「GCへの道」のアキラ君になったので、役を演じて無事に終われると思ったら主人公から逆プロポーズを受けた件について   作:ナスの森

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山積みの問題

 

「・・・・・・それで、何か申し聞きはあるのかしら? お・ふ・た・り・さんッ!?」

 

「え、えへへ・・・・・・」

「なんでオレまで・・・・・・」

 

 現在、場所はハネダシティ住宅地にあるユーコちゃんの家。

 原作においては男主人公であるケント、もしくは女主人公ことアイ(名前はあくまでデフォルトネームの1つ)がユーコちゃんからムシキングカードを組み合わせたデッキを()て貰うために訪れる場所である。

 そこにベッドの上で腕を組んで座るユーコちゃんの目先には、床に正座させられている女主人公こと夢野アイと、今世アキラ君ことオレである。

 

「ふーん、“オレ”ねぇ。そっちがアナタの本当の一人称なのかしら? もう私達の前で演技するのはやめたの、アキラ君?」

「・・・・・・演技するも何も、親しい人間の前ではこっちの方だよ」

 

 原作のアキラ君も「GCへの道」での一人称は「ボク」だったが、続編である「GCへの道2」での一人称は「オレ」だった。

 GC2でのアキラ君は2の主人公と友達以上、親友未満というかなり絶妙な説明をされる関係であり、元から近しい人間に対しては普段より崩した態度で接する子だったのかもしれないと、今更ながら思う。

 

「ではまずアイちゃん? あのテックカップでの騒動の後、私が学校でどれだけ大変だったか分かるかしら?」

「え~っと」

 

 アイは頬を指でかき、困ったように笑いながら考える。

 もしこれがゲームだったらテキストの部分に「分からない」「何があったの?」と選択肢が出ている所だろう。

 

「ごめん、休んでたから分からないわ・・・・・・」

「えぇッ!! でしょうねッ!! アンタが来てたらもっと大変なことになってたでしょうしッ!! 休んだのは英断よホントッ!!! 自分がやらかした事に対する自覚があるのだけは不幸中の幸いだわまったくッ!! 本当にッ!!!」

「えっと・・・・・・実はアキラ君から言われて休んだの」

 

 そう言ってアイはさりげなく指をオレの指に絡ませてそう答える。前世童貞に効くからやめろ。頼むからやめてくれカカシ、その指絡ませはオレに効く・・・・・・やめてくれ。

 

「そこッ!! 隙あらばイチャつかないッ!! ・・・・・・まったく、タクマ兄ぃとケイちゃんじゃないんだから・・・・・・」

 

 がっくりと疲れたように肩を落としてため息を吐くユーコちゃん。

 失敬な。あの2人みたいに公衆の面前で堂々と名前を呼び合いながらキスをするような真似なんて・・・・・・いややってたはオレらも。

 それもテックカップ決勝後の表彰式という大舞台で堂々とやらかしてたわ。でもオレからした訳じゃないからノーカンということで。というか一応オレも被害者なんだぞ!?

 まああそこまでしようとするアイの想いに気付いてやれなかった時点で結局オレも大馬鹿野郎だったわけなんだが。

 

「それにしてもアキラ君に言われて、ねぇ・・・・・・」

「・・・・・・なんだよ」

「いえ、気遣いの利く彼氏を持ててアイは幸せねぇ。私だって、私だってねぇ・・・・・・!!」

 

 顔を俯かせながらぷるぷると震え出すユーコちゃん。

 

「あ、これは・・・・・・」

 

 そんなユーコちゃんを見たアイが何かを察したようだ。

 

「私だってねぇ、彼氏の1人くらい欲しいわよ・・・・・・タクマ兄ぃやケイちゃんのラブラブさ加減見るとほんとに。でもね駄目よユーコ、それは駄目なのよ・・・・・・」

 

 自問しだしたユーコちゃんの様子を見て、オレもまたアイ同様に悟る。

 ああ、これはゲームでもよく見たパターンだ。

 

「幾つもの難事件を解決してみせるユーコ刑事。彼女の捜査にはいつも危険が纏わり付いている。そんな私が彼氏なんて持ったら・・・・・・まだ見ぬ彼を危険に巻き込んでしまう可能性だってある・・・・・・!! それは駄目、駄目よユーコ。刑事がそんな弱みを持つことは許されない、持ってもその先に待つのは別れという悲劇だけ・・・・・・!!

