推しの子×BLEACH   作:ZEROⅡ

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今回から今ガチ編です。
やりたい放題やってやるぜ。


第十七話

 

 

 

 

 

場所は東京都某所にある芸能事務所『苺プロダクション』。

そのオフィスでは同じ陽東高校の制服に身を包んだ三人の少女が備え付けの長椅子に肩を並べて座り、テーブルに置いたタブレットでとある番組を視聴していた。

 

 

 

~今からガチ恋♡始めます~

新シーズン、開幕

新しい恋の季節が始まる

今回参加する七人のメンバーは……

 

 

 

それは通称『今ガチ』と呼ばれる恋愛バラエティ番組の第一回目となる放送。

タブレットの液晶画面に舞台となる何処かの学校内の映像背景と、ポップなタイトルとモノローグが映し出される。

 

その映像を眺めているのは…アイドル(自称)である『星野ルビー』、同じくアイドル(自称)であり役者の『有馬かな』、そして近々ファッションモデルとしてデビュー予定の『星野アイ』の三人。少し離れたデスクには、社長である『斎藤ミヤコ』も控えている。

何故彼女達が揃ってこの番組を視聴しているのかと言えば、同じ事務所に所属する星野アクアと夜代レンの男衆が出演するからである。

 

片やルビーにとっては実の兄で、かなにとっては少なからず好意を寄せる相手であり、片やアイにとっては同居人で明確な好意を向けている相手になるのだ。

そんな野郎二人が恋愛リアリティーショーなる番組に出演するとなれば、気になってしまうのも仕方がないというもの。

 

それからも番組は進んで背景が教室に切り替わると、出演者である七人の簡単な自己紹介と紹介映像が流れ始めた。

 

『えっと…鷲見ゆきです。高一です』

 

最初に紹介されたのは『鷲見ゆき』。

高校一年生・ファッションモデル。

鈴を転がすような声で名乗る彼女は、可愛らしい顔立ちをした容姿はさることながら、全体的に整えられたスタイルも併せ持つ少女だ。流れる紹介映像も彼女が華やかなランウェイを歩く姿が映し出されている。

 

『熊野ノブユキでっす! ダンスが得意です!』

 

続いて二人目は『熊野ノブユキ』。

高校二年生・ダンサー。

元気に名乗る際の明るい声や表情は裏表を感じさせず、この時点で既にムードメーカーのような雰囲気を持っていた。紹介映像でもヒップホップやブレイクダンスなどの様々な踊りで魅せる姿が流れている。

 

『黒川あかね、高校二年生…役者です』

 

三人目は『黒川あかね』。

高校二年生・女優。

青みがかった黒髪が映える綺麗な顔立ちをした彼女は、名乗る時の声色は遠慮気味だが役者らしくハッキリと聞き取りやすい透き通る声をしている。同時に映し出された紹介映像では、ホームである舞台であらゆる役を演じる姿が披露されている。

 

『高三のMEM(メム)ちょです。ユーチューブで配信してます! よろしくね♪』

 

四人目は『MEMちょ』

高校三年生・ユーチューバー。

彼女の底抜けに明るい雰囲気と愛嬌を感じさせる顔立ち、そして軽やかに弾むような声は動画サイトの配信者としての人気を得ている要因の一つとも言える。紹介映像にも楽しそうに動画撮影やラジオ配信などの企画に取り組む様子が映っている。

 

『森本ケンゴ、バンドやってます。よろしく』

 

五人目は『森本ケンゴ』。

高校三年生・バンドマン。

灰色のマッシュウルフで整えられた髪型に、その隙間から覗く両耳のピアスがバンドマン然とした雰囲気を醸し出す。ボーカルも担当しているのか、流れる紹介映像ではステージの上でギターを弾きながら歌っている姿が映っている。

 

「なるほどね……芸能活動をしてる高校生が週末色んなイベントを通じ交流を深め、最終的にくっつくとかくっつかないとかそういう番組……」

 

そこまで観てから、かなが番組について分析するようにそう語る。

 

「みんな綺麗な顔してるよね~」

 

