あとはリットリオだけなのに。ローマ3隻もくるなら、1隻くらいリットリオでいいんじゃないですかね?
米英艦も手つかずなので、早くお迎えしたい……
「これか……ん?」
港に下ろされた定期便の物資を見て、おかしな事に気づいた。
食料、生活必需品、資源といった、いつもの品々。これはいい。
そして、鎮守府として要請して届いた、島内で使うトラック。これもいい。
更に横本から送られてきた水上機のパーツも分かる。
問題は、水上機のパーツがもう1機分あったことだ。しかも微妙に違う。
「大淀。頼んだのは水偵1機だけだったな?」
「そのはずですが……リストにも載っていますね」
手配をしてくれた大淀も困惑顔だ。
「瑞雲だな」
背後から日向の声がした。そういえば日向には瑞雲フリークが多いと聞く。これだけ見て分かるとは、さすがと言うべきか。
「……まさか、日向が手配したのか?」
「いや、いくら何でも、勝手によその鎮守府にこのような物を要請したりしないぞ。
物欲しそうな目で瑞雲を見る日向。そりゃそうか。でもそうなると、出所が分からないぞ。
「北星提督、それで、いつ組み立てるんだ?」
「駐機場ができてからだ。その前に、瑞雲に関しては本当に
「……まあ、そうなるな」
日向の顔が、俺の回答で曇った。うん、そりゃ仕方ないでしょ。リストが間違っててこっちに来たなら、これを求めてる所属があるはずだし。
それにしても来るのが早すぎたな。そもそも今の海軍じゃ水上機は細々としか運用されてない。そのため、水上機用の設備がある所自体が少ないのだ。あ、調達できるとしたら、飛行艇の駐機場も必要になるぞ。場所の候補を考えとかなきゃ。
しかし瑞雲かぁ。これ、もしうちへ押しつけられたのなら、どっちも運用しなきゃいけないのか?
「日向。連絡用に使うことを前提で、水偵と瑞雲だとどっちが便利だ?」
「航続距離は水偵が上、巡航・最大速度ともに瑞雲が上だ。桃箭島での運用を考えるなら、本土まで届けばいいのだから、どちらも問題ない。速度と搭載人数で選べばいい」
ふむ、急ぐ時は瑞雲、運ぶ人数が多い時は水偵で使い分けができるか。瑞雲がうちへの配備機だったらどちらも使おう。それから、少し改造してもらわねば。どっちも爆弾積める機体なんだから、荷物を収納できるオプションパーツ的な物をくっつけるくらい、いけるいける。
「しかし、そうだな。私がここを去るまでには、これに乗りたいものだ」
日向は桃箭島の艦娘じゃない。ここの体制も整ってきた以上、いつまでもいてもらうわけにはいかない。一応、次の定期便に合わせて帰ることになっていた。
「まさか、これに乗って帰りたいなんて言わないだろうな?」
「駄目か?」
「瑞雲に乗って帰られたら、宮外大尉も困るだろう」
「ちゃんと、私が世話をするぞ?」
水上爆撃機を犬猫みたいに言うんじゃありません。
「そんなに欲しいなら、宮外大尉を通じて入手してもらうのだな」
そう言うと、日向はハッとして、その後、ニヤリと笑った。やる気かこいつっ。
その日の夕方。夕食にはまだ早いタイミングで、皆に食堂へ集まってもらった。
「さて、課業後だから崩していくぞ。集まってもらったのはいくつかの伝達事項があるからだけど、まずはこれだ。皆の給与が、今日の定期便で届いた」
手にした封筒を見せると、おぉ、と皆から声が漏れた。
「大淀とダブルチェックかけたから間違いはないはずだけど、明細も入れてあるから、齟齬がないかを確認すること。艦娘の給与については、俸給に艦種手当を加えたものが基本給と思ってくれ。今回に限っては、うちへの着任からの日割り計算になってるから、同じ艦種でも額に差が出てる。来月からは、やらかさない限りは全額出ると思ってくれ。あとは勤務内容に応じて諸手当が加算される。それじゃ渡すから、順番とか気にせず近くの者から一列に並べー」
仰々しく渡す物でもないので気軽な声で伝えると、皆が俺の前に一列に並んだ。傍に控えている大淀から封筒を受け取り、並んだ順番に労いの言葉とともに渡していく。顕現からこちら、ようやく目に見える形で働きに報いることができる。あとは使い道だな。