 あぁ・・・・・・難事件に立ち向かうユーコ刑事の道のりは果てしなく孤独・・・・・・でも、ソレが凄腕捜査官の宿命・・・・・・受け入れるしかないのね・・・・・・」

 

 目をウルウルとさせながらあらぬ方向を見てブツブツと呟くユーコちゃん。

 ・・・・・・うん、まあ小学生だからね。夢見る女子という年頃だ。

 あれは暫く戻っては来ないなと思い、アイの方を見てみる。

 

「んー?」

 

 こてん、とはにかみながら首を傾げるアイ。

 だから一々動作があざといんだよこの女主人公。子供の頃、最初は男主人公のケントくんの方でプレイしていたからこの子の可愛さに気付くことがなかったが、いざ飽きてこの女主人公に切り替えてプレイした時の衝撃と来たらなんというか・・・・・・。

 

「本当、よくあんな大胆な事をしでかしたよな。もしお前が負けてたら大恥かく所か、オレが知らない内にお前を振ってたって事だろう?」

「・・・・・・普通に言ったって、アナタは信じてくれないって思ったから。でも()()()君がアキラ君だって知ってからは、あのテックカップで想いを打ち明けるんだって決心してたの」

「いつ気付いたんだ? ジョニーほど分かりやすくはなかったと思うんだが」

「・・・・・・え? アキラ君ってジョニーさんの正体知ってるの?」

「知ってる何も、誰がどう見たって・・・・・・いやなんでもない」

 

 そうですかオレの変装はムシキング・ジョニーよりも分かりやすかったと、そう言いたいんですねアイさん? ・・・・・・やばい、ショックで三日間くらい布団の中に引きこもりたい気分になってきた。

 

「んー? どこでって訳じゃないんだけど、強いて言えば最初から、かな・・・・・・」

「なん・・・・・・だと?」

「ヒロシ君って、タクマさんのこと目の仇にしてたじゃない? アキラ君の時だって、タクマさんをいじめたり、拍手を拒んだり甘ちゃんとか言って嫌ってたから・・・・・・もしかしたらって段々思うようになったの」

「・・・・・・ソウデスカ」

 

 なんでそんな陰険野郎を好きになれたんですかねアイさんや。

 今ならまだ間に合うぞ。引っ越し先で別のいい男でも見つけてきたらどうかね?

 

「ヒロシ君とアキラ君・・・・・・どっちが本当のアナタか分からなくって悩んでいた時もあったけれど・・・・・・アキラ君の時は、なんだか少し無理してるなぁって感じがして・・・・・・。ヒロシ君の時はタクマさんへの悪口も冗談気味で自然な感じだったし」

「・・・・・・」

「あぁ、やっぱりアキラ君は、私が大好きなヒロシ君なんだって、そう思うようになったの?」

「・・・・・・ソウデスカ」

「あぁ、でも!! タクマさんとケイさんにはちゃんと謝ってもらうわよ!? 恋人でもそこは許さないから」

「分かった分かった。ちゃんとあの2人にも謝るよ」

 

 ちなみにヒロシの名前は、続編であるGCへの道2の男主人公のデフォルトネームから拝借させてもらった。アキラとヒロシ、どちらもありきたりな名前だから丁度よかったんだ。

 幸い、この世界に()()()()()()()いなかったし。

 

「分かってないよ・・・・・・大好きな人が皆から嫌われているのを見てることしかできなかった私の気持ち、分かる?」

「・・・・・・いいや」

 

 そもそもこっちはバレてるなんて毛ほども思っちゃいなかったから分かるもクソもなかったが。

 ・・・・・・ああでも。そうか、オレがアキラを演じている度に、彼女の心は傷ついてたってわけか。

 それでもそんな酷い男を、アイは好きだと言ってくれたのだ。

 

「・・・・・・なんでアナタがそうしたのか分からないけれど、もう、そんなの見たくないよ・・・・・・」

「だから、表彰式に割り行ってきたのか。あのせいで表彰式が有耶無耶になったけど、肝心の優勝者であるお前の表彰式は執り行われなかったがそこは大丈夫なのか?」

「大丈夫」

 

 そう言うと、アイはポケットのカードケースから一枚のカードを取り出す。

 

