今年もよろしくお願いいたします。
のんびりプレイなのでいまだ全海域を開放できていませんが、クリスマスイベは何とか滑り込みで全任務クリアできました。基地航空隊万歳。
宮君の息は荒れていて、肩が上下していた。港から走ってきたようだ。一体何があったんだと思ったら、続いて入ってきた日向は平然としていて、慌てた様子もない。何かが起きた、というわけではないらしい。
呼吸を整えた宮君が、兵部を見る。
「兵部少尉、お久しぶりです」
今のところ、同期として接する気はないらしい。どうも警戒してるようだ。そういえば宮君と兵部が仲良くしてるところは見たことないな。
「お久しぶりです、宮外大尉」
立ち上がり、敬礼する兵部。ガラが悪く口も悪いけど、軍における上下関係を弁えるべき場ではきっちりできるのだ彼は。
「よその海軍区の貴官が、どうしてここへ?」
宮君が問う。兵部の所属は、第二海軍区――呉本鎮守府の出島鎮守府だったっけ。
「横須賀本鎮守府へ出向く用務があり、その帰りです。桃箭島へ着任した北星少尉の様子が気になり、ここへ立ち寄りました。今、ここで起きたことを読み終えたところです」
手にしていた報告書の写し。握り潰してしわになったそれを律儀に伸ばしながら、兵部が答える。
「大尉、このまま続けますか?」
軍人としてのやり取りを続けるのか、という意味で問うた。意外そうな顔をするも、宮君が警戒を解く。
「では、ここからは同期として」
言って、宮君が動き、俺の隣に座る。兵部も再び腰を下ろした。
「兵部君。貴方は本当に、自身の判断でここへ来たのですね?」
「あぁ。さっき宮外に言ったとおりだ」
「……元々、君は呉派閥でしたね」
少し考える様子を見せ、腑に落ちたように宮君が視線を上げた。ああ、一連のあれこれに兵部が絡んでる可能性を考えてたのか。
兵部の家は代々海軍の家系で、父親も海軍の将官だったはずだ。
「さすがに
今の横須賀と呉の総司令は同期の桜で仲も良好だと聞くし、鎮守府間の揉め事も聞かない。そもそもよその鎮守府にちょっかいかける意味もないだろうし。
宮君もそれで納得したのか、表情を緩めた。
「まあ、その話はいいでしょう。皆斗、兵部君が一通りを知ったという前提で進めますが、いいですか?」
「待て。それは俺が知ってもいい話か?」
兵部が宮君を制止する。
「直帰するから機会そのものがねぇとは思うが、吹聴する気はなくても、職務として問われりゃ答えるしかねぇ。まずいなら席を外すが」
「報告書を読んだのなら同じことですから構いませんよ。ただ、問われた時は『横須賀本鎮守府総司令に直接問い合わせてください』と。総司令からはそう言われています」
「……おっかねぇな。まぁ、そん時はそう言っとく」
宮君の言葉を聞いて、兵部が肩をすくめる。ん、何かよく分からん話になってきたような?
「呉のお偉いさんがここの様子を聞くなんてこと、あるのか?」
「宮外が上とそう話をつけてきたってことは、既に広がりつつあるんだろ?」
「ええ。皆斗がここを壊滅させた無能、のような噂が流れてますよ」
マジか。異常は知られていて、調査隊が出たことも、ここが壊滅してたってことも本土に伝わってはいるから、そのせいか? おっと、大和と吹雪の表情が抜け落ちていく……
「さて、報告書自体は総司令に直接渡しましたし、そこで止まっているので、詳細を知る者はいない。だからこそか、皆斗を非難する内容が多い」
「詳細が明らかになってない段階でそれじゃ、意図的に拡散されてるんじゃねぇのか?」
「ええ。戸成少尉に確認してみたら知っていて、激怒していましたよ」
「あいつ、第四海軍区(舞鶴方面)だったろ。そこまで流れてるってことは
「現在精査しているはずです」
「信用できるのか? 下っ端のやり口じゃねぇだろ」
「だから総司令に直接報告したのですよ」
「あの人なら大丈夫か。とは言え、下がどこまでまともかによるな」
「そこも踏まえて――」
「だったら――」
ポンポンと2人の会話が続いていく。いや、何となく言ってることは分かるんだよ? でもさ、もう少し噛み砕いて話してくれませんかね? こっちが理解する前にあちこちに話が跳ぶのは勘弁して――あぁ、これだから海兵科の
「しかし……正直、意外でした」
一段落ついたのか、吹雪が出したお茶をすすって宮君が兵部を見る。
「貴方は少尉候補生の頃から皆斗とたびたび衝突――いや、一方的に絡んでいたでしょう?」
おや。宮君の認識でもそうなってたか。
「宮君、それは違う。こいつは確かに、ことある毎にというか、俺がヘマをするたびになじってきてたけど、その後のフォローは欠かさなかった好漢でな」
えっ、と宮君と兵部の視線がこちらを向いた。何故兵部まで? まあいいか。
「吹雪、そこにあるノートを宮君に」
