離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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武蔵3隻目お迎え成功。
これ以上は厳しそうだけど、デイリー消化がてら掘っておこうと思います。


第44話 RとG

 

「失礼します」

 上申書類を作成していると、間宮がやって来た。普段なら昼食の準備をしている時間帯だ。こうして出向いてくるのは珍しい。

「どうした?」

 深刻な表情で近づいてきた間宮は、手にしていた物を机に置いた。布巾に包まれた何かだ。それを開くと、出てきたのはジャガイモだった。ただし、一部が欠けている。いや、違う。『囓られて』いた。

「補給品の中に混じっていた物か?」

「いえ、状態を確認した上で保管してあった物です」

 つまり、桃箭島に運び込まれた後でこうなった、と。

 本土にいる雀や鳩はこの島にはいないし、獣もイノシシ以外は見たことないけど、こういう離島なら固有種がいてもおかしくはない。ただ、この歯形には見覚えがある。

「奴が上陸したのか」

 呟くと、間宮が頷いた。

「……運送艦経由だろうな」

 それ以外にあり得ない。今の今まで被害が出てなかったことを思えば、宮君や正義(まさよし)の艦からとは考えにくい。あの野郎の艦からという線も薄そうだ。

「被害はこれ1つだけか?」

「いいえ、他にもいくつか」

 1匹なのか、仲間がいるのか。いずれにせよ、由々しき事態だ。

「司令官!」

 指示を出そうとしたら、白雪が飛び込んできた。随分と慌てている。何だろう?

「でっ、出ました!」

 出た? このタイミング、ひょっとして間宮と同じ案件か?

「ネズミか?」

「ネズミも出たんですかっ!?」

 問うと驚かれてしまった。違う? いや待て。も、と言った? そんな言い方をするということは、まさか……

「……何が出た?」

「ゴキブリです!」

 思わず天井を仰いだ。ネズミに続いてゴキブリ。いや、いつかは紛れ込んでくるだろうとは思ってたよ? でも、同時に発覚とか、どういうことなの。

 愚痴っても仕方ない。出たなら対処しなければ。

 

 

 

 食堂にやって来ると、所属艦娘全員が待機していた。食事を終えた後で通達をすると先触れを出しておいたのだ。食器類も片付いていて、湯飲みやコップがあるだけだ。

 立ち上がろうとするのを制し、座らせたままで皆の前に立つ。

「掲示板でもよかったのだが、早めに周知をしておきたくて時間をもらった」

「急ぐなら、食事前でもよかったんじゃないの?」

 と突っ込んできたのは北上だ。まあ、それでもよかったんだけども。

「食事前に不衛生な話をするのも憚られたのでな。食事の後にさせてもらった」

「そこまで気を遣う話なの?」

「結論から言うと、ネズミとゴキブリが開庁以来初めて確認された」

 艦娘達に緊張が走る。例外は事前に話をしていた者達だけだ。

「検品後に保管していた野菜にネズミの被害が出ている。ゴキブリは目に見える被害はないが、衛生的によろしくないのは君達も知ってのとおりだ」

 どちらも病気の媒介者となり得るし、ネズミは食料被害だけでなく、配線を囓ったりと施設に被害を与えることもある。艦娘がその程度で病気になるのかは分からないけど、気持ちのいい存在じゃない。

「そういうわけで注意喚起をさせてもらった。見かけたら駆除してくれ」

「提督ー」

 今度は挙手して北上が声をあげた。

「何だ?」

「駆除ってことはさ、ネズミ上陸とかあるの?」

 ぴん、と空気が張り詰めた気がした。俺を見る皆の視線が強まっている。いや、これは期待だろうか。

 ネズミ上陸については曾爺ちゃんから聞いたことがある。艦内に出たネズミやゴキブリを一定数駆除するともらえる外出許可のようなものだったはずだ。長い時間を艦内で過ごす乗組員達にとって陸地にあがる貴重な時間というわけだ。

