結果、メンテ前に全員お迎えできましたが、それまでにローマ、ネバダ、アブルッツィが計10隻以上ダブりました……偏りすぎでは?
さて、次は米英艦……イベまでにお迎えできますように。
浴場を出た。やはり広い風呂はいい。しかも貸し切り。贅沢すぎる気もするけど、現在うちにいる男は俺だけだ。いずれ全てが片付いて、他に人間の男が配属されるようになればこうはいかない。今の内に堪能しておこう。
さて、と食堂のほうを見る。テレビを見てる者もいないようで、真っ暗だ。あ、食堂にテレビを置いとくと、消灯時間までは誰かがいることもあり得るか。設置場所、変えたほうがいいかも。
足を食堂へと向ける。周囲を確認しながら、人目につかないように。幸い、女性用浴場も暗くなっている。艦娘達は今頃官舎で休んでるはずだ。
食堂へ着いた。
中に入り、入口を閉める。電気を点けると気づかれるので、目を慣らしながらゆっくりと進んだ。さてさて、小鍋はどこに――
「誰ですかっ?」
入口の引き戸が開く音、そして緊張した誰何の声に、悲鳴が出そうになった。背後から聞こえたそれに振り向くと、食堂の入口に人影が。はっきり見えなくても声で分かる。
「提督? こんな時間に、どうして?」
近づいてきた鳳翔が、俺だと分かって驚いている。いや、驚いたのはこっちだって。
「どうした?」
「いえ、誰かが食堂に入っていくのが見えて、しかも灯りを点ける様子もなかったので、何事かと」
そこまで言って、何かに気づいたような顔になった鳳翔が、両手で口元を隠し、一歩後ずさった。
「ま、まさか……ギンバイですかっ?」
「いやいや。厨房を使わせてもらおうと思っただけだよ」
勘違いされても仕方ないか。そこで理由を告げると、
「あ、あの、夕食、足りませんでしたか?」
申し訳なさそうに問いかけてくる。
「いや、そうじゃなくて。小腹が空いたからちょっと」
「それでしたら、お声がけしてくださればお作りしますのに」
ちょっと不満そうな鳳翔の声。んー、これくらい、って思うと、誰かに頼むのもちょっと。何だろう、やっぱり俺は上官とか向いてないんだな。人を使うことに慣れない……
「こっちの世界で生活して、こっちの世界の教育を受けてきても、元の世界の感覚って意外と根強いんだよ。夜食なんて自分でちょちょいと作るもんだって。それにプライベートで部下を使うというのもアレだし」
もっとも、元の世界じゃ夜食が必要なくらい起きてなかったけどな。当時小学2年生だもの。
「それに、ちょっと料理と呼ぶにはアレなんだ」
「どういうことですか?」
「まあ、いいや。見てもらうほうが早い。鳳翔、こっちおいで」
首を傾げる鳳翔に手招きし、本来の目的のために動く。お、小鍋発見。目盛りはあるから、計量カップは不要か。
「鳳翔、箸はどこにある? あとどんぶりを1つ」
「準備しますね」
自分で探すより知ってる人に聞くのが一番だ。水を入れた小鍋をガスコンロに、持ってきていた物を作業台にそれぞれ置いた。
「それは?」
どんぶりと箸を持った鳳翔が近づいてくる。ちなみに電気は消したままだ。点けると他にも誰か寄ってくるかもしれないし。
「インスタントラーメン」
俺が持ち込んだのは、いわゆる袋麺。それから自家製の卵だ。
「いんすたんと……?」
「要は、熱湯を掛けたり、鍋で煮るだけで作れるラーメンだな」
「そ、そんなものが?」
「できたんだよ、そんなものが」
今、俺が持っているのは某みそラーメンだ。これを見つけた時には涙が出たよ。元の世界で俺が一番好きな袋麺だったから。
当然これがあるってことは、すぐおいしい元祖もあった。ただ、カップのアレはなかった。そう、なかったんだ。確か昭和40年代に出たはずなのに。
だから、俺はこっそり元祖の会社に手紙を出した。こんなのあったら便利ですよね、的に匿名で。だって食べたかったんだもの。実際に開発した会社にアイデアを投げただけだから、過度の干渉じゃないし手柄の横取りでもない。セーフセーフ。
ちなみに、まだ販売されていない。開発期間とかあるだろうから気長に待つ。出たら絶対に買うぞ。軍にも有用だと思うから布教したっていい。
それはともかく、今は夜食だ。
小鍋に作り方どおりの水を入れて火にかける。袋を破って、まずはスープの素とやくみを取り出した。
