今回はBLEACH展開から推しの子展開に戻るワンクッション的な回になります。
今ガチ編の最後の方は大分原作から離れた着地になりそうです。
「ん……あれ……ここは……?」
黒川あかねが目を覚ますと、真っ先に視界に映ったのは見知らぬ天井だった。
ぼんやりとした気怠さを感じながらも自身の状態を確認すると、どうやらソファか何かに寝かされているようで、体の上には厚手の毛布が掛かっていた。
するとそんな彼女に、男の声が掛けられる。
「ああ、起きたか」
「………………アクア君?」
顔だけ動かして声がした方へ視線を向けると、『今ガチ』の共演者である星野アクアの姿があった。少し離れた位置でデスクチェアに座りながら文庫本を読んでいた彼はあかねが目覚めた事に気付くと、本を閉じて立ち上がり、彼女の傍に歩み寄る。
「気分はどうだ?」
「えっと……少し頭がボーっとしてるけど、大丈夫」
アクアの問いに答えながら、あかねはゆっくりと上半身を起き上がらせる。それから改めて周囲を確認すると、そこは事務机やPCなどが置かれたオフィスのような部屋だった。
「ちょっと待ってろ」
そう言いながらアクアは部屋を出て行くと、1分もしない内に一人の女性を連れて戻ってきた。彼が連れてきた女性は部屋に入るなりあかねを見ると、優しく微笑みながら彼女に声を掛けた。
「良かった…目が覚めたのね、黒川あかねさん」
「あ、はい……ええっと……」
「ああ、ごめんなさい。私は苺プロダクションの社長、斉藤ミヤコよ」
あかねが困ったように言い淀んでいると、それを察した女性……ミヤコは自身の名前と役職を告げた。それを聞いて、あかねは未だに上手く回らない頭で『苺プロダクションって確か、夜代君とアクア君の所属事務所だったっけ……』などと脳内で呟いた。
「ここはウチの事務所で、気を失った貴女を夜代君が連れ帰ってきたんだけど……覚えているかしら?」
「夜代君が…………っ………!!」
レンの名前を聞いた途端、電流が走ったかのようにぼんやりしていた脳が一気に覚醒する。そして自分の身に起きた事を思い出したあかねは、焦燥感を露わにした表情でアクアとミヤコに問うた。
「あ、あのっ! 夜代君は…夜代君はどこに!?」
「レンなら……」
「呼んだか?」
アクアが答えようとしたタイミングで、がちゃりと扉を開けてレンが入室してきた。
「おっ、黒川さん! 目が覚めたのか! よかったぁ……」
起きている彼女を見て、安心したように笑うレン。そんな彼に対して、あかねは一瞬だけ呆けた後……弾かれるようにソファから飛び出し、一目散にレンに向かって駆け寄った。
「夜代君!!!」
「えっ──うおっと!?」
まるで掴みかかるかのような勢いで慌てて飛び込んで来たあかねを、驚きながらも受け止めるレン。そんな彼女の行動に驚いたのは当人だけではなく、傍で見ていたアクアとミヤコも目を丸くしていた。
「夜代君、無事!? 怪我してない!?」
「待て、何の話かは知らんが落ち着け。それはどっちかと言うと俺の台詞だ」
「え……?」
レンが今にも泣きそうなあかねを制して落ち着かせながらそう言うと、彼女は呆然として疑問符を浮かべる。
「覚えてないのか? 俺が黒川さんと合流した途端、気を失って倒れたんだぞ。それで家に送ろうにも場所が分からなかったから、ひとまず
「本当は他所様のタレントを入れるなんて余りよろしくないんだけど……未遂とはいえ自殺するまで思い詰めてたみたいだし……今回は大目に見ましょう」
レンが説明すると、ミヤコが神妙な面持ちでそう告げた。
あかねが歩道橋から飛び降り自殺をしようとした事は既にレンから聞き及んでいる。違う事務所に所属するタレントとはいえ、そこまで追い詰められている十代の少女を見捨てるほどミヤコは薄情ではない。
「あっ……」
そこでようやく我に返ったのか、あかねは顔を赤くしながらススス…と静かに後退してレンから距離を取った。
