思ったより早く書き上がりました。更新頻度をもう少し安定させたい。
此処から作者のやりたい放題レベルが上がっていきます。
賛否両論はあるでしょうが、何卒ご了承ください。
『そうですか……やはりそうなりましたか』
「はい、浦原さんが懸念した通りです」
場所はレン達の拠点となるマンション。
この日の撮影は滞りなく終了し、自室へと帰ってきたレンは伝令神機による通話で浦原への定期連絡を行っていた。
「アクアの霊力については、今のところ安定しています。通常の魂魄を視認できるようになってはいますが、幸い本人に取り乱した様子はありません」
レンはアクアが幽霊が見えるようになった事を把握している。彼の体から無自覚に溢れる霊力で大体どの程度なのか、レンはしっかりと感知していた。
「ただ……ここ数日でアクアを狙った虚の襲撃が何度か起きてます。恐らくアクアの魂魄から漏れ出ている霊力に惹かれて来ていますね……」
『その時の被害は?』
「ただの雑魚でしたので、全て襲われる前に俺が片付けましたよ。念の為、アクア達の自宅と苺プロの事務所には結界を張っておきました。もちろん撮影中もロケ地全体に同様の結界を。なので少なくとも収録現場や自宅が襲われる心配は無いかと」
『流石、仕事が早いっスねぇ』
「どうも」
直近の問題として、アクアが虚に狙われる頻度が高くなっている。
霊力の強い者の魂を求める習性を持つ虚にとって、今のアクアは格好の獲物でしかない。幸い襲ってきているのは雑魚ばかりなので、現状はレンだけでも十分に対処出来ており、それ以外でも既に色々と対策は打ってある。
『とりあえず、今はそれで様子見っスねぇ』
「けど、いずれ知能が高い虚などの強力な能力を持った個体に狙われる可能性もゼロではありません。そうなる前に、何かしらの対策は考えておいた方がいいですね」
『ええ、それについてはアタシの方でも色々準備はしておきましょう。夜代サンは引き続き、愛久愛海サンの護衛と監視をお願いします』
「了解。妹さんの方はアイから報告は聞いていますが、こちらは現状維持で?」
『そうっスね。妹の瑠美衣サンの方は今のところ虚被害も無く、霊力に目覚めている様子もありません。引き続き星野サンに監視をお任せします』
「分かりました。アイにもそう伝えておきます」
浦原との相談の末、今後の方針としてはひとまず現状維持。
しかしルビーの方はともかく、アクアの方は霊力に目覚めているという事もあって予断は許されないので、何かしらの対策案も並行して検討するという事に決まったのだった。
「それじゃあ、明日も朝早くから撮影があるんで今日はこれで」
『おおー芸能人っぽいっスねぇ。死神と芸能人の兼業って大変じゃないっスか?』
「誰のせいだ」
人を芸能界に放り込んだ張本人が何をいけしゃあしゃあとほざいてんだ…と、レンは内心で大いに憤った。
『ところで夜代サン、アタシの方から一つ質問いいっスか?』
「!……何でしょう?」
すると、途端に伝令神器の向こうから聞こえて来るどこか真剣な浦原の声色。通話越しでも伝わる冷たい刃のような圧力に、レンは疑問符を浮かべながらも思わず背筋を伸ばして身構えてしまう。
そして浦原は数泊の間を開けてから……静かな口調で問い掛けた。
『夜代サンは──今ガチでのお相手に女優の黒川あかねサンを狙ってるんスか?』
ブツッ…と、間髪入れずにレンは通話を切った。
「何なんだあの人は……」
真面目な雰囲気を出して何をバカバカしい事を聞いてきてんだあのゲタ帽子はと、レンは若干の苛立ちを込めて伝令神器を放った。それは仮に浦原が掛け直してきても今日はもう出ないという意思表示でもある。
「…………………あ」
しかしレンは、そんな己の反射的な行動をすぐに後悔した。
何故なら双子の件以外にも、浦原に報告しようと思っていたことが一つだけあったのだから。
