離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第1話 提督が壊滅した鎮守府に着任しました

 

「どうしてこうなった」

 瓦礫に腰掛け、頭を抱えて独りごちる。一体どうしろというのか。

 いや、やらなきゃいけないことは分かってる。鎮守府の運営。それが艦娘提督を拝命した俺が成すべきことだ。

 ただ、その実行が現時点では不可能になった。鎮守府がないんだ。

 より正確に言うならば、鎮守府「だった」ものはある。頭を上げて、それを見た。鎮守府の本庁舎は見事に崩れている。外部からの砲撃を受けたような壊れ方で。

 つまり、この鎮守府は壊滅していたわけだ。しかも着任前に。解せない。

 腑に落ちない点は多々あった。

 1つ目は、何故俺がここに配属されたのか、だ。ここは深海棲艦の支配域だったのを、海軍が殲滅・占領したことで新たに鎮守府が置かれることになった島だ。最前線に近い位置で、普通なら経験豊かな者が配備されて然るべき要所だと思う。

 なのに、少尉候補生から少尉になったばかりの新米の中から俺が選ばれた。俺より優秀な、海兵科を卒業した同期の艦娘提督だって何人もいたのにだ。

 2つ目は、動きが急すぎるということ。同期が任地へ赴く中、俺だけ配属が決まらず、決まったかと思えば辞令交付日の翌日の船で出ろときた。普通は移動時間を含めても、赴任までの期間には余裕があるのに。お陰で周りへの挨拶すらろくにできず、各種手続きに時間を取られて荷造りの余裕もなかった。私物は手提げ鞄2つと大型背嚢に入れた物と軍刀一振りだけ。引っ越しというか夜逃げに近い有様だ。

 3つ目。島への上陸は正規の港ではなく、反対側からだった。整備された場所ではなく、輸送船から小型艇で浜まで送られた。正面の港で事故があったらしく接舷できないから、というのが理由だ。小型艇を出せるなら、港湾が完全に塞がれていない限りはそっちから入れるだろうに、そういう命令なのでの一点張り。誰だその命令出した奴は。ぶん殴ってやりたい。

 そうして上陸後、迎えもないまま徒歩で島を縦断し、ようやく辿り着いたと思えば、そこは鎮守府「跡」だった。

 で、着任してからの4つ目。既に壊滅しているという事実。

 本庁舎は全壊と言っていい。屋根はことごとく吹き飛び、二階の床もほぼ落ちている。他の建造物もほぼ全壊。港も埠頭は穴だらけで集積されていたであろう物資が散乱していて、港の入口付近には輸送艦らしい船が沈んで、一部を海上に晒していた。

 港に隣接しているドックは壁が吹き飛んでいたのが見えた。中身は確認してないけど望み薄だろう。

 5つ目。設備は全て整っていると聞いていたのに、未完成だったようだということ。砲撃を受けたであろう、レンガ等の建築資材が結構残っていた。本庁舎の中は内装がほとんど施されておらず、調度品もなかった。つまり、破壊されたことを差し引いても、運用できる状態だったかは怪しい。

 更に、電信室と発電施設に関しては、機器の設置は済んでいたのに、人の手で破壊されたようだ。機器に弾痕があったし、空薬莢や手榴弾の残骸が残っていた。外からの攻撃の痕跡はなかった。

「どうしてこうなった」

 また、呟く。誰も答えてはくれなかった。

 

 

 考えても答えは出ない。それが正しいかなんて確かめようがないし、正しかったからって現状が良くなるわけでもない。

 だったら、今はできることをするしかない。まずは衣食住の確保だ。離島の鎮守府には補給のための定期便が来る。それまで生き延びなくちゃならない。

 無事な物資倉庫の1つを住居に定めた。本庁舎は崩落の恐れがあるし、あちこち穴が空いていて、どこからでも出入りができてしまう。この島で何が起きたか分からない現在、それは危険だ。

 その点、倉庫は扉が閉まるし、1人だけ住むなら何とでもなる。野宿することを思えばだいぶマシだ。

 倉庫の物資は主に生活用品。酒保用と思われるけど、食料品が見つからない。別の無事な倉庫を確認してみても、食料品だけ見事にない。本庁舎の食堂跡もすっからかんだった。破壊された倉庫内で食料だった物がわずかに確認できたくらい。無事な物をかき集めてみたけど、うん、1人なら何とかなるかな? それでもある程度は調達したほうがよさそうだ。

