「GCへの道」のアキラ君になったので、役を演じて無事に終われると思ったら主人公から逆プロポーズを受けた件について   作:ナスの森

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アイのちから

 

「なんと、なんと、なんとおぉぉっ!!」

 

 張りのよい男の実況者の興奮したような大声が会場に響き渡る。

 

「ハネダシティでもっとも獲得するのが難しいと言われているこのテックアリーナのテックカップ・・・・・・それを手にしたのは最強バトラー、アキラ君でもなく・・・・・・」

 

 このアキラという人物は何を隠そう、自分だった。

 ()()()()のクソ生意気な子供だけれど不敵なムシバトラーを演じ続けた甲斐もあってか、僕はなんとかこのハネダシティにおいて束の間のチャンピオンになることができたのだ。

 だが、それも今日で終わりだ。

 

「『逆転の貴公子』タクマくんでもなく、はたまたベテランのみんなでもなく」

 

 このタクマというのは、僕より前の、このハネダシティにおける最強ムシバトラーの名前だ。僕はその子に悪趣味でかつ屈辱的な敗北を叩きつけて、このハネダシティの最強ムシバトラーの座を奪い取った。

 ・・・・・・うん、正直あの時はごめんよタクマ君。

 アキラ君エミュしてたとはいえ、君にはとてつもなく申し訳ないことをした。

 とはいえケイちゃんとかいうクソ可愛い彼女とことある毎にいちゃつくのは普通にムカつくし、続編では目も当てられない醜態を晒してたのもあってか、罪悪感が湧いてきたのは大分あとのことだった。アキラエミュ抜きにしても最低だな僕って。でもリア充はやっぱり爆ぜてくれ。

 

「ハネダシティに突如、その姿を現した、Dr.ネブマスターズの・・・・・・」

 

 実況の男が一端区切りを入れ、喉に力を入れる。

 そして、僕を打ち破り、これから真のチャンピオンの座を手に入れるであろう人物の名を口にする。

 

()()()()選手だあああッ!!」

 

 審判がその名を口にすると、それを息を呑んで見守っていたギャラリーたちが一斉に歓声を上げ出す。

 老人、大人、中高生、子供────この場に集まった老若男女すべてが、この場、この瞬間に対して大歓喜の盛況を上げていた。

 改めて、この世界における「甲虫王者ムシキング」の影響を思い知る光景である。元の世界でも一世を風靡したアーケードゲームであり、当時は様々なメディアでも取り上げられたゲームであるが・・・・・・はっきり言ってこの世界、というよりかはこの町におけるムシキングの影響力は元の世界の比じゃない。

 まずこの世界は、厳密には原作である「甲虫王者ムシキング グレイテストチャンピオンへの道」とすら異なっている。

 原作では曲がりなりにもムシキングによるムシバトルは、元の世界と同じくゲームコーナーでの筺体を通して行われていたが、この世界のムシバトルはそんな小さい規模ではない。

 この世界におけるムシバトルは広大なフィールドと、そこに組み込まれたリアルな立体映像により再現された互いのカブト虫、クワガタ虫が実際に戦うのだ。

 要するに、「~劇場版~甲虫王者ムシキンググレイテストチャンピオンへの道~」と同じ形式のムシバトルとなる。

 早い話が、某カードゲームアニメにおけるソリッドビジョンと言われるものである。

 

 うん、そりゃあ白熱するわけだ。

 

 そのせいもあってか、原作ではゲームコーナーが盛んなだけの、現実世界でも何処にでもある店の1つに過ぎなかった筈のテックカップの規模もこの有様よ。

 なぜか当時原作以降の本家Verの追加甲虫もいたりするし、なんなら「新甲虫王者ムシキング」の甲虫も参戦していたりで滅茶苦茶である。

 

 とまあ、こんなカオスなムシキング世界に生まれ変わった今世ボクこと、アキラ君であった。世界自体が色々イレギュラーで無事原作ゲーム通りに物語が進むか不安であったが・・・・・・無事、終わったようでようやくボクの肩の荷も下りたという具合である。

 

「みんなー! ありがとー!!」

 

 両の手を胸元に束ねながら明るい満面の笑顔でギャラリーの皆に呼びかける原作の女主人公こと「夢野アイ」。

 ・・・・・・うん、原作をやっていた時も思っていたがやっぱり可愛いなチクショウ。可愛らしいピンク色の袖なしセーラーワンピースを着こなす○学生の少女。こうして改めて立体で見せられると表情がとても明るく豊かで、動作の一つ一つがなんというか、あざとい。

 

