私は現在様子見です。今の内にEOで勲章回収とか行けそうな任務とか消化しようと思います。
あと、ハロウィンの艦、まだ掘り切れてないのでそっちも。ヴィクトリアス、サウスダコタ、ドラム、巻波、早く来てね!
応接室で、来訪者と対峙する。曙の前任地というか今も所属していることになっている、八丈島鎮守府の艦娘提督である
用件は大淀が伝えてきたとおりで、あの曙は八丈島鎮守府から脱走した艦であり、それを捕縛しに来たのだとか。
……ふーん。
「なので早々に引き渡してもらおう」
ソファにふんぞり返った口利少佐が言い放つ。年齢は30前半くらいだろうか。眼鏡をかけた嫌な目つきの男、というのが第一印象だ。曙の証言を考えると、ろくでもない人間にしか見えない。
まあ、自分の所の艦娘が脱走したとなれば、それを追うのは当然だろう。そこは理解できるんだ。
ただ、胡散臭さしかない。なので、当たり前のことを問うことにした。
「少佐は、曙がここへ来たと確信しているようなのですが、何故ですか?」
何かの謀略の可能性も考えて、曙には妖精さんの監視をつけてるし、防諜班もいつもどおりに無線傍受を行っている。到着時に預かった曙の艤装も明石と夕張がチェックした。妙な動き、妙な物がないのは確認済だ。
もし本当に脱走してたとしても、まさか人目のある場所で実行するわけはないだろう。するなら隠れてするのが自然で、そうなればいつどこに逃げたかは不明になる。なのに、こいつはここへ来た。いるかどうかを問い合わせることなく、引き渡せと言った。
八丈島鎮守府の警戒網に引っ掛かっていたならすぐに確認のために動くはず。曙に聞いた限りではそういった動きはなかったそうだから、スルーあるいは問題なしと判断されていることになる。駆逐艦娘と海防艦娘はレーダーにも引っ掛かりにくいから見逃された可能性もあるけど。あ、そういえばうちの水上用レーダー、修理部品はいつ届いてくれるだろうか。不良品掴ませやがって……
んんっ、ともかく。曙の動きと少佐の動きを考えると、このタイミングで少佐が
「脱走したのでしょう? 何故、軍から逃げた者が、離島鎮守府に来ていると思うのです? 軍から逃げるのならば、決して軍施設には近付きません。自殺行為ですから」
逃げたことが分かった時点で、普通は手配をかけるものだ。接触と同時に拘束される可能性を考えれば、当然軍施設からは距離をとる。
「それに
人がいる所に紛れ込もうとしたんだと仮定しても、桃箭島は選択肢にならない。何せここには民間人はいないんだから。ここのことを何も知らなければ来る可能性がないわけじゃないけど、八丈島からだと最寄りの有人島は青ヶ島だ。
「もう一度言いますが、曙がここへ来ていると確信している少佐の根拠が分かりません。後学のために教えていただけませんか?」
口利少佐は答えない。表情が歪んでいる。だから、懸念を1つぶっ込んでみた。
「それとも事前に、ここへ来るように何らかの誘導をしていましたか?」
桃箭島への異動、というのがそれなんだろう。辞令なしの命令で島から出し、それを脱走だと主張して追いかけ、拘束する。そんな筋書きだろうか。
ただ、何故そこまでするのかが分からない。冷遇してる艦娘を処分するためにしては大掛かりすぎる。それこそ戦闘で無理をさせて沈めるほうが早いし。
「そもそも、艦娘が脱走するということは、それなりの理由があるのでしょう。一体、どんな待遇でどんな運用をしていたのですか? 協定に反するような――」
「いいから曙を寄こせ!」
口利少佐が立ち上がり、叫んだ。金切り声に近い。しかも寄こせときた。いや、本当にろくでもない人間だなこいつ。まともに付き合ってられないってやつだ。だから、言ってやる。
「いません」
「なに?」
「ですから、八丈島鎮守府所属の脱走艦なんて、ここには来ていません」
赴任(?)してきた艦娘はいるけど。
「そんなはずはない!」
断言する口利少佐。だから、何で断言できるんだよ。
「何故です? そう言い切れるのは、ここへ来たことを確認できている場合のみでしょう? 脱走艦がここへやって来て、うちに入るところを少佐あるいは部下が見ていたのですか? それだとおかしな話になりますが」
その時点でうちに連絡し、身柄を確保するよう要請するのが筋だ。単純かつ重要なそれを、なぜしないのか。
「少佐。曙の脱走が判明したのはいつですか? また、少佐が自身の鎮守府を出たのはいつのことです?」
「そんなことはどうでも――」
「よくありません。とても重要なことです。少佐の対応に問題がなかったのかの判断材料になりますから」
脱走艦が出た時の措置として、正しく動いているのかどうか。それを問うている。脱走の事実なんてないだろうから、何もしてないだろうけどさ。
その時、ノックする音がした。応じると、失礼します、と大淀が入ってくる。
「提督。八丈島鎮守府からの脱走艦に係る手配については把握していない、と近隣の鎮守府から回答がありました」
口利少佐が上陸した直後に、大淀に指示を出した。同海軍区の鎮守府に問い合わせをさせたのだ。『現在、八丈島鎮守府の提督が、事前連絡なしに桃箭島鎮守府へ来訪。脱走した艦娘について引渡しを要請してきている。この件についての手配がいつ回ってきたか』と。八丈島を除いて。
「横須賀本鎮守府からの回答も『そのような報告は受けていない。事実確認をする』とのことです」
「何を勝手なことをっ!」
「着任からこちら、当鎮守府だけ、何かと連絡等の漏れが多発していまして。今回もそうなら問題なので、確認を怠らないようにしているのです。齟齬があっては困りますからね」
少佐が血走った目をこちらに向ける。勝手だって? 当然の措置だよ。
「それよりも、よろしいのですか? 正式な報告がないのはまずいのでは?」
俺は横本や他の出先鎮守府に問い合わせた。横本も出先鎮守府達もそれを知った。当事者からの報告と手配より先に、だ。
うちだけを相手にした話ならどうとでも揉み消したのかもしれないけど、こうなると誤魔化せないぞ。大変ですね(他人事)。
「馬鹿な……ならば、曙はどこに……」
なのに、口利少佐はこの期に及んで曙のことを気にしている。俺の話、聞いてた?
