離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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ハロウィンのレアドロ、あれから1隻もお迎えできていません。
いつまで続くんでしょうね……もう諦めるしかないか。


第33話 監査

 

 港で来訪者を待つ。

 今朝、課業開始前に電信が入った。到着予定時刻と、艦娘全員を待機させて出迎えるようにとの指示だ。

 発は海軍少将の小笠原(たき)。その名には覚えがある。協定の見直し改善等で艦娘の立場向上のために動いている人だ。

 そんな人が何をしに来るのかと考えると、ある種の予想が立つ。ただ、そうなる経緯には思い当たらない。本人の口から聞くしかないだろう……それにしても、最近来訪者多くないかな? 

 やがて艦が見え、予定時刻どおりに着岸する。川内型の3姉妹を引き連れて降りてきたのは30代に見える美女だ。ただし、今の海軍にそんな若い女性の少将は存在しな――いや、やめておこう。

「海軍少将、小笠原瀧だ」

「海軍少尉、北星皆斗です」

 敬礼を交わしたところで、小笠原少将が告げる。

「北星少尉。これより、艦娘協定に基づいた、桃箭島鎮守府への監査を行う」

 監査? と誰かが呟く声が聞こえた。予想どおりだったので、俺自身に驚きはない。

「どうして、桃箭島に?」

 続いたのは大和の声。

 監査自体は別におかしな話じゃない。ただ、ここがまともに稼働し始めてからそう時間は経っていない。そういうのが来るには時期尚早だと思う。

 問いに答えたのは神通だった。

「密告がありました。桃箭島の男達が、艦娘達を食い物にしていると」

 冷たい声と視線が俺に向けられる。大和達の目も俺に向いていることだろう。

 それにしても、桃箭島の男『達』? この島の男は俺だけなのに? つまり俺がこの島所属の艦娘達を性的な意味で食い散らかしてると? 当然そんな事実はないわけで。

「提督! 正直に仰ってください!」

 なのに、大和が声をあげた。少将達の視線が一層厳しくなり、

「私というものがありながら、他の娘にも手を出したんですかっ!?」

 それが、次の一言で訝しげなものに変わった。待て、俺がお前に手を出してるような言い方はやめろ。

「提督……無理やり誰かに手を出すくらいなら、どうしてあの夜、私に何もしてくれなかったのですか?」

 次に少し悲しげな声をあげたのは鳳翔だった。お前あの時逃げたじゃないか。逃げなくても手出しする気はなかったけどさ。

「司令官! わっ、私じゃ駄目だったんですかっ!?」

 3人目は吹雪だ。駄目も何も、そんなそぶり見せなかったろ! 酔ってる時の言動はノーカンだからな!?

「で、提督。誰に手ぇ出したんだ?」

 天龍がニヤニヤ笑っている。こ、こいつらっ、何か示し合わせてるな!?

「しれぇ!」

 そんな中、前に雪風が出てきて俺を見上げた。

「雪風、魚釣り頑張ります。だ、だから、食べるのはやめてくださいっ! 雪風は、おいしくありませんっ!」

 涙目で放たれたその言葉に、沈黙が落ちる。そういう意味じゃないんだよ、雪風。いや、君はいつまでもそのままでいてほしい。

 プッと、誰かが吹き出したのを皮切りに、笑い声が漏れた。声は次第に大きくなっていき、戸惑う雪風の頭を大和が笑いながら撫でている。まったく……

「な、何がおかしいのっ!?」

「何もかもだよ」

 そんな俺達の反応をどう受け取ったのか。川内が声を荒らげると、それに真顔になった天龍が低い声で返し、

「ひょっとして、洗脳済み!? この鬼畜っ!」

「はぁ? 寝言は寝て言えや……クマぁ」

 続く那珂の罵倒には、球磨がガンを飛ばした。いつもののんびりした語尾じゃなく、取って付けたようなそれには威圧感がある。

 いかん、空気が悪くなってきた。ひとまず場を納めねばと一歩前に出ようとしたら、突然ラッパの音が鳴り響いた。合戦準備の曲? 何で今、これが? まさか深海棲艦か?

