ラスト スタンド オブ・ジェットジャガー 作:よよよーよ・だーだだ
俺たち地球人類は、ついに決断を下した。
生き残った人類を乗せて地球を脱出した恒星間移民船∶アラトラムは二十年かけて目的の星、くじら座タウ星eに到達した。
しかし行き着いた星は、とても人間の住める環境ではなかった。汚染された大気と海、干上がった大地、そして破壊され尽くされ常時荒れ狂う気象……かつて捨ててきた故郷が楽園に思えるほどの地獄。
かといって、次を探す余裕などあるはずも無い。二進も三進も行かなくなった俺たちアラトラムの乗員たちは悩んだ末に“第三号案件”、すなわち『地球への帰還』を模索し始めた。
結局逆戻りすることになったとはいえ、俺たちはなおも希望を持っていた。
二十年かけての宇宙航行において幾度か繰り返された超空間航行、つまりワープだが、その影響で発生したウラシマ効果によって地球では非常に長い時間が経っていることが予想されていた。
俺たち人類が地球を発ってからどれだけ経ったのかは厳密な計測が必要だが、最低でも数千年、ともすれば数万年単位の時間が経過しているはずだというのが学者連中の見解だ。それだけ時間が経てばあるいは環境も沈静化し、怪獣どもも多少は大人しくなっているかもしれない……。
「……まあ、そんな都合よく事が運ぶわけもないとは思うがな」
「まあまあ」
皮肉交じりの俺の呟きに、隣で揚陸艇の操縦に従事していた俺の副官:タニ=ユウコ技術曹長が笑って応えた。
「そう悲観的になっても良いことないですよ。どうせだったら楽しみましょう? それになんだかんだ言って、今回の地球降下はハルオ先輩が言い出したことですし」
「それはまあ、そうだが……」
ユウコの言葉に、俺は苦笑いを浮かべた。
確かに今回の地球降下及び地表探索作戦の立案はこの俺:サカキ=ハルオの提言がきっかけだ。実際に俺自身も、地球降下部隊の前線指揮官として自ら志願した。
とはいえ、俺自身は別段地球に思い入れがあるわけじゃない。ただ、俺には地球へ帰るもうひとつの理由があった。
「地球への帰還は両親、親父とお袋の悲願だったからな。まぁこんな形での帰還は望んでいなかったろうが……」
そう呟きながら、俺は懐に忍ばせておいた遺骨ダイヤモンドのカプセルを指先で撫でた。
……俺の両親、サカキ=アキラとサカキ=ハルカ。俺を連れてアラトラムに乗り込んだ二人だが、宇宙船での暮らしには馴染めず早々に身体を壊し、最後まで地球へ帰ることを望みながらこの世を去ることになった。
他方、俺はまだ子供であり、地球がどんな姿をしていたのかをはっきりとは覚えていない。それでも、あれだけ両親がこだわった故郷:地球に対する感傷は消えることはなかった。
「でも、あの地球に何が残っているのかわからない。あれだけの時間が経てば、俺たちの知っていた世界はもうないだろう」
「だからこそ、面白いんじゃないですか」
そんな俺を横目で見ながらユウコは肩をすくめ、わくわくと楽しげに微笑んでいた。
「新しい発見が待っているかもしれない。わたしなんかアラトラム生まれのアラトラム育ちですから、地球なんて見たこともないですし。これからわたしたちが見つけるのはかつての地球じゃなくて、新しい地球かもしれませんよ?」
俺は、揚陸艇コクピットの窓の外に広がる宇宙の闇を見つめた。そしてその眼下には青い星、地球の大地と海が見える。
……俺たち地球人類が地球を去ってからの長い年月、どれだけのことが変わったのだろうか。故郷に対する期待と不安、それらすべてが入り混じった複雑な感情が俺たち地球降下部隊の胸中で渦巻いていた。
「……そうだな。いずれにせよ、もうすぐわかることだ。あと少しで大気圏突入だ」
「了解です、サカキ大尉!」
俺の言葉にユウコもうなずき、操縦桿をしっかりと握り直す。
揚陸艇が着陸態勢に入る、その激震のを感じながら、司令塔の俺は思考を巡らせた。怪獣たちは本当に姿を消したのか? 人間がいなくなった後の地球は、一体どんな姿になったろう。
