評価バーも赤色になり、嬉しい限りです。
今後とも頑張りますので、推し鰤を宜しくお願い致します。
今回から推しの子サイドの視点も展開していきます。
「はぁぁ……」
現世へとやって来て、早いもので約二ヶ月が経ったある日の事。
場所は東京都の中野区あたりに位置する日本でも数少ない一般科と芸能科の両方が存在する中高一貫校『私立陽東高校』。
その一般科の教室で割り当てられた席に着き、学校指定の制服である紺色のブレザーを身に纏った死神──夜代レンは、眉間を押さえながら人知れず、心の中で絶叫した。
──どうしてこうなった!!!?
遡る事約二ヶ月前……というより浦原の口から現世の学校に通う手筈になっていると聞かされた直後の事。
「どういう事ですか隊長!?」
『やかましいわボケェ!! なんやねん連絡寄越してきた思うたらいきなり大声出しよってからに!!』
浦原商店に戻ってすぐさま伝令神器を使い、隊長である平子に連絡を取ろうとするレン。そして通話が繋がったと同時に感情のまま怒鳴り上げたら、倍の声量で怒鳴り返された。強い。
しかしレンも負けじと声を荒げながら平子に説明を求める。
「学校の件ですよ! 聞いてませんよ、俺とアイが現世の学校に通うなんて話!!」
『なんや、それ聞いたっちゅう事は、無事に喜助と合流出来たみたいやな』
「出来ましたけど、それよりちゃんと説明を──あっ、ちょっ、浦原さん!?」
「ちょーっとお借りしますよン」
すると、レンの手から伝令神器をヒョイと取り上げると、タッチ画面を操作して通話をスピーカーモードへと切り替えながら平子との会話を始める。
「ドーモ平子サン、ご無沙汰しております」
『おう喜助か。すまんな、俺の部下二人が世話ンなるわ』
「いえいえ、これもお仕事っスから。それはそうと、例の件、御二人には話してなかったんスねェ」
『サプライズやサプライズ。普通に教えてもオモロないやろ?』
「相変わらず人が悪いっスねェ」
『お前にだけは言われたないわ』
平子と浦原の通話を横で聞いていたレンだが、流石に聞き捨てならなかったのですぐに二人の会話に割って入った。
「サプライズって……まさか隊長、そんな理由で?」
『アホ…ンな訳あるかい。それとこれとは別やっちゅーねん』
そう前置きをしてから、平子はちゃんとした理由を語った。
『ええかレン、お前の事やからこの任務での双子の重要性はもう分かっとるやろ?』
「それはもちろんです。だから可能な限り双子の傍に張り込んで情報収集を……」
『そうやってコソコソ付け回すだけで正体も分からへん
「っ……」
平子からそう指摘されてしまい、言葉に詰まってしまうレン。
『どうせやるんやったら、多少のリスクを負ってでも正面から堂々と向こうに接触したったらええねん。虎穴に入らずんば虎子を得ずや。それにガッコっちゅうんは、自然と相手に近づける絶好の場所やからな。それで双子の信用を勝ち取れたらこっちのモンや』
「それは……」
『それに学校生活っちゅうのも悪ぅないで。俺も昔、空座町の高校に通っとった事があってなぁ』
「一ヶ月足らずで辞めてますけどね」
『いらんこと言わんでええねん』
最後に余計な茶々が入ったが、平子の説明は終わった。
しかしそれに対してレンは苦々しい表情で口を開く。
「隊長の仰る意味も、分かるんですが……」
平子から説明された考えを、レンはしっかりと理解はしている。だが何故か納得はしていないようで、その理由は語らずに言い辛そうに口をモゴモゴとさせている。
しかしそんなレンの態度に業を煮やしたのか、最終的には……
『ええからやれ──隊長命令や』
「………………………はい」
平子のその一言で解決し、レンとアイの学校生活が決まったのだった。
因みにこの間、アイはというと……
「ぬおっ、やめんかアイ! いくら猫の姿とて、儂はお主の師匠じゃぞ! 師匠の体をそう気安く撫で回すなど……あ、こらっ、そこはいかん……そこは……ゴロゴロゴロ……にゃ~ん♡」
「夜一センセ……きゃわぁぁ~~~♡♡♡♡」
目を輝かせながら黒猫の姿に変身した夜一の体を撫で回し、文字通り猫可愛がりしていた。
その手つきはやけに絶妙で、流石の夜一も喉を鳴らし、雌猫の声を上げる程だった。
ついでに浦原がそんな彼女にどこかから取り出した猫じゃらしを渡しながら、「双子と同じ学校に行きます?」と聞くと「行く!」の二つ返事が帰ってきたのは言うまでもない。