「ハァァァ……仕方ないか……」
割と重めの溜息をついてから、レンはこちら側から掛け直す事を決意。先ほど放った伝令神器を再び手に取って操作し、浦原へと電話を掛ける。するとコール音が鳴るか鳴らないかの早さで通話が繋がった。
「ああ浦原さん、急に切ってすみま──いやその話はもういいんで。それより一つ報告が残って──だからそう言うんじゃないですって。そもそもあの番組は仕事で──いやだから──違うっつってんでしょうが!!!」
内容は割愛するが、ここからしばらく電話越しの浦原におちょくられたレンが本題に入るまでに数分間もの時間を要したのだった。
「ぜぇ…ぜぇ…それでですね、もう一つ報告することがあって……」
息切れを起こしながらも何とか話を本筋に戻せたレンは、ようやくその報告内容を口にする。
「黒川あかねの持つ霊力について──」
今ガチの収録が始まって数週間が経った。
撮影の雰囲気にも慣れ始め、ディレクターからの演出やイベントなどの交流を通じて親睦を深め合った今ガチの出演者達は、今日も収録に臨んでいた。
「私……もう『今ガチ』辞めたい」
「「「ええっ!?」」」
夕暮れに染まった教室を舞台にして、鷲見ゆきが目元に涙を溜めながらそんな言葉を吐露した。
「こんな途中で!?」
「なんでそんな事言うんだよ!」
当然、他のメンバー達には動揺が走る。
「最近ね、学校の男子とかが揶揄ってくるんだ。お前こういう男が好きなんだーとか。自分の『好き』って気持ちを皆にみせるって、こんなに怖い事ないよ。始めるまで全然わかってなかった。大勢の人に注目されるって良い事ばかりじゃない……」
「……分かる話だな」
ゆきの言葉にまず最初に理解を示したのはレンだった。
「注目されるってのは、必ずしも良い事だけじゃ無い……中には妬み嫉み等の悪意を向けて来る奴も居る……俺も少し似たような経験があるからな」
腕を組みながら、少し昔を思い出しながらそう語るレン。
彼も死神として護廷十三隊に入隊した当初、即席官入りという待遇も相まって色々なやっかみに晒された経験がある。実力主義の護廷といえども、納得出来ない、面白くないと感じる者は少なからず居るものだ。
「メムも自分のチャンネルでバカやってるからぁ……分かる……皆、私のことバカだと思って……まぁ実際バカなんだけどぉ」
ユーチューバーであるMEMちょも自身の経験談を交えて共感の意を示す。
2人も共感者が出た事で、ゆきの辛そうな雰囲気に拍車がかかる。
「ほ……本当に辞めちゃうの?」
「俺がいつでも話聞くからさ! ゆきが辞めるなら俺もやめるからな!」
皆より一歩前に踏み出して、熊野ノブユキが強く言い張る。
「ノブ君……」
「そんな事言わないで続けようぜ!」
ノブユキの真っ直ぐな言葉に、ゆきの瞳が揺れる。
「まぁ……本当に辛いのなら辞めればいいと思うけど、もう少しだけ続けてみても良いんじゃないか?」
そこへレンがノブユキの後に続くように言葉を紡ぐ。
「少なくとも……ここに居る奴はみんな鷲見さんの味方で、全員続けて欲しいと思ってる。何より──」
「うおっ…とと!?」
レンに突然バンっと背中を叩かれたノブユキはその勢いに押されてつんのめり、ゆきの目の前に躍り出る形となる。
「こんなに君を想って熱くなれる男が1人は居るんだ。続けてみる価値はあると思わないか?」
「お…おう! 誰がなんて言っても、ゆきには俺がついてる! 俺は何があっても絶対にゆきの味方だからな!!」
文字通りレンに背中を押された影響か、ノブユキの言葉には先ほどよりも熱が籠っていた。それが響いたのか、ゆきは頬に涙を伝わらせながら、震える唇を動かした。
「私───」
──とまぁそんな事があった後日……その回が放送されてから『今ガチ』が大きな話題になり、ネットニュースにも取り上げられる程の反響を呼んだ。
