推しの子×BLEACH   作:ZEROⅡ

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恋愛リアリティーショー編はともかく、東京ブレイド編はどうしよう。
あの中にガチ剣士を混ぜるのは何か違う気がする。


第十三話

 

 

 

 

 

 

「レ…レン……?」

 

死神……もう一匹おったのか

 

虚に追い詰められて窮地に陥ったアイのもとへ現れた夜代レン。

彼は【始解】によって解放した自身の斬魄刀──今は頭部の輪形に遊環(ゆうかん)と呼ばれる六つの小さな(リング)が通してあり、その尖端には小さな刀身がある、錫杖と薙刀を掛け合わせたような形状──『厳武(げんぶ)』を携えてアイと虚の間に悠然と佇み、虚を見据えながら口を開いた。

 

「へぇ、お前……〝デモンコマンダー〟か」

 

ほう? 儂を知っておるのか?

 

己の呼称(コード)を呼ばれたことで、興味を持ったようにレンの言葉に耳を傾ける虚。

 

「他の虚を従える統率力とそれらを利用する狡猾さで、ここ数年で六人もの死神を喰い殺した虚だろ? 尸魂界のデータベースに登録される程度には知られてるぜ、お前」

 

クカカ! そうか、死神連中に名を知られておるとは光栄なことよ!

 

レンの言葉を聞いて愉快そうに嗤う虚──デモンコマンダー。

 

『──で? そこの小娘に代わって、今度は貴様が儂の相手をするつもりかの?

 

次いでデモンコマンダーから放たれる圧の籠った問い掛け。ピリっとした空気が支配する中、レンは二っと口元に笑みを浮かべ、堂々とした態度でそれに答えた。

 

 

いや──逃げる!

 

 

『……は?

 

「……え?」

 

余りにも予想外の言葉に、デモンコマンダーだけでなく傍で聞いていたアイも呆気に取られた声を漏らす。

するとレンはその隙に、その場で屈んで右手を地面に叩き付けるように置く。

 

「縛道の二十一赤煙遁(せきえんとん)!!」

 

ヌゥ!?

 

レンの右手を起点に噴き出す赤い煙幕。それは瞬く間にその場を包むように広がり、デモンコマンダーの目からレン達の姿を覆い隠した。

 

小賢しいマネを!

 

デモンコマンダーは鬱陶しそうにその大きな腕を振るい、煙幕を晴らそうとする。

しかしレンはその間に、厳武の石突き部分で地面を軽く叩き、六つの遊環をしゃらんっと鳴らす。

 

空楯(からたて)(コウ)

 

ヌ…これは!?

 

直後、一瞬で発生したのは半透明な四角い箱型の障壁。あっという間にデモンコマンダーを取り囲んだそれは結界となって全長三メートル弱はあるその巨体をすっぽりと覆って閉じ込めてしまった。

 

このようなもの……!!

 

閉じ込められたデモンコマンダーは結界の壁に爪を突き立て、尻尾を叩きつけて壊そうとするが、結界はビクともしなかった。

 

「無駄だ。俺の斬魄刀の能力で作った結界だ。中からも外からも、そう簡単に破れるモンじゃねェよ」

 

レンの斬魄刀──『厳武』

その能力は霊力による結界の生成。自身の霊圧を基に作り出す結界は形状やサイズ、硬度なども調節可能であり、最高硬度は七十番台の鬼道をも防げるほど。身を守る盾のように使うことも出来れば、先のように相手を閉じ込めるなども出来る。逆に攻撃性能は一切持たない、護廷十三隊の中でも類い稀な防御特化の斬魄刀である。

 

「よし、今のうちに一旦退くぞ」

 

「ちょっと待ってよ!!」

 

デモンコマンダーの身動きを封じたのを確認したレンはそう言って踵を翻して退却しようするが、それを声を荒げたアイに止められた。レンを睨む彼女の眼は未だにデモンコマンダーに対する怒りで満ちており、退却など認めないと物語っている。

 

「何で逃げるの!? あいつはアクア達を傷つけたんだよ! 今ここで倒せば……」

 

「バカ言うな。お前ガス欠寸前じゃねーか。その状態で戦闘続行は無理だ」

 

「そんなの関係ない!! アクアとルビーを傷つけたあいつは絶対に許さない!! だから…」

 

「いい加減にしろ──アクア達を見殺しにする気か?

