あとモンハンワイルズ楽しい。
「お兄ちゃんと夜代さんは収録で忙しい。かたや私は……」
場所は苺プロダクションの事務所。
そこでは星野ルビーが腕を組みながら悩まし気にぼやいていた。その近くでは有馬かなが一応耳を傾けつつソファに寝転がりながら『よくわかるエリマキトカゲ』という謎の本を読んでいた。
「先輩、仕事無いの慣れてるでしょ? 普段何して過ごしてたの?」
「顎にジャブ入れて脳揺らすぞコラ」
余りにも失礼な物言いに対して過激な言葉で返すかな。
「暇なら勉強してなさいよ。アイドルなんて売れても食えない上に旬の短い仕事なんだから、良い大学入る為に何かした方が人生にとってプラスよ」
「身も蓋も無い……」
しかし正論である。
「ってかそれより……あいつ一体どうしたのよ?」
「あー……」
そう言って部屋の一角を指差すかな。釣られてルビーも気まずそうな表情でそちらに視線を向けた。そこには……
「………………ハァ」
何やら部屋の片隅で溜息を吐いているのアイの姿があった。
今のアイはオフィスチェアの上で膝を抱えながら座り、ぼんやりとしている様子だ。
何故彼女がそんな状態になっているのか、原因に心当たりがあるルビーとかなは若干声を潜めながら会話する。
「多分アレじゃない? ほら、この前の今ガチで……」
「ああ……なるほど。そう言えばレンが黒川あかねに少女漫画みたいなムーブしてたわね」
思い至るのは先日二人も視聴した『今ガチ』のワンシーン。
それは苺プロからの出演者である夜代レンが、黒川あかねの髪に付いた落ち葉を取ってあげたという場面。
言葉にすればそれだけだが、その前に親し気に繰り広げられていた二人の会話、レンの距離の詰め方や囁くような掛け声、そしてあかねの初心な反応等が合わさり、まるで少女漫画ようなシーンだったとネット上でちょっとした話題となっていた。
レンの事が好きだと公言しているアイにとって、それは決して面白いものでは無いだろうという事は想像に難くない。
「いつもアイちゃんと一緒に居るくせに他の女に靡くとかホントありえない。夜代さんのこと良い人だと思ってたけど所詮オスなんだね。普通に幻滅した」
「しかもよりによって相手が黒川あかねとか…趣味が悪いわねレンの奴も」
結果、レンは知らないところでルビーとかなの二人から謂れの無いヘイトを向けられていた。双方ともに個人的な私怨も入っている気がするが……
「──アイちゃん!」
「わっ!? ビックリした…」
ついに我慢できなくなったルビーがアイに駆け寄った。そんな彼女の勢いにボーっとしていたアイはつい驚いてしまう。
「夜代さんのことなんか気にしなくていいからね! アイちゃんの魅力に気付かないで他の女に目移りしてる夜代さんの目が節穴なだけなんだから! 何らならもう男のことなんて忘れてアイドルの道を考え直してみない!?」
「うんゴメン…一から十まで何の話かな?」
「はいはい落ち着きなさいルビー。あとシレっと自分の願望を混ぜるな」
勢いのままに捲し立てて来るルビーにアイは困惑し、そこへ流石に見かねたかながソファから立ち上がって間に割って入る。
「要するに、ルビーは元気の無いアンタを心配してるのよ。その原因がレンって分かった上でね」
「あー……分かる?」
「流石に分かるわよ。いつまでも近くで辛気臭い顔されたらたまんないし、話くらいなら聞いてあげなくもないから言ってみなさいよ」
ぶっきらぼうな口調でそう告げるかな。言い方はアレだが、彼女なりにアイの事を気にかけているのだろう。
「まぁ、どうせアレでしょ? この間の今ガチでレンと黒川あかねがイチャついてたのがショックで悩んでるんでしょ?」
次いで先ほどまでルビーと話していた推測をそのまま言葉にして、したり顔で告げるかな。対してアイはきょとんとした表情を浮かべ……
「え…違うけど」
「「違うの!!?」」
違ったらしい。
「うん、それについては家でレンを問い質した上でシメといたから大丈夫かな」
