場所はアクアとルビーの自宅、兼、所属する芸能事務所〝苺プロダクション〟。
陽東高校の入学初日を終えたその日の出来事……
「ミヤえもーーん! 早く私をアイドルにしてよーー!!」
帰宅早々にルビーのそんな泣き声が事務所に響き渡る。
「急かさないで……アイドルグループ作ります、はいオーディションって訳にもいかないの」
多少げんなりとした表情でルビーをそう諭す女性は『斉藤ミヤコ』。親の居ない双子の母親代わりであり、苺プロダクションの社長である。
「ちゃんとしたグループを作るには、ちゃんとしたスカウトを雇ったり、手続きがいるのよ」
「でもこのままじゃ……! このままじゃいじめられる!」
焦ったように叫ぶルビーの脳裏に浮かぶのは、同じ芸能科のクラスメイト達に『一般人』だと揶揄される光景。昼間にフリルから「頑張って」と言われたり、アクアから「自称アイドル」と言われたのが余程効いたらしい。
「そうそう可愛い子なんて見つからないのよ。意欲のある子は大手のオーディションに粗方持って行かれちゃうし」
「あ! それなら私、芸能科に誘いたい子がいるの!」
「他所の事務所の子でしょ、ダメ。フリーの子ならまだしも…事務所間の揉め事は御免よ」
芸能科の生徒は必ずどこかしらの事務所に所属している。もしそこからタレントを引き抜こうものなら揉め事だけでなく、違約金等といった大金も動く。流石に今の苺プロダクションにそこまでするほどの余裕は無い為、ミヤコはルビーの案を即座に却下した。
しかしルビーは構わず言葉を続ける。
「大丈夫! 今は
「……え? アイ…ちゃん?」
ルビーの口から思わぬ名前が飛び出し、少なからず驚いてしまうミヤコ。
「そう! 星野アイちゃん! あのママと同じ名前で、見た目もそっくりな子なんだよ!」
「まさか……そんな冗談……」
その名前の持ち主はミヤコにとっても忘れられない存在で、今もなお彼女の輝きは脳裏に焼き付いているほど鮮明に覚えている。しかし彼女はもうこの世には居ない。同姓同名のそっくりな子が居ると言われても、おいそれと信じられなかった。
「冗談じゃないって。ほら見て」
そう言うとルビーはこれが証拠と言わんばかりに自分のスマホの画面をミヤコへ向けて見せる。そこに映し出されているのは、ルビーが教室で撮ったアイとのツーショット写真だ。
「これは……」
「ねっ? ママにそっくりでしょ!?」
「……ええ、そうね」
ルビーに対してそう答えるミヤコだが、内心では余りピンと来ていなかった。
確かに顔立ちや雰囲気は似ていなくもないが、そっくりかと言われれば微妙なところ…それが率直なミヤコの感想だ。
「このアイちゃんって子はどういう子なの?」
「もう何もかもママにそっくりなの! 可愛くてお茶目な所とか! ちょっと抜けてて人の名前を覚えられない所とか! それにね、陽東高校の制服もとっても似合ってて超可愛かったの! もしアイちゃんがママだったらあれは激レア過ぎてグッズ化確定ものだよ! あとあと! とっても優しくて、アイちゃんによしよしして貰った時なんてママと同じ匂いがして思わず極楽浄土が見えたの! あぁ…もうちょっとあのオギャバブランドに浸っていたかったなぁ……!!」
「ごめんなさい、ちょっと情報量が多すぎて私では受け止めきれないわ」
ミヤコは軽い気持ちで問い掛けたら数倍は重たい感想が帰ってきて即後悔した。
最後の部分だけ要約すれば、よりにもよって
「……アクアはどう思う? 貴方もその子に会ったんでしょ?」
ミヤコは後でルビーと真面目に話をしようと心に決めつつ気を取り直し、今度はアクアに問い掛けた。
そして事務所に備え付けられたソファに座って本を読んでいたアクアは、本から視線を外して考えるような素振りを見せた後、静かに口を開いた。
「まぁ…確かに顔立ちとか見た目は瓜二つだった。でも…彼女をアイドルにするのはやめた方がいい」
「そうね……それは私も同じ考えだわ」
「えー!? なんでー!?」
アクアの言葉にミヤコは意外そうに反応し、ルビーは不満そうに声を荒げる。
