「GCへの道」のアキラ君になったので、役を演じて無事に終われると思ったら主人公から逆プロポーズを受けた件について   作:ナスの森

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塞ぎ込む者 前

 

 積み重ねた思い出が瞬く間に崩れる感覚というモノを、君は体験したことがあるだろうか。

 憧れだった存在が穢されてしまうその瞬間を、君は目撃したことがあるだろうか。

 今まで見慣れていた筈の存在がキレイになって気になり始めるも、時は既に遅かったという、喪失感を君は味わったことがあるだろうか。

 

『アイさん!! 今度一緒に面白いゲームをやろうよ!!』

 

 全ては自分のこの一言から始まった。

 ふとした事から仲良くなった転入生の女の子。

 笑顔が可愛らしくて、目立ちはしないけど、密かにクラスの人気者にもなっていた女の子だ。

 近付いたのも、そういった下心がなかったのかと聞かれれば、おそらく否定はできないだろう。

 女の子の名前は、夢野アイといった。

 勉強好きで物知りの自覚があった自分は、この女の子に色々な事を教えたいと思った。

 

『うわっ、本当!? それってどんなゲームなの?』

 

 両手を合わせて歓びながら、夢野アイ────いや、アイさんはそんな素敵な笑顔でボクに聞いてきた。

 まだどんなゲームかも説明していないのにこの期待に満ちた歓びように、ボクもまたソレに応えたいと、そのゲームの説明をした。

 

『どんなって・・・・・・そうだなあ、カードのムシが出てくるゲームでね』

『ムシ? カード?』

『そう。カードのカブトムシとかクワガタに技を覚えさせてバトルするんだ!』

 

 そのゲームの名前は・・・・・・『甲虫王者ムシキング』。

 おそらく、このハネダシティに住む子供達ならばその名を知らぬ者はいないだろう。

 ゲームセンターに置かれている筐体に自分のムシカード・ワザカードをスキャンし、技を覚えさせた甲虫を戦わせる。

 また、このハネダシティでは最先端の立体映像技術を駆使して、筐体を通してではなく、巨大なスタジアム広場で、広大なフィールドの中で巨大化させた自分の甲虫を立体映像化させて戦わせることができる。

 この立体スタジアムはハネダシティにおいては各ゲームセンターに必ず一カ所は設置されており、公式大会などではこの立体映像技術を仕込んだ広大なフィールドで、大勢のギャラリーに囲まれながらプレイヤーは互いのムシを戦わせることになる。

 また、立体映像スタジアムを使用せずとも、筐体に設置されたVRゴーグルを嵌めることで、あたかもその気分を体験することも可能なのだ。

 

 この立体映像やVRなど最先端技術を利用して行われるムシバトルにより、このハネダシティはムシキングの熱狂で染まり切ったのである。

 ハネダシティに来たばかりのアイさんにはムシキングのことは知らないだろうと思い、さっそく教えようと思ったのだが・・・・・・意外なことに、アイさんは既に『甲虫王者ムシキング』の名前を知っていたのだ。

 

『じ、実はこんなことがあって・・・・・・』

 

 そう言って、アイさんが取り出したカードにボクは驚愕するしかなかった。

 ムシキングを象徴するグーチョキパーの三すくみのマーク。その背後にある真っ白な背景。

 三すくみマークの下にはこう記されていた。

 Dr.ネブマスターズ、と。

 

『こ、これは・・・・・・! あの幻の・・・・・・!!  Dr.ネブマスターズカードッ!!?』

『どくたーねぶますたーずかーど・・・・・・?』

 

 キョトンとしたアイさんは驚くボクの言葉をぎこちなく反唱する。

 このカードを持つことの凄さを理解していないアイさんに呆れつつも、ボクはこのカードがどういう代物であるかを説明した。

 

「これはネブ博士に認められた者だけが持てる(まぼろし)のカードだよ!! こんな所で本物を見られるなんて大感激だよ!」

 

 ネブ博士は、今やその名前を知らぬ者はいない。ムシキング研究チームのリーダーでありそして、ムシキングを作った偉大な人でもあった。

 その偉大な人から認められた証であるマスターズカードを、目の前の女の子が持っている事実が、ボクは信じられなかった。

 それをアイさんに聞いてみると、アイさんは気まずそうに目を逸らしながら話し始めた。

 ここ────ボクの家に来る前に起きた出来事を。アイさんが道ばたを走っていた時にぶつかった白衣の人。アイさんからその特徴を聞いてみる限り・・・・・・明らかにその人はネブ博士じゃないか!

