離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第13話 艦娘大和2

 

 大和に異常が出たわけではなかった。ただ、感極まってしまっただけと。

 振り返ってみればおかしなことは言ってない。でも、そうなるようなことも言った覚えはないんだけど……

 今回の件、結果としては良かったと思う。大和の本音部分に触れる事もできたし。

 それに、態度が少し柔らかくなった。凜々しい大和はそれはそれでいいんだけど、本来の外見年齢相応の大和が見られるようになった気がする。

 

 

 

 調査隊到着5日目。

「で、この状況、と」

 今日も朝から妖精さん達の建設作業を手伝っていたところに、吹雪からの艦娘無線が飛んできた。

 大和と天龍が1対1で演習というか模擬戦を行っているという。

 どうにも天龍が大和にケンカをふっかけたようだ。先日、大和にビビってるような感じだったから、なめられたままじゃいかんとでも思ったんだろうか。それを払拭するための模擬戦なんだろうけど、チンピラじゃないんだからさぁ。私闘は禁止って釘を刺したはずなのに。いや、だから演習を利用したか……グレーだな。

 大和は戦艦とはいえ、今は艤装も本来のものじゃなく、戦艦としての力を完全に引き出せる状態じゃない。ただ、既に何度も実戦を経験している大和と、建造されたばかりの天龍だ。結果は目に見えている。

 到着してみれば案の定。宮外艦隊も止めるようなことはせずに見学に回っていて。大和は軍刀を鞘に納めたまま持って立っていて。天龍は膝を着いていた。

「司令官」

「やはり大和の勝ちか」

 俺に気付いて寄ってきた吹雪に聞くと、はい、完勝ですと頷く。

「どうして大和は軍刀を?」

 見た目は海軍の制式軍刀でも、あれは艤装だろう。大和の艤装には含まれてなかったはず。

「天龍さんに合わせて日向さんから借りてました。すごかったですよ。抜かないままで、何度も天龍さんの刀を手放させては拾わせてましたし」

 へぇ、大和って刀もいけるのか。そういや曾爺ちゃんが、大和の艦長さんはむちゃ強い人だったって言ってたっけ。そっちの記憶を引き継げたのか。

 まあそれはいい。問題は大和だ。目が冷たい。明らかに怒っている。

「吹雪。大和、どうしてああなった?」

「開始前までは特に変わった様子はありませんでした。ああなったのは途中からです」

 てことはあっちで何か言われたか。天龍の奴、何したら大和にあんな顔させることができるんだ?

 大和がこちらに気付いた。凍りついていた表情が溶けていき、こちらに向けて敬礼する。それを見て皆も俺が来たことに気付いたようだ。観戦していた艦娘達も慌てて敬礼した。

 答礼し、大和と天龍が戻ってくるのを待つ。やがて2人が陸に上がった。天龍は牙を抜かれたというか、落ち込んでるように見える。吹雪の言い方じゃ手も足も出なかった感じだしな。

「提督、いつからこちらに?」

「たった今だ。戦っているところは直接見られなかったが、察することはできる」

 もう1人の当事者を見やった。分かりにくいだけでちょっとした負傷はあるようだ。一方の大和は、直撃した痕跡は見られない。

「天龍はドックへ。復調したら、皆と合流して続きを」

「……それだけか?」

「経緯はどうあれ、私闘ではなく演習、模擬戦なのだろう? ただ、次はないぞ。行け」

 二度とこんなことをしてくれるなよ、と念を押しておく。それから改めて大和を見た。

「大和は大丈夫か?」

「大丈夫です」

「後遺症は?」

「そちらも大丈夫ですよ」

 大和が苦笑する。心配しすぎとでも言いたいんだろうけど、何があるか分からないんだから、そりゃ心配するさ。

「提督。後遺症って、大和は故障中クマ?」

 球磨が挙手して聞いてきた。そういや主砲絡みの話は皆にしてなかったか。

「本来の艦娘の大和は、もう少し外見年齢が上で、その分、身体も大きい。ただ、うちの大和は建造時からこの姿で、艤装だけが本来のものと同じなのだ。昨日の検証で、それを使い続けると身体を痛めることが判明した。修復は済んでいるものの、その後の戦闘行動によって不調が再発しないとも限らない。故に、問題がないかを確認した」

