拗らせTS童貞は理想の嫁を演じたい   作:ブナハブ

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 時間は遡り、ちょうどミミックがエリーゼとの恋愛相談を終えた後……つまりミミックの影武者生活初日の夕方頃、彼は目的のブツ(嫁の女王祭用の衣装)がある町へと辿り着いていた。

 

(思ったより早く着いたな。これなら明日の夜までには王都へ帰れるか?)

 

 単身で、王都からほど近い町とは言え、馬を使っても普通なら辿り着くのは真夜中になっていただろう。しかし彼は一刻も早く王都へ帰還するべく、馬に疲労を感じ難くさせるよう魔術を施し、王都から町まで休む事なくノンストップで駆け抜けてきたのだ。

 

(あとは嫁の衣装を回収するだけなんだが……流石に疲れてきたし、どこかで寝ておきたいな)

 

 流石の彼も一日中馬を走らせた疲れは大きかったらしい。加えて自分が居た痕跡を残したくない彼は、白の仮面に全身黒ローブという目立つ格好でも注目されなくなる【隠密】の魔術を町に入ってから常時発動させており、疲労は増すばかりだった。

 

「そうと決まれば、適当な宿屋*1に泊まるとするか」

 

 今日はセレナの衣装を回収した後、宿でゆっくり休む事に決めた彼は早速行動に移す。……その時だった。

 

「───あら、まさかこんな所で同族と出会うなんてね」

「は?」

 

 愛らしい少女の声が、彼に向かって投げ掛けられた。

 

「こんばんは、随分と用心深く動いてるわね。この後なにか用事でも?」

「……誰だお前」

 

 話しかけてきたのは、ピンク色の瞳とツインテールが特徴的な女の子だった。その顔に見覚えはなく、魔術で隠密行動している自分を一瞬で見つけた事から只者ではない事を察した彼は、瞬時に警戒心をマックスまで引き上げた。

 

「私の事を知らない? という事は野良の魔術師かしら」

「なるほど、魔術師だったか。道理で【隠密】(魔術によるステルス)が効かない訳だ」

「いえ、あなたの魔術の腕は相当の物よ。私が気付けたのは、たまたま似たような魔術を修得しているから。他の魔術師なら普通に騙せると思うわよ」

「……さいですか」(つまりコイツの魔術の腕は、俺より上って事か)

 

 少女は人好きのする笑みで賞賛の言葉を送る。しかし彼はその言葉を聞いて、少女への警戒心を更に深める。

 

(しかもコイツ、俺と似たタイプ(精神干渉)の魔術を使うって言ったか? ……だとしたらかなり危険だな)

 

 彼が扱う魔術の厄介さは、彼自身が良く知っている。特に彼のような隠し事の多い人間にとって、その脅威度は跳ね上がるだろう。

 

「ここで会ったのも何かの縁だし、自己紹介をしておきましょうか」

「別にこっちはする気ないけど」(身の安全の為に始末しときたいけど、時間が無いしなぁ)

「なら私の名前だけでも覚えて帰ってちょうだい。私はミリア、魅了の魔術師ミリアよ」

「そうか、じゃあ俺はこれで」(ここはさっさとコイツから離れるとするか)

「つれないわねぇ。……ねえ、あなたってもしかして」

「言っとくけど質問に答える気も無いから……うん?」

 

 そそくさとその場から離れようとした彼は、ふとミリアの背後に立つ人物に目が入った。

 

(う〜ん?)

 

 黒髪黒目の顔立ちの整った男。そんな人物が無機質な表情を浮かべてジッと佇んでいた。

 

(なーんか見覚えある顔だな……)

「ん? ああ、コレが気になってるのね。安心してちょうだい、コレは私の所有物だから」

「所有物って、ソイツ奴隷か何かなのか?」

「んー、まあ似たような物かしら? 奴隷と違ってコレは生まれた時から人に使われる為に存在してるけど」

「ん? つまりどういう事だ?」

 

 これまで素っ気なかった彼の食い付きの良さに気を良くしたミリアは、愉快げに彼からの質問に答えた。

 

「ふふ……これはね、私が所属していた魔術協会の魔術師が生み出したホムンクルスなのよ」

「へー…………は???」

 

 それを聞いた瞬間、彼は珍しく思考を停止してしまう。

 

「……なあ、もう一度言ってくれないか?」(今コイツ、なんて言った?)