 さすがは軍人ばかりと言うべきか。険悪な空気が消し飛び、緊張感へと変わった。皆の注意が海側へと向く。

 でも、よく考えてみれば。どうしてラッパ? というか、誰が吹いた? 艦娘達は全員ここにいる。となると――

 何気なく、振り返る。すると視界に動くものがあった。妖精さんだ。妖精さん達が次々とこちらに近づいてくるのが見える。手に持ってるのは妖精さんサイズの工具や、あれは槍か? 銃火器を持ってるのもいる。陸戦隊も混じってるし、ってちょっと待て。何だこの数?

 小さくても数が揃えばその動きは大きな音となる。気づいた者達がこちらへ振り返り、俺と同じものを見た。

「な、なにこの妖精の数!?」

 川内が驚きつつも、小笠原少将を庇うように動く。いや、本当に多いな妖精さん達。いつの間にここまで増えてたんだろう。一度、総数を把握しておいたほうがいいかもしれない。

 足元があっという間に妖精さん達で埋まった。驚くべき光景だけど、気になることがある。温度差はあれど、皆が皆、少将達に敵意を向けているのだ。初対面なのに何で?

「あいぼうのてきは、われらのてきです」

 大和の肩に出現した相棒が、そんなことを言った。こいつらを集めたの、まさかお前か?

「落ち着け。彼女らは敵じゃない、うちへ監査に来ただけだ」

「かんさ……ていとくにぬれぎぬをきせにきた、と?」

「これだからじょうそうぶは」

 下から不穏な言葉が聞こえてくる。どういう曲解をしてるんだ?

「そうじゃない。落ち着け。艦娘が不当に扱われていないかを確認に来たんだ」

 皆に聞こえるように伝えると、静かになる。よし一安心――

「それは、ていとくにたいする、ぶじょくでは?」

「ていとくのこと、なにもわかってませんね。わからせますか」

「やはり、てき?」

「やっちまうのね?」

 できなかった。その理由で怒るか? というかお前ら、散見されるその艦娘用の単装砲をどうする気だ? 妖精だけで運用できるってこと? 少将達に向けて撃つなよ? フリじゃないからな?

「だから違うって! どうしてそんなに疑心暗鬼かつ好戦的なんだよ!?」

 妖精さん達の顔が勢いよく一斉にこちらを向いた。視線の重圧が凄まじい……怖っ!

「ていとくは、ごじしんが、かいぐんから、うけたしうちを、おわすれなので?」

 噛み締めるように、冷たい声がどこかから聞こえた。いや、それを言われると、思うところがないわけじゃないけど、悪いのは海軍全体じゃないからな? というか、お前達の共通認識で、俺はそういうことになってるの?

「……何て言ってるんだい?」

「か、簡単に言うとー、那珂ちゃん達が難癖つけて、北星少尉を害しに来たんだろうって、みんなすっごく怒ってる……」

 少将の問いに、顔を引きつらせながら那珂が答えた。そうか、少将は声まで聞けない人か。

「いいから聞け。さっきも言ったけど、艦娘が酷い目に遭っていないかを調べに来ただけだ。お前達なら事実を知ってるだろ? 何の心配も要らないんだって」

「そんなの、わからないじゃない。しろでもくろにするのがおえらがたじゃないの?」

 丸太(妖精サイズ)を抱えた曙似の妖精さん、君が濁った目で言うと色々重たいからやめてっ!?

「だったら、せいいをみせてもらいましょう」

「おい、そっちのどうほう。ぜんいん、かんむすのぎそうからおりてもらおうか」

「がいいがないなら、たいどでしめしてもらわないとネー」

 うちの妖精さん達が、川内達の艤装妖精に脅は――呼びかける。当然、武器を向けてだ。何人か顔を出していたあちらの艤装妖精が怯えていた。あーもー!