「そこは面食いで有名な鏑木Pの好みね。まぁ、恋愛番組なら顔が整ったメンツ揃えた方が番組受けするってのも分かるけど……」

 

「あ、お兄ちゃんだ」

 

アイの呟きにかなが答えていると、六人目となる『星野アクア』の姿が画面に映し出される。

それに反応したルビーの声に釣られてアイとかなも画面に視線を戻すと……

 

『アクアです☆ なんかめっちゃ緊張するわ~! 皆、よろしくね!』

 

「「いや誰!!?」」

 

そこに映っていた爽やかな笑顔を振り撒きながらハツラツとした挨拶をするアクアの姿を見て、思わずルビーとかなが揃って絶叫に似たツッコミを上げてしまう。

普段からダウナーな雰囲気を纏っている男が、唐突に真逆な明るいタイプになっているので当然と言えば当然である。

 

「お兄ちゃん陰のオーラ発してる闇系じゃない!」

 

「キャラ作り過ぎ!!」

 

「あははははは! アクア君やってるね~!!」

 

番組に合わせたキャラ作りだとは分かってはいるが流石にやり過ぎだろうと、ルビーとかなは画面越しに批判の声を上げる。その二人とは対照的に、何故かアイはそんなアクアを見て可笑しそうに爆笑している。

 

『えぇ〜かっこぃ〜! 役者さんってあこがれるぅ』

 

そこへMEMちょが媚びるような声色と仕草でアクアを称賛するシーンが画面に映る。

 

「あーあ、お兄ちゃんこういうぶりっ子タイプに厳しいからなぁ…この子はないなぁ」

 

それを見たルビーがMEMちょに厳しい評価を下す。普段のアクアであれば、ぶりっ子で近づいてくる相手には冷たく「は?」と言ってから突き放す。これは実際に中学時代ではそういう場面を何度か見た事もある妹のルビーだからこその正当な評価だろう。

しかし──

 

『MEMちょも可愛いね。めっちゃ照れる……』

 

「「は? 死ね」」

 

再度ルビーとかなが声を揃えて抑揚の無い口調で言い放つ。その際の二人の目はハイライトが消えうせ、底冷えしそうなほど暗く冷たいものだった。

 

「なんだあいつ……私には可愛いなんて勧誘の時しか言わなかったくせにィ……!!」

 

「女に囲まれて浮かれてんな……帰ったら説教だわ……」

 

画面に映るアクアを、かなはギィィっと歯軋りしながら嚙みつくように睨み、ルビーは失望の眼差しで見据える。

 

「結局お兄ちゃんもオスなんだね」

 

「チョロそうなメス見付けたらすぐコレだよ」

 

「もー、ルビーちゃんもかんなちゃんもそんな怒らなくても~」

 

そんな毒を吐き続けるルビーとかなを見かねて、アイが声を上げる。先ほどまで普通に番組を楽しんでいた彼女は、やれやれと言いたげに荒ぶる二人を宥めようとする。

 

「別に怒ってないわよ。ただ普段私達の前ではちっとも笑わない男が余所でヘラヘラしてるのが気に喰わないだけ。あとアンタ次わざと名前間違えたらデンプシーロール叩き込むわよ

 

考えとく。アクア君のコレはお仕事用の演技で、本気じゃないんだからそこまで目くじら立てなくていいのに」

 

「それはっ……わかってはいるわよ……」

 

画面に映る爽やかなアクアは、あくまで彼の演技だ。それは役者であるかなも頭では分かってはいる。しかしそれでも、少なからず好意を寄せている相手(アクア)が自分ではない女に笑顔を向けている姿を見ると、焦燥感に駆られて仕方ないのだ。

 

「アイちゃんは怒らないの? もし次に出て来る夜代さんが他の女の人にデレデレしてたら……」

 

「まっさか~♪ レンは自分から女の子を口説くタイプじゃないから大丈夫だよ」

 

ルビーの問いに対してアイは余裕そうに笑う。尸魂界でもアイや副隊長の雛森を始めとした綺麗どころの女性死神と交流があるレンが、今更人間相手に靡くとは思えないのだ。まぁだからこそアイ自身も色々苦労しているのだが……

 

