離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第42話 艦娘足柄

 

 まずは施設案内を先に済ませ、その後に足柄だけ簡易な性能確認をすることにした。俺の指揮下に入っていないと認識している艦娘について、適性による補正がどうなるのかの検証材料だ。

 その後、休憩をとらせて、勝負ということに。休憩は不要だと足柄は文句を言ったけど、ベストコンディションでやらないと意味がない、と納得させ、今に至る。

 場所は本庁舎の地下。大淀の尋問に使った部屋だ。

「何の部屋?」

「特に限定されていない。最後に使ったのは尋問の時か」

 ん、よく考えたらそれ以外では使ってないな。誰かは何かに使ってるかもしれないけど、そこまでは把握していない。

「まさか、言うことを聞かない私をここで調教するつもりっ!? だから見学者を無しにしたのねっ!?」

 大和と天龍から距離を取りながら身構えて、失礼なことを言う足柄。

「不信感を抱かせるような真似をして何の意味がある? 時間は有限だぞ」

 勝負の行方に興味を持つ者は何人もいたけど、見学お断りということにして、勝負の結果には触れずに足柄の去就だけを公表する形にした。普通なら負けるのが当たり前でも、自分が無様に負けるところを見られるのは指揮官としての立場に影響が出そうだし。

 まあ、結果はどうあれ、事実が伝われば十分だろうという判断だ。足柄が公言することを止める気はないけど、その時はその時ということで。

 勝負方法はこちらで決めていいということだったので剣道を選択させてもらった。

「剣道の記憶はあるか?」

「おぼろげにしかないわね」

「では、面、胴、小手のどこかを打てさえすれば一本ということで。その他のルールは適用外で、2本取ったほうが勝ち」

 普段大和達とやっている、竹刀を使った斬り合いの、部位限定ルールだ。本格的にするつもりはないので道着には着替えず、軍服の上衣だけ脱いで防具を着ける。足柄は防具は不要とのこと。俺が全力で打ち込んでも彼女の力場は破れないし、要らないというならいいだろう。

 例外として同席した大和が審判を務める。天龍にも同席してもらったのは、有事の際の抑え役ということにしたけど、見取り稽古の割合のほうが大きい。

 準備ができたので足柄と対峙する。大和の《力》はフルに借りている。身体能力の差はこれでかなり縮まるだろう。

 あれ、そういえば、大和の《力》を借りたままの状態で、その効果だけをオフにできたりするんだろうか? これってまだ検証してなかったな。

「始めっ!」

 そんなことを考えていると、大和が開始の合図を出した。同時に足柄が上段に構えて突っ込んでくる。胴ががら空きだけど動きは速い。さすがの身体能力だ。

 剣の軌跡を予想し、間合いをずらすように斜め前へ――って動きが鈍い!? いや、普通か!

