さっさと世界救ってくんない、田中くん?   作:やまめといろ

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 モモタロウは女好きな高校一年生。
 彼は入学早々、クラスメートの高嶺さんと付き合おうとするがあっさりと撃沈ーー
 
 「私、軽い男は嫌いなの」

 ーーするはずだった!

 実は今回の彼には秘策があった。高嶺さんの完璧主義と趣味趣向を見抜いたモモタロウ。
 彼は高嶺さんと一緒に小説を書いて、その内容通りに恋愛をする『小説恋愛』という恋愛スタイルを提案。
 実は小説の執筆が趣味だった高嶺さんは、彼の告白を受け入れるかどうか保留し、小説が完成するまでの間という条件付きで交際が始まった。
 実は小説なんて書いたことないモモタロウは、クラスメイトたちの協力を得ながらも付き合いを続ける。
 実は子供時代に面識があったことなどが判明するなど紆余曲折がありながらも、モモタロウはついにデートにまでこぎつける。
 そんな中、地域留学の名目で『琥珀学園』を通じて留学生がやってくるが、留学生は高嶺さんのことを知っているようで・・・?
 モモタロウは恋の競争相手に打ち勝ち、見事に高嶺さんのハートを掴むことができるのか!?


 一方その頃、高嶺さんには謎の組織『大団円盤の会』の魔の手が迫っていた。

 「高嶺夢子を処刑せよ」

 大団円盤の会によってこれまで書いていた『理想の世界』に封印された高嶺夢子を助けに行くモモタロウ。
 しかし、『理想の世界』は文面からは想像できないほど現実の世界とかけ離れていた!

 「な、なんだここは……、『セボン』が『セブン』で、『ファミリア』が『ファミリー』で」
 「くそっここはまさか、前」
 「しかも『おもちゃ屋』が『靴屋』になっている!」
 「いいんだよそれは、業態変更だよただの」
 
 そして明かされる最大の秘密。
 実は、高嶺夢子は転生者であったーー。
 あと実は留学生は漫画の主人公だしモモタロウは高嶺さんが勝手に作ったオリキャラだけど文句ある?


高嶺さんは完璧主義

 今回のオレには秘策があった。

 

「高嶺さん、オレと付き合ってください!」

 

 6月の学校は蒸し暑い。熱気吹き溜まる空き教室の窓を1時間前からこっそり開け放し、天気による気圧の変化まで考慮に入れ今日を告白の日付に選んだ。

 夕日が窓を通して高嶺さんの背後へと差し込み、高嶺さんの表情を逆光で薄暗く隠す。代わりにオレの表情はしっかり高嶺さんに見えているだろう位置取り。

 オレは僅かに緊張しながら高嶺さんに向けて頭を斜め45度に下げ、右手を前に出す。

 

「どうして?」

 

 高嶺さんは、顔をオレの差し出す右手の方へと向けながらオレに言った。まずは予想のど真ん中が来た。 

 同じクラスに配属されてから2ヶ月。彼女は相手の行動の理由を聞きたがる傾向があるとオレは高嶺さんと何度か話している中で感じていた。

 ひとまず、オレが高嶺さんのことを勘違いしていないことは分かって安心する。

 

 オレはわざと指折り見せて、高嶺さんを好きな理由が複数あることを示しながらオレは返答し始めた。

 

「まず、高嶺さんはすごく美人だから、できる限り長く顔を近くで見てたいと思ってる」

「確かに、私は両親から綺麗な顔を頂いてるけど……、雲梯くんはそこまでかっこいい顔をしてないね。同じ理由では付き合えないかも、他には? 

 

 高嶺さんは淡々とした声色でオレに続きを促す。

 一見、オレの話に『なんか虫の羽音がうるさいね』みたいな反応しかしていないが、会話を打ち切られていない時点で第一関門は突破した。

 ここまでは予想通りだ。

 

「高嶺さんは勉強家だけど、ただ自主学習に終始するわけじゃなくて、友達と勉強会を開いたりしてるでしょう。そういう自分を曲げずに周囲に溶け込む努力を欠かしていないのが素晴らしいとおもうし、そこに惹かれるのは当然だよ」

「成程、ありがとう。でもまあ、雲梯くんは勉強を頑張ってるとは言い難いね」

「まあ一緒に勉強したからそこら辺はバレちゃってるね」 

「もう一個、雲梯くんが何を言うつもりか当てて見せましょうか」

 

 高嶺さんは、いつの間にかオレの指折り数える指から目を離してボクの顔を覗き込むようにしていた。

 オレは彼女の顔の陰影に目線を這わせ、彼女の目にオレの目が合うように顔を向けて笑いかける。

 彼女の赤い唇が影の中で印象的に弧を描く。

 

