離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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トンブリ掘れました。
節分任務コンプリート。


第38話 艦娘大和3

 

 桃箭島鎮守府食堂。

 間宮と伊良湖という給糧艦の2人と、屈指の烹炊員の技量を継承している鳳翔。食堂組と呼ばれる彼女らが主に働いており、ここまで食の体制が充実している鎮守府は、離島ではどこを探してもないだろう。

 その厨房に、普段はそこで姿を見ることはない1人の艦娘が立っている。戦艦大和。その表情は楽しそうで、手際よく調理を続けている。

 食堂組の3人は大和を見つめている。正確には大和の作業を注視している。手順の一切を見落とすまいとする視線は真剣そのもの。声を掛けるのも憚られる、そんな雰囲気を纏っていた。

 そんな厨房に注がれる複数の視線がある。食堂にいる艦娘達だ。既に食事は終わっており、各々が自由に動いていい時間。なのにある者は大和の調理を見つめ、ある者は調理の音に耳を傾け、またある者は漂う匂いに鼻を動かす。誰も退出しない。料理をする1人の艦娘へ皆の意識が向いている。

 今、この食堂の主役は間違いなく大和だった。

「よしっ」

 皿に盛り付け、仕上げも終えて、満足そうに大和が呟いた。料理をワゴンに乗せ、フードカバーを掛けて、振り返る。

「厨房を貸していただき、ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ勉強させてもらいました。冷めないうちに、召し上がってもらってください」

 大和が頭を下げると、間宮達も頭を下げた。はいっ、と元気よく答え、大和がワゴンを押して食堂の出入口へと向かう。

「楽しそうでしたねぇ」

「以前から約束していたみたいだし、ようやくそれを果たせるから嬉しいんでしょうね」

 伊良湖が呟くと、鳳翔が微笑ましげな表情を大和の背に向けた。

「大和さん、厨房業務を手伝ってくれないかしら」

「ですね。あと、私もアレ食べたいです」

 大和を即戦力と認定し、組み込めないものかと考える間宮。完成品を思い出したのか、

伊良湖が名残惜しそうな目を食堂出入り口へと送る。

「旨そうだったよなぁ。金払ったら作ってくれねぇかな?」

「そういえば、士官以上は食事代自腹ってのは今もクマ?」

「うー……食べてみたいです……っ」

「……私のも、司令官に食べてもらいたいなぁ……」

 今回の大和の行動がどこまで、どのように影響するのか。今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

「失礼します。提督、夕食をお持ちしました」

 ノックの音の後に大和の声が続いた。今日の夕食は少し遅くなると聞いていたけど、それ程でもない。読んでいた本を閉じて返事をすると、ドアが開いて大和がワゴンを押して入ってきた。間宮達がエプロンを着けたまま食事を持ってくることはあるけど、どうして大和も?

「お待たせして申し訳ありません」

「いや、大丈夫。それにしても、大和と一緒の夕食は久しぶりだな」

「大和と吹雪さんで、1ヶ月以上提督を独占していましたからね」

 大和と吹雪は着任以来ずっと一緒だったし、秘書艦として行動を共にすることも多かったから、艦娘の数が増えてから始まった会食は遠慮してくれてたんだよなぁ。特に大和は、俺が他の艦娘達と仲良くなることを望んでる節があって、皆と交流する機会をさり気なくセッティングしていたりするし。

「それでは準備しますね」

 大和がワゴンの下からテーブルクロスを取り出し、テーブルに広げた。

「……ひょっとして、マナーが必要な献立?」

「いいえ、雰囲気だけですよ。どうぞこちらへ」

 コースメニューとか出されるのかと身構えると、笑って大和が否定する。いや、マナー自体は忘れてないから何とでもなるけどさ。

 席に着くと、大和がフードカバーを取った。そこにあった物を見て、納得する。

「本日のメニューは、オムライスです」

 以前約束していた、あのメニューだった。そうか、今日の夕食は大和が作ってくれたのか。それでエプロンだったんだな。そういえば卵が欲しいと言われて渡したのも今朝だった。

