亜人と青春   作:クロウト

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#4 『アンタの不死身の駒になってやるよ。』

 

 

“ 君、ちょっと良いかな? “

 

 

_____ 今の今まで聞き慣れていない様な大人の声。その声は何処にも淀みが無く、凪の様に何処までも透き通る様な声で誰かを威圧する事は無く、逆に諭す様にして男に対して語り掛ける様な優しい声。

 

 

そして ... 男が今一番、最も聞きたくない声であった。

 

 

 

「 .....不味いな。 」

 

男の目の前には灰色のスーツを着こなした一人の大人とそれに付き従っている四人の生徒が揃いも揃って此方と視線を合わせている光景が写り込む。その生徒達はミレニアム、ゲヘナ、トリニティの正義実現委員会と自警団の一員といったマンモス校から出て来た者が勢揃いであり、先ほど男が闘った不良達とはその強さは比べ物にならない程だった。少なくとも、男が握り締めている拳銃だけでは勝てる相手では無い。

 

 

( ..... どうする。逃げるか?いや ... 無理だな。 )

 

 

____少なくとも、今の男にとって目の前の五人から逃げ切れる自信が無かった。真っ当に正面からインファイトを仕掛けるのは論外、逃げ切ろうとしてもマンモス校出身の生徒4人からの鬼の追跡を単独で逃げ切れるのは正直現実性が皆無だと言っても良いだろう。

 

 

 

「 多分連邦生徒会側の人ですよね...こんな辺鄙なとこで何の用です? 」

 

 

結果、男が選んだのは“対話“だった。恐らくこの集まりはサンクトゥムタワー復旧の為に派遣された連邦生徒会の勢力だろう。連邦捜査部シャーレと言うのは聞いた事が無いが大方、連邦生徒会が設立した新組織と言うのが正しい所だろう。

 

 

“ 銃撃戦の音を聞いて駆けつけたんだけどね......その子達を倒したのは君で合ってるかな?“

 

大人の視線が男から倒れ伏している生徒達へと向けられる。気絶程度に抑えてはいるが地面に飛び散っている自分の血と相まってまるで殺人現場の様な風景になってしまってるが男は先ずは弁解を試みようとその大人の問いに返答を返す。

 

 

「 ...コイツらが喧嘩を売って来たんで買っただけですよ。ああ、全員は気絶だけしてる状態なんで大丈夫ですよ。床に飛び散ってるソレは....まぁ、話せば長くなると思うんで割愛でお願いします。 」

 

 

そもそも光輪を持つ者達をそう簡単に倒せる訳が無い。銃弾を喰らっても平気でピンピンしている奴らを殺し切るなんて事は生身の人間にとっては余りにも不可能に近い様な事だった。それを果たして目の前の大人が把握しているかどうかで変わってくるだろう。

 

“... ... うん、そうだね 。この子達も見た感じは大丈夫そうだからね。君の言う事を信じるよ。“

 

そう言いながらその大人は一歩、男の元へと足を踏み出した。その大人は男と同じく光輪(ヘイロー)を持たない側の人間である。彼の前を警護している四人の生徒には全員の頭上に特徴的な光輪が浮かび上がっており、それらが微かに閑静な街に不似合いな彩りが足されていく。

 

 

“ ___ ... じゃあ今度は、君の事について聞いても良いかな。地面に飛び散ってるそれ()の事も聞きたいからね。“

 

 

対話が進んで行く度に男の事を見る生徒達の目が厳しくなって行く。唯一、自分と対話をして武力鎮圧を撤回してくれたその大人だけは穏やかな瞳で此方を見据えており、その言葉には裏表すら感じられなかった。

 

 

「 ... 分かりましたよ。 」

 

男は大人のその申し出を了承し、本格的な事情聴取に映る。然しながらまだ男の心境は警戒の網で張り巡らされており、一挙手一投足が自然と丁寧になるのはそれ故だろう。男は手に隠し持っていた拳銃をズボンのポケットに仕舞えば、戦いの意志は無い事を証明して互いに武器は出さない事を指し示す。

