離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第26話 食料調達計画

 

 大淀から再度の着任申告を受け、場所を移した。日向と明石は業務に戻り、入れ替わるように吹雪と青葉が合流している。

 桃箭島の現状は伝え終えた。次は自室を含めた施設を案内し、その後は個別の面接だ。そういう意味じゃ吹雪が来たのは都合がよかったかな。

「ところで提督」

 吹雪が新人2人を連れて部屋を出ようとしたところで、天龍がジト目を向けてきた。

「君を手放す気は欠片もない、たぁ……随分と鳳翔にご執心みたいじゃねぇか、えぇ?」

 え、と吹雪が立ち止まって振り向いた。鳳翔とも目が合う。その頬が朱に染まっていった。

「し、司令官、鳳翔さんのようなかたが好みなんですかっ?」

「何ですかそれ。詳しくお願いします」

 驚く吹雪と、興味津々といった顔の青葉。大和は何故かニコニコしている。

「君達が邪推するようなことは何もない」

 あれが誤解を招く言い方であったことは認めるけど。ここで先に説明しておこうか。

「鳳翔」

「ひゃいっ」

 声を掛けると、直立不動で鳳翔が返事をした。そんなに緊張されても困る。うむ、ここは素でいこう。

「俺の曾爺ちゃんは大和の生き残りでな」

「は、はぁ……」

「もう片方の曾爺ちゃんは、戦後、とある復員艦で本土に帰ってきたんだ。その艦の名を、鳳翔という」

 俺と縁があるもう1隻の艦。それが彼女だった。

「そういうわけで、恩ある艦を見捨てる気は俺にはなかった。ありがとう鳳翔。鳳翔がいなかったら、俺は生まれてなかったかもしれない」

「あ、あの、ちょっと待ってください。ここは私達が艦であったのとは別の世界なんですよね? こちらの鳳翔(わたし)も復員艦として使われたのですか?」

「いや、君が、艦であった時の話だ。実は俺は、皆と同じ世界の生まれだから」

「え、あの、でも、今は昭和50年で、あの時の復員が曾祖父で……あれ、えっと……提督、おいくつなんですかっ!?」

 ほうしょうは、こんらんしている。

「実年齢は23だ。所属する艦娘達には説明済だけど、俺の本当の生まれは西暦2005年でさ。俺がこっちに来たのは7歳の時で昭和34年、西暦でいうと1959年だった。つまり、世界を渡ると同時に過去へ遡ったことにもなる」

 まぁ、と口元を押さえて驚く鳳翔。一方、大淀は平然としている。

「大淀は知ってたみたいだな?」

「経緯が経緯なので、配属先の上司がどのようなかたであるのかは、当然調べました。私達と同じ世界の人である事は知っていましたが、時代が違うことは初耳です」

 あの頃、義両親に素性を正直に話してから、何度か見知らぬ大人達から色々と質問された。だから、知ってる者はいる。ただ、大淀が調べられた範囲にその情報はなかったようだ。未来云々の話って、場合によってはやばいもんなぁ。当時、何も知らない子供でよかったのかもしれない。

「まあ、そのへんは後にしよう。案内終了後、個別に面接をする。聞きたいことがあればその時に受け付けるから。あ、その前に、大和達から資料をもらって目を通しておいてくれ。俺について、今日に至るまでに大和達が俺から引き出した情報をまとめた物だ」

 それを先に見てもらっておけば、同じ質問に何度も答えなくて済む。

 ちなみに、内容について俺は知らない。事実だけなら何も問題ないはずなのに、見せてくれないのだ。何が書かれてるのか非常に気になるというか怖いけど、俺がその内容を知ることは今後もないんだろうなぁ。

 

 

 面接は問題なく終わった。

 大淀からも特にはなし。ただ、ここの設備を見て、やりすぎでは? とは言われた。まだ足りないと思ってるんだけどな。ひょっとしたら今後の改善内容によっては、大淀が立ちはだかるかもしれない。負けないぞ!

