離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第10話 再建開始

 

 調査隊到着2日目。

「だいぶ形になってきたな」

 目の前にある建物を見上げて、進捗に満足する。

 この建物は、艦娘用の官舎だ。増員するにしても寝床がないと話にならない。だから最優先で作ってもらうように妖精さんにお願いした。ひとまず4人部屋が4つもあれば、当分は大丈夫だろう。急いで艦隊規模を大きくするつもりはないし。大和達も、倉庫改からもう少しいい場所で寝起きできるようになる。

「昨日の時点では基礎までしかなかったのでは?」

「うん。昼夜関係なく作業してくれてたみたいだ」

「それにしても早い気がします。妖精の能力が高すぎませんか?」

 忙しそうに働いている妖精さん達を見ながら宮君が呆れたような声を出した。

「チャーハンが食えると思って頑張ってくれてるのかもしれん」

「そういえば、艦娘への給料はあっても、妖精への手当は何もありませんでしたね。特に要求されることもありませんでしたが」

「艦娘が個々で対応してるってのが一番多そうだ。まあ、給料は無理でも何かしらの報酬を渡せればいいなとは思ってるよ。チャーハンは気に入ってもらえたみたいだから、今日は気合い入れないとな」

「たのしみです」

「そうかそうか……ん?」

 今の声は? 宮君、のものじゃない。そもそも彼は隣に立っているのであって、足元から声が聞こえるわけがない。

 視線を下げると、レンガを運んでいる妖精さん2人。

「今の、お前達か?」

「なのです」

「きあい、いれて、いきます」

 ぺこりと一礼して、妖精さん達はレンガと共に去って行く。

「……なあ、宮君。今、妖精さんが喋った気がしたんだが」

「喋りましたよ。いつの間に声が聞こえるように? 昨晩は無理でしたよね?」

 そうなんだよなぁ。宮君が通訳してくれたわけだし。

「皆斗は本当に面白い人ですね。不思議なことや驚くことが次々に起きます」

「俺が引き起こしてるみたいに言われても困る」

 原因不明なんだ。俺のせいじゃない……よな?

「ですが、これ程までに作業効率が上がるなら、妖精への報酬というものを正式に取り入れてもいいと思えます」

「んー……よその妖精さんがどうなのか、俺は知らないからな。相棒なんかは、たまにお菓子とかあげると喜んでくれたけど」

「そういう気配りが、妖精との繋がりを強くして、声が聞こえるようになったのかもしれませんね」

「まあ、ここに来てから共に生活してきた仲間だから。普通に話ができるようになったのは嬉しいな。あ、でも、コミュニケーションツールについては言われたように提案してみるつもりだぞ」

「既に案ができているのですか?」

「妖精さんが操作できるタイプライターかな」

 キーボードとモニターのセットみたいなのを考えてる。ちょっと大きくなるけど、押したキーに対応した文字が点灯する感じで。それなら人間にも読みやすいだろうし。

「妖精さんにトンツー覚えてもらうよりは――って妖精さん、トンツー分かるんだっけ?」

 そこまで言って、その可能性を失念していたことに気付いた。

「日本語は読めるようですが、そちらは……どうですかね?」

 でも、もし読めるなら、既に利用できるツールはあったってこと? それを日本語に変換表示できるほうが、日本語キーをあれこれ叩くより通話の速度は上がるか? これも候補に入れとこう。俺自身にそれが作れるわけじゃないし、そういうのは得意な奴に丸投げだ。

「ていとくさん。ようかん、ありがとうございました。おいしかったです」

 別の妖精さんが寄ってきて、礼を言ってくれた。ついでだから聞いてみるか。

「それはよかった。ところで、妖精さんってトンツー……モールス信号分かる?」

「わかるこもいます」

「日本語の読み書きは?」

「ぜんいんいけます。あ、てばたもです」

 そういうことらしい。礼を言うと、とてとてと走って行く妖精さん。

「手旗もいけるってさ」

「……それが一番早いのでは?」

 妖精さん用の旗を作るだけでいける。手旗なら、海軍軍人なら誰でも読めるだろうし。何でそれに気付かなかったかね、俺達。2人して同時に溜息をついてしまった。

「ツールはまあ、もう少し煮詰めるとして、今はできることをやろうかね」

 側にあった鉄帽を作業用ヘルメットがわりに被る。

「俺は建築の手伝いするから。調査関連で聞きたいことがあったら声をかけてくれ」

「何をするつもりです?」

「建築資材の搬入。俺が重機を使ったほうが、妖精さん達が運ぶよりも効率的だ」

 それで完成が早まるなら、やるべきだ。

 

 

 

