離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第46話 巡視1

 

 ついに巡視の当日になった。港で到着を待っている。出迎えは俺と大和、そして大淀だ。

 事前の連絡で、課業は通常どおりにしておくように指示があったので、他の艦娘達は訓練や遠征任務に就いてもらっている。

 とはいえ、一部は訓練と称して港周辺の警戒に当たらせていたりするけど。

「重巡ですか?」

 沖合に現れた艦を見て、大和が言った。

「全長は200メートルもないから、大和達の時代で言えば阿賀野型軽巡や古鷹型重巡に近い大きさだ」

「そういえば戦艦級はもう建造されていないんでしたね。現存している艦も長門だけとか」

 大戦時には航空機の時代になっていたし、その上深海棲艦が出現して海が奪われたせいで、人間相手の戦闘艦は無意味な存在になった。

 とはいえ、艦娘は対深海棲艦戦力だ。基本的に人間の相手は人間がしなくてはならないし、そのための海軍力は備えておかなくてはならない。

 そんなわけで、帝国本土沿岸の安全がある程度確保できた頃から、海軍の艦の建造が再開された。数は多くない。外国との海戦が現時点ではそこまで想定されないからだ。ソビエト海軍が復活しない限りは海での実戦も当分は起きないだろう。

 人類の兵器が深海棲艦に通用するようになれば、建造計画も変わってくるだろうけど。

「近代化改修もされたとはいえ旧い艦だ。三笠のように記念艦にという声もあると聞くが、どうなることやら」

「深海棲艦による横須賀空襲でも着底せず生き延びて、修復された艦です。国民人気は今も高いですから、そうなる可能性は高いと思いますよ」

 大淀が言った。ちなみにこの世界の三笠もその時に被害を受けたらしいけど、戦後の窃盗も米軍による改悪もなかったので、当時とほぼ変わらぬまま修復され、今も保存されている。

「提督。この世界だと、長門ミュージアムとか作られるんじゃないでしょうか」

 大和が真顔になるとこっちを見た。うーん……可能性ってあるのか?

「何の話ですか?」

「元の世界の未来で、呉に大和ミュージアムが作られていたから、こちらでは長門で似たようなものが作られるだろうか、という話だ」

 大淀が首を傾げていたので説明すると、驚いたようだった。

 通称のほうが有名で、そうなるくらい大和が押し出されてるけど、正式名称が呉市海事歴史科学館と言われていたわけで、呉の歴史の中に戦艦大和があるって感じだったような。だったら、同じコンセプトで企画が立ち上がっても、長門がメインになることはないんじゃないかなぁ。いや、長門が悪いってわけじゃなくて。むしろ長門が記念艦になるなら、そっち寄りの施設が別に建てられる可能性はあるかもしれない。そうなると姉妹艦である陸奥の主砲はそっち行きだろうか?

 なんて考えている内に、艦が近付いてきた。艦娘達の姿も見える。横須賀本鎮守府総司令長官の座乗艦だ。護衛の層も厚い。

 やがて艦が入港する。うん、大きい。自分の艦とは大違いだ。

 兵が係留索を持ったままでキョロキョロしているのが見える。視線が合ったので手で指示すると、戸惑いつつも係留索を埠頭に投げた。それを妖精さん達が係船柱へ固定するために動いていく。妖精さんが見えないあっちの兵は、係留索が勝手に動いてるようにしか見えないだろう。

 係留作業が完了するとタラップが降りてきて、艦から姿を見せたのは大将の肩章を着けた第二種軍装姿の男性。そして、艦娘が1人。横本所属の艦娘大和だった。戦装束ではなく軍装姿だ。