そして二ヶ月後、現在に至るという訳である。
何故二ヶ月もの期間が空いたのかというと、ちょうど双子が高校に入学する時期と重なるのと、平子と浦原いわく『現世の生活に慣れる為』との事。
二人の戸籍や入学手続き等は浦原がどうにかしてくれるが、流石にある程度現世の文明と暮らしに慣れておいた方がいいとの事で与えられた準備期間とも言える。
レンは東京で暮らすにあたって最低限の公共交通機関の利用の仕方を覚え、現代の文化に触れ、家電等の電気製品の扱い方を学び、合間に整の魂葬や虚退治に勤しみながら準備期間を終えた。因みにアイの方が意外と順応力が高かったのか、二週間足らずで現世に馴染んでいた。
その途中でレンは漫画やアニメ等のサブカルチャーにや現世の料理、アイは現世風のオシャレというそれぞれ新しい趣味が出来たのだが、これは余談である。
そんなこんなで今日という日を迎えたレンは、入学式を終えて指定された教室で席に着き、机の上で頬杖をつきながら教室内を見渡す。そこには高校という新しい環境に高揚しているのか、和気藹々と交流している男女含めたクラスメイト達の姿。
そんな彼らを眺めながら、レンは一人思う。
──キッツゥ……
この時のレンの眼はすでに死んでいた。
「(いやムリムリムリ……こんなガキ共がきゃっきゃしてる空間に一人混じるって思った以上にキツい。疎外感が半端ねェし、何より馴染める気がしねェ……だから嫌だったんだよなぁ……平子隊長は一ヶ月もこんな場所で過ごした事あるのか、すごいなあの人。いやでもあの人結構順応力高いからなぁ、シレっと馴染んでる上に大人しめの女子生徒にセクハラとかしてそう……)」
レンは見た目こそ十代後半くらいではあるが、実際は尸魂界で生まれて百年以上生きている。なのでこの教室にいるクラスメイトは年の離れた子供にしか見えないし、そもそも人間と死神なので年代どころか生きる世界すら違うのだ。そんな中に一人放り込まれてしまっては、ストレスで上司に対する失礼な思考へと流れてしまうのは無理もないだろう。
「(けど……ここまで来たらやるしかねーな。芸能科の妹の方はアイに任せるとして、俺の方は……)」
そう思考を切り替えつつ、目線をチラリと右隣りの席へと向け、そこに座っている彼を見る。
『星野愛久愛海』
任務の監視対象であり、転生者である双子の兄の方。
彼は教室内の喧騒にも目もくれず、静かに読書に没頭しており、そこはかとなく他者を拒絶するような暗い雰囲気が感じ取れる。故に他のクラスメイト──特に女子生徒──は話しかけ辛そうにしている。
しかしレンにはちゃんと秘策がある。
「(よし──やるか)」
そしてレンは、早速行動に移したのだった。
『星野愛久愛海』こと、アクアは転生者である。
前世は宮崎県の病院に務める医師だったが、ある理由で死亡してしまい、気が付いたら超人気アイドルだった推しの子供に転生していたという異色の経緯を持つ。
そんな彼は現在、今日入学した陽東高校の教室の席で、一人静かに読書をしている。
同じ転生者である妹いわく『陰のオーラを発した闇系』である彼は、周囲のクラスメイトと交流する素振りすらみせず、ただ自分だけの世界に閉じ籠っている。
当然入学初日にして既にクラスから浮いてしまっているが、アクアにとっては些細な事だった。
そもそもこの学校に入学した理由も、芸能科に入った妹が心配だったからというもので、彼自身通う学校はどこでも良かったし、自分の『目的』には関係ないのでどうでもいいとすら考えている。
更に言えば、アクアの精神年齢は前世を含めれば四十歳越えである。そんな彼が十代の若者達に交じるのは難しいというか割と苦痛なので、必要無ければ極力こちらから関わったりしないスタンスを取る事にしている。
「なぁ……ひょっとして『星野アクア』か?」
しかしそんなアクアの思惑に反して、隣の席に座る男子生徒に名前を呼ばれた。しかも、自分の保護者が経営する芸能プロダクションに登録している芸名の方で。
「そうだけど……なに?」
気だるげで面倒臭いという感情が見て取れる素っ気ない態度で対応するアクア。しかし男子生徒は怯まず、むしろ嬉しそうな顔で話しかけてきた。
「やっぱり! 『今日あま』の最終回に出てたよな!」
彼が話題に出したのは、最近アクアが出演していたドラマの話だった。