 

「え──」

 

レンがぴしゃりと言い放った言葉に、アイは二の句が継げなかった。

 

「アイ……俺は基本的にお前の選択を尊重するが、感情のままに選択した場合は話が別だ」

 

スッと、放心状態でこちらを見ているアクアと、傷つき倒れているルビーとかなを指差しながら言葉を続ける。

 

「優先順位を間違えるな。妹さんと有馬かなは言うまでもなく瀕死の重傷で、魂魄が抜けちまってるアクアもいつ因果の鎖が切れてもおかしくない。仮に奴をここで倒したとしても、その間に手遅れになったらどうするつもりだ」

 

「ッ……………」

 

アイは冷や水を浴びせられたかのように、怒りで頭に上っていた血がサァっと引いていくのを感じる。レンの言うとおりだった。襲われたアクア達三人はいつ取り返しが付かないことになってもおかしくない状況にある。本来ならば彼らの安全を優先しなければならないのに、怒りに任せて戦うことを選んでしまったアイは、悔やむように押し黙る。

 

「今は人命優先だ。退くぞ、アイ」

 

「……わかった。ゴメン……」

 

そう言うとアイは星妃愛の始解を解き、一刀に戻った斬魄刀を鞘に納める。同様にレンも始解を解いた斬魄刀を納刀する。

 

「俺が双子を運ぶから、アイは有馬かなを頼む。悪いが、お前の義骸は後回しだ」

 

「うん!」

 

撤退を決めた二人は、その前にアクア達の救助の為に動き出す。アイはかなの元へ、レンは双子の方へと向かう。

 

「ようアクア、災難だったな」

 

「……レ……レン…なのか…?」

 

先ほどまでの一部始終を茫然自失と眺めていたアクアは、レンに声を掛けられてハッと我に返る。そして明らかに只者ではない同級生に戸惑いながらも、アクアは彼に対して口を開く。

 

「レン! これは一体何なんだ!? あの化物は…アイは…それに俺は……ああクソ!! 何がどうなってるんだ!!?」

 

混乱で言いたいことが上手く纏まらないのか、要領を得ない言葉で堰を切ったようにレンに問い詰めるアクア。

 

「落ち着け。とりあえず、お前は何も気にしなくていい」

 

「そんなこと無理に決まってるだろ! 何か知っているなら答えて──」

 

「悪いな、時間が無いんだ」

 

そう言うと同時に、レンは手に持っている百円ライターに似た形の装置をアクアの眼前に突きつけ、躊躇わずスイッチ押す。

 

──ボンッ!!──

 

「!!?──」

 

すると、そこから発せられる破裂音と煙を浴びせられ、アクアはまるで糸が切れたかのように意識を失った。

 

レンが使ったのは『記換神機』と呼ばれる尸魂界の道具であり、死神と虚に関する事件に巻き込まれた人間の記憶を別のシチュエーションの記憶にすり替える事が出来る装置である。これによってアクアは今回の記憶を失い、代わりの記憶に挿げ替えられているだろう。その代替の記憶がランダムなのが玉に瑕だが……。

 

そうこうしている間にレンは背中にルビーを背負い、右手にアクア(魂魄)、左手にアクア(本体)を担ぐ。アイの方もかなを背負っていた。

 

「行くぞ」

 

「うん」

 

そしてそのまま彼らは大急ぎでこの場から離脱していったのだった。

 

おのれ……!

 

その様子を、レンの術によって身動きを封じられたデモンコマンダーが忌々しげに睨みつけていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

それからしばらくして……撤退したレン達がやって来たのは、陽東高校校舎の屋上。そこではレンが床に寝かせたアクア達三人に、霊術による治療を施していた。

 

死神が使う鬼道の中には〝回道〟と呼ばれる、治療と回復用の術が存在する。鬼道に長けたレンも使用する事が可能で、本職の四番隊には及ばないものの大体の傷は癒すことが出来るのだ。

 

「……ふぅ」

 

「どう?」

 

「アクアの魂魄は無事に肉体に戻せたし、妹さんと有馬かなの応急処置は終わった。完治にはもうちょい掛かるが、命に別条は無い。ひとまず大丈夫だ」

 

