推しの子×BLEACH   作:ZEROⅡ

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やっぱり戦闘描写って超ムズい。特に動きを文章に起こすのがマジで大変。
そんなこんなでようやく完成した最新話、お楽しみいただければ幸いです。

【お知らせ】
作品タグに「オリジナル斬魄刀」と「オリジナル鬼道」を追加しました。


第二十二話

 

 

 

ソワソワ……ウロウロ……

 

苺プロのオフィスにて、今のアイの状態を擬音化するとしたらこんな感じだろう。ソファに座りながら頻りに体を揺らしていたいたり、おもむろに立ち上がってオフィス内を無意味に歩き回ったりを繰り返していて、妙に落ち着きが無い。

 

「あーもう鬱陶しい!! ちょっとはジッとしなさいよアンタ!!」

 

「あ……あはは、ゴメンかなちゃん」

 

見かねたかなが怒鳴るが、それでもアイは曖昧に笑いながら謝るだけで、落ち着かない様子なのは変わらない。

 

「夜代さんがスマホを忘れてなかったら連絡取れたんだけどね」

 

レンが置き忘れて行った伝令神機(スマホ)は今はアイの手の中にある。ルビーの指摘通り、彼がコレを持って行っていれば、今頃安否の確認くらいは出来ただろう。

 

「アイ……レンなら大丈夫だ。雨も落ち着いてきたし、心配しなくてもその内帰ってくる」

 

スマホで天気予報を確認していたアクアが顔を上げて窓の外へ視線を送る。少し前まで叩きつけるような豪雨が降り注いでいたが、今では小雨程度にまで収まっている。それでもまだ強風は吹いているらしく、窓をガタガタと揺らしてはいるが、危険度は下がったと言えるだろう。

 

「うん……そうなんだけどね」

 

それでもアイの表情は優れない。そんな彼女が手に持っているレンの伝令神機には……『巨大虚(ヒュージ・ホロウ):出現』の文字と『五番隊十席:夜代レンが交戦中』の文字が表示されていた。

 

それを見た時、アイも死神として現場に赴く事を考えたが……万が一の為に双子の護衛を優先した。きっとレンもこの場に居ればそう指示しただろう。だからアイは技術開発局に巨大虚の出現場所周辺に空間凍結を施すように依頼し、この場に留まった。その判断が間違いだとは思わない。

 

そもそもレンは過去に何度か巨大虚を単独で討伐した事がある。もちろんアイもだ。なので今更巨大虚を相手に負けるとは一切考えていない。

 

しかし……

 

「(何だろう……嫌な予感がする……)」

 

彼女の胸中で蠢く妙な胸騒ぎ……それがアイの不安感を掻き立てていたのだった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

護廷十三隊・五番隊第十席の死神……夜代レンの戦闘スタイルは基本的に後衛に下がり、防御特化能力持つ斬魄刀『厳武』と鬼道による援護と追撃を行うサポートを主体としている。

 

ただし……それは戦場に味方が多数居る場合の話。

 

彼が1人で、もしくは前衛に出て戦闘に臨む場合…その戦い方はガラリと変わる。簡単に言ってしまえば、死神の体術である〝白打〟を用いた徒手空拳のゴリゴリの近接格闘が主体になるのだ。

 

元々真央霊術院に通っていた頃から得意だった〝白打〟を、師匠である四楓院夜一によるシゴきのもとで徹底的に鍛え上げられた結果……彼女と同じく『斬魄刀を抜くより直接殴った方が早い』という脳筋スタイルになってしまったのだ。

 

故に……

 

 

 

だらァァァ!!

 

ゴガァァァァァ!!

 

 

 

東京都内某所の上空にて……自分より倍以上の体躯を持つ巨大虚(ヒュージ・ホロウ)真正面から殴り合うというこの戦い方も、夜代レンにとっては当然の事なのである。

 

迫り来る大岩のような巨大虚の拳を空中で体を捻って回避し、そのまま霊子の足場を強く蹴って飛び出すと、その勢いを乗せた拳を巨大虚の腹部に下から突き上げるように叩き込む。

 

ゴゲェ……!!

