これからも気ままに書いていきます。
というわけで第三話です。
「「人多っ…!」」
それが穿界門を通じて尸魂界から現世へとやって来た二人の死神──夜代レンと星野アイが開口一番に放った言葉だった。
場所は日本の首都〝東京都〟にあるどこかの中層ビルの屋上。
二人が降り立ったその場所から見える街の風景は、彼らにとって圧巻の一言だった。
「うわぁ……現世って院生の頃に研修で来て以来だけど、こんなに人が多くなかったよね?」
「研修には割と人口の少ない町が選ばれるからな。それに比べてここは国の首都。人口も一番多いって話だ」
「なんでレンがそんな事知ってんの?」
「平子隊長に聞いた。あの人百年くらい現世で暮らしてた事あるみたいだから」
「そうなの!?」
「でも、やっぱ聞くと見るとじゃあ全然違うな。こりゃスゲーわ」
並び立つガラス張りのビル群に、ざっと目測で数えても百人は軽く超える人々が往来を行き交い、尸魂界には無い車の数々が道路を走り回る。そしてそれらが出す耳が痛くなりそうな程の騒音。
尸魂界では絶対に見る事のないその光景に、二人はただただ圧倒された。
しかしいつまでも驚いてばかりではいられないので、すぐに任務へと意識を切り替える。
「さて、まずは協力者と合流しろって話だったが……」
「どこにいるんだろうね?」
事前に聞かされていたのは現世での協力者と合流しろというだけで、その人物が居る場所までは聞かされていないのだ。
てっきり穿界門を出た先で待っているものだと思い込んでいたが、周囲を見回してもそれらしい人影はない。
「……もしかして、あの中からその人を探す…とか?」
「いやいやいや、流石にそれは無いだろ……多分」
アイが恐る恐る指差したのは、眼下でごった返している人々の群れ。流石にあの中から顔も知らない人物を探し出せなど正気の沙汰ではないので、それは無いと信じたい。
ではどうするのか……と、現世に着いて僅か数分で行き詰ってしまい、やや途方に暮れ始めるレンとアイの二人。
その時だった──
ビィーーッ!!
「「!?」」
その場にけたたましい警報のような電子音が鳴り響いた。
それを聞いた二人はすぐさまその音の発信源である、伝令神器を死覇装の懐から取り出した。
「虚だと…!?」
「ウソでしょ!? まだ来たばっかりだよ!?」
伝令神器の画面に映し出されていたのは、人間の魂が悪霊化したとされる存在『
「虚からしたら知ったこっちゃねーんだろ。とにかく現場に行くぞ」
「えぇー……なーんか幸先悪いな~」
そんな会話をしながら、二人は伝令神器の画面に記された現場に向かう為に、瞬歩でその場から離れていった。
「……………」
その様子を少し離れた場所から見ていた人物が居た事にも気づかずに……
「ハァー…ハァー…ハァー……!!」
高いビル群に囲まれ、昼間でも薄暗さを感じる路地裏。
そこでは一人のスーツを着たOL風の女性が、胸から生えた鎖をジャラジャラと鳴らしながら必死に走っていた。
その理由は、そんな彼女を追いかけている怪物の存在だった。
『──ォォォオオ!!!』
くぐもったような声で雄叫びを上げる異形の怪物。
体格は優に五メートルを超えるほどの巨体で、背中からは蛸のような吸盤がついた八本の触手が生えている。そして何より特徴的なのは、その巨体の胸の真ん中にぽっかりと空いた丸い孔と、顔を覆い隠す骸骨のような仮面。
これが『
「なに…なんなのよぉ……!!?」
何故自分がこんな怪物に追いかけられているのか、と疑問と混乱に頭を埋め尽くされながらも走り難いヒールを履いた足を懸命に動かす女性。
しかしそれが災いしたのか、単に限界だったのか、突如としてガクリと足を踏み外したかのように体勢を崩してしまう。
「あっ、ちょ……ぐぅっ!」
女性はその場でたたら踏み、そのまま地面に倒れ込んでしまう。
『ォォ──!!!』
それを好機と見たのか、雄叫びと共に背中の触手を勢いよく一斉に女性へと伸ばす虚。
「ひっ……!!」
迫りくる触手に、女性は恐怖のあまり両目を強く閉じて体を縮こまらせる。
そしてもうダメだと思ったその時……
「──よっ、と」
そんな声が聞こえた気がすれば、次いで響き渡る触手が叩きつけられたであろう轟音。
しかし女性の身には痛みなどは感じられず、代わりに何やらフワリとした浮遊感があった。
「……………へ?」
恐る恐る目を開けると、女性は黒い着物を着た少女──アイに抱えられて宙を舞っていた。
「大丈夫?」