 アイさんの話を聞く限り、アイさんがそのカードを持ってるのは偶然ネブ博士とぶつかった拍子に、ネブ博士が持っていたカードがアイさんのポケットに入ってしまったのだろうと思ったボクは、アイさんにそのカードはネブ博士に返した方がいいと提案した。

 アイさんもその方がいいと思ったのか、ボクと一緒にネブ博士のいるムシキング研究所へと向かった。

 

 だが、そこで衝撃の事実が明かされたのだ。

 

『うーん、変だなぁ。あの時このカードは持っていなかったのに・・・・・・』

 

 何と、ネブ博士はアイさんとぶつかったときにこのDr.ネブマスターズカードを持っていなかったんだ。

 ・・・・・・じゃあ、このマスターズカードは一体いつ、アイさんのポケットに入ったっていうんだ?

 

『うーむ・・・・・・よし、決めたぞ! ちょっとそのカードをボクに貸してくれるかい?』

 

 そんなボクやアイさんの驚愕を尻目に、ネブ博士はアイさんにそう言った。

 「返してくれるかい?」ではなく、「貸してくれるかい?」という言葉からして、ネブ博士がアイさんからマスターズカードを受け取る気は既になかったことは、今にして思えば明白だった。

 ネブ博士はアイさんから受け取ったカードを端末に差し込み、差し込んだ端末を弄って何かを入力しているようだった。

 

「うん、データのセットが完了したぞ。アイさん、今日からこのカードは君の物だ!!」

 

 そう言ってネブ博士はアイさんにマスターズカードを手渡したのだ。

 アイさんを自分が認めたDr.ネブマスターズカードの正式な所有者と、そうみなしたのだった。

 ボクは信じられない気持ちでいっぱいだった。

 その時のアイさんはムシキングをまだ1度もやったことがない初心者で、ワザカードとムシカードを組み合わせるという触りの部分でしかボクがまだ教えていない状況だった。

 にも関わらず、みんなが尊敬するネブ博士はアイさんを、自分の弟子に相応しいと認めたのだ。

 

 何もかもが信じられない、そんな始まりだったけれど。

 とにかく、アイさんの輝きはそこから始まった。

 

 

 それからアイさんは、そんなボクの疑いを悉く打ち破るかの如く、Dr.ネブマスターズとしての輝きをボクに見せてくれた。

 

 

 まず最初に、カードを1枚も持っていない状態から、MAXカスタマイズの大型甲虫を操る悪名高いブラック博士を下した。

 いや、正確にはブラック博士がバトルコインを差し込んで出てきた「ムシキング」のカード。そのカードをブラック博士は「ふん、弱っちい日本のカブトムシなんぞいらんぞい」と、アイさんの方へ放り捨てるよう渡したのだ。

 ボクはブラック博士のその発言に腹が立った。ムシキングの名の通り、強さ160のそのカブトムシは、まさしく甲虫王者ムシキングの顔と言うべき甲虫だ。

 森の妖精ポポの危機を何度も救い、アダーの操る甲虫から森を守り続けてきた、まさしく森の守護者。

 そのムシキングを、さもゴミを押しつけるかのようにアイさんに押しつけるなんて・・・・・・どうしてだ、だって本当に、最初にムシキングを作ったのはネブ博士じゃなくて・・・・・・アナタだった筈なのに。