「俺原作のファンでさ、ドラマを観た時は正直期待外れかなって思ってたんだけど、最終回だけ良かったよな! その時に出てたストーカー役なんだけど、あれがアンタだよな?」
「……まぁ」
男子生徒の賞賛とは裏腹に、アクアの心は冷めきっていた。
原作は『今日は甘口で』という人気少女漫画でアクアも『ド名作』と評価しており、それを題材にした実写ドラマ。しかしその内容は酷いの一言に尽きた。
『予算や納期はカツカツ』
『顔の良さだけで集められた演技未経験のキャストによる下手な演技』
『大人の事情で原作に居ないキャラが捻じ込まれる』
『単行本全十四巻分の内容を僅か六話に詰め込んだ為に起こる超展開の連続』などなど……
基が名作であるが故に、その散々な出来に視聴者からは低評価の嵐で、原作者からも失望されるという結果になった。
最終回だけは飛び入り参加したアクアの奇策により大いに挽回する事に成功したが、それでも全体で見れば低評価なのは変わらないので、アクア自身がそんなに褒められたものじゃないと思っているのだ。
「凄かったよな。演技もそうだけど、アンタが出てきた辺りからこう、ドラマの雰囲気がガラっと変わったっていうかさ……」
「別に……そんな大したもんじゃない」
男子生徒の言葉を遮るように、アクアは読んでいる本から視線を外さずに口を開く。
「俺には演技の才能なんて無いからな。あの場で使えるものを全部使ってそれっぽく見せてただけ。演技ならヒロイン役の『有馬かな』の方がずっと上だし、ネット上でも一番評価されてる。俺の演じ方は及第点を取りに行っただけ、凄くもなんともねーよ」
酷く冷たく、淡々とした口調でそう言い放つアクア。
アクアはあのドラマに対して特に思い入れは無い。出演したのだって、切っ掛けは別だが、ある『目的』の為にプロデューサーである『鏑木勝也』に近づく為に受けただけに過ぎない。そのついでにせっかくだからと無茶苦茶やって帰っただけだ。
自分には母親のような『人の目を引き付ける才能』も、共演した有馬かなのような『演技の才能』もない。だから使えるものは全部使うしかない。小道具やカメラ、照明、役者に至るまで全て使い、尚且つ演出の意図を汲んでそれに沿った演技をする事で、ようやく及第点が取れる程度。それがアクアの自分自身に対する評価だ。
だからこそ男子生徒の賞賛は見当違いだと、そういった意味を込めてアクアは返答した。自分は褒められるような役者では無いと、多少の自虐も含めて。
それに対して男子生徒は──
「お前──面倒くさい性格してるって言われないか?」
と言った。
「………は?」
それを聞いたアクアは初めて本から顔を挙げて、怪訝な顔で思わず男子生徒を睨んでしまった。
しかしそれでも男子生徒は怯まずに、黒真珠のような瞳で真っ直ぐとアクアを見据えながら言葉を続けた。
「確かにヒロイン役の演技も凄かった。特に最後のシーンは原作のようで胸を打たれたさ。けどそんなことはどうでもいいんだよ。俺は今、星野アクアが凄いって話をしてんだから」
「だからそれは……」
「そもそも! 俺は演技の事とか何も知らないシロートだから、才能だとか演じ方だとか言われても全くわからん。けど、そんなシロートでも分かるくらい──星野アクアは凄かった! 少なくとも俺はそう感じた!」
「…………!」
力強く断言するようにそう言い切る男子生徒の言葉に、アクアは二の句が継げなかった。そんなことない、勘違いだと言いたかったが、それが出て来なかった。
アクアにとって役者とは単なる手段に過ぎない。
『目的』の為に芸能界に入る最短手段が役者だったからその道に進もうとしただけ。だがいくつか役を演じる中で、自分には才能が無いと思い知らされた。
母親のように『特別な何か』を持たない自分は、所詮売れない役者の一人なのだと悟った。
それからは幼少期からお世話になっている映画監督に弟子入りする形で裏方志望に転向し、役者の道から遠ざかる事にした。その考えは、今でも決して変わらない。
だけど……
「本当に凄かったって思ってんだよ。イチ視聴者からの感想くらい、素直に受け取ってくれって」
こうやって面と向かって自分の演技に「凄かった」と感想を言ってくれた、芸能界とは縁もゆかりもない、偶々同じクラスになっただけの男子生徒。そんな彼の言葉が、やけにアクアの耳に残った。