 

「まだまだァァ!」

 

苦し気な呻き声を上げる巨大虚だが、レンは攻撃の手を休めない。続けて両腕を振るい、巨大虚の腹部に目にも止まらぬ超高速乱打(ラッシュ)を放つ。

 

そしてラッシュの最後に霊圧を込めた一撃を叩き込み、それを喰らった巨大虚は体をくの時に曲げながら吹き飛ばさる。だがレンの追撃は更に続く。

 

「君臨者よ

 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ

 信仰と狂瀾

 天界妨げる暗雲を断ち切り 彼方へ導く火を灯せ」

 

鬼道の詠唱を口にしながら、レンは吹き飛んだ巨大虚に向かって手を翳す。

 

 

「破道の三十二! 〝黄火閃〟!!!」

 

 

そうしてレンの手から放たれた黄色い帯状の火炎がレーザーの如く一直線に伸びていき、巨大虚の仮面部分に着弾した。同時に爆発し、その際に発生した煙幕が巨大虚の頭部を覆い隠す。

 

それでも警戒を緩めずに相手の出方を伺っていたレンだったが……突如としてドンッ!!…という轟音と共に煙幕を切り裂いて飛来した見えない弾丸のような何かが、レンの腹部に直撃した。

 

「──がッ……!!?」

 

不可視の攻撃による不意打ちを受け、呻き声を漏らしながら後方に飛ばされるレン。何が起きたのか分からないまま、すぐに霊子の足場を使って空中に踏み止まる。

 

「何だ今のは……!?」

 

『──ォォォォォォォオ!!!

 

「うおっ!?」

 

困惑するレンを余所に、咆哮と共に巨大虚が一直線に素早い突進を彼へと仕掛ける。その巨体からは想像し辛い速い動きに、レンは回避が一歩出遅れてしまった為、咄嗟に体の前で両腕を交差させて防御の姿勢を取る。

 

「ぐぅぅ!!」

 

直後、巨大虚の肩を突き出したタックルがレンに直撃する。両腕でガードはしたものの、勢いと体格差も相まってまるでダンプカーと衝突したかのようにレンの体が再び大きく吹き飛ばされた。

 

「野郎ォ…!」

 

すぐさま体勢を立て直して相手を睨むレンだが、巨大虚の追撃は終わらない。仮面の口部分がガパリと開かれ、肺に空気を溜め込むように息を吸い込む動作を見せた次の瞬間……まるで大砲の如く、不可視の弾丸を放った。

 

「!! 縛道の三十九! 円閘扇(えんこうせん)!」

 

直感で何かが迫ってきていると察知したレンは、咄嗟に霊子で構成された円形の盾を展開する。その直後、不可視の弾丸と盾が衝突。そのまま相殺する事に成功したが、その際に発生した爆風に腕で目を覆う。

 

「空気砲かよ……!」

 

その光景を間近で見ていたレンは、巨大虚の能力について大体の考察が出来ていた。

 

グォォォオ!!!

 

そこへまたもや雄叫びを上げながらレンへと殴りかかってくる巨大虚。

 

「チッ…」

 

対するレンは迫り来る拳を半身になって回避すると……

 

「おらよっ!!」

 

グガッ…!?

 

そのまま強く一歩を踏み出し、巨大虚の眉間部分に痛烈な飛び膝蹴りをブチかます。そんな見事なカウンターを喰らった巨大虚は大きく体を仰け反らせ、その間にレンは後退して巨大虚と距離を取ると……

 

「縛道の四……〝這縄〟!」

 

鬼道による霊子の縄で巨大虚の両腕と胴体を纏めて縛り上げる。一桁台の術なので拘束力はそこまで高くは無いが、ほんの少しでも動きを封じれればそれで十分だった。

 

「崩落する幽遠の塔

 血染めの砥石・剛腕の腰帯(ようたい)・鋼の手套(しゅとう)・黄金の鉄槌

 火花散る黒雲の丘で 鍛人(かぬち)は鉄を打ち鳴らす」

 

詠唱を紡ぎながら右手で作った拳を高々と頭上に掲げる。

すると掲げられたレンの拳に雷電が迸り、バチバチと雷光が瞬く。

 

 

「破道の七十四──雷霆撃鉄(らいていげきてつ)!!!

 

 

そのまま右拳で殴るように突き出した直後……その拳から紫電の(いかづち)が巨大虚目掛けて放たれた。

それは稲妻の如く宙を翔けると瞬く間に拘束されていた巨大虚に直撃する。そしてその雷電は空気を引き裂く爆音と眩いスパークを撒き散らしながら一瞬で巨大虚の全身を駆け巡り、その巨体は激しい雷光に包まれた。

 

七十番台に位置する高位の鬼道であるそれは完全詠唱で放たれた事も含め、通常の虚が相手ならば一撃で屠れるほどの威力を誇っている。

 

しかし……

 

「チッ……やっぱタフだな」

 

グルルル…

 