「あ、噂をすれば夜代さんだ」

 

と、丁度ここで画面に七人目となる『夜代レン』が登場する。それに気付いたルビーの声に反応して他二人の視線も画面へと戻る。

 

『夜代レン、新人だけど一応モデルだ。よろしく頼む』

 

「うーん……なんていうか、いつも通りって感じ?」

 

レンの登場場面を見て、ルビーはそんな感想を抱く。

顔立ちは男前の部類に入るだろうし、スタイルも制服越しでも分かるくらいに引き締まった体格と相まって全体的にスラっとしている。その点だけを見れば他の華やかなメンバーと比べてもそこまで大差無いが、何故か普通と感じてしまう。

 

「レンは取り繕わずに自然体で来たって訳ね。慣れない演技で下手に取り繕おうとすると、すぐボロが出てグダグダになるかもしれないから別に悪いことじゃないわ。けど、あの集団の中じゃあ普通に見えるのも仕方ないわね」

 

そこへかなが役者目線を交えた見解を述べる。

確かにレンは自然体でいつも通りに振舞っているが、その挙動が芸能人というよりも何処にでもいる高校生という風に感じさせ、それが他のメンバーとの間に違和感を与えているのだろう。

 

すると、ここで動いたのは鷲見ゆきだった。

 

『へぇ~、同業の私から見ても顔もスタイルも抜群だし、期待の大型新人って感じだね!』

 

『ははっ、ありがとな。正直まだ右も左も分かってない若輩者だけど、鷲見さんのような端麗な人にそう言って貰えるのは素直に嬉しい。よかったら後で、モデルの先輩として話をさせてもらっても?』

 

『うん、いいよー♪』

 

単に同じモデルとしての興味からか、番組企画を意識しての行動かは不明だが、屈託のない笑顔を浮かべながらレンの評価を口にする鷲見ゆき。対してレンも釣られるように笑いながら口説き文句とも取れる台詞を返していた。

 

「…………………………ふぅん」

 

その映像を、口元は笑っているのに目が一切笑っておらず、黒に染まった星の瞳で眺めているアイ。

 

「アイちゃん、怒ってる?」

 

「んー? ぜーんぜん! レンのコレは社交辞令だって分かってるからねー、こんなことでイチイチ怒ったりしないよ~♪」

 

恐る恐ると尋ねるルビーに、アイは怒りなど微塵も感じさせない明るい笑顔と口調でそう返事をした。

 

 

──嘘である。

この女、今にも画面越しのレンに思いつく限りの罵詈雑言を浴びせてやりたい衝動に駆られている。しかし先ほどルビーとかなの二人を窘めた手前、流石にそれを行動に移すのは憚られた。なのでその衝動をグッと堪え、溢れる激情を笑顔の裏に隠したのだった。

 

 

因みに……

 

「…………(プクー)」

 

「(いや分かりやすいわねコイツ)」

 

「(膨れるアイちゃん……きゃわ♡)」

 

うっかり隠しきれなった分は普通に顔に出ていたので、普通にバレていた。

 

「はいはい三人とも落ち着いて」

 

その様子を見かねて、社長であるミヤコが口を開いた。

 

「身近な男が女にデレデレしてる所見ると腹立つのは分かるけれどね、そうしないと番組が成り立たないでしょ? アクアは役者としてそういう男を演じる気持ちでそこに居るんだと思うし、夜代君も未経験なりにちゃんと番組の趣旨に沿って行動しようとしてるわ」

 

出演している男衆二人をフォローするように言葉を述べるミヤコ。彼らは決して下心などではなく、出演者として番組の意向通りに行動しているに過ぎないので、責められる謂れは無い。

それは子役からこの業界に居るかなだって理解はしている。しかしそれでも、憤る思いを口に出さずにはいられなかった。

 

「分かってるけど、これ最後本当に告白して恋人になったりするんですよね」

 

「え」

 

「そうね。形式だけでもそこの筋は通す事になるでしょうね」

 

「告白成功したらキスとかするんでしょ」

 

「え」

 

「まぁ定番ね」

 

「こんな番組、なんで受けたんだろ……」

 

