本日の予定。
横本から来る視察と指導の工作艦を受け入れ。港で到着を待っているのは俺と今日の秘書艦である大和。そしてうちの明石、夕張、朝日、そして秋津洲。
先送り予定だった水上機母艦の秋津洲と陽炎型駆逐艦の秋雲の顕現は、昨日の休暇最終日の内に済ませてしまった。工作艦が来る前に秋津洲を顕現させておいたほうが都合が良いと思い直したからだ。そうなると秋雲だけ後回しにするのもおかしいので一緒に実施した。
大淀に溜息を吐かれたけど気にしない。いや、嘘です。その後で休暇再開したから許して。
秋津洲と秋雲は、いつもどおりの説明の後で、桃箭島への着任を承諾してくれた。
面接のほうも問題なし。どちらも基本からは外れていないようだ。
ただ、秋津洲は戦闘には自信なさげだった。当然と言えば当然なんだけど。
一方、水上機の整備はできるし、操縦もできることは確認できた。いずれ晴空も来ると伝えると大喜びだ。基本、明石の下について水上機の運用と整備に従事してもらうことにした。工廠が益々充実する。
秋雲は趣味を確認してみたところ、絵を描くことはそのまま。傾向としては風景画がいいそうだ。明るい場所の。お腐れ属性がなくて安心した。
沖に運送艦の姿が見えた。護衛の艦娘達の姿も確認できる。その中から、速度を上げて近づいてくる艦娘が1人。
「なんとまぁ」
と思わず声が漏れてしまった。多分、あれが今回うちに来る明石だ。それ以外に工作艦が航行してる理由に思い当たらない。それだって艦に乗ってればいいのに、何故、自ら航行を? いや、それ以前に、何で運送艦が?
「同じ
片手で日射しを遮りながら、明石が接近中の明石を見て言う。あちらは多分改装済みなんだろう。
港に到着した明石はそのまま上陸し、艤装を収納して俺の前に立った。
「横須賀のほうから参りました工作艦、明石です! しばらくお世話になります!」
そして、敬礼とともに元気よく申告してきた。
「桃箭島鎮守府の艦娘提督、北星皆斗だ。こちらこそ、よろしくお願いする」
こちらも答礼する。今回の来訪はうちの明石達への指導がメインだ。出張してまで指導してもらえるというのは本当にありがたい。
「こちらがうちの明石、夕張、朝日、秋津洲だ。予定も含めて、うちの工廠は彼女達と妖精達が回していくことになる」
身内を紹介し、ところで、と沖に視線を向ける。
「どうして、運送艦が?」
「官舎の建材一式、持ってきました」
問うと、意外な答えが返ってきた。このタイミングで?
「それから他の遅れてた機材関係一式です。全て検品済で動作確認バッチリですよ」
「レーダーと通信関係も?」
「当然です。予備部品含めて」
それは正直ありがたい。桃箭島の警戒網がようやく完全稼働できる。それに、本土との連絡もできるようになった。物資調達にも助かる。
「ついに提督の家を建てられますね!」
うちの明石が興奮している。気合い入れてたからなぁ。隣の秋津洲が、家なかったの? とばかりに目を見開いている。
「優先順位は低いぞ」
水を差すと、明石は口を尖らせた。いや、そりゃそうだろう。俺の家が防衛設備や指導より優先されるとか、おかしいって。
「先で構いませんよ。艦娘と妖精だけによる設営隊運用は興味深いので。視察の一環です」
しかし、横本明石がそんなことを言った。やった、と明石がガッツポーズ。いや、そう言ってくれるならいいんだけど、
「それでも、設備設置が済んでから、だ」
俺の家より鎮守府機能の充実が先だ。
「お楽しみは後にとっておけ」
「分かりました! では、ひとまず積荷の受け入れに行ってきます!」
荷下ろし準備に向かう明石。夕張達は浮かれた明石に呆れつつも後を追った。
「では、こちらは先に北星中尉からお話を伺いましょうか」
「私に?」
「技術的なことは後でここの
そういうことか。だったら場所を変えるとしよう。
本庁舎へ移動し、うちの運営状況と方針について説明した。いくつかの質問に答えると、なるほど、とメモを取りつつ横本明石が満足げに頷いた。
「いやぁ、大変興味深い試みです。それにしても、よく働いてくれているようですね、ここの妖精達は」
「ええ。彼女らがいなければ、ここは立ち行かない」
人間の勤務員がいない分、妖精さん達が頑張ってくれている。いや、人間以上に働いてくれていると言うべきか。
「良い関係が築けているようで何よりです。それ以上に北星中尉の発想力というか立案力は素晴らしいですね。やはり素性から来るものですか?」
にこやかに横本明石が言った。ん?
「北星中尉のことは、身内じゃ有名でして。まさか海軍に入るとは思ってもいませんでしたが。一連のあれこれで現状を知って、大層腹を立てています」
頬を膨らませる横本明石。海軍に入ったのが意外? その言い方だと俺のことを軍に入る前から知ってたように聞こえるけど。可能性があるとしたら義父さん経由か? 艦娘提督ではなかったけど横須賀所属ではあったから、面識があったりするんだろうか。
それにしても、桃箭島のあれこれをこの明石はどこまで知ってるんだ? 総司令から事前に聞いたんだろうか。
「ここを訪ねたがってた娘もいるんですが、勝手に動き回るには桃箭島は遠いですし。色々と手続きも面倒で、言い訳げふんげふん正当な理由を立てられるのが私しかいなかったんですよね」
今、言い訳って言いかけたな? 技術指導だけが目的じゃない、って聞こえるんだけど。それに、横本の一部艦娘内で、悪い噂以外で俺が話題になっている? 【異界史】の人間だから? 何で今更?