雷光が収まると、そこには尚も健在な巨大虚の姿。体の所々に焦げたような跡はあるが仮面自体には傷一つ付いておらず、レンに向かって威嚇するように唸っている。対してレンは舌打ち混じりに毒づきながら、思考を巡らせる。

 

「(コイツの知能は獣レベルだが、図体の割に動きが機敏で、攻撃のリーチが長いし範囲がデカい、その上に頑丈ときてる……)」

 

最上級の虚が持つとされる『鋼皮(イエロ)』と呼ばれるものには遠く及ばないだろうが、それでもこの巨大虚の外皮はそれなりの硬度を持っていた。妙なタフネスもそのせいだろう。

 

「(加えてコイツが放つ見えない攻撃……恐らくは口から吸い込んだ空気を飛ばす能力なんだろうが……単純故に厄介だな)」

 

巨大虚の能力は『空気砲』とも言える、口から吸収した空気を霊圧で固めて砲弾として放つというもの。言ってしまえばそれだけだが、空気故に不可視で軌道が見えづらいというのは面倒だった。

 

「(逆にこっちの白打と鬼道は効いてはいるが…ジリ貧だな。斬術に切り替えてもそれは変わらないか)」

 

前提として……特殊な技術と事例を除けば、死神の体術である〝白打〟では虚を弱らせる事は出来ても、決して倒す事は出来ない。

 

何故なら白打とは……言ってしまえばただの格闘術であり、斬魄刀や鬼道のように虚を浄化して還す力が無い。なのでレンも白打を使った戦闘では鬼道を織り交ぜて戦うようにしている。

 

斬魄刀での戦闘に切り替える事も可能ではあるが、レンの斬術も斬魄刀の能力も防御が主体なので現状の打開策にはなり得ない。むしろ防御に霊圧を回せば、その分攻撃用の鬼道に使う霊圧が減るのでマイナスとも言える。

 

つまり今のところ、レンの攻撃は有効ではあるが決定打にはなっていない状況なのである。

 

 

だからと言って、手が無い訳ではないのだが……

 

 

「仕方ねぇ……余り長引かせる訳にもいかないしな」

 

嘆息混じりにぼやきながら、おもむろに自身が着ている死覇装に手をかけるレン。両側の袖から腕を抜き、上半身部分だけ脱ぐと、肩と肩甲骨周りの背中が露出した一風変わったタンクトップが露わになる。

 

「出し惜しみは無しだ」

 

その瞬間……レンの体から凄まじい霊圧が奔流となって溢れ出す。

 

「まだまだ未完成で先生の技には遠く及ばないが……十分だ」

 

それは〝白打〟で虚を打倒する事が出来る技術であり、レンが師匠である四楓院夜一から教わったのではなく、盗んで会得した唯一の技。

 

 

〝瞬閧〟──」

 

 

溢れ出した霊圧が両肩を中心に翼のように広がる。そして右手のひらを巨大虚へと向け、練り上げた霊圧を一気に解放させようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──カアァ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンの眼前で……一羽のカラスが鳴いた。

 

「──────は?」

 

突然現れたそれはどこにでも居るようなごく普通のカラスだが……この死神と虚の戦場においては余りにも場違いで、余りにも異質な存在だった。

 

そんなカラスに目を奪われ、思わず気の抜けた声を発したレンの注意はそちらへと逸れてしまい……ほんの一瞬だけ集中力と思考力を欠いてしまった。

 

そしてそれは──致命的な隙を作ってしまう。

 

『──ォォォォォォォオ!!!

 

「!? しまっ──」

 

気付いた時にはもう遅かった。目の前まで迫って来ていた巨大虚は、雄叫びを上げながら組んだ両手を勢いよく振り下ろし……レンはそれを無防備な状態でモロに喰らってしまい、一直線に地上へ叩き落されてしまった。

 

地面を叩き割り、減り込むほどの威力で墜落してしまったレン。しかし巨大虚は更に大きく開けた口を彼が落ちて行った先へ向けると、追い打ちをかけるように空気砲を放った。それも一発だけでなく、二発三発と絶え間なく何度も撃ち続けた。

 

オオォォォォォ!!!

