離島鎮守府再建記   作:フェレッ党

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第5話 使えるものは何でも使う

 

 翌日、吹雪は早々に復帰した。無理は駄目だと一応断ったけど、もう大丈夫です、と譲らない。実際、動きに違和感はないし、大和も頷いたので、本人の意思を尊重することにした。正直、人手があること自体は有り難いのだ。

 大和は吹雪と仲良くなったようで、今は秘書艦としての仕事を教えてもらっているらしい。ただ気になるのは、働きたい、という意欲が強いのか、何でもいいからやりたがる。何もしていないのが苦痛みたいだ。働いてくれるのは嬉しいけど、ちょっと気にしておくことにしよう。

 

 吹雪に鎮守府敷地内を確認してもらったところ、現在破壊されている場所は、彼女がいた時には全て無事だったようだ。やはり襲撃自体はあったんだろう。おそらくは深海棲艦の。

 

 さて、今、俺達は港にいる。砲撃ででこぼこになっている係留施設。散乱している使い物にならなくなった物資。分断された桟橋や倒壊したクレーン。定期便が来ることを考えるなら、できるだけ整備しておきたいけど厳しいか。

 というか、現状だと入港するのに邪魔なものがある。港の入口すぐ外に沈んでる輸送艦、というか運送艦だ。かつてはここに係留されてたらしいのに、何故あそこで沈んでるのか。

「沈んだのは1隻だけなんですね」

 港を見て吹雪が呟いた。だけ?

「他にもあったのか?」

「はい。司令官の乗る船が1隻」

 そう言われて、あぁそんなのあったな、と思い出す。離島にいる以上、移動手段は必須なわけで。でなきゃ、本土への呼び出しとかに応じられないから。

 ……今回、何故か俺が乗る前にこっちに来てたみたいだけどな!

「ちなみに、どんな?」

「普通の、艦娘提督用でした。駆潜特務艇を改修した」

 さすがにそこまで変えられてはいなかったか。まあ、所在不明なので、なおタチが悪いけど。これも報告案件だ。

 ここにないものをいつまでも考えても仕方ない。今はあるもののことを考えよう。

「船の中、物資が残ってないかな」

 ここに物資を運んできた艦なんだから、あの中の物はこの鎮守府の物、でいいだろう。全てを陸揚げしてないなら、まだ何かあるかもしれない。

「大掛かりに引き上げる方法がありませんね」

「潜水艦娘がいれば頼めたんだけどな。一度潜ってみるか」

「危険では?」

 呟くと、大和が異を唱える。絶対安全、とは言い切れないけどさ。

「使える物は何でも使わないと、生きていけないからな。問題は、どうやってあそこまで行くか、だけど」

 港にはボート一艘すら残ってない。そうなると泳ぐしかないわけだけど、距離的にはいけるか。遠目には救命艇は残ってるように見えるから、帰りはそれを使えるはずだ。

「それでしたら、大和にお任せください」

 大和が艤装を展開した。武装はなく、頭部と脚部のみだ。

「失礼しますね」

 大和が俺の背後に回る。そして、俺の腰に腕を回し、持ち上げた。

「おっ、おいっ!?」

「そのまま、足を大和の足の甲に乗せてください。平気ですから」

 えーと、つまり、大和があそこまで運んでくれるのか。ちょっと格好悪いけど、抱き上げられたり背負われたりするよりは、マシか?

「吹雪さんは、一緒に来ますか?」

「え、えと、艤装の修理が終わっていれば、ですが」

「直っていたら来てください。あと、タオルの準備をお願いします」

 そこまで言って、大和が海へと飛び降りた。しぶきが上がることはなく、少し波立っただけで、静かに着地――じゃない、着水する。

「では、行きます」

 宣言の後、大和が動きだした。艦娘の航行自体は何度も見たことがあるけど、これが実際の彼女らの視界か。

「大和、重たくないか? 足は痛くないか?」

「3千人以上乗っていたことを思えば、成人男性を1人乗せたくらいじゃびくともしませんよ。ですが、お気遣いありがとうございます」

 戦艦だった頃の話を持ち出して、大和が笑う。あれ、ある意味これ、俺も大和に乗ってることになるのか?

