離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第12話 艦娘大和1

 

 施設案内後は、駆逐艦と軽巡洋艦の面接を行った。艦娘として顕現した時点で持っている知識の確認だ。艦としての経歴を覚えてる限りで話してもらい、それを記録として残す。

 今までに現れた艦娘達の情報は蓄積されていて、他の同名艦との差違がないかを確認したりするわけだ。もっとも、今では『特筆事項無し』だけの報告がほとんどとのこと。そりゃ時間が経つにつれて新しい情報は出てきにくくなるのは当然だ。ただ、最初から結論ありきでろくに聴取をしていない例があるという噂もあったり。面倒と言えば面倒ではある。ただ、自分が預かる艦娘の人となりを知るいい機会だと思うんだけど。

 今の鎮守府に各艦の資料は置いてないので、一通り全部を聴取した。自分が覚えてる限りの情報とは特に差違はないと思われる。後日、本鎮守府から資料を送ってもらって突合しないと。

 彼女ら個人についての話をそれなりに聞いてみて、特筆することがあるとすれば、白雪に海軍経理学校の修学知識があったことか。烹炊関連が主で、主計も少しは知識があるらしく、主計及び烹炊の補助員に任命した。

 それから天龍。元々威勢がいい性格であるものの、少し好戦的な気がする。とにかく戦いたいようだ。準備をしっかりしてからのほうが、より暴れられるぞと宥めておいたけど、適度にガス抜きが必要かもしれない。

 

 補助艦艇にはそれぞれの役割にかかってもらった。

 食事は早速間宮と伊良湖に任せることに。さすが給糧艦と言うべきか、良い仕事をしてくれた。これで食事は食材がある限り大丈夫だ。

 補給の懸念は伝えてあるので、自給自足も視野に入れることを相談している。

 家畜を飼うことも提案してみるか。幸い、島には野生の肉(イノシシ)がいる。あれを捕獲し、家畜化できないものか。間宮って屠殺施設もあったと聞くし。

 あとは鶏。卵が入手できるならありがたい。世話が大変になるかもだから、無理はできないけど。

 生け簀は急ぎではないけど作ることに。人数も増えたし、釣った魚が余ることもなさそうだから使わないかもだけど、趣味で釣ったのを自分で食べるまで生かしておくとか、いいじゃない。

 野菜とかは今度育ててみるかな。

 

 官舎の部屋割りは軽巡、給糧艦、駆逐艦2部屋に分かれた。吹雪はそちらに合流。

 明石は工廠の医務室を使うとのこと。いつ使うことになるかも分からない医務室を占有されるのもアレなので、仮眠室を作ってあげようか。

 大和? 彼女なら俺の隣の倉庫のままだよ。あまり無理はして欲しくないんだけど。色々と背負い込みすぎじゃないかなぁ。

 

 

 

 調査隊到着4日目。

 今日は妖精さん達の建築作業の手伝いではなく、提督としてのお仕事。

 明石が着任できてから、と思っていたら昨日の建造で来てくれたので、さっそく始めることにする。

 それは大和に関する検証。本来の姿で顕現しなかった上に、俺と妙な繋がりができてるイレギュラーな艦娘。そんな彼女をより詳細に調べようというわけだ。

 今回検証することは、大和の基本性能部分。それから、俺も関わりがある無線関係。あとは大和の本来の艤装である主砲関係といったところ。

 まずは基本性能を計測したところ、戦艦並みの防御力を持つ重巡、といった感じのようだ。本来の艤装だと機動力が落ちるので、重巡用の中口径砲を準備すればよさそう。新規建造時に期待してた重巡火力がこれで確保できそうだ。

 次は無線関係。大和の艤装展開時に使用可能。正確には、大和の頭部艤装さえ展開してあれば、使えるようだ。

 1対1だけでなく、複数名でもOKで、呼びかけた相手のみと繋がり、間宮と伊良湖の無線検知にも引っかからない秘匿通話と判明した。部外者が来た時に裏側で秘密の相談とかに利用できる。