「なるほど。あれが、本来の私なんですね」

 そう大和が呟くのが聞こえた。うん、あのくらいの外見だよ。

「貴官が北星少尉か。ようやく顔を合わせることができた」

 出迎え、敬礼すると、総司令は答礼の後で表情をわずかに緩めてそう言い、隣の横本大和を見た。横本大和の視線はこっちの大和に注がれている。

「どうだ?」

大和(わたし)です。ただ……違うということは肌で感じます」

「違う、とは?」

「何と言っていいのか……今までの大和(わたし)達より、存在が濃い、というか」

 こっちの大和の状態については報告済だったけど、それを実際に確かめたかったということだろうか。存在が濃い、か……その言葉には納得できるものがある。

「ここで立ち話も何です。庁舎へご案内します。徒歩ですがご容赦ください」

「なに、ここの様子をゆっくりと確認できるのだから、徒歩のほうがよいくらいだ」

 輸送用の車両で送迎というわけにもいかないので断りを入れると、総司令が笑う。道は整備してあるから、歩きにくいということはないだろう。

「では、こちらへ」

 庁舎へと進む。総司令は先の言葉どおり、鎮守府の様子を見ながら歩いている。横本大和の視線も動いてるけど、どこか警戒している様子だ。まあ、気持ちは分からなくもない。

「どうした、落ち着きがないな」

「……今、道の両脇に、警護の妖精達が大勢います……」

 総司令が横本大和に声をかけると、緊張した声で答えた。視線は警戒を続けている。

 彼女の言うとおり、うちの妖精達が道沿いに集まっていた。見る限り、全員武装している。あれ、黒い装甲服を着た妖精さん達の部隊なんていたっけ? しかもガスマスクまで。Gの駆除班かな?

「信用されていませんね」

「仕方あるまい」

 横本大和の呟きの後、総司令から諦めたような溜息が漏れた。

 総司令は艦娘提督じゃないから、妖精さん達が見えない。横本大和が警戒しているのは、妖精さん達の注意が襲撃者ではなく、総司令達に向けられているからだ。大丈夫だって言ったのに、信じてもらえなかったんだよなぁ。妖精さん達にとって、横本は敵の本拠ってイメージが固まっているらしい。

 まぁ、小笠原少将の時も誤解を解けたわけだし。総司令に関しても今回の来訪で何とかなるだろう。

 

 

 

「最初に言っておかねばな。貴官には着任時から大変な苦労をかけてしまった。それから、大淀に間諜紛いの行動をさせ、横本への不信感を抱かせてしまったことも併せて謝罪する」

 応接室で落ち着いた直後、総司令と横本大和が頭を下げた。やっぱり気付いてたか。この件については、こちらから言うことはない。

「受け入れます」

 だから、そう答えた。

「鎮守府が壊滅していて、そこを自力でほぼ復旧させたという状況は、それだけ聞けば異常です。その点だけでも、監視を置きたくなるのは理解できます」

 ただ、それを隠れてやらなければよかっただけで。

 それに今は、この状況を利用して海軍の膿を出そうとしているわけだし。ここでごねても仕方ないし、放置したくないというのも確かだ。

「……こちらが状況を把握してからも、何かと妨害が入っている。貴官にはすまないが、今しばらく囮となってもらいたい」

「はい。何とかやれていますし、そういうよからぬ輩を野放しにはできませんから」

「そう言ってもらえると助かる」

 総司令は、申し訳なさそうな顔で安堵の息を漏らし、白が過半数の角刈り頭を再度こちらへと向けた。

「本土では貴官に関するよくない噂が流布されている。桃箭島で起きたことを公表していないからだが、貴官への風当たりも強くなろう」

「調べは進んでいるのでしょうか?」

 うむ、と総司令が頷く。

「全てに決着がついた時、貴官の名誉は必ず回復させる。それまでは貴官に強く当たる者と対面するかもしれないが、今は耐えてもらいたい」

「基本的にこちらへ引き篭もりますので、支障はないかと」

 離島鎮守府だから、誰かに会うという機会がそうはない。今は定期便で来る者くらいだ。だから問題はない、そう思っていたんだけど、

「それなのだがな……しばらくしたら、第一海軍区で大規模演習を行うことになっている。その際は、さすがに欠席というわけにもいかん」

 参加必須の行事があるらしい。溜息が出そうになるのを何とかこらえる。

 考えるべき事はいくつかある。その中でも一番問題なのが、

「大和、我慢できるか?」

 所属の艦娘達が、俺への悪口を聞いたりして暴発しないかということだ。新規転入組はともかくとして、それまでの艦娘達には悪く思われていないという自負くらいはある。

「提督のご命令とあらば、耐えてみせます」

 問いに対し、返ってきたのは固い表情と声。大丈夫かなぁ……妖精さん達ですら『ああ』だったからなぁ。

「頼む。ただし、君達の身に火の粉が降りかかる場合は必ず払え。回復が約束されている私の名誉より、君達の心身の安全だ。これは私からの命令であり、何より……『俺』の望みだ」

 最後に一人称を切り替えて言う。個人としての望みだったからだ。

 返事はなかった。ただ、微笑むだけ。不穏な気配は感じられない、優しい笑みだ。

 総司令の咳払いが聞こえた。視線を正面に戻すと、生温かい目を向けてくる総司令と、頬をわずかに染めて視線を逸らしている横本大和がいる。

「暗い話ばかりではない。まず、昇進が確定だ」

 そして、何事もなかったように総司令がなかなかに衝撃的な言葉を発した。俺が昇進?