 「夢野アイ」を乗せていた浮遊リフトが、ムシの闘技広場から離れ、ギャラリーの座る観客席まで移動していく。

 ・・・・・・うん、改めてみても元の世界じゃあり得ない超技術だなこれ。でも原作でも、本来現実ではロボットという設定の人間だったムシ王やクワ王、ハニーが正真正銘のロボットだったり、見た人の弱点を見破る眼鏡が登場したんだよなぁ。そう考えるとこの技術もあながちおかしくないし、むしろ未だに筺体という原始的な媒体でムシバトルしていた原作の方がおかしかったのかもしれない。

 

 観客席に辿り着いた原作主人公こと夢野アイはその場にいたギャラリー達から抱きつかれて、彼らは一斉にアイちゃんを称え始める。

 当然、その中には原作でも彼女の友達だったリョータくんやユーコちゃん、その他の仲間達までいた。

 

(・・・・・・まぁ、引っ越しまでの束の間の思い出としては上出来、かな)

 

 誰もいなくなった方の観客席へ戻り、アリーナから退場しながら僕は呟く。

 ここまでの道のりの中で、僕はただ原作のアキラ君を演じてきただけじゃない。

 彼女がこのハネダシティに引っ越してきてから今日ここまでの間、僕は正体を隠しながらちょくちょくあの夢野アイに接触していた。

 勿論、彼女の周りの人間に勘ぐられることを避けるために、なるべく2人きりで。

 幸い、彼女の周りの人間が正体を隠した僕のことを勘ぐる様子もなく、アキラとして接したときは概ね原作通りのやりとり進んでいった。

 

 ・・・・・・その最中で、1度だけ、彼女の口から本音を聞いたことがある。

 

 「私、また引っ越さなきゃならないの」、と。少し泣きそうな顔で明かされたことがあった。

 無論、原作をやっていた僕は彼女のそういった事情を把握していたが、まさか彼女がソレをあろうことか僕に明かしてきた時は内心で驚愕したのを覚えている。

 原作では、彼女あるいは彼は周りの友達や仲間達にそういった事情を告げないまま、ハネダシティを去ってしまう。彼/彼女がグレイテストチャンピオンになるにせよ、ならないにせよ、だ。つまり、この「グレイテストチャンピオンへの道」というゲームは、彼/彼女がこのハネダシティで短く限られた時間の中でムシキングを通して大切な思い出を作るという、そんなセンシティブな側面を持ったゲームでもあるのだ。

 そして何より当時の僕に考えを巡らせた要素なのが、「引っ越し後の彼/彼女の心情がプレイヤーにも一切語られない」という点だった。

 

 大切な思い出を作った場所と2度も別れなければならない────よくよく考えてみればそんな悲しい心情を抱いているであろう彼/彼女はついぞその思いをしまったままハネダシティを去ってしまうのだ。

 

 そんな彼女が、よりにもよって正体を隠して接していたこの僕にその心情の一端を、泣きそうな顔で明かしてきたのはもう面食らう他ないだろう。

 原作では明かされなかったであろう彼女の悲しい心情。明かした相手が彼女の周囲の人間ではなく、ちょくちょく会う程度であったこの僕だったのは、正体を隠した僕が彼女の周囲の人間と付き合いを持っていなかったのが大きかったのかも知れない。

 

 そこで情が移ってしまったのは、まあ否定できない。

 彼女が画面の向こうの人間ではなく、この世界で生きるひとりの女の子であることを僕はあの瞬間に認識してしまった。

 最初は原作通りに進めるためのてこ入れのつもりだったのに、僕は柄にもなく「もっと良い思い出を作ってあげたい」と思ってしまったのだ。

 ムシキングを通して得るであろう彼女の思い出はそれはもう極彩色に彩られた最高の代物だろう。そこに正体を隠した僕が介入する余地はない。

 ならば、ムシキングとまったく関わらない所で、せめてその思い出を上乗せしてやろうと思ってしまった。

 ・・・・・・今思えばなにやってんだよ自分、と悶えたくなるが仕方ないだろう。

 

「すげぇっ! すげぇぞっ!」

「タクマさんに勝っただけでも大仕事だっていうのに・・・・・・」

「まさかアキラ君にまで勝つなんてなぁっ!!」

「やっぱりネブ博士が認めた・・・・・・Dr.ネブマスターズは天才だったんだなぁ」

 

