離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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来月で着任から1年半くらい。
次のイベントでは1つくらい甲クリアを目指してみようか。

その前に南瓜か。運改修は余裕があれば、くらいの気持ちで。【精鋭水雷戦隊司令部】だけはゲットせねば。


第28話 家はない(今更)

 

「それでは、裏集会を始めます」

 大和が告げた。

 ここは元仮庁舎横にある、大和が寝起きしていた倉庫。艦娘用の新官舎が完成し、現在は放置されているが、大和達が集会に利用していた。

 艦娘達だけによる集会は時折開かれているが、こちらは『裏』ということで、特定艦娘のみの集まりだった。

 発起人は大和で、今、この場にいるのは他に吹雪、天龍、そして鳳翔の計4名。

「本日の話題は、鎮守府施設の新規建築の提案についてです」

 大和が告げると、皆が首を傾げた。

「主要な施設は、復旧完了してますよね?」

 先日、本庁舎の復旧も終わった。桃箭島鎮守府は本来あるべき姿に戻った、というのが共通認識のはずである。

「まだ何か足りないものがあったかしら? 新参の私には、思い当たらないけれど」

 疑問を口にした吹雪に続き、鳳翔も不思議そうにしている。

 皆の視線が集まったところで、大和が言った。

「司令長官官舎。つまり、提督の家がありません」

 沈黙が流れる。

「なぁ、提督って隣の旧仮庁舎で寝起きしてて、先日立ち退いてたよな? じゃあ提督、今どこで寝起きしてんだ?」

「執務室隣の仮眠室ですね」

 天龍の疑問に、大和が答えると、皆が天井を仰いだ。

「職場に寝泊まりしてたのか……仮眠室じゃなくなってんじゃねぇか」

「私達の官舎を優先してくれてましたけど、まさか司令官の住居が手つかずだったなんて……」

 はぁ、と天龍が溜息をつき、吹雪の顔に悲哀が浮かんだ。

「でも、後回しにしていたというなら、順番が来たら――もしかして、何か言っていましたか?」

 優先順位をつけていたのなら、そのとおりに進めていくはずである。ここで改めて話題に挙げる必要はない。そうなったということは、何かがあったのだ。

 鳳翔の問いに、

「先日、本庁舎が完成した折に、これで施設は全部建て終わったな、と」

 大和が答え、今度は皆の口から溜息が漏れた。あの人、自分の住み家はどうでもいいのだな、と。

「野営が趣味だって言ってたからな。屋根と壁がありゃ上出来とか考えてそうだ」

「改装した倉庫で平気で寝起きしてましたから、有り得ますね……やっぱり、早い段階からまともなものを準備しておけば……」

 天龍と吹雪が渋い顔になる。

「趣味については自由ですが、提督として万全に働いていただくには、しっかりした官舎は必要だと思います。艦内生活なら仕方ないですが、職場で寝泊まりしていて気が休まるとは思えません。職場の私物化だと言われかねませんし」

 鳳翔が皆斗を気遣う。それはこの場にいる艦娘達の、共通の想いだ。

「でも、どうしましょう?」

 吹雪が眉間に皺を寄せる。当然、彼女達に建築の知識はない。そのあたりは妖精達に頼めばやってくれるだろうことは分かっている。問題は、どのようなものにするか、であった。

「呉の長官官舎は、洋風と和風をくっつけた平屋建てでしたね」

「横須賀は二階建てだったような」

 乗組員の記憶だろうか。大和と鳳翔が例を挙げた。

「舞鎮は一部洋式の平屋だったけどよ、でもそれって元の世界のだろ? こっちのがオレ達の知ってる官舎と同じなのか分からねぇし、提督の階級考えろよ」

 呆れたように天龍が2人を見た。

 鎮守府の長には違いないが、皆斗の階級は少尉。大和達が挙げた官舎は司令長官の住居、つまり将官用のものだ。

「建てるとしても、階級相応のじゃなきゃ、あの提督が首を縦に振るとは思えねぇぞ?」

 皆斗は自身より艦娘優先であれこれと事を進める。それ自体はありがたいことではあるが、それを甘受するだけでは駄目だと大和達は考えている。こちらからもできる限りのことはしてあげたい。しかしそれで皆斗に迷惑を掛けてしまうのでは本末転倒である。

