イベントで邂逅可能だった艦で、お迎えできなかったのは、レキシントン、玉波、あきつ丸……いつか来てね。
執務中、内線で明石から「艦隊が艦を持ち帰った」と連絡があったので、工廠へやって来た。入ると、気付いた明石がこちらへ頭を下げる。
「よう、提督。戻ったぜ」
今日は天龍を旗艦とした艦隊が哨戒任務に出ていた。艦娘建造ドック前に立っていた天龍がこちらを見て、そう言葉を投げてくる。
「ご苦労。被害は?」
「駆逐1隻が軽微。艤装は修理に回してるし、損傷はちょいと浸かればすぐ治る程度だよ。駆逐達は先に行かせた」
「そうか。天龍はどうして残っている?」
基本、出撃から戻った場合は、即入渠を認めている。重要なことがない限りは報告も書類で構わないと通達してあったのに。
「ん、こういうの知らなかったから、見とこうと思ってな」
天龍の視線が動く。艦娘建造ドックの船台には、1隻の艦が安置されていた。重巡洋艦の、青葉か。ついに正規の重巡洋艦が来たな。
「あの、提督。どういうことでしょう? 建造実施は明日の予定ではなかったですか?」
同伴していた大和が疑問の声をあげた。ああ、そういえば説明してなかったか。
「海で、稀に艦が見つかることがあるのだ。例えば深海棲艦との戦闘後に浮上してきたりな」
「……それは、どういう理屈で?」
「そこまでは不明だが、浮上した艦を建造ドックで処置すると、艦娘として顕現する。事例としては戦闘後に浮上することが多いため、戦利品や鹵獲品と呼ばれることもある。あと、更に稀だが、顕現済みの艦娘と海上で遭遇することもある」
始まりの艦娘、第零艦隊はまさにそれだし、その後も我が国で例がある。あと、他国でもだ。
「つまり、建造しなくても戦力強化が可能ということですか?」
「頻度は低いから、建造のほうが早くはある。確実性という意味では、どちらにも難があるが」
資源を使わずに艦娘が入手できるというのはありがたくはあるけど、そればかりに頼っていては艦隊の強化は間に合わない。一方で建造なら、資源が許す限り艦娘を入手できる。あ、資源があっても限度はあったか。
「ともあれ、新たな仲間というわけですね。それでしたら、新造計画は修正を?」
「ああ、そうなる」
資源に余裕ができてきたので、2艦隊を編成できるように増員するつもりだった。建造妖精さんたちにせっつかれていたのもある。資源管理を手伝ってくれてるから、余裕がないって誤魔化しはできないし。
「青葉を顕現させるとして、新規建造は3隻だな」
「ういた1せきぶん、3せきのけんぞうじにくわえても?」
建造妖精さんの1人が聞いてくる。ああ、資源配分を増やそうってことか。使う予定で組んでたんだから、もちろん構わない。あわよくば重巡をもう1隻、といきたいなぁ。
「許可する。だが、まずは青葉からだ。明石、作業を開始してくれ」
「了解です」
明石の指示で、妖精さん達が青葉へと群がっていく。ケーブルを繋いだり何やら弄ったり確認したりしてるみたいだけど、作業内容はよく分からない。多分、聞いても理解できないだろうから、そのまま丸投げして見守るだけにする。
やがて作業が終わったのか、妖精さん達が建造ドックから上がってきた。それを待っていたかのように船台の艦体が輝き始める。そして、人の姿へ変わった。
「重巡洋艦青葉、で間違いないだろうか?」
「え、あ、はい。青葉です」
「私はここの責任者である艦娘提督、北星皆斗だ。正直、混乱しているだろうし、聞きたいこともあるだろうが、状況については他の者が揃ったら一度に説明する。ひとまず、そこから上がってもらえるか」
「あっ、はい」
戸惑いつつ、青葉がドックから上がってくる。
「明石、続けて建造だ。3隻同時で」
「