「……脱走艦である以上、海軍を頼ることはできません。どこかの島にでも潜んでいるか。あるいは本土方面へ進路を取り、艤装を捨てて人混みに紛れたか。単艦で行動しているのならば、どこに潜んでいるか分からない深海棲艦に沈められていてもおかしくはないでしょう」
あくまで脱走しているという前提で、可能性を挙げてやった。まあ、うちで匿ってるんですけどね。
沈んだ、と呟きながら、口利少佐はフラフラと部屋を出て行ってしまった。
自分から捨てるような真似をしておいて、どうしてショック受けてるんだよ。冷遇してたってのは事実じゃないんだろうか? 何かの行き違い? でも、明らかに少佐がおかしいように思えるし。
溜息をついてソファに背を預けると、大和がお茶を入れて持って来てくれた。
「先程のやり取りは録音済です」
「ご苦労。口利少佐は?」
「……港に向かっているようですね。このまま島を離れるんじゃないでしょうか」
それならいいか。島を捜索するなんて言い出さなくてホッとした。その場合はありもしない脱走をでっち上げて乗り込んできたことを理由に、拘束するつもりだったけど。やっぱり牢屋とか、必要かなぁ。
さて、少佐は今後、どうなるのかね。まずは横本への弁解からか。今更、誤報でしたとは言えないだろうし、俺による謀略とするのも無理がある。曙が消えた事実は変わらないんだから。脱走後、行方不明として処理するしかないだろうな。
となると、ここにいる曙の存在が宙に浮くことになるわけだ。
お茶をひと啜りして、大和と大淀に声をかける。
「今日の哨戒で、駆逐艦のドロップがあるかもしれない」
「「それは素敵な予感ですね」」
2人は顔を見合わせ、笑みを浮かべて同じ言葉を紡いだ。
夕方、ドックに曙を連れて行き、いつもの儀式をして新規着任とした。曙については『そういうこと』なんだと皆に周知する意味もある。
「提督!」
初期説明は前鎮守府で既に受けているので、ここの説明を大和達に任せてドックを出たら、曙が追いかけてきた。
「どうした?」
「あの、どうしてあたしを助けてくれたの?」
「何か問題が?」
「だって……あたし、あんなに失礼なことを……」
随分としおらしい。最初の態度が嘘のようだ。こっちが素? 凄く違和感がある、と言うと失礼か。
「基本的に、俺は艦娘には一定の敬意を持ってる。正確には、元の艦の乗組員達にだが。だから、明確に害を向けられない限り、彼らの志を継いで生まれ変わったと言える艦娘には、できる限りのことをしてやりたいと思ってるんだ。お前が置かれていた状況は普通じゃなかった。だから、何とかしてやりたかった。それだけだ」
実際のところは分からない。ただ、現時点までの曙からの証言と口利少佐の言動から判断して、態度の面で曙に全く非がないとは言えないものの、悪いのは少佐だとは言い切れる。
「それは、深海棲艦と戦う力を持ってるから?」
「それもあるけど、もっと根本的なところでな。お前達が艦として戦ってきた結果があるからこそ、俺は生まれることができたからだ」
曙が困惑する。俺についての説明はまだ受けてないだろうから当然か。
「なにそれ……大袈裟じゃない? そもそもあたしはこっちの世界で戦った艦じゃないんだから無関係じゃない」
「大袈裟なもんか。それに無関係でもない。俺は、お前達艦娘が艦だった世界で生まれた人間だからな」
そう言うと、曙は予想どおりの反応を見せた。
何か1つでも違っていたら、俺の曾爺ちゃんは大和の撃沈の際に、こちらの世界の曾爺ちゃんのように戦死していたかもしれない。そうなれば俺の爺ちゃんが生まれないから、当然俺も生まれない。
鳳翔が沈む未来があったとしたら、別の復員艦でもう1人の曾爺ちゃんは本土に帰れただろうか? 帰れていたとしても、その後の曾婆ちゃんとの出会いがある保証はなく、俺の婆ちゃんが生まれなかった可能性がある。
言い始めたらキリがない。でも、良いことも悪いことも含め、全てがあったからこそ今の俺が存在するのは間違いないんだ。
