離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第14話 調査報告書等

 

 調査隊到着6日目。

 鎮守府本庁舎(仮)。

「ひとまず、このような感じです」

 最近、建築関係で動くことも多かったけど、当然それ以外の仕事もある。というか、本来はそっちがメインだ。

 宮君が差し出したのは書類。『桃箭島鎮守府に係る調査報告書』とある。そのまま提出すればいいだけなのに、見てもいいってことか。受け取り、内容を確認する。

 最初に、桃箭島鎮守府の異変が発覚したところから書いてある。横須賀本鎮守府の一部部署が、管轄の離島鎮守府の開庁を把握してないって時点でおかしいんだけど、その事実自体も調査を要するって強調したいんだな。そっちは横本が動いてるんだろうか。

 うん、良く纏まってると思う。被害の裏付けや証拠の確保とか、さすが専門の調査隊の仕事だ。ふむふむ。

「何か意見はありませんか?」

「特には。軍への不信感を強調しすぎてる気はするけど」

「事実しか書いていませんよ。だからこそ問題なのですが」

 宮君が溜息をついた。

 まず、偵察が来たのに接触しようとしなかった時点で、桃箭島の異常性がよく分かる。普通なら沖合に船を見つけた無人島漂流者のように、何とか接触しようとするところだから。

 提督着任前に警備戦力が撤退してて秘書艦1人のみに守らせていたのもそうだし、着任時に現地人員がゼロというのもそうだ。しかも、どっちも現在行方知れずらしい。きな臭さしかない。

 辞令交付から島に上陸するまでの流れもおかしいし、壊滅していたことはもっとおかしい。しかも一部は人の手による破壊だっていうね。建造物被害のほとんどが深海棲艦の手によるものだってのは、残ってた砲弾片等の量から間違いないようだけど。

 定期便が来なかったのは、鎮守府開庁が伝達されてなかったなら仕方ないとして、そうなった理由が今のところ不明だ。

 あと、調査隊の精査ではっきりしたけど、建築資材、補給物資等の残量が持ち込まれたはずの量より少なかったようだ。どこいった?

「こんなことが今後も起きうるなら、離島の鎮守府に着任したい奴なんていなくなるだろうな」

 軍人として、深海棲艦と戦って戦死するならともかく、島流しと変わらない状況に陥って衰弱死とか惨めすぎる。いや、まさかそういう用途をこの島に求めてる奴がいる? 軍人1人を始末するためにしては費用対効果が酷すぎるから、いくら何でもそれはないか。

「まあ、報告書のほうはこれで……というか、復旧状況って必要か?」

 現時点での復旧済の設備について列記してある資料があった。

 港湾設備はクレーンと着底している運送艦以外は倉庫も含めてほぼ復旧。工廠及びドックの建屋修繕済。艦娘建造用ドック及び修繕用ドック各2基復旧済。艦娘用官舎(仮)1棟及び入浴施設(仮)新築。食堂及び烹炊施設(仮)新築。半壊倉庫1棟修繕済。水道設備仮復旧。並べてみると、色々とやったなと思う。

「もちろん。この酷い状況下で君が成した功績ですから」

「ほぼ妖精さん達の功績なんだけどなぁ」

「鎮守府建設を引き継いでいると言ってもいい状況なのですから君の手柄ですよ。妖精達が艦娘関係以外のことで君の指示に従ったことも含めて」

 俺がやったのなんて、重機で廃棄物を集めたりデコボコの地面を均したり資材を運んだくらいだ。どう評価されるかは分からないけど、妖精さん達の労には報いてあげたい。報酬用のお菓子とか仕入れないと。

「こちらはこれでいいとして。そちらのほうはどうなっていますか?」

「ん、艦娘の建造報告書は揃ってる。着任からの出撃報告書も迎撃のみだから数は多くないし、随時作成してたから問題なし」

 提督のお仕事なんて書類仕事がメインだから、しっかりとやっている。特に建造報告書はきっちり提出しておかないと彼女らの給料が出ないし、出撃報告書は彼女らの評価に繋がる物だ。今はまだいいけど、艦隊出撃をするようになったら戦闘詳報も作成しなきゃならない。これは本来主計科の仕事だ。つまり、今の鎮守府で作成できるのは多分俺だけ。艦娘でできる娘がいるかな? 主計担当を育てなきゃなぁ。

「で、復興計画とそれに関する要望はこっち」

 作成済だった書類を宮君に見せる。基本的に要望が大半だ。

 

・再建、修繕用の物資

 建築資材

 発電施設用の機材一式

 上下水道用の機材一式

 作業用重機

・運営に必要な物資

 艦娘用資源

 防衛用の銃器類等

 事務用品

 業務に必要な各種資料

・食料及び生活必需品(最優先)

 人数分の保存食を一定期間分別途申請

・着底している運送艦の処分許可申請

・移動手段の配備要求

・生産環境の整備許可申請

 