 2つの叫声があがり、2つの音が響いた。音の1つは足柄の竹刀が俺の肩を打った音。もう1つは俺の竹刀が足柄の胴を打った音。

「一本。提督の勝ちです」

 大和が手を挙げて宣言する。そしてこちらへ疑わしげな目を向けてきた。動きが鈍いのに気付かれたか。

「提督、大丈夫かよ?」

 そして、天龍も不思議そうにこちらを見たと思ったら、気遣うように聞いてきた。

「大丈夫だ」

 実際は肩が痛い。面布団の上からでも衝撃はかなりのものだった。重巡のパワーは凄いな。というか、竹刀であんな音が出るものなのか。

『大和。借りてる《力》、そっちに戻ってるか?』

 肩の痛みを気取られないように気をつけながら、艦娘無線を大和だけに向けた。

『いえ、その感覚はありませんでしたけど……何をしたんです?』

『受け取った《力》を意識して使わないようにできるか試してみた。こっちも抜けた感覚はないし、戻ってないなら、借りたまま使わないことは可能みたいだな』

『……そういうのは、安全な時に試してください。ここで負けたらどうするつもりだったんですか?』

『仰るとおりで……』

 視線を、呆れている大和から足柄へと移す。ギリギリで負けた、という感じだったから、とても悔しそうだ。

「戻ってください」

 大和に言われ、開始位置へとお互いに戻る。気持ちはリセット――いや、更に燃え上がってしまったようで、足柄の目力がすごい。先程以上の気迫が感じられる。

 さて、《力》を切ったままだと危ないな。今度は素直にバフに頼ろう。調節ができるかは気になるけど、後で試すとして。

「始めっ!」

 2本目の合図と同時にこちらも一気に前に出た。こちらの行動が意外だったのか、足柄に戸惑いが見える。そして今度は俺の身体能力も上がっている。

 響いた声と音は俺からのもののみ。足柄の反応は追いつかず、こちらの面一本で勝負はついた。

 開始位置に戻り、一礼する。足柄は呆然と立ちすくんだままだ。

 防具を外しながら、身体に意識を向ける。打たれた肩以外に痛みはない。大和から借りてる《力》は、借りてるだけなら何もないけど、使ってると腹の減りが早くなるのが難点だ。このくらいで艦娘並の能力が発揮できるなら安い対価ではあるけどさ。後で間宮羊羹食べなきゃ(言い訳)。

 さて、《力》の配分は後で試すとして……これ、提督適性の補正も同じことができるのか? こちらからのカットは? 艦娘側でのカットや調整は? これも要検証としよう。

 全て外し終えたところで足柄を見ると、位置は変わっていない。ただ、プルプル震えている。

「勝負方法を、変えるか?」

 ズルをしてる自覚はあるので、ついそんなことを聞いてしまった。我に返った足柄は、とても悔しそうな顔で、

「方法は、提督指定のものでいいって言ったのは私よ……だから、この勝負の結果は受け入れるわ……」

 絞り出すような低い声を口から漏らした。そして、でもね、と続け、

「嘘つきっ! あなた強いじゃないっ! 艦娘のほうが強いって話はどこへ行ったのよっ!?」

 と吼えた。

「言っただろう。試合なら話は変わると」

 立ち上がると大和が上衣を差し出してきたので、礼を言って受け取り、それを着る。

「試合だから手段が限定される。試合だから有効打が入った時点で終了できる、つまり逃げ切れるのだ。実戦なら相手が死ぬまで続くのだから、かすり傷1つつけられない私に勝つ術はない」

 さっきの1本目だって、得物が竹刀じゃなく真剣なら、俺の胴は力場に阻まれて無効、彼女の一撃は肩から俺を両断しただろう。

「それに試合でも、身体能力が上である君のほうが有利だというのは間違っていない」

「だったら、なんで私、負けたのよ……?」

「人の身を得たばかりで、その使い方を十全に発揮できていないからだ。身体の操作に慣れれば、そして技術を身につければ、結果は変わる」

 日常動作ならともかく、戦闘動作となると、どこまでできるかを把握しておくのは重要だろう。1本目の時、自分の動きに一瞬戸惑ってただろう?

「……適当なこと、言ってない……?」

「実例を知っているからな」

 疑わしげな足柄に答え、天龍を見る。今では俺とほぼ拮抗するまでになっている。大和に鍛えられて俺自身の腕も前より上がっていて、バフまであるのにだ。今までの経験で何とかなってるけど、俺が天龍に負けるのは時間の問題だろう。

「艦の頃は、物理的に手を加えない限りは強化されなかった。だが、艦娘の身ならば、鍛え、学んだ分だけ今より強くなれる」

 重巡級なら、大和の稽古に参加したら天龍より早い期間で俺に勝ちそうだ。

「……だったら、強くなるわ! そして、提督に勝つ!」

 ぐっ、と足柄が拳を握った。その程度の低い志でいいのか? 俺なんて、いずれ最弱確定なんだぞ? まあ、それはともかく。

「私に勝つ前に、深海棲艦に勝ってくれ」

「それは当然よ。義務と言ってもいいわ」

 うちに加わってくれるってことで、いいのかな。

 

 

 ついでに面接も行う予定だったので、部屋を移動した。

 こちらが重巡洋艦娘足柄の資料を確認する間に、足柄は大和達が渡した資料を読んでいる。俺の情報が書かれた物だ。

 ともあれお互い読み終わり。面接の開始だ。ある程度の形式に沿った質問をし、それに足柄が答えていく。そうして確認できたことは、基本的な足柄だってことだ。30年の間に顕現してきた重巡洋艦娘足柄達の、共通した部分から逸脱している様子はない。