「残念ながら、その慣習は今は無い。運用で同じことはできなくもないが、ここは離島の鎮守府で、本土までの移動時間を考えると現実的ではない」

 あぁ、と納得したような顔で意気消沈する皆。単に休暇でもいいけど、できることが限られると有り難みも薄いだろう。

「が、働いてもらう以上、対価は必要だ。だから、代わりを用意しよう。私が1食ごちそうする、というのはどうだろう?」

 反応は2つに分かれた。なにそれ、という感じの新参組。そして目の色を変えた古参組だ。

 両手をテーブルについて席を立ち、天龍が睨むようにこちらを見る。

「何を作るかは、提督が決めるのか?」

「私に作れるもの、という条件はつくが、君達が希望するものを用意しよう。ただ、満漢全席とかは勘弁してくれ」

 答えると、天龍の表情が緩んだ。何か食べたい物でもあったんだろうか。

「1品じゃなくて、1食なの?」

「希望の料理にもよるが、それに合わせて献立を組もう」

 続いて曙が挙手し、答えると小さくガッツポーズするのが見えた。他の第七駆逐隊の面々が理解できない表情で俺と曙を交互に見ている。

「えぇと……提督の経歴は皆さん知ってのとおりですが、経理科出身ということもあって料理もお上手なんですよ」

 間宮が新参組に説明すると、ざわめきが広がっていく。間宮さんも認めるほどの? という視線が次々とこちらに向けられた。いや、さすがに間宮達程じゃないよ? あ、そういえば歓迎会、まだできてなかったな。何を作ろう――じゃない、それは後だ。

「んんっ。今後どう変わるかは分からないが、当面はそういうことにしようと思う」

「何匹仕留めればいいですかっ!?」

 元気よく問うてきたのは雪風だ。数か。うーん……

「艦の頃は、どうだったのだ?」

「ネズミ1匹、ゴキブリ200匹でした!」

「あれ、ゴキブリは100匹じゃなかったっけ?」

「陸上勤務だとネズミ3匹って聞いたことが」

 あれ、艦によって差があるな。

「では、ネズミ3匹、ゴキブリ100匹としよう」

 というか、皆には悪いけど、それだけ駆除する前に根絶したいなぁ。

「ああ、そうだ。言うまでもないことだが……『養殖』をした者は吊すぞ」

 伝え聞いた話では、そういうことをして上陸していた者もいたらしい。外から持ち込んで、艦内で見つけたことにする者も。持ち込みは環境的に不可能だけど、養殖はできなくもない。そんな愚か者はいないと信じたいけど、釘は刺しておく。

「司令官。吊すだけなんて生温いです」

「ふむ。では、吊す前にたっぷり水分を摂ってもらおう。そして、決壊後に記念撮影というのはどうだ」

 据わった目をした白雪が低い声で異を唱えたので、オプションを提示した。直後、小さな悲鳴がいくつかあがる。

『提督、海防艦達が怖がっていますよ』

 何故か俺に大和から無線が飛んできた。それは白雪を見たからじゃないかな。すっごく怖い笑みを浮かべてるし。

「まあ、そのようなことが起きるとは思っていない。私は君達を信じているよ」

 ニッコリ笑って皆を見ると、何人かの顔色が悪くなった。

 

 

 

「司令官、少しお話が」

 夕方、白雪がやって来た。三日月も一緒にいる。2人とも主計の手伝いで割と顔を出すことがあるけど、一緒にというのは珍しい。

「どうした。まさか、もう達成者が出たか?」

「いえ、そういうわけではないのですが」

 白雪が三日月を見る。頷いた三日月が手にしていた木箱を差し出してきた。

 30センチ四方もない木箱で蓋はない。中身は――ゴキブリだった。それもたくさん。どこにこれだけ潜んでいたのか。

「この短時間ですごい戦果だな。よくやってくれた」

 褒めると、しかし三日月は首を横に振った。

「違います。これは、この状態で海に浮かんでいたんです。見つけた時は、ほとんど死んでいました」

 海に、浮かんでた? ゴキブリが入った木箱が? しかも、殆ど死んでたということは、いくらかは生きてた?

「……見つけたのは、この木箱1つだけか?」

「空の箱も1つ。あと、打ち上げられて死んでいるのも何匹か見つけました」

 つまり艦から上陸したんじゃなくて、放たれた?