「見て見て! 記事になってる! 私ちょっとは視聴者獲得に貢献出来たかな」
「そーだな」
「あんな茶番で視聴者って増えるもんなんだな」
そして当のゆきはケロっとした様子でスマホに映っている自身に関するネット記事を嬉しそうに眺めていた。それに対してアクアは心底どうでも良さそうに、レンは少し感心したように言葉を返していた。
「で……番組辞めるの?」
「えー辞めれないでしょ、契約残ってるのに」
心配そうなあかねの問いに対して、ゆきはあっけらかんとそう答える。
「えっ、じゃあ演技って事?」
「いやいや…黒川さんみたく女優じゃないし、私に演技なんて出来ないよ。ちょっと自分の気持ちを膨らませて話してるだけ。学校でイジられて悲しかったのはホントだし、辞めたいって思った事もホント。だって収録朝一でやるんだもん。あたし眠くて眠くて……」
「あはは、なるほど…嘘じゃなくて誇張……もしかしてレンたんってそれを見抜いた上で乗っかってた?」
「ん? まぁな」
途中でMEMちょに話を振られたので、頷きながら答えるレン。
「こんだけ一緒に居れば、お互いなんとなく人となりは分かってくるだろ。で…この中でも一番番組に対して積極的で、強かな鷲見さんが急に辞めるなんて言い始めたんだ。またなんか企んでんなーってのはすぐに分かったよ」
「その言い方だとあたしが腹黒みたいじゃん」
「黒くは無いけど真っ白でもねェだろ。実際に企んでたんだし。まぁそのまま思惑通りに終わらせるのも癪だったから、最後は鷲見さんとノブユキの関係を強調させる為に調整はしたけどな」
最後は意地の悪い笑みを口元に浮かべながらそう語るレン。
レンはゆきの狙いを見抜いた上でその策に乗っかっていた。そして最後の最後で少しだけノブユキの背中を押してやったことで、彼女が思い描いていた終わり方をほんのちょっとだけ書き換えたのだ。
「あ! やっぱりアレってわざとだったのね!? アレのせいで学校でクラスメイトに『辞めちゃダメ!』とか『ノブ君の事はどうするの!?』とかめっちゃ言われたんだよ!?」
「はっはっは、それだけ注目を浴びれたんだから本望だろ?」
「俺も友達とかダンサー仲間に超イジられたんだけど!?」
「その分カッコ良かった、とかの評価もあっただろ? ああ言う役回りはノブユキみたいなバカ…正直な奴にこそ向いてると思ったんだよ」
「今普通にバカって言い掛けたよな!? 付け足して誤魔化そうとしたよな!?」
ゆきとノブユキの抗議を愉快とばかりに笑い飛ばすレン。彼も彼で望まない芸能活動や浦原のせいで色々フラストレーションが溜まっているのだろう。
「(上手いな……)」
そんな彼らのやり取りを眺めつつ、星野アクアは内心でレンの行動に関心を抱いていた。
アクアがこれまでの番組を一緒にして見えてきた夜代レンに対するキャラクター像は『目立たないが良い仕事をする奴』というものだ。
一部の人間を除いて各々が極力自分を良く見せようとしている中、レンはそんな彼らをサポートするように立ち回っている。
例えば鷲見ゆきやMEMちょのように『上手い奴』が何かしらの行動を起こすと、即座にその意図を汲み取りながらさりげなく援護して彼女らを引き立たせる。
例えば『裏表無いけど味がある』熊野ノブユキを言葉巧みにムードメーカーへと仕立て上げ、番組全体を盛り上げる。
例えば立ち位置を掴み損ねて『番組映えが悪くて出番が少ない』森本ケンゴや黒川あかねが割を食い過ぎないようにフォローする……等々。
常に周囲に気を配って、とにかく人を活かすのが抜群に上手い…それが今のレンへの印象だ。同時に、芸能人としては素人同然のレンが何処であのような立ち回りを学んだのだろうかという疑念も生まれたが……
「アッくん、あがったら飯行こうぜ!」
すると、そこまで考えていたアクアの肩にノブユキが腕を回してきた。どうやらいつの間にか収録終わりにメンバーで食事に行く話になっていたらしい。
