離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第17話 第1回艦娘提督同期会

 

 とりあえず、俺が【異界史】の人間であることを話した。俺が生まれることができたのも、今の艦娘達があの戦争を艦として戦ってくれた結果があればこそ。その恩と言うと大袈裟だけど、艦娘提督になった以上、艦娘達にできる限りのことをしてやりたいのだと。

「なんつーか、今日は驚くことばっかりだ……」

「ようこそ、こちら側へ」

 疲れたように呟く兵部に、宮君が苦笑いで言った。こちら側、って何ですかね?

「北星。てめぇ、完全な部外者だったんじゃねぇか。何で軍人になった? てめぇは在学中に適性が発覚しただろ。士官学校に入ってなけりゃ、普通の生活が送れたんじゃねぇのか?」

 提督適性者、つまり妖精さんが視える人については、ここ数年で民間学生を対象に調査するようにはなってるけど、俺の時はまだ実施してなかったから、軍に入っていなければ兵部の言うように一般人として生きていけただろう。

「軍人に育てられたから、ってのも理由の1つではあるな。俺が生きて保護されたのは、義父が海軍軍人だったお陰だし」

 元の世界の事故で夜の海に放り出され、意識を失って目が覚めたら軍病院のベッドの上だった。後で聞いてみれば、夜の海に漂ってたってことだから、発見されてなかったらそのまま死んでいたかもしれない。

「あとは戸成君ですか?」

「ああ、それもあったな」

 宮君が笑いながら言った。あいつは小学生の頃から視えてたから、海軍に入ることは決まってた。いや、自分で決めてたか。

「何でそこで戸成なんだ?」

「艦娘提督として偉くなるから、手伝えって言われた。海兵科に向いてるとは思えなかったし、支援担当ってことで経理科に進んだけど、卒業間近ってタイミングで視えるようになって、今じゃ同じ艦娘提督だ。人生、まだ20年とちょっとだってのに、波乱に満ちてるよ」

 湯飲みをあおり、空にすると、吹雪が酒を注いでくれた。

「波乱、で済むことじゃねぇだろ。さっきも言ったが、今回の件は死んでても不思議じゃねぇんだぞ。正直、同じ状況に置かれたら、生き残れた自信がねぇ」

 兵部が言い、宮君も頷くけど、彼らならまず自分の身を護るためにドックの復旧とか艦娘建造とかやってのけたんじゃないかと思う。俺とは違った解決策を見出して乗り切っただろうと信じている。

「ところで、戸成君は皆斗の素性を知っているのですか?」

「いや、教えてない」

「……後でもいいので、教えてあげたほうがいいですよ」

 優しい目で宮君が俺を見る。兵部は兵部でマジかよみたいな顔をしていた。まあ、今度会えたら話すか。

「この同期会のことは話さねぇほうがいいかもな。仲間外れだって怒りそうだ。いや、教えた時の反応が面白そうだな?」

「それより、兵部君と皆斗が仲良くなっていることに驚くのでは?」

「あー、それも面白ぇツラしそうだな」

 何故か2人して声を出して笑い、

「……別に仲がいいわけじゃねぇよ」

 誤魔化すように兵部は酒を一気に空けた。

 

 

 

「できたぞー」

 七輪から串焼きを取り上げ、皿に乗せていく。間宮達が作ってくれていたつまみは既に俺達の腹の中。もうちょい欲しいということで、材料だけ持ってきてもらい、俺がこの場で調理していた。

「口に合うといいけど。物足りなかったら各自で味変してくれ」

 タレまで準備する余裕はなかったので、作った串焼きは塩。調味料として塩、胡椒、一味唐辛子、七味唐辛子、醤油、あとレモンを用意してある。一味は俺の趣味だ。七味よりシンプルで好きなので。