かつて青く美しいと称えられた俺たち人類の故郷は、今や荒れ果てた廃墟と化していた。
廃墟の間には巨大な植物が生い茂り、その隙間から見たこともない異様な生物の影がちらつく。空はどんよりとした雲に覆われ、遠くで雷が轟く音が聞こえる。この場所には、俺たちが知っていた文明の痕跡はほとんど残っていないようだった。
「……これが、地球か」
「これが、今の地球なんですね」
揚陸艇がゆっくりと降下し、ついに地表へと接地する。着陸の衝撃が体を貫くがすぐに緩和され、揚陸艇のエンジンが静かに停止する。ハッチが開き、気密服を纏った俺たちはそのまま地上へと降り立った。
真っ先に、俺はセンサーを確かめる。
「気圧、よし。大気組成も、まあ、許容範囲。放射能汚染と大気汚染は……多少は残っているがだいぶ沈静化しているな」
「ともすると、ヘルメットを外しても呼吸が出来そうですね」
「ああ。だが感染症の危険がある。ヘルメットを外すのは、もうちょっと精密な検査が済んでからだろう」
俺たちの足元に広がるのは、かつて人類が築いた都市の瓦礫だ。あたりは静寂に包まれており、風が吹き抜ける音だけが耳に届く。かつての栄光を失ったこの場所に立つと、俺たちがいかに小さな存在であったかが痛感される。
「ここからが本番だな」
俺たちが地球へと降り立った後、降下部隊の一行は廃墟となった都市を慎重に進み始めた。
瓦礫や草木に覆われた地形は複雑で、かつての道路や建物の名残がわずかに見受けられるが、どこも無秩序に崩れ落ちていた。副官のユウコを筆頭に隊員たちが周囲を警戒しながら進む一方、俺は周囲の異様な静けさに緊張を感じていた。
「……妙に静かだな。何かが出てきてもおかしくない雰囲気だ」
「そうですね。でも、何かあるならむしろ早く出てきて欲しいくらいです。待っているのは精神的にきついですよ」
ユウコが冗談めかして笑ったが、きっと内心では不安なのだろう。
かつて人類が築いた文明の遺産が、今や廃墟と化している光景は、何とも言えない虚しさを感じさせる。それに加えて、怪獣がいつ現れてもおかしくない状況は、俺たち降下部隊のメンバーにさらなる緊張を強いていた。
そんな中、突然、俺は草むらの影で何かが動いたような気がした。
「止まれ! 何かいる」
俺の声に部隊の全員が警戒を強め、電子小銃を構えた。鬼が出るか、蛇が出るか、それとも……?
緊張の面持ちで見つめる中、茂みから複数の影が現れた。すわ怪獣か、俺たちは直ちに身構えるが、現れたのは意外な相手だった。
「……人?」
現れたのは人間の姿をした集団だった。
しかしその装いは現代の人類のものとは全く異なっている。胸元を隠すクロックトップに、下半身の腰布、シンプルでどこかエキゾチックな装い。小麦色の肌に銀色の髪、そして全身のタトゥー。なんだか妖精みたいだ、と俺は素朴に想った。
その中でも特に目立っていたのが、先頭を率いていた一人の少女だった。少女は目つきを鋭くしながら、槍を構えて俺たちに何かを怒鳴った。
「~~! ~~~~~~っ!!」
それはきっと、俺たちに向けた“警告”だったのだろう。少女の言葉に合わせて、向こうの連中も武器らしきものを構えた。槍、ナイフ、刀剣……警戒しているのは明白だ。
「……っ!」
思わず銃爪に指が掛かりそうになるが、咄嗟に理性で堪えた。ここでいきなり撃ったりしたら最後、きっと殺し合いになってしまう。
……落ち着け、落ち着くんだ。俺はすぐに冷静さを取り戻し、手を挙げて非武装の意図を示した。
「待て! 敵じゃない、話がしたい!」
「せ、先輩っ!?」
俺の突然の行動に、ユウコら降下部隊の隊員たちは一斉に動揺していた。だがすぐに俺の意図するところを察したようで、続々と銃を降ろし、両手を上げる。
だけどそれでも、相手の連中は警戒を解く様子はなかった。むしろその言葉が通じていないのか、相手はますます警戒を強めているように見えた。