「いや、俺はいい。家に飯あるし」
「悪い、俺もパス。帰って飯作んねーと」
その話をアクアとレンは揃って断る。
アクアは家族であるルビーと日曜日は家でご飯を食べると約束しているし、レンは同居人であるアイの分も夕食の支度をしなければならない為である。
「えー行こうよ!」
「メッさんが焼肉奢ってくれるって」
「言ってないよぉ!?」
「焼肉……奢りなら行くか」
「アクたんの庶民派ぁ!!」
「じゃあ俺も」
「レンたんまでぇ!?」
突然の無茶ぶりに驚くMEMちょ。奢りと聞いて手の平を返すアクアとレン。もちろんこの人数分の焼肉を奢るつもりなど彼女には更々ない。しかし……
「知ってるよ、最近登録者数増えてウハウハなんでしょ?」
「事務所の取り分5:5なんでしょ?」
一体何処で聞きつけたのか、懐事情を把握しているノブユキとケンゴにMEMちょは「うぐぅ」と言葉を詰まらせた。
「まじですか! うち8:2……羨ましいなぁ……」
そこへ更にあかねの無自覚な追い打ち。物悲しそうな彼女の表情がMEMちょの良心へと突き刺さる。
「あの…メムさん? 本当に厳しいなら無理しない方が……」
「うぅ~~~……!!」
そして申し訳なさそうな顔をしたレンから気を遣われ、それがトドメとなった。
「えーいやったらぁ!! 今日はこのMEMちょ様の奢りで焼肉じゃーーい!!!」
「イエーイ!」
「ゴチになりまーす!」
半ばヤケクソ気味にそう宣言するMEMちょに、奢りが確定してゆきとノブユキを筆頭に盛り上がる。
「………アイに連絡しとくか」
そんなメンバー達を尻目に、レンはポツリと呟きながら伝令神器を片手にそっと教室から出たのだった。
『つー訳で、悪い。今日はこのまま外で飯食って帰るから、夕飯はそっちで何とかしてくれるか?』
アイとレンが暮らすマンションにて……死神として街の見回りから帰ってきたばかりのアイのもとに、レンからそんな電話が掛かってきた。何やら今日は収録が終わったら今ガチのメンバー達と食事に行くとのこと。しかも豪勢に焼肉とのこと。
「……ふーーーーん」
正直に言えば面白くは無いが、護衛対象であるアクアが行くとなれば必然的にレンも行かなければならないので、仕方のない事だとアイも理解している。
「ハァ……しょうがないね。わかったよ」
『本当に悪いな』
アイが了承すると、その言葉を最後に通話が切れる。
「むぅ……」
耳元から伝令神器を離し、唇を尖らせながら恨みがましそうにディスプレイを睨むアイ。
今日は家に夜一も不在なので、夕食を一人分を用意するくらい訳ないのだが、どうもそれでは味気なく感じてしまう。
「……あ、そうだ♪」
そこで彼女はある事を思いつく。
レンが今ガチの人達とご飯を食べに行くなら、自分も誰かとご飯を食べに行けばいいじゃない…と
そう考え付いたアイはそのまま伝令神器を操作して再びそれを耳元へ。
そして数コールの後、目的の人物が通話に出た。
「あ、もしもしルビーちゃん? 突然だけど今日一緒にご飯食べに行かない?」
『行くーーー!!!』
──という訳で、アイの方もルビーと共に食事に行くことが決定したのだった。
「おらぁ! 特上盛り合わせ追加じゃーーい!! 思う存分食えや餓鬼共!!」
「「「わぁい!」」」
本日分の収録が終わり、やって来た焼肉屋にてMEMちょの高らかな声が店内に響く。開き直って逆にハイになってるらしい。
その様子を肉を食いながら眺めているアクアからすれば、それなりに良い値段する店なので彼女の懐事情が少し心配になってしまう。だからと言って決して肉を食う手を止めはしないが。
「アクアさん、カイノミ焼けましたよ。どーぞ」
すると、あかねがトングを使って焼けた肉をアクアの取り皿に入れる。
「自分の分は自分で焼くから気にするなよ。黒川さん、さっきから全然食ってないだろ」