それっぽく仕立て上げた木製の執務机の上にある、これまた端材で作った本立てに置いてあるノートを指す。首を傾げながら、吹雪はそれを取って宮君に渡した。
「……これ、皆斗の字ではないですね」
メモが無数に貼り付けてあるそれを開いて、確かめるように視線で先を促す宮君。少尉候補生時代の実習や講義の時のもので、今でもたまに読み返すことがある手持ち資料だ。
「俺がヘマったことや間違ったことを丁寧に解説してくれてる物だ。誰の字かと言うと」
目を向けると、横を向いてプルプル震えている兵部の姿が。耳が赤くなっている。
「最初は誰か分からなかったけど、これを俺の部屋に放り込むところを目撃してる妖精さんがいてな」
追撃をかけると、観念したのか頭を抱えて項垂れた。
「そんなもん、いつまでも持ってんじゃねぇよ……」
恨めしそうに睨んでくるけど怖くない。海防艦だと泣き出す娘もいるかもしれんけど。
「急に視えるようになると、思い描いていた進路から外れちまう。それはまあ、仕方ねぇよ」
溜息をついて、兵部が顔を上げた。そういや兵部も士官学校時代に『視える』ようになったから艦娘提督になったんだったか。
「特にこいつは経理科からだ。民間人登用よりマシっちゃマシだが、俺達より足りないものが多くなる。ただ、それが原因で部下を失ったり被害を出したりするわけにゃいかねぇし、それを言い訳にもできねぇだろ」
艦娘の指揮官として働く以上、やるべきことはやらなくてはならない。適性者でなきゃ艦娘提督になれないというのが『協定』の取り決めである以上、実務能力は二の次だ。民間登用の艦娘提督の中には、軍務は艦娘達に
自分も軍人である以上、職務を全うすることに否はない。そのための努力もする。だから、口が悪くとも必要なことを教えてくれた兵部には感謝してる。
「お陰で、何とかやれてるよ」
再び兵部が顔を逸らした。なるほど、と宮君が頷いている。
「どうやら私は、兵部君を誤解していたようです。謝罪します」
「いいんだよ、んなこたぁ! 蒸し返すんじゃねぇっ!」
宮君が頭を下げ、兵部が吼えた。誤解が解けて何より……ん、また外が?
「司れっ、提督! ご無事ひっ!?」
飛び込んできたのは艤装を展開した羽黒。決意に満ちたその顔は、一瞬で恐怖に塗り替えられた。大和と吹雪が艤装を向けていたからだ。しかも大和は本来のほうを展開できる位置にまで移動していた。羽黒の行動について事前に連絡を受けてたな? 心臓に悪いから俺にも一言欲しかったなぁ。
「何だ羽黒。港で待てと命令しただろが」
「あ、あの、そちらの提督が凄い剣幕で駆けていったので……な、何か良くないことが、あったのではと……ご、ごめんなさいっ」
艤装を収納して涙目の羽黒が、厳しい目つきの兵部に頭を下げた。つまり宮君の行動を見て兵部を心配し、待機命令を破ってまで駆けつけた、と。ほーん、と目を細めて兵部を見やる。
「……んだよ?」
「別にぃ。大和、吹雪、艤装を解除。もう警戒する必要はない」
苦い顔を向けてくる兵部を受け流し、2人に艤装を解除させた。
「「大和……?」」
兵部と羽黒の目が大和へと向く。そういやこの2人は知らんか。んー……よし。
「兵部。今日はここに滞在していけ。何か、宮君と3人で色々と話したくなってきた」
せっかくの再会だ。1人少ないけど同期会といこう。
まずは仕事の話。
復興計画に係る要望は全て通った。ひとまず通信設備は準備できていたので今回持ち込んでくれた。これでようやく、よそとのやり取りが可能になった。
それから、宮君が昇任前に使っていた艦が空いてたのでそのままこっちに来た。これで移動・輸送手段も確保。
ここの指揮権については正式に俺に戻った。調査の進捗は特にない。ただ、方針としては『泳がせる』とのこと。その上で、首謀者とそれに従う者達を炙り出し、膿を出し切ってしまおうというのが総司令のお考えらしい。つまりしばらくは受難が続くかもしれないということだ。ただ、今後は総司令や宮君の支援がある。危険がないわけじゃないけど、
妖精さんの採用募集部隊の成果もあった。艦に移住希望の妖精さん達が同乗していて、一部は既に艦運用要員として働いてくれていた。この短期間で予想以上の数だったので驚いた。意外と働きたがる野良妖精さんは多いのか。元々、人間と艦娘を合わせたよりも妖精さんのほうが多かったけど、スカウトは継続中だからその差はもっと広がるだろう。妖精さん用の施設とか、本気で考えたほうがいいかもしれない。
仕事の話は終わり、雑談に移行――ということにはならなかった。それぞれ鎮守府を預かる艦娘提督が3人。話題も自分の鎮守府の運用に関することになる。
うちの現状を見学させ、昼食を食べ、意見交換をし、夕食を食べ、風呂を経て。
「優先順位を間違えてねぇか?」
風呂から戻ってくるなり兵部が言った。はて?
