離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第4話 生存艦

 

 翌日、朝食後にあらためて諸々の確認を行った。

 通信設備と発電設備は一応妖精に見てもらったところ、部品がないことには直せない模様。

 工廠はひとまず使えるようになったようだ。ただし、使える人材はいないので当分放置。

 ドックは艦娘の建造用と修理用がそれぞれ1艦分。大和しかいないから、これで支障はない。

 水道は濁った水のまま。これは妖精に水源と配管の確認をお願いしている。

 食料は俺と大和の分は切り詰めれば1ヶ月は保ちそうだ。ただ、妖精達にもたまには振る舞ってやらなきゃいけないと思うので、やはり魚釣りはしないといけない。

 これ以上は、問題が出た時点で随時対応していくことになるだろう。

 

 

「よし、できた」

 修繕した掛け布団を広げる。壊れた倉庫から回収した複数の破れた布団を、使える部分を使って縫い合わせた物だ。見た目は悪いけど、布団としての機能に問題はない。これで大和も気兼ねなく、布団で寝てくれるだろう。

「さて、次は仕切り作りだな」

 倉庫を見渡す。共有スペースはこのへん、大和のスペースはあの辺りにして、俺のスペースはここ、と。だったらここらで区切るか。

 本格的に壁を作る余裕は今の時点ではないから、物資用木箱を積み重ねて簡易な壁を作ることにした。天井に届くまで積むと何かあった時に崩れたら危ないので、縦に3箱くらいが目安かね。

 木箱の中身は一応全部確認し、今必要な物は出して別の倉庫に移してある。木箱には番号を振って、後で中身が必要になった時に分かりやすいようにリスト化しておいた。

「よいせ、っと」

 全く使わない物が入った木箱を持ち上げ、大まかに置いていく。この木箱、微妙に大きさが違ったりするから、結構デコボコだ。元の世界のコンテナみたいに規格化されてれば物資輸送の面でも楽じゃないかと思うんだけど……そういうの、提案してみようか。ここを無事に生き抜けたら。

 しばらく作業をして、積み上げた木箱で不格好ながらもそれらしい仕切りが完成した。ドアの取り付けとかは無理なので、布を使ってカーテンみたいにするしかないか。女性と一緒に暮らす以上、そういう配慮は必要だ。出入りは自由にできてしまうけど、境界が視認できるのが大事。

 ただ、昨晩の発言を考えると、大和はあまりそういうのを気にしないかもしれない。無意識での発言なのかにもよるけど、確かめる勇気はない。

 ともかく、形にはなったので、次の作業に移ろう。

 大きく伸びをして、身体をほぐす。さてやるか、と入口へ向くと、水兵姿の妖精が1人、駆け込んできた。手にはメモを持っている。伝令役か。

 今、大和は別行動中だ。なるべく海から見えないような位置取りで、島の外周を探索してもらっている。海には出ないように言っておいた。何かが来た時に、身を隠せないから。

「ありがとう」

 礼を言ってメモを受け取ると、妖精はビシッと敬礼をした。さて、何があったのかとメモに視線を落とす。

『沖合に漂流している艦娘を認む。指示を請う』

 艦娘が漂流? どこの艦だ? 可能性が高いのは、ここに配属されていた艦だけど、今?

 いずれにせよ情報は欲しい。答えは決まっていた。

 メモを裏返し、指示を書き込む。

『海上への移動を許可する。速やかに救助を。接触には十分警戒するように』

「これを大和に」

 メモを差し出すと、受け取った妖精は敬礼し、走って行く。

 気にはなるけど、今の俺に手伝えることはない。できることをやろう。と、その前に。

 板きれを持って来て、適当な長さに切る。文字の配置を鉛筆で下書きし、筆と墨汁を持って来て清書する。

「まあ、形からってことで」

 できた看板を、倉庫の横に立て掛けた。

 『桃箭島鎮守府』

 離島に置かれる鎮守府は、その島の名前を付けられる。だからここは桃箭島(ももやじま)鎮守府となるわけだ。攻撃で看板が壊れていたので、あらためて作った。

 それからもう1つ、小さい板にサラサラと書いて、その隣に置いた。

 『仮庁舎』

 今日からここが俺達の鎮守府(仮)だ。

 

 

 