「ぜんぶ用意してきたでしょ、雲梯くんはそういう性格してるもの」

「まあね、でもぜんぶ普段から思ってることだよ」

「それも。用意がいいわね」 

「オレが次に言いそうなことって?」

 

 彼女がボクのことを認識しているというのはびっくりしたが、そもそも高嶺さん自身は結構人を見てるタイプだ。

 オレは少し楽しくなって彼女の答えを待った。

 

「才能、努力、ときたら次は心かしら? じゃあ……『高嶺さんはスーパーで万引きをしようとしていた人を説得して商品を変えさせたことがある』。どうかしら?」

「惜しい! ボクは高嶺さんの友達の山川さんが野球を辞めようか悩んでいた時にずっと悩みを聞いていたことを引き合いに出すつもりだったよ」

「……よく知ってるわねそんなこと」

「山川さん本人から聞いた」

「や、山川さん口軽いわね……」

 

 高嶺さんの声色から気取った部分が初めて剥がれ落ち、彼女は呆れたようにちょっとだけ肩をすくめた。

 

「さてと、雲梯くんが私のことをよく見て告白まで踏み切ったと言うのはわかりました」

 

 太陽は遠くの山きわを下回り、夕焼けが稜線を染め上げると、夜空の星々と地上の光がそれぞれに灯り始めた。

 彼女が窓の方を向き、呼吸を整えるのがシルエットの上下から察せられる。

 

「でも……ごめんなさい、あなたとはお付き合いができません。今のあなたとだと、お付き合いじゃなく、一緒にいるだけになると思うから」

 

 高嶺さんはそう言って深くお辞儀をした。

(やっぱりな)

 オレはこういう結果になるだろうと思っていた。今の高嶺さんは、完璧主義で、善人でありながら人との関わりに一線を引いている。

 だからそもそも人と付き合うという気持ちにじゃないのだろう。

 

 だからオレは秘策を用意した。オレは高嶺さんに顔をあげて、と声をかけた瞬間セールストークを開始! 

 告白に必要なのは、事前準備と……勢いだぜ! 

 

「そう言うと思ってこのようなものをご用意いたしました!」

「ちょっと?」

 

 オレはすっかりと暗くなった空き教室に電気をつけ、自席の上に筆箱と夏休みの読書感想文に使うような原稿用紙を大量に机の上に置いた。

 

 

「これがオレが用意できる”最善のお付き合い”のスキーム! 『小説恋愛』だッ!」

「どういうつもり……」

 

 高嶺さんは何かを言おうとして黙り込み、口に拳を当てた。

 この突拍子もない発言にどのような背景があるのかを考え込んでいるのだろう。そして、その疑いは正しい。

 オレは高嶺さんが隠したい最大の秘密を握っている。

 

「念の為、聞かせてもらいましょうか、これが何なのか」

「勿論だとも! 『小説恋愛』って言うのは『小説みたいな恋愛』をすること! 小説みたいな恋愛って言うのはただ何となくお付き合いするだけでは達成できない! だからこそ、

 オレたちは事前にやりたいことを小説にしたため、お互いに修正を繰り返していってそれを現実に適応する! 3年間という有限で貴重な高校生活のなかで『失敗しない』青春体験こそが高嶺さんがオレと付き合うメリットだー!」

「拳握るほど熱弁しなくても……」

 

 高嶺さんが隠している最大の秘密。それは、インターネットに恋愛小説を投稿していること。

 実は、高嶺さんは休み時間、万が一にも画面を見られない角度でこっそりスマートフォンをいじっている。

 そして、こっそり小説サイトに投稿した自分の小説の評価がどれくらい伸びているのか2時間に一編くらいのペースで確認しているのだ。

 これが、山川さんが野球のことで悩んでいた時期、話を聞きにいったオレが彼女からこっそり教えてもらった秘密。

 その時、オレより一歩早く山川さんの異変に気づいたのが高嶺さんだ。

 

「ど、どどどういうつもりなの?」

「どういうつもりもないよ高嶺さん」

 

 先程までの落ち着きっぷりがどこへやら。びっくりするぐらい目が泳いでいる様子の高嶺さんが原稿用紙を掴んで言う。

 

「まあ、将来の夢に”お嫁さん”を挙げた人間が別に恋愛小説を書いていて何が悪い、とは思ってるけどね」

「どこから聞いた!」

「山川さん」

「あ、あの女ぁ〜」

「ああっ」

 

 高嶺さんが原稿用紙を握りこみぐしゃぐしゃにする。まあ、こういう使い方されるとは思ってなかったとは思うから……。

 オレは高嶺さんから原稿用紙を取り上げ、机の上に置く。そしてそこに文章を書き入れていく。

 