 世話役だった艦娘3人にも参加してもらい、一緒に飲み食いしている。吹雪が調理を申し出てくれたけど、たまには自分で作りたいと押し切った。間宮と伊良湖がいるから、俺が料理する理由がなくなっちゃったからなぁ。

 次の串焼きを作りながら、干物を炙る準備もする。干物は宮君のリクエストだ。数を作ったら鎮守府に送ってやろうかね。

「……経理科出身だと、やはり料理が上手になるのでしょうか」

 吹雪と日向は旨そうに、羽黒は驚いた様子で串焼きを食べている。

「あの、提督……や、やっぱり、料理は上手なほうがいいですか?」

「ん? 艦娘に必須の技能じゃねぇだろ」

「いいえ、上手であるに越したことはありませんっ」

 羽黒の問いに、怪訝な顔を作る兵部。そこに吹雪が口を挟んだ。

「食べてもらった料理を美味しいと言ってもらえると嬉しいですし、専門でやっている人達に及ばずとも、何かあった時に代理や手伝いもできます。そうですよね、司令官?」

「お? うちは間宮と伊良湖がやってくれちゃいるが、休み無しに毎日、ってのも悪いしな。まあ、その時は俺が代打で――」

「司令官! そこは大和さんや私に任せて下さいよぉ!」

「でもなぁ。そうでもしないと料理を作る機会が、な?」

「司令官の料理は、ご褒美とかで作ってあげればいいんですよ! 妖精さん達には作ってあげてるじゃないですか!」

「そりゃ妖精さん達へ報いる手段が飲食物くらいしか思い当たらないからでな」

 赤い顔で吹雪が迫ってくる。吹雪、酒弱いんだな……

 妖精さん達は基本的にはお菓子を喜んでくれるけど、確かにここに来てチャーハンが人気というか、食べたいとよく言われる。

「吹雪、俺のチャーハン食いたいか?」

「チャーハンに限りませんけど。司令官の料理、大好きです」

「でも、ご褒美ってほど特別な物でもないだろ? サバイバル中はしょっちゅう食ってたじゃないか」

「あの頃とは使える食材の質と量が違います。それに司令官の手作り料理の味を知っているのって、この鎮守府所属だと少数ですからね、今のところ」

 正直、間宮達の腕には及ばないと思ってるんだけどなぁ。味ってのは好みだから、吹雪には合ったってことなんだろうけど。

「北星、やっぱりてめぇ、甘くねぇか?」

「そんなことはない。優遇して堕落するようなら問題だが」

 そうなりそうなら考えもするけど、うちの子らはそんなことにならないと信じている。

「大丈夫です司令官。今の私達が恵まれているというのは分かってますから」

 手酌で湯飲みに酒を注ぎ足しながら吹雪が言う。おい、そろそろ控えたほうがいいんじゃないか?

「司令官が私達のために、力を尽くしてくれていることは十分に伝わっています。だから私達も、司令官に応えるために頑張ろうと思っていますし、頑張っています。私だけじゃありません。大和さんは、まあ、アレなので別にしても、他の皆だってそうれす」

 アレって何だ、アレって。吹雪の中でも大和は異質なのか。

 吹雪の言うことが正しいなら、俺がやってきたことは間違っちゃいないんだろう。俺は艦娘達のために。艦娘達は俺というか皆のために。いい関係が築けている、でいいのかな。

「ですから、わたひもれすね、大和ひゃんほろれはないにひても、れす。もっともっと、司令官のお力になりたいんれふぅ……」

 熱っぽい瞳で、吹雪が覗き込むようにこちらへ顔を近づけてくる。さっきの酒、もう飲み干したのか? ペース崩して完全に酔っ払ってるなこいつ!

「わたひたちを気に懸けてくれる司令官のために……わたひたちが、護ったもの……残せたもののために……わたひは、なんれも――」

 ぽすん、と吹雪の頭が俺の腿に落ちた。完全に酔い潰れやがった……吹雪は今後、飲酒する時は気をつけたほうがよさそうだ。

「ククク……慕われてんなぁ」

「やはり刃傷沙汰待ったなしでは?」

 兵部と宮君がニヤニヤ笑っている。うるせぇ! 干物やらねぇぞっ!?

