描かないし、重力による作用で狙いがブレる事もあるので余程の投擲を極めた熟練者では無いと扱うのはとても難しいので男の武器の候補には残念ながら入ってはいなかった。

 

 

 

 

......そうして男が武器は此処には無いか、と石ころを地面にはと投げ捨てながらそう結論付ければまた奥地へと進もうとする。男はこうも激しく争った様な惨劇の跡地を歩いているのであれば辺りに転がっていた武器も暴風や爆破で吹き飛んでいるのだろうと適当に見つからない理由を予想すれば、男はサンクトゥムタワー付近に少しでも近付こうと歩みを始めたのだったのだが .......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____ カツンッ。

 

 

「 っ... ! 」

 

 

歩き出して数歩先辺りに男のつま先に何かが当たった感触がした。金属と言うには余りにも軽快な音であり、木材と言うには余りにも重い音であった。そして音が鳴った場所はまるで()()()()()()()()()()に辺りと同化する様にコンクリートの上には砂塵と灰の混合物が混ざり合って山の様に積み重なっていた。

 

 

「 .... .... 頼むぞっ ... 。 」

 

 

男はその不自然に感じる様な堆積物に注目すると直立の姿勢からしゃがみの体勢へと移行して急いでその堆積物を掻き分けていった。ただでさえ放棄されたコンクリートの道路に幾つもの大小それぞれの窪みが罅割れの中心となる様にあちこちに生まれている。もし...此処が逃亡者や不良生徒達の逃走経路として設定されていて予備武器を渡せる“箇所“があっても何ら不思議では無い。もしアジトや本拠地が撃破されて武器庫への供給が絶たれた場合に備えて必要最低限の“物資“を隠す事があるポイントがあるならば?男は頭の中に思い浮かんだ希望的観測を信じながら堆積物を掘り下げて行く....そうして砂塵と灰の山を掻き分けて男の手の中に掘り出されたモノは_____ 。

 

 

「 ......アタッシュケース ? 」

 

男が掘り出した物は長年砂を被ったまんまだったせいか少しだけ砂の色が映っている漆黒のアタッシュケースだった。手に持ってみるとズッシリとした感触が先ず男の感覚を鮮明に呼び覚ます。大きさは人の胸板の様な大きさであり、丁度そのケースが入っていたコンクリートの窪みのサイズとも一致する。

 

 

 

 

 

 

 

___ そして、男がそのアタッシュケースの鍵を開けて急いでその中身を見ようとケースの蓋を勢い良く開けて中を確認する。........そうしてアタッシュケースの中にあった物は男の脳裏に焦燥と共に思い浮かんでいた希望的観測を見事に的中させるものだった。

 

 

 

 

「 .....ははっ。そう言う事かよ ... 。 」

 

 

 

アタッシュケースの中に入っていたのは男が正に今求めていたものだった。全長204mm 重量705g 口径9mm 銃身長114mm...数多くの軍隊や特殊部隊が愛用して来た拳銃の一つ。軍用拳銃に多くの改革を齎したグロックシリーズの代表的な拳銃____。《グロック17》がそこに入っていたのだった。

 

 

「 丁寧にマガジンまで入ってる......十中八九...不良達の物じゃ無いかもな。 」

 

 

男は口元を弛ませながらアタッシュケースに仕舞われている拳銃を手に取って使えそうな物であるかどうかを確認する。スライドの中に9mm弾が装填されておりマガジンの中にも綺麗に16発の弾丸が内蔵されている。男は手慣れた調子で銃の軽い確認を終えると今度は拳銃と一緒に内蔵されていたマガジンを幾つかそのケースの中から拝借してズボンのポケットの中に仕舞い込む。そして拳銃を片手で握り締めればケースを元々あった窪みの中に押し込みあたかも最初から盗んでいないと言わんばかりに元々窪みの上に覆い被さっていた砂塵や灰の堆積物をケースの上に再び戻して行く。

 

 

 

 

