推しの子×BLEACH   作:ZEROⅡ

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推しの子最終巻記念です。本誌で最終話を読んでからずっと考えていた妄想になります。

・死神二人の介入があっても、原作と同じ最後を辿った世界線。
・当然ながら本編とは一切関係無し。

以上の点を踏まえて、お楽しみ頂ければ幸いです。

【注意】
原作のネタバレが多く含まれます。閲覧は自己責任でお願い致します。


【IF番外】とある日の流魂街

 

 

 

 

場所は尸魂界の瀞霊廷をぐるりと取り囲む『流魂街』。

そこでは、現世で死した人間の魂が多く暮らしている。

 

その流魂街にある『潤林安(じゅんりんあん)』と呼ばれる地区にて……一人の男性死神が足を運んでいた。

 

左手に何やら大きめの風呂敷で包んだ荷物を持ち、江戸時代の街並みが広がる道中を静かな足取りで歩く死神はやがて、一軒の古民家の前で立ち止まる。

そして彼は何の躊躇いもなく、その家の戸を勢いよく開いた。

 

「よーっす! 邪魔するぞ──アクア」

 

「……入る前にノックぐらいしたらどうだ──レン」

 

突然やって来た死神『夜代レン』に、この古民家の家主であるアクアこと『星野愛久愛海(アクアマリン)』は彼に非難めいた視線を向ける。

 

「そう言うなよ。俺とお前の仲じゃねーか」

 

「まったく……」

 

気安い態度で家の中に上がり込んで来るレンに、アクアは半ば諦めたように嘆息する。

 

レンとアクア……この二人は現世で出会ってからの友人関係である。

当初は死神としての任務の為にアクアに近づいたレンだったが、色々…本当に色々なことがあった末に真っ当な友好な関係を築いた二人。それはアクアがこうして流魂街にやって来てからもレンの方から定期的に顔を見に来るくらいには続いている。

 

「どうだ? 流魂街(ここ)での暮らしには慣れたか?」

 

「多少はな。けど、此処の生活水準低すぎるだろ」

 

草履を脱いで畳の上に胡坐で座るレンに、来客用の湯呑に淹れた茶を出しながらそんな事を言ってくるアクア。

 

「あー…まぁ現世と比べるとどうしてもな」

 

それに対してレンは苦笑しながら答える。

潤林安(ここ)は流魂街の中で特に治安が良い区画だが、令和時代の現世と江戸時代然とした流魂街では文明レベルが違い過ぎるのは仕方のないことだ。

そもそも死神や貴族が住まう瀞霊廷ですら、近年になってようやくテレビなどの文明の利器が普及されるようになったのだから。

 

「おかげで、毎日が暇で仕方がないなんだがな」

 

「嘘つけ。知ってるぞ、お前最近この地区で医者みたいな活動してるらしいじゃねーか」

 

「なっ!?」

 

レンのその指摘が予想外だったのか、図星だったのか、アクアのすましていた顔が一変した。

 

「おま…なんで……!?」

 

「ははっ、流魂街は死神の管理下にあるんだ。そういう目立つ情報は結構流れて来るんだよ」

 

愕然としているアクアの表情を見て、可笑しそうに笑うレン。

 

「その様子だと、俺が教えてやった回道は役に立ってるみたいだな」

 

「……まぁな」

 

尸魂界に来てから、なんとアクアは霊力に目覚めていた。それを知ったレンが霊力の扱い方と、それを用いた鬼道について軽く説明したところ、アクアはその中でも人を癒す術である『回道』に興味を示した。

そこからは早かった。元々の地頭の良さと、転生前は医師だったという経験、そして霊力を緻密にコントロール出来るという隠れていた才能が合わさって、簡単な病気や怪我なら治せるほどになっていたのだ。

 

ぶっちゃけ回道だけならレンより才能があった。

何なんだコイツ…異世界転生物の主人公かよ…とレンは訝しんだ。

 

「けどまぁ、アクアが此処でのやりがいを見つけられたんなら良かったよ。近所の住民からも結構評判みたいだぞ」

 

「……別にそんなんじゃない。俺は他の住民と違って霊力がある分、食事が必要でその為にやってるだけだ。俺が霊力を使って患者の病気や怪我を治す、治った患者は俺に食事を提供して使った分の霊力を補給させる。持ちつ持たれつだ。やりがいとか善意とかじゃなくて生きるのに必要だからやってるだけ。分かる?」

 

「アクアって図星を突かれるとやたら饒舌になるよな」

 

性根はお人よしのくせに何故こうも悪ぶるのだろうか。高二病?