「護ったもの、残せたもののために、か……」

 吹雪の言葉をしみじみと呟いた日向が、湯飲みを傾けて、ゆっくりと息を吐いた。

「そういう意味では、私達艦娘にとって、北星提督は特別な存在だな」

「そうですね……私達の戦いが報われたのだと、そう思えます」

 日向と羽黒が優しい目をこちらに向けてくる。ん? と思ってると、そうか、と宮君が呟いた。

「皆斗は艦娘達にとって、守った未来そのものでもあるのですね」

 ……ああ、そういうことになるのか。俺自身はその中のごく一部でしかないけど、この世界にいる、同郷の人間は俺だけだ。

「だったら、俺も精進しないとな。皆が誇れる『未来』であるために」

 

 吹雪を布団に寝かせて飲みを再開する。後で誰か呼んで官舎へ運んでもらおう。

「ところで兵部の鎮守府の様子ってどんな感じだ?」

 もっぱらうちの話題だったので、よそのことを聞いてみる。

「どんな、って。ごく普通の、出先鎮守府だが」

「例えば、所属艦娘はどうだ? ちょっと変わってる艦娘とか、いたりするのか?」

 うちの大和ほど特殊なのは存在しないと思うけど、基本から外れた艦娘というのはそれなりにいると聞く。そういう方面ならどうだろう。

 炙った干物を出してやりながら問うと、兵部は苦虫を噛み潰したような顔になった。ほぉ、これは楽しめそうだ。

「まあ、いる……秋雲なんだがな……」

 秋雲? 秋雲……

「あぁ、夕雲型駆逐艦の」

「陽炎型ですよ」

 宮君の訂正に、そうだっけ? と記憶を探る。あぁ、そうだった。何であの娘だけ、夕雲型と同じ戦装束なんだろうか。

「で、その秋雲がどうしたって?」

「描く絵の題材が……主に衆道でな……」

 兵部の目が死んだ。その反応はあれか、ネタにされてるのか。あの兵部がここまでのダメージを受けるようなブツの……

「ぶっ、ぶははははっ!」

 我慢できず、大きな笑い声が口から飛び出した。悪いとは思うけど、止まらない。

「はっ、羽黒っ、それ、大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です! 今日は来てませんから!」

 うちと違って他の男の勤務員もいるだろう。鎮守府の空気的にどうなんだと思って、腹を抱えつつ聞いてみたら、斜め上の回答だった。それ、いたら俺や宮君も被害に遭ってたかもしれないってことか?

「米空母ホーネットのスケッチのエピソードからか、絵に興味を持たない者のほうが稀とはいえ、そういう方向性ですか」

 こちらは笑うのを何とか堪えている宮君。でも肩は震えてるし呼吸が荒い。かなり苦戦してるな?

 兵部の所の秋雲だけが特殊なんだと信じたい。そして、兵部の鎮守府に足を踏み入れることは絶対にしないと心に誓う。

「兵部、お前のとこの秋雲、ここに連れてくるなよ?」

「うちも勘弁してください」

「いっそお前ら2人がいる時に派遣してやろうか、あぁんっ!?」

「お2人の関係を見たら狂喜乱舞しそうです……今日のこのことを知ったら、提督も――ひぃっ!」

 羽黒の言葉に、野郎3人の目が一斉に向けられた。言うなよ? 絶対に言うなよ!? こらそこ日向、俺達を見ながら何を頷いてる!?

