離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第21話 艦娘にとっての

 

 士官用の食堂なんてないので、俺の食事は仮庁舎(ここ)でとることになっている。一緒の食堂でも俺は一向に構わないんだけど、上官がいると皆の気が休まらないかもしれないし。

 ただ、皆とコミュニケーションをとる機会が限られるのが難点だ。その点では、サバイバル生活の頃は気が楽だったなぁ。お陰で大和と吹雪とも打ち解けられたし彼女らについては、他の皆と同じ部下であっても、戦友・仲間という意識がより強めだ。扱いが変わるわけじゃないけど。

 机に置かれた今日の夕食。ご飯、味噌汁、肉じゃが、鰯が2匹、漬物。吹雪が運んでくれたそれを食べるべく手を合わせようとしたところで、

「ん?」

 何かが走る音。それも複数が、次第にこちらへと近づいてきて――

「提督ぅぅぅっ!」

 飛び込んできたのは天龍だった。そして、他の艦娘達も次々と。

 バン、と天龍の両手が机に叩きつけられた。衝撃で食器が揺れる。

「提督……あれ、マジか?」

 ずい、と身を乗り出して問うてくる天龍。食事が胸部装甲に接触しそうだったので、速やかに食器を退避させた。

「あれ、とは?」

 このタイミングで皆が押しかけて聞いてくることなんて1つしか思い当たらないけど、念のために聞き返す。

「大和が貼り出したあの紙だよ。あれ、提督がオレ達と同じ世界から、しかも未来から来た、ってことだろ?」

「事実だ」

 艦娘達が認識してる世界と俺の世界は同じはずだ。少なくとも俺はそう信じている。大和は間違いなく俺の世界の大和だし、現在に至るまでに顕現した同じ艦娘の記憶で、明らかな齟齬が見つかった事例もない。

「全く同じ歴史を歩んだ、別の世界から艦娘達が顕現してる可能性もあるけど、それは証明のしようがない」

「そうかぁ……提督が、あの後に生まれた人間かぁ」

 身を引き、しみじみと天龍が呟く。他の艦娘達も同じように、その事実を噛み締めているように見えた。

「守った未来そのもの、か」

「何だそりゃ?」

 あの時、宮君が言った言葉が口から漏れた。聞こえたのか、天龍が首を傾げる。

「先日、宮君が、俺のことを指して言った言葉だ。艦娘達にとって、俺って人間はそういうものなんだ、って」

「なかなか上手いことを言うクマ」

「そうだね。確かに司令官は、私達にとってそう言える存在だ」

 うんうん、と球磨と響が頷いている。他の皆も納得顔だ。

「司令官。この白雪、お役に立てるよう努めます。何でもお申し付けください」

「私もです。三日月、もっと強くなって司令官をお助けしますね」

 白雪と三日月が、一歩進み出てきて言った。

「提督の敵は球磨がブッ飛ばすクマ」

「直接は戦えませんが、食事等の生活面は私達にお任せください」

 球磨が、間宮が、そして皆が口々に決意を放ってくる。うわ、凄い熱量……火傷しそう。何でそこまで熱くなれるかね?

「当たり前だろ?」

 疑問が表情に出ていたのか、天龍が俺を見てニヤリと笑う。

「オレ達にしてみりゃ、いきなり人の姿になってこっちの世界に呼び寄せられたんだ。深海棲艦が倒さなきゃならない敵だってのは分かるっつーか、刷り込まれてるのかもしれねぇけど、違う世界とはいえ、帝国に住む人を護るために戦うことに否はねぇ。でもそんなところに、オレ達と直接関わりがある奴がいた。しかもオレ達を指揮して戦う上官だ。そりゃ奮い立つってもんだぜ」