「何か問題があったか?」
「大ありだ。いや、ない、のか……?」
大和製造のラムネなど出してやりつつ問うと、奪うようにそれを取り、動きを止めて首を傾げた。どっちだよ?
「力の入れどころが違う、と言いたいんですよ兵部君は」
続いて戻ってきた宮君が苦笑交じりに言った。宮君にもラムネを渡してやり、次の言葉を待つ。
「本庁舎は全壊のまま手つかずなのに、食堂もそうだが入浴施設は立派なもんだった。ここは鎮守府だろ」
ラムネを一気に空けて、兵部が言う。ああ、そういうことか。
「俺の運営方針は、艦娘への最大支援だからな」
本庁舎がブッ壊れたままでも艦娘は戦えるし、俺の仕事は仮庁舎で十分だ。でも衣食住が欠けてちゃ戦えない。だったら何を優先するかなんて分かりきったことだ。
「現在、まともな戦力として矢面に立てるのは艦娘だけだ。その艦娘達が心身共に最良の状態で出撃できる態勢を整えることは間違ってないだろ」
「言いたいことは分かるけどよ……何て言うか……よそとだいぶ違う気がする」
「確かに出先鎮守府、それも離島の中では破格ですね」
兵部に続き、宮君もそんなことを言う。そうなのか? 他所にお邪魔したことがないから何とも言えないけど。
「離島だからこそ、ってのもある。本土との距離もあるから、休暇を取らせて本土へ遊びに、ってのが簡単にできないし」
ここには娯楽がない。彼女らの気晴らし手段が限られるわけだ。今はまだいいけど、今後、そういう不自由さが積もり重なって不満が出るかもしれない。簡単に移動できるなら考えようもあるんだけど……艦を確保できて嬉しかったけど水上艇のほうがよかったか? いっそ島に娯楽施設を作るか。あ、テレビのアンテナの手配、忘れてた。電波は届くはずだからこれだけでも。あー、でも本土へ行きたがるようになるか? やはり並行して移動手段の確保を――
「おい、北星?」
「これはまた、何か考えが脱線してますね」
「脱線はしてない。よりよい鎮守府運営のための思考だからな」
2人からラムネの空き瓶を受け取って、吹雪に渡すと、日向が酒とつまみを持ってきた。
今、ここ仮庁舎にいるのは俺と宮君と兵部。それと世話役の吹雪、日向、羽黒。吹雪は大和が付くと思ってたようだけど、何故か大和が吹雪に任せた。
他の艦娘達は食堂で懇親会をしている。宮君達の艦の乗員も上陸してのんびりしてるだろう。新規参入の妖精さん達は相棒に任せてるので、うまくやってるはずだ。
「まあ、あれだ。俺のせいで要らない苦労をさせてしまって申し訳ないってのもあるけどな。ただ、これでも締めるところは締めてるぞ」
なぁ、と吹雪と日向に同意を求めると、はい、と吹雪と日向が頷いた。
「そっちはどんな感じだ?」
「締めつけてるつもりはねぇが……」
答えて、羽黒に注いでもらった酒をあおる兵部。
「ここは正直、空気がゆるく感じられる。舐められてねぇか?」
「提督として接する時は上官として。私人として接する時は仲間として。そんな方針だけど、兵部にはそう感じられるか」
俺自身が堅苦しいのが苦手ってのもあるし、四六時中軍人として気を張り詰めてるのは無理だ。
「俺としちゃ――っと、その前に。宮君。俺の件、どうなってたか確認できたか?」
「軍事機密としての扱いにはなっていませんね」
「ふむ……じゃ、この席でなら構わないのか」
どこにでも吹聴するようなことじゃないしな。元の世界のことなんて記憶から薄れてきてるし、当時の担任の先生とか友人とか、もう名前も思い出せない。知識というか発想というか、それ自体が何かをもたらす可能性はあるわけだけど、おおっぴらに口を出してこっちの世界の発展を歪めたり、こちらの誰かの手柄を横取りしたりしたくないし。必要に迫られた場合はその限りじゃないけど。
「てことで兵部。あと吹雪達も。そのつもりで聞いてくれ。俺が艦娘に甘いというか、優遇しようとする根っこの部分だ」