「いえっ! 自分精進の身なので! こういう場では絶対トングを手放さないって決めてるんです。最初は良く焦がして怒られましたが、今では上手に焼けるようになったんです」
そういう風に接待するように教わったのか、彼女はこの食事会は始まってからずっと肉を焼き続けてい誰かに配膳するだけで、自分では一切口を付けていない。
「精進するのは結構だが、自分の皿に盛られた肉くらいはちゃんと食えよ。冷めるぞ?」
するとそこへ、アクアの隣に座って烏龍茶で喉を潤していたレンがそんな事を言った。
それを聞いたあかねが「え?」と声を漏らしながら自分の取り皿を見ると、そこには焼けた肉が数枚盛られていた。
「あ…あれ? なんで……?」
いつの間にか入れた覚えのない肉が盛られている事に困惑するあかね。そしてレンの手にはもう一つのトングが握られている。
状況的にどうやらアクアとあかねが話している僅かな間にレンが肉を盛ったようだ。しかも二人が気づかないような速さで。
「(どんな早業だ…)」
それを察したアクアはちょっと引いた。
「明日からは学校もあるし、撮影はまだまだ続くんだ。食える飯はちゃんと食っとけ」
「で…でも私は……」
「俺達は黒川さんの上司でも、どこかのお偉方でも無いんだからそんな肩肘張る必要はないだろ。此処に居るのは黒川さんと変わらない年代の同僚だけだ。普通に楽しめばいい……というか逆に俺らの方が気ィ遣うから止めてくれ」
「うっ…!!」
「分かったらさっさとトングを置いて食え。肉はまだまだあるぞ」
「はい……頂きます……」
レンに言い負かされてようやくトングから手を放して箸に持ち替えたあかねは、もそもそと取り皿に盛られた肉を口に運び始める。
「今だアクア、黒川さんからトングを遠ざけろ。しばらくしたらまた手放さなくなるぞ」
「おう」
そしてコッソリと小声でアクアに指示してトングを回収させる。ちょうど自分でも肉を焼きたかったアクアも素直に応じた。
「だからねー、今求められてるモノってのはより過激なモノだと思うワケさ。どこまでリスク取れるかで選択肢が……」
すると突然隣のテーブルからMEMちょのそんな声が飛んできた。どうやら彼女なりの映像作品において必要だと思うモノについて語っていたようだ。
するとそれに気づいたあかねは、箸を止めていそいそと何処かから取り出したメモ帳に今のMEMちょの話を必死に書き込んでいる。
そんな彼女の様子を見て……レンは一抹の不安を感じていた。
「はー……焼肉とは豪勢ですね。可愛い子達を眺めながら食う肉はさぞ美味しかったんでしょうねぇ」
食事会が終わり自宅に帰ってきたアクアは、早々に妹のルビーに絡まれていた。
「いや、ただの付き合いだし」
「嘘だ! 顔から堪能感があふれ出てるもん!」
「──出てねぇよ?」
「目を見て話せ!!」
問い詰めてくるルビーからそっと目を逸らすアクア。
実際、若い体は脂っこいの無限に食っても胃がもたれないから最高と思いながら焼肉を堪能してきたのだから彼女の指摘は間違っていないのだ。
「……まぁ、今日は私もアイちゃんと一緒に外食してきたから人の事言えないんだけど……」
「! アイと?」
「そう! 『B小町』結成祝いでアイちゃんがご馳走してくれたの! お店は近所のファミレスだったけど、推しの奢りで推しと一緒に食べるご飯………最高でした……!!」
「俺より堪能してんじゃねぇか」
アクアよりも堪能感溢れる笑顔を浮かべるルビー。どうやら彼女も彼女で楽しい食事をしてきたらしい。
「……もしママが生きてたら、同じようにお祝いしてくれたかな……」
「!」
次いでルビーの口からポツリとそんな言葉が漏れ出る。
「ねぇお兄ちゃん………やっぱりアイちゃんって、ママの生まれ変わりだったりしないのかな?」