「そっか……はぁ、よかったぁ……」

 

一旦治療を終えたレンの報告を聞いて、アイは心底安心したように息を吐いた。

 

「次はお前だ。傷を見せろ」

 

「あ、うん」

 

そう言うと今度はアイの治療を始めるレン。彼の手のひらから放出される霊力の波が彼女を包み込み、体の傷を癒していく。

 

「…………」

 

片や治療を受けている間、アイはレンに対してどこか居心地が悪そうに視線をあちこちに泳がせながら、何か言いたげな顔をしていた。

やがて治療が終わると同時に、意を決したような顔つきになると、アイはレンに対して口を開いた。

 

「あ、あのさ、レ──」

 

「アイ──悪かった……」

 

「──え?」

 

しかしそんなアイを遮って、レンが謝罪の言葉を口にした。

彼から突然謝られたアイは、その意図が分からず呆気に取られてしまい、言葉を止めてしまった。

 

「俺がこの辺一体の空間凍結申請に手間取ったせいで、合流が遅れちまった。そのせいでお前に負担を強いた上に、アクア達まで……すまねぇ、俺がもっと早く駆け付けていれば……」

 

悔いるようにそう語るレンに対して、アイは悲しそうな表情でそれに反論した。

 

「そ、そんなことない! レンは悪くな──」

 

 

「──とでも言うと思ったかこのボケがーーッ!!!!」

 

「痛ったーーーーッ!!!?」

 

 

だがその瞬間、レンの渾身のチョップがアイの脳天に思いっきり叩き込まれた。割と容赦なく下されたその一撃は、アイが激痛の余りその場で頭を押さえて蹲るほどである。

 

「ッ~~!! いきなりなにするのさ!!?」

 

「何ださっきのクソみてぇな戦い方は!!?」

 

急にド突かれたことにアイは涙目で怒鳴るが、それに勝る勢いでレンの方が強く怒鳴り返した。

 

「来る途中で遠目から見えたが…怒り任せで刀を振り回すだけの単調な攻撃! ただでさえ燃費悪いのに後先考えない能力の乱用! それで霊力のガス欠による自滅! 本来の実力の半分も出せてなかったじゃねーか!!」

 

「うっ…」

 

レンからのビシっと人差し指を突き付けられながらの指摘に、アイは何も言い返せずにバツの悪そうな顔をする。本人もその自覚があるのだろう。

 

「お前の強みは瞬歩を使った高速機動と、二刀流からなる手数の多さと、斬魄刀の能力による射程の長さだろうが! それさえ十分に発揮出来てりゃあ始解したお前があの程度の虚如きに苦戦するわけねーだろ! わかってんのかこのバカ!!」

 

「痛い痛い痛い痛いっ!! ゴメンってば!! グリグリするのやめてー!!」

 

説教しながら突きつけた人差し指を額にグリグリと強めに押し付けて来るレンに、アイは必死になって許しを請うた。やがて多少は溜飲が下がったのか、レンは手を引っ込めながら嘆息混じりに言葉を続ける。

 

「ったく……アクア達が傷つけられて怒る気持ちは分かる。俺だってこの惨状には腸が煮えくり返ってる……けど〝怒り〟だけで戦おうとするんじゃねえ。それは視野を狭めて、剣を鈍らせる要因にしかならねえってのは、夜一先生の教えだろ」

 

「あはは……そうだよね……ほんとダメだなぁ私……」

 

レンの言葉に対してアイは浮かない表情で俯きながら謝罪を口にする。

 

「アクア君とルビーちゃん達が傷つけられたのを見て、自分でもどうしようもないほど怒りが湧いて、あの虚を倒すことしか考えられなくなってた……しかも冷静さを欠いて、ガムシャラに戦って暴走して、最後は自滅して……レンが来てくれなかったら今頃みんな、私のせいで……!」

 

怒りのままに戦って空振って、虚にいいように翻弄されて自滅してしまった挙句、アクア達を命の危険に晒してしまったという失態がアイの心に重く圧し掛かる。

その自責の念からポツリポツリと、暗い表情で自信を責めるように言葉を紡ぐアイ。そんな彼女にレンは……

 

 

「自惚れんなバカ」

 

「二回目ッ!!?」

 

 