 そんな悲しい思いに浸っていたボクの気持ちを尻目に、アイさんは何も分からないといた感じにムシキングのカードを筐体にスキャンした。

 ・・・・・・同時に、立体映像による広大なフィールドが僕たちの前に広がり、2人の出したムシは互いに激突し合った。

 

 そこでボクは、アイさんの最初の輝きを見た。

 ブラック博士が繰り出してきた「アクティオンゾウカブト」そして「ギラファノコギリクワガタ」。どちらも強さ200を誇る最高レアの甲虫だ。そこに相性◎のワザをフルに組み込んだMAXカスタマイズ。

 余計な特殊ワザすら挟まない、純粋な体力と強さ、暴力を体現したかのような甲虫たちの猛攻。

 そんな甲虫たちを相手にしてアイさんは、たった一匹の「ムシキング」だけで、ブラック博士の二匹の最高レアのムシを倒してしまったのだ。

 

 森の守護者であるムシを操り、二匹の巨大な外国の甲虫を蹴散らすその様に────ボクはアイさんもまた森の守護者か何かなんじゃないかと錯覚してしまうくらい、華麗に倒してしまったのだ。

 

 これが、始まり。

 アイさんの伝説の、その1ページ目が刻まれた瞬間だ。

 

 それからも、アイさんの進撃は止まらなかった。

 ナオくん、デンスケくん、そして過去の大会の優勝者であるヨシノブくん。特にヨシノブくんは究極必殺技を組み込んだ小型甲虫を使う強敵である筈なのに、アイさんは「ムシキング」と共に全てを蹴散らしていった。

 ニシヤマ店長がブラック博士との勝負に負けてサカエヤの大会が中止になってしまった後も、その後ボクたちの輪に加わったユーコちゃんとのムシバトルでも難なく勝利してみせた。

 ブラック博士に騙されたムシ王やクワ王とのバトルだって、アイさんの「ムシキング」は負ける事を知らなかった! その後のブラック博士との、再戦だって同じだ。

 

 この時から、ボクはアイさんこそがDr.ネブマスターズであることに、何の疑いも抱かなくなった。

 いつしかアイさんは、ボクが憧れるタクマさんと同じくらいに、憧れの存在となっていった。

 

 その時だった。

 ・・・・・・アイツが、現れたのは。

 

『いいよ、本気だして』

 

 場所はハネダランド。

 ボクの憧れだったタクマさんがムシキング教室を開くイベントが開催されていて、ボクたち3人はタクマさんが初心者たちやムシキングをまだ知らない子供たちにムシキングを教える所を見守っていた所だった。

 いよいよタクマさんが教えるムシキングの生徒が最後の1人になったとき、その最後の1人として現れたソイツは、タクマさんにそう宣った。

 

『これは教室なんだろ? だったら教えてくれよ、GCの本当の強さってのをね』

 

 動揺するタクマさんに対し、ソイツは不敵に笑いながら、タクマさんを挑発するかのようにそう言い放った。

 タクマさんも、ソイツが────アキラ君がただ者でないことを感じ取ったのだろうか、暫しの沈黙の後に。

 

『・・・・・・じゃあ、ちょっと本気を出させて貰うよっ』

 

 そうして、タクマさんとソイツのムシバトルは始まった。

 互いに譲らない攻防・・・・・・そう表現したい所だが、正直に言ってしまえばペースは明らかにアキラ君の方が終始握っていた。

 的確な読みと、嫌らしい特殊ワザの組み合わせ。

 好きなムシで、好きなワザで楽しく戦っていくスタイルではなく、ただ勝ちに行くためだけのスタイル。

 互いに二匹目のムシまで出した中で、必殺封じで必殺ワザが封じられ、さらにあいこやぶりによりあいこですら勝負が決してしまうような状況にまで、タクマさんはとうとう追い詰めれてしまった。

 

 でも、やっぱりタクマさんは、ボクの憧れるタクマさんだった。

 あいこで確実に勝利を勝ち取るのではなく、あくまでじゃんけんに勝つことに拘ったのか、その欲の隙を、タクマさんは見逃さなかったんだ。

 

 勝負は、タクマさんの勝ち。

 なのに、ソイツは、ソイツはッ────。

 

『何だ、GCといっても所詮その程度なのか・・・・・・』

 

 なんだよ、勝負はタクマさんの勝ちだったじゃないか!