「ご、ごめんなさい……えっと、よく覚えてないんだけど……夜代君が凄い大怪我をしたような……多分、そんな夢を見て……」
「ああ、なるほど……」
そんなあかねの弁明の言葉に反応したのは、レンでは無くアクアだった。
「だから起きる前のあかねは、ずっと魘されながら『夜代君…夜代君…』ってレンの事を呼び続けてたのか」
「え、マジか?」
「マジだ」
「マジなの!!?」
アクアの口から衝撃の事実を聞かされたあかねは、元々赤くなっていた顔が耳まで真っ赤に染まり、さっきまでとは別の意味で泣きそうになった。
「黒川さん……心配しなくても、俺はこの通り怪我一つしてないからな。むしろ、黒川さんの方が元気そうで良かった」
「……………うんっ」
レンはそう言いながら自分は何ともない事をアピールするように優しく笑い掛けると、あかねは赤い顔のままホッと安心したように笑顔を返したのだった。
そして……
「そんだけ元気なら──もう覚悟は出来てるよな?」
「……………うん?」
笑顔のまま不穏な事を言い出したレンに、同じく笑顔のまま疑問符を浮かべるあかね。そんな彼女を余所に、彼はおもむろに部屋のドアを開け、外に向かって「おーい、入っていいぞー」と声を上げる。
その瞬間……慌ただしい足音と共に、4人の集団が勢い良く部屋に雪崩れ込んで来た。
「「「「あかねー!!!」」」」
「!!?」
それは鷲見ゆき、熊野ノブユキ、森本ケンゴ、MEMちょ……今ガチで共演しているメンバー達だった。こうなる事を見越して、予めレンが呼んでいたのだ。
「っ……!!!」
すると、部屋に入るなり先陣を切ってあかねへと駆け寄ったゆきが、そのまま平手で彼女の頬を叩いた。パンっと乾いた音が鳴り、唖然とするあかねだが、次に目に飛び込んで来たのは……大粒の涙を流しているゆきの顔だった。
「このば……! なんでこ…ん! しんぱいさせて……! なんでもぉ! 相談してよぉ!」
「ゆきちゃ……ごめ……!」
泣きながら叫び、あかねの体を抱き締めるゆき。そんな彼女に触発されるように、あかねも一緒になって涙を流す。
それを皮切りに……MEMちょが「心配したよー!」と同じように泣きつき、ノブユキとケンゴが「大丈夫だったか?」「怪我とかしてないか?」と彼女の身を案じて声を掛ける。
「みんな……ごめん……ありがとう……!!」
そうして暖かなメンバー達に囲まれたあかねは、涙を流しながら微笑んだのだった。
そんな彼女達を少し距離を置いたところで眺めていたレンは、隣に立つミヤコに対して頭を下げた。
「すみません社長……無理を聞いてもらって……」
「いいのよ。今のあの子達はタレントじゃなくて、友達が心配で駆け付けた子達だもの……これくらい目を瞑るわ」
先も言ったが、タレントが所属しているところとは別の事務所に出入りするのは余りよろしく無い。場合によってはあらぬ疑いを掛けられる恐れがあるからだ。
しかしそれに目を瞑ってでも、今ガチメンバーが事務所に立ち入る事を許可してくれたミヤコに、レンは深く感謝した。
「ありがとうございます……因みに、アイ達は?」
「奥のレッスン室で待機してもらってるわ。彼女も今は大変な状況だから…ね」
「賢明な判断かと」
アイ、ルビー、かなの三人は今この場には居ない。あかねの精神状態を慮ってミヤコが席を外させたのだ。
アイとかなはすぐに納得してそれを了承。特にかなは個人的にあかねに思うところがあるのか、会いたくないと言わんばかりの態度だったらしい。逆にルビーだけ一人渋っていたのだが、他の二人によって半ば強制的に引っ込まされたそう。
「まぁ……大変なのはこれからですけど……」
「え?」
レンの呟きに疑問符を浮かべるミヤコだが、彼はそれに答えず、未だにあかねを囲んでいる集団へと歩み寄り……その中心にいる彼女に問い掛けた。
「黒川さん……キミはこれからどうしたい?」
「どうって……」
「番組の出演を続けるか、このまま辞めるかって話だ。今の黒川さんには選ぶ権利がある」