「お前達いい加減にしないかっ!」

 できる限りの大音声を妖精さん達に放つと、騒がしかったのが一瞬静まった。ここぞとばかりに言葉を続ける。

「とにかく持ち場に戻れ! 現状、物理的にどうこうされる理由はないし、これが陰謀だったとしても、手は打ってある。だから心配するな」

 ということにしておく。とにかくまずは皆を解散させないと。

「でもまあ、俺を心配して動いてくれたことについては、礼を言っておく。やりすぎな気もするけど、ありがとな。後日、差し入れするから待ってろ。というわけで、解散!」

 パン、と手を叩くと、歓声を上げて妖精さん達が散っていく。一部――いや、半分くらい心配そうな顔をしてる子達もいるけど、笑顔で手を振って退去を促した。何とかなったか。あ、そうだ。

「相棒。お前だけは後でじっくりお話しような?」

 この動員というか、何かしらの体制を作ってるだろ。洗いざらい吐いてもらうからな。

 さて、と来訪者達へ意識を戻した。

「監査ということでしたら、艦娘達からの聴取は必須ですね。電信以前に外に出ている艦娘はいません。桃箭島鎮守府、これより受監いたします」

 呆然としている少将達に敬礼する。さて、どうなるか。

 

 

 応接室で小笠原少将と向かい合う。川内達が艦娘1人を同伴させようとしたけど、少将がそれを拒否した。妖精さん達があんな態度を示したから警戒するのも無理はない。でも命令には従うあたり、やっぱり少将、艦娘達からの人望があるなぁ。

「まずはお前から話を聞こう。今日、お前以外の勤務員で島を出ている者は?」

「この島に配属されている人間は、私だけです」

 答えると、少将は眉をひそめた。

「どういうことだい?」

「それについては、横本の総司令に直接お尋ねください」

 信用できる人だとは思う。でも、この人は宮君や正義とは違う。なので、総司令に丸投げすることにした。

「こりゃ、嵌められたかね」

 何かを考えていた少将が溜息をつき、出していた茶を啜る。目線で問うと、

「タレコミのことさ。人間が男1人だけの鎮守府なんだろ? どうすりゃ男達、になるんだい」

「お気付きになりましたか」

「それに港での艦娘や妖精達の態度を見てりゃ、ね。随分と慕われてるじゃないか? 一部、熱烈なのがいるみたいだが」

 ……聞こえませーん。

「しかし、どうしてこんなことに?」

「……あたしへの嫌がらせかねぇ」

 茶碗を置き、再び少将が溜息をついた。

「少将に、ですか?」

「そりゃ、協定の監査なんてされたくない奴はいるだろうさ。そして、端緒があれば、動かないわけにはいかない」

「初動が遅れれば、それだけ艦娘が苦しむ。その心理を逆手に取った嫌がらせですね」

 うちのことを事前に調べていればガセだと気付けるけど、時間が勝負な場合もあるしなぁ。少将も意外と敵というか厄介者が多いようだ。ただ、今回のは俺絡みの可能性もある。

「うちに対する嫌がらせに利用されたのかもしれません。立ち上げ間もない鎮守府に監査が入ったとなれば、その事実だけ取り上げて、事実でないことを吹聴する。うちの評判は下がり、それを愉しむ下衆がいる……のかもしれませんね」

「北星少尉。お前、何に巻き込まれてる?」

 ギロリと少将が睨んでくる。でも、こちらの方針はもう決めた。だから、同じことを答える。

「横本の以下略」

「……難儀だねぇ、お前さんも」

 少将の視線が面白いものを見るものに変わった。ええ、本当に、難儀してますよ。

「まあ、何とかなっていますので。少将には、嫌がらせに負けずに頑張っていただきたいところです」

「うちも立ち上げたばかりだしね。少しずつ実績を積み上げていくさ」

「いっそ、定期監査にしたらどうですか? 何かあったら動くのはもちろんですが、定例行事にしてしまえは、抑止効果も見込めるでしょうし」

「人手が足りないね。頭数じゃなく、信用できるのが」

「少しずつ意識を変えていくしかないですね」

「北星少尉。お前さん、うちに来るかい?」

「ここを放置して?」

「……残念だがやめとこう。ここは命の懸けどころじゃない」

 肩をすくめて少将がニヤリと笑う。いや、先程は本当にすみません。

「で? 無体な真似はしてないにしても、ねんごろな相手はいるのかい? 何人か怪しいのはいるが」

 ソファにもたれ、話題を変えてくる少将。いや、元に戻してきたと言うべきか。

「いえ、現時点ではおりません」

 正直に答える。現時点も何も、今後もないだろうけど。

「ふむ……なあ、北星少尉。女を食っていい条件って何だと思う?」

「惚れさせるか、相手が納得できる対価を差し出すか、でしょうか。あるいは、相手の要請に応えるか」

 合法的にと言うならこのくらいだろう。いきなりな質問に、それでも率直に答えると、

「……それ、誰かから聞いたのか?」

 更に問いがきた。

「昔、ちょっと」

 あれを師と呼んでいいのかどうかは自分でも悩ましいところだけど、そのような人からの受け売りだ。当時の自分は納得したし、女性関係については今もそれを根底に置いてもいる。