「木箱を見つけた場所は?」

「港側です」

 偶然、で片付けるわけにはいかない。定期便で持ち込まれたと考えるべきだろう。ここまでやるのか。

 深呼吸して気を落ち着かせる。怒りと恨みは溜め込んでおこう。今は対処が先だ。

『大和』

 艦娘無線で大和へ繋ぐ。

『昼食後の伝達の件だが、あれらは桃箭島への攻撃の可能性が高まった』

『どういうことですか?』

『ゴキブリが入った木箱が漂流しているのが発見された。ネズミも同様の経路で侵入したと思われる。皆にその旨を伝えておいてくれ。俺が艦娘無線を使えること、まだ全員には伝えてないだろ?』

『はい、今回の転任組には伝えていません』

『では、そのように』

 無線を切り、三日月を見る。これ、黙ってればあっという間に数を稼げただろうに、正直に申し出てくれたんだもんな。

「悪いが、これについては情報共有をさせてもらう」

「構いません。全部を三日月が見つけられるとは思っていませんし、抜け駆けしているみたいで申し訳ありませんし。何より、鎮守府からこれらを駆逐することが第一ですから」

 そう言って三日月が笑う。ううん、いい娘だなぁ。

「お陰で対策を立てられそうだ。今回のは戦果として計上させてもらおう。それとは別に、これはご褒美だ」

 机の引き出しを開け、1枚のチケットを取り出して三日月に渡す。

「給糧艦嗜好品引換券?」

「まだ準備期間だが、実施後にそれを間宮か伊良湖に渡すといい。それまでは内緒にしておいてくれ。白雪もな」

 ちょっとした報償として渡そうと、間宮達と話し合って作った物だ。よその鎮守府でも間宮アイスとかと引換にできるチケットを配ったりしているので、その真似といったところ。

「昼におっしゃっていた司令官の料理も、こういった券でいただけるのですか?」

「……そうだな、そのようにするとしよう」

 数が出るとは思わないし、事前注文は必要なわけだから、そこまでしなくてもいいかもしれないけど、目に見える形のほうが褒美として分かりやすいか。

『あ、提督。今いいですか?』

 明石からの艦娘無線が飛んできた。

『どうした?』

『これから、妖精達が戦果を持ってそっちに行きます』

『戦果? 一体、何のだ?』

『お昼に言ってたRとGの、です』

 昼のということは、R(ラット)とG(ゴキブリ)か。でも妖精達?

 不思議に思いつつ待っていると、部屋に木箱が入ってきた。三日月が回収した物とは違うので、搬送用に準備した物だろう。中にはネズミとゴキブリが入っていて、木箱の下に妖精さん達がいる。神輿とその担ぎ手のようだ。神輿と違って不浄なモノではあるけど。

 木箱が床に置かれ、妖精さん達が整列する。

「ほうこくします。ねずみ2ひき、ごきぶり89ひきをげきめつしました」

 おぉ……どちらも目標達成目前じゃないか。すごいな。

「これは、漂着していたものを含むのか?」

「いえ、すべてちんじゅふないではっけん、それをしとめたものばかりです」

 つまりこれだけが生きて上陸していたわけだ。かなりの数が放出されてたみたいだな。

 しかし妖精さんがどうやって? 戦果を確認してみると、小さな傷がたくさんあるのが分かる。これは、妖精さん用の火器か何かか。視線を戻すと、妖精さん達はその身体にサイズを合わせた機関銃を携行していた。

「これは誰が仕留めたのだ?」

「われわれ、ももやじまようせいけいびたいぜんいんでのせんかとなります」

 つまりチームで動いたと。妖精さんについては個人の戦果で計上するのはサイズ的にも厳しいか。料理にしても、1人で人間1食分は食べきれないだろうし。

 それにしても数は力だな。妖精さん達のほうが視点も低いし、標的を見つけやすいのかもしれない。艦娘達にも協力してもらうけど、正規の業務として依頼するのがいいかもしれない。根絶は難しいだろうし、今後も放たれる可能性は十分にあるから。

「では、警備隊の戦果として検分させてもらおう」

 ところで、桃箭島妖精警備隊って、何?

 

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