「こっちも深海棲艦が出現するまでは、向こうとほぼ同じ歴史を辿ってるみたいだから、お前が軍に不信感を持つのは納得できる。でも、当時のお前は艦で、自分の意思で動けたわけじゃない。彼らの無念や怒りを引き継いでしまったのは仕方ないにしても、それはお前自身のものじゃなく、背負わされたものと言っていい」
だからこそ、引き継いでしまったものを理由にしてこの世界の軍を信じない、と言うのもまた違うんだけど、それはいいか。実際、不信感を募らせる仕打ちを受けてるわけだし。俺自身、今の海軍は手放しで信用できないからなぁ。
「艦の経歴でもってお前を非難する奴がいたら、言葉でぶん殴ってやれ。お前なら同じ状況下でどんな名指揮ができたんだ、ってな」
どうせろくなことは言えやしないだろうし、後出しジャンケンなんて見苦しい。
「とにかくだ。お前は、艦娘の曙として在ればいい。過去の不当な悪評なんて吹き飛ばすくらい活躍して、本当のクソどもの見る目がなかったことを証明してやれ」
いや、証明させるのは俺か。正確にはそのための手伝いだ。あとは曙自身が行動で示してくれるだろう。
「ただ、記憶に引きずられたままで、今のこの世界の軍人に悪態をつくのは――」
やめとけ、と最後まで言葉を出せなかった。曙の目から溢れるものに気づいたからだ。何で泣く!? 変なこと言ったか!?
「違うぞ曙! 戦ってきた結果って言っても、お前が沈んでよかったって意味じゃなくてだな!」
何がまずかったかと考えながらも、口からはろくな言葉が出てこない。あーもーどうしろと!?
「ぢっ、ぢがうのぉっ!」
スカートを強く握り締め、顔をグシャグシャにして曙が叫んだ。続く言葉は聞き取れない。ただ、次々に吐き出されるそれは、彼女が今まで溜め込んできたものなんだろう。何を言ってるのかが聞き取れなくても、そこに込められた感情は分かった。
泣きながら吐露する曙に近づき、その頭を抱いて引き寄せた。こちらの制服を掴んで顔を俺に押しつけながらも、曙の言葉は途切れない。そんな彼女の頭を優しく撫でてやる。
どれくらいの時間が経っただろうか。言葉が止まってすすり泣く音に変わり、それも少ししたら消えた。
「スッキリしたか?」
「……うん……」
さて、どうしよう。何か気の利いた言葉でもかけてやれればいいんだけど。
「別に俺のことをクソ提督って呼んでも構わないからな」
気づけばそんなことを口走っていた。気の利いた言葉とは一体……
「言わないわよ……そもそも提督、そう呼ばれるようなことしてないんでしょ?」
「そのつもりではあるけどな」
「だったら駄目でしょ。まあ、あったら言うかもだけど……その度に命を懸けたくはないわ」
思い出したのか身震いする曙。あれは怖かったろうなぁ。
「つらい時には、敷地外の離れた場所に穴でも掘って叫ぶといいぞ」
「しないってば。どこの童話よ」
「そうか? 禁断症状が出たりしないか? 我慢しすぎるのもよくないぞ」
「中毒みたいに言わないでっ!?」
顔を上げて曙が叫ぶ。元気出てきたな。もう一押しか。
「言わなきゃ死んでしまう、とかはないのか? 大丈夫か?」
「マグロかっ!」
「とまあ、今みたいにからかいが過ぎたような時は遠慮しなくていいからな」
「だから、口癖ってわけじゃないってば! もうっ!」
俺から離れ、曙が頬を膨らませて顔を逸らした。すっかり目の周りが赤くなってしまってたけど、一応吹っ切れたんだろう。表情は悪くない。
よかったよかった、と思っていると、俺の視線に何かを感じ取ったのか、更に顔を逸らして後ろを向いてしまう。そして、そのまま固まった。気づいてしまったか。
ドックの入口からこちらの様子を窺っている大和達が見える。
「きっ、聞いてた、の? 全部?」
「それはまあ。提督を追ったので、何かあったら止められるようにしておかないと。無用な心配だったけど」
その問いに答えたのは大和だ。何故かニコニコしている。他にもほっこりした顔、気まずそうな顔と様々だ。
そんな彼女達から逃げるように、曙がこちらを見た。
「しっ、しってた……?」
「そりゃまあ、俺からは見えたし」
「曙さーん」
青葉の呼びかけに、曙が反射的に振り向き。
シャッターを切る音が聞こえ、曙の悲鳴がそれに続いた。