「その条件なら、艦娘相手でも構わないんだよ」

「それは、そうなのでしょうけど」

 惚れ合った相手なら交わって当然だけど、艦娘提督としてやっていく上でどうなのか。対価でもって云々も、そもそも艦娘は春をひさぐ者じゃないからその理屈で見ちゃ駄目だ。要請については……今後の可能性がゼロじゃなさそうなのがなぁ……

「私も男です。欲がないとは言いませんが、艦隊運用に迷いが生じかねないので」

 自分は後方の安全な場所にいながら、関係を深めた艦娘を前線に送り込めるかという話だ。多分、自分には無理だと思う。

「そもそも自分から口説く気はないと?」

 頷くと、何故か少将はこちらを見ながら考え込む。

「ふーん。まあ、それを実践できてるなら、お前さんが問題を起こすことはないだろ。本土に出掛けるまでは自分で慰めるんだね」

 この人、艦娘に手を出すこと自体は否定してないのか。というか、勧めてる節すらあるな。

 何と言っていいのやらと視線を逸らすと、少将が笑った。

「いや、すまないね。ついつい素が出ちまったよ。ババアになると、恥じらいもなくなっちまうし、それを武器にすることもなくなるしねぇ」

 まだまだ現役でいけるだろ、と思ったけど口にしないでおく。迂闊に突くと、ろくなことになりそうにない。

 

 

 

 その後は真面目な話をしたり脱線したりしながら、聴取というよりは雑談で終わった。

 応接室を出ると、大和達が廊下にいた。腕時計を見ると結構な時間が経っている。

「提督、大丈夫ですか? 何か変なことされてませんか?」

「何だ、変なこととは」

「押し倒されたりとか」

「お前、本人の前でそんなこと――」

「なかなかガードが固くてね。ピクリとも靡いてくれなかったさ」

 つい素で反応してしまうと、少将がそう言って笑った。って、なんでそこで大和のノリに合わせるかなこの人?

「えー……提督、何で上機嫌なの?」

 そんな少将を見て、川内達も困惑気味だけど、気にした様子もなく少将は川内達に話しかける。

「で、どうだった? 聞くまでもないだろうけどさ」

「本人の前ですが、いいのですか?」

 そう聞き返す神通に、少将はニヤニヤしながらこちらを見た。嫌な予感しかしない。

「構わないよ。聞かれて困ることなんてなかったんだろう?」

「はい、真っ白です。協定的な意味でもですが、運用開始から短期間でよくもここまで掌握していると感心します」

「不満が全くない、ってわけじゃなさそうなんだけど、ねぇ……」

 神通が報告し、那珂が続いた。え、何かあったの? 彼女達に言ったってことは、俺に直接言えないようなことが? いやでも那珂の表情、深刻そうじゃないから大丈夫か?

「おっと、それについては後で聞こうかねぇ」

 意地悪い笑みのまま、少将が俺を見てそんなことを言った。そこまで言っておいて、それはないんじゃない!? 改善すべき点はすぐ教えてもらわないと!

「結果は後日、通知する。じゃ、引き上げるか。邪魔したね、北星。またな」

 そう言って、上機嫌で少将は背を向けた。それを追う川内達。

「提督? 本当に、何もなかったのですよね?」

 呼び止めようとしたら、大和に肩を掴まれた。

「小笠原少将からちょっかいかけられたみたいな言い方だったな?」

「提督のこと、最初は階級をつけていたのに、今は呼び捨てでしたね」

「またな、とも言ってましたね……また会うんですか?」

 天龍、鳳翔、吹雪がジトッとした目を向けてくる。離れていく少将から、笑い声が聞こえてきた。ちくしょう謀ったなあのババアっ!

 

 

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