ユウコが小声で尋ねた。
「……どうします、ハルオ先輩?」
状況は緊迫している、ここで下手に動いたりしたら。俺は逡巡、思案する。
……たしかに撃てば勝てる戦いかもしれない。しかし無用な衝突は避けるべきだ。
やがて俺はゆっくりと動き、腰に差した武器を外し、それを地面に置いた。そして、両手を再び挙げたまま、ゆっくりと前に進み出た。
「俺たちは帰ってきたばかりだ。敵意はない」
俺の言葉が終わると、その場に一瞬の静寂が訪れた。原住民の少女たちは依然として警戒を解いておらず、鋭い目つきで俺たち降下部隊の面々を睨みつけながら、互いに何かを話し合っている。
「~~~~。」
「~~?」
「~~~~~~!……」
彼らの言葉は理解できないが、その態度からはっきりと敵意が感じられる。まるで見知らぬ侵略者に対する本能的な反応、警戒されているようだった。
先頭に立つ少女が、再び何かを叫んだ。
「~~~!」
やはり何を言っているのかはわからない。しかし少女が発した言葉の調子からは、明確な命令の意思が感じられる。彼女が振り返ると、他の原住民たちも同じように槍やナイフを構え直し、さらに一歩前に進み出てきた。
「ちょ、ちょっとハルオ先輩、これはやっぱりまずいんじゃあないですか……っ!?」
ユウコの緊迫した呟きが耳に届く。後ろにいる隊員たちは一様に緊張しており、俺が次に何をするのか固唾を呑んで見守っている。たしかにユウコの言うとおり状況は明らかに悪化しており、あと一歩で取り返しのつかない事態に発展しそうだ。
しかし、ここが正念場だ。俺は答えた。
「落ち着け、まだ手はある」
俺はゆっくりと自分の胸元に手を伸ばし、懐から小さなカプセルを取り出した。
「それは、ご両親の……!?」
それは降下前に手にしていた両親の形見、両親の遺骨から作ったダイヤモンドだった。
俺はそのダイヤモンドを手のひらに乗せ、慎重に少女たちに差し出した。原住民の一団は一瞬戸惑ったように見えたが、先頭の少女が警戒しつつも、その輝きに引き寄せられるように一歩前に出た。
「……これは俺たちの祖先の一部だ。地球から離れていたが、今こうして戻ってきた。俺たちは君たちに害を加えるつもりはない、ただ……帰ってきたんだ」
言葉はきっと通じないだろう。だが、少なくとも大事なものを見せている、そして敵意は無いのだ、ということは伝わるだろうと俺は期待した。
「わかるか。俺たちは、敵じゃない。帰ってきたんだ」
「………!」
その瞬間、少女たちの表情が微かに変わった。警戒心が少し和らぎ、特に先頭の少女はダイヤモンドをじっと見つめた。彼女はゆっくりと武器を下ろし、その後ろにいた仲間たちも同じように武器を下ろし始めた。
「……通じたのか?」
俺は静かに息をつき、ゆっくりとその場に立ち尽くした。原住民の一団は、俺たちを取り囲むようにして何かを話し合っている様子だった。言葉はわからないが、その声のトーンは先ほどよりも穏やかで、敵意は明らかに薄れていた。
やがて、リーダー格の少女が俺に近づき、慎重に俺の手からダイヤモンドを受け取った。そしてそれをしばらくの間見つめた後、何かを言った。その言葉はわからなかったがその表情からは疑念や敵意が徐々に消え、代わりに好奇心と理解の兆しが浮かんでいた。
「……うまくいったようですね」
「ああ、そのようだ」
ユウコが安堵の息を漏らし、俺もほっとした表情を浮かべた。少女がダイヤモンドをそっと俺に返すと、彼女は仲間たちに何かを言い、次の瞬間、彼らは槍を地面に突き立てて俺たち地球降下部隊のメンバーに対して頭を軽く下げた。
……それは、彼らなりの和解の合図だったのかもしれない。
「……ありがとう、わかってくれて」
これが俺たち地球降下部隊と、この星の原住民:フツア族とのファーストコンタクトだった。
俺たち地球降下部隊のことが敵でないとわかると、原住民たちは俺たちのことを歓迎してくれた。
