さっさと世界救ってくんない、田中くん?   作:やまめといろ

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世界救ってるから、田中くんは(怒)

「なんて事をしてくれたんだ!」

「……」

「またダンマリか! お前は一体何なんだ!? 分かんねえよ!」

「……」

「包丁持ち出して!? 東京に行って!? 人様の家に侵入して!? それで車に包丁刺した!?」

「……」

「何とか言ったらどうなんだ」

「あなた殴るのは!」

「大体、母さんも母さんだ! なんでこんな子供に──」

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中くん!?」

「……っは!」

 

 田中くんは、このセリフを聞いた瞬間、胸の部分を抑え、引き付けを起こすような呼吸に変わった。僕は田中くんの背中を叩いて、気つけを試みると、魂が抜けたような様子だった田中くんが正気に戻る。田中くんは状況を思い出すと、中生代にあわてて反論のようなものを試み始めた。

 

「アレは結局示談になった! それに、そういう悪いことをした奴がいるという部分まで辿り着けてもそれが俺であるとまでは結びつかないはずでは!?」

「断片的な情報さえあれば、あとはネットの掲示板に実名でチャットを残していただろう! 『時空の破壊者』、『予言王及び救世王』、『転生者』、あと『ハイパーロボットマン』だったか? 数多くの異名が貴様を表していたぞ……!」

「ぐわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「もう決着ついちゃったよ」

 

 

 田中くんが膝から崩れ落ち、その場に蹲ってしくしくと泣き出す。田中くんよく情報を追うと本名に繋がるようにネットやってたもんね。これだけは自業自得だと僕は思う。一緒に消えない傷を背負って行こうね❤️僕は田中くんの前にしゃがむと彼の頭を掴んで抱え、頭を撫でてあげ、田中くんと呼吸を合わせる。中生代が心なしか引いているように見える。

 

「な、なんか気持ち悪いぞお前……」

「これは愛です、何も憚るところはない」

「ま……、まあいい。しかし田中。貴様、自分の『罪』の重さを自覚していたというのだ。ならば何故貴様はあのような愚行を犯したというのだ!」

「愚行?」

「そうだ! これを見ろ!」

「それは……? まさか!」

 

 コワシと名乗った男はポケットから分厚い本を一冊取り出し、大きく電灯の光に掲げてみせた。少女漫画にありがちな縁取りがなされたその本の真ん中にはセーラー服を着たティラノサウルスの絵が書かれていて、丸っこい字で『新生代コンプレックス』と題字が印字されていた。

 

「知らないとは言わせないぞ田中! これは私が再現した『新生代コンプレックス』の最終巻!」

「何でみんなちょっと再現こだわるわけ?」

「くそっ絵柄もほぼ再現できてるじゃないか! これに比べたら俺のなんて台本じゃないか……!」

「それで田中くんは何で悔しそうなわけ?」

 

 その本を見上げ、地面を叩いて悔しがる田中くんを見て、ちょっと自尊心が満たされた感じで中生代くんは鼻を鳴らす。そのまま中生代くんは単行本の最後の方を開いてこちらに見せ、大声でその内容を解説してみせる。すっかり夜になった公園で、電灯がまるでスポットライトのように中生代くんを照らしていた。

 

「この最終巻に掲載されていた加筆、人間の恐竜化という進化を恐れた世界が最後に人類に課した試練。それはこの巨大隕石の衝突だった! これを防げなければ地球は崩壊する! その隕石を止めて見せたのが『親殺しのコンプレックス』を抱き東京タワーよりも巨大化した新生代あかりのC-REXだった! それを貴様が未来を変えてしまった!」

 

「なっ……」

 

 僕はそれを聞いて絶句していた。今更、この世界が漫画だとか、展開が唐突すぎるだろとかのツッコミを入れる気はないが、そうすると田中くんがあれだけの犠牲を払ってやったことが、無意味だというどころではないのだ。足元の田中くんを見ると、田中くんは地面を向き固まっていた。その表情が窺えないが、地面にはまるで全力疾走した後のような汗が垂れている。

 

「知らない……」

 

 田中くんの口からは呻きのような声が漏れた。

 

「俺、本誌でしか追ってなかったからそんな展開が増えてたなんて知らなかった」

「貴様ァ! では『新生代コンプレックス』の精神的続編である『崩れた地球と神様の糸紡ぎ』の存在も知らないと言うのかッ!!」

「いや、もうこれ以上は風呂敷広げなくていいから」

 