 曾爺ちゃんとはまた違う体験をしながら、運送艦へと進んでいく。

 ……背後の感触は、気にしてはいけない。

 

 どういうやられ方をしたのかは分からないけど、運送艦は後部が沈み、前部が海面に浮かんでいる。それに、碇が降ろされている。誰かがここまで動かしたってことだろうか。

 救命艇が残っていて、破壊されてもいなかったので、艦に乗り込んでまずはそれを降ろした。斜めになってる甲板よりは、安定した足場になるだろう。

「それじゃ行ってくる。周囲の警戒は任せた」

「お気をつけて」

 大和を残して再び艦の上に登り、まずは浸水していない箇所の確認。艦橋は無事だったので、まずはそちらからだ。

「ここもか」

 操舵装置等の主要な部分は全て壊されていた。通信設備は特に念入りに。これをやった奴は、よほど桃箭島の状況を外部に知られたくなかったらしい。

 使えそうな物は……ここには残されていないので他を見て回るか。

 貨物室を確認してみたら、建材がいくらか残されていた。全てを降ろしたわけじゃないらしい。使えそうだけど、この状態から降ろすのが大変そうなので保留。

 船室を見て回ると、船員あるいは作業員達の日用品が残されていた。布団なんかもあるし、煙草等の嗜好品も……お、酒や菓子もある。賞味期限は……大丈夫だといいな。どうもこっちは、陸ほど徹底的な物資消去はできなかったらしい。お陰で助かるってもんだ。

 使えそうな物をひとまずその辺の箱に入れて、分かりやすい位置に集めていく。救命艇に降ろすのは一通り回ってからにしよう。

 さて、次はいよいよ水没部分の確認だ。

 軍服を脱いで、パンツ一丁になる。曾爺ちゃんの頃は褌だったと聞いたけど、こっちの世界の今の時代じゃ下着の制限はない。しかし水練が赤フンのままなのは何故なのか……って、潜るなら赤フンのほうがよかったかもしれない。今更それだけのために戻るわけにもいかないので、今回はこのまま行こう。

 念のための命綱を腰に巻いて、船内から海中に入る。海水浴には早すぎる季節だ。海水の冷たさが肌を刺す……長いこと潜るのは無理だな。安全第一で行こう。

 貨物室には固定された木箱が沈んでいた。一部、固定が外れて漂っている物もある。沈んでないってことは防水がしっかりしてるのか。中身は何だろうか。さすがにここから持ち出すのは無理そうなので、別の場所へ向かう。

 所々に空気が残っている空間があったので、息継ぎしながら探索を続ける。船室は完全に水没してたけど、缶詰や瓶詰め、酒瓶なんかが確認できた。これは後で回収しに来よう。

 他にも厨房に調理器具があり、これも持って帰れば使えそうだ。

 さすがに最後部までは息が続かず、身体も冷えてきたので切り上げることにした。

 水から上がり、座り込んで大きく深呼吸する。ああ、空気がうまく感じる。

 それにしてもかなり寒い。鳥肌が立ってきた。早々に身体を拭いて服を着よう。今、風邪を引いたりしたらかなわない。

 そういえば大和が吹雪にタオルの準備を頼んでたっけ。もう手元にあるかな?

「おーい、大和」

 呼んでみて、こんな声量じゃ外に届かないなと思った。声に力がないのが自分で分かる。これ、思ったより体力を消耗してるかもしれない。

『提督!?』

 外に出てからもう一度呼ぼうと思ったら、大和の声が聞こえた。ただ、耳に入ったという感じじゃない。頭の中に響くような、間に何かを介したような声だ。

「大和?」

『はい、大和です。提督、これは一体?』

 やはり、耳朶を打つ音じゃない。何だこれ?

「すまない。俺の声は聞こえてるんだな? そっちの声も聞こえるけど、何か違和感があるんだ」

『違和感……それはそうですよ。だって今、提督は艦娘同士で使う無線で話してるんですから』

「なに……?」

 艤装をつけている艦娘同士がある程度の距離を無線通話可能なのは知ってる。でも、何で俺が? こんなこと初めてだぞ。

『一体、何があったんですか?』

「いや、特に何があったわけじゃないんだけど……ひとまずそっちに戻る」

 回収品は後回しにしよう。服だけ持って外に出て、救命艇に降りる。艤装は直っていたのか、吹雪も海上に立っていた。こちらを見て顔を赤らめ、慌てている。ああ、そういやパンイチだった。

「悪い、タオルを」

「はっ、はははははいっ!」

 チラ見しながら近づいてきた吹雪がタオルを渡してくれた。受け取り、身体を拭きながらその場に座る。

「船室にある物は結構回収できそうだ。食料品も少しだけ残ってた」

「貨物室の物資はやはり無理でしたか」

「沈んでないほうは建築資材だけだった。沈んでるほうの中身はよく分からないけど、水中のあれらを人の身で引き上げるのは骨だな。中身の状態も分からない。濡れても大丈夫なものが入っているなら、いつか回収したいな」