「ホムンクルスよ。より正確に言うなら、魔術的なアプローチで生み出された人造生命体。それがコレ」

「ーーー」

 

 彼は絶句し、目を限界まで見開かせた。

 

「まあ驚くのも無理ないわ。限りなく人に近い生命を生み出す魔術なんて過去これまで、恐らく歴史の闇に葬られた魔術師達の軌跡を辿っても存在しなかった代物だもの」

(見つけた)

「実はホムンクルスの制作者と私はちょっとした顔見知りでね。なんか自分の目的に沿わなくなったからってコレを譲ってくれたのよ」

(遂に、遂に……!)

 

 彼はミリアの話に聞く耳を持たなかった。もはやそれどころでは無くなったからだ。

 

(それがあれば……その魔術があれば……嫁を誕生させられる!!!)

 

 彼の終生の悲願……死んでもなお果たしたい願い。

 理想の嫁と結婚する。その嫁を、ホムンクルスを生み出す魔術があれば自らの手で生み出す事も夢じゃなかった。

 

(予定変更だ。コイツからは何がなんでもホムンクルスの制作者について聞き出す)

 

 突如降って湧いた悲願達成のキーアイテム。それを彼が見逃す筈もなく、どんなに時間が掛かっても、あらゆる手を使い、ミリアからホムンクルスを生み出した魔術師について聞き出す事を誓った。

 

「なあ、聞きたい事があるんだけど───」

「まさか、こんな所でまた出会えるとはな」

「はい?」

 

……ミリアから件の魔術師について聞き出そうとした瞬間、何者かが彼に話しかけた。

 身に纏う鎧と腰に携えた剣、それらは騎士の証であり、そして胸元に付けられたエンブレムは、その者が騎士の中でも上位の階級である事を示していた。

 

「数ヶ月ぶりだな、盗賊狩り」

「……ゑ?」

 

 そう言って彼女……第六騎士団隊長、シェリー・フォーリナーは彼に向けて強い敵意を放った。

 

(なな、なんでこんな所に隊長格の奴が居やがる!?)

 

 それは余りにも予想外な邂逅だった。彼の見立てでは、王祭というビックイベントが迫っている今、治安維持の為に騎士団は王都から離れないと考えていたのだ。

 

(いやそもそも、なんで魔術師でもないコイツが俺の存在に気付けたんだよ!)

「ちょっとあなた! なんで自分で掛けた魔術を解いちゃったのよ!」

「え?」

 

 そうミリアに指摘されて彼は気付く。周りの通行者が自分に注目している事を、自分に掛けた【隠密】の魔術が解けている事を。

 

(し、しまったー! 嫁誕生の手掛かりが見つかったのが嬉しすぎて、【隠密】を維持するのを忘れちまった!)

 

 彼にしては珍しい失態。しかし、今回の件はそれほど彼にとって僥倖な事だったのだ。

 

「せんぱーい! 急に走ってどうしたんすか?」

「緊急だセシリー、盗賊狩りを発見した」

「え? うわホントだ! なんでこんな怪しい格好で町をうろつけてたんすか!?」

「考えるのは後だ、お前は民間人を避難させろ」

「りょ、了解っす!」

「ああ、それと……どうやら盗賊狩りには仲間がいるらしい」

 

 そう言ってシェリーは、ミリアの方へと目を向けた。

 

「……え、私? いや私は別に仲間なんかじゃ」

「先ほどの発言、どうやら魔術に心得があるらしいな」

「あっ」

 

 まさかの飛び火に驚くミリア。慌てて弁明しようにも向こうは既に敵と見なしたらしい。

 

「詳しい事は署で聞く。大人しくするのが賢明だな」

「……本当に無関係なんだけど、捕まるのは勘弁ね」

 

 もはや穏便にこの場を離れる事は出来ないと悟ったミリアは、そっと言葉を紡ぐ。

 

「───【魅了(チャーム)】」

 

 それは、魔力の込められた力ある言葉……言うなれば言霊である。

 

「……ッ」(なんだ、今の感覚)

 

 ミリアがそれを告げた直後、シェリーは自身の心に何か異変が起こっている事に気付く。すぐに加護を使ってその異変(デバフ)を解除したが……安心するにはまだ早かった。

 その異変が起きたのはシェリーだけでは無い。ミリアを注目していた者達、その全員が彼女の見る目を不審な存在から愛しい人へ向ける物へと変質させていった。

 

「───ちょっとあんた! この子にそんな言い掛かりは止めろ!」

「なに?」

 