「じゃーん!!」

GP(グレイテストプレイヤー)カードか。そういえば表彰前には貰えるんだったな」

「えへへ、そういうこと。もう三枚揃ったしこれで、アキラ君とお揃いね♪」

「・・・・・・そうかい」

 

 だからそのあざとい笑顔をやめろというのが分からんのか。

 こっちは目を逸らして照れ隠しをするのが精一杯だというのに、この子は何の臆面もなくそう言ってくる。

 GPカードが3枚。すなわちムシキングの大会で3回優勝した証だ。

 このGPカード3枚を交換することで、最強のムシバトラーの証であるG(グレイテスト)C(チャンピオン)カードが貰える訳だが。

 現在、ハネダランドでこの称号を持つのは逆転の貴公子ことタクマくんと、オレことアキラ君。アイはまだCPカードを3枚保持しているというだけで、交換はしていないのでGCにはなっていないが、いつでも交換してなれる状態ではある。

 それにしても、グレイテストチャンピオン、か。

 

「いよいよ、お前もGCか」

「うん!」

「ムシバトルにも、恋にも負けず、か。完璧な勝利だな。道理で“ボク”じゃ敵わない訳だよ」

「えへへ・・・・・・」

 

 テックカップでの仕返しにとアイの頬を撫でると、アイははにかみながら頬を撫でるオレの手を掴み、自分から撫でられるように頬を擦り付け始めた。

 ・・・・・・くそッ、細やかな仕返しのつもりなのに、こっちが恥ずかしいだけじゃないか。

 ああでも、この顔を見てると全部許してしまいたくなる。

 つくづく自分はこの夢野アイの虜になってしまっているらしい。

 

「はいそこっ!! イチャつくんじゃないっ!!」

 

「はわわっ、ユーコちゃん!?」

「おっ、やっと戻ってきたか」

 

 アイの頬を撫でていると、横から復活したユーコによる喝が挟まり、中断させる。

 さすが、タクマさんとケイさんで慣れているだけはあって強引に話を進めさせるのがうまいなユーコちゃん。

 

「話を戻すわよ。あのテックカップの後学校で・・・・・・すごい大変だったのよ。男子共は阿鼻叫喚してたし、女子は女子で興奮してたし」

「・・・・・・どういう事?」

「まだ分からないの? そもそもアイちゃん、ムシバトラーとか「Dr.ネブマスターズ」とか以前に男子から人気があったのよ? そんな子がハネダシティで悪名高いアキラ君に、よりにもよってテックカップの表彰式で告白をして、その・・・・・・キスまでして・・・・・・それを見ていた男子達はいったいどんな気持ちかしらねぇ」

「・・・・・・『俺たちのアイちゃんが、悪い男に寝取られた』、か?」

「アキラ君言い方ァッ!! ・・・・・・まぁ、概ねそんな感じ。で、そんな男子共を諫める羽目になった私に対して何か言うことはないのかしら、お・ふ・た・り・さん?」

 

 再び笑顔で圧をかけながらオレとアイにそう問いかけるユーコちゃん。

 どうしよう、この上なく万遍のない笑顔の筈なのにまったく笑っているようには見えない。このユーコちゃんという子はどちらかと言えば周囲の人間を振り回すタイプの人間なのだが、彼女の周囲の人間もまたアレ(主にタクマ君とかケイさんとか)なせいで本人も貧乏くじを引いて振り回されることが多い。本質的にお節介で、自分から損をするタイプの女の子なのだ。

 そんな子に、そこまで苦労させてしまう羽目になったのは、すごく申し訳ないんだが。

 ・・・・・・これ、オレ悪くないよね?

 

「私が以前から人気だっていう部分はよく分からないけれど・・・・・・ごめんなさい、ユーコちゃん。でも私も、これが一世一代のチャンスだったから。残り少ない時間の中での、アキラ君に告白できる大舞台だったから」

「分かってるわよ。事情は聞いてるから。アイちゃん・・・・・・引っ越しするのよね?」

「ッ!? ・・・・・・うん、そうよ。本当は隠したくなんてなかった、ヒロシ・・・・・・アキラ君との関係だってそう。でも、リョータくんやユーコちゃんと別れたくないって気持ちが強くなれば強くなるほど・・・・・・言い出しにくくなってた」