「できたー!」

 妖精さんの1人が声をあげ、それに複数の声が続いた。艦娘用官舎(仮)が、建物だけは完成した。内装やら配線やらを整える必要はあるけど、雨風を凌ぐだけなら問題ない。多少の不便はあるものの、生活そのものには支障ないだろう。

「平屋建てとはいえ、ほぼ1日で……」

 出来上がった建物を見て宮君が感心している。

「屋根は木造で簡易にしたからな。これで衣食住だけは最低限保証できるようになった。艦娘の受け入れ準備が整ったぞ」

「では、明日にでも建造するのですか?」

「ああ。宮君達がいる間に建造して、ついでに演習で鍛えてもらえるとありがたい」

 建造したばかりの艦娘は、戦う力を持ってはいるものの、技量が高いとは言い難い。普通は実戦経験を積み重ねることで練度――強さが上がっていくけど、艦娘同士の演習による模擬戦闘でもそれは可能で、しかも安全だ。

「そうですね。実際に海で深海棲艦と戦う前に、ある程度鍛えておくほうが安心できるでしょう」

「よろしく頼む。さて、しばらくはこれで我慢してもらうか。ちゃんとした官舎はあらためて、だ」

「まさか、これが仮なのですか?」

 ギョッとした顔を宮君が向けた。当然でしょう。

「官舎自体は二階建てにするつもりだ。そっちが完成したら、ここは別の用途に使うよ」

 その時は屋根も改修して、集会所にでもするつもりでいる。

「ていとく、おふろかっこかり、たてものはかんせいしました」

「ああ、ご苦労様」

 報告に来た妖精さんに労いの言葉をかける。また仮、と宮君が呟くのが聞こえた。

 今まではドラム缶風呂よりはマシ、程度の簡易版だったしなぁ。ちなみにそんな簡易風呂1號でも、作戦中に風呂に入れるとは思っていなかったと日向達にも好評だった。まあ(仮)は銅管等ででっち上げた1號の給湯能力じゃ足りないだろうから、使えるようになるのは彼女らが去った後になるだろう。それまでは1號に頑張ってもらおう。水道のほうも仮復旧はできそうだから、風呂は解禁でいいだろう。

 いずれはドックに風呂は無理でもシャワーくらいは併設したいな。海に出たら潮でべたつくだろうし、そのほうが都合がいいだろう。

「本庁舎の前に、官舎と風呂なのですね」

「衛生面と艦娘の士気向上のために云々」

 という建前で、本音は俺だって広い風呂に浸かりたいからというのは秘密だ。

 っと、そろそろメシの準備をしないと。

 

 

 

 本日の献立は、チャーハン、焼き餃子、野菜炒め、中華風スープの4品。漬物はお好みで。

 宮君達の分はこっちで作ると無理を言ったので、餃子は多めに作って、調査隊の人達にも差し入れという形で提供することにした。どのタイミングで渡そうかと聞いたら、酒のつまみにするので焼かずにいただければ、と申し立てたのでそのまま渡している。

 こちらはチャーハンとスープを各自に。餃子と野菜炒めは大皿に盛った。久々に使いたい食材を存分に使えた調理だった。新鮮な野菜が使えるというのが嬉しい。

「それでは、いただきます」

 配膳を終え、合掌し、いただきますを唱和する。評判を聞いていたからか、宮君達はチャーハンから。大和と吹雪は野菜に目が行ったのか、野菜炒めに手を伸ばした。

 宮君の表情が綻ぶ。日向が目を見開き、加賀がコクコクと頷き、那智と矢矧が唸り、陽炎がうまっと呟き、初月が無言で2口目に入った。よし、好感触。

「「お野菜、美味しい……」」

 大和と吹雪がしみじみと呟いた。結構作ったからな、しっかりお食べ。

 妖精さん達の分は既に引渡済だ。一通り渡したけど、餃子や野菜炒め、どうやって食べてるんだろうか。うまい具合に切り分けたりしてるのか? 胃袋がどうなってるのか、そもそもあるのかどうかも知らないけど、餃子の皮だけで彼女らには結構な量になりそうだからな。彼女らの口に合わせたサイズを作るのは無理なので仕方ないけど。