本日二度目の脳天チョップを見舞った。

先ほどのよりは明らかに威力は低めだが、それでも痛いものは痛いらしく、アイは再び頭を押さえて蹲った。

 

「何自分一人の責任にしようとしてんだ。これは俺の責任でもあるんだよ」

 

「え…だって、レンは何も……」

 

「そう、何もしてねーんだよ俺は。本来なら俺とアイで当たらなきゃいけねェのに、合流が遅れたせいでアイばかりに負担を強いたのは間違いない。だからコレは、俺ら二人の責任だ」

 

「っ……で、でも……!」

 

「元々そんな責任感が強い訳でも無いくせに一人で背負い込もうとしてんなよ、お前らしくもない」

 

珍しく精神が大分ネガティブ寄りになって俯きがちになっているアイに対して、レンは彼女の頭を両手で挟むように掴むと、そのままムリヤリ顔を上げさせてハッキリと告げる。

 

「一度や二度の失敗でヘコんでんじゃねェ。いつも通り、俺が尻拭いしてやる。だから…お前は迷わず、好きにやれ──アイ」

 

「レン……」

 

自分の顔を持ち上げて真っ直ぐにそう伝えてくれるレンの眼を見て、アイはふと思いを巡らせる。

 

彼は人と話す時、必ず相手の眼を見て話す。

底抜けに面倒見の良い彼は、いつだって真っ直ぐに人と向き合う。誠実に、公正に、その人となりを見ている。

それが夜代レンという男だ。

 

アイはその時のレンの〝眼〟が好きだ。

何の色眼鏡も無く、何の下心も無く、かつて嘘で塗り固めていた自分(アイ)でも無く、ただ『星野アイ』を見てくれるその〝眼〟にどうしようもないほど惹かれている。

 

その〝眼〟を見る度に──本当の自分(アイ)を見失わずに済むから……

 

「ありがとう…レン」

 

呟くようにそう言って、アイはようやく自分で顔を上げると……

 

「んっ!」

 

パチーンッ! と、自身の両手で両頬を張った。

 

「~~~!!」

 

自分でやっといて思ったより痛かったのか若干涙目になるアイ。

 

「も、もう大丈夫!」

 

「割とダメージがデカそうだぞ?」

 

「大・丈・夫!!」

 

レンに指摘されるが、平気だと押し通した。まだ頬はヒリヒリしているらしいが……

 

「ゴメン、ちょっと色々考えすぎてた。もう平気だよ」

 

「そうか。あんまり無理すんなよ、バカが頭使い過ぎると熱出るからな。特にアイは難しいことを考えるのに向いてないくらいのポンコツのくせにゴチャゴチャ考えるから調子を崩すはめになるんだ、気をつけろ」

 

「……そうだねー、私が調子悪いと代わりに弱っちいレンが戦うはめになっちゃうもんね! ごめんねー、本当は怖くてビビってる事に気付かなくて! レンは私より弱いのに気を遣わせてごめんねー!」

 

「絶好調なようで何よりだ。もう一回ヘコますぞコラ

 

「やってみればー? また私に負け越しても知らないけど!」

 

唐突に煽り耐性の低い者同士が煽りあう。これはこれで、彼女が立ち直ったという事なのだろう。恐らく。

 

「まぁ、調子が戻ったのならいい。多分そろそろだしな……」

 

「? そろそろって、何が……」

 

ふとレンが零した呟きにアイが反応したその時だった……

 

そこに居たか死神共

 

「!?」

 

レンの術によって身動きを封じられていたはずのデモンコマンダーが、突如としてズシンっと音を立てて陽東高校の屋上に降り立った。

 

「来たか」

 

それを見越していたかのように、レンはそう呟く。

 

クカカ、あれしきの小細工で儂から逃げられると思うたか

 

得意げな声色でそう語るデモンコマンダーに対して、レンは「ハンッ」と鼻で笑った。

 

「逆だバーカ、追いつかせてやったんだよ」

 

何?