「それは、どういう理由付で?」

「桃箭島鎮守府の再建だ。短期間で本来あるべき姿に戻した。しかも、横本の設営隊に頼らずだ。偉業と言ってもよい」

 何を根拠にそれを通すつもりなのかと思ったら、それか。そこは妖精さん達のお陰だ。会話ができるようになって細かな指示ができたことも大きな理由だろうか。

 それにしても再建か……確かに物理的にはそう見える。座礁してる運送艦や倒壊したままのクレーンは置いておくにしても。でも、本当の意味での再建は終わってない。本来あるべき桃箭島には、どこぞの誰かによる嫌がらせなんてものは存在しないんだから。

「実績の事実があっての昇進だ。しかし現状では何かとケチをつける輩は出るだろう。時期については希望通りにするが、どうする?」

 悪い噂しか聞かない者が、急に昇進する。裏があるのは誰もが察するだろう。普通に考えれば、鎮守府を壊滅させた無能(噂)が昇進するわけないんだから。その裏を、どう解釈されるか。悪く言いたい奴は、コネだの裏取引だのと悪い理由を想像補完して拡散するだろうし、上をまともだと信じてる者なら、噂に疑問を抱くようになるかもしれない。

「早いほうが、都合が良いでしょうか?」

 つまり、これもフィルターとして使える。

「それはありがたいが、良いのか?」

「悪い噂が1つ増えたところで今更でしょう」

「では、そのようにさせてもらう」

 総司令が目配せすると、横本大和が自身の格納庫から取り出した物を応接机に置いた。第二種軍装用の中尉の肩章だ。準備がいいなぁ。

「前後しますが、辞令は他の階級章と一緒に次の定期便で送ります。後で必要数を教えてくださいね」

「提督、おめでとうございます。階級章が届いたら、縫い付けは大和にお任せくださいね」

 大和が嬉しそうに言った。それくらいは自分で、と思ったけど、これは聞き入れてもらえないやつだなと察する。まぁ、いいか。

「さて、昇進の祝いというわけではないが、何か要望はあるか?」

 総司令がそんなことを聞いてきた。要望……あぁ、あれがあったか。

「電話の設置について、どうなっているかご存知でしょうか?」

 現在、この鎮守府にある通信手段は無線設備だけだ。

 電話と言っても、通常の海底ケーブルの敷設は難しいだろう。引けたとしても、すぐに切断される恐れがある。本土から遠い離島鎮守府だとその危険は常にあり、いたちごっこになりかねない。あの海賊漫画に出てきた石みたいに、深海棲艦に認識できなくなる特殊な効果がある素材とかあれば話は変わるけど、そんな便利な物は現時点では発見されていない。

 この世界のこの時代、衛星電話は既にある。離島鎮守府には設置されてるはずなんだけど、ここにはない。

「その言い方だと、既に要望は出しているのだな」

「申請は出しましたが、梨の礫です。それから、水上レーダーの修理部品もまだ届いていません」

「……分かった。戻ったら直接手配しよう」

 難しい顔をして総司令が溜息をついた。よし、これで本土と会話ができるようになる。軍とではなく、一般の業者ともだ。私的な物資の注文もできるようになるぞ。それに水上レーダーの修理ができれば、妖精さん達の負担も減らせる。

「しかしこれは鎮守府としての要望だろう。貴官個人としての要望はないのか?」

 個人的な要望? 俺自身の不満は、軍人ということを考えた上でなら特にない。大淀の件は鎮守府としての要望だし……あ、これは聞いてもいいんだろうか。

「それでは1つ。もし教えていただけるのでしたら」

「うむ」

「今回の主犯は判明したのですか?」

 

 

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