「自分の艤装なのに、使うと自分の身体を傷つけてしまうのですか?」

「今の大和には本来の艤装が規格外になってしまっている。三日月、今の君が戦艦の主砲を積むことだけは可能になったとして、何の不具合もなくそれを扱えるか、という話だ」

 三日月が首を傾げるも、そう言うと納得したようだった。

「今の大和は戦艦の防御力を持つ重巡といったところか。当面はそのように運用する。ただ、使わざるを得ない時には本来の主砲も使わせる。一応、切り札だな」

「でも、使うと損傷するんだろう? それでいいのかい?」

「無理をさせるのは良くないと思うわ!」

 響と暁が意見してきた。そうだな、そう思うよな。

「その通りだ。無理はいかんな」

 意味ありげに大和を見ると、恥ずかしそうに顔を逸らした。その反応に宮君と日向、矢矧が苦笑し、事情を知らない者は不思議そうな顔をする。

「1発撃てばすぐに、というわけではないようなのでな。そこは今後も慎重に検証を重ね、無理のない部分を洗い出していくことになる。だから大和、昨日みたいに、異常はないなんて嘘はついてくれるなよ?」

「もっ、もうしませんっ!」

 頬を染めつつ直立不動で大和が即答すると、誰かが噴き出したのが聞こえた。

 

 

 さて、今日の業務も終わったところで、大和を呼び出した。1つ、確認しておきたいことがあったからだ。

「大和。今日の演習時に何があった? 大和と吹雪は演習そのものには不参加だったはずだ」

「はい。演習の段取りや実施時の注意事項等を日向さん達に教わっていた時に、天龍さんに挑発されまして。一度、躾けておこうと思い、相手をしました」

 素直に大和は答えた。吹雪の言ったとおりか。

「まあ、それはいい。それが、何であんな表情になった? 終盤、怒ってたらしいが」

「あぁ、そのことですか」

 と大和が苦笑い。おや、と思う。思い出して怒りが再燃するかと思ってたのに。

「彼女は、提督を侮辱しました」

 そうか……んん?

「って、そっち!?」

「そうですが。そっちとは?」

 驚く俺に、何故か大和が首を傾げる。え、何で不思議そうな顔するんだ? おかしくない? てっきり大和自身のことで何か言われたんだとばかり。

「いや、だって、さぁ……どうしてそこまで怒れるんだ?」

「どうしても何も。提督を侮辱されたのですから、怒るのは当然では?」

 大和はブレない。大和の中ではそうなのか。それだけ信頼してくれてるってことなんだろうけど……いや、前から思ってたけど、重くない? いや、拍車が掛かってないかこれ?

 ともかく、天龍が俺の悪口を言ったから大和は怒った。そういう認識でいいんだろう。でも、いちいちそんなことで腹を立ててたらキリがないぞ。俺を悪く言う奴なんてどこにでもいるんだから。

 経理畑出身の艦娘提督の俺なんて、海兵士官、指揮官としては平凡どころかそれ以下と言われても仕方ない存在だ。軍事面で他の艦娘提督より劣る部分が多いのは間違いなくて、実際、候補生時代に海兵科出身の一部の同期共に散々言われてきた。俺をやっかんだり嫌みを言ったりする奴もいた。

 今後、そういう連中に会うかは分からないけど、その時に大和が傍にいたらどうなるか……いや、気持ちは嬉しいんだ。自分の事でもないのに、そんなに怒ってくれるというのは。ただ、これが頻発するようだとよろしくない。俺が理由で暴発した結果、大和の評価が、俺の部下である艦娘達の評価が下がるのは嫌だ。