 そして、騒動を見ていた野次馬が一人、ミリアに敵意を向けるシェリーに対して糾弾し始めた。

 

「そうよ! 証拠も無いのに捕まえるなんて!」

「権力の横暴だ!」

「……これは」

「せ、先輩ぃ、なんか自分らすごくアウェーっすよ」

 

 続けざまに糾弾する一般人。異様な光景にシェリー直属の部下であるセシリーは萎縮するが、シェリーの方は何が起きたかすぐに理解して、目線をミリアの方に向け直した。

 

「ここが人通りの多い場所で助かったわ。あなたも逃げるなら今のうち……って、もう居ないわね」

 

 野次馬達の心を惑わし、自身の味方に付けたミリアは彼が消えた事に気付くと、すぐに自分もその場を後にした。

 

「待て! くっ……!」

 

 シェリーはミリアを追いかけようとするも、ミリアの傀儡となった人達が立ちはだかる。

 

「どど、どうするっすか先輩! 一旦この人達ぶちのめしちゃいます!?」

「いや、彼らは利用されているだけの一般人だ。必要以上の武力を振るう事は騎士として許されない」

 

 弱きを守り悪を挫く。それがシェリーの騎士道だ。敵に操られているだけの、罪のない民衆を攻撃する事は到底出来ない。

 

「……ここは見逃すしかない、か」

 

 故に彼女は、*2民衆に掛けられた洗脳を解く事を優先するのだった。

 

▼▼▼

 

「はあ〜〜〜、まさかこんな状況で騎士団に見つかるなんて」

 

 一方その頃、隙を見て人気のない路地裏に逃げ込んだ盗賊狩り()は、己の失態に頭を抱えていた。

 

(どうにかあの魔術師(ミリア)が騒ぎを起こした隙に逃げれたけど……っていうか、あれがアイツの使う魔術か)

 

 彼はミリアが使った魔術、【魅了(チャーム)】の力を思い返す。

 

(一度に大勢を傀儡にできる魔術……俺も影響範囲に入ってたけど、ありゃ気合いでどうにか出来るレベルじゃないな。跳ね除けるには確実な対抗手段が必要だ)

 

 ちなみに彼は嫁への愛で【魅了(チャーム)】を跳ね除けている。……気合いで耐えるのとほとんど変わらないように見えるが、彼にとって嫁への愛は、れっきとした対抗手段らしい。

 

(そんな強力な魔術を、注目されているだけで簡単に行使できるときた……参ったな、魔術の腕だけなら向こうが格上だ)

 

 彼が扱う魔術は、記憶を読んだり弄ったり、思考や行動の誘導または制限、そういった事に長けている。人間を意のままに操るというのも出来なくはないが、ミリアのように複数人を瞬時に傀儡化させる事は彼の技量では不可能だった。

 

(そんな奴相手に精神干渉で頭の中を読む事なんて出来るのか? それにきっと、俺を見つけた騎士団はこの町を包囲しに掛かるだろう)

 

 騎士という邪魔者の目を掻い潜りながら、ミリアを引っ捕らえて尋問する……果たして自分に出来るだろうか?

 

「……いや、やるしか無い。というかこんな所で諦めて良い訳がない」

 

 ひとしきり頭を抱えた彼は、さっさと切り替えて頭を上げる。

 

「ようやく見つけた理想の嫁を生む手掛かりだ。この程度の障害、愛の力でねじ伏せてやらぁ!」

 

 彼は声高らかに意気込む。未だ存在しない理想の嫁に愛を捧げながら。

 

「まあそれはそれとして、王祭までには嫁の衣装を持って帰らなきゃな」

 

 それはそれとして当初の目的は達成するつもりらしい。

 

……仮に理想の嫁が誕生して、彼の悲願が果たされたのなら、こういった一人芝居(奇行)もする必要が無くなる。そう考えると、世の中の為にも彼の悲願は早めに成就した方が良いのだろう。

 

「王祭までに嫁の衣装は持って帰る。ミリアからはあのホムンクルスについて詳しく聞き出す。両方やらなきゃいけないのが、夫の辛いところだな」

 

 やれやれと言わんばかりにかぶりを振る彼は、決意を新たに動き出すのだった。

 

▼▼▼

 

「なあ聞いたか?」

「なにがだ?」

「町に魔術師が現れたって話だよ」

 

 とある町のバロウズ商会支店、そこに納められる物資の倉庫番を任せられた二人の男は、近ごろ町で盛り上がっている話題について語る。

 