 反射的に僕は中生代にツッコミを入れていた。これ以上コイツを喋らせてはいけない。奴は少し冷静になったのか、中生代が自作の漫画をポケットにしまう。そして、先ほどまでのコミカルな動きをやめてこちら側に一歩踏み出した。電灯を背に黒色の学ランを着ていたその男が闇の中で輪郭がぼやける。ただ、その声だけが際立って大きく周囲に響く。まるで知らないことはないと言うような自信に満ちた声だ、と僕は感じた。

 

「貴様が中途半端な功名心で行ったことがこの世界を滅ぼすのだ」

 

 声が近づく。

 

「だがまだ間に合う。今からでも原作を開始し、”巻き”で内容を再現すれば良いのだ」

 

 影が膨らむ。

 

「だが田中、貴様は邪魔になる前に排除するっ!」

 

 そしてその膨らんだ影を通りかかった車のライトが照らす。中生代くんは巨大な鎧を纏い、鈍く光る巨大な剣を天に掲げていた。いや何でだよ! 

 

「名前的にお前も何かの恐竜になるとかじゃないの!?」

「私はこの世界に転生するときにこの『弱すぎると勇者パーティを追放された俺、世界の真実によれば勇者こそが世界の癌だけど気づいたけれど、助けるために俺が今更あがいてももう遅い』の力を神より授けられた!」

「長げーよタイトルが! 銃刀法違反で捕まれ!」

 

 僕は咄嗟に田中くんを抱えて地面を転がるようにして刀を避けた。作品名が長くて助かる。というか法治国家で僕たちを殺したら普通に捕まるだろ! こいつ使命感でどうにかなっちゃってるんじゃないか? 

 

「田中くんは違うからね❤️」 

「急にどうした」

「ほう、なかなかやるではないか。この力、私も使うのは初めてだが、正義への確信が私を次のステージへと押し上げるのを感じる!」

「初めて使うの?」

「現代で使い所ないだろこんな力! 渡されても困ったわ!」

 

 それはそう。

 

「ちなみにこれは作中で敵が使ってくる力だぞ」

「主人公の力じゃないのか……」

「自分を主人公と勘違いした輩を成敗するのにはおあつらえ向きと言うわけだ」

 

 暗がりの中にいるのもあり、兜の向こうで中生代がどのような顔をしているのかはわからないが、その声色からは内容ほどの高揚感は感じられなかった。使命感を増幅させるというより、罪悪感を誤魔化す力か何かなのだろう。こういう分析をしてみても、今の状況を覆すような何かが思いつくわけでもない。もはや、僕は田中くんに覆い被さるように庇うくらいしかできなかった。

 

 田中くんはさっきから挙動がおかしい。こうなった田中くんを僕は一度だけ見たことがある。テレビで、全然関係ない町で電車が脱線した事故のニュースがやっていたとき。いつもニヤニヤしながら聞いてくるトロッコ問題を、やけに真剣な声で聞いてきた時があった。

 

 

 

 

 『なあ、ヤマナシ。トロッコ問題で』

 『またあ?』

 『もし、電車を止めたら線路の先のみんなが助かるけど、電車を止めたら『電車を止めた』っていう事実だけが残ってしまうとしたら、お前押すか』

 『それって『何で電車を止めたんだ』って怒られるってこと?押すわけないぢゃんw』

 『だよな』

 『田中くんはどうするの?』

 『お、俺だったら、俺は』

 

 

 

 

 

 

 これもしかして走馬灯!?

 

「邪魔立てするなら貴様も同罪! 消えろ! この世界から!」

 

 白刃が星なき夜空に煌めく。それが振り下ろされんとした瞬間。僕のポケットに入っていた携帯が鳴る。

 

「タイム!」

「認める! だが、助けを求めた瞬間殺す!」

 

 僕は人生で最も必死に叫んだ。だが、この場面を打開するためにはどうすれば良い? とにかく会話を引き伸ばさなければ。

 僕は相手が誰なのかすら確認せずに電話に出て、

 

「もしもし?」

『G Y A O O O O O O O O O O ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !』

「「「え?」」」

 

 携帯から、そして公園の外から聞こえてきた声に、この場にいる全員の声が重なる。電話からはグチャ、と何かが潰れる音がした後、通話が途切れてしまった。それは何故かなど考える必要はない。

 

 地面が揺れ、公園を囲う木々が無秩序に倒れる。何か巨大な質量が3mには及ぼうという鎧に衝突し、不自然な方向にひしゃげた鎧が地面にバウンドしながら転がる。

 

 今、僕は芯から理解した。

 この世界の女子高生はティラノサウルスになる──。

 

 念の為確認した携帯の通話履歴には、やはり『新生代ながれ』と表示されていた。

 

 

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