今ガチを続けるか否か……その選択を、レンはあかねに問うた。
「でも契約とか……」
「いや、これは番組側が未成年者を扱う上での監督責任を問われる問題だ。こういう状況になった以上、辞めるって言われてもとやかく言わないだろ」
ノブユキの疑問に対して、レンの代わりにアクアが答える。
「レンの言う通り、続けるかどうかはあかね次第だ。けど、黒川あかねっていう本名晒して活動してるんだ。引き時はちゃんと自分で見極めろよ」
次いであかねに対してアクアがそう言うと、彼女は考え込むように顔を俯かせ……やがて静かに口を開く。
「………私、もっと有名な女優になって、これからも演技を続ける為に頑張ってきた。皆にもいっぱい助けてもらって……でもこんな事になっちゃって……」
「あかね………」
「怖いけど……すごく怖いけど……………続ける」
体を小さく震わせながらも、あかねは答えを出した。
「──このまま辞めたくない」
恐怖はある。それでも尚、あかねは強い意志の籠った目でそう宣言した。
であるならば……彼女の選択を尊重しない理由はない。
「……よし。というワケで、黒川さんは番組を続ける。異論は無いよな?」
「当たり前だろ」
「最初からそう言ってるんだけどなー」
「私達も出来る限りフォローするから……」
レンが確認すると、他の面々もあかねの選択を快く肯定。協力する事を約束しながら再度彼女を囲んだ。
そしてレンは一旦その輪から外れると、同じく輪から出ようとしていたアクアにこっそりと声を掛ける。
「アクア」
「なんだ?」
「黒川さんを助けたい。協力してくれないか?」
「……具体的には?」
「まずは彼女を苦しめるネットや世間の声を黙らせる。もちろん、黒川さんを悪役に仕立てた番組側もな。その後は黒川さんに付いた悪いイメージの払拭を図りたいところだが、正直俺はその辺りの知識には疎い……だからアクアの知恵を借りたいんだ。そういうの得意だろ?」
「…………わかった。ちょうど俺も、このままじゃ気分が悪いと思ってたところだ。煽った番組サイドも、好き勝手言うネットの奴等にも──腹が立ってしょうがないんだよ」
「──ははっ」
そんな怒りを滲ませたアクアの様子に、レンは思わず笑ってしまった。
「なんだよ?」
「いやなんていうか……アクアお前、良い奴だな」
「は? なんでそうなる?」
突然そんな事を言い出したレンに対して、アクアは怪訝な顔を彼に向ける。
「誰かの為に怒れる奴ってのは、得てして優しい性根の持ち主なんだよ」
「……別に俺はあかねの為に怒ってるワケじゃない。番組のやり口やネットの連中が気に食わないってだけで」
「照れんなよ。悪ぶりたいオトシゴロって奴なのかもしれんが、そう言うのは傍から見たら微笑ましいモンにしか見えねぇぞ」
「よし分かった、とりあえず座れ。徹底的に議論してやるよ」
そんな会話を繰り広げる愉快そうに笑うレンと、その間違った認識を正さんとするアクアの二人。その様子を、わいわいと盛り上がっている今ガチメンバーに囲まれながらジッと眺めている者が一人……
「(さっきはつい話を合わせちゃったけど……アレは本当に夢だったのかな? 夜代君が大きな怪獣みたいな化物と戦ってるなんて……そんな夢……)」
あれから暫くして……あかねの無事を確認出来た今ガチメンバーは遅くなる前にその日は解散とし、徒歩やタクシーなどでそれぞれ帰って行った。
あかねは流石に親御さんへの説明が必要との事で、ミヤコが車で彼女を自宅まで送った。
そしてレンもアイと共に自宅となるマンションの部屋に帰ってきたのだが……
「はいレン♪ あーん♪」
「………………………」
リビングには何故かご満悦な笑顔を浮かべながらレンの口元に食事を運ぶアイと、それを何とも言えない表情で眺めているレン。傍から見れば、ただ二人の男女がイチャついているだけのように見えるだろう…………男の方の目が死んでいなければ。