「ああ、確か昨日突然起きた暴動の犯人だったか」

「そうそう。話によると、その魔術師を見た奴ら全員がおかしくなったらしいんだ。俺もその場に居たんだが、いやぁビビって目を合わせようとしなくて良かったぜ」

「へー、そりゃ良かったな。お前が居ないと夜の倉庫番を俺一人でやらなきゃいけない所だったし、いや本当に良かった」

「いやー、そうでもないんだなこれが」

 

 昨晩の騒動に居合わせていた男は、そう言って倉庫番の相方にとある話をする。

 

「実はな……あの場には魔術師の他に、あの盗賊狩りも居たらしいんだ」

 

 商品を扱う人間にとって、輸送中の馬車を襲う盗賊の事は蛇蝎のごとく嫌っている。それを積極的に駆除してくれる盗賊狩りは人気が高かった。

 特にバロウズ商会は、何故か都合良く(・・・・・・・)自分達の商品の輸送ルートと盗賊狩りの活動範囲が合致しており、盗賊による被害がほとんど無くなった。その為、バロウズ商会の人間の多くは盗賊狩りに感謝している。

 

「マジでか!? 噂には少し前に復活したらしいけど……マジに本物なのか?」

「だと思うぜ。その場に居た騎士が盗賊狩りって単語を出したんだ」

「へーそうなのか。あの人にはマジで助けて貰ってるからな、魔術師の方はともかく、盗賊狩りは騎士の奴らに捕まって欲しくないな」

「はは、違いねぇ」

 

 倉庫番二人は談笑しながら、人気のない倉庫の前で夜を過ごす。……まさかこの時、噂の人物が倉庫の中を漁っているとは夢にも思わず。

 

▼▼▼

 

(だあもう! まさか回収するのにこんな手こずるとは)

 

 ミリアとの邂逅から夜が明けて、そこから更に時は進んで再び夜が明けそうになった頃、彼はようやくセレナ()の女王祭用の衣装を手に入れる事が出来た。

 

(何なんだ今回の騎士共は!? めちゃくちゃ警備厳重じゃん!)

 

 かつて彼が騎士団に包囲された時とは比べようがない程に、今回の警備は非常に堅牢だった。そのせいで彼が衣装の回収に丸一日費やす必要が出てしまう程度には。

 

(……いや違う。厳重というより、上手いんだ。こっちの手札を確実に潰しに来てる)

 

 警備の数を増やすとか、出入り口を固めるとか、そういった単純な強化方法はやっていない。そんな事をしても精神干渉の魔術を持つ彼なら容易に突破できる。そしてこの警備体制は、そういった手合いに対する対策が顕著に現れていた。

 

 例として、まず逃げられる可能性の高いルートには、加護の力なんかで精神干渉に耐性のある人間だけを配置している。他にも機械的に作動するトラップなんかを仕掛ければ、精神干渉の魔術を使っても町から出る事は容易じゃなくなる。

 少ない人員で確実に出口を塞いだ後、一般人を利用されないよう市民に外出を規制させる。そうすれば後は、残った多数の人員で敵を探して叩き潰すだけだ。

 

「もし強行突破しようものなら、必ずあの騎士隊長がすっ飛んでくる。……あんにゃろうガチガチにメタってきてやがるな」

 

 そう言って思い浮かべるのは、これで三度目の邂逅となる第六騎士団隊長、シェリー・フォーリナーの姿だった。

 

(多分、前の戦いで俺が精神干渉の魔術の使い手だってバレたんだろう)

 

 だから練ってきた。精神干渉に対抗できる最上の策を。

 

(いや怖えー。前も思ったけど、アイツどんだけ俺の事嫌いなんだよ)

 

 もうこれ以上厄介な存在にならない内に殺すかと思いつつも、でも殺したら殺したで騎士団のヘイトが爆上がりするしなぁ。と、ため息をつく彼であった。

 

(けど逆に、この厳重さのお陰で良かった点もある)

 

 彼が思い浮かべるのは、もう一つの目的であるホムンクルスの制作者について知る事……その為の鍵となる人物、ミリアについてだ。

 

(これほどのメタ警備、生粋の魔術師であるアイツには相当効くだろう。つまりまだ町から出られていない可能性が高いって事だ)

 

 当初の目的を果たすのに時間は掛かったが、まだどうにかなるレベルだ。

 

(今すぐにでも奴を見つけ出したいけど……流石に二徹は勘弁だ。嫁の健康に関わる)