『今ガチ』はリアリティーショーを謳っているだけあって、成立したカップルはその場でキスをしたり、番組終了後もそのまま付き合い続ける等の事例も多々ある。

もし万が一にもこの番組でアクアがそうなってしまったらと考えると、途端にやるせない気持ちになってしまうかな。

 

「でも……貴女だって女優を続けるなら、いずれキスシーンとかも求められる。ここを割り切るにも仕事の内。この業界でガチガチの貞操観念持ったままだと後々辛いわよー」

 

「分かってるけどさ……」

 

ミヤコの言う事も分かってはいる。それでも、かなの胸の奥で燻ぶる気持ちは、そう簡単に割り切れそうになかった。

 

 

──それはそれとして……

 

 

「え…ちょっと待って……コレって本当に恋人になったり、キスしたりするの?」

 

初耳とでも言いたげな表情で固まっているアイに、かなとミヤコが揃って「何を今更」と言った目を向ける。さっきから二人の会話中にちょいちょいリアクションしてたのには気づいていたが、まさか番組のコンセプトすら把握していなかったとは思いもしなかった。

 

「まぁ…それが恋愛リアリティーショーというものよ」

 

「実際、前シーズンで成立したカップルが最後にキスしたシーンも放映されてたわね」

 

「そっか…そうなんだぁ……」

 

それを聞いたアイはポツポツと呟きながら視線を番組へと戻す。しかし先ほどまでと違って、どこか不安そうにそわそわとして落ち着かない様子なのは見て取れた。

そんなアイの様子を見たかなは、彼女も自分と同じ気持ちなのだろうと密かに共感していた。

 

「もしかしたら夜代さんも最後に誰かと付き合ったりキスとかしちゃうかもね!」

 

「アンタ人の心とか無いの?」

 

無邪気に笑いながらそんな事をほざくルビーに、かなは割と本気で引いた。鬼畜の所業である。もし今の言葉が自分に向けられていれば、かなはきっとこのあっぱらぱーを八つ裂きにしていただろう。

 

しかし誤解の無いように言っておくと、ルビーの中にアイに対する悪気は一切無い。決してアイの不安を煽ろうだとか、幻滅させてやろうだとかという考えは全くと言って良いほど皆無である。

有るのは単なるレンへのちょっとした嫌がらせという悪意のみ

どっちにしろタチが悪いのだが……

 

「あはは……そうだね、もしそうなったら──」

 

それに対してアイは困ったように笑うと……その湛えている笑みが一瞬で妖しいものへと変わり、消えたハイライトの代わりに黒い星だけが浮かび上がる瞳をしながら言い放った。

 

自分でも何をするか分かんないかなぁ

 

──本気(マジ)である

 

「(怖っ…)」

 

「(事と次第によっちゃレンが死ぬんじゃないかしら)」

 

「(嫉妬するアイちゃん……推せる!)」

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

一方その頃……『今ガチ』の舞台となっている学校では、番組の撮影が着々と進められていた。

 

この番組では定点カメラのアングルやカメラマンの動き、更には台本が無い代わりにディレクターからの演出指示が入ったりなど気を付けるべき所は多々あるが、基本的に出演者は自由に動いて良い。それが『今ガチ』における、エンタメ性を確保しつつメンバーの個性からリアリティを引き出す為の演出方法だった。

 

そしてその番組の出演者である星野アクアはと言うと……

 

「でえ、うちの犬ぅ」

 

「うんうん」

 

中庭を模した広場にあるベンチでユーチューバーであるMEMちょと並んで座り、爽やかキャラを維持しながら彼女がスマホで見せてくる犬の写真を眺めていた。

もちろん二人っきりという訳ではなく、周囲にはカメラマンや音響係などの数人のスタッフの姿もある。つまりは仲良く会話している演出の撮影中という訳だ。

 

「ほら、かわいくてぇ。みてみてぇ」

 

「うんうん。可愛いねぇ」

 

などと笑顔で頷いてるアクアだが、内心では実のところMEMちょとの会話などただただ「だるぅ」としか思っていない。中身が成熟し切っているアクアにとって、若者特有の共感し合うだけの会話など苦痛以外の何ものでもなく、何ならもう既にこの仕事を受けた事を後悔すらしていた。