「見た目が同じなだけじゃ意味が無いって話だ。俺たちの知る〝アイ〟には…誰もが視線を向けざるを得ないような、不思議な引力とも言えるカリスマ性があった。だけど彼女にはそれが全く感じられない。仮にデビューしたとしても、亡くなったアイドルの模倣してその人気に肖ろうとする不謹慎な奴だと叩かれて炎上…挙句にはネットのオモチャになって終わりだよ」
「そこまで具体的なイメージは要らないんだけど…概ね私も同じ意見よ。アイさんに似ているということは、確実に昔の彼女と比較されて、その分大きなプレッシャーが付き纏う事になるでしょうね。そんな過酷すぎる茨の道に進ませるのは酷だわ。似ているだけでアイさんと同じようになれるほど、この業界は甘くないわよ」
「ぐぬぬ……!」
アクアとミヤコの二人から語られる現実的で手厳しい意見に、反論出来ずに唸るルビー。それは彼女にもあり得る事だと理解出来るからだ。
今も尚人気が残る伝説的なアイドルに似ているというのは話題性があるが、その分リスクが大き過ぎる。
社長としてタレントの人生を預かる身であるミヤコからすれば、そんな酷な道に人を送り込むことなど出来はしない。
「それでも──私はアイちゃんと一緒にアイドルをやってみたい」
しかしそれを理解した上で、ルビーは真っ直ぐな目で二人を見据えながらハッキリと告げた。
「ルビー」
「わかってるよ。ママとアイちゃんが違うってことも、ママと似てるからアイドルとしてやっていくのは難しいってことも……」
咎めるような視線を向けて来るアクアに対し、彼の言いたいことを把握した上で言葉を続ける。
「でもねお兄ちゃん…想像してみて? そういうのを全部跳ね除けて、キラキラのステージの上で並んで立つ私とアイちゃんを……」
「!」
そう言われた瞬間、アクアの脳裏にある光景が浮かんだ──
超満員の観客席
客席を埋め尽くすペンライトの光
輝くライトに照らされたステージ
そしてその中心で、溢れんばかりの笑顔で歌って踊る二人のアイドル。
ルビーとアイ──大切な妹と最推しの母がステージで並び立っているのをアクアは幻視してしまった。
もちろん母の方は本人ではない事は十分に理解している。それでも……とてつもなく高揚感を覚えてしまったのは事実。
「──最っ高じゃない?」
「……参ったな、とんでもない殺し文句だ」
左目の星のようなハイライトを輝かせながら微笑むルビー。対してアクアは悔しそうに、観念するように、期待するように、様々な感情を綯い交ぜにしたような笑みを返したのだった。
ルビーの言っている事は何の根拠もないただの願望に過ぎないが…アクアはそれに共感し、期待し、納得してしまった。その時点でアクアの負けだ。
「(ルビーにはああ言っておいて、未練がましいな……僕も)」
何よりアクアは、例え別人であっても〝アイ〟が再びステージの上で輝く姿を見てみたいと願ってしまった。
やはり生まれ変わっても■■■■は、どうしようもないほど彼女の
「本気なんだな?」
「もちろん」
アクアの問い掛けに対して、ルビーは決意の籠った声色で返答する。
すると、一連の様子を黙って見ていたミヤコが溜息交じりに口を開いた。
「ハァ…もう止めても聞かないみたいね」
「ミヤコさん……」
「そのアイちゃんって子をスカウトするのは構わないけど、ちゃんと相手の同意を得てから連れて来るのよ?」
「! ありがとうミヤコさん!」
渋々といった感じだが、ミヤコからも了承を得る事が出来た。あとは実際にアイをスカウトするだけだとルビーは内心で意気込む。
「なら…レンの事もどうにかしないとな」
「あー…夜代さんかぁ」
「? レンって?」
そこへアクアが口にしたのは、一般科で友人になったレンの名前。その名を聞いたルビーは眉を顰め、面識の無いミヤコは疑問符を浮かべた。
「一般科で出来たお兄ちゃんの友達」
「えっ!? アクアの友達!!?」
「そんな衝撃を受ける事か?」
「ご…ごめんなさい、アクアに友達がいるなんて一度も聞いたことがなかったからつい……」
「謝りながら刺してくるのやめてくんない?」
友達がいるというだけでミヤコにとても驚かれてしまったアクア。確かに幼稚園から中学校までの間に友達の話とか一切した事ないが、それでも誠に遺憾である。