「どのくらいの時間で作れるものなのですか?」
「沸騰した湯に入れて3分くらいだな。俺はちょっと固めのほうが好きだから、それより前に火を止めるけど」
どんぶりに卵を割り入れて、やくみを加えて溶く。みそラーメンには溶き卵。異論は認める。
「鳳翔、箸と汁椀を1人分追加で。まだ腹には入るだろ?」
せっかくだから鳳翔に味見してもらおう。
「い、いえ、提督の夜食ですから」
「1人分だと多い気もするから、消費に協力してくれると助かる」
遠慮する鳳翔に、あくまでお願いとして提案する。迷った末に、鳳翔は汁椀と箸を取りに行った。
鳳翔が戻ってきたので、袋から麺を取りだして見せてやると、興味深げに視線を注ぐ。
「乾麺ですか?」
「確か油で揚げてるんだったかな?」
沸騰したので麺を返してもらって、湯へ投入。1分ちょっと放置したら、箸を入れて軽くほぐし、麺を回しながら、溶き卵を少しずつ落とす。湯に落ちた卵がふんわりとした状態で固まっていった。
「かき玉汁?」
「ぽく見えるだけだな」
卵を落とし終えたらスープを開け、火を止めて小鍋に投入。軽く混ぜ、スープが溶けたら完成。彩りはないし具材もない。夜食なんてシンプルでいいのだ。昼だったら季節のお野菜……ってあれは塩だったか。
「では、いただきます」
汁椀によそった分を鳳翔に差し出し、2人で手を合わせた。厨房内だから立ったままだ。立ち食い蕎麦とかあるんだから別にいいだろう。
あぁ、この匂い。やっぱりこのシリーズはみそが一番だな! うん、旨い旨い。
「この味を、こんなに簡単に出せるのですね」
スープを飲み、麺を食べた鳳翔が驚いている。この手軽さでこの味なら十分だろ?
「どう?」
「美味しいです」
「あの頃は、こういう食品はまだなかったんだっけ?」
「うどんや蕎麦の乾麺自体はありましたけど、スープとセットになっている物は……記憶にはありませんね」
「この手の物は、他のメーカーからも色々と販売されてるから、これ以上に気に入る味がどこかにあるかもな」
あ、ラーメンはともかく、カップ焼きそばはまだ出てないはず。あれ、こっちの世界だといつ頃発売されるんだろうか。頑張れ、メーカー。
「量としては、間食用ですか?」
「いや、人間の1食分想定だと思うよ。そうか、艦娘には量が少ないか」
「1食の量としてはそうですね。でも間食なら、味付けも含めて満足感もあると思いますよ」
「そうか。どっちにしても食べ過ぎはよくない物だからな。塩分とか脂分とか多いし」
艦娘って食生活で体型が変わるケースも確認されてるからな。普段から出撃したりしてれば問題ないだろうけど。
「脂分は、一度湯を捨てたらある程度は落とせるのでは?」
「それが、麺にも味噌が練り込まれてるらしくて。湯を捨てたら、染み出たそれも捨てることになるという」
「そこまで考えて作られているのですね」
感心したように鳳翔が麺の袋を手に取った。この暗さで見えるんだろうか。
それはともかく、鳳翔の反応も悪くなかったな。間宮と伊良湖にも試してもらって、問題なさそうなら裏酒保に入れてみてもいいか。
「さて、食べ終わったし、そろそろ戻るか」
「あ、小鍋と食器はそのままで。明日の朝、一緒に洗っておきます」
スープまで飲み終えて片付けようとしたら、鳳翔が買って出てくれた。
「それと、提督。塩分等が多いのでしたら、3食以外で頻繁に食べるのは控えたほうがよろしいですよ」
「経理科の出で、厨業管理も学んだ身だから、そこは理解してるよ」
鳳翔の言葉が刺さった。1日の食事は、栄養バランスとかを考えて組まれてるし、そういうのを考えたら、まあ、そう言うのも分かる。ただ、このみそラーメンに限らずなんだけど、
「これは、元の世界にあった味だからさ」
あの頃に食べた物を味わいたいという、ちょっと懐古的なものが根底にあるんだよなぁ。
鳳翔が黙り込んでしまった。表情までは見えないけど、俯き気味なのは分かる。
「提督は……元の世界に、戻りたいですか?」
少しの沈黙の後、躊躇いがちな声で、鳳翔が聞いてきた。あぁ、そう受け取っちゃったか。
「戻れてもろくなことにならないだろうなって思ってる」
