「どれからにしましょうか」
「ふむ……妨害実態、施策と提案、新情報の順で頼む」
さすが総司令。危険物を最後に回したか。新情報が一番の爆弾だからね。
「ではまず、妨害及び被害の報告から」
最初の調査隊による報告書のものも含め、時系列順に纏めたものだ。
まず着任までの放置期間と、急な辞令と赴任命令。通常の異動ではあり得ない流れだった。
着任時に島の反対側に上陸させられたこと。置き去りにされたと言ってもいい。事実そうだった。
本庁舎が未完成。調度品等もなし。建造物のほとんどが全壊又は半壊――は深海棲艦の砲撃によるものだから除く。
食料と艦娘運用のための資源の持ち去り。徹底した通信設備の人為的破壊。艦娘提督用の船艇の持ち去り。これらのせいで島から出られず救援も呼べず、サバイバル生活を余儀なくされた。
桃箭島鎮守府が開庁した事実が一部部署に通達されていなくて鎮守府の異常に誰も気付かなかったこと。
こうして振り返ってみると、改めて酷いものだったことが分かる。
そして、鎮守府再開から今日までの様々な嫌がらせ。
傷んだ食材の納入。こちらの規模を無視した大人数の艦娘配属。ゴキブリとネズミの散布。
他にも、妨害等と受け取れるものも含む。故障している機器又は不良品の納入。衛星電話の手配の遅れのように、要望後の動きがないものも。
「宮外大尉の報告書や大淀からの定時報告で分かってはいたが、こうして並べられると異常極まりないな」
一通り読み終えて、総司令が顔を顰める。彼が読み終わった書類を渡された横本大和は、それを読み進めるごとに表情が険しくなっていった。あれ、あまり詳しくは把握してないのか。考えてみれば総司令の秘書艦ってわけじゃないから、当然か。
というか、彼女に見せてもいいんだろうか。信用はある、ってことかな。
「そういえば、私の元の船は見つかっていないのですよね?」
本土側が把握している情報が気になったので聞いてみる。
本来、それに乗って着任するところが、先に船だけこっちに来ていたというのは吹雪の証言だ。その後の行方は分からない。
「見つかっていない。それもそうだが、貴官を島に送り届けた艦も消えた。出航した記録は残っているので、復路で何かあったと考えられる」
深海棲艦の脅威がゼロではない以上、やられた可能性はある。でもこの島の現状を考えると、それ以外の理由である気がしてならない。そこまでやるのかと思うと恐ろしい話だ。
「さて、気分が悪くなるものは終わった。次に行こうか」
そう言って総司令は各種施策や提案の書類を手に取った。
復旧状況。運搬用土台やコンテナの構想。食料自給計画。妖精さんとのコミュニケーションツール等々。こちらも報告済のものを含めている。
一押しは妖精さん関連の運用について。妖精さんによる施設建築・保守点検、戦闘報告書の作成補助、警備・哨戒体制、害獣虫の駆除。他の鎮守府では実施していないことのオンパレードだ。極め付けは妖精さんからの資源提供とその対価・取引についての可否。
最初は楽しそうに報告者を読んでいた総司令の顔が固まり、引きつり、表情が抜けていく。
「ここまで妖精を運用できているのか?」
「できた結果が、今の桃箭島です。後ほど、実際の島内をご覧いただければと思います」
妖精さん達だけじゃない。実際には艦娘達も直接作業に従事したりしている。その成果は見てもらいたいなぁ。
「そういえば北星しょ――中尉。ここには多くの妖精がいるらしいが、どうしてそんなことに?」
「うちの妖精達が、本土で在野の妖精を勧誘してきています」
多分、今日の総司令達の艦にも、追加がこっそり乗ってたんじゃないかな。集計は相棒に依頼してるけど、まだ報告はない。
「……鎮守府で自然発生するものとは聞いたことがあるが、それだけではないのだな」
実際、自然発生する者もいる。それは桃箭島でも同じだ。
「はい。うちが人間なしでやっていけているのは、妖精達のおかげでもあります」
「参考になる部分は多いが、同じことができる艦娘提督がいるかどうか。宮外大尉ならあるいは、といったところか」
「会話ができるだけで難易度は大きく変わりますね」
「今まで、妖精の声を直接拾い上げるということは聞かなかったが、ここの妖精達からはどのような要望が?」
言われて思い返す。あまり聞いた覚えがないな。こちらからの提案をそのまま受け入れてもらえているというのが実情だ。
「……桃箭島では、あまり聞きませんね。何かをしたいというのはありますが、大体は許可を求めるものが多いです。あとは報酬についての細かな希望程度でしょうか」
「報酬とは?」
「お菓子等の嗜好品。そして私が作る料理です」
「それは……随分と安上がりだな」
「そのせいもあって、資源取引についてどうしたものかと悩んでいるわけです」
正規の価値に換算すると、絶対にもらい過ぎるんだよなぁ。
「貴官ならば搾取することもなかろう。取引でも寄付でも、正確に記録を残しておけば問題あるまい」
結局、妖精さん由来の収入が項目として増えるだけではある。
ただ、働きを考えると、色々と報いたいんだよなぁ。個人個人への給料は難しいか……艦娘提督や艦娘に手当てを出して、妖精さんに還元させる? いや、妖精さんの数の管理が厳格にできないと不正の温床になりかねない。難しいなぁ。これは一度、妖精さん達と腹を割って協議する必要がありそうだ。
「提督っ」
大和に肘で突かれて我に返る。いかん、総司令の前でも考え事を。
「はっはっは! 中尉のそういう姿勢が、妖精達の積極的な協力に繋がっているのだろうな」
総司令に声を出して笑われてしまった。
そして最後に新発見。
妖精適性と艦娘適性について。艦娘への能力強化の情報等だ。
最初の数行で、総司令が目を見開いた。
「中尉……この、適性と顕現上限に関する情報は、事実なのか?」
「要検証です。そのためには多くのデータが必要になります」
絞り出すような声の総司令に、はっきりと答える。妖精さんが嘘をつくとは思わないけど、人間がそれを観測する必要はあると思う。そのためには艦娘提督の適性把握と現在の艦隊構成を確認しないといけない。
「特定の妖精による視認で判別が可能、と。それが可能な妖精は何人いる?」
「今のところ、1人だけです」
「派遣は可能か?」
「本人の意思次第です」
軍には妖精さんへの強制力はないというか、やりようがないからね。
難しい顔で書類を読み進めていく総司令。その動きが止まった。強化の項目に入ったようだ。
「……中尉……」
「できる範囲で検証した結果では、事実です」
困惑の目を総司令が向けてくる。肯定して欲しいのか、否定して欲しいのか……いずれにせよ正直に答えた。
「何がどうなればこんな情報を得ることができるのだ?」
「経緯は報告書のとおりですが、全ては妖精が教えてくれたからです」
たまたま俺達の話を聞いていた妖精さんが情報を持っていた。そして、その声を拾えたからだ。
「提督がしっかりと聞き入れてくれるかただからこそ、妖精も話してくれたんですよ」
優しい顔と声で大和が言った。大淀が頷いたのが気配で分かる。そりゃうちでしっかりと働いてくれている仲間だもの。妖精さんの声が聞こえるようになったんだから、それまで以上に交流するのは当然では?