 鳳翔については、大島の件もあるから、注意して見ていこうと思う。大和や天龍みたいに、役に立ちたいという想いが強そうなので、できることは任せていきたい。食堂の手伝いについては快諾してくれた。

 私的な話ではもう1人の曾爺ちゃん、つまり婆ちゃんの父親の件を少し。俺が礼を言ったことについて、大げさでは? と改めて鳳翔に言われた。でも、伝え聞いた話では、本土へ戻ってきたその時に曾婆ちゃんとぶつかったのが馴れ初めだったらしいので、何かが違えば出会いそのものがなかった可能性がある。そうなると婆ちゃんは生まれず、その後も以下略だ。だから、大袈裟でも何でもない。

 あと気になるのは、鳳翔の目が。ちょっと、妙な熱を帯びているのが、まぁ……

 

 

 

 新たに2名が加わった我が鎮守府は、それ以外の大きな変化はない。近海の哨戒や各種任務をいつものようにこなし、それに伴う事務処理をする日々だ。

 事務については大淀が加わったことでかなり処理速度が上がった。さすが専門、頼りになる。

 一方で、うち独自のやり方について興味がある模様で、妖精さんを介した戦闘詳報の作り方とか、港で話題にした搬送用の土台のこととか、色々と細かく質問してくる。早くここに馴染めそうで結構なことだ。

 そして鳳翔は、任務の合間に食堂を手伝ってくれていた。腕のほうは確かで、間宮と伊良湖も喜んでいる。いいなぁ、調理。俺もやりたい。鳳翔が加わったから余計に俺の出番がなくなった。手伝わせてくれないんだよなぁ。

 その代わり、味見とか料理知識についての問い合わせはよくある。料理に興味を持つ艦娘は食堂組以外にもいて、俺の味の好みを知りたがってるのが何人か……うん、別にいいんだけど。

 さて、そんな中。間宮、伊良湖、鳳翔の食堂組に、俺と大淀が加わり会議中。議題は、食材の安全確認について。

 先日搬入された食材の一部に悪い物が混じっていた。控えめに言えば鮮度が悪い。ぶっちゃければ傷んでる物だ。あからさまに腐ってなかったのがタチ悪い。卵とか、下手したらそのまま食べてたかもしれない。

 何かあるだろうとは思ってたけど、最初からやってくれる。食材に手を出されるのはつらい。

「次がどうなるかは分かりませんけど、続くと食事の手配に影響が出ますね」

「使える物が限られると、献立もそうなってしまいますし」

 間宮と伊良湖が溜息をつく。いかに料理上手でも、食材がないと始まらないしね。

「これは原因糾明をすべきことです。横須賀に調査してもらいましょう」

 大淀が提案してくる。当然報告はするとも。ただ、

「無駄に終わる可能性が高いな」

「何故です?」

「横須賀が信用できるなら、そもそもここは壊滅していないし、その後1ヶ月以上も放置されていない」

 これに尽きる。俺の認識だと、今の横須賀本鎮守府は『味方ではない』んだ。

 それは、と大淀が困った顔になる。大淀が悪いわけじゃないけど、複雑だろう。古巣だし。

「あの、食料の買い付けを直接行うのはどうでしょうか?」

 そう提案したのは鳳翔だ。それができれば一番だけど、問題がある。

「各鎮守府への食料は、横須賀本鎮守府の予算で購入されている。買い付けをするとなると、我々の自腹だ。それに、距離と輸送手段の問題もある」

 買い付けをしようと思ったら本土まで行かないと無理だし、物資輸送用の艦がない。俺の乗艦を使う手もないわけじゃないけど、あれは運送艦じゃないので積載量も限られる。今の鎮守府の規模なら十分か? でも油と掛かる時間のことを考えるとコスト的によろしくない。本土に行ったついでで買い出しをするならともかく、普段使いするわけにはいかない。

 そういえば、港で着底してるあの運送艦。ゴーヤが物資の回収の際に被害状況を確認してくれて、修復可能なのではと報告があったっけ。とはいえ、設備と資材が……今後のことを考えて実施すべきだろうか。いや、あの艦を修理できる設備なんて、この島じゃ過剰か。