 Dr.ネブマスターズ・・・・・・ギャラリーのそんな何気ない言葉に、無意識に拳を握りしめた。

 原作でも彼女は大のムシキング好きであるがその一方で、この手の作品にありがちな、ムシキングで何か重要なことを決めるバトルというのは若干忌避気味であった。

 彼女の周囲の仲間はそれでもと「Dr.ネブマスターズ」の称号を持つ彼女を推して、結局彼女もソレを断らず渋々と引き受ける場面が多かった。

 もしかしたら、その重圧もあっての本音の吐露なのではないかと邪推してしまった僕は、なるべくムシキングが関わらない方針で彼女と接することを決めた。

 いやホントに何やってんだよ僕。

 

 とはいえやってしまった物は仕方ない。

 ともあれ僕の正体が彼女にバレることがないまま、僕はこうしてアキラ君のまま彼女に倒されるという役を全うできたのだ。

 

「さあ皆様、お疲れ様でした。いよいよ・・・・・・表彰式に入ります!!」

 

 しばらく歓声が晴れないまま十数分が経過した後、僕と夢野アイは表彰式に呼び出された。ムシキングのバトル形式以外は、ここまで概ね原作通り。

 あともうひと息だと意気込んで、負けて口が塞がるアキラ君の演技を続ける。

 

「本当だったらこのテックカップに参加してくれたみんなを表彰してあげたい気分なのですが・・・・・・そんな事をしていたら時間がいくらあっても足りないので、準優勝から表彰だ!!」

 

 この戦いにおける準優勝とは即ち、僕ことアキラ君だ。

 だが、僕はこの先の展開を知っている。

 というより、この場合はアキラを演じた僕の自業自得なのだが。

 

「まずは惜しくも決勝で敗れた、ハネダシティの・・・・・・いや、日本の中でもその実力はまさしくトップクラスの・・・・・・アキラ選手です!!」

 

 司会の方が大々的に準優勝者の僕を称える。

 普通ならソレに続いて、ギャラリーも歓声を上げながら僕を称える事だろう。

 惜しくも準優勝。それでもこのハネダシティにおいては2番目に強いムシバトラーである証だ。

 今や2番手どころか3番手に落ちても未だに人気なタクマ君を考えれば、1番から2番に落ちた所で評価が下がる訳ではない。

 

 そう、普通なら。

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 しかし、会場は沈黙。

 誰も歓声すら上げず、白けたような目線が僕に突き刺さる。

 ・・・・・・うん、確かにこれはキツいね。原作のアキラ君の気持ちがちょっとだけ分かったような気もする。

 

「えっ!? み、みなさん・・・・・・準優勝者に盛大な拍手をっ!!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ・・・・・・原作でも思っていたけれど、ここで仕切り直してくれる司会の人は多分いい人だよね。まあその努力も空しく、会場は沈黙する他ない。

 向けられるのは称賛の眼差しではなく、白けたような失望の眼差しだ。

 

 だが、これからだ。

 これからの展開を僕は知っている。

 これまでの振る舞いから、拍手を送られなかったアキラ君であったが、ここでムシキングの開発者の1人であるネブ博士が最初に拍手をしながらアキラ君の前に現れる。

 いいバトルだったと称え、同時にアキラ君にムシバトルの大切さを改めて説く。

 そこにまたかの伝説のムシバトラーことムシキング・ジョニーが続いて登場し、アキラ君を讃えると同時に、「君は既に強さ以外の大切なモノを知っている」と説くのだ。

 

 ・・・・・・だからネブ博士っ!! 早くこの白けた空気を早くし────

 

 

「アキラ君ッ!!」

 

 

 ────ッ!?

 

 いきなり隣から名前を呼ばれて振り向くと、そこには優勝の表彰を待っている筈の夢野アイが僕の元へ走ってきた。

 ・・・・・・あれ、こんなの原作にあったっけ?

 なんでネブ博士が登場する前に主人公がアキラ君に話しかけてるんだッ!?

 

 ・・・・・・なんか奥でネブ博士が「出遅れた」って感じの表情してるし、この展開は誰もが予想外だということを暗に示していた。

 そんな僕の動揺などいざ知らず、この白けた会場の空気すらどうでもいいかのように、夢野アイはもじもじしながら僕に聞いてきた。

 

 

「あの・・・・・・決勝戦前に私が言ったこと、覚えてる?」

「・・・・・・アンタが、決勝前に僕に言ったこと?」

 

 

 素っ気ないように反復しながら、僕は決勝戦前での夢野アイとのやりとりを思い出す。

 概ね原作とおなじやりとりだった。

 僕は夢野アイに対し、「もう僕には強さしかない。全てを手に入れてるお前でも、手に入れられない事があるって事を思い知らせてやる」と原作通りに啖呵を切った。

 原作ではそこでバトルが突入する筈だったのだが。

 