一気に喋って疲れたのか、アクアは自分で淹れたお茶をグイっと飲み干して喉を潤すと、湯呑を乱暴に畳の上に置きながら再度口を開く。

 

「で、何の用だ? こんな雑談をする為に顔を出すほど、死神様も暇じゃないだろ」

 

「相変わらず捻くれてんなぁお前」

 

そんな変わらないアクアに苦笑しながら、レンは本題を切り出した。

 

「とりあえず顔を見に来たのと……アクアに三つの良い知らせを持ってきた」

 

「良い知らせ?」

 

「ああ。まず一つ──お前が殺したカミキヒカルについてだ」

 

「!」

 

レンの口からその名が出た途端、アクアの眼に憎悪が宿り、全身に力が入ったのが見て取れる。

アクアにとっては母を殺し、更には妹にまで手をかけようとした怨敵と言っても過言ではない相手だ。このような反応をするのも致し方無いだろう。

しかしレンはそんな彼を片手で制しながら、話を続ける。

 

「落ち着け、良い知らせと言っただろ。俺が独自に調べた結果だが、お前と同時期に流魂街へやって来た住民の中にその名前は無かった。浮遊霊として現世に残されている様子も無い。そして奴が死んだ後に判明した罪状の数々を踏まえると……まず間違いなく、カミキヒカルは地獄に堕ちた」

 

「! あいつが…地獄に……!」

 

その知らせを聞いて、アクアの眼から憎悪は消え、強張っていた全身からドッと力を抜いた。

 

「地獄に堕ちてからの魂は死神の管轄外だから、それ以上の事は分からん。だが数少ない資料によると、そこでは自らの大罪を責められ続ける苦しみを味わうとされているらしい。文字通り、地獄の苦しみを…な」

 

「ハッ…いい気味だ」

 

怨敵の末路に対し、アクアは吐き捨てるようにそう言いながら、どこか安心したような顔つきで口元に笑みを浮かべた。

 

カミキヒカル……アクアにとっては血縁上の父にあたる人物だが、その本性は自らが価値を見出した存在が滅びゆく様に、悦びを感じる生粋の人格破綻者にして連続猟奇殺人鬼。それも自身は一切手を汚さずに他人を言葉巧みに操って人を殺すという狡猾な人間だった。

そして詳細は省くが…過去の復讐の為、妹の未来を守る為に行動したアクアと心中する形でその生涯は幕を閉じ、最期は己の罪によって地獄に堕とされたのだった。

 

その中で一つ、アクアには分からないことがあった。

 

「けど……何で俺は地獄に堕ちなかったんだ?」

 

それはカミキヒカルと共に命を落としたアクアが、地獄ではなく尸魂界へとやって来たことだ。

自分は間違いなく人を殺した。その事実は復讐の為や妹の為などの理由をつけても、決して正当化される事ではないのはアクア自身も理解している。怨敵と共に地獄に堕ちる覚悟もしていた。

しかし結果として、アクアの魂は地獄ではなく尸魂界へと招かれたのだ。その理由を、アクアは死神であるレンにそう問い掛ける。

 

「知らん」

 

が…それに対してレンは、茶を啜りながら簡潔にズバッとそう言い切った。

 

「……おい」

 

「別にふざけてる訳じゃない。言っただろ、地獄は死神の管轄外だって。死神(おれたち)は生前に罪を犯した人間の魂が地獄に堕とされる…としか聞かされてない。その罪の基準がどうなってるのかすら知らないんだ。アクアが堕とされなかったってことは、地獄にとってお前のやったことは罪に問われなかったってことじゃないか? 多分」

 

「……………」

 

レンの見解を交えた説明にアクアは微妙に納得できないながらも、これ以上追及しても意味が無いと判断して押し黙った。理由はどうあれ、自分が地獄に堕ちずに済んだのは良いことなのだから。

 

「まぁいい……それで、あと二つの良い知らせって?」

 

「もう一つは──ルビーが芸能活動を再開した」

 

「!!」

 

それを聞いた瞬間、アクアはレンに掴みかかるような勢いで迫った。

 

「本当か?」

 

「もちろんだ。それにルビーだけじゃない……有馬かな、黒川あかね、MEMちょ、苺プロの面々……アクアが死んでから塞ぎ込んでた人達も、みんな徐々に復帰し始めてる」

 

「……そうか……そうかぁ……!!」

 

その知らせを聞いて、心底安心したかのように床に座り込むアクア。

彼女達ならば自分が亡き後も、いずれ立ち直れるだろうと信じてはいたが……遺してしまった人達に対する罪悪感も相まって、気が気でなかったのも事実だ。

それでも彼女達が活動を再開したと聞いて、ようやくアクアは憑き物が落ちたかのような晴れやかな笑顔を浮かべた。そしてそれに釣られて、レンも笑う。

 

