調査隊到着3日目。
調査のほうは順調で、調査員の皆さんはあちこち動き回っている。問い合わせは頻繁にはない。先に資料を作っていたのが役立ったようだ。
ちなみに昨晩の餃子は好評だった。ヨシ。あと、怪しい動きもなし。ここまで何もないなら信用してもよさそうだ。念のため、島を出るまでは今の体制を継続するけど。
今日は何をするかというと、艦娘の建造だ。これで鎮守府としての戦力を形だけでも揃える。
「何隻建造を?」
「6隻建造で、重巡と軽巡が1隻ずつ、駆逐が4隻来てくれたら理想だな」
宮君の問いに、そう答える。バランスを考えればそんな感じでいいだろう。
「1艦隊ですね。戦艦と空母は?」
「大和がいるし、空母の運用には資源が心許ないから、今はこれで十分」
ボーキサイトは他の資源より入手しにくいし、今の体制だと任務を受けて資源を確保するのは難しい。
「大和と吹雪を入れるなら、2隻減らせるのでは?」
「しばらくはこっちの補佐をしてもらうつもり。それに、希望どおりに建造できるとは限らないし」
何せこの建造というシステム。資源を投入したら妖精さん任せで、任意の艦を建造できるわけじゃない。資源の配分で傾向が変わるらしいけど。
「戦艦のポジションは、今の大和では厳しくありませんか?」
「本来の主砲は一応撃てるんだ。反動で後方に吹っ飛ぶけど」
「それは……すみません、見たいと思ってしまいました」
ツボに入ったのか、宮君が笑いを堪えている。それで轢かれた身としては、笑えないんだよなぁ。
「実際、どの程度までの負担になるかとか、検証はしておきたいのはあるんだ。使わざるを得ないこともあるかもしれないし。まあそれは後でするとして、まずは6隻建造といこう」
艦娘用建造ドックは妖精さんの尽力で現在は2つ稼働している。2隻ずつ建造可能だ。
「まずは駆逐艦狙いで資源は最低限。高速建造材の使用を許可する。建造開始」
指示を出すと、妖精さん達が作業を開始する。高速建造材を使うから、ドックに資源を放り込んで炙るだけだ。
資源が光と化し、艦の形になっていく。
「ん?」
デリッククレーンが1、2……5!? もう1隻は艦の前後に単装砲とデリックが1基ずつ!? マジかよっ!
やがて光の艦は人の形をとり、艦娘となった。はぁ、と宮君が溜息をついた。
「手配不要になりましたね」
まさかまさか。引きが良すぎるだろう。俺がここに呼びたいと思ってた艦娘が、いきなり来てくれたのだ。っと、いかん、まずは確認だ。
「んんっ……明石、それから間宮で間違いないだろうか?」
「はい。工作艦、明石です」
「給糧艦、間宮です」
戸惑いつつも、2人は名乗った。
「ようこそ、明石。そして間宮。私が当鎮守府を預かる艦娘提督である北星皆斗だ。正直、混乱しているだろうし、聞きたいこともあるだろうが、状況については他の者が揃ったら一度に説明する。済まないが、少し待っていてくれ」
ドックから上がってもらい、次の建造に入る。
って、またクレーンが多いの来たな! もう1隻は駆逐艦ぽいけど。
「給糧艦、伊良湖です……」
「特型駆逐艦、2番艦、白雪です」
そしてまさかの給糧艦2隻目……いや、確かに欲しいと思ってたよ? でもさ、戦力を建造しよう、って時に出てくるとは……駆逐艦の白雪は、いいんだけど。
再び上がってもらって、建造の続き。とにかく戦闘艦を6隻揃えねば。
結果は、軽巡洋艦の天龍と球磨、駆逐艦の響、三日月、暁。結局予定より3隻も多く建造してしまった。
「この流れだと、大淀あたりも来るのではないかと思ったのですが」
「来なかったな」
どこの鎮守府にもいるという軽巡洋艦の大淀は来なかった。もっぱら事務の補佐をしてくれる艦娘みたいだから、ここで来られたらもう1隻追加で建造する必要があったかもしれない。
さて、ともあれ揃ったので始めるとしよう。
「ようこそ。改めて自己紹介をする。大日本帝国海軍少尉、艦娘提督の北星皆斗だ」
ここで何名かが首を傾げた。うん、少尉が提督ってわけ分からんよね。でも、もう少し待ってくれ。
「君達のことを私達は艦娘と呼称している。艦船の娘で艦娘だ。沈んだ艦船の分霊が、人の姿で顕現したものと私達は認識している。艦娘提督というのは、艦娘の指揮官としての役職であって、艦隊の司令官である提督とは別ものだと思ってほしい。何故そうなったかについては後で述べる」
困惑はあるものの、ここまでは受け入れてくれたようだ。では続きといこう。
