さっさと世界救ってくんない、田中くん? 作:やまめといろ
目の前で、セーラー服を着た巨大な恐竜と、全身が淡く発光している巨大な騎士が戦っている。東京の港区なのに。
「田中くんさ」
「何?」
「昔、トロッコ問題をよく僕に喋ってきてたじゃんしたり顔で」
「したり顔で!?」
「僕なら駅員さんを呼ぶね、それで分かってくれるまで喚き散らす!」
田中くんは、一瞬何のことを言われているのか分からなかったみたいだが、すぐにあの頃のことに思い至って顔を顰めた。
「じゃあ何?東京で新生代ながれの家に入って『この後みなさんは交通事故に遭って、娘さんはティラノサウルスになってお父さんとお母さんを踏み潰しますよ』って言えば良かったってのか?」
「そうだよ」
「両親に『何てことしてくれたんだ!』って言われた時、『あそこであのウチの車壊さないと女子高生が恐竜に変身するようになって日本中踏みならされちゃうんだ』って言えば良かったって!?」
「うん」
「そんなわけねえだろ」
「でもながれちゃんは来てくれたじゃん」
「は?」
僕はセーラー服を着たティラノサウルスを指差し、田中くんに携帯の画面を見せる。
「え?……え?」
「僕と田中くんの共通の知り合い、でしょ?」
「え?いや、知ってるって……前世じゃん!」
「小学校の時とは言ってないし」
田中くんは携帯に表示された『新生代ながれ』の文字と目の前で暴れている恐竜を何度も往復して確かめ狼狽えている。
まあ僕も驚いてるけどね? 僕は苦笑いしながら言った。
「思っ……たよりサプライズになっちゃった」
「どど、ど、どう言う試み?」
「田中くんが引っ越しちゃった後、僕も東京に引っ越したじゃん?その時、ながれちゃんの家に通い詰めたんだよ」
「何で!?」
「だって田中くん。世界を救ってたのに、田中くんが誤解されたままじゃおかしいじゃん」
「誤解って……」
「5年かけたよ」
実際、最初は門前払いだった。でも、手紙とかを何度も送りつけているうちに、妙にながれちゃんの両親が信じてくれるようになって、段々とながれちゃんとも仲良くなっていった。それで、今日東京に行くと思い立った時に田中くんと会ってもらえるようにメールをしていたんだ。
今思えば、ながれちゃん一家全員が、世界の危機に繋がる秘密に心当たりがあったんだなあと分かる。
『女子高生が恐竜になること』だとは思わなかったけどね!
……と説明をしてみたが我ながら言っていて全然意味がわからない。だって予想できないじゃんこんなの!
僕はまだ現実を受け入れられてなさそうな田中くんの方へ向き直り、話を続けた。
「僕は、田中くんがあの時にやったことでこの5年間でどんな苦労をしてきたのかは、何となくだけど分かる。でも、それで自分のことを責めるのはおかしい」
「それに、今アイツが言ったみたいにそれが裏目に出たとか、無駄になったとかって言うのは絶対ない!」
「現にながれちゃんは君の味方だろ?もし田中くんが責められた時は、田中くんはこんなにすごいことをしてたんだって僕が何度でも説明して回る!だから自信持って俺は世界を救うってまた言ってくれよ!」
「月見里……お前」
「だからと言って!世界がこのままだと滅びることに変わりはない!」
「うおっ鎧ボロボロ……これ中身どうなってるの?実は死んでない?」
興奮していた僕は、中生代とながれちゃんがいつの間にか戦闘を中断してこっちに向かってきていたことに気づかなかった。中生代はもうなんで立っているのかと言うくらいいろんなところがひん曲がっている。騎士の力弱っ。
「騎士の力弱っ」
「何とでも言えっ」
「そなえ君さぁ、こいつ世界のためにアタシの両親に死ねって言ってるってことよね?もう中身も壊しちゃっても良いわよね?」
「いやそれは流石に……」
「私を今殺したところで、これから落ちてくる巨大隕石が落ちてくれば同じだ……新生代も『親殺しのコンプレックス』がない以上、恐竜になっても隕石を砕くほどの力はない」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃない!」
「フン……」
段々と公園の周りには人が集いかけている。遠くからは周辺住民からの通報があったのか、微かにパトカーのサイレンの音が近づいてきているのが分かる。確かに、みんなこんなにすごい力を持ってるのに、田中くんみたいに何かを変えられたわけじゃない。むしろ状況は悪化してる。
「隕石を何とかすれば良いんだよな?」
「ああ?」
田中くんが、ポツリと言った言葉に全員が注目した。
「それはそうだが……、それがどうにもならないから困ってるんだろうが」
「俺も、この世界に転生するとき女神様からもらったのさ」
チートだよチート、と言って田中くんが笑った。
田中くんの青い目がきらりと光る。どうにかできる手段を思いついたのだろうか。もしかして中生代のように騎士になれるとか何だろうか。でも、あの程度じゃ流石に隕石はどうにもならないのではないだろうか。不安げに田中くんの方を見る僕に、
田中くんは、あの頃の自信にあふれた顔で僕の方を見て笑い返した。
「田中くん!?」
「見てろ」
田中くんが腕につけている時計の文字盤に直接指をおいて弾くような動作を始めた。何その動き……?