 

 町に訪れてから今に至るまで、彼は一睡も出来ていない。本人的にはまだまだ無理は出来るが、自分の体(嫁の体)に気を遣って休むにした。

 

「まっ、この調子なら騎士団が先に見つけてくれるだろ」

 

▼▼▼

 

「───報告によると、今のところ不審な奴が町を出た痕跡は無いみたいっす」

「……そうか」

 

 町の一角にある騎士団の詰め所、そこでシェリーは部下であるセシリーの報告を静かに聞き届けた。

 

「そっちはどうなんだ?」

 

 シェリーはそう言って、この場に居るもう一人の人物へと話を聞く。

 

「はい、まだ見つかっていませんが、もうじき特定できると思います」

 

 そう語る彼の胸元に付けられたエンブレムは、シェリーとセシリーの付けている物と微妙に異なっている。

 王国騎士団が付けるエンブレムは、階級と所属する隊によって変化する。そして彼が付けているエンブレムは、シェリー率いる第六騎士団ではなく、第五騎士団の物であった。

 

「……わざわざすまないな、隊の違う私に報告させるハメになって」

「いえいえ、こんな状況も慣れっこですので」

「そうか……それで、こんな状況にした奴は今どうしてる???」

「ヒェッ」

 

 シェリーから放たれる圧に怯えながらも、王国第五騎士団隊長グレン・バーンヒューズ……の、直属の部下であるリアムはしっかりと質問に答える。

 

「た、隊長は、まだ自分で盗賊狩りと魔術師の捜索しています。『もっと根性を捻り出さなきゃ見つかんねー』と言って、町中を走り回ってかれこれ半日ほど」

「あんの馬鹿者がぁ……! 協調性というものを知らんのか!」

「ヒェッ」

 

 二日前、偶然盗賊狩りと魔術師に出くわしたシェリーは、ちょうど町の近くに来ていたグレン率いる第五騎士団と協力して、町に潜む二人を大捜索していた。

 

「にしてもまさか埃の大掃除中に粗大ゴミを二つも見つけちゃうなんて、困ったものっすねー」

 

 埃の大掃除……それは例の人()も嫁の衣装が届かないと困らされていた要因、王都周辺に集まる盗賊達を一掃する事である。

 突如集まってきた盗賊達。王祭前という事もあって彼らの討伐に王国騎士団は総出で駆り出されていた。

 

「ふんっ、むしろ僥倖だ。この機会に国を害する存在はまとめて片付けるぞ」

「……」(ウチの隊長はかなりの問題児だけど、こっちの隊長は隊長でかなり潔癖症な人だよなぁ)

 

 リアム個人の考えとしては、盗賊狩りは優先度を下げても良いと思っている。実際盗賊を狩ってくれて助かっているのは事実だし、他に何か悪さをしているという話も聞かないからだ。

 

「さっすが先輩! 一生ついて行くっす!」

「……」(上が上なら下も下だなぁ)

 

 そしてどうやら、シェリーの価値観は第六騎士団共通の物だったらしい。

 

「そ、それにしてもフォーリナー様の手腕には驚かされました。ああも的確な判断を瞬時に出されるとは」

「誇れる事じゃない。アレは以前から対盗賊狩りに向けて考案していた物だ」(しかしまさか、偶然会った魔術師が盗賊狩り(ヤツ)と同じタイプの魔術の使い手とは思わなかったが)

 

 彼の予想通り、シェリーは盗賊狩りが精神干渉の魔術を使う事を知り、その対策法を練ってきていた。

 

(……今回ばかりは、聖騎士隊の連中に感謝せねばな)

 

 そしてその策を練る為、彼女は以前に聖騎士隊の人達から知恵を借りたのだ。

 国ではなく神に忠義を尽くす聖騎士隊。そんな彼らは日頃から獣人や魔術師を狩りに回っており、自ずとそれらに対抗するノウハウを深く持っていた。

 

(気に食わない奴らだが、その知識や技術は確かに本物だった。……それと魔術師に対する執念も)

 

 誤算として、シェリーを通じて盗賊狩りが魔術師である事を知った彼らは、盗賊狩りを自分達が駆除する対象に指定したのだ。

 

(正直、奴らには盗賊狩りに目を付けて欲しく無かった。加減を知らない奴らは、敵対者を屠る為なら手段を問わない)

 

 聖騎士隊が守るのは民でも秩序でも無い。神が定めた戒律と、その御心だ。その為なら自分の身を、民を犠牲にする事も厭わない。

 