「高嶺さん、別に告白を断ったって誰にも話さないよ。山川さんは多分あんまり隠し事だって思ってなさげだったからオレから言っておいたし」

 

 そして記入した文章を高嶺さんに渡し、高嶺さんが原稿に目を落とす。

 

「オレとお付き合いしてください!」

「               」

 

 高嶺さんはそれを見て、たっぷり一分間以上悩んでから、返事を書き、オレに押し付けるように返してきた。

 

「オレとお付き合いしてください!」

「………………………………保留で」

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

「ということで、大体短編1回分だけはお試しでお付き合いしてくれることになったぜー!」

「それは高嶺さんが脅しに屈しただけじゃねーか?」

 

 オレの報告を聞いて谷下沢さんが絶句していた。山川さんはオレが口止めをするまで結構な人数に高嶺さんの趣味のことを話していて、そのうちの一人が谷下沢さんであった。あと3人いる。高嶺さんには悪いが、このことは知らぬが仏だろう。

 谷下沢さんが気を取り直し、夏服に変わった制服の襟を直しながら話を続ける。

 

「っていうことでこれから小説の書き方を勉強しないといけなくなっちゃったワケだが、アドバイスない?」

「つーかなぜ俺? モモと俺ってそんなに話したことあったか?」

「ないけど?」

 

 オレは初日の自己紹介で月見里に警戒されたのか、次の日に別室に呼び出されて谷下沢さんへの接近禁止令を出されてしまった。そして今日の朝、メールで接近禁止命令の解除が通達された。情報が速すぎて怖い。教室に監視カメラでも仕込んでるのかな……。これも知らぬが仏。

 

「だって普段から漫画のキャラみたいな発言してるからそういうのも詳しいかなって」

「だって漫画のキャラだしな」

「しかも一番扱いづらそうなメタキャラ! 形而上の存在から運命を操られてそう」

「喧嘩売ってるなら買うぞ? 形而下で」

「で、どう?」

 

 ずい、と机に手をついて近づけたオレの顔を谷下沢さんは押しのけると、机の脇に掛けてあったスクールバッグを弄り始めた。が、特にお目当てのものはなかったのか手を抜いて首をひねる。やっぱり普段参考になりそうな本を読んでるんだ。

 

「つってもなー、俺読む専だからあんまり書く方はいまいち……」

「なんかそのキャラで小説読んでるって自分を演出するためのネタ仕入れてそうだよね」

「形而上の存在から発言を操られてない? どうした今日は」

「あまりの嬉しさにテンションがコントロールできないんだよオレは!」

「そ、そう」

 

 谷下沢さんは「まあ、図書室にある恋愛小説くらいじゃないか?」と参考資料を提示してくれたので、一緒にお昼に探しにいく約束をする。

 

 

「しっかし、『小説恋愛』ね、よくそんな見切り発車で提案したな」

「恋は先手必勝! 現代社会は交際がワン・オン・ワンなんだからまずは付き合うところまで行かないとね」

「その通りだよモモタロウくん!」

「月見里! なんか機嫌が良いな」

「いやあ、友達の嬉しいことは僕も嬉しいからね」

「月見里とモモタロウって友達だったんだ〜」

 

 谷下沢さんって節穴なんだ〜、と思った途端、月見里がオレの肩を揉みながら「だよねえ?」と声をかけてくる。

 その手から嘗てないほどの『意思』を感じる。

 

「いや違うけど」

「えっ……」

「月見里となんかあったの?」

 

 オレは脅しには屈しない! と言った気持ちで後ろを振り返ると、月見里は物凄く悲しそうな顔をしていた。咄嗟に前を向く。

 

「ごめん友達だったわ」

「屈するの早」

「で、実際のところ高嶺さんとはどういう話になったの?」

 

 嘘泣きか? 「チーン! ズビビッ」いや鼻かんでるなこれ。あんま後ろ見ないようにしよ。オレは努めて谷下沢さんの方だけを向くようにしながら状況を説明した。 

 

 

 

「? ……??」

「前世は平安貴族か何かで? って感じだよな」

「平安貴族のような贅沢な恋愛と思う感性を持ってくれよ」

 

 結局、オレたちは机を二つくっつけてその周りを囲うようにして話し始めた。月見里は首をラジオ体操みたいに両方に傾けているのみだったが一応は内容を飲み込んだらしい。「ともかく」月見里がオレの両手を取って感極まったように言う。

 

「友達の恋が実る(ライバルが減る)のはとっても喜ばしい! 是非協力させて欲しい!」

「だから……このままゴールインしてね❤️」

「月見里? ちょっと力が強……強いぞ!? 握力何キロ!?」

「51キロ」

「ゴリラか?」

 

 月見里の両手に包まれたオレの拳から変な音がした。 

 もう今日は文字書けないかも……。

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