首を横に振ったり腕でバツを作ったりしている建造妖精さん達を見ながら明石が確認してくる。なるほど、ちゃんと作りたいのね。腕を鈍らせたくないとかだろうか。
「問題ない」
意を汲んで、許可することにした。喜び飛び跳ね、妖精さん達が資源倉庫へと駆けていく。
持って来た資源に妖精さん達が何やらやると、資源が光の粒子となり、小さな部品のようなものへと変わる。それを妖精さん達が船台へ運んだ。受け取った妖精さんが工具やら何やらを手に作業を開始。妖精さん達が、艦を『組み立てて』いく。
「あのー、質問いいでしょうか。これは一体何を?」
建造の様子を見ながら青葉が聞いてきた。
「艦娘――つまり、君のような存在を顕現させるための作業だ」
「ということは、青葉もこうやって?」
「いや、君は海で発見されてここへ運ばれて来た。その時には、今、妖精達が建造しているような艦の姿だった」
「はぁ、不思議なものですねぇ」
どこからともなく取り出した手帳に、青葉が何やら書き込んでいく。
「完成まで、どのくらいかかりそうだ?」
「そうですね……1ばんと2ばんは、20ぷんをすぎるくらいでしょうか。3ばんドックは、1じかんはこえそうです」
建造を指揮している妖精さんの回答に、考える。30分かからないなら、まず駆逐艦だ。3番ドックの1時間越えは、重巡もありえるか。うん、いい感じ。
ただ、1時間か。それまで待機してもらうのも悪いかな、とも思ったけど、青葉は建造を熱心に見学している。なら、まあ、いいか。
そうしているうちに、艦が形になっていく。あれ、2番ドックのは駆逐艦じゃないな。潜水艦か? それに3番ドックもあの大きさだと重巡に届かない。多分軽巡だろう。
さて、誰が来てくれるか。
結論から言うと、顕現してくれたのは、駆逐艦雪風、潜水艦伊58、軽巡洋艦夕張だった。
そんなわけで、顕現直後の説明を終え、全員うちに所属してくれることになった。これで一応、艦隊を2つ編成できるようになったわけだ。
「全員、基本的に出撃や訓練、その他任務には参加してもらうが、それとは個別にやってもらいたいことがある。雪風は今のところ、個別任務はないが、その時々で何か手伝ってもらうことがあるかもしれないので、その時は頼む」
「はいっ、お任せください!」
元気よく雪風が答えた。面談はまた後でするとして、今のところ基本的な艦娘雪風との違いはなさそうだ。
「次に青葉。新聞を作ってもらいたいのだが、いいだろうか?」
「新聞……艦内新聞みたいなものですかね?」
艦内新聞というのは、軍艦の乗組員が自主発行している新聞のことだ。その鎮守府版を頼みたいと思っている。
「ああ。公序良俗に反しないこと。特定個人を悪意をもって叩かないこと。情報の裏は取ること。発行前に私の決裁を得ること。以上の条件を満たせば、内容は問わない」
「ふむ……日刊、とは言いませんよね?」
「不定期で構わない。一応、深海棲艦と戦うのが本業だからな」
「分かりました、お任せください」
よその青葉は芸能記者というかゴシップ系というか、度の過ぎた取材が見られることが多いと聞くけど、先の条件を守るのであればおかしなことにはならないだろう。多分。
「夕張。君には工廠の明石の補助を頼む」
「分かりました! 何から作ればいいですか!?」
「しばらくは艤装の整備が主となる。資源の余裕ができたら、装備の開発等も進めて行く予定だ。それまでは手持ち無沙汰になるかもしれないが、色々と構想は練っておいてほしい。くれぐれも無許可での開発はしないように」
「えー……」
「資源の出納や成果については色々と事務が伴い、本鎮守府への報告の義務もある。それを疎かにしたら、横領だなどと言われかねない。過去の夕張達のようなことを、君にやらかしてほしくはない」
さっきの食いつきぶりから、ちょっと不安になったので釘を刺しておく。