「あ、ああ……ありがとう」
そしてそれをアクア自身が、ほんの少しだけ──悪くないと思っていた。
「あ……っと、悪い、つい熱くなっちまって……」
「いや、いい。俺の方こそ、真面目に取り合わなくて悪かった……えっと……」
そこで冷静になったのか、男子生徒がバツが悪そうな表情で謝罪する。対するアクアもお互い様だと謝罪の言葉を口にする。そこでふと、そう言えばまだこの男子生徒の名前を知らない事に思い至った。
すると、それに男子生徒も気が付いたのか、すぐに自身の名前を告げる。
「俺は夜代レン。よろしく」
「ああ。俺は……って、知ってるか」
「おう、星野愛久愛海だろ?」
「いやなんで
「座席表に書いてたぞ」
本名を知られている事に少し驚くが、すぐ理由を言われて得心がいく。確かに教室に張り出されている座席表にはアクアの本名が載っており、その字面は割と目を引く。隣の席となれば自然と目が行ってしまうのも仕方ないだろうと納得した。
「アクアで頼む。そっちで呼ばれる方が多いし、苗字は芸能科に居る妹と被るからな」
「じゃあ、俺もレンで良いよ」
お互いに簡単な自己紹介を済ませたあと、それからは他愛のない雑談に興じていた。
「実家が地方のド田舎でさ、高校進学を機に上京して来たんだけど……正直、今までほとんど年配の人達に囲まれてたせいで同年代との接し方がイマイチ分からないというか、ノリに付いていけないんだよなー」
「あー……その気持ちはちょっと分かる。俺も小さい頃から周りに大人が多かったし、外で遊ぶより一人で本を読む方が好きだったから、同年代の奴等と馴染めたためしがない」
「だよなー。ぶっちゃけ、あの若者特有の共感しあうだけの会話ってキツくない?」
「超分かる」
およそ高校生同士の会話とは思えない内容だが、意外にも会話自体は弾んでいた。
「てか、アクアの妹も芸能科に居るんだな。双子?」
「まぁな。も、ってことは……レンの妹も芸能科に?」
「ちょっと違うが、まぁ妹分みたいなもんか。そいつと一緒に上京して来たんだよ」
「へぇ、上京して同じ高校受けるなんて仲良いんだな」
「もう十年くらいの腐れ縁だからな。というか、俺はアイツのお目付け役みたいなもんだよ」
「どういうことだ?」
「天真爛漫というか、無邪気というか、考え無しというか、バカというか、とにかく結構思い付きで行動する事が多い奴なんだよ。俺がやめとけって言っても聞きゃあしねぇし、こっちの心配なんかお構いなしだから目が離せないんだよな」
ははは、と若干乾いた笑いでそう語るレンに、アクアは面倒見が良い奴なんだなと思いつつ、妙に親近感を覚えた。
「……うちの妹も似たような感じだな。俺の忠告も無視してずっとアイドルに夢見てて、豆知識感覚で人生賭けたギャンブルみたいなことするしで、気苦労が絶えない。だから妹が芸能科受けた時も、心配で俺もここ受けたんだよな」
「え? シスコン?」
「シバくぞ」
自覚はあるし、否定はしないが面と向かって言われるのは普通に腹立つアクアだった。対してレンは「冗談」と笑いながら話を続ける。
「もしかしたら、今頃芸能科でアクアの妹と仲良くなってるかもな。共通点もあるし」
「共通点?」
「つっても大した意味はないけどな。そいつの苗字、アクアと同じ『星野』なんだよ」
「! そうか……」
レンが何気なく言ったその言葉に、アクアは僅かに反応した。
大した意味はないと彼は言ったが、『星野』という苗字はアクアにとってそれなりに意味を持つ。もちろんただの同姓という可能性の方が高いが、もしかしたら自分の『目的』に関係しているかもしれないとなれば、アクアとしては調べない訳にはいかない。
「なぁ、そのレンの妹分の名前は──」
なので早速レンに探りを入れようと口を開いたその瞬間、それを遮るようにアクアのズボンのポケットの中から―ピロン♪―という電子音が鳴った。
「……ちょっとスマン」
「おう」
完全に出鼻を挫かれたアクアはレンに断りを入れてからスマホを取り出し画面を起動させると、そこには先ほど話題に上がった双子の妹からLINEによるメッセージが届いたという通知が表示されていた。
アクア的にはそのまま未読スルーしてやっても良かったが、それをすると後々面倒なので素直にアプリを起動させてメッセージ画面を開き、その内容を確認した。
[アイがいた!!]