 なるほど、そういう意味でもやる気が変わるのか。でも、盲信してるって感じでもない。初期の好感度に補正が入ってる感じだろうか。

「それに司令官は、暁達のことを一番に考えて色々してくれてるじゃない。良くしてくれる人にはこちらも応えたいと思うのは当然よ」

 暁の言葉に、自分の方針はこれでいいんだなと確信した。俺は皆のためにできることをしていけばいいんだ。

「そうか。じゃあ、その信頼に応えられる提督になれるように、精進していくよ。これからも、よろしく頼む」

 そう言うと、皆が笑顔を見せてくれた。うん、頑張ろう。今以上に。

「ところで司令官。どうしてこんなことになったの? 海難事故が原因でこっちに来たみたいな書き方だったけど」

「気付いたらこっちにいた、としか言えないな」

 暁の問いにはそう答えるしかない。望んだことじゃないのは確かだ。

「司令官がこちらの世界に来たことに、何か意味があるのでしょうか? 私達の存在が、司令官を引き込んでしまったとか……」

 不安げな三日月の問い。それは、考えたことなかったな。

「艦娘が原因で、ってことはないと思う。少なくとも、俺を喚んだという艦娘に遭遇したことはないし、それならそれで、そいつから何かしらの説明があってしかるべきだけどそれもない。だからそこは気にしなくていい。こっちに来られなかったら、そのまま夜の暗く冷たい海で死んでただろうし」

 神様による転生とか転移みたいなお話はあっちの世界にあったけど、そういうのなのかも不明だ。神様らしきものに会っていないことは、記憶にある限りでは間違いないけど。

「あ、提督。大和との関係ってどうなんです?」

「俺の曾爺ちゃんが大和の乗組員の生き残りだった。彼女はこの鎮守府で最初に建造された艦娘で、その際に俺が持ってた戦艦大和の一部が使われている」

 明石の突っ込んだ質問に、固めの回答を返した。すると、

「他には? 提督と縁がある艦ってここにいるのか?」

 大和に乗ってたのは爺ちゃんの父親である曾爺ちゃんで、もう1人、婆ちゃんの父親である曾爺ちゃんのほうもある軍艦に縁があった。他の艦との縁は……どうなんだろう。聞いた覚えはない。

「あるのかもしれないけど、分からない。1隻、いるにはいるけど、着任はしてないな」

 天龍にそう答えると、皆が残念そうな顔になった。いや、縁の有無で対応を変えたりはしないから、そう気にしなくても。

「戦後はどのような艦が活躍していたんですか?」

「提督はどのような食事を召し上がっていたのでしょうか?」

「未来にはどんなお酒があるんだい?」

「どんな技術が広まってるんです?」

「戦後、どのように復興していったのでしょう?」

「お菓子などは今と比べるとどれくらい進歩しているんでしょう?」

「球磨達の名を継いだ艦とか建造されてるのかクマ?」

 次から次へと質問が繰り出されてくる。おい、ちょっと落ち着け。一度に言われても捌ききれない。俺は聖徳太子じゃないぞ。

「いい加減にしてください!」

 一喝が、皆の口を閉じさせた。それを発したのは吹雪だ。腕を組み、強い視線を皆へと向けている。

「司令官はまだ夕食を食べていないんですよっ! それを何ですか! 皆で押しかけて邪魔をして! それに、皆もまだ食べてないんでしょう? まずはやるべきことをやってからです!」

 えー、と明らかに不満げな雰囲気が醸し出された。ひく、と吹雪の口元が引きつったのが見える。

「そうですか、私では駄目ですか。でしたら大和さんに――」

「食事に戻りますっ!」

 吹雪の言葉を遮るように天龍が叫び、一目散に出て行った。

「……さすが天龍さん。危機回避能力が高いですね」

 ニッコリと笑いながら、吹雪が残った皆を見る。駆逐艦達の顔色が悪くなっていき、我先にと飛び出し、そして残った皆も、追うように出て行く。

 部屋に静寂が戻ってきた。吹雪つよい。

「ここまでとは……」

 机に突っ伏して、思わず呟く。いや、ホントに。

 日向も言ってたけど、同郷の人間、それも自分達が沈んだ後に生まれた人間というのは、艦娘達にとって特に思うところがあるようだ。戦後に生まれた大勢の中の1人ってだけなのになぁ。