 

 

“ ... じゃあ先ずは自己紹介かな。“

 

 

 

“ 初めまして、私は新しくキヴォトスに派遣される事になった先生だよ。今日此処に赴任したばかりだから此処(キヴォトス)の事は余り良く分からないけど、仲良くしてくれたら嬉しいかな? “

 

 

その大人_____先生は、軽く笑いながらそう言い終えると次は君の番だよと言わんばかりに此方に目線を送る。その目線を受け取った男は軽く溜め息を吐いた後に此方も同じ様に自身の素性を語る。

 

 

「 ... 自分は連邦生徒会が管理しているD.U.のシラトリ区に住んでるただの一般市民ですよ。...いや、市民“だった“って言った方が正しいですかね? 」

 

 

男のその問いに先生は首を傾げながらその顔を懐疑的な感情へと染まらせる。男が此処まで語った事は全て本当だ。そしてこれから先生と生徒に語りかけるその内容も男自身の今までの体験から確信を得たであろう嘘偽りの無い真実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ... 先生、俺が“何回死んでも生き返る事が出来る人間“だと言われたら信じますか? 」

 

 

男がそう言い放った瞬間、その場の空間が僅かに凍った様な感覚を覚えた。先生は僅かに眉を顰め、生徒達は信じられないと言わんばかりにその顔を歪ませる。

 

 

“ ........ 一体、どう言う事かな。“

 

 

男が妄言を吐いているのかはたまた狂ってしまったかのどちらかだと先生を含めた男以外の全員は思っただろう。然し男の視線は真っ直ぐ先生を射抜いており、まるでそれが真実であると物語っている様な澱みの無い男の瞳が先生を捉えていた。

 

 

「 言葉通りの意味でですね 、俺は銃で頭を撃ち抜かれても戦車で撥ね飛ばされて死んでも、生き返るんです。統計で3回ぐらい死んだかな。...その内の2回はこの戦闘で死にましたよ 。 ここに散らばってる血飛沫も全部俺の血ですよ、アイツらに血は流させてませんよ。 」

 

 

男は真実を全て曝け出した。今の今までの一連の流れから先生は男という特異な存在を知っていないという事実も把握出来た。キヴォトスの情報網の中では恐らく、自分という存在は確実に入れ込まれているだろう。だが先生と邂逅するまでのこの道のりではメディアや広報といったものを閲覧出来る機会が無かった為、どんな風に自分という存在が拡散されているかと言うのは不明瞭な部分が多い。先生が男の事を知らなかったという事例がある様にまだ情報が充分に拡散されていないのでは無いかという一つの希望が男には見出せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「 .. ... 状況は大方、把握出来ました 。 」

 

先生に告げた男の実態、それに皆が男の全貌が益々不明瞭になってしまっていた頃に一人の生徒が男に対して言葉を告げた。赤い光輪(ヘイロー)を頭上に浮かべて鋭い矢印の中心には特徴的な円形の模様が点在している光輪に艶やかな黒い長髪と赤と黒の色が混在した瞳は男の瞳を射抜くようにして向けられる。鴉の様な黒い翼を携えて彼女の瞳の色と同じに見える“正義実現委員会“の制服を纏っていた。

 

 

「 先ず、貴方は私達と敵対するつもりは無い ... そう認識しても宜しいですか? 」

 

彼女の握り締めるボルトアクションライフルは今でこそ男にその銃口さ向けられていないがここからの返答次第で先生達を敵に回す返答をしてしまえばそのライフルの冷たい銃口から放たれる銃弾が男の眉間をいつでも貫けてしまうぞと言った風な圧力を感じるだろう。彼女の180ぐらいはありそうな巨躯と合わせれば尚更だ。

 

 

