金剛型が全員改二止まり。釘と詳報が足りなくてお預けです。ごめんよ。
月末アップデートでマンスリー任務ぶっ込むの、何とかしてほしい。
ぐ、っと背伸びをして腕を揺らすと、肩が音を立てた。
壁の時計を見ると
いや、理由は分かってる。横本から総司令が来る前に、纏めておきたい書類がたくさんあるからだ。
少しでも進めようとしたらこうもなる。何せ、提督としてはこれだけをやってるわけにもいかない。鎮守府の運営も、きっちりこなした上で、これを片付けていかなきゃいけない。
他の全てを艦娘に任せて専念する、ということもできなくはないけど、それはどうしようもない場合の最終手段であって、普段からやっちゃ駄目だと思ってる。分担による効率化は進めていくけど、丸投げは駄目だ。それで処分を受けた艦娘提督も過去にはいるし。
この業務量については自業自得な面もある。俺が発案したものや、俺を基点として判明した事実がほとんどだ。
それに着任以来受けている嫌がらせや妨害についても、現時点のものを纏めて伝えておきたい。そう考えるとなるべく早めに片付けておきたいんだ。深海棲艦への対処とかが飛び込んでくると、その分だけ時間が奪われるし。
とは言え、今日のところは集中力もここまでだ。意識を切り替え、休むとしよう。その前に用を足しておくか。
席を立ち、提督室を出てトイレに向かう。寝る場所も今は本庁舎の部屋なので楽なものだ。官舎ができたらそっちに移ることになるから、通勤の手間がかかるようになるけど仕方ない。いや、そのほうが残業しなくなるからいいのか?
官舎については既に地均しだけは終わっていて、後は手配済の資材が到着するのを待つばかりだ。明石が張り切りすぎてる気がするけど、設計図のチェックはしたから、問題はない、はず。
「ん?」
スッキリして暗い廊下を歩いていると、ドアから光が漏れているのに気付いた。あそこは資料室だ。電気の消し忘れ……いや、またか。
近づき、ドアを開ける。書類棚に作業用の机。そこに人影が1つ。思ったとおりだった。
「霧島っ」
「ひゃいっ!?」
強めに声を掛けると、戦艦娘霧島がビクリと跳ねた。
「しっ、司令? どうかしましたか?」
「それはこっちのセリフだ」
こちらを向いた霧島に、壁に掛かった時計を指してやる。
「またこんな時間まで。夕食からずっと篭もってたのか?」
机に置いてある物を見ながら問う。そこにあったのは戦闘詳報だ。桃箭島の運営を開始してからの戦闘詳報は、横本へ送った全ての写しをとっている。あー、コピー機が欲しい。
それはともかく、顕現してからの霧島は、時間があればここに篭もって戦闘詳報を読み込んでいる。それ自体はいいことだと思う。艦の頃の戦い方を艦娘でそっくりそのまま使えるわけじゃないからだ。でも、限度というものがあるだろう。
「はい。現代の海戦、それも艦娘のものについて、できるだけ早く知っておきたかったので。検証作業や慣熟航行等でも実感しました。艦の頃と同じ感覚じゃ駄目なんです」
言いたいことは分かるけど、そこまで急ぐ必要もないんだけどなぁ。
「人数が増えたとはいえ、お前達をいきなり戦線に投入する気はない。今は焦らず積み重ねる時期だ」
「理解しています。だからこそ今の内に、データを積み重ねているところです」
艦娘霧島。理論的に物事を考えるタイプで、そのためにも情報の蓄積は重要なんだろう。
「無理はしてくれるなよ。明日以降の訓練にも響く」
これだけをしていればいいわけじゃない。何事も程々にだ。
「分かりました。ところで、この戦闘についてお聞きしたいことがあるのですが」
詳報の1つを手に取り、霧島が言う。うん、本当に、程々にな。
今日も今日とてお仕事お仕事。
書類作りは大変だ。全部手書きだから。現時点で事務仕事に使えるパソコンは存在しない。その前身にワープロと呼ばれる機械が存在したと元の世界で聞いたことがあるけど、こちらにそれらしい物はまだない。タイプライターは使える漢字が限られる大型の機械だから、書類作成に使えるようなものじゃない。
こっちの人間にとってはこれが普通だから、そういうものだと割り切れるんだろうけど、未来の技術を知っているだけにもどかしい。
かといって、俺にそれらは作れない。素性を明かした時に、役人っぽい人達にどんな物があったかを色々話したことは覚えてるけど、そう簡単に実現できるものでもないだろう。そもそも仕組みが分からないわけだし。
「……よし、今日は終わる!」
終わったではなく、終わる。続きは明日の俺に任せた!