 大和が中継点と思われるのに、俺と他の艦娘の通話は大和も傍受できないことも判明。

 通話距離は大和を起点に半径10kmくらいが圏内っぽい。島内でしか運用することはないだろうから、これでも十分だろう。

 

 そしていよいよ主砲の検証。

 大和が主砲を展開し、海面に立っている。それを見ているのは俺と明石、そして宮君と日向、矢矧だ。

「それでは、始めてください!」

 明石の号令で、大和の右舷主砲1門が火を噴いた。背後にまっすぐではなく、右側から後ろへ引っ張られるように大和が下がる。あれ、負荷が妙な感じに掛かってないか? 大丈夫なんだろうか。

「大和、異常は?」

『現時点ではありません』

 無線で問うと、そのような回答。大丈夫ならいいんだけど。

 続いて、左舷だけ射撃。結果はさっきと逆だ。

 3回目。今度は全ての砲塔を1門発射。今まで以上に後ろへと下がったものの、俺が轢かれた時よりは短い。あの時は確か全砲門斉射だったか。

「戦艦はあれだけの反動を普段は抑え込んでいるのですね。たいしたものです」

 宮君が感心したように呟いた。航空戦艦である日向の表情が誇らしげだ。

「反動を抑えるのは無理、と判断するほかないですね。ですが、異常がないならこのまま使ってもらってよさそうです」

「そうだな」

 戦艦の火力があること自体はありがたいわけで。明石の言葉に俺は頷く。

 その後も滞りなく砲撃を続け、予定分を消化して終了となった。この後は大和のチェックを明石に任せ、問題なければ主砲解禁だ。

「提督。砲撃検証作業、終了しました」

 戻ってきた大和が敬礼する。

「ご苦労。身体に支障はないか?」

「はい、大丈夫です」

「そうか。それではドックで補給を。明石、後で検査結果をこちらへ」

「了解しました」

 さて、こっちが片付いたなら次へ行こう。妖精さん達の建設作業の手伝いを――

「待て」

 艤装を収納してドックへ移動しようとした大和の肩に手を置いた。ほんの少し、一瞬だけ表情が変わる。見間違いじゃなかったか。

 大和の正面に回り、その両肩に手を置いて、真っ直ぐに目を見て、言う。

「主砲使用後に起きた変化を、この場で全て正直に報告しろ」

「特に異常は――」

「正直に、と言った。三度目はないぞ」

 大和の目が揺らいだ。その目を見据えたまま、返事を待つ。

 どれくらい経っただろうか。

「……身体が少し熱を持っています」

 観念したか、大和が口を開いた。

「普通に動くのには支障ありませんが、たまに痛みが。主砲使用時は、最初は何もありませんでしたが、次第に痛みが大きくなりました」

「建造後、初めて撃った時に、それらの症状は出てたのか?」

「いいえ、あの時は何も」

 つまり、あの時は1回だけだったから影響は出なかった。でも今回は何度も撃ったから耐えきれなくなったと?

 大和の顔がわずかに歪み、身じろぎした。肩を掴んでいた手に思った以上の力を込めてしまったようだ。すぐに手を離し、ゆっくり息を吸い、吐く。

「大和。至急、ドックで総点検。以降は別命あるまで待機。以上だ」

 強めの口調で命令する。蒼い顔で、大和は何かを訴えようとしている。しかし口は動かない。いや、動いているけど声が出てこなかった。

「俺は、至急と命じたはずだが?」

「……了解しました……」

 先程よりも強い口調で言うと、消えるような声で、それでも返事をして、大和が工廠へと歩いていく。

「明石」

「はっ、はいっ!」

 戸惑っている明石に声をかけると、慌てて返事をして大和の後を追った。

 異常が出たのは仕方がない。でもまさか、大和がそれを隠そうとするなんて。理由は何となくだが察せられる。思わず溜息をついてしまった。

 

 

 