「あ…はい……」
「そっか、よかった♪」
美少女と言っても過言ではないアイに笑顔で問われ、女性は安心したのかそれに見惚れながら気の抜けた声で返答した。
「それにしても気持ち悪い虚だねー、タコみたいな虚なんて初めて見た」
女性を抱えて地面に着地したアイは、ニュルニュルと触手を動かす虚を見て、うえーと顔を顰める。
すると、邪魔をされて怒ったのか、アイの態度が気に食わなかったのかは分からないが、虚は強く吼えながら再び触手を伸ばす。
『ゲソォォォオオ!!!』
「ゲソ!? タコじゃなくてイカなのアレ!?」
そんなどうでもいい事に驚きながら、襲い掛かって来る触手をアイは女性を抱えて再び飛び上がって避ける。
「よっ、とっ、はっ、ほい、っと」
「……!?……!?」
そのままぴょんぴょんと空中を跳ね回りながら飛んでくる触手を回避し続けるアイ。一方で抱えられている女性はもう色々といっぱいいっぱいなのか、声にならない悲鳴を上げて目を回している。
「ちょっと遅いよレン! やるなら早くしてくれないかな!?」
すると、突然頭上に向かって文句を飛ばすアイ。
見るとその視線の先には空中に立って虚を見下ろしている、遅れてやって来たレンの姿があった。
「お前が先走り過ぎなんだよバカ」
そう文句を文句で返しながら、レンは虚に向かって両手をかざすように伸ばす。
「
連なりて罪業を縛る枷と成る」
そして言霊による詠唱を口にし、術を発動する。
「縛道の六十三──〝鎖条鎖縛〟!!」
『ゲソ!?』
レンの両手から伸びる霊力によって生成された数本の太い鎖が、瞬く間に虚の巨体と触手を纏めて雁字搦めに縛り上げた。
「ダメ押しだ。破道の十一──〝綴雷電〟!!」
『ゲゲゲゲゲゲゲッ!!?』
続けて放たれるのは迸る電撃。レンの手から放電されたそれは鎖を沿うように走っていき、そのまま拘束された虚の体に流れ込んで感電させた。
「トドメだ、アイ」
「オッケー!」
レンの合図を受けたアイは、抱えていた女性を地面に降ろしてから、拘束とダメージで動けない虚に向かって素早く宙を駆けて行く。
左で斬魄刀の鯉口を切り、右手で柄を握り締めて、いつでも抜刀出来る構えを取る。
『ゲェェ…ソォォォ!!』
しかし虚も往生際悪く、拘束されながらも迫り来るアイに向かって力の限り強く吼える。
するとその瞬間、口元が大きく開かれた虚の仮面の奥から、更に二本の触手が飛び出してきた。
「なに!?」
「えぇ!?」
虚のまさかの隠し玉に、揃って驚愕の声を上げるレンとアイ。
特に完全に意表を突かれたアイは、眼前に迫る二本の触手を前に空中で固まってしまう。
「危ないっ!」
アイに助けられた女性も、声を荒げてそう叫ぶ。
……が──
「き…気持ち悪ーーい!!!」
アイがそんな絶叫に似た声を上げた瞬間、二本の触手が綺麗な輪切りの形で斬り払われた。
「え──?」
その光景を見た女性は何が起こったのか分からず、もはや絶句するしかなかった。
彼女の目には、一瞬アイの姿がブレたと思ったら既に触手が輪切りにされていて、気が付けば抜き身の刀を手にしたアイが虚の眼前に移動していたのだから。
今でこそ、彼女が触手を斬ったのだという結果が見て取れるが、その過程がまったく見えなかった。
アイが行ったのは得意の瞬歩を使った高速移動からの斬撃、という至ってシンプルな事。
ただしそれを一秒の間に数回行うという、知る人が見れば感嘆するほどの絶技である。
「やぁぁぁぁっ!!」
そして遂に成す術が無くなった虚に向かって、アイは縦一直線に斬魄刀を振り下ろし、その仮面を斬り裂いたのだった。
『ゲ…ガ……ァ……アタリメ……』
虚にとって仮面は証であり、弱点でもある。
斬魄刀によって仮面を斬られた瞬間から、その巨体がボロボロと崩壊していき、空中に溶けるように霧散していく。そして断末魔のような言葉を最後に、虚は目の前から消滅した。
「……やっぱりあれはタコじゃなくてイカだったんだね」
「何言ってんだお前?」
そうどうでもいい事をしみじみとぼやくアイを、地上に降りてきたレンが呆れたような目で見ていた。
「さて、次は……」
「ひぃっ!」
戦闘が片付いたところで次に二人が目を向けたのは、虚に襲われていた女性。
目を向けられた女性は地面に座り込みながら悲鳴を上げる。
先ほど助けられたのは事実だが、女性から見れば彼らは日本刀を持った二人組なのだ。こういった反応も至極当然である。