「短い時間で本土まで行くことができ、そこそこの物資を持ち帰ることができる方法……大淀」

「はい?」

「輸送用飛行艇、どこかで遊んでいたりしないか?」

「あったとして、どうやって運用するおつもりですか? 人員的な意味で」

「妖精達ならいけるかもしれない」

 この間、宮君と一緒にこっちに来た俺の乗艦。あれは妖精さん達が動かしてるし。艦載機の操縦もするんだし、飛行艇もいけないだろうか。

「……妖精達にどうにかできるなら、一応確認してみます」

「ついでに水上機についても頼む」

 移動手段として、1機あるだけで自由度が増す。それこそお使い程度なら、誰かを乗せて本土に行けるし。

「まあ、それはそれとして。食料の話に戻ろう。一応、案はある。崎森島で荷下ろしをして、そこで仕分けをしてから桃箭島へ持ち込む、というものだ。一手間かかるが、これなら安全を確保できる」

「それ、いいんですか?」

 大淀の顔が引きつっていた。間宮と伊良湖も微妙な顔だ。

「崎森島というと、日向さんの所属する鎮守府でしたか。それがどうして?」

 鳳翔は首を傾げている。知らないのは鳳翔だけか。

「鶏小屋の鶏の手配をしてくれたのが宮外大尉でな。仕入れ先は御料牧場だ」

「ご……っ!?」

 それが意味するところを察したのか、絶句する鳳翔。驚くよなぁ。

「中継に関しては元々あちらの提案で、何かあったら利用する気満々だった。だから気兼ねする必要はないのだが、頼るとしても最後の手段にはしたい。となると、不足分を補う自給となるわけだが、農業は時間がかかるので、まずはF作業に時間をとるか」

 つまり魚釣り。今でも非番の艦娘が釣りをしたりしてるけど、それを業務としてやってしまおう。いっそ漁規模でやるのもいいか。漁船はないけど、使えそうな船はあるし。

「並行して野菜も育てましょうか。長期保存ができる物……いも、かぼちゃ、たまねぎとか」

「でしたら冷凍設備があるといいですね。戦時より性能も上がっているようですから、もう少し大きいものがあれば」

「漬物など、保存食にするのも手でしょうか」

 食堂組から次々に案が出る。いけそうなものは全部採用しよう。どんどん意見出しちゃって。案は全てメモしていく。

 ただ、農業は少しずつ、だろうな。大規模にやるには手が回らないし、専業でやってもらうわけにはいかない。何より俺達は農業は素人だ。誰か、農業従事者の記憶持ちがいればいいけど。

「とりあえず、こんなところか」

 メモを見直してみると結構な数の意見が出た。これを実現可能な範囲に落とし込むのが俺の仕事だ。食事は士気に関わる重要なものだから頑張らねば。

「ところで。皆、小腹が空いていたりしないか?」

 席を立ち、持ち込んでいた物を机に置いた。竹製のざるで、そこには卵が5つ入っている。鶏小屋で収穫した卵だ。

「あ、産んだんですね。お味はどうでしたか?」

「それを皆で確かめよう。既に茹でてある。殻はざるに入れてくれ」

 伊良湖の問いに答え、1人1個ずつ渡していく。

「いいのですか? あの鶏、提督の私物ですよね? つまりこの卵も」

「ああ。かといって、全部自分で食べるわけにもいかないからな。一部は妖精達の報酬にするつもりでいるし、いずれは酒保に回そうかとも思っているが」

 そういうわけで、自分も1つを手に取り、殻を割る。そのまま全部剥いて、半分を一口でパクリとやった。うん、旨い。程よい半熟加減だし味も濃厚だ。

 皆もそれぞれ卵を口にし、そのまま無言で1個を食べきった。

「「「提督。卵、増やしましょう」」」

 そして、食堂組が口を揃えて身を乗り出してきた。おおう、いい食いつき。

「大淀はどう思う?」

「自給自足に係る環境整備は許可が下りているんでしたね? 当面は自腹で少しずつ増やすとして、追加で予算をもぎ取りたいところです」

 おや、大淀も乗り気か。他の連中にも食わせてみて、協力要請をしてもいいな。次の定期便で給料も来るし。

「同じ所から仕入れるのは畏れ多いから、卵から増やしていくか。それとも別の所から仕入れるか。あとはこの味を維持していけるかだが、この島の味を作っていくというのも面白そうだ」

 食料調達計画は今後も随時見直していくとして。この調子なら、うまくやっていけそうだ。   

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