「ぴっ!?」
悲鳴に似た声が聞こえた。皆の視線がそちらに集中する。
「し、しし司令官……この額は、何かの間違いじゃ……?」
最初に封筒を渡した暁がプルプル震えている。封筒は開けられ、明細が彼女の手にあった。はて、何かおかしかっただろうか。
「暁さん。当時と今の額は同じ価値じゃなくなってるんですよ」
優しく大淀が言った。あー、そういうことか。そりゃビックリしても仕方ない。
今の日本のお金は、俺がいた時とほぼ同じ物が使われている。硬貨の額面は変わってないけど、紙幣は印刷されてる人が知ってるものと違ったし、百円札があって初めて見た時は驚いたし、五百円札が発行されたことも驚いたっけ。
「んー……当時の物価を俺が知らないから何とも言えないけど、今、何がいくらくらいするかは教えられる。あんパン1個80円、キャラメル1箱60円くらいだ。かけそばが200円ちょっと」
あの頃にありそうな物を思い出しながら、自分の知ってる物の値段を挙げてみた。
「ビールはどのくらいクマ?」
「瓶ビールが1本200円くらいだったか」
答えながらも続く艦娘達に給料を渡していくと、吹雪が自分の封筒を見て不安げな顔になった。
「あの、司令官。私の、かなり分厚くないですか?」
「吹雪は俺の着任より顕現が早いし、支払われてなかった分が今回一度に払われたせいだな」
「あー、なるほど」
理由が分かって吹雪は安心したようだ。受け取り、列を離れて中身を確認し始める。そして目を見開いていた。
少しして、全員分を配り終わった。ちなみに日向の分だけは、ここにはない。彼女のは崎森島鎮守府に戻ったら渡されることになっている。酒保で使った分は後日請求するということで話をつけてあった。
「さて、それじゃ次の話に移るぞ」
パン、と手を叩いて注意を引くと、皆は再び席に着き、こちらを見た。給与をもらって嬉しそうに見える。
「軍服が届いた。これは明日、明石から皆に配ってもらうので各々管理するように。大和と天龍は軍刀もだ」
「軍服って、オレらが着る必要あんのかよ?」
「公務でのよそ行き用と思ってくれ。要は海に出る時以外の格好だな。
昔は下士官兵は軍服じゃなきゃ駄目とかあったらしいけど、今は緩和されている。要はオシャレしても問題ないってことだ。
「ただ、上陸時は必ず短剣を携行すること」
「何でだクマ?」
「艦娘って普通に美女美少女揃いだからな。何も知らないろくでなしが声かけてきたりするんだけど、短剣を見せつけとけば普通の奴は寄ってこないから。要は厄除けだ。いずれ、休暇を取って本土に行けるようにもしてやりたいから、その時にな」
球磨の問いに答えると、何人かが照れたのか頬を染めた。まあ、駆逐艦でもちっこいのは大丈夫だろうけど。実際絡まれて実力行使に出られても、並の人間じゃ海防艦すら押さえ込めないだろうし。ただ油断は禁物だ。
「で、次は設備関係だ。ひとまず、後ろを見てくれ」
食堂の入口付近を指す。そこにはテレビがあった。木製家具に組み込まれた、レトロチックな外見――いや、今の最先端なんだけど、リモコン操作の液晶薄型を知ってる身としては、そんな感想が出てしまう。
「テレビという。家庭用の映画館、と言うと大袈裟になるけど、要は色々な映像を見ることができる家庭用電気器具だ。ニュースや、時代劇や料理番組とかな。野球や相撲といったスポーツの生放送とかも、番組でやってれば現地に行かなくても見ることができる」
おっと、皆の表情が固まったぞ? 明石と夕張は目が輝いてる……あ、食堂組もだ。
「島という閉鎖環境で、外の情報が取り入れられないのは今後問題になると思って取り寄せた。ラジオも数台取り寄せたし、まとめてになるけど新聞も来るから、情報収集の一助としてくれ。あと、チャンネル権は平和的に決めること」
「ちゃんねるけん?」
天龍以下、何名かが首を傾げた。
「見たい番組の時間が重なった場合、誰かは諦めなきゃいけなくなるだろ。どの番組を見るかは話し合って決めろってこと」
まだよく分かってない感じだな。まあ、見たい番組そのものが定まってないだろうから仕方ない。談話室的なものを設けて、他にも買うべきか?