「ンンッ…それで、そのレンという子がどうかしたのかしら?」
誤魔化すように咳払いをして続きを促してくるミヤコに、アクアは釈然としないながらも話を続ける事にした。
「……レンはアイの同郷で、十年以上の付き合いらしい」
「あら? じゃあその子はアイちゃんの彼氏ってこと?」
「「彼氏じゃない」」
ミヤコが言った言葉に対し、アクアとルビーが揃って語気を強めた口調で否定した。
「アイちゃんに彼氏だなんて絶対に認めない。私の極楽浄土を穢す者は容赦なく処します」
「レンは良い奴だが…それとこれとは話が別だ」
「あなた達、その子にアイさんを重ね過ぎじゃないかしら?」
瞬く間に厄介オタクと化した双子に、呆れたような視線を向けるミヤコ。
「とにかく、その二人は一緒に行動する事が多いらしい。これはアイドルになるなら致命的だろ」
「うーん、上手く隠し通せるなら文句は言わないけど…あのアイさんと性格まで似てるのなら、流石に心配ね」
「夜代さんにもうアイちゃんには近づかないでって言う?」
「人の交友関係に口出しするのは止めなさい」
アイドルに男の影があるのはマズイ。この業界ではこれまでもそれが本で刃傷沙汰が多々起きている。あの〝アイ〟が亡くなった原因も大本はそれなのだ。
「レンには俺から話をしてみる。あいつは話が分かる奴だから、こっちの事情も理解してくれると思う」
結局、同じクラスのアクアがレンに事情を説明して、アイとの関係を考慮してもらう方針となった。
「それともう一人…アイドルになってくれそうな奴に心当たりがある。フリーランスで、名前が売れてる割に仕事が無くて……顔が可愛い子」
そして翌日……陽東高校・一年D組。
「……え? アイをスカウト? アイドルにか?」
「ああ、ルビーはそのつもりでいる」
登校早々にアクアからそんな話を聞かされて目を丸くするレン。まさか昨晩にアイが冗談めかして言っていた事がこんなにすぐ現実になるとは思っていなかった。
「……これがフラグ回収というやつか」
「何か言ったか?」
「いや何も」
レンは思わず最近覚えた用語を口にしてしまったが、幸いアクアには聞き取れなかったようだ。
「それにしても急だな」
「昨日からルビーのやつがそう騒いでてな。今日の放課後にアイともう一人…有馬かなにも声を掛けるつもりだ」
「有馬かな…って確か、今日あまのドラマでヒロイン役を演ってた女優か。この学校の生徒だったのか」
「俺達の一個上だぞ」
有馬かな…その人物とレンは面識は無いが、ドラマで彼女が役を演じている姿は見た事がある。見た目は小柄な体格で、赤みがかった艶のあるショートヘアが特徴的な可愛らしい少女だったと記憶している。
「まぁ…アイドルやってそうな見た目ではあるな」
「ルビーいわく…有馬はコッテリしたオタの人気を滅茶苦茶稼げるらしい」
「なにその具体的な分析…怖っ」
何か嫌だなと思わせる分析にレンは軽く引いた。
「アイがアイドルねぇ……いいんじゃねぇの? あいつも結構アイドル好きだし、興味はあるみたいだしな」
「……反対しないのか?」
「は? やるかどうか決めるのはアイだろ? 俺が反対してどうすんだよ?」
「いや…レンはアイと長い付き合いなんだろ? 彼女がアイドルになったら今まで通りではいられなくなるぞ」
「?……あーなるほど、何で部外者の俺にそんな話をするんだと思ってたけど…そういう事か」
アクアの言わんとする事を察したレンは、納得したような声を漏らす。
「さっきも言ったが、アイドルになるかどうか決めるのはアイ自身だ。もしあいつがやるって決めたんなら、俺はそれを尊重する。横からとやかく言うつもりは無いし、ちゃんと迷惑にならないようそっちの意向に従うから安心しろよ」
「………………」
しっかりとアクア側の意図を汲んでそう返答するレン。
スカウトに反対する気は無いし、邪魔する事もしない。そしてもしアイがアイドルになったら、彼女とは距離を取ると言外に伝えてくれた。それは確かに苺プロとしては望んでいた答えだが、何故だかアクアは釈然としていなさそうな表情をしている。
「……なんだよ? まだ何か不満か?」