何故こんな状況になっているのかと言うと……
「……なぁアイ……流石にコレは恥ずかしいから止めて欲しいんだが……」
「だってレンってば、今右手使えないからこうでもしないと食べられないじゃん」
「うぐっ……」
アイにピシャリと言われ、レンは二の句が継げなくなる。
レンは今、利き手である右手を上手く使えない。その原因は巨大虚との戦闘でレンが最後に繰り出した『瞬閧・
従来の『瞬閧』は高濃度に圧縮した鬼道を両肩と背に纏い、それを炸裂させる事で鬼道を己の手足に叩き込んで戦闘を行う技である。
対して『武神甕槌』は圧縮した鬼道を右手の一点のみに集束させて纏い、一撃の威力を爆発的に高めたそれを相手に叩き込むというレン自身が考案した技なのだが……その反面、いくつかのデメリットが存在する。
それは技の範囲が右手だけなので見切られやすい、多数の相手との戦闘には向かないなど多々あるが、その中でも最たるデメリットは……使用後の右手に深刻なダメージが残るという事だろう。
「その右手……見た目は綺麗だけど、中身はボロボロなんでしょ?」
「………ああ。少なくとも今夜一晩はな」
現状……回道によってレンの右手は一見すると傷一つ無いように見えるだろうが、それは外見だけであり……その実、ほんの少しでも動かすと激痛が走るほどで、箸を持つ事すらままならない状態だ。
通常の『瞬閧』でさえ、纏って炸裂させた鬼道の余波で両肩と背中の衣服が弾け飛ぶのだ。それを右手だけに凝縮して使えばどうなるかなど、容易に想像はつくだろう。
もちろんレンはそれも覚悟の上で使ったのだが……まさかその結果としてこんな辱めを受ける事になるとは予想出来なかったらしい。
「そんなレンの為に、腕によりをかけて作ったんだよ?」
テーブルの上には右手が使えないレンに代わって、アイが作った夕食が並べられている。
因みに献立は白米に味噌汁、そしてサバの味噌煮とほうれん草のお浸しといった和食が主軸となっている。
「私が作ったご飯を私に食べさせてもらえるなんて、レンってば役得だよね♪」
「…………………そっすね」
もはやレンは考える事を止めた。
「それに最近のレンは番組ばっかりで全然構ってくれなかったし……」
「? なんか言ったか?」
「なにも。はいもう一回あーん♪」
「もごっ」
突然何かを誤魔化すように白米を摘まんだ箸を、レンの口に突っ込むという暴挙に出たアイ。彼はいきなりの事に目を白黒とさせながらもそれを吐き出すような事はせず、キッチリ咀嚼して飲み込んでからアイに非難の目を向ける。
「ゲホ……急に口に突っ込むなバカ。喉に詰まらせたどうすんだ」
「あはは、ごめんごめん。それじゃあもう一回……」
「やらねーよ。というかそもそも俺は箸くらいなら左手でも使えるっつーの」
「ぶぅー」
そう言いながら箸を引っ手繰るレンに対して、不服そうに口を尖らせるアイ。そんな彼女を無視してレンは「いただきます」と一言添えてから夕食に箸を付ける。元が器用な為か利き手とは逆にも関わらず、その動作に淀みは見られない。
「ん……美味いな、コレ」
そしてサバの味噌煮の切り身を口に含むと、自然とそんな言葉を漏らしていた。それを聞いた途端、アイの表情がパッと明るくなる。
「ホント?」
「ああ、濃過ぎず薄過ぎずでちょうどいい塩梅の味だ」
「えへへ…よかったぁ。まぁ、いつも作ってくれるレンの味には敵わないけど……」
「そうか? 俺はこっちの味の方が好きだが」
「えっ!?…あ…そ、そうなんだ……」
不意打ち気味にそう言われ、珍しく動揺して上擦った声を上げてしまうアイ。発端である男は呑気に味噌汁を啜っているが……
「うん……アイの料理って何と言うか……安心する味なんだよな」
「へぇ~……じ、じゃあこれからは、私が毎日作ってあげよっか?」
動揺を悟られぬように満面の笑顔を浮かべながら、冗談めいた口調でそんな事を言い放つアイ。もちろんその言葉の中にはそう言う意味が多分に含まれているのは語るまでも無い。