「 ... ... 嗚呼、そう認識してくれて構わない。寧ろアンタ達のやろうとしている事を手伝ってやろうとも考えている身だからなコッチは。 」

 

 

男の視線が一人の正義実現委員会の生徒へと映る。男は饒舌な舌車を全力で回転させて言葉を紡ぎ出す。今は先生という存在が居る事で不戦状態が続いているが返答をミスれば一瞬でこの状態は総崩れになる。だから男は現状で先生に提供出来る最大限の“メリット“を提供する、それしか男には助かる道は無かった。

 

 

「 ... ... と、言いますと? 」

 

 

男の返答に生徒が詳細を求める返答が返される。この言葉が果たして男の引き出した言葉に興味を指し示したか、それとも元々から切り捨てるつもりでワザと言い出したものかはその本人しか分からないが少なくとも男の方は前者の方だと信じながらまた会話を続けて行く。

 

 

「 アンタらの目標は向こうにあるサンクトゥムタワーだろ?俺もアンタらと同じでサンクトゥムタワーの復旧を目指して動いているクチでね。アンタらがさっきの俺の言葉を信じるのなら、そこにいる先生の私兵としてはまぁまぁ活躍出来ると思う。戦力は多い方が確実だろ? 」

 

 

男の体内に宿る“不死性“は他のどんな戦闘技術よりも大いなるアドバンテージとなる。身体に爆弾をくくり付けて特攻しても、肉壁として味方と敵の間に立って戦い続ける事も出来る。何度死ぬ度に何度も生き返って戦場に即復帰出来るというメリットは捨て駒という点でもアタッカーとタンクの両方を兼任出来るという点でおいても男の有用性と希少性は戦場においては少なくとも先生が無視できる程の価値では無い筈だ。

 

 

 

「 それは ... 貴方に対して何のメリットがあるのですか?今の所では私たちにしかメリットが無いように聞こえますが ... 。 」

 

 

確かにこのままでは男自身のメリットが提示されずに無償で戦力を提供するなどと言う美味しい話になってしまうだろう。無論のこと、そんな甘い話に釣られるわけが無いだろう先生を含めた連邦生徒会から派遣された生徒達は少し警戒を混ぜた様な鋭い視線で男を見抜くだろう。だからこそ男は誤解を解いた上で先生に自分という戦力を取り入れて貰うというスタンスに切り替えながら男は再び口を開く。

 

 

 

「 ... 俺自身のメリットは単純にサンクトゥムタワー復旧っていう目的が果たせる事ぐらいだな。後は ... そうだな。死なない人間ってコトが世間に露見しちまったから隠居出来そうな所も見つけられるかもしれないって言う点で最も不良達の警備が厳しいサンクトゥムタワー周辺で住めそうな物件が見つかる事だな。 」

 

 

男は軽く笑いながら生徒にそう告げた。事実、男の元々の作戦としては事の熱りが冷めるまでは人が出払っている棄てられた廃墟や家などの拠点を探す事が出来ればその時点で男の目的は達成していたものの、サンクトゥムタワー周辺の箇所に絞る場合は一人で大量の不良を相手をしないとならないという点と都会の割と中枢部分に近い所なのでそもそも廃墟や家が見つからないかもしれないというデメリットがあった。だが其処に現れた外部から派遣されて来た先生という存在は男の行動を一人の時よりも勝率を底上げするという点においては何とも僥倖ではあった。先生のサンクトゥムタワー復旧の件でも男の作戦の件でも二人の利害は一致していたのだ。

 

 

 

「 ... まぁ、詰まるところだな。 」

 

 

利害は一致したが、交渉を成立とするか決裂とするかは全て先生が決める事だ。不死身の兵士のその大きな価値を先生が理解したのならば彼はきっと男の要求を呑むだろうか。不審がって決裂を持ち掛けて来る場合もあるかもしれないがその時はその時で自身の不死性を証明すれば良い。兎に角、今男にとっては目の前に現れた自身の脅威となり得るし自身の大きな助けにもなり得る先生という存在を逃す訳には行かなかった。