「一度、提督に確認してみるのがいいんじゃないでしょうか。不要だと言われたらそれまでですし」

 もっともなことを吹雪が言った。しかしそこで、大和が困ったような顔をする。

「建ててしまった後なら、取り壊せとまでは言われないと思うんですよね」

「……なんでそこまで提督の家にこだわるんだよ?」

「長官の官舎って、兵営からは離れてるじゃないですか。目的がない限り、提督以外誰も近づかないでしょう?」

 それを聞いて、何のことだと3人が顔を見合わせ、

「提督だって、1人静かに過ごしたいこともあるでしょう。そういう環境はあってもいいと思うんです。が、それはそれとして。1人だと不便なこともあるでしょう。提督も将校です。であれば、誰かしらを従兵としてつけるのは不自然ではないのでは?」

 続いた言葉で、ごくり、と誰かの喉が鳴った。

「なので、官舎を建ててもらう方向で、提督にお話をしてみましょう」

 いいでしょうか、と皆を見回す大和。反対意見は出なかった。

 そんな彼女達を見て、腕を組んで頷いている1人の妖精がいたことに、誰も気づかなかった。

 

 

 

「必要か?」

「必要です。本来ならあるのが当然なんですよ?」

 課業終了直後、大和がやって来た。そして、俺用の官舎を建てるべきだと申し立てた。

「あの、提督用の官舎、なかったんですか?」

「はい。前は仮庁舎で寝起きしていました。ちなみに、隣の部屋が今の提督の住居です」

「艦娘用の新築官舎はあるのに?」

 大和が隣の部屋へのドアを指差すと、大淀が珍妙なものを見る目を俺に向けた。いや、そんな目で見られても……

「それは、復旧させなかったということでしょうか?」

「いいや、そもそも建ってない。というか、官舎予定地は地均しすらできてないぞ。草ボーボーだ」

 課業後なので素の口調で大淀に答える。最初から手つかずのままってことは、俺にまともな住居を与える気はなかったんだろう。

「あぁ、予定地自体はあるんですね」

「あるよ」

 桃箭島鎮守府の設計図は宮君に持ってきてもらっていた。だから、予定されていた全容は分かるし、必要な物は建てた。その中に、官舎を含めなかったというだけの話だ。

「とは言えなぁ。家が必要な程の荷物もないし」

「それは現時点で、でしょう? 今後は増えていきますよ」

「立派な官舎なんて、それこそ本鎮守府の話で、俺達みたいな艦娘提督には過ぎたものだって」

「鎮守府の規模相応のものだったら問題ないじゃないですか」

 何故か大和がグイグイ来る。そんなに俺を本庁舎から追い出したいんだろうか? いや、ここに留まろうとしてる俺のほうがおかしいか。職場に住むようなもんだし。

「建てましょう! 住む場所すらないのかと、余計な攻撃材料になりかねません」

「言いたい奴には言わせとけばいいよ」

「提督が悪く言われるのを聞いて、私達が何も感じないとでも思ってます?」

 ジトッとした目が向けられる。あー、それは、そうか。でもなぁ。鶏小屋、あそこに増築しようかと考えたりもしてたんだけど。

「あ、そうだ。あんまり離れた所に別個に建てると、警備上の負担が増えるし」

「だったら、艦娘用官舎の一室にしましょうか? 艦娘が常駐してますから本庁舎より警備体制は上ですよ。今はまだ空きがありますし」

「それ、艦娘用ってした意味がなくなるだろ」

 女の園に男が1人だなんて冗談じゃない。絶対、気が休まらないぞ。

「あの、提督。そもそも、なのですが」

 そっと大淀が手を挙げる。

「提督が良くても、今後、人事異動があった場合、後任をどこに住まわせるおつもりですか?」

「あ……」

 そういえばそうだった。俺は永遠にここにいるわけじゃない。軍人なんだから、異動があればよそへ行く。俺個人は構わなくても、後任が来た時に仮眠室に住んでねなんて言えるわけがなかった。