それに対してレンは………
「──いや、流石に毎日は大変だろ? いつも通り当番制でいいよ」
「……………………………」
などと、そんな事をほざいたのだった。直後、アイの表情がスンっと抜け落ちる。
「………ハァァァ………」
何故この男は普段色々察しは良いくせに『こういった事』に関しては鈍いのだろうかと、アイは頭を抱えたくなる衝動を堪えて、代わりに盛大な溜息を吐き出した。
「? どうかしたか?」
「うるさいバカ。おたんこなす。さっさと食べれば」
「なんで?」
急に罵倒された上に対応が冷たくなったアイに、素で疑問符を浮かべるレン。自業自得である。
そんな一幕がありながらも、夕食を終えた二人の話題は自然と黒川あかねに関するものになる。
「それで? アカミちゃんは大丈夫だったの?」
「あかねな。マジで間一髪だったが、何とか自殺は防げた。そのあと
「? どういうこと?」
「今の黒川さんを取り巻く現状をすぐに何とかするのは難しいって話だ」
アイの疑問に対してそう答えながら、レンは言葉を続ける。
「彼女を苦しめている要因は大きく分けて2つ……今ガチ視聴者によるネット上での誹謗中傷と、黒川さんを悪役に仕立てている番組側だ」
レンは左手で二本指を立てながらそう語る。
「アイは番組を観てたんだろ? 視聴者目線として、黒川さんはどういう風に映ってた?」
「うーん……率直に言うなら、おじゃま虫かなぁ。ほらあの……ユリちゃんとノリアキ君」
「ゆきとノブユキな」
「その2人が良い感じになった途端、急にその間に割って入ってくるようになったからね。しかもあからさまに男を奪おうっていう感じだったから、かなり悪目立ちしてたかも。それまで特に目立って無かった分、余計にね」
アイはこれまで観てきた『今ガチ』の番組内容を思い返しながら、イチ視聴者なりの見解を述べる。
「あと決定的だったのが、ウリちゃんを振り払おうとしてそれを庇ったレンを傷つけちゃったシーンかな。あそこからアラキちゃんは、暴力も厭わない男女の仲を引き裂く悪女…って印象になった感じだね」
「だからあかねとゆき……もういいや面倒くせェ──番組の内容だけ見れば、概ねその通りだな」
アイの見解に同意するように頷くレン。ついでに彼女の名前間違いを訂正するのは諦めた。
「実際には……黒川さんが悪女ムーブをするようになったのは、ディレクターがそうした方が目立てるって彼女にアドバイスしたからで……その後のイザコザは完全に事故。少なくとも当事者である俺達の間では円満に解決している。だがそれを番組側がイジくったせいで、黒川さんが悪いという演出で放映されてしまい、元々火種として有った黒川さんへの誹謗中傷に一気に火が付いた……これが今の炎上騒ぎに至るまでの経緯だな」
「……それだけ聞くと、悪いのって番組じゃない?」
「まぁな。今も番組は黒川さんを悪役に見えるように演出している……それを観た視聴者がネットで更に彼女への誹謗中傷を加速させ、結果として番組は更に注目度が上がって視聴率も伸びる……その繰り返しだ」
「じゃあ、番組側にあの子を悪用しないように訴えかければ解決じゃない?」
「いや……恐らくそう簡単にはいかないだろうな」
アイの提案をレンは首を横に振って否定する。
「今回の件に関して、番組側は黒川さんに何一つとして強制はしていない。出演者の誰かを悪役に仕立て上げたら番組が盛り上がるだろうという魂胆は元々あったのかもしれんが……それでも番組側はあくまで『こうした方が良いんじゃないか?』というアドバイスをしただけ。それを実行したのは黒川さん自身の判断で、番組はそれに沿って演出しただけ。どちらかが悪いとするなら……その辺りのリスク管理を怠った黒川さんの方…という事にされるだろうな」
「……ヒドくない?」
「ああ、胸糞悪い話だ」