 他にも倉庫や廃墟を回ってみた。その結果、銃火器をいくつか見つけることができた。この状況で武器があるのは心強い。持ち込めた手持ちの武器はわずかだし。

 ついでにここへ持ち込めた物もチェックしてみる。

 軍装と私服の替え。船で着替えた洗濯物。文具類。本が数冊。身の回りの物は、着任してから酒保で買おうと思っていたからほとんどない。

 武器は、士官学校卒業時に義父から贈られた拳銃とその弾がいくらか。義母から贈られた軍刀一振り。

「いや、本当に終わってるって……」

 食べ物は海でなんとか得るとして、水はどうしたものか。水道は濁った水がちょろちょろ出る程度。水源や設備を探して確認してみないと使えない。定期便が来るまで生きていられるかな……

 そういうわけで食料確保が最優先。倉庫にあった釣り竿を持って海に向かうことにした。

 あれ、そういえば相棒の姿が見えないな。どこ行った?

 

 

 

「よし、今晩はこれで何とか……いや、もう少し釣っとくか」

 釣れた魚をバケツに放り込み、竿を投げる。幸い、魚は普通に釣れた。このペースで釣れるなら、魚だけで食いつなぐことができそうだ。

 当たりが来るまで、ここのことを考える。

 あれから更に気になったことがある。この島、人死にの痕跡が見当たらない。見た範囲では死体はおろか、血痕1つ残っていなかった。

 攻撃自体はそう昔のことではないはずだ。砲撃跡の土は柔らかく、雑草の1本すら芽吹いていない。死体等が消えてしまうほどの時間は経っていない。

 砲撃されてるのに、そんなこと有り得るのかと考えて、1つの可能性に思い当たる。攻撃時、ここは既に無人だった。深海棲艦が来ることが分かった時点でここを放棄したというもの。

 ただ、それなら俺が着任するまでにその情報が来てないとおかしい。設備を使えないくらいに破壊する余裕はあったわけだし、その前に報告くらいできただろう。あるいは、通信機器は故障してて、襲撃時に修理できないくらいに壊していったとか? でも壊す必要ある? 深海棲艦がこっちの設備を利用するなんて話は今まで聞いたことがない。念のため?

 それに島から脱出してるなら、船から通信できるはず。こっちも故障とか、さすがに考えにくい。本当に、どうしてこの事態が本土に伝わってないんだろうか。

「お」

 当たりが来た。考察は保留。リールを巻く時間だ。今度の引きは結構強い。これは期待でき――え?

 聞こえてはいけない音が聞こえた気がした。遅れて、着弾の音と震動が追いかけてきて、それが聞き間違いでなかったと知る。土煙があがっているのは後方の一区画。何もないはずの場所だ。

 何者かによる砲撃――いや、誰の仕業かなんて分かりきっている。沖合を見れば、忌まわしい影が1つ。深海棲艦。この世界の人類の敵だ。

「艦首の形……駆逐イ級。緑ってことはノーマルか」

 外見から艦種を推察する。まさかこんなすぐ近くに連中がいるなんて。ここをやったのは奴か? いや、あいつの砲の口径じゃ単艦では無理だろう。まだ他にもいそうだ。

 竿を投げ捨てて、走る。こうなったら逃げることしかできない。深海棲艦に対抗できる携行兵装なんて持っていないし存在しない。あれらに対抗しうるのは、現時点では艦娘だけだ。

 そして、人間が1人もいないこの島に、本来部下となるはずの艦娘はいなかった。駄目だ、もう積み――

「いや、まだ望みはある!」

 被害確認をしていなかった工廠。あそこに資源が残っていて、建造ドックが生きていれば! 海兵科出身なら、まずは身の安全の確保のために艦娘の建造を考えただろうに! 自分が「生きていく」ことを優先してしまったのが失敗だった!

 工廠へ向かって走る。間に合うかどうか分からない。でも諦めることだけはしない。生きている以上、最期まで足掻く!

 破れた壁から工廠の中へ。目に入った内部は予想どおり荒れている。

 ただ、予想に反したものもあった。機能を失っているドックの中、艦娘建造用ドックだけが1隻分、作り上げたばかりのような状態でそこにあった。

「うおっ!?」

 そしてそこに、たくさんの妖精が集まっていた。一仕事終えたような満足げな表情を浮かべている。まさか、皆がドックを整備してくれた? でも俺は指示してない。まさか自発的に?