「 ...今から走れば、あそこには間に合うか? 」

 

 

幸いにも此処はまだ連邦生徒会の勢力が訪れていない。武器が隠匿されているこの逃走経路と思わしきこの場所にはまだ誰も立ち入っていなかったという点は男にとってはとても僥倖だった。

 

恐らく、この先をずっと進んで行けばサンクトゥムタワーは近いだろう

そうすれば自然とタワー周辺にも隠れ蓑に出来そうな使われていない廃棄された建物や廃墟とやらは容易に見つかる筈だ。先ずは落ち着ける所で今後の事について思考を回す時間が男には欲しかった。

 

 

「 そうなれば、こんな所で油売ってる訳にも行かないな。誰か来る前にとっとと逃げないとマズ_____。 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男がその言葉を最後まで発する事は無かった。その理由は男が向いている視線の先、サンクトゥムタワーへと続く道の奥に銃火器を携えた頭に光輪を浮かばせた特攻服を羽織ったスケバン達が男の姿を一瞥する様に男を見据えていたからだった。

 

 

 

 

 

「 _____ ...てめェっ ... こんな所で何してんだよ! 」

 

ブロンド色の髪を靡かせた口元に巨大なばつ印を記したマスクが特徴的な不良が男にそう告げる。両手には男が握る拳銃の数十倍はありそうな圧倒的な大きさをしているミニガンの様な物が握りしめられていた。

 

( ... 間に合わなかったか。 ... )

 

どうやら探し物に掛けるべき時間を間違っていた様だ。男は即座に拳銃をスケバン達に向けて戦闘の態勢を取る。もう既に両者はトリガーに指を引っ掛けており、一触即発と言わんばかりの状況が一瞬にして作り上げられ男は歯を少しだけ食いしばればスケバンの言葉に返す。

 

「 ......生徒会長が居なくなっただけで銃を乱射するゴリラ共に答える義理は無いだろ。 」

 

男が返した返答は挑発とも取れる様な言葉だった。ここで下手に自分の目的を伝えれば彼女らは間違い無く男を止めようと迎撃の態勢を取るだろう。冷静沈着に脳を回させ目的を把握した上で男を止める為の策や謀略を練らせるよりかはこうして挑発を行う事で彼女達の感情の昂りを現実に引っ張り出して戦闘時の判断力を鈍らせる事で此方への軍配を少しでも上げようとする男の策略の一つだった。

 

「 あ " ァ " っ !?!? テメェっ...黙って聞いてりゃ良い気になりやがってぇっ!!! 何者かも知らねぇ奴にそう言われちゃ、こっちだって我慢ならねぇよなぁ!!! 」

 

会話を交わしていたスケバンの一人がそう言うと背後に控えていた取り巻きらしきもう二人のスケバンが声を張り上げながら手に持つ機関銃らしき銃火器の銃身を此方に向けて行く。どうやら何方も戦う準備は出来らしい。

 

「 ...悪いが、俺もアンタ達を知らないんだ。だがこっちから売り出しちまった喧嘩だからな、売っちまったもんはしっかりと返させて貰うぜ_____ッ !!! 」

 

 

男がそう言うとスケバン達が銃の引き金を弾く時よりも早く自分の拳銃の引き金を勢い良く弾く。スライドの中に仕込まれた一発の真鍮の弾丸は男が引き金を弾いたタイミングで撃針が弾丸の雷管を叩いた事によって発生する火薬の燃焼ガスによってその速度はまるで一つの軌跡を描く様に銃身の中で加速して行き_____。

 

パァン !!!

 

 

乾いた銃声が辺りに鳴り響き、発射された弾丸がスケバンの額にへと容赦無く飛んで行く。男の死人帰りからの初めての戦いの幕開けは頭蓋を穿たんと迫り来る一つの弾丸によって切って落とされたのであった。

 

 

 

連邦生徒会勢力到達まで後15分。

 

 

人ならざる者(亜人)光輪(ヘイロー)の所有者が激突する_____。

 

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。