『・・・・・・待ってアキラ君』

『・・・・・・何だ?』

『アキラ君が勝ったのならば、タクマさんに勝ったときと同じように、私に惨めな思いをさせるなり好きにすればいいわ。でも、もし私が勝ったら・・・・・・』

 

1つだけ、私の言う事を聞いて欲しいの

 

 そういえば何か、これまでよりも妙に真剣な表情でそう言われたのを、僕は思い出した。

 突如として飛び出した原作にはないやりとりに、動揺していた僕は、咄嗟に了承してしまっていた。

 『・・・・・・お願い? いいよ。どうせ勝つのは僕だ』とかそんな台詞を言ったような気が・・・・・・気が・・・・・・。

 

 

「おい待てアンタ。今ここでその話をするのか。ここで僕に何をさせる気だ?」

 

 

 ここで過去の過ちを自覚した僕は内心で頭を抱えつつ、夢野アイに問い詰める。

 別にお願いの1つや2つくらい、正体を隠している方の僕ならば引き受けてやれるが、今この場ではそうもいかないだろう。

 しかもこの表彰式の場で、この女は空気を読まずにこの話を持ち出してきた。

 

「今は表彰式だぞ。自分の表彰が待ち遠しいなら、僕が終わるのを待────」

「表彰なんてどうでもいいッ!!」

 

 素っ気なくあしらおうとする僕の台詞に、彼女の張り声が被さる。

 突然の出来事に、僕も、会場も唖然とする他なかった。

 特に1番意味が分からないのはギャラリーの方だっただろう。彼女の友達や仲間達なんかも、何が起きているのは分からないといった感じの表情だ。彼女が、夢野アイがこんな風に声を張る所なんて、彼らは見たことがないのだろう。

 

「・・・・・・どうせ、ここでまた嫌われ者のフリをして。次の日には何でも無いかのように、私の前に現れるんでしょ?」

 

 ドクリ、と心臓が波打った。

 

「皆はあなたのことを心ないムシバトラーだって、リョータくんも、ユーコちゃんも、そう言ってるけど・・・・・・私だけは、知ってるんだからね」

 

 まさか・・・・・・いや、そんなヘマだけはしていないはずだ。

 だって、今までそんな素振りなんてまったくなかった。

 彼女が、夢野アイが、正体を隠していた時の僕の、正体に気付いていたなんて事。

 

 今度こそ、動揺して動けない僕の前に立ち、夢野アイはそっと、僕の被っている帽子を取った。

 

「────あ」

 

 遅れて、ようやく帽子が取られたことに気付いた僕は咄嗟に声を挙げたが、既に遅い。

 正体を隠していた時の僕の────帽子を取ったアキラ君の素顔が顕わになる。

 

「あぁ・・・・・・やっぱり、あなただったんだぁ」

 

 夢野アイは目を潤わせながら、優しい表情でそっと僕の頬を撫でる。

 その手つき、表情はまるで────

 

 

『お、おおっと~っ!? 優勝者のアイ選手、自分の表彰を待たずにまさかの乱入!! アキラ君に・・・・・・その、どんな用事でぇっ!?』

 

 

 いち早く復活したのは司会の方だった。

 だが、それを気にする余裕は僕にはない。

 どんな言い訳をすればいいのか。正体が割れてしまった今、これから帽子を脱いだ僕はどのように彼女に接していけばいいのか。

 もう既に残り少ない彼女の時間の中で、今更どんな思い出を作ってやれるというのか

 その事だけで、頭が一杯だった。

 

「・・・・・・ごめんねみんな」

 

 顔を伏せて、夢野アイはポツリと漏らす。これまで、彼女の思い出を彩ってきた仲間達に向かって。

 

「みんな、アキラ君の鼻を明かしてやりたい一心で、私をここまで連れてきてくれたんだよね。私も意気込んで、アキラ君に勝つって宣言した。

 ────でもね、その理由はみんなとは違うの。もしアキラ君に勝ったら、こうするって最初から決めていたの」

 

「ア、アイさん・・・・・・何を言って・・・・・・?」

 

 ギャラリーの中に紛れていた眼鏡を掛けた男の子・・・・・・リョータ君が言い淀むように声をかけるが、アイはそれに対して見向きもしない。

 

「あ、アンタ、一体何を・・・・・・」

「まだ分からないの? 一応、バトル中でも遠回しにアピール、していたんだよ?」

「バトル、中・・・・・・?」

 

 僕の頬を優しく撫でながら微笑む夢野アイ。

 いつもの天真爛漫な感じとは打って変わってのどこか色気のある雰囲気にドキリとしつつも、僕は必死に思い出す。

 バトル中・・・・・・彼女は僕に何をアピールしていた?