「あ、
一応アイはレンからその件に関しての事情は聞いている。内容は割愛するが、彼の言い分に対してアイはちゃんと納得はしている。
まぁそれはそれとして不満自体はきっちりぶつけたらしいが……
「じゃあ何に悩んでるのよ? レンが原因なのは間違いじゃないんでしょう?」
「えっと…レンが原因というか……その……」
かなにそう問い詰められると、アイは何やらモジモジとして言い淀んだ後……気恥ずかしそうに言った。
「最近家でレンに甘えてないなぁって……」
「はいはいこの話は終わり終わり! 心配して損したわよくっだらねぇ!!」
言うや否やキレ気味で声も口調も荒げながら踵を翻してソファへと戻って座り直すかな。
心配して事情を聞いてみれば何とも甘ったるい声でそんな返答が帰ってきたのだ。こういう反応になっても仕方ないだろう。
「収録が始まってからレンも忙しそうでね、前みたいに定期的に甘えることが出来なくなっちゃってさー」
「終わりだっつってんでしょうが話続けんなや」
かながドスの効いた声でそう言い放つが、アイはまったく動じない。むしろこの場でダメージを負っているのはルビーの方だった。
「アイちゃんが……え???……夜代さんに…甘え……え?????」
「ほら見なさい。ルビーが脳に致命傷を負ってるじゃない」
宇宙を背負ったネコのように呆然としているルビー。既に見開かれた目の焦点は定まっておらず、全身が小刻みに震えている。もはやノックアウト寸前である。
「あ…甘えるって、どんな風に……?」
「何でアンタは瀕死のくせに果敢に挑もうとしてんの?」
しかしルビーはグロッキー状態にも関わらず、無謀にもアイに詳細を尋ねるという暴挙に出た。
かなの呆れたようなツッコミも彼女の耳には入っていない。
「んーそうだなぁ……まずは普通にくっついたりとか……」
「ぐぅ…!!」
「膝枕してもらったりとか……」
「ごふっ…!!」
「あとお風呂上りに髪を梳かしてもらったりかな! あれ気持ち良くて癖になるんだよねー♪」
「ぐはぁぁぁ!!」
結果、ルビーは膝から崩れ落ちた。
此処がもしリング場であれば試合終了を告げるゴングが鳴り響いていた事だろう。
「うぅ……甘えるアイちゃん可愛い……夜代さんマジ羨ま……」
そんな事をぼやきながら床に倒れ伏すルビー。
「まったく、これだから一般人上がり共は……よくもまぁそこまで恥ずかしげもなく惚れた腫れたの話題で盛り上がれるわね」
すると、これまでの光景を傍観していかなは呆れ果て、吐き捨てるように言った。
「あれー? かなちゃんは恋バナとか嫌い?」
「そういう問題じゃないわよ。アンタ達、デビュー前とはいえ芸能界に身を置いてる自覚が足りないんじゃない? もしこんな惚気話を外でしようもんなら速攻ですっぱ抜かれて大炎上確定コースよ。それだけこの業界は男女の関係に厳しいんだから。もっと芸能人としての危機感を持ちなさい」
かなから言い放たれる厳しい苦言。しかしそれには子役時代から長年芸能界に身を置いている彼女だからこその重みがあった。
「そもそも同居人とはいえ、異性とのあれこれを赤裸々に語るとか、人としての慎みってもんが──」
「でも、かなちゃんも興味はあるでしょ」
「────ハァ?」
唐突に言葉を遮ってそんな事を言ってきたアイに、かなは一瞬だけ呆けたように間を空けてから、懐疑的な表情を浮かべた。
「いや意味分かんないだけど……」
「またまた~♪ だって──」
そう言ってアイはニコニコと笑いながらソファに座るかなに歩み寄ると、彼女にしか聞こえない声量でそっと耳打ちする。
「かなちゃん、好きな人いるでしょ」
「!?」
「ってかアクア君でしょ」
「!?!?!?」
直後、かなはソファの端まで後退りながらアイから即座に距離を取る。その顔は耳まで真っ赤に染まっており、明らかに動揺しているのが見て取れる。
「アアアアアンタ! な、ななな何を……!!」
「フフン♪ 見てたら分かるよ。年の功ってやつかな」