こっちの世界に来てから15年だ。当時7歳の少年はもう存在しない。あの頃のあの年齢に戻れるんじゃなければ、本人だって証明ができても厄介事にしかならないだろう。化物が存在する過去の日本で軍人をやってましたなんて言って、誰が信じてくれるだろうか。
「それに、今の俺は帝国海軍軍人だ。俺が生きる世界は、もうこっちだよ」
こっちの世界に来てしまったから、というのは否定できないけど、自分で選んだ道だ。生きてきた時間もこっちのほうが長いし、縁ができた人も多い。そして艦娘提督になった今、もし帰れるんだとしても、投げ出すなんてできない。
「提督」
暗がりの中で、鳳翔が顔を上げたのが分かった。
「提督は、私のような者を快く受け入れて、存在を認めてくださいました。厨房での仕事も与えてくださいましたし、戦働きもできています」
間宮達の手伝いもそうだけど、軽空母としても働いてくれている。既に何度か出撃済だし、艦載機の訓練にも熱心だ。本当に良くやってくれている。
「人の身を得て、日々を楽しく……そう、楽しく過ごせています。艦の身であった頃に救った命が血を繋ぎ、それを継ぐ人が私を救ってくれた……提督には、本当に感謝しています」
顔は見えない。でも、その声には強い熱が感じられた。
「提督がこの世界で何を成すのか。私はそれを傍で見届けたい。これからも、誠心誠意、お仕えいたします。どうか、いかようにもお使いください。全身全霊をもって、どんなことでもいたします」
そう言って、鳳翔が頭を下げた。く、空気が重いっ。
「何でも、なんて軽々しく口にするな。ろくでもないことを求められたらどうするんだ?」
「て、提督が、お望みなら……よっ、喜んでっ!」
軽口を叩いたら、上擦った声が返ってきた……あ、これ駄目なやつだった。
「――っ! す、すみません! 私ったら何てはしたない……しっ、失礼しますっ!」
何とか立て直そうと考えていると、慌てて鳳翔が離れていく。あんな状態なのに一礼するのは忘れない。そして暗い厨房を駆け抜け、食堂を出て行った。この暗がりで慌ててたのに、どこにもぶつからなかったな。ひょっとして、艦娘って艤装なしでも夜目がきくんだろうか。
って、それどころじゃない、か。余計なこと言ったかな。いや、早めに確証が得られたってことにしとこう。いずれにしても棚に上げとくしかないんだけど。
溜息をつき、食堂を出る。足が、止まった。そこに艦娘がいたからだ。
「あ、青葉、見ちゃいました……」
見られた、かぁ。よりによって……いや、ここの青葉はよその青葉と違う。これを吹聴したりはしない、はずだ。
「あ、あの、司令官も若いですし、男女のことをどうこう言う気はないんですけど……食堂でいたすのはちょっとアレじゃないですか?」
おまえは、なにを、いってるんだ?
「誤解だ」
「えー……闇に包まれた食堂で男女が2人きり。しかも出てきた鳳翔さんは、真っ赤で目が潤んでて。これで誤解と言われても……あ、挿すまではしていないって意味ですか?」
アオバワレェ!?
「腹が減って、夜食を作ろうと思ってこっそり食堂に来たら、それを見つけた鳳翔が入ってきただけだ……」
「なるほど、そこでデザートに鳳翔さんを召し上がったと」
「そこから離れろ。食べたのは俺が作った夜食だけだ」
「まあ、話に聞いてる司令官だと、軽々しくそんなことはしないんでしょうけど」
あっさりと話題を終わらせる青葉。こ、こいつ、分かっててっ。
「それにしても、司令官は艶福家ですねぇ」
「え、えん? 何だって?」
「MMKですね、ってことですよ。あ、困ってないならKは要らないですね。それより司令官、何か美味しい物を食べてたんですか?」
「ん? ああ、取り入れようか迷ってて、今日は見せなかった嗜好品の1つだよ」
「興味あります。食べてみたいです」
「今からまた食堂でとなるとなぁ。灯りを点けると誰か寄ってくるかもしれないし、それはそれで厄介だ。また、余計な誤解を招きかねない」
「ああ、それで消灯したままだったんですか。間が悪いというか何というか。じゃあ今度でいいので、青葉にも食べさせてくださいね」
「分かった。口止め料としちゃ安いもんだ」
「もぅ、そんな意味で言ったんじゃないですよぅ。でも口外はしませんし、楽しみにしてます」
……ふぅ、うちの青葉は物分かりがよくて助かった。よそだったら大変なんだろうなぁ。