 負け惜しみを言ったって、君の負けに変わりはないじゃないか!

 

『なぜボクに勝てたのか分かっていない』

『そ、それは・・・・・・君に油断があったから・・・・・・』

『ほら、まるで分かってない。こんな人がトップに立ってるんなら・・・・・・』

 

 アキラくんは不敵に笑いながら、その台詞の続きを言わずに。

 

『・・・・・・ふっ、次の大会が楽しみですよ、()()()()()?』

 

 余裕ぶった笑みで、慇懃無礼な態度を崩さぬまま、そんな捨て台詞を吐いてソイツは去って行った。

 ギャラリーは勝ったタクマさんを称賛して詰め寄ってたけど・・・・・・タクマさんは何処か思い詰めたような顔をしていた。

 

 そしてまた一週間後。

 

『ふふっ、今日も思いっきりムシキングやっちゃうんだから~~♪』

 

 皆の心を洗ってくれるような、そんな笑顔で、アイさんはハネダランドのゲームコーナーへ走って行く。

 この頃には、ボクはもうすっかりこの笑顔の虜になっていたのかもしれない。ボクが教えたムシキングで、憧れの女の子がこんな綺麗に、無邪気に笑いながら楽しんでくれる。

 それを見るだけで、ボクは幸せだった。

 その日いつも通りアイちゃんとボクとユーコちゃん・・・・・・そして、タクマさんの恋人であるケイさんもそこに来ていた。

 そこでケイさんはボクたちに不安を漏らした。タクマさんが最近、ケイさんと一緒にいる時間を減らして、ムシキングの特訓に明け暮れていること。

 そして、近いうちにテックアリーナで公式大会があること。その大会にタクマさんが出場すること。そして・・・・・・その大会にあのアキラ君が出るということも。

 「ぜったいにアキラ君に勝つ!」とタクマさんは鬼気迫った様子で特訓に取り組んでいるらしく、ケイさんはそんなタクマさんが怖くなったらしい。

 ケイさんは、タクマさんがアキラくんに負けてしまうのでは無いかと、そんな不安も口にした。

 だから、ボクはそんなケイさんを慰めるようにこう言った。

 

『大丈夫ですよ、ええっと、ケイさん。

 タクマさん強いもん。今までどんな大会に出てもほとんど負けてないって聞いてるし。今回はちょっと本気なだけです、その分あっさり勝ちますよ。

 そしたら、またすぐいつものタクマさんが戻ってきます。

 

 アイさんも、そう思うよね?』

 

 そう言ってケイさんを元気づけようとしたボクは、アイさんにも同意を求めた。

 ムシキングが大好きで優しいアイさんなら、きっとボクの言う事にも賛同してくれると。

 

『えっ・・・・・・えぇ、勿論そう思うわ!!』

 

 最初、僅かに言い淀みつつも、アイさんはすぐにボクの言うことに同意してくれた。

 そしたらケイさんも笑顔になって、「ふふっ、Dr.ネブマスターズさんにそう言われると、心強いわね」と言ってくれた。

 アイさんの同意により場の空気も和んだと思ったその時。

 

『ふふっ、ボクも嫌われたもんだね』

 

 ソイツは、また来た。

 ボクが、アイさんが、ユーコちゃんが、ケイちゃんが、全員が身構えた。

 ソイツの登場に。

 

『べ、別に嫌ってなんかないさ! だけどタクマさんは強いんだ! そう簡単に勝てる相手じゃないよ』

『・・・・・・君たちにはそう見えるかもしれないね。でもボクにとっては()()()()()も君たちとあんまり変わらない、普通のムシバトラーさ』

 

 僕たちは、アキラくんのその一言が本当に信じられなかった。

 ・・・・・・さりげなく、“さん”ではなく“くん”呼びしていたのもボクは忘れてないからな?

