離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第3話 現状と方針

 

「とまあ、以上が現状ってことになる」

 鎮守府施設(跡)を一通り案内して、ドックに戻って来た。大和の砲撃の余波で散らかったドック内は、妖精さん達によって片付けの途中だ。

「で、今後の方針なんだけど、まずは生き残ること。そのためには衣食住の確保が必要になる。寝床は壊れていない倉庫があるし、着る物も残ってるから何とかなる。ただ、食料は厳しいから色々と調達していく方向で」

 ギリギリ足りるとは思うけど、余裕は欲しい。ここが島で助かったとも言える。魚と塩だけは確保できるから。

「で、次に鎮守府の復旧。設備や建物は妖精さんに頼れる。でも、資材は不足気味だから、定期便が来るまでは最低限になるかな」

 無から有を生み出せるわけじゃないので、そのへんはうまくやりくりしなきゃだ。本当なら戦力の増強とかしたいけど、食べる人が増えるのは今はまずい。

「で、定期便が来たら横須賀の本鎮守府と連絡を取って指示を仰ぐ。艦娘提督の新米少尉には荷が重すぎる」

「提督、通信設備は妖精さんに依頼して修理できませんか? 連絡ができればすぐにでも、物資も戦力も送られてくるでしょうし」

「できるかもしれない。でも、なぁ」

 大和が眉をひそめ、小首を傾げた。おかしなことを言ってる自覚はある。ただ、このタイミングで動いていいものか、迷う。

「さっき見た通信設備と発電設備、あれは人為的に壊されてたろ? 俺は今の状況を、ここに来て初めて知ったんだ。赴任前に聞いていた状況と何もかも違う。こうなってることの情報が何1つ与えられないなんて不自然すぎる。意図的に伝えられなかった可能性があるんだ」

「それは……大本営も把握できていない可能性は?」

「それはある。ただ、敵の襲撃があったなら救援要請くらいするだろ? それができないくらいの急襲で、為す術なく全滅したってなら分かるけど、だったら設備の処分なんてしてる余裕もないだろうし。何より、犠牲者が1人もいない。ここにいたであろう人間の死体どころか、血痕すら確認できてないんだ」

「……計画的にここを放棄した?」

「そう考えるほうが腑に落ちるのがなぁ」

 あるいは必要最低限の破壊処理の後で、島のどこかに避難して潜んでる可能性はあるけども、そんな施設があるという話も当然聞いてない。

「俺が嵌められたのなら、連絡は悪手になる。で、様々な偶然が重なった結果がこの状況で、友軍もここの状況を把握できていないなら、定期便は来るはずだ。2週間後だね。把握できていればもっと早く調査が来る。だから、それまでは潜んでいようと思う」

 定期便にも手が回っている可能性もあるけど、その時はその時だ。

「ですが、これが陰謀なのだとしたら、どうして提督が?」

「ここまでされる心当たりはない」

 いや、本当にないんだよ。俺を嫌ってる奴はそりゃあいる。でも、これがそいつらの誰かによる陰謀だとしたら、天秤に掛けるものがでかすぎる。ここまでやると俺への嫌がらせだけで済む問題じゃないし、そこまでやれる立場にいるわけでもないし。

「まあ、それが分かったからって現状が変わるわけじゃない。もうじき日も落ちるし、本格的に動くのは明日にして」

 立ち上がって背伸びをする。うん、痛み始めた箇所もない。身体は本当に大丈夫だ。だったら。

「夜に向けて休む準備をしようか」

 

 

「てことで、晩ご飯だ」

 今晩の献立はチャーハンと、港で釣った魚で小さいのを入れた味噌汁。

「本当に、作ってしまいましたね」

 それを見て大和が呟いたとおり、これを作ったのは俺だ。最初は大和が作ると申し出てくれたんだけど、厨房も吹っ飛んでたので今回は俺が作った。

「厨房が生きてたらもう少しマシになったんだけど」

「その状態でここまで作れるなら、たいしたものだと思います」

 料理は義母に簡単なものだけ一通りは教え込まれたし、野営の趣味もあって、設備がなくてもこれくらいなら何とでもなる。

 でも厨房は復旧したい。片付ければ使える物はまだあるだろう。かまどは何とか修理できるだろうか。あぁ、ガスコンロやIHが懐かしい。いや、ガスコンロはあるか。ここにないだけで。