机を片付け、トイレに行って、仮眠室という名の自室へ向かう。
「……またか」
そして、やっぱり資料室から漏れている光。今日も霧島は自主学習に励んでいるみたいだ。
今朝、少し眠そうにしてたから、昨日はあれからまた粘っていたのかもしれない。これは注意したほうがいいな。
昨日と同じくノックせずにドアを開ける。
予想どおり、霧島はいた。ただ、予想外の光景が目の前にある。戦闘詳報を読み込んではなくて、机に突っ伏していた。その両目は閉じられていて、自分の腕を枕にし、規則正しい呼吸の音が聞こえる。つまり、眠っていた。
「こうならないようにして欲しかったんだけどなぁ」
思わずそう呟いてしまった。
いつもはキリッとした表情を保っているけど、今は穏やかというか優しい表情をしている。可愛いとも言えるか。
このまま寝顔を眺めているのは悪趣味だ。さて、どうしたものか。
選択肢はいくつかある。まず、起こすこと。ただ、自習を再開するかもしれない。寝落ちするほど疲れが溜まっているんだから引き下がるかもしれないけど、怪しいところだ。
次に、官舎に運ぶ。大和か重巡の誰かなら楽に運んでくれるだろうけど、手間を掛けさせるのは申し訳ない。俺が運ぶのは論外だ。天龍の時とは状況が違うし、艦娘官舎に足を踏み入れるのに抵抗がある。
となれば、このまま寝かせておくしかなさそうだ。ただし、二度とこうならないよう釘を刺す必要もある。
なので、俺は上着を脱いだ。そしてそれを、霧島の肩に掛けてやる。起こして何かを言うよりも、目を覚ました時にこうなっているほうが、生真面目な霧島には『効く』だろう。
それ以上何もせず、俺は資料室を出た。
「申し訳ありませんでしたっ!」
提督室にやって来た霧島が、深々と頭を下げた。九十度の直角だ。かなりこたえたと見える。
「自主的に学習や訓練に励むことは何も悪くはない。ただ、度が過ぎると体を壊すこともあるし、そうなれば自身の学習等に支障が出る」
頭を上げさせてから、諭しておく。
「今回は居眠りで済んだからよいが、これが体調不良を招いて動けなくなれば、君がやるべきことを誰かがやらなくてはならなくなる。気をつけていた上でならば仕方のないことだが、自己管理を怠った結果であれば、故意に周囲へ迷惑を掛けることと同義だ」
「はい……」
「二度とこのようなことは起きないと信じている。以後、気をつけるように」
「はい。本当に、申し訳ありませんでした」
再び霧島は頭を下げた。うん、もう大丈夫だろう。
「それで、霧島」
「はい」
「私の服は?」
資料室にはなかったんだよ。多分、霧島が持ってると思うんだけど。
「えっと、そのぉ……あ、洗ってお返ししますから!」
「別にそのままで構わないが」
「わっ、私が構いますっ!」
顔を赤くして霧島が抵抗する。何だろう。よだれでもつけてしまったとか?
「分かった」
深くは聞かず、任せることにした。
さて、と仕事を再開しようと思ったら、まだ霧島が立っている。
「どうした?」
「あ、あの、そのぉ……」
赤いまま困ったような顔で言い淀む霧島。急かすのもどうかと思い、言葉を待つ。
しかし霧島が言葉を発する前に、ドアのノック音がした。
「失礼します、青葉です!」
許可すると、青葉が部屋に入って来る。
「あ、霧島さんもいたんですね。ちょうどよかったです」
霧島を見てそんなことを青葉が言った。彼女が関係しているのか? 一体何だろう。
「司令官。昨日、霧島さんと同衾しました?」
なんて……? 同衾? 俺が、霧島と?
