「……二個っていっても、それ全部焦げた失敗作のヤツだろ? あそこの店主、よく失敗ばっかするからなー。焦げていないパンしか見た事ないぐらいだぞ」
「むー、文句ばっかり言ってちゃダメだよお兄ちゃん。焦げてでもパンはパンだから。ちゃんと食べないと生きていけないよ?」
「……はいはい、せいぜい死なないようにしますよ」
──日陰に住む兄妹の会話
ザ・ブルー・マーブル
─────これは夢か、それとも走馬灯か…。
地表には星の海まで届きたいと赤く無音の存在感を放ち続ける数多の四角い塔がどんぐりの背比べをし続けており、遠くに目を向けると星の海を噓偽りなく映す透明な海が地平線まで広がっていた。
だが硬すぎる地面を歩き、辿り着く場所は……くろ、クロ、黒。どれも黒、どこを見ても黒……全て黒一色の大きな都市。
誰もおらず、しかし何者かに見られ続けている、静かで、悲しく……星の海の冷たさを肌で感じる……そういう場所だからなのだろう、遥か彼方で煌々と輝く星々がとても…宝石のように、色鮮やかに輝いて見えるのは。
その星々の中に、一つ、気になる星があった。
遠くにあるのに、まるでそこにあるかのように。ビー玉のように青く輝く、黒い大海に漂う一つの星。
その星を見た途端、懐かしい思いを抱き…星に手を伸ばし────
その者は機材の稼働音が反響する室内で目を開けた。
「…………ん……んぅ…?」
開かれた瞼の下にある緑色の目が薄暗い室内を映す中、ふわりとしたアップスタイルのショートポニーテールを持つ少女は自身が寝ていたベッドから体を起こした。
視線を下に向けるとAカップという平らな胸の上に灰緑色のワンピースを着ていたが、上衣は両肩と背中が大きく露出し健康な肌がはっきり見えるホルターネックの形状となっており、両膝が隠れる程の長さがあるスカートは股下ギリギリまで右側にスリットが入っているというもの。両腕の上腕には灰緑色のデタッチドスリーブを身に着けており、スリットからは黒色の下着がチラリと見え隠れ。両足には黒色のサイハイソックスと白色のアンクルブーツを履いていた。
「ここは……いや、それより…私は……?」
今現在自身が置かれた状況を理解しきれておらず、更に自身の事も思い出せない彼女は暫くの間困惑し続けていた。その数分後意を決したのか───或いは諦めたのか、腰掛けていたベッドから降りて薄暗い室内を歩き回り始めた。
室内は天井に一つ、壁には等間隔に設置された赤いライトによって照らされており、周囲にはベッドを含め机や椅子の他に棚といった家具が置かれていた。ふと机の上に目を向けると一枚の置き手紙があり、文鎮のような物体によって動かぬように上から押さえられていた。
本来なら私も一緒に乗るはずだったけど追手がすぐそこまで来ているみたいなので私はここに残ります。ヒポリタの遺品は貴女に託すわ。貴女の旅が希望に満ちていますように。
「モダン……それが私の名前? それに…遺品? ……ヒポリタさんとはいったい……?」
差出人の名前であるピースブロッサムという女性が書いた置き手紙の文章を読んだ少女、モダンは手紙の内容にある遺品という首を傾げたが一度落ち着いて考えようと思い、後ろにあった椅子に座ろうとした。だが、
「わわっ!? ……いっ、たた……」
何処かで破損してしまったのだろうか、座ろうとした椅子の4本の脚の内左前側の1本が折れていた為バランスを崩し、そのまま左側へ倒れてしまった。冷たい床に座り込み頭部を床にぶつけてしまった影響で痛みが生じた箇所を両手で優しく擦っていると、今度は耳をつんざく程に大きな警報音が鳴り響いた。
「えっ……えっ!? な、何が起きているんですか!?」
そう発しても誰も答える事は無く、赤いランプは焦らすように点滅し始め、次第に部屋全体が揺れ始めた。揺れによって棚が倒れたのを見て命の危機を感じ取ったモダンは置き手紙があった机の下に急いで潜り込み、揺れと音が収まるようにと念じながら三角座りの状態で頭を覆った。
「誰か……ぐずっ、すん…助けて……」
揺れ始めて数十秒後、モダンの耳に「ゴゴゴゴ……」という地鳴りのような低い響きが入ってきた。もしかしたら誰かが助けに来たのかもしれない。そう思いモダンの顔に喜びの表情が現れたその時だった。
「……………………え?」
巨大なナニカが室内を貫き、衝撃と爆風で部屋が崩壊したのは。モダンがその状況を理解したのは、目の前に星空と鮮やかな青みがかった半透明の膜のような層が広がる空間───否、宇宙空間にその身が放り投げだされて数秒後だった。