 

それでもアクアがこの番組に出演しているのは、プロデューサーである鏑木雅也との取引の為だ。

仕事柄、当時の〝アイ〟を色々お世話していたという彼は苺プロすら把握していない〝アイ〟の情報をいくつか握っているという。それこそ……彼女の異性関係の情報も。

それを教えてもらう代わりに、交換条件として『今ガチ』に出演する事になったのだ。

 

全てはストーカーをけしかけて〝アイ〟を殺した真犯人であり、自分達の父親を探し出す為に。

そのヒントを得る為なら、多少精神的にキツくても、アクアにはこの番組をやり遂げるしかなかった。

 

「オッケーです」

 

「はーい♪」

 

ようやくディレクターからOKが出たところでMEMちょはベンチから立ち上がり、アクアもやっと解放されたかと安堵しながらその場から離れた。

 

「…………げっ」

 

そして離れた際に、ふと視線を向けた先でソレを目撃してしまったアクアは、思わず顔を顰めてしまった。それは……

 

「うおーホントだ、こんなトコで撮影やってる」

「なんかの映画かドラマのかな?」

「美男美女ばっかだし、恋愛ものじゃない?」

 

野次馬だった。まごうことなき野次馬だった。

出演者でもスタッフでもない数人の男女が集まって、堂々と撮影現場を眺めている。明らかに撮影の邪魔だが、誰もその野次馬を注意しようとしない。それどころかアクア以外の誰も気づいてすらいなかった。

 

だがそれもそのはず……胸から千切れた鎖を生やした彼らの事なんて、誰も見えていないのだから。

 

「………幽霊が野次馬なんかしてんなよ」

 

この場で唯一彼らを視認出来ているアクアが、誰にも聞こえないような声量でポツリとぼやく。

そう…野次馬達は全員幽霊だった。

 

 

星野アクアは幽霊が見える。

 

 

彼自身がそれに気づいたのはほんの数日前……厳密に言えば謎のサンバ集団に襲われた翌日からだ。

最初こそ何かぼんやりしたものが視界の端に過ぎる程度だったものが、日を追うごとにぼやけていた輪郭が鮮明になっていき、あっという間にその存在を視認出来るようになってしまった。

 

当然ながらアクアは混乱した。

突然幽霊などという非現実的なものが見えるようになってしまったのだから無理もないだろう。

同じサンバの被害者であるルビーと有馬にもそれとなく確認してみたが、二人とも特に変わった事はないとのこと。つまり幽霊が見えるようになったのは自分だけ。

誰かに相談など出来る訳も無く、一人で抱え込むしかなかった。

 

幸いなのは幽霊(かれら)はちょくちょく視界に入ってきて目障りではあるが基本的には無害だということ。

ホラー映画などでよくある悪霊のように人間の体に憑りついたりは出来ないようだ。

それならばあっちから干渉してこない限り、こっち側も不干渉というスタンスを貫く事にした。

 

「………これも、君を救えなかった報いなのかもな」

 

消え入りそうな声でそう呟くアクア。

自身の身に起きているこの不可思議な現象はある種の〝〟なのではないかと思い始めていた。

もしくはあの日……彼女を見殺しにしてしまった己に課せられた、己の罪を決して忘れるなという〝呪い〟なのかもしれない。

そんな自分でもバカバカしいと思う事を考えながら、アクアは少し一人になりたくて演者やスタッフ達から少し離れた場所へと移動していった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

同時刻…アクアと同じ苺プロからの出演者であるレンの方はと言うと……

 

「へえ…じゃあ黒川さんは舞台がメインの役者なのか」

 

「うん。たまにドラマのエキストラとかで呼ばれたりもするけど、劇場で演技する方が多いかな」

 

広場の片隅で女優の黒川あかねと二人で肩を並べて会話していた。今はカメラが二人には向けられていないので、恐らく撮影合間の雑談のようなものだろう。

切っ掛けはなんとレンの方からであり、ディレクターからの演出の話を丁寧にメモしていた彼女に声を掛けたのが始まりである。

 