「アンタ私の一個下でしょうが!!」
得意気にドヤ顔をするアイに怒鳴るようにツッコミを入れるかな。
しかし残念ながら
この女、死神になる前の生前まで含めれば実年齢は三十路をとうに超えているのである。つまりアイとかなの年齢は一回り以上離れている。だが当然、かながそんな事を知る由もない。
「そ…それに私は別にアイツのことなんか……」
「うんうん、まぁその辺の真偽は置いとくとして……憎からずは思ってるでしょ?」
「……………………まぁ別に、嫌い、とまでは……」
頬を朱に染めて、視線を少し下にさげながらゴニョゴニョと自信無さそうに呟くかな。その反応だけで十分答えのようなものだが、あえてそこを指摘するのは野暮だろう。
「あはっ♪ かなちゃんかわいい~♡」
「ちょっ、やめなさいよ! 犬みたいに撫でんな! くっ…この……って力強いわねアンタ!!?」
そんなかなに愛らしさを感じたアイは楽しそうな笑顔を浮かべながら、彼女を撫で始める。しかも頭を、などではなく、顔の両端に手を添えて首元あたりをワシワシと撫でるというやり方。扱いが完全に犬猫のそれである。
当然かなも抵抗してその手を振り払おうとしたが、思いのほか彼女の力が強くて振り解けないでいた。
「ふっふっふ~♪ 猫をも骨抜きにする私の撫でテクを見せてあげるね♪」
「くぅぅ…やめろぉぉぉぉぉ離せぇぇぇぇぇぇ!!!」
楽しそうに笑いながら撫で続けて来るアイに、かなは絶叫する。
犬猫を愛でるように撫でられるのも屈辱的だが、何より撫でられて若干の心地よさを感じ始めている自分自身に言い知れぬ恐怖を感じたのだ。故にこそ、かなは必死に抵抗して抜け出そうとするがアイはビクともしなかった。
「あー! 先輩がアイちゃんになでなでされてる!! ズルイ!! アイちゃん!! 私もなでなでしてー!!」
「いいよ、後でね」
「後でね、じゃないわよ!! 今すぐにでも代わってあげるからコイツ引き剝がすの手伝いなさいよ!! 無駄に馬鹿力なのよコイツ!!」
そこへ復活したルビーが乱入したことで、場は一気に騒がしさを増した。
「3人共、ちょっといいかし──何これ?」
結局、この喧騒はカメラ片手にやって来たミヤコが止めるまで続いたのだった。
その後……流石に騒ぎ過ぎたので、三人がミヤコ社長から十数分ほどのお叱りを受けてから、本題に入った。
「実績作り? そのちゃちいカメラで?」
「ちゃちくても性能は十分よ?」
苺プロは十数年ぶりに新規アイドルグループを立ち上げたものの、持ち曲どころかユニット名すら決まっていない状態。何の活動実績も無いグループに仕事などあるはずも無く、メンバーであるルビーとかなの二人が暇を持て余しているのが現状だ。
その現状を打破する為の実績作りとしてミヤコが用意したのが、撮影用のカメラである。
「今アイドルカルチャーの中心はネット! 草の根をするにもここが一番コスパが良い。貴女達はまずネットで名前を売る所から始めましょう」
ミヤコいわく、一昔前の新人アイドルはビラ配りや合同ライブなどで名前を売っていたが、時代が変わった今では動画サイトでの配信などネットでの活動が主流となっている。つまりはネット配信で新生アイドルグループを大々的に宣伝しようという企画なのだ。
「ユーチューバーって事!?」
「そう。ユーチューブで固定客を作ってライブに人を呼べば効率がいいでしょ?」
「ミヤコさん賢い!」
「はー……社長、ネットを甘く見過ぎじゃないですか? こんな顔だけの女ネットに晒しても登録者いいとこ数千とかですよ」
「なんだと?」
ネット活動に否定的なかなだが、その発言は的を射ている。
今や数え切れない有象無象とほんの一握りのスターが入り乱れるユーチューブ界。その中に混じって名前を売るというのは言うほど簡単では無いのである。
「私のファン入れても1万いくかどうか……リアルイベントに動員出来るの、その内の1%とかなんですから結構厳しいと思いますけど」