 話しながら身体を拭き終え、制服を羽織る。パンツが濡れたままなのは仕方ない。

「それより、設備はやっぱり壊されてた。それから、船内に死体が1つもない」

 この艦はここに放置された後に攻撃を受けて沈んだと思われる。船員や作業員達はどこに消えたのか。

「提督の艦で脱出したのでしょうか。その上で、この艦を使えないように……ここに沈めたのも、深海棲艦ではなく、その連中かもしれませんね」

「島に来ていた人達全員を乗せるだけなら、あの艦でもできたと思いますけど。脱出はそうとしても、この艦を沈めるなんてことまでするでしょうか?」

 大和の推測に吹雪が疑問を呈す。普通なら、船が2隻あるならどっちも使って逃げればいいと思うんだけど。片方を沈める必要なんてないわけで。そこもよく分からないところだ。

「この島の状況を見るに、やりかねないなぁ、とは思うよ」

 俺が不利になることなら喜んで何でもやりそうな気すらしてくる。ここに船を沈めたのだって、使える物が残ってるかもって希望を持たせた上で絶望させるためかもしれないし……考えすぎか? いかん、敵を想像で大きくするのはよそう。

「まあ、こっちはできることをするだけだ。この船自体は動かせないけど、使える物はあるわけで。救命艇も複数手に入ったし、これらを有効活用させてもらおう。ここからの物資回収が楽になるし、釣りにも使える。最悪、大和達に引っ張ってもらって、この島から脱出、なんてこともできそうだ」

「それよりも提督。顔色が悪いです。すっかり冷え切ってしまって」

 大和が俺の手を取った。あぁ、人肌のぬくもりが心地よい。

「海に入るには早い季節だから仕方ない。陸に戻ったら火に当たるよ」

「温めましょうか?」

「……いや、大丈夫だ」

 取った手を、大和が抱きしめた。あたたかいけどやめなさい。こら、心配そうな顔でこっちに乗り込もうとするんじゃありません。

「しっ、司令官と、大和さんは、そういう……?」

「そういう?」

 吹雪の呟きに、大和が首を傾げた。吹雪の勘違いが分かってないらしい。

「俺と大和の間に、特別な関係はないぞ」

 いや、特別な関係自体はあるけど、そういうのじゃない。

 俺の言葉に納得したのか、大和が笑う。

「ただ懐炉代わりになろうと思っただけで、他意はありません」

「えぇ……?」

「吹雪さんにお任せしてもいいんですけど」

「ええ……っ!?」

 呆れたり慌てたり、吹雪がせわしない。ちょっとかわいそうになってきた。

「大和。あんまり吹雪をからかうな」

「別にからかってはいませんよ。本音です」

 注意しつつ腕を引くと、あっさり大和は離してくれた。ふぅ、一安心。

「まあ、私自身、提督との繋がりが他の艦娘とは違いますから。提督のではなく、北星皆斗の艦娘だと認識していますし。北星提督の便女(びんじょ)を目指してます」

 腰に手を当て、誇らしげに大和が胸を張る。あれ、それって私兵? いや、便女って……巴御前とか山吹とかの立ち位置? 女傑って意味だけなら間違ってないけど、わざわざ便女って言うあたり、諸々込みだと重すぎない? 何か話題を変えなきゃいけない気がしてきた。

「そういえば、無線がどうって、さっき」

「え、ああ、そうですそうです。船内の提督とやりとりできたのはそれです」

「え、司令官と無線が繋がったんですか?」

「そうみたいで。吹雪さんとはどうですか?」

「ええと……」

 大和に問われ、吹雪が目を閉じる。

『司令官、聞こえますか?』

「おお、聞こえた」

 吹雪の声が頭に響いた。吹雪とも繋がったか。

「こっちも無線として聞こえました……これ、どうなってるんですか?」

「提督、実は女性で、艦娘だったとか?」

「いや、正真正銘、人間の男だよ。大和は知ってるだろ」

 冗談交じりの大和の言葉。言い返すと、吹雪がまた赤くなった。君、もしかして、ムッツリか?

 

 

 

 検証の結果、大和が頭部の艤装をつけていれば、俺と吹雪でも通話できるようだった。ただ、どういう原理なのかはさっぱりだ。相棒に聞いても首を傾げるし。

 単純に考えれば俺と大和に何らかの繋がりができてるから、なんだろうけど。

 まあ、不都合はないわけだし。妖精の伝令を使わなくてもよくなったのは便利で結構なことなので、今は置いておこう。

 

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