「やっぱり舞台でやる演劇って、ドラマや映画でやる演技とはまた違う感じなのか?」

 

「夜代君は舞台を見た事無いの?」

 

「うーん…黒川さんには悪いけど無いかな。そう言うのに触れる機会も無かったし、上京して(コッチにきて)からは漫画とかアニメばかりに目が行ってさ……」

 

「そうなんだ……でも漫画とかが好きなら2.5次元の舞台がオススメだよ。特に今の舞台はね──」

 

主にレンが話を振って、それをあかねが答える形で会話を繰り広げている。

最初は緊張気味だったあかねも舞台や演技の話を振られてからは段々と口数が多くなっていき、結構楽しそうにして話が弾んでいる様子だった。

 

「っと…黒川さん」

 

「え?」

 

すると、会話の途中で突然レンがあかねとの距離を一歩だけ詰め、彼女に向っておもむろに右手を伸ばし始めた。

 

「え…あ…や、夜代く──」

 

「じっとして」

 

「ひゃい!」

 

いきなりの急接近にあかねは頬を朱に染めつつも驚いて後退ろうとするが、囁くように告げられたレンの言葉に思わず固まってしまう。そして上擦った声で返事をしながら、近づいて来る手を前に両目をぎゅっと強く閉じた。

 

そのままレンの伸ばされた右手が、そっとあかねの左頬に添えられる──ことはなく……

 

「よし、取れた」

 

「………へ?」

 

「落ち葉、髪に付いてたからさ」

 

きょとんとするあかねに、右手の指先で摘まんだ葉っぱを見せるレン。どうやら今の一連の行動は、彼女の髪に落ちたそれを取る為だけだったらしい。

それを理解した途端、羞恥やら何やらであかねの顔全体がボンっと真っ赤に染まった。

 

「あ…ありがとう……! わ、わたしそろそろ戻るね……!」

 

「わかった。じゃあまた後でな」

 

そのままあかねは顔を赤くしたまま、恥ずかしそうにしてピューっと逃げるようにその場を離れて行った。

そんな彼女の背中を、レンはひらひらと手を振りながら見送ったあと……貼り付けていた笑みを引っ込めてスッと目を細めて真顔になる。

 

「ハァァ~~しんど……」

 

摘まんでいた落ち葉を指先で弾いて捨てながら、大きな溜息を吐き出すレン。

 

「さて、どうしたもんかなぁ……」

 

そして左手で後頭部をガシガシと乱暴に掻きつつ、悩まし気にぼやいたのだった。

 

 

 

 

 

因みに先ほどまでのレンとあかねの一部始終はカメラマンにちゃっかり撮影されており、後日そのシーンが使われる事を彼らはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

To Be Continued




今回使用したかぐや様ネタ、結構好きなんでこれからもちょくちょく使うかもです。


・星野アクア
いつの間にか霊感に目覚めていたサンバの被害者。
幽霊が見えるのは鬱陶しいが今のところ実害は無いので放置しているものの、自分への罰や呪いだと思っているので、実はメンタルは結構マイナス方面に寄っている。
今ガチでは基本的に原作と同じスタンス。実はあの後原作通り鷲見ゆきにダシにされた。

・夜代レン
死神初の芸能界デビューを果たした五番隊第十席。
目的はアクアの護衛なので恋愛などする気はなく、番組は極力目立たず適度に済ませるつもりだったハズが、何故か黒川あかねと親し気に会話し、更には彼女に少女漫画のようなムーブをかましたクソボケ。因みに素である。クソボケがよ。

・星野アイ
今ガチが始まってから気が気じゃない五番隊第九席。
万が一その時が来たら、嫉妬に狂うのか、泣き寝入りをするのか、奪い返そうとするのか本当に自分がどうなるのか分からない。

・有馬かな
アイにちょっとシンパシーを感じてる元重曹を舐める天才子役。
彼女がいるとツッコミ役が楽。

・星野ルビー
霊感に目覚める様子が一切無い自称アイドル。
レンのことは決して嫌いではないが、複雑な諸事情によりちょっとした嫌がらせとかしちゃう難しいお年頃。

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