 

やがて砲撃が止むと……己の勝利を誇示するかのように雄叫びを上げる巨大虚。

 

その先には……体の至る所から血を流し、力無く倒れているレンの姿があった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

時間はほんの少しだけ遡る。

 

「ん……あ、れ……?」

 

規則的な揺れを感じながら、黒川あかねは目を覚ました。

 

「(私…いつの間に寝ちゃって……?)」

 

ぼんやりと頭を動かしながら顔を上げると、あかねの目に広い背中とその持ち主である見覚えのある横顔が映った。

 

「ん? 起きたか、黒川さん」

 

「夜代…君……?」

 

そこでようやく頭が正常に動き始めたあかねは、今の自分が彼に背負われている状況だという事を理解した。

 

「えっ…あれ!? 私……なんで……?」

 

「あー……黒川さん、急に気を失うように眠ったんだよ。多分色々疲れが溜まってたんじゃないか?」

 

彼の言葉に、あかねは内心で「ありえる…」と納得した。ここ暫くは炎上騒ぎのせいで良く眠れていなかったし、食事もロクに喉を通らなかったのだから、心労が祟って倒れてもおかしくはないと自分でも思う。

 

「そ、そうなんだ……も、もう降ろしてくれて大丈夫だよ」

 

「む…そうか」

 

気恥ずかしそうにあかねが言うと、彼は素直に応じて彼女の体を丁寧に背中から降ろした。

あはねは少々名残惜しく思いながらも両足を地面に着けて立つと、やけに鼓動が早い心臓を抑えるように深呼吸を数回繰り返したあと、改めて彼にお礼を言おうと目を向け──ヒュッと息を呑んだ。

 

「ああ、大丈夫そうだな」

 

安心したように『彼』が笑う。

 

 

──違う……

 

 

「家まで送ろう。案内してもらって良いだろうか?」

 

歩きながら『彼』がそう尋ねる。

 

 

──違う…!

 

 

「……黒川さん?」

 

疑問符を浮かべなら『彼』が振り返る。

 

 

──違う!!

 

 

「──誰……?」

 

気付けばあかねは、後退って目の前の『彼』から距離を取り、震える声でそう問い掛けていた。

 

「……え?」

 

「貴方は……夜代君じゃない」

 

当然、いきなりそんな事を言われた『彼』は目を丸くするが、あかねは構わず言い放った。今目の前に居る『夜代レン』の姿をした男は、本物ではないと……。

 

「えっ…と……黒川さん? 何を言って……」

 

傍から見れば変な事を言っているのはあかねの方だろう。彼は見た目も声も何もかもが『夜代レン』そのものだ。普通ならそんな疑いを持つ事も無いだろう。

しかしそれでもあかねは、彼が本物の『夜代レン』ではないと断言した。

 

「どうして夜代君と同じ姿をしてるの? 本物の夜代君はどこ?」

 

あかねは警戒心を露わにし、彼から距離を取りながらそう問い掛ける。

 

「一体何を根拠に……?」

 

問いに答えず、逆にそんな疑問を口にした彼に対し……あかねはその『根拠』をはっきりと口にした。

 

「まず立ち方

 

「は?」

 

「夜代君は武道をやっているおかげか、立ち方が凄くキレイなの。隙が無いって言うのかな、体幹が強いから背筋が常に伸びてて姿勢に一切ブレがない。対して貴方は背中が少し丸くなってるし、歩き方がちょっとぎこちない。まるで慣れない体を使ってるみたい

 

「!」

 

呆気に取られる彼だが、あかねは更に言葉を続ける。

 

「次に口調。夜代君を真似てるつもりかもしれないけど、所々でイントネーションや話し方に違和感がある。本当はもっと畏まった話し方をしてるんじゃないかな?

 

「……………」

 

「それに何より……目が違う

 

語気を強め、ハッキリとした声であかねは告げる。

 

「夜代君は人と正面から話す時は、必ず相手の目を見て話すの。真っ直ぐに人と向き合って話そうとする人だから、優しくて安心感のある目をしてるんだよ。でも貴方の目はどこか無機質で、何も感じない

 

一つ一つ、彼が『夜代レン』では無いという根拠を挙げていくあかね。明らかな確信と共に言い放たれたそれは、彼に言い逃れをする隙すら与えないという圧すら感じられるほどだ。

 

「他にも夜代君がよくする仕草とか手癖とか色々あるけど……」

 

「…………………フム、参った」

 

すると彼は観念したかのようにそう告げると、そのままあかねに向かって深く頭を下げだした。

 

「まずは謝罪を。其方を欺こうとした事、深くお詫び申し上げる。そして敬意を。(それがし)の拙き芝居を見破ったその慧眼、誠に感服仕った」

 

「は…はぁ……」

 

打って変わって今度はあかねの方が目を丸くする。彼女が見抜いた通り別人とはいえ、見た目がレンそのものの男が古風で堅苦しい口調で話し始めたのだから無理もないだろう。

 