「・・・・・・アイちゃん」

「いいえ、違う。引っ越さなきゃいけないっていう事実に、私が逃げ続けてたの。そんな事をしたって、どうにも、ならないのに・・・・・・」

 

 ポツリ、ポツリ、とアイの手に一滴が零れ落ちる。

 そう、原作のゲームでもそうだったがこのアイことGCへの道の主人公は引っ越し関連の事情を他の人に明かすことは一切なかった。

 引っ越したくない、と家の中で漏らすことはあってもその事情を決して他の人には話さず、実際、GCカード獲得が間に合わずにEDに突入してしまった時は暗くなった画面にナレーターの台詞が入るだけで、彼女自身の心情がプレイヤーに語られることはなかった。これは男主人公であるケントの方も同様だ。

 決して、その心情が軽い筈がない。せっかく、ムシキングを通して最高の思い出を作れたというのに、ソレとの別れは刻一刻と迫ってくる状況だ。

 悲しくない筈がない。寂しくない筈がないのだ。

 

 ・・・・・・尤も、オレはそんな気持ちにさせる気は毛頭ないけどね。

 

「・・・・・・そっかぁ。そうよね、簡単に打ち明けられる筈ないわよね。それだけアイちゃんが私たちを好きでいてくれた証拠だもの。怒れる筈、ないわよね。

 でも、正体を隠していたアキラ君には話したのよね」

「・・・・・・うん。アキラ君・・・・・・いえ、ヒロシ君とは二人きりで遊ぶことが多くて。その多くはムシバトル以外でだった。ヒロシ君の回りには、私の知り合いはいなかったから、簡単に打ち明けられたわ」

「・・・・・・そういう事ね。ようやく合点がいったわ。でも、ちょっと、悔しい、わね・・・・・・」

 

「・・・・・・ユーコちゃん?」

 

 顔を俯かせ、声が途切れ途切れになっていくユーコ。

 そんなユーコにアイが訝しげに声を掛ける。

 

「なんで、私やリョータくんじゃなくて・・・・・・アキラ君なの? 例え演技だったとしても・・・・・・何でよりにもよって・・・・・・タクマ兄ぃを傷つけて、ケイを悲しませたアキラ君なの!? どうして・・・・・・親友の、私達じゃ、なかったの・・・・・・」

「────あ」

 

 手を伸ばすアイだったが、寸での所でオレは制止する。

 体を震わせ、声は途切れ途切れ。

 今度は、ユーコちゃんが泣いていた。

 原作では、タケルくんにひっぱたかれても強気な態度を崩さなかったユーコちゃん、泣いていた。

 

「ヒトミちゃんや、ノボルくんなら、まだ分かるわよ? でもなんでよりにもよって、私達の敵だった貴方なのッ!? 私達の知らない所で、アイちゃんの心を開かせ、アイちゃんの弱音を引き出した相手が、どうして貴方なのッ!?

 ・・・・・・アイちゃん、どうして、私達じゃなかったの・・・・・・? 私、悔しい、悔しいよぉ・・・・・・」

「ッ、ごめん、ユーコ、ちゃん・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさいッ・・・・・・」

 

 釣られて、アイも泣き出す。

 

「謝らないでよ!!」

「ッ!?」

 

 大声を上げるユーコに、アイは驚いて顔を見上げる。

 

「1番・・・・・・1番悲しいのはアナタたちじゃない。

 せっかく・・・・・・アイちゃんが勇気を出して・・・・・・アキラ君にムシバトルに勝って、想いを伝えられたっていうのに・・・・・・もうすぐ、別れなきゃいけないんでしょう?

 アイちゃん・・・・・・すっごく、頑張ったじゃない。もうすぐGCになれた、恋も成就させたのに・・・・・・こんな事って・・・・・・」

 

「────別に、そんなのはオレには関係ない」

 

 見当違いの悲しみを抱いているユーコに、オレは構わず口を挟んだ。

 

「・・・・・・え、」

「・・・・・・なんですって?」

 

 二人は即座に泣き止み、オレの方を向く。

 アイの瞳は不安に揺れ、ユーコちゃんの瞳には怒りのようなモノが渦巻いている。

 

「アイが何処に行ってしまおうが、オレには関係ないと言ってるんだ」

 

 この際だから言い切ってしまう。

 アイが何処に行ってしまおうが、オレには何の問題もないのだ。

 確かに他に対処すべき案件は残されている。特にワルキング団関連はそう。

 それでも、だからといってオレは手放す気などない。

 

「え・・・・・・ぁ、アキラ、君・・・・・・そんな・・・・・・」

「アンタッ・・・・・・アイちゃんがどれだけ・・・・・・ッ!!」

 

 アイの瞳には絶望が溢れ、ユーコちゃんは表情をみるみる憤怒に染めていく。

 いや、なんでそんな表情をするか皆目不明なんだが?