「みんなあの葬式の日から、よく立ち直れたもんだよ。いや本当に……あの時の空気最っっっ悪だったもんな」

 

「あー……まぁ……」

 

「言っとくがあの時ほどお前を義骸か何かにブチ込んでみんなの前に蹴り出してやりたいと思った事はないからな……!!」

 

笑顔から一転して、苦虫を十匹くらい嚙み潰したかのように顔を顰めるレンに、アクア本人も何とも言えない表情になる。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

二人の脳裏に思い浮かぶのは……現世で行われたアクアの葬式。

この時既に魂だけの霊体になっていたアクアは、魂葬される前にレンと…もう一人の死神である『星野アイ』に連れられて、己の葬式の場へとやって来たのだ。

最期に妹や義理の親、お世話になった友人や知人の顔を見たかったのと……自分がした事がどのような結果を齎したのかを、ケジメとして見届ける為に。

 

そうして人知れず立ち会った葬式の様子は……今思い出しても心が痛い……!!

 

特に──有馬かなの涙ながらの叫びは、今でも鮮明に二人の脳裏に焼き付いている。

その時の彼女の行動については割愛するが……有馬かなは、あの場で誰よりもアクアの死を嘆き、悲しみ、悔い、涙していた。棺に縋り付き、自身の秘めた想いを全て吐き出さんばかりの悲痛な叫びは、参列している全ての者の胸を穿つのに十分だった。

 

そしてそれは……霊体としてその場にいたアクアの胸にも響いていた。

 

『ごめん、有馬……ごめん……!!』

 

聞こえないと分かってる…届かないと分かってる…触れられないと分かってる……それでもアクアは彼女の傍に歩み寄り、涙を拭おうと手を伸ばした。

当然その伸ばされた手は……彼女の体をすり抜けるだけの虚しい結果に終わったのだった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

「お前ホントいずれあの人が尸魂界(こっち)に来たらボコボコにされるくらいの覚悟はしとけよ?」

 

「……その時は匿ってくれないか?」

 

「甘ったれんなボケ」

 

この期に及んで腑抜けた事を口にするアクアに一喝するレン。いつかその日が来たらあらゆる手段を駆使してでもコイツを差し出してやると心に決めた。

 

「つーか、アクアはその前にアイとの仲をどうにかしないといけねェけどな」

 

「アイは…その…まだ怒ってるのか?」

 

「未だにブチギレてるよ」

 

次いで話題に出たのは、レンの同僚である女性死神『星野アイ』についてだった。

彼女の生前が、アクアの母親であり超人気アイドルだった〝アイ〟と聞いて驚いたのはアクアの記憶に新しい。初めて出会った時は…母の面影を感じる人だな…程度に思っていた人がまさかのご本人だったのだから当然と言えば当然である。

もっとも当のアイ本人は死神になった際に生前の記憶を失っているのだが、それでもアクアが自分の息子だった事は受け入れているらしい。

 

「今日も一応来るか誘ったんだけどな……『アクアの顔を見ると自分でも何をするか分からない』からって断られた」

 

「そうか……」

 

「まぁ…生前のとはいえ、我が子が復讐の為に命を捨てたんだ。しかもその発端が自分自身にあるもんだから、あいつも色々複雑なんだろ」

 

レンいわく…アクアが自らの命を賭してまで復讐に走ったことと、そもそもの復讐の発端が生前の自分のやらかしだと知ったアイは、怒りとショックのダブルパンチで色々と複雑な心境らしい。

今も『アクアに何をするか分からない』というよりも『アクアとどう向き合っていいのか分からない』というのが正しいのだろう。

 

「レン……俺が言えた義理じゃないが……アイのこと、よろしく頼む」

 

「わかってる。アイの奴も気持ちの整理がついたら、またいつもみたいに笑いながら会いに来るさ」

 

「だといいけどな」

 

そこ会話を最後に、二人の間にしんみりとした空気が漂う。しかしそれを即座に断ち切るように、レンがパンっと手を打ち鳴らす。

 

「よし、湿っぽい話は此処まで! 三つ目の良い知らせについてだ!」

 

「前二つの良い知らせのせいで湿っぽくなったんだが?」

 

「うるせーバカ! 黙って聞け!」

 

割と理不尽な事を言いながら、レンは最後の良い知らせとやらを高らかに告げる。

 

「なんと──B小町の東京ドームライブの開催が決定した!!!