「あはは……大変でしたね」

「いや、まあ、嫌な予感はしてたんだよ。ただ、吹雪達の時はそこまで激しくなかったからさ」

「あの時は、宮外提督達の目もありましたし」

 遠慮してた、ってことか。そういえばあれ以降、執務の合間にそこそこ質問とかはしてきたっけ。

「ところで大和と日向は?」

「食堂で夕食を食べている最中じゃないですかね?」

 皆が押しかけた中、あの2人だけ来なかった。俺のことを知ってるし、気持ちの整理は済んでるから、来る意味がないのはそのとおりなんだけど。

 そうだ、食事前だった。食器の位置を戻し、今日の献立の主菜である肉じゃがに箸を伸ばす。うん、旨い。さすが給糧艦、見事な腕だ。

「それで、どうするんですか?」

「どうしよう?」

 吹雪の問いに、問い返すしかなかった。何とかしないととは思っても、適当な案が浮かばない。

「1人1人を相手にするのが大変なら、質問状でも作ってもらいますか?」

「それはそれで大げさな気もするけど」

「でしたら、会食などどうでしょうか?」

「質疑応答じゃなくて、そういう形でってことか。確かに皆とのコミュニケーションどうしようかとは考えてたんだ」

 もう少し皆と話をしておきたいし、いい機会かもしれない。

「今のところ、秘書艦をしないと司令官と個人的に接触する機会が少ないですし。一度には無理でも、例えば朝食時に数人と一緒に、とかそんな感じで」

「いいな。ありがとう、吹雪」

「い、いえ……えへへ」

 礼を言うと、嬉しそうに吹雪が笑った。

「ところで。今朝、大和と一緒に天龍を引きずっていって何を話したんだ?」

「それは……乙女の秘密です」

「……そうか」

 ふと思い出して聞いてみると、表情を変えないままで答えた。しかし確かな圧を感じる。これ以上は駄目なやつだと察し、俺は追及を諦めてジャガイモを口に入れた。

 

 

 

 吹雪の提案を受け入れ、何人かと一緒に夕食をとることにした。秘書艦をしてる数名は、業務の合間や休憩時間に雑談してるので除く。

 それら含めての質問は様々だった。

 例えば天龍なんかは、戦後の軍備について色々と聞いてきた。同じ名前の艦が未来に存在し、しかもそれが訓練用の艦だって聞いた時の表情は、見ていて面白かったな。あと、現役の戦艦が存在しないことに驚いてた。

 例えば明石は軍備もそうだけど、技術的なことを。そのあたりはやはり工作艦だからだろうか。

 間宮や伊良湖は食生活の質問が多かった。明石と同じで、自分に関わる部分は興味があるらしい。あと、現代の食事が口に合わないんじゃないかと気にしてたようだ。懐かしく思うことはあるけど、人生の半分以上をこちらの食事で過ごしてきた身としては気にならない。

 他にも自分に分かる範囲で質問には答えた。なにせ7歳児の持っていた知識、しかも経年劣化してるシロモノだ。どうしても曖昧になる部分は出てくる。

 特に戦中、沈んだ後から終戦までのことはどの艦娘も知りたがる。しかし繰り返すけど当時7歳児がそのあたりのことに詳しいわけがなく、ろくに答えることはできなかった。むしろ、他の艦娘のほうが詳しいくらいだろう。戦後のことも生存艦のほうが詳しいはずだ。この辺は艦娘からの聴取をまとめた資料があるので、そちらを閲覧できるように手配するつもりでいる。

 戦後のことも知りたがってたけど、直後の動きとかはさっぱり分からない。原爆を2発落とされて無条件降伏して、アメリカの下でこうなった的なことは言えるけど、それだけだ。

 ただ、会話の中で色々と思い出したのは、あっちで起きたことがこっちで起きてないという事実。戦争なんかは、朝鮮戦争やベトナム戦争は言葉だけ記憶にあるけど、こっちでは確認されていない。東京オリンピックどころか、オリンピック自体が開催されてないし。

 他にも戦後に起きた事件やイベントで、こっちでは起きてないものは色々とあるんだろうし、逆にあっちでは起きてないことがこっちで起きたりもしてるだろう。それが何なのかまでは判断できないけど。

 それはともかく、負けたとは言え戦後も国が存続し、しかも大国と言えるまで復興したことは素直に喜んでいたし、俺のいた時代の日本人が戦渦に巻き込まれず生活できていることは嬉しく思っているようだ。

 そして、そんな時代を生きていた俺が、自分達に敬意を持って接してくれていることが嬉しいと。

 一方で、俺がこちらの戦争に身を投じていることに申し訳なさのようなものがある者も何人かいたけど、立派な軍人として働いていることは嬉しいと言っていた。

 敬意は俺にとっては当然だし、深海棲艦という存在を知った上で軍に入ることを選んだのは俺の意志だ。立派かどうかは自分で言えることじゃないけど、彼女らに誇れる軍人でありたい、そうなろうと決意を新たにした。

 とまあ、こうやって色々と話したことを、皆はその場でメモにとっていた。内容をまとめ、共有し、新任達への引継資料にするんだとか。何か丸裸にされてる感じがするのは気のせいだろうか……まあいいか。俺が艦娘達の資料を持ってるのと同じことだし。

 

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