「本当に私もいただいてよろしいのですか? 備蓄を考えると、提督おひとりで食べるほうが節約になるのでは」

「大和が食わないというのは、戦力維持の意味で却下。それにもう2人分で作ったんだから付き合ってよ。足りないかもしれないけど、そこは勘弁して」

「分かりました。では、いただきます」

 納得し、大和が皿を手に取った。さて、口に合えばいいけど。

「……おいしいです。余り物で作ったとは思えません」

 驚きの顔でもぐもぐしている大和を見て、頬が緩むのを感じる。かき集めた食料のうち、保存がききにくい物を優先してぶっ込んだ余り物チャーハン。普段は自分が食えればそれでいいから、味へのこだわりとかは特にないんだけど、こうして自分の料理で喜んでくれるのを見ると、もっと何とかならなかったのかと思ってしまうのが不思議だ。

「きちんとした設備が整ったら、もっと旨いのを食わせてやれるよ」

 気が付けば、そんなことを口にしていた。

「その時は、大和も腕を振るわせていただきますね。これでも料理は得意、なはずです」

 手を止めてこちらを見た大和が、笑って応える。はず?

「私に残っている記憶の中に割烹手のものもありますから」

 ああ、そういう意味か。知識としては備えているけど、実際に作ったことはまだない、と。

「だったら、一緒に作ってみようか。いや、この場合、俺が教えを請う立場かな」

 戦艦大和の割烹手なんて、超一流であったに違いない。技量が上がって損はないというものだ。

 ふと視線を落とすと、相棒が俺の皿からチャーハンを食べている。妖精サイズだとチャーハン味の米粒を食べてる感じだけど。ほら、具材も少しずつかじれよ。よく考えてみたら、俺の料理を一番食べてる他人はこの相棒だな。

 そういえば、相棒の服装が変化していた。前は第二種軍装だったのに、今は大和と同じだ。こうしてみると相棒、大和の面影があるな。元々関わりがあったからなんだろうか。まあいいか。それよりも、