 

『なっ・・・・・・あんた何言って・・・・・・』

 

 ユーコちゃんが信じられないように狼狽える。

 

『ちょっと・・・・・・タクマをバカにするのもいい加減にしなさいよ。何だったら・・・・・・今ここで、私が相手をしてあげるわ!』

『知ってるよ。アナタがハネダランドの女王だろう? アナタにそう言われるのは光栄だけど・・・・・・アナタとボクじゃもう実力が違いすぎる』

 

 タクマさんどころか、ケイさんすらバカにするアキラ君。

 

『なっ・・・・・・ケイちゃんはGPなのよ!?』

 

 GP・・・・・・すなわち、グレイテストプレイヤー。

 ハネダランドの大会で優勝した証。ケイさんが「ハネダランドの女王」として君臨する所以だ。

 にも関わらず、ソイツは臆面もなく。

 

『ふふっ、下らないね。そんな物が何の指標になるって?』

『なんですって!?』

『そうだろう? だって、アナタはこの間のボクにみたいに、タクマさんを追い詰めることができるのかい?』

「っ、そ、それは・・・・・・」

 

 言われて、言い淀むケイさん。

 

『そこで言い淀むなら・・・・・・そこがアナタの限界ですよ。()()()()?』

『・・・・・・ッ、バトルよッ!!』

 

 此方をバカにしたような態度を崩さないケイさんは、とうとうアキラ君にバトルを挑んだ。

 当然、ボクたちはケイさんに勝ってほしいと応援した。

 対戦相手をバカにするようなムシバトラーなんて、いちゃいけないんだ!!

 

 そんな風に意気込んでムシバトルに望むケイさんを見守ったボクたちだったけれど、そんなボクたちを更に呆気にさせることが、目の前で起こった。

 

『・・・・・・なッ』

 

 アキラ君以外の誰もが、その光景に口を開けるしか、なかった。

 ケイさんがスキャンしたムシは『ヘルクレス・オオカブト』。世界最大・最強とうたわれる甲虫。

 それに対してアキラ君が出してきたムシは・・・・・・『カブトムシ』だった。

 

 それも、ムシカードでスキャンする強さ120のカブトムシではなく、ムシカードをスキャンしない時に出る、強さ100、性格なしのカブトムシだ。

 技構成は、必殺封じ、あいこやぶり、そして・・・・・・『スーパートルネードスロー』。

 わざ構成自体は戦術的だけど・・・・・・アイさんですらカブトムシは「ムシキング」なのに、こんな・・・・・・こんな事って・・・!!!

 

『ッ、バカにして・・・・・・ッ』

『バカになんかしていない』

 

 苦虫を噛みつぶすかのような表情でアキラを睨み付けるケイさん。

 それに対し、不敵な笑みを崩さず言い放つアキラ君。

 ・・・・・・それにしてはやけに「バカにしていない」のトーンがマジだったり、「トリビアの泉見てないのかこいつら」なんて呟きが聞こえたような気がしたけれど、意味が分からないしきっと気のせいだろう。

 

 それからの勝負は、あっけなかった。

 結果はアキラ君のパーフェクト勝ちだった。

 ヘルクレスは倒れ、ケイさんが次に繰り出した「パラワンオオヒラタクワガタ」にすら、パーフェクトで勝利をした。

 あいこやぶりをスキャンした相手に対して、相手にそれすら使わせることができず、完全敗北を喫したケイちゃんは泣き崩れた。

 

 これが・・・・・・タクマさんを追い詰めたアキラ君の実力。

 ボクたちは泣き崩れるケイさんに対して歩み寄ることすら忘れて、ただただアキラ君の圧倒的な実力を前に唖然とする他なかった。

 

『ほら、アンタじゃその程度』

『う・・・・・・ひぐッ、ぐすッ・・・・・・』

『女王は女王らしく(ハネダランド)に引きこもっていればいいのさ。ここを出たら、アンタは女王でもなんでもない。

 愛しの恋人さまがこの程度じゃ・・・・・・タクマさんの実力も高が知れてるね』

 