「落ち着いてください。俺達は貴女に危害を加えるつもりはありません」
レンは両手を広げて見せて何もしないという表現をしながら、努めて穏やかな口調で女性に語り掛ける。
「まず貴女は、ご自身がどういった状態なのか把握していますか?」
「私…は……」
レンにそう問われて、女性は落ち着きを取り戻し始めた頭を動かし、自身の状況を思い出しながらポツポツと話し始める。
「確か…向こうの交差点で事故に遭って、死んだと思ったら幽霊になってて、どうしたらいいか分からなくて、一週間くらいこの辺をウロウロしてて……」
彼女は人間ではなく〝
「そうです。貴女は死んで、今は魂だけの存在……いわゆる浮遊霊になった状態です。そして貴女のような人達に対処するのが、俺達〝死神〟の役目です」
「し、死神!!?」
死神と聞いて恐怖で顔を歪める女性。現世で生きてきた者にとって、死神とは悪いイメージしかないのだろう。
「大丈夫だよー、私達は死神だけど怖くないよー♪」
アイがそんな彼女と目線を合わせる為にしゃがみ込んで、安心させるように笑顔を浮かべておどけた口調で言う。
それが功を奏したのか、女性の恐怖心が少しだけ和らいだ。
「私達はね、貴女のような幽霊を安らかに成仏させてあげるのが仕事なの」
「正確に言えば、成仏させて貴女を尸魂界……死後の世界へ導くんです」
「えっと……地獄じゃなくて……?」
「あはは! ないない!」
「生前によっぽどの罪を犯した大罪人でもない限り、地獄行きはありえませんよ」
不安そうな女性に対して、二人は笑って大丈夫だと言い聞かせる。
「尸魂界はちょっと厳しい所もあるけど、慣れれば案外居心地が良い所だよ」
「ですから、安心してください」
「わ…わかりました」
二人からの説明を聞いて、困惑しながらも女性は話を理解して頷いた。
「それじゃ、早速〝魂葬〟を始めよっか!」
アイが斬魄刀を鞘から引き抜くのを見て、女性は再び恐怖で体をビクリと震わせる。
「あ、大丈夫大丈夫! 使うのは刃じゃなくてこっちだから!」
すぐにアイが弁明するように斬魄刀の柄尻部分を指差しながらそう言うと、「ほいっ」という掛け声と同時にそれを女性の額に軽く押し当てた。
「わっ…」
女性の額に【死生】と書かれた判が押されると、女性の体が淡い光に包まれる。魂葬による成仏が始まったのだ。
「えと…あ……ありがとう!」
それは虚から助けてもらった事か、こうして成仏させてもらった事か、その両方かは定かではないが、女性は確かな感謝の気持ちを込めて二人にそう伝えた。
同時にあっという間に光に包まれた女性の魂は、静かにその場から消えていった。
それを見送って一拍置いてから、レンとアイはどちらからともなく力が抜けたように息を吐いた。
「んんー…何だかドッと疲れたねぇ」
「現世に着いた途端、虚退治に魂葬だからなぁ。これも任務の一環とはいえ、流石に急だったな」
アイは両腕を頭上に上げてぐぐーっと体を伸ばし、レンは右肩を左手で押さえてぐるぐると回しながら、二人揃って少々疲労混じりにぼやく。
「これからどうするの?」
「まずは、協力者って人を探さないとな。とりあえずさっきの所に戻ってみるか」
そう言って今後の行動について話し合いながら歩きだすレンとアイ。
その時だった──
「どうやら野暮用は終わったようじゃの」
二人のすぐ後ろから、そんな声が聞こえたのは。
「「!!?」」
その瞬間、二人はすぐさま瞬歩でその場から離れて声を掛けてきたその人物から距離を取り、それぞれ腰に携えた斬魄刀の柄に手をかける。
虚との戦闘が終わってからも、二人はずっと周囲には気を配っていたし、この場には自分たち以外の気配は一切感じなかった……にも関わらず、突如として現れた何者かに気付かなかった上に背後まで取られた。二人が警戒心を顕にして臨戦態勢を取るのに十分な理由だった。
「ホホウ、二人とも良い反応じゃ」
しかしその人物は、二人の反応を見て感心したように言った。
「じゃが、気付くのがちと遅かったのう。もし儂が敵であれば、今頃は揃って地に伏せていたであろうな。まだまだ精進が足りんぞ」
まるで厳格な老人のような口調でそう言葉を述べながらニヤリと不敵に笑うその人物は、褐色の肌と長い紫がかった黒髪をポニーテールにした、美女と言っても差し支えない綺麗な顔立ちをした女性だった。
そんな女性の姿を視認した瞬間、レンとアイの二人は目を丸くした様子で揃って声を大にして叫んだ。
「「夜一
彼女の名は『四楓院夜一』