「一体、何がどうなってそんな話が出てきた?」
「今朝の総員起こしのことです。司令官の制服を持った霧島さんが、慌てた様子で官舎に戻ってきまして」
……まさか霧島、朝まで資料室で寝てて、予鈴の放送で目を覚ましたのか? 霧島が俺の制服を持って朝帰りか……目撃されたなら、その想像は難しいことじゃない。
あぁぁぁ、と霧島が頭を抱えた。霧島が言い出せなかったのはこれか。
「で、どうなんでしょう?」
「何もなかった。資料室で居眠りしていた霧島に制服を掛けてやっただけで、私は自室で就寝したからな」
でしょうねー、と小声で青葉が呟くのが聞こえた。何もないと彼女は確信しているようだった。じゃあ、何で聞きに来た?
「大和さんに頼まれたんですよ。目撃者があることですから、色々と憶測が飛び交ってまして。事態の鎮静化のため、真相を確認して記事にしてほしいって」
疑問が顔に出てたんだろうか。青葉がそう説明してくれた。大和の差し金か。うちの青葉はゴシップ関係の興味が薄いからなぁ。
「評判の割合は?」
「疑いの目を持っているのは第七駆逐隊を除いた新規の転任組ですね」
「新規建造組は?」
「やるなぁ、と感心してる感じでしょうか。古参は、信じてはいるけど何があったかは知りたいって感じです」
なるほど。新規転任組は色々吹き込まれてたから、不信感が再燃する可能性があるわけか。その火消しに青葉を使おうと。大和もよく考えたもんだ。
「霧島さんにも聞きますけど。何もなかったんですよね?」
「ないです! 何もないです!」
必死で霧島が否定すると、うんうん、と青葉は頷き、手にした手帳に書き込んでいく。
「霧島は連日、夕食後に資料室で戦闘詳報の読み込みをしていた。無理が祟ったということだ。記事に、過度の自主学習や訓練は控えるようにと付け加えてもらえるか」
ここまで来たら、ついでに利用させてもらおう。
「分かりました。ところで霧島さん。司令官のこと、どう思います?」
「みゃっ!?」
「いや、どういう印象かって意味ですよ。しばらくは新任紹介の記事が続きますからその取材です。ですが……」
目を細め、面白そうに青葉が霧島を見る。
「そっち方面の印象でも構いませんよ?」
「……んんっ。上司としての感想しかありませんが、真面目で誠実、私達艦娘のことを大切にしてくださっているのは分かります」
「それだけ――何でもないです」
何やら言いかけた青葉が、眼鏡を下にずらした霧島に睨まれて止まった。
「では司令。私はこれで」
そして何事もなかったかのように一礼し、霧島が部屋を出て行く。
「青葉。霧島をからかうのは、程々にしておけ」
「そうします」
霧島に武闘派の面があるのは把握してたけど、さっきのひと睨みは何とも言えない圧力があったな。
「それから、就寝前の点呼はしていないのか?」
していれば今回のようなことは起きないはずなのに。
「そういえば朝だけですね。何か理由が?」
問い返されて、考える。指示した覚えがない。まだ大和と吹雪しかいなかった頃は点呼そのものをしていなかった。再稼働してからは、朝礼もあるから朝の点呼はしてたんだろうけど、夜は確認してなかったな。
「これは俺のミスだな」
きっちり確認・徹底していれば起きなかった事故だった。ごめんよ霧島。
今回の話を書いてて、この世界の技術や文化を考えてたら、拙作ではビキニ水着が生まれない可能性に気付いた。
この世界、現実のビキニ水着誕生の頃は沿岸部がほぼ壊滅してて海水浴とかやってる余裕ないし、クロスロード作戦もないし。
というか、重巡リ級からの逆輸入……? 助けて妖精さん!