「……分かったよ」

 拒む意味がなかった、とも言う。いや、壊滅時に建ててあったのなら、ちゃんと建て直してたよ。うん、これもここを壊滅させた奴が悪い。そういうことにしておこう。

「では、その方向で――」

「建築ならお任せを!」

 満足げに大和が頷いた途端、ドアを開けて工作艦が執務室に入ってきた。

「……いつから外にいた、明石?」

「最初からです」

 鼻息荒く近づいてくる明石に問うと、あっさりと聞き耳を立てていたことを認めた。いや、これは大和が話をつけるのを待ってたな。

「それより提督。建築予定地とか、本来の図面とか、どうなってます?」

「あー……ちょっと待て」

 席を立ち、執務室に備えつけてある書類棚から大封筒を取り出し、中に入っていた図面を執務机の上に広げる。

「鎮守府本庁舎がここ。で、官舎予定地がここ……って、今現在の鎮守府の全容図とか、あったほうがいいな」

「あ、それは明石にお任せを。ふむふむ、この位置なんですね。今後も艦娘が増えていって兵営も拡大するとしても、そっちとかち合うことはありませんね。インフラの接続もこの位置なら問題なし、と。ありゃ、官舎の図面はありませんね? てことは、好きにしていいってことでしょうか?」

 明石、随分と張り切ってるなぁ。この間の鶏小屋建築で自信がついたんだろうか。アレとはまた別だと思うんだけど。

「土地の広さを考えると、平屋で6畳間と4畳半が2部屋ずつはいけそうですね。台所と風呂便所あり。二階建てにすれば部屋数も増やせますけど、どうします?」

「俺1人だから部屋数なんて要らないしな。平屋でいい。後任が世帯で来ることがあるとしても十分だろ」

「何か要望とかあります? こんなの欲しいとか」

 いや別に、と言いかけて、ふと気づく。そうだ、自宅に台所があるってことは、料理もできるんだ。

「台所はもうちょっと広く取りたいな。あと、各部屋にエアコン」

「えあこん?」

「家庭用冷暖房機。ああ、家庭用に限らないか」

「え、家庭用? しかも冷暖房機ってことは、1つで両方できちゃうんですか? そんな物があるんです!?」

 明石が驚く。あ、そうか。艦娘達って沈むまでの知識が基本だった。こっちの世界で家庭用冷暖房機(エアコン)が普及し始めたのって、俺が中学生になったくらいの頃だったっけ。

「この世界、私達が艦の頃から30年ほど経過してますから」

 大淀が肩をすくめて言った。

「その間に技術も進んでいます。その差のすり合わせが結構大変なんですよ」

「あ、エアコンって工廠への導入とかお願いできたりします? あと、現代の技術情報欲しいです」

「空調設備は本庁舎とかにも設置したいな。技術情報は、横本にあるものは申請すれば送ってもらえるはずだ」

 本土に行けば欲しい物を自分で買えるんだろうけど、桃箭島からだとなかなかなぁ……

「そういえば大淀。飛行艇とかの件、もう問い合わせてるんだっけ?」

「はい。水上機は回答があって、今度の定期便で送ってくれるそうです」

「そっちで来るのか。随分と早かったな」

「横本で埃を被っていた零式水上偵察機があったみたいですよ」

「それは……飛ぶのか?」

 現役を退いて久しい機体じゃないか。まあ、明石なら問題なく整備してくれるか。どちらにせよ、安全確認してからじゃなきゃ使えないし。

「定期便といえば、テレビも来るな。明石達の頃って、白黒テレビだったんだっけ?」

「てれびって何ですか?」

 ……当時はまだなかったのかぁ。いかん、桃箭島に閉じ込めてると、みんなが時代に取り残されてしまう。やっぱり外の世界を知ってもらわねば。そういう意味ではテレビ導入はいい考えだったかもしれない。新聞も取り寄せるようにしたし、皆に色々知ってもらおう。

「うーん、やはり現代の情報が色々と欲しいですねぇ……って、今はそっちより提督の家ですよ、家」

 何やら考え込んでいた明石が我に返る。

「他の要望はないですか? お風呂は広めがいいとか」

「そこは普通でいい。広いのに入りたい時は浴場を使うし」

「建築様式の指定とかはどうです?」

「特には。平屋なら和風でいいんじゃないか?」

「外の囲いはあったほうがいいですよね?」

「防犯的な意味じゃなくても一緒な気もするけど、目隠し的なものは必要だろう。見られて困るものはないけど、一応プライバシーに配慮してもらえれば」

「他にはないですか?」

「そうだなぁ……」

 全く興味がなかったのに、いざ建てるとなると色々と考えてしまう。

 とはいえ、自分の趣味に走るのは違うと思うので、程々にしよう。

 あ、でも、台所だけは許してほしい。

 

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