「はぁ……まぁ、ご愁傷様だな。でも、禁止しなかったのか?」

 兵部の湯飲みが空だったので、酒を注いでやる。ほれ、串焼きもできたぞ、食え食え。

「そうしたかったんだがな……あいつ、男向けも描くんだよ……」

 再び一気飲みし、湯飲みを突き出してきたので、また注いでやると、これまたとんでもない言葉が飛び出してきた。

「で、うちは離島鎮守府で、男もいる。血迷って艦娘達をどうこうしようとする奴はいねぇが、ほれ、まあ、分かるだろ?」

 日向と羽黒がいるからか、兵部は言葉を濁す。まあ、持て余す奴は出てくるだろうし、解消するにはあれこれ必要だろう。それぞれ本土で調達してるかもしれないけど、現地調達できるなら、と考えることはおかしくない。

 頷きながら、また少し減った酒を追加してやり、口の滑りをよくしてやる。

「宮外、てめぇの所はそういうのどうしてる?」

「どう、と言いますか……特に気にしていませんでした。恐らく、本土で入手して持ち込んでいるのだと思いますが……」

「我が君。弊鎮守府では、その手の物は酒保で扱っています」

 困ったように答えた宮君に、日向がぶっ込んだ。あー、酒保か。

「裏のほうか?」

 俺が問うと、日向が頷き、裏? と宮君が首を傾げる。知らなかったか。

「軍が一括で仕入れて、各所属の担当者が必要に応じて補充してるのが今の酒保だ。品揃えは悪くないけど、あくまで必要な物がメインでな。そこで、おおっぴらにできないもう1つの酒保の登場だ。酒保と言っても、有志が仕入れてるってだけだが。こっちは嗜好品を重点的に扱ってて、まあ、目こぼしされてる存在だ。だから裏って呼ばれてる」

 なるほど、と宮君が頷く。まあ、宮君には縁がないか。

「じゃあ、秋雲が描いたブツも裏に卸してるってことか」

 そりゃ兵部のダメージもでかいだろう。ん、てことは、女性向けの需要もあるということに? 今は女性も普通に軍にいるしな。それとも艦娘向け? 何て言うんだっけ、こういうの。確か、フジョシ?

「あっ、あのっ、提督も、その、購入を……?」

「秋雲作のブツを買ったら負けだろ」

 赤い顔をして問うた羽黒に、兵部はげんなりした顔で答える。あ、今ホッとしたな、羽黒。

「まあ、あれだ。実在の人物を扱うのだけ禁止すれば、被害は避けられるんじゃないか? あるいは、モデル料を高額で徴収するとかすれば諦めるだろ」

「そうだな……少なくとも、鎮守府内にいる奴でそういうのを描くのは止めさせるか」

 どうなるかは分からないけど、兵部の心に平穏が訪れるのを祈ろう。

「で、北星の所はどうなってんだ?」

「うちは、表しかない、はずだ。裏を運営するにも余裕がない」

 その内、明石が裏もやるようになるかもしれないけど、現時点では先立つものと仕入れのツテがないから、当分先だろう。アマゾンみたいな通販があればいいのに。インターネット、まだ存在しないんだよなぁ。元の世界と同じくらいなら、あと20年くらい先か……

「じゃあ、本土に戻れるまでお預けか。暴発させるんじゃねぇぞ」

 おっと、兵部も缶が温まってきたと見える。酔っ払った野郎の会話なんてこんなもんだ。

「てだすけがひつよーれふかっ!?」

 不意に就寝区画に寝かせている吹雪の声が聞こえた。あいつ、起きてたのか? しかもこの話題で手助けって……偶然か? それとも話自体は聞いてたか? うん、いずれにせよ正気じゃないな。

「要らん。耳を塞いでそのまま寝てろ」

 壁越しに声をかけると、ポスッと何かが倒れる音がした。寝たか。

「んんっ! まあ、あれだ。女性もいることだし、紳士的にいこう」

 疑わしげな目を向けてくる兵部と羽黒、楽しそうに見ている宮君と日向にそう言って、俺は皆の前に串焼きを置いた。

 

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