「でも、どうして今日だったんだ?」

「提督、最近お疲れじゃないですか。今日も厄介事が舞い込んできたみたいですし、先日は大和の早とちりでご迷惑をお掛けしてしまいましたし。お詫びと激励を兼ねて、といったところですかね」

 問うと、そう大和は答えた。オムライスの載った皿が目の前に置かれる。そしてサラダとコーンスープも添えられた。

「提督。紅茶はどのくらい注ぎましょう?」

「お任せで」

 そんなことを聞いてきたので、あえてそう答えると、大和はティーカップに紅茶を注いだ。予想どおり、あとほんの少しで溢れるくらいなみなみと。大和を見ると、彼女もこちらを見る。同時に笑みが零れた。

 大和が対面に座ったのを確認して、あらためてオムライスを見る。

 元の世界の飲食店で食べたことがある物よりは大きめだ。綺麗に卵が巻かれているのはさすがと言うべきか。掛かっているのはケチャップで、お約束のグリーンピースが奇数個(7つ)乗っている。

 手を合わせ、いただきますを唱えて、スプーンを手に取る。掬って一口。

「これが、大和のオムライスかぁ」

「そうですね。今の桃箭島で作れる、大和のオムライスです」

 ゆっくり咀嚼し、飲み込んだ。思わず呟くと、そんなことを大和が言う。

「今の桃箭島で、というのは?」

「ここにある食材で作れるもの、という意味です。これはこれで完成品なんですけど、頼む人によって細かい注文がついたりしていたので。今回は大和の独断で、このように作りました」

「例えば、中の具材が違うとかか?」

 今回のオムライスは、刻んだニンジンとタマネギ、鶏肉が入っているケチャップライスだ。オムライスと言われて浮かんでくる基本形だと思う。ライスが米と麦というのが、元の世界で食べた物とはっきり違う部分か。

「ソースがケチャップじゃなくてドミグラスソースだったりですね。ライス部分の味付けも変えられますし。提督のお好みは、どうなんでしょう?」

「分からないなぁ」

 もう1口。うん、少し固めのライスに程よいケチャップの甘味と酸味。十分旨い。それなのに、まだ他の味もあるという。楽しみでしかない。

「食べ比べてみないことには、これが1番だ、とは決められないといったところかな。飯の固さはこれくらいが好みだ」

「でしたら、また別の作り方も食べていただかないとですね」

 遠回しに次を催促すると、嬉しそうに頷き、大和も自身のオムライスを口に入れた。

「それにしても、ようやく食べられたなぁ」

 3口目を食べて言うと、大和が首を傾げた。

「そういえば提督、大和のオムライスのこと、知っていましたよね」

「ああ、そういうのがあるってのは曾爺ちゃんから聞いた話で知ってたから」

 正確には、大和に乗っていた従兵から聞いた話らしいけど。曾爺ちゃん自身は士官じゃなかったから、食べられる立場じゃなかったし、厨房に関わる部署でもなかったし。

「こういうのを再現したレシピって、需要があると思うんだけどな」

「普通に洋食屋で食べられるのでは?」

「いや、軍艦の味、って希少性で売り出すんだよ」

「味には自信がありますけど、需要ありますかね?」

「あると思うよ。実際、元の世界じゃ横須賀市が、海軍割烹術参考書のカレー再現や、米軍からもらったレシピをベースにしたハンバーガーで町おこししてたし」

 今となっては懐かしい。ヨコスカネイビーバーガー、ケチャップとマスタードをたっぷりかけて……当時の俺には大きすぎて、残しちゃったっけ。この世界じゃ米国と国交もないから食べるのは無理か。この間の新聞で、帝国への接触があったとか出てたから、国として生きてはいるみたいだけど。

 それはともかく、元の世界の海自カレーのように、今の艦でも独自のレシピとかあるだろうし、今は亡き海軍艦艇のそれとなれば話題としては十分じゃないだろうか。今でも軍港の一般開放のような催しはあるんだから、そういう場でとか。いっそ、過去にやった料理コンテスト的なものをやってみるのも……まあ、いち出先鎮守府が考えることじゃないか。