 警戒当番の妖精さん達には、別にチャーハンおにぎりを作っている。任務交替の際に渡すつもりだ。スープはその時に温めてあげよう。

「皆斗が作った本格的な料理を食べたのは初めてですが、これは美味しいですね」

「烹炊所の手伝いは訓練航海中にも入ったけど、宮君に供したのは初めてだな」

「私の好みに合っているのもあると思いますが、うん」

 言いつつまたチャーハンを1口する宮君。日向達は餃子や野菜炒めに手を出し始める。こちらもいい反応が見られた。というか加賀と初月が黙々と食べている。

「あの時のも美味しいと感じましたが、今日のほうが美味しいです。食材と設備でここまで変わるのですね」

「おいひぃれふ!」

 大和が微笑み、吹雪がチャーハンを頬張ったままキラキラした目をこちらに向けてきた。こらこら、口の中の物が無くなってからにしなさいな。

 調理中に味見をした時も思ったけど、こうして食べてみると自分でも満足のいく出来だ。やはり火力が重要か。いずれ食堂も作るけど、調理機器には妥協しないようにしよう。間宮が来てくれるなら腕でカバーしてくれるだろうし、俺の出番もないかな。でも、たまには自分で作っておかないと腕が鈍りそう。できることはその技量を維持しておきたいものだ。

「そろそろ、食べる分だけ確保しといたほうがいいかもなー」

 食べ尽くすウーマンと化している2名を見ながら言うと、皆が慌てて自分の分を確保し始めた。ここまで旨そうに食べてくれるなら、調理した甲斐があったというものだ。量が少なかったか? おかわりは……やめとこうか。際限が無くなりそうだ。

 それにしても加賀は分かるけど、初月は意外だった。無言だけど旨そうに食べてるからいいか。というか必死?

「しかし、北星提督はどうしてこれ程の料理を作れるように?」

 手を止めて那智が聞いてきた。

「元々、義母(はは)に基本的なことは仕込まれてたんだ。家事の手伝いとかよくしてたから」

 引き取ってくれた恩を返すため、ってのもあって、色々と教わった。男子がそこまでしなくても、とは言われたけど、未来ではそんなでもないって押し切ったっけ。

「で、学生の頃は野営が趣味になって、そっちでも自分でメシを作って」

 手の込んだものは無理だったけど。その経験が今回の生活でも活きた。

「で、経理科に入ったら、厨業管理について学ぶわけだけど。そこでもたまに実習はあったし。そういう積み重ねで気付いたらこんな感じに」

 まさに継続は力なりというやつだろう。

「そういえば大和。材料も設備も整ったな」

「あ、そうですね」

 餃子を美味しそうに食べていた大和が箸を置いた。タレはラー油がないから酢や醤油、唐辛子等で作ったそれっぽいものだけど、問題なさそうだ。

「材料を一通り確認してみないと分かりませんが、何かしら作れると思います」

「大和も作れるの?」

 矢矧が驚いたようだった。まあ、と大和が頷く。

「割烹手の記憶を受け継いでるから、作れそうって話になったのが最初で。ここで少しは作ってたけど、記憶のレシピについては一緒にやってみるかと提督に誘っていただいたの」

「「「「「「記憶……」」」」」」

 宮外艦隊の皆が考え込む。あ、と納得する者、落胆する者と様々だ。同じ艦でも全員が全ての同じ記憶を引き継ぐわけじゃないみたいだしなぁ。しかし、料理に興味があるのか。だったら乗組員の記憶に頼る必要はないぞ。

「お前達、料理は難しいとか思ってないだろうな? 何のためのレシピだと思ってるんだ?」

 え、と皆の顔がこちらを向いた。

「器具があって、材料があって、レシピがあれば。そのレシピが間違ってない限り、その通りに作ればできるようになってるんだ。器用さが必要な部分は仕方ないにしても、見栄えは悪くなろうとも、味が劇的に変わったりはしない。然るべき手順で然るべき物に然るべき処理をするだけなんだから」

 余計な事をしなければ、簡単な料理で失敗したりはしないのだ。

「ただし、決して忘れてはいけないことはある」

 人差し指を立て、1人1人を見て、きっぱりと言う。

「必ず味見はしろ。特に人に食わせるものなら、自分が食って納得いくものでなきゃ駄目だ。食べてくれた人の渋面や無理した笑顔なんて見たくないだろ?」

 創作物とかでよくメシマズとか殺人料理とかあるけど。あれ、調理した人の味覚が壊れてない限り、普通は味見した時点で終了なはずなんだよな。

「あとは味の好みの問題だから、そこで合わなかったら仕方ないけど、まずは自分の好みのものを何か作ってみればいいんじゃないか。一度作れれば、後は調整でどんな味にもできるだろう」

 なるほど、と頷く宮外艦隊。うちの大和と吹雪は普通に料理できるから、その辺は理解してるだろう。

「覚えとけば、小腹が空いたら自分で作ればいいし。俺達みたいな状況に陥っても士気と健康の維持に役立つぞ」

 彼女らが頑張るとすれば、宮君のためなんだろうなとこの数日接してきて思う。ぜひ、旨いものを作ってやってくれ。

 

 

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