「アイの理解者面してるのが腹立ってきた」
「それは理不尽だろ」
アクアからの思わぬ言動にレンは即座にツッコミを入れる。元々話が分かる奴だと思っていたが、こうまであっさりとこちらの意図を察せられた上に、言葉の端々にアイとの信頼関係が見え隠れしているのが腹立たしいらしい。やっぱり面倒くさいなコイツとレンは思った。
「しかしそうなると、先生にも伝えておいた方がいいか」
「? 確かに事務所に所属するなら芸能科の教師に伝える必要はあるが、それは別に後でもいいだろ?」
「あーいや、そっちの先生じゃなくて…俺とアイの後見人にあたる人の事だよ」
「後見人だと……?」
その言葉を聞いて、アクアは怪訝な顔をする。レンの言う後見人とは恐らく『未成年後見人』のことだろう。それは平たく言うと、親の居ない未成年者を支援する法的な立場にある者を指す。つまり、レンとアイには親が居ないということだとアクアは察した。
「俺達に武術を教えてくれた先生で、こっちで暮らすことになった際に保護者代わりとして着いて来てくれた人だ。今は三人一緒で同居してるから、アイがアイドルになるなら流石に話は通しておかないとな」
「待て──」
二人とも武術をやっているのかとか、両親はどうしたんだとか、色々聞きたいことが一気に増えたが……それよりもアクアにとってどうしても聞き流せない情報がレンの話の中にあった。
「お前──アイと一緒に住んでるのか?」
「え? お、おう……」
アクアの圧が籠った問いに対し、戸惑いながらも頷くレン。
星野アクアは激怒した。必ず、この
「──フゥゥゥゥ……色々と聞きたいことはあるが、今は後回しだ」
今すぐこの目の前の男を八つ裂きにしてやりたいのは山々だが、ここは教室…人目が多すぎる。それにチラリと時計を見れば、もうじき始業時間で担任教諭がやって来る頃だ。流石に入学して間もないのに問題を起こすわけにはいかないと…アクアはひとまずアンガーマネジメントを意識した腹式呼吸で怒りを抑えてから話を続ける。
「とりあえず、今日の放課後にアイと有馬にスカウトの話を持って行く予定だ」
「わかった。俺は居ない方が良いよな?」
「そうだな。悪いが、席を外しといてもらえると助かる」
「了解だ」
事情は一通り聞いたとはいえ、レンは一応部外者だ。ならば今日は一足先に帰宅して、色々やるべき事に備えようと内心で決めながら、アクアからの申し出を了承した。
「それとレン、お前には後日個人的に話がある──逃げるなよ?」
「あ、はい」
それはそれとしてアクアからは逃げられないらしい。
右目に黒い星を宿したアクアの顔を見て、レンはまた面倒くさいことになったと静かに天井を仰いだ。それと同時に、学校に予鈴のチャイムが鳴り響いたのだった。
一方、時間は少々遡り……一年F組の教室。
「アイちゃん!! 私とアイドルやらない!?」
「急に何!!?」
教室に入って早々にアイがルビーから熱烈な勧誘を受けていた。これには流石のアイも面食らい、思わず声を大にしてツッコミを入れてしまった。
「ルビーちゃん、それ放課後の話と
その光景を隣で見ていたみなみが恐る恐るといった様子でルビーに声を掛ける。
アイが教室に入って来るまでの間、ルビーと普通に会話をしていたみなみは、彼女がアイをアイドルに勧誘するつもりだという話は軽くだが聞いていた。しかしそれは放課後の予定だったハズ…にも関わらず、アイを見るなり開口一番に勧誘という奇行に走ったのだ。驚くのも無理はない。
「そうなんだけど……アイちゃんの顔を見たら我慢出来なくてつい……!」
などと供述しながら、ぐぅ…っと何かを堪えるような表情で己の胸を押さえるルビー。どうやら完全に無意識のうちの行動だったらしい。アホである。
「──という訳でアイちゃん! 私と一緒にアイドルやろ!!」
「どういうわけかなぁ!!?」
しかしルビーちゃんはめげない。もう言ってしまったのだからこのまま押し切ってしまえと開き直り、再度勧誘の言葉を口にしながらアイに詰め寄る。
余りに突然過ぎる展開にアイはただただ困惑している。登校して早々にぐいぐいと勧誘を迫られているのだから当然である。
「一緒に! アイドル! やろう!!」