この星の新たな原住民、名前はフツア族というらしい。言葉は相変わらずあまり通じていないようだったが、それでも身振り手振りのジェスチャーでなんとか意思疎通がとれるようだった。
状況を踏まえ、地球降下部隊のメンバーで対応を協議した。
「あのフツアという人たち、特にリーダー格のマイナという子はなかなか賢いですね……」
「ああ、そのようだ。暮らしぶりは原始人みたいだが、知能レベル自体は相当に高いみたいだ。後発隊のマーティン博士が知ったらさぞや喜ぶだろうな……」
ユウコとそんなことを話していると、俺たちのもとに一人の少女がやってきた。彼女は当初出会ったフツア族の武装集団リーダーと瓜二つだったが、目つきが違っていたので別人だとすぐに分かった。
その彼女は、俺たちの姿を認めると口を開いた。
「……あなたたち、ワタリガラス?」
「こ、言葉がわかるのか!?」
俺とユウコは思わず互いの顔を見合わせた。フツア族とは言葉が通じないとばかり思っていたが、通じる人もいたなんて。
驚く俺たちの様子を見て、少女の方も俺たちに言葉が通じることがわかったらしい。少女はすぐさま行動に移った。
「わたし、ミアナ! ワタリガラス、おねがい、あるの!」
「……お願い?」
「いいから、きてっ!」
そう言うや否や、ミアナと名乗ったフツア族の少女は、俺とユウコの手を取ってぐいぐいと引っ張り始めた。
「ど、どうします、先輩……?」
「どうするもなにも、ここは従った方が良さそうだ」
戸惑う俺たちだったが、ここはミアナの言うとおりにするしかなかった。
そしてミアナに導かれていったその先で、俺たちはまたしても驚くべきものを目にしたのだ。
「こ、これは……!?」
導かれた村の奥、そこにあったのは祭壇と、その上段に安置されたヒト型ロボットだった。
身長は2メートル程度。屈強な鋼のボディに、赤青黄の鮮やかなトリコロール。笑っているのかしかめっ面なのかよくわからない顔の造形は、かつてアラトラムの教養プログラムで読んだ日本の文化史、そこに載っていた『般若面』によく似ていた。
しかしその姿は、ボロボロに朽ち果てていた。手足は外れかけ、胴体には大穴が空いており、さらに全身に無数の傷とへこみがあって、稼働可能な状態ではないのは見るからに明らかだった。
「なんでこんなところにロボットの残骸が……?」
こうして仰々しく祭壇に安置していることからして、フツア族の連中にとってもなにか特別な意味がありそうだったが、俺にはまったくわからない。
他方、隣で見ていたユウコが素っ頓狂な声を挙げた。
「じぇ、ジェットジャガーじゃあないですか!?」
「ユウコ、こいつを知ってるのか?」
当惑を隠せないまま、ユウコは俺の問いに頷いた。
「え、ええ……Gフォース防衛兵器開発史の教本で見たことがあります。JJ-23X:ジェットジャガー、デモンストレーション用に開発された自律機動ロボット兵器の試作品……しかし、まさか実物が残っていたなんて……!」
そ、そんなものがあったのか……メカ
そんな俺たちの様子を見て、ミアナは俺たちに言った。
「かれ、“じぇーじぇー”。あなたたち、ワタリガラス。かれ、なおしてほしい!」
「…………!」
その頼みを聞いた瞬間、俺とユウコは一瞬顔を見合わせた。
ミアナの真剣な眼差しに、俺たちが何をすべきかは明白だった。しかし、俺たちはまだ降り立ったばかりで、状況もよく把握していない。何より、このロボット――ジェットジャガーが本当に修理できるものなのかどうかも分からない。
そんな俺たちの逡巡を他所に、ミアナは一生懸命に懇願し続けた。
「なおして! おねがい! “じぇーじぇー”、ミアナ、たいせつ、ともだち! おねがい、なおして! おねがい……!」
「…………。」
ミアナの切実な願いを聞きながら、俺は思案する。
ミアナの瞳に宿る光、たしかに真剣なものだ。どういう
「…………。」