「えっと……やっぱり夜代君じゃ、無いんだよね?」

 

「左様。某は主である夜代レン様に仕える影武者、名を『フラン』と申す者。我が主君の命により、其方を安全な場所へと運ぼうとした次第。決して御身に危害を加えようとした訳ではござらぬ」

 

フランと名乗る彼の説明に含まれる、凡そ現代日本では使わないであろう『影武者』や『主君』などの言葉を聞いて、あかねは思わずポカンとしてしまう。

それでもどうにか説明を飲み込み、頭に浮かぶ様々な疑問の一切を棚上げにして、あかねにとって肝心な事を問い掛ける。

 

「フラン…さん? 本物の夜代君は、今どこに?」

 

「…………主は──」

 

それに答えようとしたフランが口を開きかけたその時……

 

 

オオォォォォォ!!!

 

 

「「!?」」

 

突然この世のモノだとは思えない咆哮のような声が聞こえ、あかねは反射的にその声がした方角へと視線を向けた。

そして視えた。遠目だが、上空に浮かぶ巨大な異形の怪物と……それと戦う見知った顔の青年の姿を、あかねはハッキリとその目で捉えた。

 

「夜代君……!?」

 

黒い和装に身を包み、刀らしき武器を携えているが……その青年は間違い無く、夜代レン本人だった。それを認識したあかねは、愕然とした表情のまま立ち尽くしてしまう。

何故空に浮いているのか、何故あんな巨大な化け物と戦っているのか、そもそもアレは何なのか……様々な疑問があかねの脳内で飛び交うが、答えなど出せるはずも無い。それほどまでに理解し難い光景なのだから。

 

「なに…アレ……」

 

「……アレは其方らの認識の外にいる怪物……そして我が主はそれを滅する戦士。某からはそれしか言えぬ」

 

ただ上空を見上げて固まってしまったあかねに、フランが簡単な説明を口にする。

 

「では黒川殿、避難を。離れていてもあの戦闘の余波に巻き込まれる可能性がある故。まず其方の身の安全を確保する事が主の──」

 

「ああっ!!?」

 

そうして避難を促そうとするフランの言葉を、あかねの悲鳴のように張り上げた声がかき消した。それと同時に、地面を揺るがすような途轍もない轟音が響き渡った。

 

あかねは視ていた……怪物に何か仕掛けようとしたレンの動きが不自然に硬直し、その隙に怪物の手によってレンが上空から地上へと叩き落されてしまった光景を。

 

「っ……!!」

 

「!? 黒川殿!! 危険だ!! 行ってはならん!!!」

 

ほぼ反射的にあかねは駆け出した。後ろから聞こえるフランの制止する声を振り切り、レンが居るであろう場所へと向かって。

 

彼女も危険な事は分かっている。

正直に言えばとても怖い……現場に近づくにつれ空気が重苦しくなっていくのを肌で感じているし、先ほどから鳴り続ける轟音が恐怖を掻き立てる。

それでもあかねはいつもより軽く感じる体を動かし、自分でも意外なほどの速度で我武者羅に走って行った。

 

レンはあかねに『1人で苦しんでいる黒川さんを放っておけない』と言ってくれた。それと同じで、あかねも1人で傷ついているレンを放っておけなかった

自分が行ったところで何が出来る訳でも無い事は理解しているが、それでも彼の傍に行かなければと思ってしまったのだ。

 

「──夜代君!!」

 

そうして辿り着いた先であかねが見つけたのは……地面に出来た小さなクレーターの中心に傷だらけで倒れるレンの姿だった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

「ゲホゲホッ……くそ……何だったんだあのカラス……」

 

巨大虚によって地上に叩き落され、体に走る痛みに顔を顰めながら地面に横たわるレン。

 

あの奇妙なカラスに気を取られて巨大虚の攻撃を受ける直前、咄嗟に両肩と背中に纏っていた霊圧を防御に全て回した事が功を奏した。地面に叩きつけられ、追撃の空気砲を何発か喰らってしまったが、それでもまだ何とか動ける程度にダメージを抑える事が出来た。

 

因みに今のレンは額から右頬にかけて血を滝のように流し、両腕は痣や擦り傷だらけで見るからに痛々しい。他にも大なり小なりの傷を負っており、全身の至る所に血が滲んでいる。本人はまだまだ動けるレベルの傷だと認識しているが、普通に重傷である。

 

さてここからどう巻き返すか…と考えながらレンが起き上がろうとしたその時……

 

