離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第18話 艦娘天龍1

 

 久しぶりに楽しい時間を過ごせた。兵部――正義(まさよし)と腹を割って話せたのも大きな収穫だったと思う。艦娘提督同期の結束は強くなるだろう。

 その正義、俺への支援を約束してくれた。とりあえず、到着時の非礼の詫びということで、後日資源を送ってくれるらしい。

 あと、詫びとは別に一発殴れとか言い出したけど、今の俺がそれやったら、潰れたトマトになるし、その理由はさすがに話せないから、貸し1つにしておいた。

 吹雪は翌日、顔を真っ赤にして謝ってきた。あれは醜態と言ってもいいからな。次からは控えめに飲もうな、と指導しておいた。

 ただ、時折挙動不審になるのと、それで大和が上機嫌になるのが分からない。

 

 

 

 通信設備が復活したことで横須賀本鎮守府とのやり取りもできるようになったのは大きい。本鎮守府が出している任務――船団護衛等を受けることで、報酬という形で資源が支給されるからだ。なんかゲームのクエストみたいだな。まあ、こなした任務が正当に処理されるかは今後次第だけども。

 さて、そんな任務をこなしつつ、資源確保にいそしんでる当鎮守府で、1つ問題が浮上した。正確には、問題になりそうなことが発覚した。

 任務等で戦闘が発生した際の、ある艦の行動だ。その艦名を、天龍という。

 訓練は真面目にやってるし、大和に躾けられてからは反抗的な態度もない。大和による朝の自主練でも真面目に木刀を振っているし、平素は駆逐艦達の面倒もよく見てくれている。宮君の艦隊との演習等で、当面は問題ない練度に達してもいる。

 ただ、被弾が多いのだ。戦闘報告書を確認する限りじゃ、駆逐艦を庇うことが多いくらいで、それ自体はまあいいんだけど。問題はその後の行動。損傷の程度に関係なく突撃したがるのはいかがなものか。護衛の時に対象を放り投げて暴れるなんてことがないだけマシだけど。

 建造当初から、出撃できないことに不満げだったし、出撃可能になってからはイキイキとしてるのはいいとしても、これはちょっといただけない。ここのところ、中破以上が目立つし、無茶をしてるように見える。

 これ以上続くようなら、考えないといけない。

 

 

 

 正義の襲来から10日。

 桃箭島鎮守府艦隊指揮所。

 作っておいた防空壕を妖精さん達が増改築してくれたそこで、艦隊の指揮を執る。とはいえ、ここを使用するのは今日が初めて。

 哨戒や護衛時等の突発的な戦闘では無線のやり取りだけで片がつくからここまで足を運ぶことがない。今回は特定海域への威力偵察任務なのでここを使うことにした。

 光量控えめな室内に、戦況が次々に飛び込んでくる。艦娘達による報告だけではなく、妖精さん達による報告もだ。

 戦闘報告書に関する補佐をお願いしてみたところ、1戦闘につき金平糖1つで快く応じてくれたので、妖精さんの声が聞こえるようになったこともあり、こういう時の各種報告も同時にしてもらうことにした。艤装の状態とかは艦娘本人より艤装妖精さん達の報告のほうが正確だ。

「やっぱり、状況が掴みにくいな」

 艦娘達の申告だけだと、どうしても情報が限られる。もっと視覚的に把握できればやりやすいんだけど。今の技術で、こういうのどうにからならいものか。あいつに相談してみようかな。

 戦況を見守っていると、被弾の報告が1つ入った。天龍のだ。

「損傷は?」

『問題ねぇ!』

 問うと、力強い彼女の声が返ってくる。それと同時に、天龍の艤装妖精さんからの被害報告も届いた。それを聞いて、眉間に皺が寄ったのを自覚する。

「戦闘そこまで。撤退だ」

『はぁ!? 何でだよ! まだやれるぜ!』

「今作戦の目的は達したと判断する。撤退しろ。命令だ」

 強い口調で告げ、通信を切る。自身の被弾を契機とした撤退命令だ。さぞ気に食わないだろうなと思う。戻って来たら文句を言ってくるだろう。

 でもな、気に食わないのは俺も同じだ。

 

 

 

 現在、この鎮守府の工廠は、『ドック』と『工廠』が一体化した建物だ。『ドック』は海側から「船着き場」「艤装整備場」「艦娘修理ドック」となっていて、修理ドック横に「医務室」がある。『工廠』は「艤装保管庫、艤装開発場、艦娘建造ドック」から成る。