 泣き崩れるケイさんに容赦なくそう言い放つソイツには、ボクの堪忍袋の緒もとうとう切れた。

 

『ふざけるなッ!! あの日君は、あんな有利な状況からタクマさんに逆転負けした!!』

『フフッ、アハハハッ! こりゃあおかしい!! 傑作だ』

 

 何が可笑しいのか、そんなボクの怒りすら嘲笑うようにソイツは笑い出した。

 

『ふ・・・・・・どうやらアンタの眼鏡は度があってないようだ。たまには本だけじゃなくて、窓の外の景色を眺めた方がいい。ま、ここで言い争わなくても時期に結果は分かるさ。

 その時はあんたが尊敬している人の惨めな姿、ソイツをじっくりと眺めさせてあげるよ、眼鏡(めがね)くん?』

 

 そう言って、アキラ君は終始こちらバカにしたような態度のまま、ボクたちの前から去って行った。

 

『なッ、なんだよアイツッ!! タクマさんはものすっごく強いんだッ!! お前みたいな奴に絶対に負けるもんか~ッ!!』

 

 あとなんでボクが目が悪い理由を知ってるんだよアイツッ!!

 外の景色を見た方がいいとか余計なお世話だよッ!! あと眼鏡くんって呼ぶな!! ボクにはリョータって名前があるんだよ!!

 

『・・・・・・ひぐッ、グスッ・・・・・・ダメ、タクマ・・・・・・アキラ君とたたかっちゃ・・・・・・ダメッ・・・・・・』

 

 泣きながらそう言うケイちゃんにユーコちゃんが駆け寄り、肩を撫でて必死に慰める。

 ボクとアイさんは、去って行くアイツの背中をずっと、睨み続けていた。

 

『・・・・・・』

 

 

 

 

 

 そして、一週間後のテックアリーナでの大会で、ボクらは見せられてしまった。

 決勝戦でぶつかったタクマさんとアキラくん。

 結果はアキラくんの勝ちだった。

 あの時とまったく同じ状況。互いにムシは二匹目まで突入していて、あいこになれば相打ちになってしまうという逼迫した状況の中で。

 

 タクマさんの必殺は封じられ、あいこやぶりの発動により王手がかかっている状況。

 まったく、あの教室の状況と同じ再現。

 その状況を、アキラくんは意図して作り上げていた。タクマさんを相手に、ソレをやってみせるほどの余裕が、アキラくんにはあった。

 

 そして、アキラくんはあのときと同じように、必殺封じをされている筈の相手に、必殺勝ちの手を出していたのだ。

 そして、あろうことか同じ手を出していたタクマさんに対し、本来ならば相打ちのところを、あいこやぶりによりタクマさんのムシだけがダメージを食らい、倒れた。

 

『あ、あり得ない・・・・・・必殺封じで、必殺を出せないボクに向かって・・・・・・必殺勝ちを選択!? そんな、あり得ない・・・・・・ッ』

 

 今まで見たことがないほどの、覚束ない口調で狼狽えるタクマさん。

 あんなタクマさん、今まで見たことがない。

 

『最後まで諦めない・・・・・・大層ご立派だねぇアンタ』

 

 同じくギリギリの状態だった筈のアキラ君は、相変わらず不敵な笑みのまま、そんなタクマさんに皮肉を叩き続けた。

 

『だけど、その立派なモノのせいで、アンタは今日負けたって事さ。

 普通に手を出していれば・・・・・・あんたの勝ちだったのにね』

『・・・・・・うぅ・・・・・・ボクは・・・・・・』

 

 アキラ君に返せる言葉もなく、タクマさんは項垂れる。

 あぁ・・・・・・そんな、あの、タクマさんが・・・・・・。

 

『フフ・・・・・・負けたアンタは、恋人さんそっくりだ』

『────え?』

 

 そして、次にアキラくんから飛び出した言葉でタクマさんは再び顔つきを変えて、再びアキラくんの方を見上げる。

 まさかアキラ君・・・・・・ケイさんとの勝負のことを言ってるんじゃ。

 

『一週間前にバトルを挑まれてね。今日のアンタと同じように捻り潰してやったんだが、何だ気付いてなかったのか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()?』

『なッ・・・・・・きみ、けいに・・・・・・』

 

 最早、絶句するしかないタクマさん。

 アキラくん、それだけは、それだけは言っちゃダメだ!!