「──夜代君!!」

 

「……は? 黒川、さん?」

 

とっくに避難させたと思っていたあかねが、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。

それにレンが呆気に取られている間に、傍までやって来たあかねは泣きそうな表情で彼の容態を見やる。

 

「夜代君、大丈夫……じゃないよね……酷い怪我……」

 

「黒川さん、俺が視えて………」

 

そこでレンはあかねが死神姿である自分を視認している事に気付いて何か言い掛けたが、すぐに納得したように言葉を飲み込んだ。

 

「(ああそうか……俺と巨大虚との戦いで出た霊圧の影響で、一時的に霊体を知覚する能力が上がってんのか)」

 

霊力は外部からの霊圧の影響を受けやすいと言われている。元々多少の霊力を持っていたあかねも例外ではなく、戦闘の際に発生した霊圧の影響を受けて一時的にだが死神を視認出来るようになったのだろうと、レンは判断した。

 

「(ったく…フランは何してんだ……)」

 

しかしそれはそれとして、あかねが此処に居る疑問の答えにはならない。彼女を安全な場所に避難させるように言っておいた疑似人格に対して憤った。

 

しかしそれも束の間……

 

「! 危ねェ!!」

 

「えっ!?」

 

突然あかねの体を抱えて、その場から飛び退くように離脱するレン。

するとそこへ、上空から降りてきた巨大虚が勢いよく地面を踏み砕きながら現れた。

 

グルルル…

 

まるで獲物は逃がさないと言わんばかりに唸る巨大虚が、2人に襲い掛かる。

 

「チッ……しっかり掴まってろよ!」

 

「わわっ…!?」

 

あかねの体を肩に担ぐように抱え直し、その場から跳んで大きく後退するレン。その直後、巨大虚からハンマーのように振り下ろされた拳が地面を叩き割った。

 

そのまま背を向けて走り出したレンに対し、巨大虚から同じような腕の大振りや口から放たれる空気砲などの猛攻が仕掛ける。彼はそれをあかねを担ぎながらも正確に見切りつつも、相手と一定の距離を保ちながら走り続ける。

 

「それで……黒川さんは何でこっちに戻ってきたんだ? フラン…俺とそっくりな奴と一緒じゃなかったのか?」

 

そんな中でレンがあかねにそう問い掛けると、彼女は巨大虚に怯えながらも口を開いた。

 

「う、うん…起きたらその、フランさん? ていう夜代君そっくりの人が居たけど……すぐに別人だって気づいて、それでつい怖くなって離れちゃって……」

 

「今さらっと凄い事言ったな?」

 

自分の義骸に入った疑似人格を別人だと見破ったというあかねにレンは驚きを隠せない。

 

「そしたら夜代君とあの怪物が空の上で戦ってるのが見えて……夜代君が叩き落されて……私、居ても立っても居られなくなって……」

 

「………そうか」

 

不安そうな涙声で言うあかねの言葉に、レンは小さく呟くように答えた。

 

「……ごめんなさい……考え無しに来ちゃって、結局夜代君に迷惑かけて……」

 

「いや、謝るのはこっちだ。悪いな……俺が情けねェところを見せたせいで不安にさせちまった」

 

申し訳なさそうな顔をするあかねに対して、逆にレンの方が謝罪の言葉を口にした。

 

「……ねぇ夜代君、これって一体何が……」

 

「黒川さん」

 

あかねは今の状況についてレンに問い掛けようとするが、それは彼の語気を強めた呼びかけに遮られた。

 

「これは普段人間にとって知覚の外にある出来事だ。君は今回たまたま巻き込まれただけで、終われば普通の日常に戻れる。わざわざこちら側の事情を知る必要も、首を突っ込む必要も無い」

 

「……………」

 

まるでそれ以上踏み込むのは許さないと言わんばかりの圧に、あかねは反射的に口を噤む。

 

「だから──おっと!」

 

オオォォォォォ!!!

 

巨大虚が跳びかかってくるのを察知したレンは、会話を中断しながら大きく跳躍して宙を翔ける。同時に、巨大虚が振り回す大きな両腕がまたもや空振って地面を砕く。

 

「縛道の六十一! 〝六杖光牢〟!!」

 

グウゥ!?