 

「アイが何処に行ってしまおうが、オレから逢いに行けばいいだけだ」

 

「・・・・・・え?」

「アキラ、君?」

 

 オレの一言に、呆然とするアイとユーコちゃん。

 だから言ってるじゃん。

 

「アイが何処かに行ってしまう程度で、オレはアイを手放す気はないと言っているんだ。

 そもそも、オレはGCになってからハネダシティの外の町にも頻繁に招待されてるしな。今更1人で遠出するくらい造作もない。

 例えアイが何処に行ってしまったとしても、オレはお前に逢いに行くよ」

 

 だから、そんな心配は最初(ハナ)から無用なんだよ。

 もうオレは、『アイの力』と一緒なんだ。

 アイの力をスキャンされた甲虫(ムシ)はメスを呼び出している間は攻撃力が上がるがその反面、メスが飛び去ってしまうとやる気がなくなり攻撃力が下がってしまう。

 オレはもう、これから先、傍にアイがいない人生なんて想像ができないのだ。

 アイというメスが飛び去ってしまうのならば、オスのオレはソレを手放さないと追いかけるだろう。

 そして、また一緒になる。

 

「アンタが心配する事は何1つない、ユーコちゃ────」

「アキラ君ッ!!」

 

 オレが台詞を言い終わる前に、アイがオレに飛びついてきた。

 ちょっ、おまッ、オレの服で涙を拭くなッ!! 汚れるだろうがッ!! いや、アイに汚い所なんてないんだけどさ。

 

「もう・・・・・・馬鹿・・・・・・ばかぁ・・・・・・ふ、ふえぇぇえんッ!!」

「ああ、うん、回りくどい言い方して悪かった。だからもう泣くなよ、な?」

「・・・・・・ヒック、ぐすん、埋め合わせ、して」

「・・・・・・またシーサイドパークか? それともダイバシティ?」

「・・・・・・シーサイドパークで」

「好きだねぇ。またカブトムシ採るか」

「・・・・・・うん。ムシバトルもする・・・・・・」

「誉れを捨てた技構成にするけど、いいか?」

「・・・・・・うん、私のムシキングで返り討ちにしてやるもん・・・・・・」

「ならジョーにだけ会わないようにしないとな。今のオレ達を見たらあの似非外国人、嫉妬で狂いそうだ」

「えへへ・・・・・・そうだね」

 

 ほっ、なんとか泣き止んでくれた。

 やっぱりこの子は笑顔が1番似合うのだ。

 はにかむアイの頭を撫でながらそう考えていたその時、ユーコちゃんはというと。

 

 

「ウ、ウフフッ、アハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 さっきまでが噓であるかのように、腹を抱えて笑い出した。

 楽しそうに、でもどこか寂しさを含んだ笑いだった。

 

「泣いたり怒ったり笑ったり忙しい女だなお前」

「うっさいッ!! ・・・・・・あぁ、うん、よく分かったわ。私達が敵うわけないってことが。アンタみたいな男にそこまで言わせるなんて・・・・・・アイちゃん、ほんとあんたって子は本当にもう・・・・・・」

 

 優しい顔で、ユーコちゃんはオレに抱きつくアイを見つめる。

 よく分からんが、ユーコちゃんなりに気持ちにケジメは付けた様子だった。よかったよかった。

 

「まあ心配するなよ。アンタが担当する案件(ヤマ)はここにないさ、ユーコ刑事?」

「ッ・・・・・・あぁ、ほんっと。嫌な奴だって思ってたのに・・・・・・実は素っ気ないように見えて気が利いて、粋な台詞を吐けて、しかもこっちに合わせてくれるくらい、実はノリがよくて・・・・・・アイちゃんが惚れる理由が分かっちゃったじゃない。

 クラスの女子が興奮してた理由も」

「・・・・・・そういえば、ソレについては聞いてなかったな」

 