 ただ、着任に難色を示した前例は過去にない。実際なかったのか、あったけど報告されてないのか。今までよそで着任した足柄の指揮官がどの階級だったか、統計があったりしないかな。まあ、これは一例として報告しておこう。

 戦意は旺盛。勝利に拘る傾向。これは身をもって実感した。再戦宣言されてるし。いつまで、乗り越える壁でいられるかなぁ。

「さて、私が聞くべきことは聞き終えた。今度はそちらから聞きたいことや要望はあるか? 私に直接言いづらいことがあれば、大和か大淀あたりに相談してもらえればいいが」

「んー……」

 腕を組み、足柄が中空を睨む。そしてこちらを真っ直ぐに見た。

「本当に、強くなれる?」

 そして出てきたのは、そんな問いだ。そういえば重巡足柄に関しては『飢えた狼』なんて評されたらしいのを思い出した。あれは別の意味だったけど、今の足柄は強さや勝利に飢えてるってところだろうか。

「先程も言ったが、実例がある。あの時、あの場にいた天龍だ。鍛錬を積み、今では私とほぼ互角で、遠くないうちに私を超えるだろう。重巡である君ならば、そうなる期間も短いと考える」

「……天龍は顕現してかなり経つんでしょ? 人間の提督がその艦娘と互角以上っておかしくない?」

 少し考え込んだ足柄が、もっともなことを指摘した。そりゃ気付くか。

「今はまだ言えない、ということにしておいてくれ」

 結局、俺の身体能力に関しては一部の艦娘しか知らないし、口止めもしてるからなぁ。

「じゃあ、私が勝ったら教えてくれる?」

「それでは足りないな。私の身の安全に関わる問題でもある」

「何回勝てばいいの?」

 ……いや、そういう問題じゃなくてね? 足りないって言い方が悪かったか。

「回数で決めることでもない。言える時が来たら皆に話す。それまで待ってくれ」

 いや、もう公表してもいいんだろうか? 何かの拍子に誰かの口からよそに漏れる可能性は、よそと交流がない現状じゃ、あり得ないんだよなぁ。

 転入組が完全にシロだと分かったら考えてみようか。で、外と接触する時に念押しする、と。

「勝った時の褒美が欲しいというなら、そうだな、何か君が食べたいものを作るとしよう」

「そういえば経理学校――じゃなくて士官学校の経理科出身なのよね……提督、できないことってあるの?」

「当然、ある。兵科の教育をまともに受けていないから、そちらは苦手分野だ」

「提督として必要と思われる部分が苦手なのねぇ」

「今の制度上、仕方ない。それでも民間からいきなり登用された者達に比べれば、最初から軍人であるだけマシだ」

「そう聞くと、提督もかなり大変だったのね。まあ、いいわ。すぐに古参にも追いついて、勝利を掴み取ってみせるわ。戦いは、この飢えた狼に任せなさい!」

 得意げな顔で足柄が胸を叩いた。自分で言っちゃうんだなそれ。確かイギリスの皮肉か何かだったはずだけど、向こうの意図が何であれ、受け止め方はこっちの自由か。

 それにしても、精悍なイメージはあっても、艦娘の足柄に飢えたって表現は似合わないな。リアクションなんかを見てると、狼というよりは――

「どうしたの?」

 つい、じっと見つめていると、足柄が首を傾げた。

「いや、可愛いところもあるのだなと」

 大型犬的な意味で。

「ちょ、ちょっと! そこは格好いい、でしょっ!?」

「だから、も、と言った。格好いいと可愛いは両立するぞ」

「えー、可愛いって、何か弱そうじゃない?」

 足柄が頬を膨らませて不満そうにする。強い弱いの話はしてないぞ。

「雰囲気は格好いい、言動は可愛い、そして外見は美人、と。別におかしなことは言っていない」

「……っ、ま、まあ、悪く言ってるわけじゃないのは理解したわ」

「ああ、そうだ。訓練についてだが、どうする? 今は私と大和、天龍の3人で行っているが、参加するか?」

「する!」

 頬を染めて顔を逸らしたと思ったら、真顔で食いついてくる足柄。本当にやる気に満ちてるなぁ。この調子なら、すぐに海でも活躍できるようになりそうだ。

「詳しいことは後で大和に聞くといい。さて、他になければここまでだ」

 あと13人、話を聞かなきゃいけない。どうにか今日中に終わらせたいなぁ。

 

 

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