何言ってんだこのバカ妹は、とアクアはメッセージ越しに自分の妹を蔑んだ。
彼女が居る訳がない。あの日、確かに自分達の目の前で帰らぬ人になってしまったのだから。
すっかり気分が削がれてしまったアクアは、このまま既読スルーしてやろうと画面を閉じようとした。
その時だった、再び妹からのメッセージ通知が届いたのは。ただし今度は文章ではなく、一枚の写真が送られてきた。
「──は?」
それを見たアクアは、大きく目を見開いて硬直した。
何故ならその写真には……十年前のあの日、ストーカーに刺されて死んだハズの元超人気アイドルにして、自分達の母親──星野アイが妹とのツーショットで写っていたのだから。
アクアがスマホの画面を凝視したまま固まってしまったので、その間にレンは今までの状況を整理する事にした。
個人的に成果しては、まぁ上々だろうと思っている。
アクアが出演していたドラマの話題を切り口にして、そこから彼とフレンドリーに交流しようという思惑で近づいてみたのだが殊の外上手くいった。
一応補足しておくと、ドラマの話題はアクアとの交流を図る為の口実であるのは事実だが、レンが口にした賞賛の言葉に噓偽りは何一つ混じっていない。
この二ヶ月で現世の漫画やアニメ等のサブカルチャーにハマったレンは、名作と言われる『今日あま』にも当然ながら目を通している。何なら全巻揃えているし、そのうち尸魂界にも布教しようかと画策するほどの原作ファンとなっているのも本当。ドラマを観て落胆したのも本当であり、もちろん最終回のアクアの演技を凄いと思ったのも本当だ。
予想外の事があったとすれば、レンの賞賛の言葉に対して、酷くネガティブで突き放すかのような言葉がアクアから帰ってきた時だ。
自分の演技なんて誰かと比べればこの程度だと、才能なんて無いんだと見切りをつけて諦観しているような態度が、アクアの言葉の端々に見て取れた。
それが何となく面白くなかったレンはついつい熱弁してしまったが、逆に功を奏したのか、そこからは普通に会話が弾んだ。もちろん事前に浦原と相談して作った『設定』を厳守した上でだが。
特に経緯は違えど内面が成熟している者同士、同年代の感性に付いていけないという話題はバチクソに共感出来た。
途中で身内に対する愚痴も言い合ったりして、少なくともアクアから悪印象は抱かれていないハズなので、この調子で交流を続けていけば、真相に多少なりとも近づく事が出来るかもしれない。ファーストコンタクトとしては概ね成功と言えるだろう。
「なぁレン」
「ん?」
と、そこでアクアに呼ばれたのですぐに思考を切り替えてそれに応じるレン。
直後……何となく嫌な予感がレンの脳裏を過る。
「お前が言ってた妹分って──もしかしてこの人か?」
そう言ってアクアが見せてきたのは彼自身のスマホの画面。
そこに写っていたのは、レンの同僚であり相方でもある星野アイと、もう一つの監視対象であるアクアの双子の妹『星野瑠美衣』のツーショット写真であった。
恐らく第三者に撮ってもらったのだろう、二人揃って笑顔で互いの腕を組み、反対側の手で横ピースというノリノリのポージング写真。このままどこかの雑誌で表紙を飾れるのではないかと言いたいほどの出来栄えだ。
「あー……コイツ、ですネ」
若干カタコトになりながらも肯定するレン。
先ほどの嫌な予感が確信に変わったのは──右目に黒い星のようなハイライトを浮かべたアクアに、まるで射殺さんばかりの視線で睨まれた時だった。
同時に、下手したらさっきまでの成果がパーになるかもしれないと、レンは写真に写る同僚を恨んだのだった。
時間は少々遡り……芸能科一年生の教室。
『星野瑠美衣』こと、ルビーは転生者である。
前世は難病を患って僅か12歳という若さで夭逝し、気が付けば超人気アイドルだった推しの子供に転生した少女だ。
母に憧れ、前世からの夢であったアイドルを目指す彼女はつい先日、念願叶って芸能事務所と契約を結び、アイドルとしての一歩を踏み出した。
そんな彼女は現在……進学した陽東高校の芸能科の教室にて圧倒されていた。
教室内には芸能人やその卵が集う芸能科なだけあって美男美女のクラスメイトが揃っており、地元中学とのあまりにもな違いに流石に面喰ってしまっていた。