 建設作業に合流してしばらく手伝っていると、明石から無線が飛んできた。点検が終わったとのことでドックに向かう。

 ドックに着くと、妖精さんの1人が先導してくれた。案内されたのは医務室だ。ドアの前に明石が立っている。

「容態は?」

「骨格や内臓への損傷は現時点では認められません。強いて言うなら全身筋肉痛ですかね」

 痛みはあっても動けるって言ってたし、重症じゃなくてホッとした。本人の証言の信憑性は低いけど、明石の診断結果なら信用していいだろう。

「入渠したら治りました。ただ、今後同じことを繰り返してもこの程度で済むのかは分かりません。私もここで建造されたばかりですので、基本以上の知見は持っていなくて」

「うちの大和は特殊だから余計だな」

「今後の検証はどうしましょうか? 方針を示していただければ、それに沿った計画を立てます」

「必要なら追って指示する。大和は中か?」

「はい。今は横になってもらっています。あの、提督。彼女、かなり落ち込んでいます。怯えてると言ってもいいです」

 だろうな、と思いつつ、頷いておく。その件については大和と話をしないとどうしようもない。

「大和、入っていいか?」

 ノックし、中に呼びかけた。返事があったので中へ入る――前に、明石を見た。察したのか彼女は数歩下がる。

 ドアを開けると、大和が身を起こそうとするところだった。

「いいから寝てろ」

 それをやめさせ、ドアを閉め、近くの椅子を持って大和の傍へ移動し、座った。

 さて、まずは言うことがある。

「大事なくてよかった」

 え、と大和が目を丸くする。何で驚くかね?

「あ、あの……」

「ん?」

「怒って、ないんですか?」

 その問いに、帽子を脱いで膝に置いた。怒る、か。

「当然、怒ってるよ」

 問われれば、そう言うしかないわけで。素の口調で答えた。

「お前はもっと、自分のことを大切にしろ」

 え、と再び大和が驚いた。だから何で驚く?

「い、いえ、そうではなくっ。大和は、提督に嘘をついたんですよ?」

「そうだな」

「でっ、でしたら、他に言うことが、あるのでは?」

 最後で声が震えた。あ、そういうことか。悪いことした自覚はあって、その罰は何かと問うているわけだ。

「じゃあ、罰を言い渡す」

 そこで一度言葉を切る。努めて表情を消し、平坦な声で、告げた。

「無期限の『温存』だ」

 言葉そのものには、何ら罰則的な意味はない。しかしそれを聞いた大和の顔が強ばり、血の気が一気に引いた。その裏にある意味を正確に読み取ったようだ。やっぱり、これが一番効くのか。

 固まっていた表情が絶望に歪む。カチカチと歯が鳴り始め、目には涙が溢れてきた。やり過ぎたかと反省しつつ、次の言葉を放つ。

「次はないからな」

「え……?」

「問い質した時、正直に答えたろ? あくまでしらを切ってたら、そうするつもりだったけど……」

 大和の顔に手を伸ばし、指を曲げ、

「痛っ!?」

 そのままデコピンを叩き込んでやった。

「今回は、これで勘弁してやる。もう一度言うが、次はないぞ?」

「……いいんですか?」

 安堵したような、納得いかないような顔で、恐る恐る大和が聞いてくる。その問いには答えず、質問を返した。

「働けないのは嫌か?」

「……はい」

「何もさせてもらえないのは苦痛か?」

「はい……」

「役に立てないのは、つらいか?」

「はい……」

 予想どおりの回答が返ってきた。

 顕現してからの大和は精力的に働いてくれている。そんなことまでいいのに、ということまで。働くことに貪欲だと言ってもいい。

 あれこれと世話焼きなのは、大和という艦娘の性分もあるとは思う。ただ、その根幹は過去じゃないかと思ってる。

 艦隊決戦の切り札として建造された超弩級戦艦でありながら、艦だった頃の大和は大きな戦果がないまま沈められてしまった。航空機の台頭で戦術が変化して、使いどころを失ってしまったのもあって、最強の戦艦なのに温存されてそこに在るだけ。