 通信設備とそれに必要な発電機は宮君が来た直後に最優先で手配してくれたから問題なし。ただ、それだけじゃ鎮守府の電力はまかなえないので、発電施設は復旧させる必要がある。発電機の入れ替えができればいいけど、無理なら修理用の部品でもいい。

「防衛用の銃器類等というのは?」

「そのままの意味。対人用兵器。あと、艦娘用」

 本来なら深海棲艦のみを相手にすればいいのに、どうも今の俺の敵はそれだけじゃないらしいので。

 この世界、士官以上の軍人は私服でも拳銃と刀剣を携帯することができる。特に短剣は外出時に佩用している人も多い。俺も外出時には義父からもらった刀と義母からもらった拳銃を携帯してる。これがあるだけで馬鹿が寄ってこない。

 ただ、あくまで外出時の護身用だ。島に残ってた分だけじゃ心許ないので、追加で小銃や手榴弾とかは欲しい。

 艦娘用の武器は、艤装以外の個人携行用だ。艦娘については官給品の短剣が支給されるし、刀や拳銃も申請を出せば携帯できるようになっている。俺が今回艦娘用に手配するのは全員分の短剣と、大和と天龍用の刀だ。外出する際の御守りだな。2人ならそのうち自分で刀を調達するかもしれないけど、それまでの繋ぎだ。

「運送艦の処分許可は、どうするつもりです?」

「中の物資ともどもいただいて、船体は資源化する。燃料漏れはないから、そっちも回収できるといいな。燃料庫を再建してからだけど。まあ、現時点ではそれをする手段もないんだけど、準備はしておこうと思って」

 いつまでもあそこに沈んでいられても邪魔だし、有効活用させてもらおう。それが駄目ならさっさと軍に回収してもらいたい。ここじゃ無理でも、本土まで持って帰れれば修理も可能だろう。

「移動手段は……ああ、君の艦が所在不明になっていましたね」

「ないと本土にも戻れないし、会議とかあっても応じられないからな」

 面倒がなくていいとも言えるけど、こっちが自由に使える足は持っておきたい。移動もそうだけど、自力での物資調達にも使えるし。たまには艦娘達を本土で骨休めさせてあげたいし。

「……生産環境の整備、というのは?」

「田畑や畜産施設、食品加工場とか」

「完全に自給を目指すつもりですか?」

「今の規模ならそれも何とかなるかもしれないけど、艦娘が増えたら無理だな。あくまで補助用だ」

 宮君が気になった部分を問い、それに答えていく。

 ここで給糧艦娘の派遣申請も入れる予定だったけど、建造できたから除外した。あ、大淀は申請したほうがいいだろうか?

 不意に宮君が笑った。書類の最後を見たのか。

 

 なお、復興には妖精達に協力要請をするため、人間の追加人員は拒絶する。

 我が身を護るためにもこの点に十分配慮いただきたい。

 

「上への不信感がこれでもかと伝わりますね」

 まあね。こんな事態を引き起こしたのに、どうして信じられるだろうか。

「ところで食料は定期便で大丈夫ですか? 現状だと何が紛れるか分かりませんが」

「そこを疑うとキリがないんだよな。今回の救援物資も含めて」

 今のところおかしな食材が紛れ込んでいたりはしない。ただ今後は分からない。

「一度、私の鎮守府に納品させて、そこから管理換えする形にしましょうか」

「いや、それは……」

 場合によっては宮君のほうに被害が出かねない。そうなったら大事になる。本人にその気がなくても、軍の外に飛び火しかねない。

「相手も馬鹿ではないでしょう。それにそうすれば、頻繁に君と直接連絡を取り合う口実もできます」

 宮君自身はそこまで見越しての提案か。こうなると、断ってもゴリ押してくるな。まあ細工がされれば当事者となるわけだから、探る口実ができるくらいに思ってそうだ。

 思わず溜息が漏れた。

「まったく、人が関わらなきゃ平和なのにな。艦娘と妖精さん達だけなら、害されることはないだろうし」

「事例は皆無ではありませんよ」

 それは知ってる。艦娘には心があり感情がある。過去に起きた事件等を見ても、人間側だけが原因ではない。ただ、現時点でうちにいる艦娘は問題ないと思うし、俺も問題を起こすつもりはない。他所から配属される艦娘がいたら、それはしばらく警戒が必要だろうけど。