 

『泣きじゃくる恋人に見向きもせず、特訓に打ち込んだにも関わらず負けた。

 ・・・・・・結局あんたは、男としても、バトラーとしても中途半端だったってわけだ。ふふふッ』

 

 そう言って、優勝者のアキラくんはテックアリーナから去って行った。

 項垂れるタクマさんを残して、アイツは三枚目のGPカードを悠々片手に去って行ったのだ。

 

『タクマッ・・・・・・タクマッ』

 

 観客席から踊り出たケイさんが、項垂れるタクマさんに駆け寄ってくる。

 だけど、タクマさんはケイさんに顔を向けることがなかった。

 

『ケイ・・・・・・すまない、ボクは君のことを、蔑ろに、して・・・・・・』

『タクマ! そんな事ないッ!! だって、タクマは頑張って・・・・・・!!』

『・・・・・・頑張る・・・・・・? 泣いている、君をほっといて・・・・・・とっくんして、ひどい、負け方したボクが・・・・・・頑張って・・・・・・?』

 

 ケイさんの言葉は、タクマさんには届いていないようだった。

 

『すまない・・・・・・ボクは、最低なことをした。もう・・・・・・君に、あわせる顔が、ない・・・・・・』

 

 そう言って、タクマさんも泣きじゃくるケイさんに背を向けて立ち去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・こんな事、こんな事って。

 許せない、許せないよアキラ君!!

 

 

 

 

 ・・・・・・いつか、絶対に君は倒されなきゃいけない。

 ボクじゃ、君は倒せないだろう。

 タクマさんでも倒せなかった。

 

 

 

 

 

 でも、それでも、アイさんなら・・・・・・Dr.ネブマスターズのアイさんならきっと・・・・・・!!

 

 

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 

 

 

 この時、ボクはまだ知らなかった。

 アイさんが見せ続ける光・・・・・・その先にある、地獄の光景を。

 

 自覚していなかった気持ち。

 ボクが目を逸らし続けてしまった、アイさんの変化。

 Dr.ネブマスターズだからと、アイさんに重圧を押しつけ過ぎてしまっていた、その罰を。

 

 

 

 

 

 

『────アナタの事が、大好きです』

 

 

 

 

 

 

 その地獄の光景が待ち受けているのを、ボクはまだ知らなかったんだ。

 




・憑依アキラ君
原作通りのアキラを演じつつも、所々アドリブとガバが入ってる。
うっかりタクマのことを「タクマ”くん”」と呼んでしまったり。
原作でのケイとのやりとりではバトルはせず、獲得したGPが自分の方が1枚多いのを理由に相手にならないと断っていたが、この憑依アキラくんはさすがにGP枚数マウントじゃ格好悪いかと思って素直にケイの勝負の申し出を受けてしまう始末。

ハネダランドでのバトルなので、相手もハネダ公式大会時の小型甲虫を出してくるだろうと高を括ってスキャンなしカブトムシで挑んだら、まさか物語後半で使ってくるヘルクレスやパラワンが相手で内心びびりちらかしてた。
それでもパーフェクト勝ちしてしまったおかげでケイの心を完全にへし折ってしまう。泣かすつもりはさすがになかった。

後、リョータへの眼鏡云々の忠告や、タクマさんへのケイの話題など、本人の良心なりに忠告しているつもりではあるのだが、アキラエミュが混ざっているおかげで原作よりもより一層ひどい精神ダメージをタクマに与えてしまってる。

ちなみに、この頃にはもう「ヒロシ」としてアイちゃんと交流している。
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