 

「マジか!」

 

それはアクアの妹であるルビーが所属するアイドルグループ〝B小町〟の東京ドームでの大規模ライブの開催。一度掴みかけたものの潰えてしまってから十年以上の月日を経て……ついに再び開催される時が来たのである。

 

「そうか……とうとうルビーはアイと同じ……いや、それ以上のアイドルになれたんだな」

 

ついにルビーが…■■■ちゃんが…その夢を叶えたという事を聞き、アクアは感慨深そうに…それでいて嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「直接観に行けないのが残念だがな……」

 

「まぁ、流石にそればかりはな」

 

死神であるレンであれば何とか都合は付けられるかもしれないが、ただの霊体であるアクアでは現世に赴くことは不可能だ。

 

「けど安心しろ。調べてみたらネットでライブの生配信もやるみたいでな、浦原さんに頼み込んでこっちでも観れるように手配してもらうつもりだ」

 

「! そんなこと出来るのか?」

 

「現世のテレビ番組を尸魂界でも視聴できるようにした人だぞ。相談してみたら、出来るってよ」

 

「そうか……是非頼む」

 

「任せとけ。ついでだ、サイリウムとか必要なモンは全部揃えてやるよ」

 

「レン」

 

「ん?」

 

「──ありがとう」

 

「……はっ、気にすんな」

 

穏やかな顔つきで、珍しく素直に感謝の言葉を口にしたアクアに対し、レンも釣られるように穏やかに笑ったのだった。

 

「さて、それじゃあ前祝として──」

 

そう言うと、レンは持って来ていた風呂敷の中から何かを取り出し、それをドンっとアクアの眼前に置いた。

 

「呑むぞ!」

 

達筆な文字で『大吟醸』と書かれたラベルが目立つ一升瓶……つまり酒だった。

 

「お前……これは!」

 

「おうよ、現世から取り寄せた高級酒だ。ツマミも色々作って来たから、適当に食ってくれ」

 

「おお……!」

 

二人分の盃と、レンお手製のツマミ料理が入った重箱が並べられ、アクアは目を輝かせる。

酒もそうだが、流魂街に来てから質素な食事続きだった為に、久方ぶりの上質な食事に感動すら覚えたのだ。

 

それから酒が注がれた二つの盃をそれぞれ手にしたレンとアクアは、どちらからともなく、それを高々と掲げて口上を言い放った。

 

 

 

 

 

「我らがB小町のドームライブ開催を祝して──」

 

「そして……【推しの子】達の未来に──」

 

「「乾杯!!」」

 

 

 

 

 

Fin




此処までとなります。作者の妄想にお付き合いくださり、ありがとうございました。
以下、蛇足です。


・星野アクア
アイの復讐とルビーの未来を守る為にカミキヒカルと共に心中を図り、命を落とした。
その後霊体となったところをレンとアイの死神二人に保護され、自身の葬式を見届けてから魂葬されて尸魂界へ。流魂街での暮らしには面食らったが、転生前も似たような住居だったので馴染むのは早かった。
尸魂界に来てから霊力に目覚め、レンにコントロールの仕方を教わる。しかし才能があったのか、あっという間に緻密な霊力操作をマスターした。その後は教わった『回道』を駆使して、流魂街で町医者のような活動をしている。
レンの事は気の良い友達だと思っており、彼にならアイを任せても大丈夫だと考えている。
一度だけ死神にならないかという提案をレンから受けたが、きっぱりと断っている。その理由はルビー達の事を決して忘れない為。
彼はいつか此方に来るであろう彼女達を待ち続ける道を選んだのだ。
全てをやり遂げた彼の眼に……もう星は宿っていない。


・夜代レン
アクアのズッ友。彼の死を防げなかった事を悔いている。
定期的に流魂街に赴き、アクアの家で雑談したり呑み明かしたりと関係は良好。たまに現世のルビー達の様子を確認しては、それを報告している。
最近同僚と婚約したらしい。


・星野アイ
今回は誠に遺憾ながら出番無し。
紆余曲折を経て、双子が生前の自分の子供だと自覚する。復讐に走って命を落としたアクアにキレて盛大に叱ったが、そもそもの発端が生前の自分にある事を知って自己嫌悪に陥る。
アクアとどう向き合って良いのか分からず避けるようになってしまい、さらに自己嫌悪に拍車がかかる。
しかしレンの懸命な説得と励ましによって徐々に立ち直ってきており、アクアと再び向き直れるようになる日もそう遠くない。
最近同僚と婚約したらしい。


・カミキヒカル
普通に地獄行き。
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