「素人が仕掛けたらそうでしょうけど、これでも苺プロはティックトッカーやユーチューバーを多く抱えるネットに強い事務所よ。ノウハウはあるわ」
しかし社長であるミヤコはそんな事は織り込み済みで、とっくに手は打っていたらしい。
「丁度さっき協力してくれる人捕まえた所だから、彼に色々と教わるといいわ。じゃ、あとはお願い」
「オマカセ!」
そう言ってミヤコに呼ばれて入ってきた協力者とは──海パン姿にひよこを模した被り物をした男だった。
「へ……変質者だーーー!!」
その余りにもな風体に、かなはたまらず絶叫した。
「あ! ぴえヨンだ!!」
「ホントだー!」
「えっ誰!?」
逆にアイとルビーの方はこのひよこマスクを知っているのか、平然とした様子で笑って受け入れていた。
「小中学生に大人気!! 覆面筋トレ系ユーチューバーのぴえヨンをご存知でない!? ウチの稼ぎ頭だよ!」
「覆面筋トレ系ってジャンルがまず初耳!」
「バカみたいな格好だけど良く鍛え上げられてるし、筋トレ内容そのものは参考になるってレンも褒めてたよ」
「そのバカみたいな格好が問題なんじゃない!!」
一通りのツッコミを入れた後、かなは改めてぴえヨンなるユーチューバーの姿を見る。
筋骨隆々とした肉体の上に、ちょこんと乗せられているつぶらな瞳のひよこマスク。改めて見てもアンバランス且つインパクトが強いビジュアルだった。
「ユーチューブあんまり見ないから……こんな感じのが子供には人気なのね…世の中ってやっぱり何かイビツよね……」
「子供人気で言ったらかなちゃんのピーマン体操と同じくらいじゃない?」
「唐突に人の黒歴史に触れんなシバくぞ。てかあんなのと一緒にすんな!!」
「ぴえヨンになんて口を……! ぴえヨンさん、ビシッと言ってやってください!」
「所詮ネットってインパクト勝負って言うか……テレビの企画を流用したキャラビジネスって言うか……」
つらつらとネットに対する不満と批判を口にするかな。しかし……
「ボク年収1億ダヨ」
「舐めたクチ利いてスンマセンでした」
結局ぴえヨンの鶴の一声によって分からせられたかなは大人しくなった。
「それじゃあ二人の事はぴえヨンに任せるとして……アイさん」
「? はーい」
アイドル側の話が纏まったのを見計らって、ミヤコは次いでアイに声を掛けた。
「貴女にはモデル撮影のオファーが2件届いてるわ」
「おー」
「嘘ォ!?」
ミヤコから告げられた仕事の話にアイ本人は平然としていたが、代わりに傍で聞いていたかなが驚愕の声を上げる。
「早くない!? まだデビューもしてないモデルにいきなり2件もオファーが来るってマジ!?」
「マジよ。ワイハンス・エンタープライズの系列会社から直々にね」
「ワイハンス!!? 超大手企業じゃない!?」
「あ、そう言えばアイちゃんと夜代さんって、そのワイハンスって会社の社長とコネがあるんだっけ?」
「は?」
「私とレンじゃなくて、前に居た倒産した事務所の社長のだけどね」
「は???」
余りの情報量を処理しきれなくなったかなは、もはや宇宙を背負ったネコのようになっていた。
その後……ルビーとかなはぴえヨンとのコラボ動画企画で『ぴえヨンブートダンス』なる死ぬほどキツいダンスを1時間踊り切り、新生アイドルグループ『B小町』を発表したのだった。
一方その頃、今ガチのロケ地。
学校の教室を模したその撮影現場は現在……
「──で、ここで腕を掴んだら一気に締め上げて…こう」
「イダダダダダギブギブギブ!!!」
「「「お~!」」」
夜代レンによる護身術講座が開かれていた。と言ってもそんな本格的なものではなく、レンが口頭での説明の交えて実演し、それから他のメンバーに実践してもらうという至極簡素なもの。どちらかと言えば余興のようなものだろう。
淀みのない動きで相手を組み伏せるレンに、見学している面々が拍手を送る。因みに実演として技を掛けられているのは熊野ノブユキ。