「提督! このテレビ、私達でも買えますか!?」
と挙手したのは明石だ。なるほど、争いを避けるためというか、自分の見たい番組を確保――いや、こりゃ技術的な好奇心かもしれない。
「大きさで値段は変わるけど、15万もあれば手頃なのが買えるんじゃないか?」
「……
「現代じゃ無理だな。ご利用は計画的にだ」
というか、お前の給与なら買えるだろ。他を諦める必要はあるかもしれないけど。
「提督。電気製品は発注可能でしょうか?」
今度は伊良湖が手を挙げた。
「何か買いたい物があるか?」
「洗濯機と乾燥機を。あと、
「それって個人的な買い物じゃないな? だったらこっちで手配する。それから
鎮守府の皆で使う設備的な物を、自腹で買わせるなんてよろしくない。彼女らが買うのは、彼女ら個人が欲する私物だけであるべきだ。家電のカタログとか色々と取り寄せてみようか。新聞のチラシも参考になるかもしれない。女性向けの物は……あいつにどうやってるのか聞いてもいいな。
「さて次だ」
空いているテーブルに置いてあった段ボールを開けて、中身を広げていく。
「嗜好品の類だ」
戦前からあった物から、チョコ菓子や揚げ菓子といった元の世界で見かけた物まで。なるべく幅広く仕入れてみた。それから缶詰のような保存食も。
「こんな物があるぞ、ってことで。気に入った物があれば、裏酒保で定期的に仕入れようかと思ってる」
「裏酒保、ですか?」
三日月が首を傾げた。
「生活必需品だけを扱ってる今の酒保じゃなくて、艦にあった酒保のようなものと思ってくれ。本格運用はもう少し先になるから、これらは事前調査ってことで皆に提供する。あとで一通り分けて食べてみてくれ。あぁ、食事後に、な」
この程度で夕食が入らなくなるような胃袋の持ち主はただの1人もいないだろうけどさ。
「あと、酒だな。ノンアルコール飲料もある」
こちらもテーブルに並べていくと、おぉと皆から声が漏れた。キラキラした響の目が酒のほうに向いてるのは錯覚だろうか。
「裏酒保についても明石に頼もうと思ってたけど、ちょっと負担が大きくなりそうだから、有志による酒保委員を立ち上げる。俺も参加するから、他に取り扱ってほしいものがあれば相談してくれ」
「司令官。裏酒保での購入は伝票で天引きですか?」
小さく手を挙げて白雪が聞いてきた。あぁ、海軍の酒保はそうだったっけ。
「いや、委員の負担を考えて、現金払いのみとする」
「販売員は任期制でしょうか?」
「あー、そこまではまだ考えてなかったな」
艦の酒保は、酒保委員が酒保長とその補佐を指定して販売員にしてたんだっけ。希望者がいるなら任せてもいいけど、負担もあるだろうしなぁ。そこは追々詰めていくか。
「司令官。お酒の購入量の制限はあるの?」
真っ直ぐに手を挙げて聞いてきたのは響だ。さっきの、錯覚じゃなかったんだな……
「裏酒保に限定するなら、ある程度の制限は設けるつもりだ。自分が欲しい物を買い占められたら嫌だろう? 各自で取り寄せるというなら自己責任でやってくれ。ただ、過度の飲酒が問題だと判断した時は、それなりの措置をとる」
節度を持って楽しく呑もうね、ということだ。
さて、ひとまずはこれくらいか。皆が快適に過ごせるように、今後も必要と思えるものは取り入れていこう。