詳しく聞いてみようかと思ったら、ノックの音が聞こえた。大淀が部屋に入ってくる。
「提督、受け入れ完了しました。こちらになります」
大淀が目録を差し出してきた。受け取ってざっと眺める。先に聞いていた建材と機材はいいとして。資源に食料、生活用品まである。それから、
「衣類?」
はて、何故こんなものが?
「所属艦の名前は分かっているので、その基本体型で着られる私服全般です。下着以外は古着も含みますけど」
「それは……ありがたい」
「あと、新規着任・建造組への支給品である制服等もありますので」
横本明石の説明に感謝した。急に増えた新規着任組は、ろくな私物もないままここに来た。新規建造組も私物はゼロだ。どうにかしようと思っていた矢先にこの支援は、大変助かる。
他には、と……
「教材一式というのは、艦娘の一般常識教育用か?」
「それもありますが、工廠用と食堂用も含みます」
「工廠用は分かるが、食堂用?」
「はい。こちらの献立の充実にお役立てください」
なるほど、つまりレシピ集か。これは個人的にも嬉しいな。鳳翔達も喜ぶだろう。
しかし、酒やお菓子といった嗜好品も多い。即席麺や缶詰なんかもあるし、書籍や雑誌もだ。娯楽用品? トランプに花札、カルタに麻雀、囲碁将棋の道具……テレビも!?
これ、鎮守府への補給物資というよりは裏酒保への納品みたいだな。随分と気を遣ってもらっているようだけど、これ予算どこから出てるんだ? 悪い噂が立つ鎮守府に有志が援助してくるとは思えないから、総司令の懐だろうか。これは横須賀に足を向けて寝られなくなるのでは?
娯楽用品は共用部分で使ってもらうか。私服は一度、皆に見て選んでもらおう。支給品も渡さなきゃだし。直近の2人の分は次の定期便で顕現報告を出せばその次で送ってもらえるだろう。あ、思い出した。作っておかないといけないものがあった。
「大淀。青葉に連絡して、所属艦娘全員の個人写真を撮ってもらってくれ。身分証明書用だ。大規模演習までには渡しておきたい」
本土に上陸して街に出ようと思ったら、身分証の携帯が必須だ。今回行ける者だけでも、今の人の営みは見せておきたい。
「最初期の皆さんのもまだだったんですか? 分かりました、2人以外は制服も届いたことですし、申請も含めて手配しておきます」
ふと、明石の視線に気付いた。
「何か?」
「いえ、何でもないですよ」
何故ニコニコしているのか分からない。
「ところで、桃箭島の大淀。港の片付けも終了?」
「いえ、倉庫等への搬送作業は継続中です」
「そうですか。じゃ、今の内に機器の設置をやっちゃいましょうかね」
そう言って明石が立ち上がる。
「待て。うちの片付けが終わるまでは待機で頼む」
「どうしてです? 分担したほうが早く終わりますけど」
手伝ってもらうのはいい。ただ、今後、それらを保守整備していくのはうちの明石達だ。気を回しすぎかもしれないけど、最初から見ておいたほうがいいんじゃないだろうか。
「それらも『今』の技術だろう。指導教養の対象だと思うが」
不思議そうな問いに答えると、横本明石は笑みを深くした。
「じゃあ、まずは片付けを手伝うことにしましょうかね」
そして上機嫌で部屋を出て行った。ドアを見ながら大和が呟く。
「何だか……うちの明石さんとは違いますね」
そうですね、と大淀も同意した。おや?
「面識はないのか? 同じ横本にいたのだろう?」
「横本に何人の明石がいるかご存知ですか?」
困ったように大淀が言う。なるほど、艦娘提督1人だけの出先鎮守府だと同名艦は1人だけど、規模の大きな所だとそうはいかない。本鎮守府となると尚更か。
「どう見分けていたのだ?」
「艦娘認識番号の腕章を着けていますね」
軍人になると認識番号が付与されるけど、艦娘にも同じようなものがある。番号は艦ごとにカウントされていく。例えば吹雪の5だと、5番目に顕現した吹雪という意味だ。なるほど、同じ場所に複数いる場合はそれで見分けるのか。
「それだと、同名艦が複数所属から集まる場合は厳しくないか?」
あちこちから同名艦が集まると番号と所属の紐付けが必要になる。艦娘認識番号なんて普通は自分のしか覚えてないはずだ。
「大規模演習自体がここ最近で、まだ数回程度ですから。特に表面化はしていないようですけど……でも確かに、似たような艦が集まっていたような?」
それって、編成する強い艦が似たり寄ったりってことだろうか。やるからには勝ちたいってのは分かるから、そうなるのか。
「そういえば、艦の会だとどのようにしているのだ?」
艦の会というのは、同じ名を持つ艦娘によるコミュニティだ。海軍区内、あるいは海軍区を超えて集まったりする事もあると聞く。そういう場ではどうしてるんだ?
「大淀の会では、所属と番号を書いた名札を着けたりしていましたね」
名札か。それがあれば『どこどこの私』とか『どこの何番』のような呼び方ができるし、それで問題ないのか。
大規模演習の時はどうなるんだろう。今のところ問題視されてないみたいだけど。意識すれば自分の所の艦娘は何となく分かるとはいえ、視覚的に分かりやすくするのがいいんじゃないだろうか。名札じゃ何か味気ない。
いっそ、標章みたいなものを作ってみるのはどうだろう。確か海自の基地ってそれぞれそういうのがあった気がするし、艦ごとにもあったんじゃなかったっけ?
……そういえば、絵の得意な艦娘が顕現したばかりだったな。