吐き捨てるようにレンは言う。恐らくは当時のあかねが余裕も無く功を焦っていた事も、責任感が強い事も番組側…特にディレクター辺りは織り込み済みだったのだろう。そう考えると余計に気分が悪くなった。
「まぁそう言う訳で、番組側から解決の糸口を探すのは難しいだろう。そうこうしている間に番組が終わったら目も当てられないしな」
「じゃあどうするの?」
「そうだな……一番確実なのは、黒川さんの印象を変える事だな」
「?」
疑問符を浮かべるアイに対して、レンは順を追って説明していく。
「まず今の黒川さんには悪女というマイナスの印象が植え付けられている。だから多くの視聴者は彼女を非難するし、番組側もそれに沿ったイメージで演出している。じゃあもし、何かが切っ掛けでその印象がプラスの方にひっくり返ったらどうなると思う?」
「えっと……………アカリちゃんを責める人が少なくなって、番組も悪いように使い辛くなる?」
「正解」
アイの答えに、レンは左手の指をパチンと鳴らして肯定する。
「黒川さんに対する視聴者達の印象を良い方向に変える事が出来れば、おのずと番組側もそっちの印象に沿った演出に変えざるを得ない。だからまずは、その切っ掛けをコッチで作る必要があるんだ」
「そんな事出来るの?」
「簡単じゃないだろうな。一度付いた印象ってのは中々変えられない……かく言う俺もどうしたら良いのかさっぱりだ。かと言って、現世の問題に死神の力や尸魂界の技術を用いる訳にもいかない。普通に掟に反するからな」
お手上げだという風にそう言いながら肩を竦めるレン。しかしその表情には焦りや諦観などは一切見えず、まるでそれでも問題無いという余裕が浮かんでいた。
「だから、こういう事が得意そうなアクアに策を頼んであるんだよ」
「アクア君に?」
レンの口から出て来たアクアの名前に、アイは首を傾げる。
「アクアはネット事情や芸能界でのあれこれに精通している上に、頭もキレる。今回の件に関しても、色々腹に据えかねているみたいだったしな。あいつならきっと、彼女を助ける良い方法を見つけてくれるだろうさ」
確信めいた口調でそう語るレン。するとその時、彼の
「っと、噂をすれば……」
すぐさまメッセージ画面を開くと、案の定送り主はアクアからだった。その内容を簡潔に要約すると、『準備が整った』との事だ。仕事が早い奴だと感心して笑いながら、『了解』とメッセージを返すレン。
「さて──反撃開始だな」
To Be Continued
前回の最後に出した転生者に対する反響がヤベェ……
でも後悔はしていません。BLEACH側の転生者を出してみたかったというのもありますが、何より物語を良い感じに引っ掻き回しそうなキャラは彼しか居ないと思っていますので。今後の活躍に期待ですね。
・夜代レン
アタッカーもタンクもサポーターもヒーラーもこなす万能型な死神。ただしタンク以外は器用貧乏の域を出ない為、それぞれの本職には劣る。
事務所ではあかねに飛びつかれ、自宅ではアイに食事を振舞ってもらうという中々な体験をしているクソボケ。しかしクソボケらしく恋愛事には疎いので、2人を仲間や同僚、友達や庇護対象としか認識していない。ただし恋愛感情が皆無という訳ではないので、それを引き出せるかはヒロイン次第。
・星野アイ
主人公兼メインヒロイン。
今ガチが始まってからレンに構ってもらう機会が減ったので、今回思い切った行動に出てみたが普通にスルーされてしまった。このままでは決して少年誌などでは掲載されないであろうヤバイ手段に打って出る可能性がある為、アフターケアは万全を期す必要がある。
料理は意外と得意。ただし尸魂界で覚えたので、レパートリーが和食に偏っている。
レンが黒川あかねを気に掛けている事については思うところはあるが、当人はクソボケで相手は人間なのでそこまで危険視はしていない。
・黒川あかね
暫定ヒロイン。そろそろ色んな意味で覚醒しそう。
・星野アクア
原作主人公。そろそろアップを始めるそうです。