「わー…圧がつよーい……!!」
「ルビーちゃん、とりあえず一回落ち着こか……」
ここで流石にアイが気の毒で見ていられなくなったみなみが仲裁に入った。
それからしばらくして、ようやく落ち着いたルビーが申し訳なさそうな表情でアイに頭を下げる。
「ごめんアイちゃん……ちょっと暴走しちゃって……」
「あれでちょっとなん……?」
「あはは……ビックリはしたけど、大丈夫だよルビーちゃん」
驚きはしたが特に実害を受けた訳ではない為、アイは笑って許した。
すると、ルビーの表情が申し訳なさそうな顔から一転し、真剣な面持ちでアイと真っ直ぐに視線を合わせるように見据える。
「でもねアイちゃん──私、アイちゃんと一緒にアイドルをやりたいのは本気だから」
「あ…う、うん……」
左目に星のハイライトを輝かせ、強い決意の籠った言葉でそう言い放つルビー。そんな彼女の気迫に僅かばかり気圧されてしまったアイは、曖昧に頷くことしか出来なかった。
するとそこで、学校に予鈴のチャイムが鳴る。同時に教室内に居る生徒達はそれぞれ自分の席へと戻って行く。
「じゃあこの話はまた放課後に! 考えといてね!」
「はーい」
そう言ってルビーが自分の席に着くのを見て、アイもその前にある自身の席に座った。
「(アイドルかぁ……)」
机で頬杖をつきながらぼんやりと、先ほどルビーに誘われたアイドルについて考える。
興味が無い訳ではない。むしろ有る方だ。
アイ自身は覚えていないが、生前はアイドルだったらしいことは自覚している。
それもあって死神になってからは自分で色々調べたりしたこともあり、特に『B小町』に関する雑誌やCDなどは八番隊の隊長が経営する商店で取り寄せて買い揃えたりしていた。何だったらつい最近、瀞霊廷でゲリラライブを断行して見様見真似でアイドルの真似事をしたこともある。
別に生前の自分を知りたかったからとか、そんな高尚な理由ではない。ただの興味本位であり、純粋に楽しそうだったからというのが正直なところだ。実際やってみてとても楽しかった。
だからアイとしては、ルビーからの誘いは受けてみても良いかもとは思っている。
もちろん楽しそうだからという理由もあるが、同時に死神としての任務にも有用だと考えたからだ。アイドルになって双子と同じ事務所に入れば、放課後も彼らの監視をする事が出来る。まさに一石二鳥だ。
しかしそんな考えとは裏腹に、アイの気持ちとしては、自分でも意外なほどにそこまで乗り気ではなかった。
その理由は明白……レンだ。
アイにとって同僚であり、好敵手であり、恩人であり、そして意中の相手でもある彼……夜代レンの顔が脳裏に思い浮かぶ。
「(レンは…なんて言うかな?)」
自分がアイドルになるとすれば、彼はどういう反応をするだろうか…なんて、考えなくても分かる。きっと背中を押してくれるだろう。レンはアイが決めたことを決して否定はしない。反対意見を述べたり、説教などの苦言を呈したりはするが、なんだかんだ言ってフォローや後始末に回ってくれる。今回も恐らくそうなるだろう。
アイが放課後も双子を監視出るようになる反面、その他の死神の業務はほとんどレンが一手に担う形になるだろう。もちろんアイも魂葬や虚退治など出来る事はやるが、それでもレンの負担の方が大きい。
それに何より……本格的なアイドル活動が始まれば、レンと顔を合わせる事も少なくなるかもしれない。
「(それは嫌だなぁ……)」
今のレンと共に過ごせる現世の暮らしは気に入っているが、アイドルになればそんな暮らしは出来なくなる。何ならアイドルに男と一緒に住むのはマズイといって、あの家を出て行くことにもなりかねない。それは流石に勘弁願いたい。
「(どうしようかなぁ……)」
アイドルと死神の任務を両立出来る道か、変わらずレンと二人で任務を続ける道か……死神として任務を優先するなら前者だが、アイの気持ちとしては後者の割合の方が大きい。どちらを選ぶべきか、アイは頭を悩ませる。
結局…ホームルームの時間も、その後の授業時間の間もずっと悩み続けたが、アイが答えを出すことはなかった。
To Be Continued