最後まで読み終えて、総司令は俯き、横本大和に書類を渡して頭を抱えた。
それを気にしつつも、横本大和は書類を読み、
「もう少し加減してくださいっ」
読み終えると同じく頭を抱えて吐き出した。そう言われましても。
なぁ、と両隣を見ると、何故か2人とも誇らしげにしている。これらを作るために協力してくれてたからなぁ。この場にいない艦娘も含めて。
「これは劇薬だ」
少しして、総司令が再起動した。
「艦娘の運用の考え方が根本から変わる。艦娘提督と艦娘の意識もだ」
でしょうね。だから総司令に丸投げしたんだし。
「中尉。ここまでの報告ができるということは、貴官の艦娘適性については確認しているのか?」
「艦籍適性で帝国艦、艦型適性で大和型、単艦適性で大和と鳳翔、それから異界史適性で全ての艦です」
「……隠し通すのも難しいだろう」
正直に答えると、加減、と横本大和が呟くのも聞こえた。大きな溜息をついて総司令が俺を見る。
「強化の度合いにもよるが、今度の大規模演習で、桃箭島の艦娘達の強さが練度相応ではないことに気付く者が出るだろう。中には不正を疑う者も出るかもしれん」
練度も艤装もバラバラの鎮守府が集まって実施する演習なのに? 不正の余地だって八百長くらいじゃない? 公平ではないのは確かだけど、バフを不正扱いするのはどうなんだ。そんなこと言う奴なんて……鵜克中佐じゃない少佐とかは言いそうだ。
「む? 確か宮外大尉の艦娘と演習を繰り返していたはずだな? 何も気付かれなかったのか?」
崎守島日向は単艦適性がある分、うちの艦娘との適性差が大きくなさそうだから、日向も練度による差とだけ認識してた可能性がある。
さて、どうしよう。把握はしてるけど、俺の口から言っていいのかな。
「それは……宮外大尉の適性によるところが大きいのかと」
「つまり、宮外大尉も相応の適性を持っているということか」
「やはり情報として海軍が詳細を把握しておく必要がありますか?」
宮君の適性の話から、海軍としての話にスライドさせておく。これ、艦娘提督にとっては個人情報として重たいから、人のを勝手に教えるのは抵抗があるんだよね。というか、崎守島の艦娘達の強さも普通じゃないはずなんだけど、よそと演習とかしてないんだろうか。今度聞いてみよう。
「把握できていれば運用の幅が広がるが、格差が生じるのも間違いない。だが、知った以上は有効活用しなければならん」
腹――胃の辺りを押さえながら総司令が言う。
「大規模演習後に、参加する艦娘提督全員に事実を告げる。その上で検証にも参加してもらい、それが終われば正式に他の海軍区にも通達しよう。ついては貴官に協力を頼みたい。妖精との仲介をしてもらえるだろうか?」
「分かりました」
いずれバレるなら都合のいいタイミングで、ってことか。その辺は総司令に任せよう。
「今後、艦娘提督と妖精とのコミュニケーションは今以上に重要になるだろう」
総司令が残っていたお茶を一気に飲み干した。
「コミュニケーションツールは、できる限り早く形にしたいな。どんな情報が埋もれているか分からなくなってきた……」
艦娘提督なら手旗で手っ取り早く意思疎通が可能だけど、情報収集となると結構な手間が掛かりそうだ。
ただ、ツールに関しては、妖精さんが文字を打つためのキーボードと、それを表示する機能があれば問題ないから、そこまで難しくないと思う。1つできたら量産も容易だろう。
ソファに背を預け、右手で顔を覆う総司令は、一気に老け込んだ気がする。追い込んだのは俺だけど、大丈夫かな。
「報告書は後で読み込んでもらうとして。そろそろ鎮守府内をご案内しましょうか」
この後の予定もあるだろうし、散歩がてら気分転換してもらおう。
復旧及び新設の施設等を見てもらい、今後の計画等を伝えた結果、総司令と横本大和は余計に疲れたようだった。
情報を詰め込み過ぎて頭の中もグチャグチャだろうと思ったので、出航前に間宮羊羹(桃箭島産)を1棹ずつ渡した。頭が疲れた時には甘い物だよね。
……なんか、ごめんなさい。