 どういうことかと考えていると、彼女らの中から第二種軍装姿の妖精が出てきた。

「相棒!」

 それは俺と一緒にこの島に来た妖精だった。『視える』ようになって以来の付き合いである相棒は俺を見て、やれやれと肩をすくめる。俺が自分の事で一杯だった時、こいつは自身にできることをしてくれてたんだ。

「ありがとう」

 礼を言うと、相棒はこちらに拳を突き出し、親指を立てた。本当に、よくできた相棒だよお前は。

 相棒が後ろを向き、妖精達へと何やら言う。今の俺は見ることはできても声を聞けないので、何を言ってるかは分からない。ただ、妖精達は相棒の指示の下、移動を開始した。そちらには資源がいくらか見え、妖精達はそれを艦娘建造用ドックへと運び始める。

「いける、のか?」

 思わず漏れた呟きに、相棒がニヤリと笑って頷いた。可愛い容姿の妖精なのに、何故か頼もしく見えた。

 次々と艦娘建造に必要な4種類の資源資材を運んでくる妖精達。しかし、そこから先の動きがない。何故かじっと俺を見て……あぁ、そうか。そうだった。ここは鎮守府で、俺は提督だった。だから、こう言わなきゃだ。

「建造1隻! 大至急!」

 それを待っていたように、妖精達が資材を建造用ドックへと放り込んでいく。

 資源を運ぶ者、積み上げていく者、バーナーを持ってきて準備する者。それぞれ妖精達が動く中、相棒がこちらへとやってきた。そして両手を差し出してこちらを見る。その手には何もない。

「何か欲しいのか?」

 問うと、頷いた。欲しいって、この状況で何が? いつもならお菓子を分けてやったりすることはあるけど、今はそういうのじゃないよな?

 困っていると、相棒が俺を指した後で、自身の胸元を叩いた。胸元……もしかして?

「これか?」

 心当たりを制服の下から取り出す。首から提げていた、曾爺ちゃんからもらった無地の小さな袋だ。

 頷いたのでそれを渡すと、相棒は走って行き、作業員風の妖精にそれを渡した。色々と指示を出していたから、班長的な妖精だろうか。

 まるで大切な物を預かるように班長妖精は恭しくそれを受け取り、袋から中身を取り出す。そういやあの中身、何だったんだろう? 御守りとしてもらってから、一度も見たことはなかったっけ。ここからじゃよく分からない。

 班長妖精の合図で、積み上げられた資源が、何故か高速建造材と呼ばれているバーナーで炙られた。少しずつ形を失いながら、それらは光へと変わっていく。研修で建造の過程を見た時とは違う光景だ。高速建造だとこういう流れなのか。弾薬や燃料がこれで誘爆しないのが不思議だ。

 班長妖精が御守りの中身を素材の山に投入した。あれ、大丈夫なのか? 変な物を混ぜて失敗したりしない?

 不安をよそに作業は進み、光が次第に形を作っていく。それはまるで艦の模型のようだ。段々と形が定まっていくそれには既視感があった。これと似たような物を、どこかで見た覚えがあるような……

「うわっ!?」

 遠い砲声の後で爆発が起き、ドックの壁が吹き飛んだ。イ級の砲撃が命中したようだ。偶然か、それとも狙われたのか。間に合うか!?

 光の変形は終わり、艦娘用建造ドック内に艦船が顕現していた。光の艦船模型とでも言うべきものがそこにある。それは一際強く輝きながら、更に形を変えていく。

 言葉を失ってしまう。まず目に飛び込んできたのは、艤装と呼ばれる艦娘の武装だ。左右と背中で巨大な三連装砲塔が三基。それに隠れて艦娘の姿がよく見えない。

「退避を。物陰に隠れていてください」

 艤装の向こうから声が聞こえた。どこかで聞いたことがある? いや、この艤装はどこかで見たか?

 そんな疑問とは別に、湧き上がってくるものがある。それは、彼女に任せておけば絶対に大丈夫という、何の根拠もないはずの信頼感。彼女がそこにいるだけで不安は消え、身体の奥底から活力が生まれてくる。

 動けずにいると、相棒が艦娘へと走って行く。そして、艤装に飛びついたかと思ったら、その姿が吸い込まれていった。艤装の使用には艦娘と妖精がリンクする必要があると聞いたことはあるけど、何故、それを相棒が?

「早く!」

 再度、艦娘からの声。我に返り、後ろに下がって、木箱の陰に隠れて様子を窺う。

 砲塔が動き、砲身も微妙に角度を変えていく。彼女からはイ級の姿が確認できるんだろう。砲撃の態勢に入っていた。

「戦艦大和。推して参ります」

 静かな、それでいて力強い声が、ドック内に響いた。大和? 大和って、あの、戦艦大和か!?

 直後、砲撃音が轟き、衝撃と砲煙が広がり。

 突っ込んできた巨大な艤装で目の前がいっぱいになったところで、俺の意識は飛んだ。

 




こんな感じで、不定期に書いていこうと思います。
趣味に合えば、気長にお付き合いください。
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