「ところで、大和の口調はそれが素?」

 気になっていたことを聞いてみる。初めて言葉を交わしてから、ずっと口調が固い気がする。

「今は勤務外ってことで、態度は変えてもいいぞ」

「そういう提督は、かなり砕けていますね」

 本当なら提督としての態度を崩さないほうがいいのは分かってるけど、こっちのほうが楽だし。でもまあ、そうだな。

 目を閉じ一呼吸。頭の中でスイッチを切り替える。

「勤務以外の時は、自然でいたいのでね。提督でなくてはならない時は、そのように振る舞うさ」

 そう言って、再びスイッチを切り替える。どう? と問うと、大和は目を瞬かせた。

「雰囲気まで変わりましたね。どうなっているのですか?」

「頭の中にいくつかスイッチを設けてあって、必要に応じて切り替えてるんだ」

「自己暗示、のようなものでしょうか?」

「そんな感じ。素の自分とは別に軍人としての自分を作ってるというか」

 素の自分が軍人向きじゃないことは自覚してる。だから、そのようにした。まさかあの体験が、こういう面でも役立つことになるとは思わなかったなぁ。

「俺と大和しかいないんだ。四六時中提督として振る舞ってたら息が詰まる。てことで、俺の心の平穏のために、大和も切り替えてくれると嬉しいな」

「それで提督のお心が休まるのでしたら」

 ……固いなぁ。いや普段からこうなら、無理に変えさせるのも良くないか。

「んー、追い追いでいいし、それが素ならそのままでいいよ」

「いえ、できる限り、提督のお心に沿うようにいたします」

「うーん……無理をされると、それはそれでつらい。この件は一旦なしで。わがまま言ってごめん」

「い、いえっ、そんな、謝ることなんて……」

 謝ると大和が慌てた。ぬぅ……失敗したか。顔を合わせる時は軍人モードのほうがいいのかなぁ。

 ちょん、と右手に触れるものがあった。視線を落とすと、相棒が俺とチャーハンを交互に指す。ああ、食べるよ。

 チャーハンを口に運ぶ。味見は済ませてたけど、うん、今の環境と材料でこれなら十分だろう。

「あの、夜間の警備なのですが」

 食事を続けていると、大和が聞いてきた。

「さすがに夜襲があるとは思えないけど……海の見張りは妖精さんに任せられないか?」

「海のほうはそれでいいと思いますが、提督のことですよ」

「俺の? それはなくていいんじゃないかな」

「ですが、狙われているかもしれないとおっしゃったのは提督ではないですか。ここは大和が寝ずの番を務めさせていただきます」

「いや、寝ようよ」

 食事同様、睡眠も艦娘には不可欠だ。寝不足で力が発揮できないなんて事態は避けなきゃいけないんだってば。

「……これも妖精さんに任せられないか?」

 相棒を見ると、チャーハンを指す。なるほど、これを報酬に人員を募ろうというわけか。ただ働きはよろしくない。タダ働き、ダメ、絶対。

「頼んだぞ相棒」

 拳を差し出すと、ぺちりと小さな拳が応えてくれた。相棒が皿を頭上に持ち上げて走り去る。あんまり食えなかったけど、必要経費と割り切ろう。転ぶなよー。

「相棒、ですか?」

「見えるようになってからずっと一緒だった妖精さんでね。ここにも付いてきてくれたし、危ないところで大和を建造できたのも、あいつが事前に準備をしてくれてたからでさ」

 そういう意味では相棒は一番の恩人でもある。まさか大和の艤装と接続するとは思わなかったけど。

「結局あいつ、大和の艤装付きになるんだろ?」

「そうですね。あの子が今のところ、一番相性がいいようですし。それに、同志ですから」

 ふむ、相性ってことは、妖精によって艤装の性能も変化するんだろうか。熟練の妖精がいるって話だから、そういうこともあるか。それにしても、同志? まあ、共に深海棲艦と戦うわけだから、そういうものか。

「あいつのこと、よろしく頼むよ」

「はい。お任せください」

 ここにいた妖精達とも仲良くやってるというか、いつの間にか上位扱いっぽいし、妖精達にはこれからも色々と頼ることになりそうだから、相棒が取り持ってくれるなら有り難い。大和ともいい関係を築けているみたいで安心した。

 

 

 

 妖精達とは無事に交渉成立し、沿岸の見張り及び寝床周辺の警戒を担ってもらえることになった。そちらは問題なし。

 で、今、問題は別に起きている。

「提督がこちらの寝具を。大和がそちらを使います」

「大和が布団。俺は毛布で」

 そろそろ寝るかと倉庫内に寝床を整える段になって、寝具が足りないことに気付いた。無事な物は布団が一組(毛布込み)しかなかったのだ。修繕すれば使えそうな物はあるけど、この時間帯にそれをするのは難しい。できる限り灯りを漏らしたくないし。あー、その辺の対処も明日しないといけないか。

 で、大和に布団を渡して俺が毛布を使おうとしたところ、互いに譲らずというか譲り合って現在に至る。

「いいから大和が使え、主戦力」

「こちらの台詞です、提督。上官より上等な待遇なんて、受け入れられません」

 俺としては大和を少しでも良い状態にしておきたいから、できる限りのことはしてやりたいのに、そう言って拒否するんだもんなぁ……仕方ない。

「大和型戦艦1番艦、大和」

 お仕事モードに切り替えて、名を呼ぶ。

「提督として命令する。就寝にはそちらの布団を使用し、できる限り体調を維持すること」

「ずる……っ!」

 大和が頬を膨らませた。まさか、最初に下す命令がこんなくだらないことになるなんて……締まらんなぁ。

「野営が趣味だから、俺は寝床や寝具がどんなのでも寝られるし、慣れているんだ。大和は艦娘になって、睡眠自体とったことがないだろう?」

「それはそうですが……そうだ、いっそ2人で使えばいいのでは?」

「……君は何を言っているんだ……」

 名案だとばかりに手を叩く大和に、呆れた目を向けてしまう。ちょっと危機感なさ過ぎじゃないか?

「魅力的なお誘いではあるが、女性が軽々しくそんなことを口にするものではない」

「提督だから、ですよ」

 あしらおうとしたら、更にぶっ込んできた。これは、俺だから何もしないだろうという信頼か? それとも、俺だから手を出されてもいいって意味か? いずれにせよ駄目だろう。手を出さない自信はあるけど、迂闊なことはできない。

「いいから寝ろ。布団は明日、確保する」

 物資用の木箱を並べ、その上で毛布にくるまった。大和とはなるべく離れておく。

 明日は布団を直して数を揃えて、もう一度物資等のチェックをして……ああ、仕切りを作って大和の個室を作らないと。

 そんなことを考えている内に、意識が薄れていった。

 

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