 男子共が阿鼻叫喚していて理由がアイだってことはよく分かったが。

 女子達が興奮していた理由が気になったオレは、ユーコちゃんに聞いてみることにした。

 

「帽子を取ったアンタ、タクマ兄ぃとはまた違ったイケメンだったから。ハネダシティで悪名高いムシバトラーとしてのアナタとのギャップにやられた子が多いのよ。

 ・・・・・・ま、ハネダシティを二分する二大ムシバトラーがくっつくんだもの、少なくとも文句を言える人間はいないでしょうから、そこは安心ね」

 

 諫めるのも男子たちほど手間が掛からなかったし、と付け加えるユーコちゃん。

 ・・・・・・まあ、原作では帽子なんて取ったことがないアキラ君だったが、取ってみると以外と顔がいいなとは自分でも鏡を見て思ってた。

 さすがに女子が騒ぐ程だとは思わなかったが。

 

「あーあ、私もタクマ兄ぃを諦めるべきじゃなかったのかなぁ。アンタやタクマ兄ぃみたいな男、他にいないでしょうし・・・・・・。でも、ケイやあいちゃんに敵う自信だってないし・・・・・・」

 

 ユーコちゃんも魅力的だと思うぞ、とは口に出さない。

 恋人の前で他の女の事を褒めるのは厳禁、これは鉄則。まあ時と場合によるが、少なくともオレがこんな事を言ったところでユーコちゃんにとっては慰めにもならないだろうし。

 

「ユーコちゃんも、きっといい人が見つかるよ」

 

 オレの胸から離れたアイが幸せそうに笑いながらそう言う。

 

「心許ないフォローありがとアイちゃん。でも・・・・・・今の幸せそうなあんたがそう言うのなら、そうなのかもね」

 

 事実、騒いでいた男子や女子を諫めてまとめてみせたのは、紛れもなくユーコちゃんのリーダーシップと人望による賜物だ。

 そんなユーコちゃんの魅力に気付いてくれる男はきっといる事だろう。

 

「まあ、概ね問題が解決してよかったわ。残る問題は・・・・・・1つね」

「・・・・・・? 他に何かあるのか」

「あるのよ・・・・・・残り1つ大きな問題が」

 

 がっくりとまた肩を落としながら、ユーコちゃんは怠そうに呟く。

 残り1つの問題が分からず、オレとアイは顔を見合わせて一緒に首を傾げる。

 はて、他に何かあっただろうかと頭を悩ませ。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・あ。

 

 

 そういえば、もう1人いるじゃん。

 この騒動に、1番納得していないであろう男の子が。

 

「もしかして、リョータ君か?」

「・・・・・・そうよ。これだけアイが好きな貴方なら・・・・・・分かるでしょ?」

 

 ・・・・・・あぁ。そうだね。

 アイの魅力はオレが1番よく分かっている。

 その魅力を、普段からオレよりアイと一緒にいたあの男の子が、アイの魅力に気付いていない筈がない。

 男でも女でも主人公を選べる都合上、原作ではそのような描写はなかったが。

 リアルなこの世界じゃ話は違ってくる。

 

 項垂れるユーコちゃんや察して天井を見上げるオレに対して、アイは未だに首を傾げたままである。

 

「・・・・・・えっと、ユーコちゃん。リョータ君がどうかしたの?」

「ハァ・・・・・・あそこまでされるまでアイの好意に気付かなかったアキラ君もそうだけれど、アイちゃんも人の事言えないくらいニブチンよね・・・・・・」

「に、ニブッ!?」

 

 がーん、といった感じにアイは項垂れ、やがてうーんと心当たりがないか考え始めた。というか何気にオレまでディスられたんだがユーコちゃん。まあ事実なんで否定はしないが。

 まあ、アイは気付かなくていい問題であることは確かだ。

 ユーコちゃんも先ほど自分の気持ちに整理を付けたようだし後は、リョータ君自身の気持ちの問題だ。

 

「リョータ君は今どうしているんだ?」

「ずっと家で塞ぎっぱなしよ。電話して学校に来いって言っても「・・・・・・いいよ別に」の一言だけ。まったく参っちゃうわ、とほほ。

 これじゃあ4人でネブ博士の所に行って、アイちゃんのGPカードの交換もできないじゃない。

 せめてアイちゃんの引っ越しまでに立ち直って貰わないと困るのに」

 