「提督は、色々な艦の味を楽しみたいですか?」

「んー……機会があれば楽しそうだなとは思うけど、現状じゃ難しいよ。まあ、色々片付いて、余裕ができたら考えてもいいか、くらいかな」

 今の補給品でも、皆の協力があればできそうだけど、余計な負担になるのは間違いない。俺の欲は二の次だ。

「ところでこのオムライスだけどさ」

 それに今は、未来の食欲ではなく知識欲のほうが先に立つ。この機会だ、戦艦大和のオムライス、色々と教えてもらおう。

 

 

 食後の紅茶を飲み終えて、一息つく。オムライスは旨かった。ただ、紅茶は次からは普通に注いでくれればいいかな。最初が飲みにくい。

「提督に丸裸にされてしまいました」

 両頬に手を当て、緩んだ顔で大和が言った。いや、なにその人聞きの悪い言い方。レシピの詳細を聞いただけじゃないか。

「何で嬉しそうなんだ」

「いえいえ、提督から興味を持って、大和のことを知ってもらえるのは嬉しいですよ」

 上機嫌な大和を見て、そういうものなんだろうかと思う。

「とはいえ、ある程度は知ってるぞ」

 曾爺ちゃんの影響か、大和については自分でも随分と追ったからなぁ。

「ほほぅ……それは是非とも聞いてみたいですね」

「全長263メートル。喫水線長256メートル。最大幅38.9メートル。重油搭載量6300トン。公試排水量――」

「え、知ってるって諸元の話ですか? いえ、それにしてもどうしてそこまで覚えてるんです? 軍の資料を暗記したの?」

「そりゃ、大和は日本で一番有名な軍艦だから」

 あ、元の世界の話ね。ネットもあるし書籍だって出てる。兵器好きがその諸元を覚えてるのと同じようなものだ。

「俺の時代じゃ、長門級を知らなくても大和は知ってるって国民は多かったと思うぞ」

 戦前から日本で有名だった艦といえば、例を1つ挙げるなら長門だろう。ビッグセブンの1隻で、連合艦隊旗艦。帝国海軍の象徴だった。

 で、あっちの世界で有名だった大和は、建造時から秘匿されていたから広く知れ渡っていたわけじゃなく、大々的に有名になったきっかけは戦後の映画だと聞いたことがある。

 じゃあこちらの世界の大和はどうなのかというと、最期の役割と壮絶な散り様で有名になっている。こちらじゃ坊ノ岬沖じゃないんだよな。

「大和が長門級より有名ぇ……? それ、宇宙戦艦のほうじゃないんですかぁ……?」

 大和がすごい疑わしげな視線を向けてきた。この間、再放送してたの見て呆然としてたっけ。

「いや、それも一因だと思うけど、本家の戦艦のほう。元の世界だと本だっていくつも出てるし、映画にもなった。極めつけは、博物館まであったし」

「はくっ!?」

「正確には呉市が建てた海事歴史科学館だけど、大和ミュージアムのほうが通りがいいな」

「な、なんでそんな通称に?」

「一番の売りが、十分の一サイズの戦艦大和の模型だから」

「じゅうぶんのいちのわたし……」

「それに、大和が建造されたドックも、埋め立てられはしたけど大屋根は空襲を免れて現存してるよ。今は造船企業の持ち物だ。何に使われてるかまでは知らないけど」

「未来、すごいですね……ちなみに、この世界のドックは?」

「深海棲艦の空襲で吹っ飛んだらしいけど、再建はされてる。こっちはドックとして生きてる」

「そうですか。一度見てみたいかも」

 世界こそ違うけど大和の里帰り、か。いいんじゃないだろうか。呉へ行く機会はあるだろうし、その時は同行させようか。

「それにしても、提督は随分と戦艦大和やその周囲について詳しいですね。つまり、大和が一番ということですね!」

 大和が嬉しそうだけど、んー……どういう意味で言ったんだこれ? 艦として一番好きなのは、ってことだよな? それなら間違ってないけど。

 そう考えているこちらの反応が引っ掛かったのか、大和の表情が消えた。細くなった目がこちらを見つめる。

「……なんですか? まさか……大和以外の艦が一番だと……?」