しかしルビー自身も美少女と言っても過言ではない程の、母親譲りの美貌の持ち主。呑まれてなるものかと、内心で奮起しながら席に着く。それと同時に、ふと隣の席に座る女子生徒に視線が向いた。
「(わっ! 凄い子おる!)」
そこに居たのは、パッチリとした目の奥で光る綺麗な桃色の瞳に、桜を連想させるような華やかな桃色の髪をした可愛らしい顔立ちの少女。容姿だけでも十分目立つが、何よりルビーが目を引かれたのは、その胸部だった。自身も含め、他の同年代と比べても明らかに大きいソレに、ルビーの視線は釘付けになる。
一方で少女の方も何故かルビーの顔をじーっと見つめており、美少女二人が互いの顔と胸を見合うという何とも言えない空間が出来上がっていた。
やがてルビーの方が少女の視線に気づいてハッと顔を見上げると、少女は朗らかに笑いながら口を開く。
「あ…すんません、ジロジロ見てもうて……めちゃ美人おるやん思うて……やっぱり芸能科ってすごいわぁ……」
「いやいや、貴女も凄いです……」
容姿を誉められて照れ臭そうにしながらも、ルビーは彼女の胸を凝視しながらそう返答した。
「モデルさん?」
「あ……せやねん、一応。うち、寿みなみ言います。よろしゅー」
「寿みなみ……あっ! グラドルやってるんだ!」
「目の前でググるのは非人道的やない?」
少女……『寿みなみ』の名前を聞いた瞬間、スマホを取り出して彼女の事を検索するという人としてどうかと思う暴挙に出たルビー。
「ひえー、えちえちじゃん。Gなんだ……」
「やめてー!」
しかもそのまま検索結果を読み上げるという非道。無自覚な鬼である。
「リアル関西弁初めて聞いた! 大阪の人!? 芸能活動の為に上京して来たとか!?」
やや興奮気味にみなみにそう尋ねるルビー。
その時だった……
「うーん、それってどっちかっていうと京都弁の方じゃないかなぁ?」
ルビーの頭上辺りからそんな声が聞こえてきた。それも、ルビーにとってはどこか聞き覚えのある声だった。
「ぇ……」
そして顔を上げてその声の主の方を見ると、ルビーは言葉を失った。
そこに立っていたのは……自分と同じ陽東高校の制服に身を包み、紫がかった黒髪のロングヘアーと星のように輝く特徴的な瞳を持った美少女。
まさかとは思った、有り得ないとも思った。だがその姿形は間違いなく──十年前に亡くなった超人気アイドルであり、ルビーの母親だった彼女と瓜二つだった。
「マ──」
「あっ、ごめんねー急に割って入っちゃって! いやー近くですっごく可愛い子達が話してるなーって思ってさ、つい声を掛けちゃった!」
思わず「ママ」と言い掛けたルビーの言葉を遮って、彼女は少し高めのテンションでそう言いながらルビーの前の席に座った。
「初めまして、星野アイです! よろしくね!」
名前まで一緒だった……これはどういう事なのかと、もしや彼女も自分や兄と同じく転生したのかと、そんな思考がルビーの頭の中でグルグルと巡る。
「うちは寿みなみ言います。こちらこそよろしゅー」
「うん! ところでさ、その口調って関西弁っていうより京都弁っぽいんだけど、どっちかの出身?」
「いや生まれも育ちも神奈川。喋り方はなんていうか……ノリ?」
「エセだったの!? それ、本場の人の前では余りやらないようにね? 人によってはマジでハチャメチャに怒られるから」
「なんか実感こもってへん?」
「一回だけ隊ちょ……じゃなくて、関西弁の人の口調をマネしたら、正座で一時間くらい説教された事あるよ」
「ひえ~……うちも気ぃつけよ」
アイとみなみのそんな会話もルビーの耳には全然入って来ていない。彼女は本当にアイなのか、母親ではないのか、やはり転生したのか、そんな考えばかりがずっと頭の中で廻っている。
すると、そんな彼女を心配したアイがルビーに顔を近づけて呼び掛ける。
「おーい? 大丈夫?」
アイの顔が目と鼻の先にまで迫ったその瞬間、ルビーの意識が一気に覚醒した。
「アイ!!?」
「ひゃっ!?」
「わっ!? ビックリした!?」
今まで黙っていた子が突然大声を出した事で、目の前にいたアイはもちろん、隣に居たみなみも驚いてビクリと肩を跳ねた。ついでに教室内に居た何人かのクラスメイトの目も引いてしまったが、ルビーは一切気にせず、興奮で頬を紅潮させながらアイに迫る。