「ここは大日本帝国海軍、横須賀本鎮守府所属の桃箭島鎮守府だ。当然、君達の中に、ここの情報はないだろう。それは当然で、ここは君達が艦であった頃の、君達が戦ってきた世界ではない。響」
駆逐艦娘の名を呼ぶ。
「何だい?」
「この世界、我が帝国は無条件降伏していない」
へぇ、と響は片眉を上げる。他の艦娘達は敗戦したことに驚いていた。何せ今日ここで建造した艦娘の中で、終戦まで生存していたのは響だけ。つまり、自身が沈んだ後の情報を、彼女らは持っていない。だから、太平洋戦争の結果を知った艦娘達は、大抵動揺し、落ち込む。皆も例外ではなかった。でも、今までのどの艦娘も、戦争の結果は知りたがった。事実は事実として伝えないと話が進まないし、申し訳ないが説明を続ける。
「この世界も途中までは君達の世界と同じ歴史を辿っていた。それが変わった原因が、君らも知っているであろう、倒すべき敵の存在だ。深海棲艦――深い海に棲む艦と呼称しているそれらの出現で、国同士の戦争どころではなくなったのがこの世界だ。深海棲艦に対し、人類の兵器は通用せず、連戦連敗。東南アジア方面の影響力は消滅し、史実のように沖縄まで侵攻の手が伸びようとした頃、戦場に初めて艦娘達が現れた」
この世界の、この戦争の転機だ。これがなければ、帝国は滅びていただろう。
「第零艦隊と今は呼ばれている、非戦闘艦を含めた総勢16名の艦娘により、深海棲艦は倒された。ここで帝国と艦娘が接触したわけだ。交渉が行われ、帝国と第零艦隊の間で協定が結ばれた。これにより、艦娘は帝国海軍の指揮下で戦うことになり、帝国は艦娘達が戦うための支援を行うことになって、現在も深海棲艦との戦争は続いている。大雑把に説明するとこのような感じだ」
一息ついて、皆を見る。
「協定は今も有効で、何かあれば都度更新もされている。ただ、君達が協定に従うか否かは君達の意志だ。誰の力も借りず、人間に危害を加えずに深海棲艦と戦い続けられるというならそれでもいい」
「現状、協定とやらに従うしか選択肢がねぇじゃねぇか」
面白くなさそうに天龍が口を開いた。補給が欲しけりゃ指揮下に入れ、とも受け取れるからなぁ。そういう面があるのは事実だろう。
「そうだな。冷静に見れば、半強制と言ってもいいくらいだと個人的には思う。だから、私は私にできる限り、君達の力となりたい。それが艦娘提督としての務めだと思っている」
力のない俺達のために戦ってくれる艦娘達に、最大限の支援を。それができずに何が艦娘提督か。
「どうか、君達の力を私に、私達に貸してほしい。世界は違えど、同じ帝国の――いや、この地に住む国民達のために」
ばっ、と皆が一斉に敬礼した。不満げだった天龍ですらだ。何か条件反射じみてる気がしてきたぞ……俺の言い方が悪かったか? でも、彼女達の意志は嬉しかった。
答礼し、ありがとうと言葉にして礼を言う。彼女達は応えてくれた。だったら、俺もできることをやるだけだ。
「では、これからこの世界についてのもう少し詳しい説明を行う。どちらに任せればいい?」
大和と吹雪を見る。大和もできるようになっているから、どちらでも構わないんだけど。
「では、吹雪さんで」
「分かりました」
大和が立候補するかと思ったら、今回は吹雪がやるようだ。大和としては、知識として知った上で、吹雪のやり方を参考にしたいんだろうか。一度見ておけば、自分の時にやりやすくなるはずだし。
吹雪は吹雪で気合いが入っている。いや、少し嬉しそうな感じが……って、そうか、白雪は姉妹艦だったな。
俺もしっかり聞いておこう。ひょっとしたら今後俺が説明役をすることもあるかもしれない。
説明を終えた後は小休止し、今度はこの鎮守府の状況についての説明だ。特に今は非常事態。置かれている状況は正確に伝えておかねば。説明には前もって作成しておいた資料を配付した。本当は人数分作ったんだけど、増員されたので足りなくなった分は、複数名で見てもらった。
「そんなわけで、今現在、再建作業中だが、しばらくは不便をかけることになる。できる限り早急に、君達の生活環境を整えるので、勘弁してほしい。とりあえず艦娘用の官舎は昨日完成した。内装は未完成だが、寝起きには支障ない。説明が終わったら、そちらに移動してもらう。4部屋あるので、部屋割りは任せる」
合計11人だから、1部屋2~3人。そこまで狭くは感じないだろう。
「吹雪さんはどうします?」
「えーと、私も官舎に移れるなら移りたいです」
大和の問いに、吹雪は白雪を見た。積もる話もあるだろう。この2人は同じ部屋確定かな。
「移るということは、別の官舎もあるんですか?」