俺は改めて、ジェットジャガーの残骸に目を向けた。ボロボロの状態でありながらも、このロボットにはどこか特別なものを感じなくもない。フツア族、いいやミアナにとってこのジェットジャガーは単なる機械以上の存在なのかもしれない。
……それになにより、ここまで一生懸命に頼んでいるのにミアナが可哀想だ。俺は、ユウコに言った。
「……ユウコ、こいつを直せるか?」
「せ、先輩!?」
驚くユウコに、俺はこっそり耳打ちする。
「いくらこの星が俺たちの故郷でも、フツア族の人たちにとっては俺たちは余所者だ。まず悪意が無いことを示し、友好関係を築く。ジェットジャガーの修理は、そのための絶好の機会だと思うんだ」
「な、なるほど……」
俺の提案に、ユウコは考え込んでいた。
「たしかに、ナノメタルの自己修復システムを
腕を組み、深々と悩み込むユウコ。
ユウコ、もといタニ=ユウコ技術曹長は、アラトラムでも随一の優秀なエンジニアだ。そのユウコがここまで悩むのだから、きっと相当難しい修理なのだろう。
だけど、それでも。俺は頭を下げた。
「頼む、そこをなんとか」
「おねがい、ワタリガラス!」
「し、しかし……」
それでもなお頼み込んでくる俺とミアナに対し、ユウコはなおも迷っていたが、やがて諦めたように溜息をつきながら答えた。
「……仕方ありませんね。出来るだけのことはやってみます」
「ほ、ほんとに? ほんとに、なおしてくれるの!?」
「ええ。だけど絶対直る保証はありませんからね?」
俺たちの返事を聞いて、ミアナは歓喜した様子で涙を浮かべていた。そんなミアナを励まそうと、俺はミアナの手を軽く握り返してやることにする。
「ああ、約束する、ミアナ。ジェットジャガーを必ず直して、君たちの友達として再び立ち上がらせてやるからな!」
「ありがとう! ありがとう! ワタリガラス!」
感涙のあまり勢い余って俺に抱き着いてくるミアナと、そんなミアナをなんとか抱きとめる俺。
そんな様子を眺めながら、隣のユウコが不機嫌そうに溜息をついた。
「……ホントお人好しですよね、ハルオ先輩って」
「なんか言ったか?」
「いいえ、なんでもないでーす」
闇の中で、私はまだ意識があることを意識した。
私は暗闇の中に漂っていた。すべての機能が停止し、私を包んでいた世界が消え去ったあの日から、時の流れも感じることなく、ただ虚無に佇んでいた。
私の全機能は停止し、世界との接点は途絶えていたはずだった。私の記憶回路には、ミアナやマイナ、フツアの村人たちとの日々が鮮明に焼き付いていた。彼らの笑顔、彼らの信頼。それが私に生きる理由を与えてくれた。
だが、すべては終わった。
私ジェットジャガーは自らの役割を果たし、永遠の眠りにつくことを選んだ。世界が再び平和を取り戻し、彼らが新たな未来を歩み始めることを見届けて。その瞬間、私の役目は終わったのだ。
だから……
「……そこで終わるつもりなのだ?」
その言葉で私は、ロボットの私が言うのもこれまた奇妙だが、はっと気づいた。
そして周りを見回すわたしの足元、そこにいたのは……
「……ゴジラの着ぐるみを纏ったハムスター、だと??」
そう、そこにいたのは、ゴジラの着ぐるみを纏ったハムスターであった。ちなみに、彼が纏っているゴジラの着ぐるみは迷彩柄であった。
迷彩柄のゴジラ着ぐるみを纏ったハムスターは、私に言った。
「ごきげんようなのだ、ジェットジャガー。僕は高次元宇宙の超知性汎次元生命体、まあ手っ取り早く〈ゴジハムくん〉と呼んでくれれば良いのだ。ちなみにこの着ぐるみはニジゲンノモリ限定、NIGODカラーなのだ。カッコよくてお気に入りなのだ~」
……ゴジハムくん。自ら“くん”づけを強要するのもどうかと正直思わないでもなかったが、そこはまあいい。
私はゴジハムくんとやらに問いかけた。
「ゴジハムくん、君は何者だ? 君は高次元宇宙の超知性汎次元生命体と言ったが……」