「ねぇアイ! アイだよね!?」
「え? う、うん…星野アイだよ?」
「そうじゃなくて! B小町の! アイドルの!」
ここで「ママの!」と言い出さなかった辺り、興奮状態でも最低限の理性は残っているらしい。
「あー、そういうことかぁ……」
ルビーの言葉を聞いて、アイはどこか納得したように苦笑する。
「B小町のアイと名前は一緒だけど、流石に本人じゃないよ~」
「え……」
「似てるってたまに言われるけどね~」
そう軽い調子で否定されて、ルビーは愕然とした表情で固まってしまい、思考が停止した。
「それよりさ、貴女の名前は?」
「え…あ……星野、ルビー、です」
その状態でアイに名前を尋ねられ、少々ぎこちない口調で答える。
「わっ、同じ苗字なんだ! 親近感湧くな~! これからよろしくね……コビーちゃん!!」
「ルビーだよっ!」
いきなり名前を間違われて、流石に思考停止状態だったルビーも思わずツッコミを入れる。しかし当の本人は悪びれた様子もなくカラカラと笑っている。
「ごめんごめん。私、昔から人の名前を覚えるのが苦手でさ~。これから頑張って覚えるから。あ、いなみちゃんも私の事はアイって呼んでいいからね!」
「早速間違えてはるよぉ。うちはみなみやで、アイちゃん」
「ありゃ?」
人の名前を覚えられない所まで同じだった。本当にあの〝アイ〟ではないのかと、どうしても確かめたくなったルビーは彼女に問い掛けた。
「あ…あのさ……私のこと、覚えてない……?」
「?」
一縷の望みを持ってそう問い掛けるルビーだが、アイは不思議そうな表情で首を傾げる。
「うーん…どこかで会った事ある? 私今まで地方の田舎に住んでて、こっちに来たのも割と最近だから知り合いは居ないハズだけど……?」
「────!!」
それを聞いたルビーは多大なショックを受けた。期待していたのだ、本当は母親も自分達と同じように転生してこうして会いに来てくれたのでないかと。しかしそれは目の前のアイによってあっさりと否定された。それもそれでショックだが、何より
「(そっかぁ……本当にママじゃないんだ。似てるだけの、別人なんだ……アイと一緒の顔をした……)」
しかし意外なほどに、ルビーはすんなりとそれを受け入れてしまった。
何故かと問われてもルビーには上手く説明は出来ない。けれども彼女は
そう考えながら、再び目の前のアイの顔を見つめる。
「?」
見れば見るほどそっくりだった。最期に見た彼女の姿と全く変わらない。体型や顔立ち、声や性格に至るまで何もかもが一緒だった。それでもやはり、目の前の彼女は自分の知る〝アイ〟ではなく、ただのクラスメイトなのだ。
「(──まてよ?)」
しかしここで、ルビーの脳裏にある考えが過る。
「(という事は……これからはこのアイちゃんと一緒の学校生活を送れるってこと!!!)」
ルビーは考えた。
前世からの最推しであり、憧れであり、最愛の母親である星野アイ(のそっくりさん)とこれからの高校生活の三年間をクラスメイトとして共に過ごす事になるのかと。普通の友達のように毎日一緒の授業を受け、一緒にお弁当を食べ、一緒に寄り道しながら下校する……そんなルビーにとって夢のような光景が脳内を駆け巡る。
「(何それ最高!!! てか良く考えたら陽東の制服姿のアイとか激レアじゃん!!!)」
まさに天啓。ショックで沈み込んでいた心が一気に浮上どころか天元突破してしまったルビー。もはや今のアイが転生者かどうかなどルビーにとっては些事。今この奇跡の瞬間を謳歌しなければならない。
そうと決まれば、ルビーにはどうしてもやらねばならない事がある。
「アイちゃん!!」
「ん?」
「写真撮ろ!!!」
「距離感エグいね。いいよ♪」
「ええんや」
なんかごちゃごちゃ言われてる気がするが、今のルビーには関係無い。一刻も早く最推し(のそっくりさん)の激レア姿を写真に納めなければと、使命感に燃えながらスマホを構えたのだった。
それからルビーによる写真撮影が行われ、みなみまで巻き込んだそれは、担任の教師がやって来るまで続いた。そしてその中でもベストショットとでも言うべきアイとのツーショット写真は、双子の兄のもとへと送られたのだった。