 

攻撃し終えた際にほんの一瞬動きが止まった隙を狙い、レンは指先から放った六つの光帯で巨大虚の両腕と胴体を貫き、拘束した。しかし詠唱破棄で使用した分、拘束力は本来の半分以下にまで低下しているので長くは保たないだろう。

 

その間にレンは担いでいたあかねを地面に座らせるように降ろすと、屈んで彼女と真っ直ぐ目線を合わせながら、先ほど口にしかけた言葉を言い放つ。

 

「だから大丈夫……黒川さんの事も、黒川さんの日常も──俺が必ず護る。元より死神(おれたち)はその為に在るんだからな」

 

「……夜代君……」

 

薄く微笑み、優しい眼差しでそう告げるレンに対し、あかねはもう何も聞けなかった。

ここまでの出来事や会話で、彼女も薄々勘付いていた。この明らかな〝非日常〟と言える状況は、彼にとっては〝日常〟で……文字通り、住む世界が違うのだという事を。そしてそんな自分達の〝日常〟を護る為に、こうして人知れず怪物との危険な戦いに身を投じているのだという事を。

 

「ごめんな」

 

「あ……」

 

するとレンは、懐から素早く取り出した記換神機をあかねに向けて起動させた。ボンっという破裂音が鳴り、それを受けた彼女の意識が遠のき始める。

 

「や…しろ……く……」

 

薄れていく意識の中で、あかねはレンに向かって手を伸ばそうとするが、それは届く事無くガクリと体と一緒に崩れ落ちたのだった。

 

そんな倒れそうになった彼女の体を、すぐさまレンが支える。

これで暫く彼女は目を覚まさないだろうし、記憶も入れ替わっているだろうという事を確認したレンは、スゥっと軽く息を吸い込むと、直後に大声を張り上げた。

 

「──フラン!!!」

 

「ハハッ!! こ、此処に!!」

 

すると彼に呼ばれて、物陰からフランが慌てた様子で飛び出してきた。どうやら今までずっと近くに隠れていたらしい。

 

「黒川さんを連れて少し離れてろ。次は無いからな?

 

「い、委細承知!!」

 

あかねを担いでそそくさと離れて行くフラン。彼は古風で厳格な言葉遣いに反して、割と臆病な性格をしているのである。

 

「さて……」

 

オオォォォォォ!!!

 

それを見送ったレンは、改めて巨大虚の方へと視線を向ける。ちょうどあちらも、拘束を力尽くで解いて動けるようになったらしい。

 

自由の身となった巨大虚はすぐさま獣のように飛び掛かり、レンに向けて大きな腕を振り下ろすが……彼は避ける事もせず、真正面からその攻撃を受け止めた。

 

ガッ…!?

 

叩き潰さんと振り下ろした拳を、頭上で掲げた左腕一本に止められる。流石にそれには巨大虚も驚いたような声を上げた。

 

「悪いが、これ以上暴れさせる訳にはいかねェ……今の俺の後ろには──絶対に護りたいモンがあるんでな」

 

するとその瞬間……レンの両肩と背中から、先ほどと同じように凄まじい霊圧が溢れ出す。

 

「さっきは想定外の邪魔が入ったが……今度こそ出し惜しみはしねェ」

 

呟きながら、受け止めていた巨大虚の腕を弾き返すレン。

 

「この技は〝瞬閧〟……高濃度に圧縮した鬼道を身に纏って戦う白打の奥義……と言っても、俺のコレはまだまだ完成とは程遠い劣化版だけどな」

 

肩幅ほどに足を開いて腰を落とし、強く握った右拳を腰に添えるように構える。

 

「けど……圧縮した鬼道を一点に集中させれば、それなりの破壊力にはなる」

 

そうして構えた右手の拳に溢れ出した霊力……つまりは高濃度に圧縮された鬼道が全て集約されていき、同時に周囲の空気をビリビリと震撼させる。

 

『──ォォォォォォォオ!!!

 

そんなレンに対して本能的に脅威を感じ取ったのか、巨大虚は雄叫びを上げながら口元から今までより強大な空気砲を至近距離で放つ。

 

しかしそれが着弾するよりも早く……レンが動き出した。

 

迫り来る特大な空気砲に臆する事無く巨大虚の仮面目掛けて一直線に飛び出すと、眼前まで迫っていた空気砲はレンから発せられる〝瞬閧〟の余波だけで、呆気無く霧散する。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

「瞬閧・武神甕槌(タケミカヅチ)!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

レンの右拳から放たれた打撃が巨大虚の仮面に当たった直後、その拳に纏う圧縮された鬼道が一気に炸裂した。頑強な仮面を容易く砕き、それごと巨大虚の頭部を穿ったのだった。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

場所は東京から遠く離れた某所にある山奥。

 