 思い出す要素といえば・・・・・・彼女の出したムシと、その技構成。

 

一匹目:

ムシカード ムシキング

グー    最後の力

チョキ   アイの力

パー    キングトルネードスロー

 

二匹目

ムシカード ギラファノコギリクワガタ

グー    特殊ふうじ

チョキ   アイの力

パー    かいふく

 

 ・・・・・・そういえば、二匹とも挟み技が「アイの力」だった。

 今までの彼女のムシバトル歴を顧みても、夢野アイがこの「アイの力」カードをスキャンした記録は何処にもない。

 つまり、彼女は1度も使ってない筈の技カードをスキャンして、僕との決勝戦に望んだということになる。

 

 最初は、一体何のつもりだと、そう、思っていた。

 

 ・・・・・・けれど、待て、もしかして・・・・・・そういう、ことなのか。

 

 彼女が、夢野アイが、僕とのムシバトルでだけで発した、僕への遠回しのメッセージ。

 

 

「・・・・・・もう、私がここにいられる時間は、少ないから」

 

 ポツリと、俯いたまま彼女は話し出す。

 

「この想いを伝えられるのは、もうこの場しかないって思ったから」

 

 顔を見上げる。

 涙を流し、それでも必死に微笑むひとりの女の子の顔が僕のすぐ目の前にある。

 

「あの時、みっともない弱音を吐いた私を、ありのまま受け止めて、寄り添ってくれたアナタ。ときには私からムシキングを遠ざけながら、ありったけの思い出をくれたアナタ」

 

 アナタは、時折そんな籠に捕らわれた私を外に連れて出してくれる、王子様のような人だったと、夢野アイは言葉を続ける。

 

「どうしてこんな真似をしているの分からない。・・・・・・でも、そんな不器用だけど優しいアナタが・・・・・・大好きです」

 

 そう言って夢野アイは、呆然とする僕の唇に、ゆっくりと自分の唇を合わせた。

 

 

 

 

 

 

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァーーーッ!!!!』

 

 

 

 

 

 僕とアイが唇を合わせてから十数秒後、会場中が興奮の声で溢れかえった。

 

 

 ・・・・・・いやまずいぞこの状況!!

 まず男子共はまるで脳を破壊されたかのように顔面機能が停止しているし、女子共は興奮で止まらない状況で・・・・・・おい、リョータ君の顔がやばいぞ!! 完全に魂が抜けた表情をしている。我に返ったユーコちゃんが慌ててリョータ君の眼鏡を取り上げてるけど、あの様子だともう遅い。

 

 ネブ博士!! あんたまで機能停止すんな!! あんたの弟子だろ、どうにかしろよ!!

 そしてジョニー!! なにニマニマした表情でカメラのシャッター切ってんだッ!! そして他の面子と違って驚いてないってことは僕とアイの関係にも気付いてたってことじゃないか!! あぁ~、過去の自分を殴りたい!!

 

 ブラック博士!! なに「アイ君、いかん、それだけはいかんぞっ!!」って感じの表情してんだ。あんたはそれよりも某ゲームの方なんとかしろよ!!! ムシのグラフィックだけじゃなくてゲーム性にも力入れろ!! 何が悲しくて全合成音声読み上げボイスのやかましいゲームをプレイしなきゃならんのだ!! “オレ”の期待返せっ!!

 

 ちょ、ちょっと待て!! よく見たらオグリもいる!? なんかめっちゃ怖い顔でこっちを睨んでる!? なんでお前がハネダシティにいるんだよ続編までスタンバってろよ!?

 

 

 

 こっちはこっちで逃げられない・・・・・・というか夢野アイ、もといアイちゃんの唇の味が良すぎて離れられん!! 甘い吐息が吹き掛かって意識が朦朧としそうだ。

 

 

 

 

 

(ああクソっ!! ここまで全部うまく行く筈だったのに!! これから続編に出てくるワルキング団にも備えなきゃならんというのに・・・・・・どうしてこうなったんだッ!!?)

 

 

 

 

 

 八方塞がりの状況の中で、そんな僕の長い長い回想が、始まった。

 




噂のカブトクワガタをプレイする。何か違う。何かが違う。全部が違う。
  ↓
衝動的に「グレイテストチャンピオンへの道DS」を引っ張り出してプレイする。神ゲーだわ。
  ↓
女主人公可愛すぎてワロタ。あの笑顔で「ハロー!」は反則すぎるやろ。
  ↓
アイちゃん可愛いヤッター ← 今ここ
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