 救助した艦娘が目を覚ましたとの伝令を受け、ドックの医務室へとやって来た。

 ノックをして、返事の後で部屋に入ると、大和と、ベッドの上に黒髪の少女が1人。確か特型駆逐艦の吹雪だ。そこで気付いた。ここに予備の布団、あったのでは、と。

 俺を見て、吹雪が身体を起こそうとして顔を顰めた。外傷は治っているようだけど、まだ万全じゃなさそうだ。

「無理はするな。横になったままでいい」

 大和が椅子を用意してくれたのでそれに座ると、ベッドの上で吹雪が礼をするように首を動かした。 

「初めまして、司令官。着任をお迎えできず、しかもこのような格好で申し訳ありません」

「お迎え、ということは……君はここの?」

「はい」

 俺の初期艦兼秘書艦になるはずだった吹雪か。無事、とは言い難いけど、生きていてくれたのは何よりだ。

「起きて早々にすまないが、状況の確認をしたい。君の着任から今までのことを教えてくれないか」

「分かりました」

 まず、吹雪はここへ輸送する建築物資と一緒にやって来たそうだ。護衛も兼ねていたらしい。その時点で、俺が提督になることは知っていたという……こっちは今日、直接会うまで初期艦が吹雪だって知らなかったのに。

 で、建築作業が始まったわけだけど、しばらくして先任の艦隊は撤収したそうだ。

「駆逐艦1隻のみを防衛に残して、戦力が去ったのですか? どういう意図が?」

「提督と一緒に着任して、まず建造で戦力を増やすというのが一般的な艦娘提督の流れだからな。今まで問題も起きなかった」

 今までが大丈夫だからって、ずっと大丈夫ってわけじゃない。大和が呆れるのも分かる。今後は新規立ち上げの鎮守府には最初から1艦隊配備したほうがいいだろう。こういう悲惨な前例ができたわけだし。

「着任してから吹雪は何を?」

「島の周辺海域の哨戒を命じられたので、定期的にそれを。あとは基本的にドックで待機でした」

「ここの指揮を執っていたのは誰だ?」

「ええと……お名前は聞いていません。階級章は大尉のものでした」

 現場指揮の軍人がいたのは間違いないのか。その線から洗えば当時の状況も分かるかもしれない。

 話を戻して。そんな中でも建築作業は続いていたという。

「本庁舎の進捗はどうだった? 内装はほとんど手つかずだったが」

「中がどうなっていたのかは見ていませんが、港から見る限りでは、早いうちに形になっていたように思います。機械設備の搬入もしていましたし。でも、その後はあまり人の動きはなかった気がします。港周りの整備を優先していたようです。あと、倉庫ですね」

 んー……形になっていた割には、残ってた未使用の建築資材の残量が気になる。これ、精査すべきかな。余裕ができたら、だけど。

 で、たまに敵の襲撃があった。配備されている艦娘は吹雪だけで、当然戦えるのは彼女だけ。単艦で出撃し、それでも何とかなっていた、らしい。敵艦の数も少なかったようで、そこは運が良かったんだろう。

 そうしているうちに着任予定日がきた。なのに、提督――俺が来ない。俺は予定どおり昨日ここに来たのに? 5日前の着任だと聞いていたそうだ。現場指揮官に問い合わせたら、遅れるとの回答だったとか。そこも食い違ってるのか。

 いや、食い違う以前に、現場指揮官は俺の正式な着任日を知ってたんだろうか? そいつは誰から「遅れる」と聞いたんだ?

 で、着任未定のまま、ある日の出撃で小破。入渠中に敵襲があったら対処できないとのことで、修理せず待機させられ、次の出撃でそのまま大破し、帰投できずに流れ着き、今に至る、と。

 その指揮官、無能か? そもそも高速修復材の在庫だってあったんだ。それを使えばすぐだろうに。小破程度に使うのは勿体ないとでも思ったのか? 一理あるが、それはその場の状況次第だろう。唯一の戦力がダメージを受けていて、使わないなんて選択はあり得ない。

「最後に出撃したのは?」

「一昨日の昼前です」

 ということは、1日以上、海を漂ってたのか。大和が発見しなかったらそのまま沈んでいたかもしれない。見つかって、本当に良かった。

 と、ここまでの状況を聞いて、いくつも疑問点が浮かんだわけだけど。

「どう思う?」

 一緒に話を聞いていた大和に尋ねる。

「提督の着任が昨日の昼頃でしたね? 吹雪さんとの通信が戦闘後に途絶えたとして……それを轟沈と判断し、1日かけず完全撤収したとしたら、手際がよすぎると思えます。普通なら、放棄撤収の前に救援要請をしているのでは?」