何故こんな事をするようになったかと言うと、発端はメンバー全員が集まってトークしているシーンを撮影している時だった。
各々の食の好き嫌いから趣味の事やら、本当に他愛のない学生らしい話題で談笑していると……
『あの…もしかしてだけど、夜代君って何か武術とかやってるの…かな?』
少し遠慮気味な口調で、黒川あかねがそう切り出してきたのだ。
突然言い当てられたレンは少々驚きつつもそれを肯定。剣術や武道の心得があるという事を話すと、他の面々が面白がってその話を拾って盛り上がると、MEMちょがレンに護身術を教えてもらおうと提案。そして多少面食いつつも、簡単な技ならとレンも了承した。
そして……イマココ。
「じゃあ次、鷲見さんやってみる?」
「オッケー!」
「よし。ほらノブユキ、相手役なんだからさっさと起きろ」
「いやちょっと待って!! 何でまた俺!? 次はケンゴかアっくんだろ!?」
先ほどまでレンに組み伏せられていたノブユキがすぐさま立ち上がって抗議する。有無を言わさず技を掛けられる相手役に任命された事もそうだが、このまま続投されるのも納得がいかないので、他2人の男子を指差しながらそう言い放つ。
が……
「いや無理無理。俺達はキャラ的にこういうの向かないから。なぁアクア」
「そうだな。何よりノブユキが一番良いリアクションするからハマり役だろ」
「俺をリアクション芸人みないな扱いすんのやめてくんない!!?」
アクアとケンゴの2人からは切り捨てられ……
「ほらノブ君、君の勇姿はちゃんと撮ってるからね~♪」
「えっと…無理しない程度に、がんばって」
「俺の味方が1人も居なくね!!?」
スマホのカメラを構えるMEMちょと、苦笑しながら応援するあかねの両者も、止める様子が一切ない。
「じゃあノブ君、良い声で鳴いてね♪」
「なんか女王様みたいなこと言ってる!!?」
結局ノブユキは逃げられず、最後まで相手役を務めるはめになったのだった。
「みんなこれから芸能人としてやっていくなら、こういう場面に出くわす可能性はある。その対処法として身を守る術を教えたが、所詮は付け焼刃だから過信は絶対にするな。そもそもそう言った危険な所や時間帯に出歩かないなど、各々でしっかり対策すること。いいな?」
「「「はーい!」」」
最後にレンがそう締めくくって突発的に始まった護身術講座は終わった。
「はいオッケーです! 少し早いですが、今日の撮影は以上となります! お疲れ様でしたー!」
「「「お疲れ様でーす!」」」
同時にディレクターからのカットがかかると、本日の分の撮影終了が告げられた。
そして撮影スタッフ達が撤収作業で動いている傍らで、出演者の面々が肩の力を抜いて談笑をし始める。
「痛ってぇ~……レンレン、ちょっとは手加減してくれよ~」
「バカ言え、俺はだいぶ優しくやったぞ。むしろ手加減が無かったのは鷲見さんの方だ」
「いやーごめんね? 男の人を組み伏せられるってなったらちょっと楽しくなっちゃって♪」
「ゆきが変な扉を開きかけている……!?」
「コレもしかして俺のせいか……!?」
楽しそうに笑うゆきの本気か冗談か分からない発言に、レンとノブユキは揃って戦慄する。
「それにしてもレンたんって普段から鍛えてるの?」
「まぁな。つっても、こっちに来てからは簡単な走り込みと筋トレくらいしか出来てないが」
「ほほー……うわホントだすっごい!! 筋肉ガチガチだー! 細マッチョだー!」
「うん…服の上からだと分かりづらいけど、全身満遍なく鍛え上げられてる感じがする。凄いなぁ……」
「おいおい」
そう言って制服越しに触る腹筋や腕などの筋肉の感触にハシャぎ始めるMEMちょ。興味本位で触ってみたら意外と好感触だったらしい。ついでにあかねも触りこそしてないが、興味深く観察するようにレンの体を眺めている。
そんな彼女達に、レンは気恥ずかしそうに苦笑するしかなかった。
「そんな鍛えて何か意味あんの?」
「意味って……無粋なこと聞くなぁアクア」