「万が一、勝手なことをしたら、物理的に吊すからそのつもりで」
「あ、あのー……その、よその
「……私が言う『吊す』は仕置きの意味だが、実際にこっちの例はある」
その問いに、10秒ほど間を置いて、努めて低い声で答えながら、手刀で自身の喉元を横に一閃して見せる。つまりはそういう意味だ。
「要望があるならその都度言うように。できる時は許可するし、無理な時は無理と言う」
「わ、分かりました……」
顔を引きつらせながら、夕張は背筋を伸ばし、敬礼する。これなら大丈夫だろう。
「最後に伊58。君に頼みたいことはいくつかある。1つはこの島の周辺の探索だ。特に海中、海底の把握をしておきたい。次に食料調達。この島の周辺に民間人がいないから、漁場としては優良なはずだ。君達の食事をより豊かにしたい。それから港に着底している運送艦内から物資の――」
「ちょっと!? ゴーヤだけ、多くない!?」
あ、やっぱりそういう反応になるか。うん、現状で頼みたいあれこれが多いんだ。
「潜水艦である君にしかできないこと、君だからこそ効率的にできることでもある。最優先は探索で、それ以外は余裕があればでいい」
潜水艦に頼みたいことは色々とあり、伊58だけに任せきりにするつもりはないけど、今は彼女だけなので仕方ない。本当は、潜水艦をある程度揃えたいんだけどなぁ。優先的に整備するわけにもいかないし、そもそも狙ってできないし。
「しれぇ! 釣りなら、雪風にもできます!」
「うむ。空いた時間を有効活用してくれ。実際、余暇に釣りをする者もいる」
他にやれることがないとも言う。余暇の過ごし方については、色々と用意してやりたいんだけど。
「ひとまずの伝達は以上となる。これから宿舎と鎮守府内の各施設を案内するので、把握に努めるように。それが終わったら個別面接を行う。我々が把握している君達の情報と、君達が把握している自身の情報のすり合わせだ。他にも各種要望、ここで聞きにくいことなどあれば、その時に言ってもらいたい」
面接までは大和達に任せよう。それまでに、できることは片付けておこうか。
部屋割りは問題なく終了。夕張は明石と同じく工廠で寝泊まりすることにしたようだ。
個別面接のほうも順調に進めることができた。
雪風はいい子。妙な『癖』はなさそうだ。
青葉は、事前に伝え聞いていた『艦娘青葉』としての悪い傾向、パパラッチ的な属性が薄いように思える。中にはプライバシーなにそれと踏み込んでいって諍いの種になった例もあるらしいから、俺としてはありがたい。離島鎮守府という閉鎖環境で仲間割れとかは勘弁してもらいたい。
夕張は由来のせいか技術者気質。あれこれ作りたい、試したい、データ取りたいという欲求が強いのは『艦娘夕張』の特徴で、その例に漏れずといったところ。刺した釘が効いたのか、何かする時はきちんと話を通すと約束してくれたし、明石もこの点については注意しておくと言ってくれた。いざとなれば妖精さんに監視してもらうこともできるし、ひとまず様子見だ。
あと、蕎麦を育てたいと言われた。何故に? 余裕ができたら構わないけど。
最後に伊58――ゴーヤだ。そう呼んでいいと言われたので、公式の場以外ではそうすることにした。彼女には色々と頼み込んだけど、その中で彼女が気にしていたのは出撃に関すること。どうも戦果をあげないといけないと強く思っているようだ。理由を聞いても、なぜかそう思うんだとしか答えられなかったし、乗組員の強い想いが影響してるのかもしれない。少し気をつけておこうか。
歓迎会的なものもやりたいけど、明後日に大淀が来るので、それに合わせてやることにするか。
夕食時、艦娘4名に強襲された。大和、俺のことを伝達するの構わないし、飯時は全員集まるから都合がいいのは分かるけど、タイミングは考えような。