 

「俺の霊圧を辿って此処まで追って来たンだろーが、それはわざと残しておいたモンだ。お前みたいな傍迷惑な奴にその辺をウロウロされたらメンドセーからな」

 

挑発的に笑いながらそう語るレン。全て彼の思惑通りだったのだ。

あの場はアクア達の治療の為に撤退したが、その後で自由になったデモンコマンダーが他の人間に被害を出してしまえば本末転倒になる。だからレンはあえて霊圧の足跡を残し、相手がそれを辿って追って来るように誘導したのだ。

 

「いくら知性を持とうが、(おまえら)の本質は獣と変わらない。餌を吊るしてやれば、十中八九追って来ると思ったよ。むしろ想定より時間が掛かってた事に驚いたくらいだ。わざわざ結界の強度を緩めて脱出し易くしてやってたってのに。お前さぁ……大物ぶってるけど、意外と大したことないんじゃね?」

 

こ、の……死神風情が、減らず口を……!!!

 

デモンコマンダーの声に怒気が篭る。余程レンに煽られ、侮られ、小バカにされているのが我慢ならないらしい。

 

しかし当のレンはどこ吹く風。もはや興味無しと言った様子でデモンコマンダーから視線を外し、隣に立つアイに声を掛ける。

 

「さて……このまま俺があいつを片付けてもいいんだが──どうする?」

 

先ほどと同じく、真っ直ぐと目を見てアイに問い掛けるレン。答えなど分かり切っているだろうに、わざわざこうやって問うのは、彼女の選択に従うというスタンスが故だろう。

そして当然、アイの返答は決まっている。

 

「──私がやる。レンはアクア達の治療の続きをお願い」

 

「了解」

 

アイが一歩前に出て、レンは引き下がる。その行動に寸分の迷いも見られない。

 

「治療ついでに、多少霊圧も回復させておいた。万全じゃないが十分だろう。あとこの辺一帯の空間凍結も完了してるから、他の人間や魂魄に影響を及ぼす心配は無い」

 

「うん、ありがとう。さっきはカッコ悪いとこ見せちゃったから、ここでちゃんと汚名挽回しないとね!」

 

「それを言うなら名誉挽回だ。ベタな間違いしてんなバカ」

 

「ありゃ?」

 

そんな締まりの無いやり取りをする二人だが、ある意味いつも通りである。実際、アイの表情に先ほどまでの暗い雰囲気は微塵も無く、すっかりいつもの調子に戻っているのが分かる。

 

すると二人はどちらからともなく携えた鞘から自身の斬魄刀を抜き、解号を口にした。

 

 

「夜天を照らせ──『星妃愛』

 

「護れ──『厳武』

 

 

アイの方は光に包まれたあと太刀と小太刀に分裂し、二刀一対の斬魄刀へ。

レンの方は持ち手が大きく伸び、薙刀と錫杖を掛け合わせたような長柄の斬魄刀へ。

名を呼ばれた二人の斬魄刀はその力を解放し、それぞれその形状へと姿を変えた。

 

「〝空楯・(ヤグラ)〟」

 

解放後、レンはすぐさまその能力を使用した。六つの遊環がしゃらんっと澄んだ音を奏でると、彼らの後方で寝かされているアクア達三人を覆うように、ドーム状の結界が展開された。

 

「あいつらの治療を続ける。後ろは任せろ」

 

「任せた!」

 

その掛け合いを最後にレンは後方へと下がり、アイは再びデモンコマンダーと対峙する。

 

何じゃ、あの小僧は来んのか。所詮は口だけで、逃げ回るしか能が無いということかのう

 

「まさか。単に私一人で十分ってことだよ」

 

クカカカカッ! 儂に手も足も出なかった小娘が、笑わせおるわ!

 

そう言い放ったその口から、またもや己の分身体を吐き出すように召喚するデモンコマンダー。その数は先の戦いで見た数よりも多く……なんと十体。

 

今度こそ、貴様らを嬲り殺しにしてやろうかの

 

「……………」

 

あっという間に分身体の軍勢に取り囲まれたアイ。しかし彼女はそれを一瞥すると、何を言うでもなく、ただその場から一歩を踏み出した。

トン…っと跳ねるように軽い、小さな一歩。

 

直後……アイの姿がブレる

 

 

そして次の瞬間──アイを取り囲んでいた十体の分身の頸が一斉に落ちた。

 

 

……は……?