そんな事を尋ねて来るアクアにレンは顔を引きつらせる。アクアとしては普通に聞いたつもりなのだろうが、それでももう少し聞き方をどうにかできないだろうかと思いつつも、レンはその疑問に対して考えながら答える。
「そうだな……モデルにしろ役者にしろ、結局は身体が資本だ。日頃からしっかり鍛えて調子を整えておくのも損じゃ無いだろ?」
「まぁ…そうだな」
「あと、いざって時の為にもなる」
「いざって時?」
「さっきの護身術と同じだよ。自分の身を守る為に行動するのも、誰かを助ける為に行動するのも、要になるのは鍛え上げた自分の身体だ。例えばそうだな──黒川さん、ちょっとごめんよ」
「え?」
そう言いながらヒョイとあかねの体を軽々と持ち上げるレン。
「こういう風に怪我とかで動けない人を抱えて移動したりとか、そんな誰かを助ける為の行動をする際には必ず役に立つ」
そっとあかねの体を降ろすレン。
「とまぁ色々言ったが、あらゆる事態で動けるように備えておくだけでも、身体を鍛える意味があると思う。こんな答えで満足か、アクア?」
「あ…ああ……」
そう言ってレンがアクアに視線を向けると、何故だか彼はドン引きしているような視線をレンへと向けていた。そんなアクアの態度にレンが疑問符を浮かべていると………
「……………………………………………………きゅう」
「あかねーーーー!!!」
「しっかりしろ!! 傷は浅いぞ!!」
突如としてプシュ~っと湯気が立つほど顔を真っ赤にしたあかねがその場で崩れ落ちそうになり、それをゆきとノブユキの2人が絶叫しながら支える。
その様子を見たレンは目を丸くする。
「? 黒川さん、どうして急に倒れて……?」
「当ったり前でしょうが!!」
「不意打ちであんなんされたらこうなるのも無理ねぇって!! つかやるならせめて収録中にやれよ!!」
あかねの代わりにゆきとノブユキの2人が怒鳴る。
先ほどレンがやったのは、相手の肩と膝裏にそれぞれ手を回して抱き上げるという、俗に言うお姫様抱っこと呼ばれるものだった。ありきたりではあるが、年頃の女子高生からしてみれば一種の憧れを持つ者もいるだろう行為だ。
あかねからしてみれば、それを前振りも無くいきなり実行されたのだ。脳の処理が追い付かず、時間差で羞恥心による致命的なダメージを負ってしまっても無理はないだろう。
「シレっと女子をお姫様抱っこしといて平然としてるとか、アイツの羞恥心どうなってんだ?」
「多分レンからしてみれば、俺に説明する為だけに実行しただけで他意は無いんだろうな。その方がめちゃくちゃタチ悪い気がするけど」
「レンたん……おそろしい子!!!」
その様子を遠巻きに眺めていたケンゴ、アクア、MEMちょが口々にそう語る。
「???」
当然、それをクソボケたるレンはクソボケ故に理解出来ていなかった。
その後……何とか復活したあかねがレンに対して妙によそよそしくなったのは当然の話である。
因みに余談ではあるが、レンのお姫様抱っこの瞬間はバズりの匂いを察知したMEMちょによって素早く写真に納められており、後に今ガチグループのアルバムに送られたのだった。
To Be Continued
誠に遺憾ながらぴえヨンブートダンスはカット。
今ガチメンバーがわちゃわちゃしてるとこを書きたかったので、ちょっとオリジナルを入れてみました。
・星野アイ
一回り以上年下の子に対して恋バナでマウントを取る女。
描写は無いがぴえヨンブートダンスでひーひー言ってるルビー&かなを画面外でずっと「がんばえー」と応援していた。
・夜代レン
作者の意に反して何故か黒川あかねへのフラグを立てている男。
クソボケ故に無自覚なのが余計にヤベェので、アクア君には原作以上に頑張って欲しい。
これまで仕事をサボって逃げようとしたアイを捕まえて、俵担ぎしたり小脇に抱えたりしていたので女性を担ぐという行為に一切の躊躇いが無くなっている。これはどちらが悪いのか。