「君も気をつけてくださいね。痴情のもつれとかありそうな気がします」

 宮君が笑いながらブッ飛んだことを言った。

「あるわけないだろ。俺は提督で、艦娘達は部下だ」

「男女の仲というのは、それで割り切れるものではないでしょう。実際、人間と関係を持つ艦娘はいるわけですから」

 そりゃ、いるのは知ってるけどさ。人間の外見をして心や感情があればそういうことが起きるのは不思議じゃない。限界突破の仕組みの、ふざけた通称も要因な気がする。

桃箭島(ここ)じゃそんなことは起きないよ……って何その顔?」

「あれだけ大和に想われていてそれですか?」

「あれは……刷り込みみたいに思えて、少し申し訳ない気もしてる」

 大和が俺に好意的なのは分かってる。でも、基本部分にお守りとしての概念があるみたいだからなぁ。意味深な言動がたまにあったけど、俺への純粋な好意から来るものかは疑問というか、そう自惚れちゃ駄目だろ。

「何その顔?」

「いえ何も。拗らせて斬られないといいですね」

「物騒なこと言わないでくれないか?」

 刀の手配、やめとこうかな……いやいや、その段階になったら刀の有無に関係なくやられる。提督と艦娘として、節度ある関係を構築していれば、この身に危険なんてあるものか。

「ところで今回の件、上はどこまで信用できる?」

 前から思っていたことを聞いてみる。やってることが結構大がかりで、下っ端1人でどうにかなるとは思えないからだ。

「できません」

 宮君が断言した。

「現状、誰が敵なのか分かりません。ただ、単純に君を殺そうというのであれば、こうして話なんてできていないでしょう」

「だよな」

 変な話、島に狙撃手でも忍ばせておいて、始末させれば済んだ話なんだ。随分と手段が遠回りしてるというか一息にどうこうしようという意思が感じられない。逆にジワジワと苦しめようという意図が見える気がするというか。

「そうなると、私怨関係が最有力なわけですが、心当たりがないのが何とも」

「俺と揉めてた奴で、お偉方の子供とかいたっけ?」

「佐官の息子は何人かいますね。君もそうですが」

 そういえばそうだった。義父は最終階級が大佐だった。ん?

「俺の義父を苦しめるために、その身内を狙っているパターン」

「可能性は低いと思いますよ。そもそも君の現状をご両親は知らないでしょうに」

 うん、自分で言っておいて何だけど、多分違う。もしそうなら、義父が現役の時や俺が軍に入る前に動いてるはずだ。

「まあ、この件は調査が進むでしょう。あるお方が興味を持っていますし」

 ふむ、調査に乗り気な高官には心当たりがあるわけか。宮君がそう言う以上は、その人は信用できると。救援物資とかが潤滑に届いたのもその人のお陰かな?

「それを知って、下の者がどう受け止めてどう動くか……面白くなりそうです」

 あ、黒い笑顔。本当に俺の前では隠さないな。

「まあ、そっちは任せるよ。俺が介入できることでもないし。前線が一番安全、ってのも皮肉な話だ」

 深海棲艦より人間のほうが危険なんだもんな。実際、本土に戻ったら身の危険がありそうだし。

 かといって、今後がずっと安全ってわけでもない。定期便が来るようになっても、手紙や書類を握り潰される可能性もあるか。

「そうだ、物資の中継輸送の件。横本(よこほん)への書類は定期便とは別にそっち経由でも……あ、両親への手紙を託してもいいかな」

「それくらい、お安いご用ですが、ご両親にはどこまで伝えるつもりです?」

「着任して職務に邁進しています、程度で。ここで起きてることを伝える気はない」

 下手に知られたら、何をしでかすか分からないからなあの人達は。

「君がそう判断するならいいですが。1ヶ月以上音沙汰がなかったのですから心配しているでしょうに。直接会えればいいのでしょうけど」

「今俺が本土に戻ったら、俺が鎮守府を壊滅させた無能だ、って噂が立ちそうだな」

「なるほど、君を悪く言う噂から辿るのも手ですね。でしたら、ここの情報は外に漏らさない方向で――」

「おいおい、そっちの考え事は後にしてくれ。こっちはまだ渡す書類があるんだから」

「ああ、失礼。他とは?」

「妖精さんとの意思疎通に関する意見書。手旗が使えるし、モールスもいけるかもってやつ。他所の妖精さん達がどうか分からないから要検証だけど。それから手旗以外のコミュニケーションツールに関する企画書。あと出先鎮守府の運営改革案」

 それぞれ書類を出すと、宮君の目が点になった。

「この前話題にしたばかりなのに、もう形になっているのですか?」

「ある程度の構想はあったからな。後はそれを他の人の目に見える形にするだけだし」

 宮君が書類を読み始める。少しして眉をひそめ、次の書類へ。そして読み終えた後で、こちらにジト目を向けてきた。

「何故、全て私が連名で?」

「俺だけの名前だと握り潰されたり盗まれたりしそうだから。宮君との会話から発展した部分もあるから、間違っちゃいないだろ」

「……君が認められるまでの名前貸し、なら受け入れましょう」

「いっそ、宮君の名前だけのほうが話は早――なんでもない」

 宮君の表情を見て、俺は両手を挙げた。決して面倒を全て押しつけようとしたわけじゃありませんよ、はい。

 

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