 大きな溜息が漏れた。どうするかなこれ。いや、まずは釘を刺しておかなきゃ。

「大和。今後、何かしらあって怒りを覚えたら、行動する前に6秒数えろ」

「6秒、ですか?」

「そうだ。そしてその間に、怒りに従って行動したら周囲にどう思われるか、何より俺がその行動をどう思うかに考えを巡らせろ」

 怒りというのは長続きしない。ついカッとなっても、6秒あればピークは過ぎるという。

 この際、俺の護符としての忠誠心というか義務感というか、大和の感情を利用させてもらう。つまり、俺の感情と天秤にかけて動けということだ。俺のことを最優先に考えるってなら、これで暴発することはなくなるはず。褒められたやり方じゃないけど……

「それが挑発であれ、無意識の悪意であれ、反応したら負けだ。いちいち噛みついて、お前の評判を下げたり俺を叩く口実を与えたりする必要はない」

 部下の暴発は上司である俺の監督責任になる。何かあれば、ろくに部下を掌握できないのかと非難されるだろう。

「だから、できることなら我慢してくれ。俺のせいでお前達が貶められるのは、とても心苦しいし、悲しい。いいな?」

「……善処します」

 釈然としない顔ではあったけど、大和は頷いてくれた。善処というあたりに一抹の不安があるけど。あ、そうだ。これは伝えておかないと。

「ただ、大和が俺のことで怒ってくれたこと自体は、嬉しい。ありがとう」

 礼を言うと、大和はきょとんとした。その頬に朱が差していき、視線が外れ、あーとかうーとか言い始める。

 さて、事情の把握は済んで、方針も定まったからいいとして。大和と天龍の仲をどうするかな。同じ鎮守府で戦う者同士、わだかまりがあるとこの先支障が出そうだ。

「なあ、大和。天龍と仲直り、できるか?」

 思うところはあるかもしれないけど、何とかならないだろうか、と思いつつ問うと、

「仲直りも何も、手打ちは済んでいますよ」

 と意外な返事があった。

「あの後、天龍さんから謝罪がありまして、受け入れました。私を挑発するために発しただけで、本気で提督を侮辱していたわけではないようでしたので」

 それ、本気だったら和解は無理、ってことにならない? でも、あぁ、だから思い出しても怒らなかったのか。

 しかし天龍の奴、何を言ったんだろ。気にはなるけど、掘り返さない方がいいって心の中で誰かが警告している。よし、追及はなしにしよう。

「解決していたなら何より。蒸し返すこともなさそう?」

「ええ。今度、剣の稽古をつけることも約束しましたし」

「剣の? あぁ、そういや天龍を圧倒したって聞いた。やっぱり艦長の記憶継承か?」

「はい。ただ、深海棲艦相手に剣道でいいのかって疑問はあるんですけど」

 あー。基本、砲雷撃戦だし、斬ることはあっても斬り合いはないだろうしなぁ。

「まあ、技量を磨いて自信をつけること自体は無駄にはならないんじゃないか?」

「ええ、それはそう思います。それに私も、人相手に動けるようになっておきたいですし。いざという時、提督をお護りできるように」

 そう言うと、そうだと大和が手を合わせる。

「提督。提督も一緒に稽古しませんか?」

「俺も?」

 大和の提案に、考えてみる。鍛錬自体はしばらくしてないし、いいかもしれない。剣より銃の方が得意ではあるんだけど、軍刀もあるわけだし、せっかくだからやってみるか。

「だったら、余裕ができたら練武場も建設するか。いずれ空母が来たら弓道場もあるといいな」

「海上以外で利用できる訓練施設はあっていいと思います。優先順位はあるでしょうけど」

「それなんだよなぁ」

 早急に整備しなきゃいけないものはあるし、先立つものがないと整備はできない。いっそ現地調達で、島の木材や石材を積極的に利用するのも手か? 資源調査、やってみるか。

「では、稽古の時間とかが決まったらお知らせしますね」

 何か嬉しそうに笑いながら大和が退室した。

 まあ、懸念は解消できたし、いいか。

 

 

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