「いや、実在した艦なら大和以外あり得ないけど」

 というか、色々調べて諸元まで覚えてる艦なんて、他にないし。

「どういうことです? 実在しない艦も含めたら違うってことですか? まさか改大和型とかそっちの?」

「いや、物語に登場する艦だよ。こっちの世界じゃまだ生まれてすらいない」

 待てよ? こっちの帝国は敗戦してないから、架空戦記として誕生するか怪しいな。でも、何がきっかけで生まれるかも分からないから、こちらからネタをバラ撒くのもどうかと思うし。特に作家属性持ち(青葉)には知られないようにしとかないと。宇宙戦艦のアレを見て『そういうのもあるんですね!』って興奮してたし。

「それも宇宙に行く類の艦ですか?」

 言われて、いくつかが脳裏に浮かぶ。確かに、宇宙で活躍する艦もあるけど、

「いや、超戦艦と潜水艦」

 そっちが先に出てくるんだよなぁ、トンデモ兵器は置いとくとしても。観た当時は、すごいとか格好いいとかしか思わなかったけど、今の立場になってみると、まあ、色々と思うところはある。

「潜水艦はともかく……超戦艦って、どんな?」

「武装は大和以上の口径主砲や噴進弾。バラストタンクがあって、沈みかけのフリをできたりする。あと、特殊な弾頭も色々あった、気がする」

「まっ、負けませんよっ!」

 いや、架空の存在に対抗意識を燃やしてどうするんだ。そういやあの作品だと、大和型の代わりに潜水艦隊が造られたんだっけ。これ以上は黙っておこう。

 それにしても、大和も変わったな。出会った頃と比べたら、だいぶ素が出てくるようになった。

「……なんです?」

「だいぶ柔らかくなったな、って。出会った頃は、もっと素を出してもいいって言っても、固いままだったろ」

「それは、まぁ、そうだったけど……」

 少し拗ねたような顔で首を傾げる大和にそう言うと、目を瞬かせ、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

「提督としては、そのほうがいいんでしょ?」

「それが負担になってない限りは、な」

 自然とそうなったのなら嬉しいけど、そうあろうとしてるのなら、ちょっと複雑だ。無理をさせるのは本意じゃない。

「大丈夫ですよ。顕現から今日に至るまで、色々なことがあって。大和は間違いなく変わりました。ただ、そんな自分自身に戸惑うこともあって」

 自覚はあるのか。そして表情を見るに、それを悪くは捉えていないようだけど。

「悩みがあるなら、俺で良ければ聞くけど」

「いいえ。これは、自分で答えを出さなきゃいけないことだと思うんです。いえ、現時点でうまく言葉にできないだけなんだけど……」

 俺の提案に、大和は首を横に振って、

「でも、整理がついた時は、聞いてもらえます?」

「もちろん」

 問いに頷くと、大和は優しい笑みを浮かべた。ん……?

「それよりも!」

 大和が身を乗り出してくる。一瞬覚えた既視感は綺麗に消えていた。

「さっきの戦艦の話、もうちょっと詳しく教えてください。いえ、戦艦に限らずですけど、何かの作品に出てきたんですよね? 参考にできることがあるかもしれません」

 そっちに食いついてきたかぁ。いや、もうそんなに詳しくは覚えてないぞ?

 

 




書籍とかネット情報とか海軍グルメとか諸々調べてはみたのですが、調べるほど情報が錯綜してる「戦艦大和のオムライス」……
「実際に大和で作られていたオムライスのレシピ」が現存してるわけではない、っぽい。そりゃそうか。

オムライス自体の歴史とか、その他の海軍レシピとかも含めて考察した結果、拙作での大和のオムライスは書いたとおりの感じのもので、アレンジ可、というふわっとしたものにでっちあげました。
大和が作ったオムライスなら、当時と違ってても「戦艦大和のオムライス」なんだよっ!(暴論)
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