 他の艦娘大和がどうかは分からないけど、うちの大和はそれが何より苦痛で、怖いらしい。存在意義を否定されたと感じるようだ。

 それ自体は仕方ない。でも、大和は勘違いをしている。

「大和はよくやってくれてるよ」

 役立たずだなんて、今の大和には最も縁遠い言葉だ。むしろ働き過ぎではないかとすら思ってる。

「艦の頃は運用する者がいて、その方針に従うしかなかったにしても、今の大和は何事にも真摯に取り組んで、鎮守府のために働いてくれてるだろ。建造してから今までを見てきて、一番の働き者は大和だと思うぞ」

 それが、役立たずになりたくないという想いからくるものだとしても、間違いなく彼女自身の意思によるものだ。だったら、そこは非難することじゃない。

「そこまで貪欲に働かなくても大丈夫だ。ここには、艦の頃のことでお前を非難する奴なんていない」

 大和に限らずだけど、運用も含めた艦の評価を、艦娘にそのまま当てはめていいわけがない。そんな奴がいれば、むしろそいつが悪いのだ。

「だから、無理だけはしてくれるな。本来の艤装が使えなくても、艦娘としての戦力には違いないんだから。まあ、戦艦としてって想いがあったからこそ、さっきの件も黙っていようと思ったんだろうけど。主砲をいつでも自分の意思で使える状態にしておきたかったんだろ?」

「そうです……」

「だったら悪手だったな。俺からの信用を損なうような真似をしてどうする。バレて当然の嘘つきやがって」

 つん、と強めに大和の額を指で突いてやった。デコピンで赤くなってる箇所を狙って。

「と、当然?」

「お前、俺の命令で検査をする明石を、どう誤魔化すつもりだったんだ?」

 あそこで嘘をついたところで、検査結果で明石にはバレる。彼女が大和の意を汲んで黙る、という可能性は極めて低い。そこまでの関係を昨日今日で築けるわけがないんだから。

 あ、と大和が呆けた声を出した。気付いてなかったのか。

「お前、時々、抜けてるよなぁ」

「あうぅ……」

 恥ずかしそうに大和が布団で顔を隠した。普段は凛々しげというか気を張っていることが多いんだよな。もっと素を出してもいいのに。

「大和。主砲に関してだけどさ。今後は、使用を要する都度、俺の承認を得てから使え。ただし、承認要請ができない状況下ではその限りじゃない」

 そう言うと、布団が動いて目だけが出た。眉が困ったように動く。

「それで、いいんですか?」

「何だ、使いたいんじゃなかったのか?」

「……意地悪です」

 大和の眉間に皺が寄った。気付いたか。まあ、嫌らしい言い方だって自覚はある。それで使うべき時に躊躇われると困るけど、その時は『命令』させてもらおう。

「なぁ、大和。新規建造組にも言ったけど、何かあれば遠慮なく言ってくれ。今回の件だってそうだ。撃つ回数で影響が出たなら、回数によっては問題ないってことだろ」

 検証を続ければ、安全に使える方法が確立できるかもしれないんだし。

「使用を禁止した時、他の艦を建造すればなんて提案されたけどな、数が増えたからって、余裕がないのは変わらないんだぞ」

 大和の戦力低下を懸念しての判断だったけど、それは今も変わってない。人と物が増えて、できることが増えた。手段だってそのぶん増える。俺と大和、吹雪だけじゃ無理だったことだって、できるかもしれない。

 それでも、大和の弱体化を招いていい理由にはならない。

「お前が無理や無茶をして動けなくなると、とても困るし、悲しい。だから、何かあったら報告、連絡、相談を。俺には大和が必要だ。今までどおり、これからも俺を支えてくれ。俺も大和を、皆を、全力でできる限り支えるからさ」

 そこまで言うと、大和が再び布団を被った。どうしたのかと見ていると、その下から嗚咽が漏れ始める。あれ? 俺、何か変なこと言ったか!? 嫌だった!? それとも身体に異常が!? 衛生兵、じゃなかった、明石ーっ!

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