確かめるように……否、そうであって欲しいと願うようにアクアに問い掛けるルビー。そんな妹の気持ちは、アクアにも痛いほど分かる。
幼年期に目の前で亡くなった母親にそっくりな人物が、十数年の時を経て突然目の前に現れたのだ。しかも見た目だけでなく、名前や性格まで一緒で瓜二つだ。
もしかしたら彼女も自分達と同じように転生して会いに来てくれたのかもしれない……何度かそんな風に考えた事もある。
しかしそんな事は絶対にありえない。
そんなものは所詮……都合の良い夢に過ぎないだと、アクアの〝魂〟が否定する。
「──さぁな」
その心情を彼女に伝えるのは簡単だが、それは流石にこの精神的に幼い妹には酷だろうと考え、アクアは濁した言葉で応える。
その答えに、ルビーはつまらなそうにムッと顔を顰める。
「アイちゃんがママだったら今のアクアを叱ってもらうのになぁ……」
「は? 何で俺が叱られなきゃいけないんだ?」
「番組が始まってから日曜はみんなでご飯を食べる約束をずっと破り続けてるからでしょーが!!!」
心外だと言わんばかりの顔をするアクアに、憤慨したルビーの叫びが部屋に響く。
「そもそも番組って放課後に集まるってコンセプトでしょ? いつも収録土日じゃん! やらせだやらせ!」
「別にその位いいだろ。学業優先してくれるだけ優良だ。ていうか、思ったより恋リアにやらせは無いぞ。一部の人間はあからさまにやってるけど、大抵の奴は極力自分を良く見せようとする程度。そんなのリアルでもみんなやってる事だろ? 合コンに行けば同じ光景が見られるぞ」
「行った事無いから知らないけど……じゃあみんなマジで恋愛してるの?」
「そのスタンスもまちまちかな」
Q. 恋リアでリアルに恋するの?
Yちゃん(15)
「意外と好きになっちゃうなぁ。ファンの目もあるし、番組内ではそこそこに済ませたいけど」
Mちゃん(18?)
「するよぉ! ホストに本気になっちゃう感覚に近いかも!」
Kくん(17)
「カメラ向けられると、仕事モードに入っちゃってなかなかねぇ」
Aくん(16)
「するわけない。仕事だぞ」
Nくん(17)
「俺はガチよ? なんなら結婚までいけたらおもろない?」
Aちゃん(17)
「分かりません……自分の役割を果たすのに精一杯でそんな余裕が……」
Rくん(16?)
「まぁ……今のところは無いな」
「恋愛リアリティショーは今まで見たこと無かったから不勉強でさ。色々偏見から入ったワケなんだけど、リアルを売りにするだけはある。想像してたよりやらせが少ない。そして思ったよりも各々の人間性をそのまま映す構成になってる」
そこまで言うと、アクアは何か思うところがあるのか口を閉ざしてしまう。
「……………」
「考え込んでどしたの? やらせが少ないのは良い事じゃない?」
「観てる側からしたらそうだろうけど──嘘は、身を守る最大の手段でもあるからさ」
「?」
「まぁ杞憂だろうけど」
「このままだとマズイかもなぁ」
一方その頃……レンとアイの死神組が拠点とするマンション。
帰ってきてからリビングのソファでぼんやりしていたレンが、突然そんな事を呟いた。
「? マズイって……アクア君の事?」
それに反応したのは、隣で女性向けのファッション誌を読んでいたアイだった。
「いや、そっちは大丈夫だ。アクアの霊力は変わらず安定してるし、今日は虚の出現も無かったからな」
「じゃあ番組の方で何かあったの?」
「違う。というかそっちは成功しようが失敗しようが正直どうでもいい」
仮にも出演者が酷い言い草である。
「俺が心配してるのは……黒川あかねの事だ」
「ああー……確かレンと同じ番組に出てる霊力持ちの子だっけ?」
そう言われてアイは少し前にレンを問い詰めてシメた際に、そんな報告を聞いたなぁ…と思い出す。
今ガチの第一回目の収録で共演者達と顔合わせした際に、レンはアクア以外に霊力を秘めた人間を見つけた。それが黒川あかねだったらしい。