 ハァ~、と再度ため息を吐くユーコちゃん。

 あぁ、本当にいい子なんだなとオレは思った。

 他人のためにそこまで悩み、力になろうとし、解決しようとするユーコちゃんは本当にいい女だと。アイというモノがいながら、オレはそう思ってしまった。しかも、アイのGPカード交換の立ち会いに、何気にオレを人数に含めてくれるという粋の良さ。もしこの子が男でオレが女だったら、多分オレはユーコちゃんに惚れてたと思う。

 同時にリョータ君に怒りも湧いてきた。

 彼が塞ぎ込んでいる理由の大半はオレにある。だからオレが怒る資格など本来はないのだろう。

 でもこんないい女が君のために悩んでいるのに、君は電話に応じるなりその一言だけか。

 

「分かるわよ。リョータ君にとって・・・・・・というより、私達にとってアナタは打ち倒すべき天敵だった。その中でもリョータ君はタクマ兄ぃの大のファンだった。そして、最初はムシキングを教える友達で、自分よりも初心者だったアイちゃんはどんどん強くなって、やがてタクマ兄ぃと負けないくらい、リョータ君にとってアイちゃんは憧れの存在になっていったわ。・・・・・・それ以外にも、別の想いがあったのでしょうけれど、そこは置いておきましょう。

 そしてアナタは、リョータの憧れであるタクマ兄ぃを傷つけた。それだけならまだよかったけれど・・・・・・今度はもう1人の憧れであるアイちゃんが憎い筈のアナタと恋人になってたなんて・・・・・・どう感情に整理を付けていいか分からないでしょうね」

 

 ・・・・・・自分が原因であることは百も承知だったが。

 こうしてユーコちゃんの言う通り言葉にしてみると、確かにこれはひどい。

 思春期の男の子の脳を破壊するには十分過ぎるくらいの威力を持つ出来事ではないか。さしものこれは原作のアキラ君といえど笑えないだろう。

 

「・・・・・・まあ、リョータ君のフォローはこっちがするわ。アナタは少しでもアイちゃんと一緒にいてあげなさい。いくら遠くまで逢いにいくって言ったって、一緒にいられる時間が少なくなるのは変わらないんだからね」

「待てよ。さすがにこれ以上あんたに貧乏くじを引かせる訳には────」

「じゃあ誰がリョータ君を立ち直らせるっていうの? まさか、アナタが、なんて言わないわよね?」

「・・・・・・そうだな、オレが行っても嫌がらせにしかならないな。でも、だからと言ってアンタ1人に────」

「いいのよ。こんなの慣れっこだから。さあ2人とも行った行った。シーサイドパークに行くんでしょう? 海の公園なんて、デートには最高の場所じゃない。

 じゃあ2人とも、お幸せにね」

 

 いい笑顔でそう言ったきり、ユーコちゃんはオレとアイを部屋から追い出してしまった。

 

「リョータ君、大丈夫かな・・・・・・」

「・・・・・・心配なら行ってみるのもアリだが、まあ原因であるオレとアイが行っても馬の耳に念仏だろう・・・・・・ごめん、意味は分かるか?」

「何を言っても無駄、聞き入れて貰えないって意味だよね。リョータ君が教えてくれたわ」

「・・・・・・そうか。いっぱい教えてくれる、いい友達なんだな」

「えぇ! でも今は、ユーコちゃんに任せるしかないのよね……」

「そうだな。大丈夫、きっと立ち直ってくれるさ」

 

 アイを抱き寄せながら、オレ達はリョータ君の家の方角を見やる。

 オレ達が目の前にいるユーコちゃんの家、次点でアイが住む夢野家、さらにその道を進んだ方角にリョータ君はいる。

 

 原因であるオレが言うのは筋違いなのは分かっている。

 それでも、どうにかアイやユーコちゃんのためにも、リョータ君には立ち直って欲しかった。

 

 

     ◇

 

 

「・・・・・・ハァ、行ったわね」

 

 自室のベッドに座り込み、ため息を吐くユーコ。

 熊のぬいぐるみを抱きしめながら、彼女はベッドに横たわる。

 大体の事は解決できた。

 アイとアキラの関係に物申す輩は一定数出てくるだろうが、さっきも言った通りこのハネダシティを二分する2人のムシバトラー同士のカップルだ。カップルとしてネームバリューでは最早、タクマとケイですら霞む程だろう。口に出せる奴は余程の馬鹿か、命知らずかだ。