(まったく度し難い連中だ。やはりあんな奴らに動かれる前に、ここで私が片を付けなければ)

 

 そう改めて決意するシェリーだったが……一方で、今盗賊狩りと決着を付ける事は現実的に難しいだろうとも考えていた。

 

(しかし、だからと言ってもう片方の脅威も見過ごす事は出来ない)

 

 リアムが考えていたように、シェリーもまた新たに登場した魔術師の存在を強く警戒していた。部下の手前ああは言ったが、やはり盗賊狩りと違って目的や行動がはっきりしていない魔術師の方が優先度は上である。

 

「失礼します! 第六騎士団隊長殿、目標の内一つ、魔術師の居所が判明しました!」

「……そうか」

 

 故に彼女は、部屋に駆け付けてきた第五騎士団の騎士からの報告を受けても迷う事なく命じた。

 

「セシリー、町の各門を張っている魔術に耐性のある者達を集めろ。少数精鋭で魔術師を引っ捕える」

「え? でもそうしたら」

「ああ、出口を封鎖する者が居なくなり、盗賊狩りが逃げるかも知れないな……だが、最悪なのは両方とも逃げられる事だ」

 

 勿論余裕があれば盗賊狩りの方も全力で追いかけるつもりだが、残念ながらそんな余裕も無いだろう。

 

「当然見逃すつもりは無い。魔術師を捕まえ次第、盗賊狩りを追う。そのつもりで動け」

「……了解っす!」

 

 

 

「ところでそっちの隊長は今どこに居る?」

「す、少し前に見かけたのですが、報告する間もなくどこかへ走り去ってしまい……」

「……本当にあのクソ馬鹿者がッ」

 

▼▼▼

 

「はぁ〜、本当に最悪だわ」

 

 町の端っこ、如何なる理由か誰にも管理されず廃れてしまっている教会の中で、魅了の魔術師ミリアは憂鬱そうにため息を溢した。

 

「お父様の弟弟子っぽい魔術師が居たからって声を掛けるんじゃ無かった」

 

 まさかその正体が盗賊狩りで、更には彼のせいで自分も騎士に狙われるハメになるとは思いもしなかった。

 

「もおっ、これじゃあ陽動を使った意味が無いじゃない」

 

……今回の盗賊達の不可解な動向、それを作り出したのは何を隠そうミリアである。

 

「せっかく仲良くなった盗賊達の大半を使ったのに」

 

 彼女は騎士団の目を自分から逸らす為、これまで傀儡にしてきた盗賊達を一気に暴れさせた。

 

「まあ幸い、魔術で正体を隠してたから騎士団に顔は割れてない筈。それに陽動自体は出来てるから、今なら王都にもすんなり入れるでしょう」

 

 そうする事で、騎士団は彼女の目論見通りに王都から離れた。

 

「問題はこの町からどう脱出するかね。まさかここまで騎士団が優秀だとは思わなかったわ」

 

 まるで精神干渉の使い手(ミリア)と対峙する為だけに練ったような策の数々を思い返して辟易する。

 

「まあ、だからって大人しく捕まる気は無いけど。それにここまで大掛かりな事をしたんだから、当初の目的もきちんと果たしたいわ」

 

 そう言って彼女は、目的であるそれを口にする。

 

「───女王祭。ふふ、あそこなら一度に沢山の人が私を愛してくれる」

 

……今から数日後に開かれる王祭、その中のイベントの一つである女王祭。そこに参加する事が彼女の目的だった。

 

 国で最も魅力ある女性を決める大会。それは底なしの愛され願望を持つ彼女にとって非常に唆られるイベントである。

 是非とも参加して、皆に自分を見て貰いたい。虜にしたい。愛されたい。……愛される事に手段を問わない彼女は、大舞台でも魔術を使う事に抵抗は無かった。

 仮にミリアが参加すれば、何千という観客が彼女の傀儡となるだろう。

 いや、今回の女王祭では(理想の嫁大好き人間)の指示のもと、バロウズ商会が金に物を言わせて支援している。その規模感はさながら東京ドーム一個分で、従来より観に来る人間が多くなる事は見てとれた。

 

「ふふふ……嗚呼、待ち遠しいわぁ」

 

 何千何万という人間が自分に愛を捧げる。そんな光景を思い描く彼女は、蕩けるような笑みを浮かべた。

*1
野宿しないのは嫁への気遣い

*2
非常に不服だが

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