そこには数多のカラスに囲まれた1人の少女の姿があった。

 

「………そう、失敗したんだ」

 

カァカァと鳴く一羽のカラスの声に耳を傾け、その言葉を理解しているかのように少女は呟く。

 

「忌々しい……死神だかなんだか知らないが、大人しくあの怪物にやられておけばいいものを……!!」

 

黒いドレスを身に纏い、十歳にも満たないであろう見た目をしている長い銀髪の少女は、少女らしからぬ不穏な雰囲気を醸し出しながら顔を顰めている。

 

 

「なんや……やっぱり失敗してしもうたん?」

 

 

するとそこへ、若い青年の声が少女にかけられる。

 

「……キミか」

 

少女はフンっと小さく鼻を鳴らしながら、視線だけを動かしてその声の主を見る。

 

「ボク、不用意に死神にちょっかいかけたらアカンよって言わへんかったっけ?」

 

年の頃は中高生ほどに見える青年。黒い着物に短く切り揃えられた少女と同じ銀髪。そして何より特徴的なのは……瞳が見えないほど細長く開かれた糸目に、まるで顔に貼り付けたかのような薄ら笑いだろう。

 

「あんまりオイタして尸魂界に目ェつけられたら事やさかい。大人しィしとったほうがええよ?」

 

「関係無い。これからあの双子が歩む運命の道筋に、死神共の存在は邪魔でしかない。特に……あの地に堕ちた分際で今も尚輝こうとしている往生際の悪い一番星はね」

 

青年の忠告をバッサリと切り捨て、憎々し気な口調で語る少女。そんな彼女に、青年は肩を竦める。

 

「相変わらず双子にご執心やねェ。ボクもその子らに()うてみたいわァ」

 

「絶対にダメ」

 

何気無しにぼやいた青年の言葉に、少女は割と食い気味にそう言い放った。

 

「あらら、厳しいなァ。同じ〝転生者〟の誼でひと目会うくらいええんちゃうの?」

 

「本当にムリ。キミみたいな胡散臭い死神モドキと双子を会わせるなんて許容出来ない。あの子達が穢れる」

 

「酷い言い草やなァ、仮にも兄妹に向かって……お兄ちゃん悲しいわァ」

 

少女からの辛辣な言葉に、青年はわざとらしく着物の裾で目元を覆いながらヨヨヨと泣き真似をして見せる。それを見た少女は余計にイラっとした。

 

「……確かに人から産み落とされたこの器とキミは血縁上は兄妹ではあるが、この私はキミを兄だなんて思った事は無いよ。キミだって本当に私を妹だと思っている訳じゃないだろう?」

 

「……ま、それもそうやね」

 

泣き真似を止めてパッと再び薄ら笑いを浮かべた青年は、ゆっくりと少女に歩み寄りながら言葉を続ける。

 

「せやけど、一応兄としてもう一回だけ忠告しといたるわ。これ以上死神にちょっかい出すんは止めとき。キミの素性やボクの存在が尸魂界にバレてもうたら、一巻の終わりやからなァ」

 

そして少女の目の前で屈み、目線を合わせながら冷たい声色で言い放った。

 

 

「まだ──死ぬん(いや)やろ?」

 

 

その瞬間……少女が従えていた周囲のカラスが、まるで逃げるように一斉にその場から飛び去っていく。そして少女も思わず息を呑んだ。その言葉に込められた並々ならぬ重圧に……ではなく──青年から発せられた僅かな殺気に、本当に殺されるかと錯覚してしまった事に。

 

「──なんて、冗談や♪」

 

すると青年は、先ほどとは打って変わって穏やかな声色でそう言いながら少女の頭にポンと手を置いた。

 

「程々にしときや? 下手したらホンマに冗談で済むか分からへんよォになるからなァ」

 

少女の頭を撫でながら横を通り過ぎ、ヒラヒラと手を振りながら青年はその場から歩き去って行く。

 

「ほな、またね」

 

そう言い残して去って行く青年の背中を静かに見送った後、少女は溜息混じりに口を開いた。

 

 

「まったく……我が兄ながら不気味な男だ。元とはいえ、死神とはああいう連中ばかりなのか?」

 

 

そんな少女の疑問に答える相手は居らず、一羽だけ戻ってきたカラスが「カァ」と鳴いたのだった。

 

 

 

 

 

To Be Continued




誰とは言わないがBLEACH側にも転生者が居てもいいヨネ!(隠す気ゼロ)

バレバレだとは思うけど一応感想欄とかでも名前を伏せといてもらえると助かります。

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