To Be Continued
ようやっとアイとルビーの再会ですけど、アイ側に記憶が無いから全く感動的にならないっていうね。
―陽東高校生徒名簿―
・夜代レン
陽東高校一般科・1年D組所属。
双子の調査で入学する事になった死神。
歳が一世代以上離れた高校生に囲まれるのが割と苦痛で拒否したかったのだが、平子からの隊長命令により封殺された。持ち前の面倒見の良さで後々クラスの兄貴分的な立場になる展開も有り。
浦原と練った『地方から上京して来た田舎者』という設定で同じクラスになった星野アクアと接触。最初は難航したが、何とか友好的な関係の構築に成功した。
因みに入学前の二ヶ月の準備期間の間に、漫画やアニメ等のサブカルチャーにハマる。
今の所は色々な名作と言われる作品を片っ端からチェックしていて、尸魂界にも布教しようかと画策中。
その前段階として雛森に『今日あま』を全巻送ってみたところ、見事に号泣させて見せた。そしてその瞬間を十番隊隊長に目撃されてひと悶着起きるのだが、それはまた別の話。
現世の料理にも興味を持ち、家での食事はレンが担当している。
・星野愛久愛海
陽東高校一般科・1年D組所属。
転生した双子の兄の方。芸名は星野アクア。
芸能科に行った妹が心配で同じ高校に入学したという自他共に認めるシスコン。
ある『目的』の為に芸能界に関わろうと役者を志すが挫折し、今は裏方志望。
前世も含めれば精神的な年齢は四十そこそこなので、同年代とは余り馴染めない。レンに話しかけられた時は何だコイツ、と思って適当にあしらおうとしていたが、『今日あま』に出演した時の演技を視聴者としてドストレートに感想を言ってくれるし、会話してみたらめっちゃ話が合うしで、ちょっと絆される。
妹から今は亡き推しとのツーショット写真が送られてきた際には余りの衝撃に宇宙猫状態に陥った。
その後、レンの妹分とはこの人の事かと、ちょっとだけ警戒心を露わにした。それはそれとしてその写真はしっかりと保存した。
・星野アイ
陽東高校芸能科・1年F組所属
レンと同じく双子の調査で入学する事になった死神。
嫌がってたレンとは違い、即答で快諾したアイちゃん〇〇歳。
本来なら芸能事務所に所属している証明書が必要な芸能科だが、浦原の尽力によりその辺はどうにかなった。その他の彼女についても含めて詳細は後日本編より。
同じクラスになった星野ルビーに接触。唐突に写真撮影を求められた時は流石に面喰ったが、持ち前の明るさと順応力ですぐに対応。あっという間に打ち解けてルビーだけでなく寿みなみとも友達になる。
楽しんではいるが、任務だという意識もちゃんと持っているので、レンと浦原が練った『地方から上京して来た田舎者』という設定はしっかり厳守している。
因みに入学前の二ヶ月の準備期間の間に、現世でのファッションに興味を持つ。元より十番隊副隊長に色々教えてもらっていた事もあって、一層オシャレを楽しむようになった。最近ではレンの服装も見繕っている。
・星野瑠美衣
陽東高校芸能科・1年F組所属
転生した双子の妹の方。アイドル志望。
芸能科は面接重視で受験勉強をしなくていいという理由で高校を決めたアホの子。
様々な期待を胸に教室へ行ってみたら、亡くなったハズの超人気アイドルだった母親と瓜二つの存在が居てビックリ。もしや自分や兄と同じように生まれ変わったのではと期待するが、あっさりと否定された上にむしろ誰?みたいな反応されてショックを受ける。
だが直後にアイと一緒に学生生活を送るという『存在しない記憶』が脳裏に浮かびあがり、即復活。
しかし彼女の前世が〝アイ〟と同年代という事を考えれば『有り得たかもしれない記憶』でもある。
ともあれもはやアイが転生者か否かはどうでも良く、この奇跡の時間を謳歌する事にした。あと一緒にアイドル活動をしてくれないかと期待している。その後はみなみも巻き込んで撮影会を決行した。
アイが暴走するかと思われた作者の予想に反して、こっちの方が暴走してしまったという逸材。
・寿みなみ
陽東高校芸能科・1年F組所属
作者的に京都弁疑惑がある神奈川出身のGカップ。