 船着き場は文字どおりのそれであるとともに、艦娘達が出撃・帰還する海の玄関口でもある。

「おい! オレを戦線離脱させるな!」

 そこで待ち受けていると、案の定。天龍が俺を見るなり速度を上げつつ怒鳴ってきた。艤装は大破に近い中破、といったところ。戦装束もボロボロだ。これでよく大丈夫なんて言えたものだな。

「今回は威力偵察が目的だ。あのまま突き進む必要はない。敵の層が不明な以上、沈む危険性が高まる。当然の判断だ」

 こんな状態で戦闘継続し、例え勝てていたとしても、更に深部まで進撃しかねない。そうなっていたらどうなったか。妖精さんからの報告を頼んでおいて良かったと心から思う。

 だというのに。

「沈むからって何だってんだ。また建造すりゃいいだろ! 死ぬまで戦わせろよ!」

 海から上がり、まっすぐにこちらに来て、天龍が俺の胸ぐらを掴んでくる。さすが艦娘と言うべきか。俺の身体はあっさりと吊り上げられた。

『手を出すなよ』

 天龍以外のこの場にいる艦娘達に無線で伝え、怒りに燃えた天龍の視線を受け止める。

「死ぬまでだと? 死ぬまでって言ったか?」

 吊られたままで、俺は天龍の胸ぐらを掴み返し、引き寄せた。6秒我慢? できるかっ!

「建造直後に、ここの事情は説明したはずだ。その上での発言か? それとも忘れたか? 敵の攻撃を食らいすぎて記憶が飛んだか、おい?」

 天龍の力が緩んだ。その目に怒り以外の感情が混じり始める。

「今ここは、本鎮守府の支援なしで運営しているに等しい。救援物資として送られた資源はあるが、定期的な補充がまだ確保されておらず、新規建造は可能でも、維持の面での余裕がない」

 足が地面に戻った。天龍の力の方向が、俺から離れようとするものに変わる。でも俺の手は、彼女の装束から離れない。生身の人間相手なのに簡単に引き剥がせないのはさぞ意外だろうな。俺の腕力がおかしいことは、うちの鎮守府じゃ大和と吹雪以外は知らない。無線の検証をした時にも明石にすら話してないし。

 今、これを見てる連中はおかしいことに気付くかもしれないけど、別に構わない。今は天龍のことが最優先だ。

「出撃にも修理にも資源が必要だ。その他にも常に出ていくものはある。食料、生活用品、教育や訓練の時間。その他諸々。それらの積み重ねで、今があるんだ。俺も、お前達も」

「離……せよっ!」

 上擦った声と共に放たれた天龍の一撃が、俺の顔に入った。駆逐艦の誰かから悲鳴が上がる。普通ならこれで俺が吹っ飛ぶところだけど、力加減が分からずへっぴり腰の一撃だ。大和に轢かれた時のことを思えばどうということはない。いや、全然痛くなかったな……頑丈さもおかしくなってるのか?

 自分がしたことを自覚したのか、それとも俺が平気でいるのが信じられないのか。怯えの比率が増した目を見開いている天龍に、お返しとばかりに額を打ちつけてやった。手が離れ、身体が後ろに下がる。それを再度こちらへ引き寄せた。

「それがまさか、艦娘のほうから、こんな愚かな提案をしてくるとはな。軍の中にも、艦娘を使い捨てにしてもいいと考える奴がいる。資源があればいくらでも建造できるだろうってな……その資源が、無限に湧き出ると思ってんのかクソが!」

 掴んだまま揺さぶると、ガクンと頭が揺れる。抵抗する様子がない。頭突きが効いたか? だったら大人しいうちに言いたいことを言わせてもらおう。

「軍は金食い虫だ。あれもこれも必要なのは分かる。でも予算は有限なんだ! 予算があっても、物資自体、無尽蔵じゃない! 限られた予算で限られた物資を調達するために苦労してやりくりしなきゃならんのに、そんなの知るかとばかりにあれを寄越せこれを調達しろと好き勝手ぬかしやがる!」

 一部お偉いさんへの愚痴が混じってしまうけど、無関係じゃない。何をするにしても、消費するものはあるんだから。

「また建造すればいいと言ったな? 今のお前に費やしてきたあらゆるものを、また1から積み重ねていけと? それを資源と時間の無駄遣いって言うんだよ! それに、例え潤沢な資源があったとしてもだ! そしてまた軽巡洋艦天龍を建造できたとしても! それは今のお前じゃなくてまっさらな別人だ! お前が今まで獲得してきた知識や経験、記憶は全て失われるんだよ! そんなこと容認できるかっ!」

「で、でも、オレは戦船な――っ!?」

 言葉の途中で二度目の頭突きを叩き込んでやった。いくさぶね? なるほど。

「自分は兵器だって言いたいのか? なら、こういう言い方をしてやる。兵器と自認してるなら、兵器らしく、命令に従え。お前は俺が命令して作らせた、俺のものだ。お前が兵器だってなら、わがまま抜かして持ち主に逆らうな」

 返事はない。その代わり、溜息が聞こえた。大和のものだ。

「提督、聞こえていませんよ」

 見ると天龍は完全に脱力していた。気絶している……やりすぎたか?