「それ時計じゃなかったの?」
「スマートウォッチって今の時代売っているのか!?」
「俺も調べたけどギリまだ売ってなかった」
「スマートウォッチって何よ?」
「これはスマートウォッチじゃない、発信機だ!」
田中くんが何やら時計(時計じゃないらしい)を操作すると、スピーカーから明らかにフリー音源とわかる音声が流れ始め、僕は困惑した。
ちきゅうをまわる りゅうせいひとすじ
ぼくらをみまもる せいぎのましんさ !
そのてはちきゅうを つつむ ため
そのめはみらいを のぞむ ひとみ
いでよ ぼくらの でかいんじゃーろぼ
ゆけよ ぼくらの でかいんじゃーろぼ
(間奏)
でかい でかいぞ いくらなんでも
なんか いんりょく はっせいしてない ?
しおの みちひき あや つって
だいたい てきは なみにのまれる
くるな こっちに でかいんじゃーろぼ
たのむ むこうへ でかいんじゃーろぼ
「あ、あれはなんだ!」
「ロボットだ!」
「東京タワーよりでかいぞ!というか雲よりデカくないか!?」
「この世の終わりだ……!」
間奏が鳴り出したあたりで、周りの人々が全員空を見て悲鳴ともつかぬ声を上げる。
夜空を半分以上覆い尽くすほど巨大な人型ロボットが現れ、ゆっくりと遠ざかっていく。
おそらくあまりの大きさに動きが緩慢に見えているのだろう。
「あとは降ってくる隕石がデカインジャーにぶつかればサイズ差で隕石は跡形もなく消滅するだろう……世界救っちゃったな!」
急に田中くんは世界を救った。
「じゃあ一件落着ってことで」
「そんなことできるなら最初からしなさいよ!!私ここに死ぬ覚悟できたんだけど!?」
「こんな力渡されても使い所ないと思ってたから!」
「私が人殺しをする覚悟を決めてまで来たのに貴様ぁ!」
「お前も転生者なら痛っ!分かるだろなんか貰っ痛いやめて、貰った力がイマイチ使い道のないこの感じ!」
「最初からこれ出してれば5年間田中くん苦しまなかっただろ!大体解決できるだろあんな力あれば!」
「地球が苦しむだろあんなんだしてたら!」
僕たちは三人でを囲って田中くんを叩きまくった。
「そういうのは先に言ってくれ、田中くん!」
「ごめーん!」
許す!
5月。段々と汗ばむ陽気が増えてきた頃、僕は田中くんに言った。
「というわけで、田中くんは正式に田中くんに戻りそうです」
「何が?」
あの後、二ヶ月くらいデカインジャーは空に居座ったため、僕らが東京で暴れたのは有耶無耶になった。もう木が一本倒れたとかそんなのどうでも良いし……。
「田中くんの両親を説得した結果、小学校時代の田中くんのエキセントリックな言動がどうも真実らしいと言うことを飲み込んでもらえ、二人とも段々と会う回数を増やしてるみたいだよ」
「え……そうなの!?」
「まあロボットをちょっと僕の指示に合わせて動かしてもらうだけで一発でしたわ」
「本当にあれ出してるだけで解決した……それって脅迫では?」
田中くんの両親もまあ、当時を振り返れば田中くんに振り回されてたのは認めるけど、もうちょっと上手く話す余地はあったんじゃないだろうか。今間に合ったんだから。
「あれ、最近化粧して夜いなくなることが増えたと思ってはいたけど……あっこれ以上考えると気分悪くなりそう」
「まあ両親の性生活は置いといて」
「ゲェーー!やっぱりラブホ行ってんじゃねーか!何してくれてんだ月見里!」
「びっくりした?」
「びっくりした!」
田中くんは相変わらず気の抜けた顔のままだけど、前と比べて気持ちの入った気の抜け方に変わったような気がする。前世があるっていう話を鑑みると、もしかしたら小学生の頃の田中くんは精神のバランスが取れてなかったかな。おそらく、これが田中くんの本当の姿だろう。
僕は、どこかとぼけた感じになった田中くんにもうひとつサプライズを用意するべく話しかけた。
「ねえ田中くん」
「何だ月見里」
「もう田中くん、一回苗字変わったらどうする?」
「えっ……それどう言う意味?」
「秘密❤️」
もう田中くんの両親には根回し終わってるから待っててね、田中くん!
善性に溢れたヤンデレが全力出して好きな人囲うの好き