かつては護艇十三隊の二番隊隊長と隠密機動総司令官などを勤めた実力者であり、現在は月に一回の真央霊術院講師をしている人物。
「久しぶりじゃのう──弟子共」
そして……アイとレンの師匠に当たる人である。
「せんせーだー!」
「おうおう、相変わらず可愛い奴じゃのう、アイ」
あっという間に警戒心を解いて嬉しそうに懐に飛び込んでくるアイを受け止め、その頭を軽く撫でながら笑う夜一。
「ほれレン、お主も師匠の胸に飛び込んできていいんじゃぞ? んー?」
「なっ、か、揶揄わないでください先生!」
「うわ、レンってば何顔赤くしてんの? キモ」
「やめろ、それは普通に傷つく」
意地の悪い笑みを浮かべた夜一からの誘いを若干どもりながらも拒否したレン。しかし男の悲しき
「はっはっは、変わらんのう二人とも。こうして会うのは、主らが真央霊術院を卒業して以来かの。先程の主らの仕事ぶりを見させてもらったが、中々立派にやっておるようで何よりじゃ」
「えへへー♪」
「あ、ありがとうございます……」
どこか誇らしげな夜一の言葉を聞いて、レンとアイも嬉しそうな笑みを零す。
彼らの師弟関係は二人が真央霊術院を飛び級で卒業するまでの三年間だけだったが、彼らの関係は良好だった。
「さて、このまま弟子との親睦を深めたいところじゃが……主ら、何故儂がここに来たのかわかっておろうな?」
「?」
「はい、俺達の任務の件ですよね」
夜一の問い掛けに対して、レンが即答する。アイは疑問符を浮かべて首を傾げているが、ここでは無視した。
「こうして俺達の前に現れたという事は、夜一先生が協力者と見ていいんでしょうか?」
「え、そうなの!? やったぁ!!」
今度はレンが問い掛けると、アイが嬉しそうに顔を綻ばせる。しかし夜一は、それに対して首を横に振って答えた。
「いいや違う。儂としては主らに協力するのも吝かではないが、正式な協力者がちゃんとおる。儂はただ其奴の所へ案内する為に、主らを迎えに来ただけじゃ」
「わざわざ先生がですか?」
四楓院夜一は過去の功績やその活躍の記録から、死神達の間では割と伝説の人的な扱いをされているのだが、そんな彼女がただの案内役だという事にレンは少なからず驚愕する。
「ま、詳しい話も積もる話も後でよかろう。まずは主らを案内するとしよう」
二人に背を向けてコツコツと靴音を鳴らしながら数歩だけ歩くと、夜一は首だけ動かして振り返り、肩越しにレンとアイの顔を見ながら不敵に笑う。
「──しっかり着いてくるんじゃぞ」
言うや否や、夜一の姿が消えた。
「ちょっ、先生!?」
「ヤバいよレン! 早く追いかけないと見失っちゃう!」
「だーもう! イタズラ好きなのも相変わらずだなあの人!!」
それを見送ってしまった二人も、大慌てで瞬歩を使って夜一の跡を追いかけて行った。
しかし、レンは素より歩法に優れたアイの瞬歩を以てしても、かつては〝瞬神〟と謳われた夜一の速度に追いつくことは敵わなかった。
「ゼェー…ゼェー……!!」
「つ、疲れた~……」
「はっはっは、ギリギリじゃが及第点といったところかのう」
既に疲労困憊で地面に座り込んで息を荒げるレンと、彼よりはマシだが疲労した体を両膝に手をついて支えているアイ。これが夜一に引き離され過ぎないように自分達が出せる全速力で着いて行った結果だった。
対して汗一つかかずに笑っている夜一はまだまだ余裕綽々といったところで、それだけで二人との差を感じさせる。
「も~、せんせーの瞬歩速過ぎるよ~」
「当然じゃ、まだまだ弟子には負けんわい。しかしアイの瞬歩も中々じゃったぞ、隠密機動にも引けを取らん。あと百年もすれば儂に追いつけるかもしれんのう」
「わーい、喜んでいいのか微妙だ~」
夜一とアイがそんな会話をしていると、多少疲労から回復したレンが立ち上がりながら、連れられてやって来たその場所に視線を向ける。
「ここって……」
「うむ、ここが主らの言う協力者が居る場所じゃ」
その場所は東京都の南部に位置する町──『空座町』にある一軒の店舗。
町の一角にひっそりと建てられたその店は、年号が令和となった現代ではあまりそぐわない、良く言えばレトロ風味、悪く言えばオンボロな印象を受ける外観をしている。
その店の名は──『浦原商店』
ちょっと鬼道のオリ詠唱入れてみました。少しでもBLEACHのオサレ感が出てたら幸いです。
あまり話が進んでいる気がしない。多分次の次くらいに推しの子キャラが出てくると思いたい。