「あの……司令官は、私達を兵器だと思っていないのですか?」

 いつの間にか、随伴艦達も海から上がっている。その中にいた三日月が聞いてきた。

「どうした?」

「司令官は先程、こういう言い方を『してやる』と言いました」

 ああ、そういうことか。

「艦娘は艦娘だろ」

 兵器である面を持ってることは否定しようがないけども。一括りにするのは無理だろう、と考えている。

「艦娘が人間か兵器かなんて話は良く出るがな。人間とは? 兵器とは? そこをまず全ての人間が納得できるように定義してからじゃなきゃ不毛な話だ」

 釈然としない表情の三日月に、俺の考えを述べる。

「人間は資源を使って作ることはできない。艦娘はできる。故に、艦娘は人間じゃない。兵器は意思や心を持たない。艦娘はそれらを持っている。故に、艦娘は兵器じゃない。一方で、人間は心と感情を持っている。艦娘も持っている。だから人間だ、とも言えてしまう。兵器とは、という話でも同様だ。だから、艦娘は艦娘だとしか俺には言えない」

 どちらの特性も持ってる以上、どちらかに決めつける意味もない。結局は人間が決めた定義に合うかどうかでしかないし。声高にそう形に嵌めたがる奴は、そう扱うための大義名分が欲しいだけなんじゃないかと思っている。

「じゃあ、司令官にとっての艦娘とは、どういう存在なんだい?」

 今度は響が問うてきた。これは人間か兵器かじゃなく、どう扱うのかって意味の問いだな。

「俺にとっては、恩人であり、部下であり、戦友であり、仲間だ。そして、人間と同じように感情を持ち、意思を持つ者相手なら、相応の接し方をするのが当然だと思っている」

 それはともかく。天龍をどうにかしなきゃな。

「明石。これ、艤装をつけたまま入渠でいいのか? 外すのか?」

 待機していた明石に問う。

「艤装はこちらで修理しますから、外します」

 答えると、ドックの奥から待ち構えていたかのように妖精さん達ががわらわらとやって来た。天龍を床に置くと、群がるようにして作業をしていく。あっという間に艤装が解除された。よし、次は修理だな。

 天龍を抱き上げる。血がついたけど、まあいいか。

「提督! あとは私がやりますって!」

 明石を無視してそのまま進み、艤装整備場を通り抜けると、先導していた妖精さんが修繕用ドックを指す。そこには修復材という名の艦娘専用の薬湯が満たされていた。なるほど、風呂とはよく言ったものだ。あそこに浸せばいいのか。

 修繕用ドックの1つに近づいて、天龍を下ろす。そして戦装束を脱がし――ここまでボロボロだとどうするか。

「破いたほうが早いよな?」

「やっちゃってください」

 妖精さんの許可が出たので、脱がすというより剥ぎ取ってやり、ドックに放り込む、のはまずいか。再度持ち上げて、ゆっくりと浸していく。

「あとはおまかせを」

 妖精さん達があれこれ持ってきて、ドックに取り付け始めた。なるほど、体が浮かないように、そして顔が沈まないように処置してるのか。小さい柄杓で掬った薬湯を顔にかけてやったりもしている。浸かってたら呼吸ができないってことだな。これ、酸素吸入器みたいなものを着けることができたら、頭の先まで浸かることができるのでは? 妖精さんが手作業でかけるのは手間だろう。

 そういった感じの物を作れないかと明石に聞こうとして振り向くと、呆然としている工作艦の姿が。

「どうした?」

「どうした、って……あの、いきなりひん剥くのは……」

「あー……もしかして必要なかったか? 風呂とか言われてるから、脱いで入るもんだと思ってた」

「いえ、それは間違ってないんですけど、提督がそれをするのは、風紀的、対外的に、ちょーっと……ですね?」

 気まずそうに視線を逸らす明石。その後ろには顔をを赤くしたり青くしたりしている駆逐艦達の姿が。

「医療行為に風紀も何もないだろ? でも、そうか、そうだな……基本、中破以上がいる場合は、帰還時にここへ近づかないようにするよ」

「そ、そうしてもらえると……」

 セクハラだと思われるのは避けたいところだ。やましいことは何もないけど、疑われることは避けよう。うむ、反省。

 

 

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