 

「バカリョータ。早く立ち直りなさいよ。気持ちは分かるわ。私だって、同じだった」

 

 あれがタクマ兄ぃとケイならまだ話は別だった。

 ユーコ自身何度も遭遇して慣れていたので、彼らがする前の予備動作もユーコは熟知していた。

 だからこそ、リョータがソレを見る前に眼鏡を取り上げるのが間に合っていた。

 

 

 でも、今回は間に合わなかった。

 まさか、アイがあのアキラにするとは、夢にも思わなかった。

 そのおかげでユーコ自身も目の前の光景を受け入れることができず、行動が遅れ、リョータもまたソレを目撃してしまった。

 

 自分が想いを抱き、同時に憧れでもあった女の子が、憎き天敵である筈の男の子に唇を重ねる瞬間を、目撃してしまった。

 気持ちは、痛いほど分かる。耐性があった筈の自分もしばらく動けなかった程なのだから。

 

 ユーコは最初、アキラへの憎しみでいっぱいだった。

 今日呼んだのも、親友であるアイをどんな非道な手で誑かしたのだと問い詰めるためであった。

 でも、蓋を開けてみればアキラは、ちょっと憎まれ口を叩くけれど、アイが惚れるのも仕方のないくらいのいい奴だった。

 ユーコの苦労に理解を示し、自分も何か力になれないかと聞いてくれるくらいの男の子だった。

 

 これ以上ないくらい、アイとお似合いの男の子だったのだ。

 

 

「ほんっっと、アイちゃんが羨ましいわ」

 

 

 憎い男の筈だったのに。今ではその憎い男と恋人になった親友を羨んでしまうくらいには、今日の邂逅でユーコはアキラに対して心を許してしまった。

 これ以上、あの男の子と一緒にいては駄目だと思った。

 親友から、奪ってしまいたい衝動に駆られそうになったが、ユーコの理性はそれを押しとどめた。

 ユーコは誘惑に打ち勝ったのである。

 

 

「だからバカリョータ。後はアンタだけよ」

 

 

 呟きながら、腕を顔を乗せる。

 とにかく自分は自分でできる事をしなくてはならない。

 親友が幸せになれるために、私達に溢れんばかりに輝きを見せてくれたアイに、自分もまた応えなくてはならない。

 そのためにもできる限りリョータに声を掛けるつもりだったが、結局の所立ち直るかどうかはリョータの気持ちの問題。

 もし、アイの引っ越しまで間に合わないというのであればその時は・・・・・・3人でネブ博士のところに行くしかない。

 それはそれで、まあいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「あともう1つ────問題があるわね。私の思い過ごしならいいんだけど」

 

 

 

 

 

 ユーコは思い出す。

 あのテックカップの騒動が終わった後の出来事。

 未だ阿鼻叫喚の空気が続く中で

 

 

 

 

 

 木陰でメソメソと泣いている赤いスカーフの女の子と、山の方角へ黄昏れている赤い帽子の女の子がいたことに。

 

 

 

 

 

 そのお節介な性格故、嫌でも周囲の光景に気を配れてしまうユーコは、その2つの人陰を目撃してしまっていた。

 

 

 

 

 

 もし自分の予感が正しければこの問題は最早────自分の手では負えない事態になる。

 幸い、アキラがアイ一筋であることは今日確認できたので、最悪の事態だけは避けられるだろう。

 それでも自分の手に負えないような気がして、言うのが憚れて、アキラに言い出すことができなかった。というより、言い出すのが怖かった。

 

 

 

 

「あぁもう・・・・・・タクマ兄ぃといい、アキラ君といい、アイちゃんといい・・・・・・G(グレイテスト)C(チャンピオン)になる人間ってなんでみんなこう、質の悪い人誑かしばかりなのよおおおぉぉぉッ!!!」

 

 

 

 

 最後にそんな絶叫を上げながら、ユーコは眠りに着いた。

 




原作でもそうじゃないかなって思ってたけれど、改めて書いてみると身に染みるよユーコちゃんの苦労人体質・・・・・・。

あ、ちなみにゲーム「GCへの道」で見覚えのないキャラや地名が出たときは、基本的に「GCへの道2」で登場するキャラや地名となります。
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