「でもその…はがねちゃん? の霊力は大した事無いんじゃなかったっけ?」
「あかねな。確かに彼女の霊力自体はかなり低い。この間浦原さんにも報告したが、霊の知覚能力も精々なんとなく気配を感じ取れる程度だからそっちは問題無いんだ」
「じゃあ何が心配なの?」
話を聞く限りでは、黒川あかねの霊力は見えないし聞こえない、ちょっとした霊感体質レベルだ。その程度であれば虚に襲われる確率も一般人とそう大差は無い。一体レンが何を気にしているのか、アイには分からなかった。
「『今ガチ』で彼女が置かれている状況だよ」
「?」
その答えをレンの口から聞かされるが、それでもアイにはいまいちピンと来なかった。
「彼女は至って真面目で、収録にも人一倍熱心なんだが……それが番組では少し空回り気味というか、思うように立ち回れなくて焦っているというか……どうにも日に日に追い詰められていっているような、危なっかしい感じがしてる。それがちょっと……な」
黒川あかねはディレクターや共演者の話を逐一メモを取るほど真面目な努力家で、鷲見ゆきが『辞める』と言い出した時は本気で心配するほど優しく、それでいて細やかな気配りが出来る少女だ。
しかし同時に引っ込み思案で内向的な性格であるが故に『今ガチ』の現場では他の面子に埋もれてしまっている。
それでも腐ること無く懸命に収録に臨んでいるものの、それが全く結果に結びついていない。そうしてまた埋もれていってしまう悪循環……レンはそんな状態の黒川あかねがどうにも気掛かりでならなかった。
「ふぅん……レンってば随分そのこがねちゃんを気に掛けてるんだね。任務とは何の関係も無いのに」
そんな話をするレンに対し、アイはなにやらじっとりとした視線を向けながらそう指摘した。
「あかねな。それはまぁ……そうなんだけどさ……」
アイの指摘に、レンは珍しく言い辛そうに口篭もる。
「確かに彼女の事は任務には関係無いし、そもそも死神が現世の問題に首を突っ込むべきじゃないって事は分かってる。けど──」
レンはそこで一旦言葉を区切り、困ったように笑いながら言った。
「それでもやっぱ俺は……放っておけないって思っちまうんだよ」
「………相変わらずだなぁ」
そう言われてしまえば、アイにはもう言い返せる言葉は無かった。レンが底抜けに面倒見が良いのは十分知っているし、何より彼のそういった部分に惹かれているのだから。
「私も普段から自由にさせてもらってるからレンが何しても文句は言わないけどさ、具体的に何かするつもりなの? まさかとは思うけど……レンからカガリちゃんにアプローチとか仕掛けるつもりじゃあ……!」
「あかねな。流石にそれは無い。ここで不用意に黒川さんに近づいて、万が一番組内で俺と彼女がくっ付くような演出にでもされたら本来の任務に支障が出る。だから今はこれまで通りアクアの護衛と監視を続けながら、それとなく彼女をフォローする事しか出来ないんだ」
アイの懸念を否定し、そう語るレン。心苦しいが本来の任務も疎かにするワケにはいかない。なので現時点でレンが黒川あかねに出来る事はそれ位しか無いのだ。
「まぁ、俺以外にも彼女を気に掛けている奴らは居る。きっとその内立ち直れるさ」
その言葉を最後に、この話題を終わらせるレン。
しかしそんな前向きな言動とは裏腹に……彼の中では妙な胸騒ぎを感じ取っていた。
そして後日……その予感は最悪の形で実現する事になるのだった。
To Be Continued
マズイ…このままではあかねがアイに続くレンのメインヒロイン枠に入ってしまう。
この状況を打破出来るのはやはり星野アクアしかいない!
頑張ってアクア! 原作通り彼女を救えれば、あかねは君のヒロインになれるんだから!
次回
『星野アクアは関われない』
デュエルスタンバイ!