「現在、本庁舎が全壊しているため、提督は仮庁舎を兼ねた倉庫に寝泊まりしています。私と吹雪さんはその隣の倉庫で生活しています」
「倉庫ですか!? あの、司令官を差し置いて、三日月達が官舎なんて、いいんですか?」
恐る恐る、といった感じで三日月が聞いてくる。他の数名も申し訳なさそうな顔だ。
「構わない。私にはできないことをしてくれる君達の居住環境のほうを優先するのは当然だ。私自身は不自由はないので、気遣いは不要だ。それに、女性が寝起きする建物に男の私が入るわけにもいくまい。使ってくれないと、最優先で頑張ってくれた妖精さん達に申し訳ない」
彼女らも、艦娘達のためならばと頑張ってくれたんだ。使われなかったら泣くかもしれない。
「あの、さっき、本庁舎が全壊って聞こえたんですけど」
明石が小さく挙手しながら聞いてきた。
「さすがに、そっちは急いだほうがいいのでは? 体裁は大事ですよ?」
「ここの状況は既に本鎮守府に報告済だ。それを承知でやって来てケチをつけるようなお偉方はいない。多分」
いや、いるかもなぁ。まあ、それはいいんだ。
「通信機材が届くまでは、本庁舎は使えなくても問題ない。いや、届いても別のところに設置すればいいんだが、いずれにせよ本庁舎を建て直すだけの建材が現時点では足りない」
倉庫の復旧や官舎、風呂場の新築に使った建材? 知らない子ですね。
「そういうわけで、官舎は心置きなく使ってくれ。それでは次にここでの役割を振る。まず明石」
「はいっ」
「当分は、鎮守府再建用の建材の不足分を製造。ドックと工廠の運用も任せるが、新規建造及び開発は別命あるまで停止。理由は先程伝えたとおり、資源の都合だ。それから酒保用物資の管理も頼む。酒保の場所は後日確保するが当分は工廠を使ってくれ」
「分かりました」
「次に間宮と伊良湖」
「「はい」」
「君達には食事関係と生活関連全般を。調理設備は現在整えている最中なので、少しの間不便かもしれないが、よろしく頼む。食堂も建築予定だ。あとは……無線の動きを追ってくれ」
この2人、給糧艦としてだけではなく、無線監査艦として活動してたこともある。無線を適正に使っていないと、ここからお偉方に伝わって、お叱りを受けるわけだ。今はここの無線設備はないけど、この島周辺で電波を飛ばしてる奴がいないとも限らない。つまりは防諜だ。
真剣な表情で2人は頷いた。
「巡洋艦及び駆逐艦は、しばらくは演習をしてもらう。練度の向上に努めてくれ。相手はこちらの艦娘提督、宮外大尉の艦隊が受け持つ」
「北星提督とは同期の間柄です。この島の異変に係る調査隊の指揮を任されています。少しの間、お世話になります」
宮君を紹介すると皆が敬礼する。同じ艦娘提督でも彼のほうが俺より階級は上だからね。礼を失することのないように。
「大和と吹雪は秘書艦として私を手伝ってくれ」
「「は「大和ぉ!?」」」
天龍の驚きの声が、2人の返事を掻き消し、皆の注目を大和に集めさせた。
「はい。大和型戦艦1番艦、大和です。何か?」
ニッコリと大和が笑う。おかしいな、普通の笑顔に見えるのに、背筋が寒い。目が笑ってないとかなら分かるけど、何故だ。
「いや、何か思ってたより、なんつーか」
「諸事情があり、不完全な状態です。こんなでも既に戦果は挙げていますのでご心配なく」
「お、おぅ」
気圧されたように天龍が一歩下がり、その事実に気付いたのか表情が歪む。
「さて、これから宿舎に案内する。それから鎮守府内の施設もだ。調査員達や妖精さん達の作業の邪魔にもならないように。特に妖精さんは足元を忙しなく動いてるから気をつけてやってくれ」
っと、そうだ。忘れてた。
「鎮守府内の規則的なものは、またあとで伝えるが、2つだけ、今の内に言っておく。ないとは思うが、まず私闘の禁止。それから……欲しい物や要望があれば申し出るように。無理なものは理由を添えて無理と言うし、できることなら便宜を図る。だから――俺の鎮守府で
通常運営できてるなら、ちょっとくらいは目こぼしするけど、今は駄目だ。いや、厳密にはちょっとくらいも駄目なのだ。盗まれるのが悪い? 盗んだほうが悪いに決まってるだろ! 吊すぞ!
「間宮、伊良湖、それから明石。何かあったら直ちに報告するように。いいね?」
ゆっくりと深呼吸してから続けると、慌てて3人が首を縦に振った。駆逐艦の何人かの顔色が悪い。あれ、そんな怖い顔してた? 怖がらなくても、しなけりゃ問題ないんだからな?
その前に、ギンバイなんてする必要がない体制を整えるのが俺の責務だけどさ。