 

その光景を見たデモンコマンダーは理解が追い付かなかった。視認できたのは、己の分身体に取り囲まれている死神の姿がほんの一瞬だけブレたように見えたとこまで。それに気付いた頃には既に分身体の悉くが首を斬り落とされて消滅していたのだ。なのに彼女が立っている位置は一切変わっていない。それがどういう意味か未だに理解が追い付いていないデモンコマンダーは、唖然とするしか無かった。

 

「うん…良い感じ」

 

一方でアイは、自身の調子を確かめるように両手の二刀を軽く振るう。レンのおかげで霊圧が回復したのもあって、不調は見られない。むしろ体が軽いと感じられるほどだ。我ながら単純だと、思わず薄く笑ってしまう。

 

正直なところ、アクア達を傷つけたデモンコマンダーに対する怒りはまだ有る。さっきまでとは違い、激情に飲まれるほどではないが、許すつもりは更々無い。だから全力で倒しに行く。

 

「光れ…星妃愛」

 

もう一つの解号を唱え、二刀の刀身を光へと変換する。そしてその状態のまま腕を交差させ、右手の太刀を左腰に、左手の小太刀を右腰に添えるようにして構える。

 

!? おのれ……!!

 

それを見てようやく我に返ったデモンコマンダーが、彼女が何かをする前に潰そうと動き始める。

だがその行動は……余りにも遅かった。

 

 

 

稲御星(いなみぼし)

 

 

 

金色の閃光が刹那を駆ける。

二つの軌跡が流星のように瞬く。

一拍遅れて風を切り裂く音が落雷のように轟く。

 

それらに気付く頃には……全てが終わっていた。

 

が…あぁ……なに…が……?

 

何が起こったのか分からないといった様子で、デモンコマンダーが呻く。その巨体と仮面には二つの太刀傷が深く刻まれていた。そしてその後ろには、二刀を振り切った状態で立つアイの姿。

 

「〝稲御星(いなみぼし)〟──夜一センセから教わった『隠密歩法』と『星妃愛』の能力を掛け合わせた、奥の手の一つだよ」

 

原理としては瞬歩に特殊な足取り(ステップ)を組み合わせる事で、短距離の直線においてのみ音をも置き去りにするほどの超速で相手に肉薄して、光刃と化した二刀で斬り捨てる……アイの技の中でも最速を誇る太刀である。

 

バ…カな……

 

斬られた箇所から崩れ落ちるデモンコマンダー。仮面も砕かれ、その巨体は崩壊していき、霊子へと還っていく。

 

「これがアクア君やルビーちゃん達を傷つけた罰だよ」

 

その様子を尻目に見ながら、アイはハッキリとした口調で言い放つ。

 

「星の光をその目に焼き付けながら──消えて」

 

 

 

 

 

To Be Continued




オサレな決め台詞が浮かばない……!


・夜代レン
遅れてやって来といて結局戦わなかった主人公。やっと合流したと思ったら相方は自滅していて、監視対象は死にかけていたので、即断即決で撤退を選んだ。
人と話す時はちゃんと目を見るタイプ。今回から回復キャラも追加された。

・『厳武』
レンの斬魄刀。解号は「護れ──」
解放後は薙刀と錫杖を掛け合わせたような長柄武器へと変化する。
自身の霊圧を基に様々な形状やサイズの結界を生成する能力を持ち、主に防御や拘束に使用する。最高硬度の結界は七十番台の鬼道をも防げる防御力を持つ反面、攻撃性能は一切持たない。
有昭田鉢玄のように体の一部を結界で覆って切り離したり、結界を投げつけるなども出来ない。
完全に防御性能に特化した斬魄刀。

・星野アイ
激情に飲まれて暴走してしまい、結果としてアクア達を見殺しにしかけてしまった事にショックを受ける。
その後は自己嫌悪に陥っていたが、レンの説教と激励のおかけで何とか持ち直し、敵を瞬殺した。
現世に来てから自分の感情が暴走しやすい件について、アイ自身は何となく原因を察している。あとは自分の問題なので、レン達には相談せずに自分で解決する事に決めている。

・デモンコマンダー
一応死神六人は倒してる設定やし、なんか名前つけたろ! と作者が五秒もの熟考の末に名付けられた虚。
能力は口から吐き出した霊子で分身を作る。最大十体。ただし知性は無いので単純な動きしか出来ない。最終的にアイに瞬殺されたが、敵役としての役割は十分に果たしてくれた今回のMVP。今後出番は無い。
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