 

 

 

 

 

「先生、アンタの不死身の駒になってやるよ。 」

 

 

 

 

不死身の兵士たる化け物(亜人)は笑いながらそう言い放った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

“ ... ... うん、君の事は分かったよ。“

 

男の話は終わり、今度は先生が言葉を紡ぐ。何処までも穏やかな視線で男の事を見つめて行く。それはまるで男の内心に潜む渦巻く感情を見抜いているかの様にも見えた。

 

 

“ ... そして、このまま君を放って行く訳にも行かないって言う事も理解した。“

 

先生の口から出た言葉は紛れも無い純真な慈悲が籠った言葉だった。先生の瞳は大怪我を負ってしまった子供を見るかの様な慈愛に満ちた表情へと変わって行き ... 。

 

 

“ 君が普通の人とは何処か逸脱してしまって、その所為で追われる身になってしまってる。そんな人を見て見ぬ振りをすると言うのは私には出来ないからね “

 

 

先生は男を救おうとしていた。男が死なない人間となってしまった事が世間に露見してしまった時からもう元の居場所へと帰れなくなってしまっていた男を見て、先生の心境にはもう既に男を怪しむ気持ちなど微塵も無くなっていた。その怪訝な心境を埋める為に先生の中に埋められたものはただ何処までも続く地平線の様な優しさだけだった。

 

 

「 ... じゃあ、俺の提案を呑んでくれるのか? 」

 

男がそう問いを出すと先生はうんと頷いて肯定の意志を示した。交渉は快諾された。そう男がそう思い、安堵のため息を放つと先生はそれを意に介さぬ様にまた男に強く言い聞かせる様にまた言葉を放つ。

 

 

 

“ ただし!“不死身の駒“って言うのはナシで頼むよ。勿論、君が戦ってくれると言うのなら私はそれを全力でサポートするだけだけど、“生徒“が苦しむところを見るのは私も嫌だからね。くれぐれも私の見えるところでは死なないからって無茶は駄目だよ?“

 

 

先生の口から出たのは男の身を労う様な言葉だった。これには男も流石に予想していなかったのか一瞬だけ鳩が豆鉄砲を食ったような顔になって驚きを示すが直ぐにその顔は軽い笑みへと変わって行く事になる。

 

 

「 ... ハハっ 、俺はまだアンタの生徒になった覚えが無いんすけど...まぁ、死なない程度には頑張りますかね 。... 」

 

 

その笑みを見れば、男の先にいた先生も軽く頬を緩ませる。それを見た他の生徒達も男に対しての警戒の体勢を解いて行き、警戒混じりの鋭い視線は互いに味方だと確信する様な穏やかな顔付きへと変わって行った。

 

 

 

そうして化け物である男は先生のサンクトゥムタワー復旧の作戦へと介入する事となって先生一行に加わった。だが男は自身との同行を許してくれた先生に対して少し人格者が過ぎるのではないかというある種の訝しさを抱いていた。交渉の結果も先生の極度のお人好しの性格が功を奏したと言っても過言では無いのだろう。会って間もないはずの人間になんでこれほどまで警戒心を曝け出さずに優しさを出す事が出来るのだろうかと男が考えてしまう程だった。

 

 

 

( ... いつか背中とか刺されるかもな。)

 

 

 

男は先生に対して割と失礼な事を思い浮かべてしまったが、それを決して口にする事は無く、閑散とした誰もいない街の中を進軍し始める。目指すはサンクトゥムタワーの内部。先生はキヴォトスの新たなフィクサーと成る為に男はただ安寧の暮らしを求める為に互いの思惑が交錯する時、そこから運命は動き始める。それはまるで本来手繰り寄せる事の無い縁を引き寄せる“奇跡“の様にも見えた。

 

 

 

 

 

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