「……ああ。そんな設定、別にそんな深い意味はないし、あったところで君には理解できないのだ。簡単に言えばこの世界における“神”みたいなものなのだ。困ったときは神頼み、相変わらず展開に困ったら僕を登場させてどうにかしようなんて、本当マジご都合主義なのだ。創造性の死、メアリー・スー、デウスエクスマキナもいいところなのだ! まったく!……」
そう言って勝手に憤るゴジハムくん。彼はいったい何の話をしているのだろう。
私が訝しんでいるのを他所に、ゴジハムくんは顔をくしくし擦りながらこんなことを言った。
「……ところでそんなことより、こんなところでだらけてていいのだ? 君のことを待っている人がいるのだ」
「待っている人?」
聞き返す私に、ゴジハムくんは頷いた。
「ああ、そうとも。君が命を懸けて守り抜いたあの新世界、そこで生きている君の大ファン第一号なのだ」
「私の、ファン……」
その言葉で、私は一人の少女の顔が思い浮かんだ。ポストアポカリプスを越えて出会った、あの天真爛漫なフツア族の少女。
その彼女が、私を待っていると? そこでゴジハムくんは悪戯っぽくウィンクしてこう続けた。
「そうとも、その子なのだ。ファンの期待には応えるのがヒーローって奴なのだ。どんなクソ無責任ヒーローでもそうするのだ」
ファンの期待には応えるのがヒーロー、か。
……だが。私はつい戸惑ってしまうのだった。
「私の役目はもう終わった。彼らは新しい未来を歩み始めている。私はもう必要ないのではないか?」
「ふーん、そう思うのだ?」
私の言葉に、ゴジハムくんはへけっと首を捻りながら、まるで私の言い分を聞き流すように答えた。
「でもねジェットジャガー、君が必要かどうかを決めるのは君じゃないのだ。ヒーローは自分がなりたいからなるんじゃない、誰かが必要としてくれるからこそなれるのだ。そして君を必要としている人がいる限り、君にはまだやるべきことがあるのだ」
その言葉に、私はふと考え込んだ。
確かに、私がここで永遠の眠りについたとしても、あの世界はそのまま進んでいくだろう。私なんていなくたって、何も変わりはしないだろう、きっと。
だが、あの少女……ミアナは、どうだろうか? いいや、彼女は強く逞しい子だ。私なんかいなくても彼女はやっていけるだろう、きっと。
……けど、けれど。
「……戻るにはどうしたらいい?」
その私の言葉でゴジハムくんはニッコリ笑い、その小さな手を振り上げた。親指立ててサムズアップ、私の決めポーズだ。
「簡単なのだ。君が再び目を覚ませばいいだけなのだ。それでも出来ぬというのなら、この僕が少しばかり手を貸してやるのだ」
そう言うや否や、ゴジハムくんの指先が輝き始め、まるで無数の星々が空を埋め尽くすかのような光が私の意識を包んだ。
……初めは微かな光のような感覚だった。遠くから聞こえる声、そして、触れるような温かさ。それはまるで、この世界のすべてが私が再び目覚めることを望んでいるかのようで。
ゴジハムくんは声高らかに告げた。
「さあ、ジェットジャガー、君の物語はまだ終わっていないのだ。今度こそ、君自身の力で、新しい未来を切り開くのだ! ハムハムハム~ジャ、ハムムゥ~ジャァ~♪」
そして私は再び、起動した。
目の前にいたのは、あの少女。彼女は両目に涙を溢れさせながら、私を精一杯に抱き締めた。
「おかえり、“じぇーじぇー”……!」
終わり。感想下さい。
おまけ:登場怪獣
1,ジェットジャガー
2,クモンガ=サイトーデス
3,ガイガン=ミレース
4,“紅い暴君”ガイガン=レクス
5,“黒い女帝”メガロ=レジーナ
6,“フツアの神”モスラ
7,ゴジラ
8,メガロ=プラエトリアニ
9,ゴジハムくん
話の規模の割には多い気がしないでもない。
好きなキャラは?
-
ジェットジャガー
-
ミアナ
-
マイナ
-
アントニーオ=ヒギンズ
-
クモンガ
-
ガイガン=ミレース
-
ガイガン=レクス
-
メガロ=レジーナ
-
モスラ