「そうだな。拠点を捨てるというのは重大な決断だ。そもそも1艦のみで防衛させる時点で間違ってる。襲撃が何度かあったのなら尚更、戦力の派遣要請をするだろう」

 手持ちの戦力で無理なら、必要な戦力を請えばいい。理由があって派遣が無理だった、というなら仕方ないにしても、それすらしていない気がしてならない。

「吹雪。ここ、敵の襲撃で被害が出ていたか?」

「いえ、私の着任後は直接の被害はありませんでした」

「そうか。後で、出撃前との違いを教えてほしい。空白の1日の間に何があったのか把握したい」

 ひとまず聞きたいことはこれくらいか。気になる部分はあるけど、そこは後でもいい。

「今はゆっくり休むといい」

 席を立ち、医務室を出ようとして、伝えていなかったことを思い出す。足を止め、振り返った。

「吹雪」

「はい?」

「よく生き残ってくれた。ありがとう」

 吹雪が奮闘してくれていなかったら、ここの被害がもっと大きかったかもしれない。無茶な命令に従って、よく戦ってくれたと思う。何より情報も手に入った。感謝しかない。

 礼を言うと、吹雪の目尻に涙が浮かんできて、震える声で、はい、と呟いたのが聞こえた。

 

「提督」

 医務室を出てすぐに、ドアの開く音がして、大和がこちらへ寄ってきた。

「どう思われますか?」

「現状については、仕組まれた結果って可能性が高まった。ただ、どこまでが想定内だったのかは分からない」

 その問いに、現時点での考えを述べる。

 もし敵襲がないまま着任していたら、未整備の鎮守府で当分苦労したと考えられる。嫌がらせと言うにはタチが悪いけど、言ってしまえばその程度だ。

 ただ、吹雪の負傷からの流れを考えると、話は変わってくる。艦娘を沈めようという意思があるように思えてならない。

「吹雪を失うことまでが予定だったのだとしたら、深海棲艦以外に艦娘を処分する手段があったことになるから、可能性は低いんだが」

 深海棲艦に有効な損害を与えられるのが、現時点では艦娘による攻撃だけであるように、艦娘に損害を与えるのも、人類の現行兵器では難しい、らしい。そのせいで深海棲艦と艦娘は同一存在だという意見もあったりするんだけど、それは置いておく。

「状況を利用して処分しようとした、ということでしょうか?」

「着任さえしてしまえば建造ですぐ整備できるだろ、くらいの軽い気持ちだったのかもしれない。秘書艦がいない時点で確実に執務に影響が出ただろうがな」

 それはそれで艦娘をないがしろにしているので腹が立つ。吹雪への処遇は限りなく黒寄りのグレーだと思う。艦娘を意図的に沈めようだなんて、利敵行為以外の何だと言うのか。

「悪辣な……提督が何をしたというのですか? 本当に心当たりはないのですか?」

 怒りを隠そうともせずに聞いてくる大和。

「俺を嫌ってる奴なら何人か把握してるさ。でも、ここまでやろうとする奴……いや、ここまでやってのける奴にはやっぱり心当たりがない」

 詳しい話はまた吹雪から聞くけど、鎮守府の整備計画に遅延が生じているし、こういう根回しというのは簡単にできることじゃない。それだけ人や物が動くのだから。

「大掛かりな陰謀に何らかの形で巻き込まれてるだけという線もありうるが、今は俺が狙われているという前提で、最悪の事態を想定しつつ動くしかない」

 さすがに救援要請が本鎮守府に握り潰された、とは考えたくない。そうだったらもう絶望しかない……ここからの脱走も考えなきゃいけなくなる。

 叶うなら、俺の手に負える範囲での問題であって欲しい。それなら、俺をこんな目に遭わせ、吹雪を泣かせた首謀者をぶん殴る機会もあるだろう。

「ところで提督、秘書艦、というのは?」

 大和の問いに、思わず首を傾げる。ああ、説明してなかったか。

「簡単に言うと副官みたいなものだ。俺達のような艦娘提督につく初期艦がその役割を最初に担っている」

 秘書艦、とはうまいこと言ったものだと思う。ああ、そうだった。

「大和。吹雪の体調さえ良ければ、初期説明を受けておくといい」

「初期説明、ですか?」

「建造等でこの世界に顕現した艦娘に、この世界の状況や軍の在り方、艦娘の扱い等を教えることだ。初期艦は、その説明がひととおりできるように教育されている。君も、こちらのことはまだ何も知らないに等しいだろう?」

「それは助かります。ちなみに、その秘書艦というのは、ずっと固定なのでしょうか?」

「提督によって運用は違う。初期艦をずっとそうしている者もいるし、交替制にしている者もいる……将来的な話だが、俺の方針としては、適性も見つつ持ち回りにする予定だ」

 1人に何か問題が発生して、他の誰もその役を肩代わりできない、なんてことは避けたい。

「分かりました。それでは」

 敬礼して、大和は医務室に戻っていった。何か嬉しそうだったけど、そんな要素あったかな? 情報を得られるという意味じゃ、有り難いと思うかもしれないけど。

 まあいいか。それより、だ。人が増えたよ……食料の配分と現地調達のことを考えなきゃいけなくなった。

 でも、頼もしい仲間が加わってくれたんだ。それくらいの苦労、なんてことないさ。

 ……頑張ろう……

 

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